ご利用について
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、がん予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は、編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- がんの負担
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米国では2020年に、推定1,806,590人ががんと診断され、推定606,520人ががんにより死亡するとされている。[ 1 ]がんの発生率および死亡率はがんが社会に課す負担の範囲を明確にする助けにはなるが、これらの指標は、がん患者とその家族に及ぼすがんの影響の特性を十分に明らかにしていない。がんによって引き起こされる身体的罹病に加えて、がんは感情的苦痛およびQOLの全般的低下に頻繁に関連している。[ 2 ]がんはまた、経済的なストレス因子でもあることが観察されている。ワシントン西部における1件の集団ベースの研究において、197,840人のがん患者が同数の対照と年齢、性別、および郵便番号でマッチングされた。がん患者はがんを有さない対照よりも破産申請をする可能性が2.6倍高かった(P < 0.05)。[ 3 ]
参考文献- American Cancer Society: Cancer Facts and Figures 2020. Atlanta, Ga: American Cancer Society, 2020. Available online. Last accessed May 12, 2020.[PUBMED Abstract]
- Faller H, Schuler M, Richard M, et al.: Effects of psycho-oncologic interventions on emotional distress and quality of life in adult patients with cancer: systematic review and meta-analysis. J Clin Oncol 31 (6): 782-93, 2013.[PUBMED Abstract]
- Ramsey S, Blough D, Kirchhoff A, et al.: Washington State cancer patients found to be at greater risk for bankruptcy than people without a cancer diagnosis. Health Aff (Millwood) 32 (6): 1143-52, 2013.[PUBMED Abstract]
- 証拠の記述
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予防とは、がん発生率が低下することによりがん死亡率が低下することであると定義される。これは、発がん物質を回避するかまたはその代謝を変化させること;がんの原因となる諸因子または遺伝的素因を修飾するライフスタイルまたは食習慣を実践すること;医学的介入(例、化学予防)あるいはリスク低減のための外科的手技;または大腸ポリープに対する大腸内視鏡検査など、前がん病変を切除することができる早期発見戦略により達成できる。
PDQがん予防要約について
PDQがん予防要約は、特定の悪性腫瘍が有する独特な特徴の考察を容易にするため、主にがんの特異的な解剖学的部位ごとに構成されている。本セクションでは、広範な悪性腫瘍の予防に用いられる選択された予防戦略に対する証拠の要約など、がん予防戦略の概要を提供する。しかしながら、これらの戦略の証拠の強さおよび影響の大きさは、がんの部位によって異なる。PDQの他のがん予防要約では、特異的な種類のがんの予防を扱っており、より詳細な証拠の記述が提供されている。
がんの原因については多くの一般的な信念または推測が存在する。しかし、肯定的または否定的のいずれにせよ、科学的根拠がほとんど存在しない推定上のがんの原因は、PDQがん予防要約では検討しない。したがって、これらの要約に特定の環境因子、食物因子、またはライフスタイル因子が含まれていない場合は、詳細な検討を行うための証拠が不十分であることを示しており、必ずしも効果がないことを意味しているとは限らない。そうした多くの因子は、がんにおける潜在的な役割について研究が行われるべきであるが、その研究が存在しない場合、発表されていない場合、または編集委員会により数が少ないか質が低いと判定された場合、PDQがん予防要約ではそれらを取り扱わない。
発がん
発がんとは、がんに至る根底にある病因学的経路を意味する。発がんのいくつかのモデルが提唱されている。Knudsonの提唱した「2ヒット」モデルでは、がんが発生するためにある遺伝子の両方のコピーに突然変異が生じる必要がある。この概念を拡大することにより、VogelsteinおよびKinzlerのモデル[ 1 ]とHanahanおよびWeinbergのモデル[ 2 ]など、広く引用されている他の発がんモデルが導き出された。VogelsteinおよびKinzlerのモデルでは、がんは究極的に損傷したDNAの疾患であり、正常細胞をがん性細胞に形質転換させうる一連の遺伝子突然変異で構成されると強調されている。遺伝子突然変異には腫瘍抑制遺伝子の不活性化とがん遺伝子の活性化が含まれる。一般集団に発生するがんと比較して、がんに対する主要な遺伝的素因を有する個人は、がんの原因に関与する遺伝子に遺伝的(すなわち、生殖細胞系)突然変異をもって生まれ、がんへの経路において先行したスタートを切る。すべての個人において、類似の突然変異はがん進行を引き起こすと予想される;しかしながら、主要な遺伝的がん素因をもたない個人における突然変異は生存期間中の後期に体細胞突然変異として起こる。
HanahanおよびWeinbergのモデルは、細胞レベルで悪性腫瘍に至る特徴的なイベントに焦点を当てている。このモデルでは、がんの特徴として、持続性の血管新生、無限の複製能力、アポトーシス回避、増殖シグナルの自給自足化、および抗増殖シグナルに対する非感受性などが挙げられており、浸潤および転移する能力を与えることで悪性腫瘍の特徴が定義される。このモデルは、悪性腫瘍は有機体の環境内で発生および繁殖するという事実を強調している。組織構成分野理論(tissue organizational field theory)[ 3 ]では、発がんは細胞よりもむしろ組織レベルでより良く概念化されると仮定されている。この理論は、発がんは組織形成における欠損により推進される、およびすべての細胞は本質的に増殖状態にあるという二重の前提に基づいている。
このような発がんのモデルは意図的に単純化されているが、にもかかわらず、発がんにはしばしば数十年かけて起こる一連の段階が必要であることを示している。
発がんの複雑さは、これらのモデルにより記述される個別の詳細な発がん経路が個々の解剖学的部位に独特な特徴を有することが予想されることを考慮する際に強められる。こうした状況において、悪性腫瘍の危険因子および臨床的特徴は、解剖学的部位および同じ解剖学的部位内の異なる腫瘍の種類により相当なばらつきを示す。これらの理由から、ヒトのがんは実際には単一の疾患ではなく、異なる疾患群である。
危険因子
複数の観察的疫学研究により、修正可能なライフスタイルの諸因子または環境曝露と特定のがんとの間には関連が示されていることからがん予防は有望である。ある危険因子が真にがんの原因となっている場合は、ライフスタイルの修正(すなわち、リスクプロファイルを悪い方から良い方に変更すること)により実際にがんリスクが(少なくとも一部は)低下することもまた事実であろうと期待されている。この期待には、この関連が(理想では、可逆性の)因果関係によるものである場合にのみ応えることができる。観察研究でこうした関連の確実な証拠が得られることはまれであるため、追加の証拠が必要となる。[ 4 ]少数の曝露について、複数の疫学研究および実験室での研究に基づく手がかりによって示唆される介入法ががん発生率および死亡率を低下させるかどうかが、複数のランダム化比較試験(RCT)で検証されている。
がんと因果関係がある危険因子
喫煙/タバコ使用
何十年間にもわたる研究により、タバコ使用と多くの部位のがんとの強い関連が一貫して確立されている。特に、喫煙は、肺がん、口腔がん、食道がん、膀胱がん、腎がん、膵がん、胃がん、子宮頸がん、および急性骨髄性白血病といった、さまざまながんの原因として確立されている。これらの関連を確認する一連の疫学的証拠は強固である。さらに、米国における肺がん死亡率は喫煙傾向を反映していることから、このことが裏付けられており、喫煙率が増大するとそれに次いで肺がん死亡率が劇的に増大し、近年では喫煙率が低下したため、それに次いで男性における肺がん死亡率が低下した。正確な測定が比較的容易な単一の曝露として、この一連の大規模な証拠から、喫煙は米国におけるがんによる全死因の30%を占めていると推定されている。喫煙の回避および禁煙により、がんの発生率および死亡率は低下する。[ 5 ](詳しい情報については、肺がんの予防;肺がんのスクリーニング;および喫煙:健康上のリスクと禁煙方法に関するPDQ要約を参照のこと。)
感染
全世界的に、感染性因子は全がん症例の約15%を引き起こしていると推定されている。[ 6 ][ 7 ]感染により引き起こされるがんの負担は、発展途上国(26%)の方が先進国(8%)におけるよりもはるかに大きい。ヒトパピローマウイルス(HPV)の発がん性株感染は、その後の子宮頸がんに必要なイベントであると考えられており、ワクチン接種で免疫が得られれば、前がん病変は顕著に減少する。HPVの発がん性株はまた、陰茎がん、膣がん、肛門がん、および中咽頭がんとも関連している。がんの原因となる感染性因子の他の例は、B型肝炎およびC型肝炎ウイルス(肝がん)、エプスタイン-バーウイルス(バーキットリンパ腫)、およびヘリコバクターピロリ菌(Helicobacter pylori)(胃がん)である。[ 7 ]感染性因子が真にがんの原因であれば、ほとんどの例で感染に対する効果的な介入が有効ながん予防の介入になると期待される。これは、HPV発がん性株感染を予防するワクチンに関する期待である。(詳しい情報については、子宮頸がんの予防;子宮頸がんのスクリーニング;肝(肝細胞)がんの予防;および肝(肝細胞)がんのスクリーニングに関するPDQ要約を参照のこと。)
放射線
放射線は、高速の粒子または電磁波という形のエネルギーである。主に紫外線(UV)および電離放射線といった放射線への曝露は、がんの原因としてはっきりと確立されている。太陽紫外線への曝露は、ヒトの集団において群を抜いて多くみられる悪性腫瘍である非黒色腫皮膚がんの主要な原因である。[ 8 ]
電離放射線は、しっかりと結合した電子をその軌道から引き離し、原子を荷電またはイオン化させるほど十分なエネルギーを有する放射線である。生細胞の分子により形成されるイオンは、細胞内の他の原子と反応し、損傷させる可能性がある。低線量(例、バックグラウンド放射線と関連する線量)では、細胞は損傷を迅速に修復する。中等度の線量では、細胞は永久的に変化し、損傷を修復できずに細胞死が起こることがある。永久的に変化した細胞は分裂時に異常細胞を産生させ始め、場合によってはこれらの変化した細胞ががん化するか、または他の異常(例、先天性欠損)につながることがある。電離放射線による損傷を修復できない欠損症では、放射線曝露によるがんリスクの影響が高まる可能性がある。
電離放射線への曝露とがん、および特に、血液学的システム、乳房、肺、および甲状腺に関わるがんの発生とを関連付ける広範な疫学的および生物学的証拠が存在する。この話題に関して最も広く引用される情報源であるNational Research Council of the National Academies、Committee to Assess the Health Risks from Exposure to Low Levels of Ionizing RadiationのBiologic Effects of Ionizing Radiation VII報告[ 9 ]により、医学文献の包括的レビュー後、完全に安全であると考えられる放射線量はなく、放射線量はできる限り低く維持するよう試みるべきであると結論付けられた。この報告において、電離放射線曝露とがんとの関連を実証する複数系列の証拠が引用された。最初の証拠は、日本の原爆生存者におけるがん発生の研究から得られている。原爆生存者は、低線量の放射線でもがんを発生させるリスクが高かった。[ 9 ]2番目の証拠は、悪性および良性の両方の疾患に対して医学的におよび治療目的で放射線を受けた集団の疫学研究から得られている。悪性疾患に対する高線量の放射線療法を受けた後は、二次悪性腫瘍のリスクが高い。1940年から1960年にかけて、良性疾患に対する放射線の比較的一般的な使用により、がんを発生する相対リスク(RR)がかなり高くなった。別の系列の証拠は、診断用X線を受けた患者とX線技術者の両方における医学的な電離放射線への曝露に関連するがん特異的死亡リスクの増加から得られている。
電離放射線への集団曝露の主な原因は、医療用放射線(X線、コンピュータ断層撮影[CT]、蛍光透視、核医学診断など)および家の地下室で自然に発生するラドンガスである。不必要なCTスキャンをはじめとする診断用検査を制限し、放射線被曝線量を低減することが重要な予防戦略である。[ 10 ][ 11 ](詳しい情報については、乳がんの予防;乳がんのスクリーニング;皮膚がんの予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
電離放射線への曝露は、CT使用の劇的増加の結果として過去20年間増加している。CTに伴う電離放射線への曝露は、発がんが実証されている範囲内にある。[ 12 ][ 13 ]医療用画像検査による放射線への曝露を繰り返すと、がんのリスクは曝露量に比例するため、さらに高くなる。ある研究では、医療用画像検査により放射線曝露を受けた被験者の半数が、3年以内に画像検査を再度受けていたことが示された。全体的には、3年間追跡した100万人近い参加者の0.2%が、50mSv以上の照射を受けていた。[ 14 ]
医療用画像検査による電離放射線への曝露が寄与する可能性を推定する1つのアプローチは、一定の範囲の線量に関連して推定されるがんリスクに基づいた統計モデルを開発することである。例えば、2007年に米国で行われたCTスキャンに関する推定の1つでは、将来29,000例(95%不確定性区間は15,000~45,000)のがんが発生する可能性が予測された。推定されたがんの3分の1は、35~54歳の人に対して実施されるCTスキャンを原因としていた。この推計値は、米国での調査で得られた臓器特異的な放射線量、2007年における年齢別、男女別のCTスキャン受診回数および保険金請求データを用いたリスク・モデルと米国学術研究会議の報告書「電離放射線の生物学的効果」を基に導出された。[ 12 ]
電離放射線を用いた画像診断に伴うがんリスクを直接推定できるだけの大規模な研究から次第にデータが得られつつある。例えば、オーストラリアの1090万人のコホートでは、0~19歳でCTスキャンを受けた若者の診断用CTスキャンについて実証するために電子医療記録が用いられた。次に、このコホートをNational Death Index and Australian Cancer Databaseで検索した。[ 15 ]若年成人まで追跡した場合、CTスキャンを受けていない人と比較して、CTスキャンを1回以上受けた人では、がんと診断される傾向が統計的有意に高かった(RR、1.24;95% 信頼区間[CI]、1.20-1.29;CTを受けた人の平均追跡期間は9.5年)。統計的に有意な線量反応関係が認められ、CTスキャンの回数が増えるごとにがんリスクが高くなった。このように、このコホート研究でCTスキャンについて直接測定した知見は、現時点で前述の統計モデルを具体化したものであり、医療用画像検査による電離放射線への曝露に伴う現実のがんリスクを明らかにしている。
小児および青年における画像診断でも、若い年齢での広範な固形および血液悪性腫瘍のリスク上昇と関連している。1,200万人を超える0~19歳の若者からなる集団ベースの韓国人コホートで、診断的放射線曝露を受けた小児の10.6%におけるがん発生率比は、曝露を受けていない小児と比較して曝露後2年の経過期間後で1.64(95%CI、1.56-1.73;P < 0.001)であった。[ 16 ]
がんとの関連が不確定な危険因子/予防因子
食事
がんの集団負担に対する食事の潜在的な寄与に関する推定は大きく異なっている。[ 19 ]喫煙とがんに関する疫学的証拠とは対照的に、食事因子の影響とがんに対する証拠は不確定である。食事の潜在的な役割の評価には、がんを予防しうる因子とがんリスクを増加させうる他の因子で構成される食事の正味の寄与の測定が必要である。個人の通常の食事およびその食事のがんリスクとの直接の関連を測定することもまた難題となる。[ 20 ]
研究デザインの種類により実質的に異なる結果に至った例から、食物および栄養摂取とヒトのがんリスクとの関係の複雑さがさらに例証されている。大きな測定誤差を引き起こしやすい自己報告による食事評価を用いた複数の観察的疫学研究(ケースコントロールおよびコホート研究)により、食事とがん発生との関連が示唆されているが、介入に関するランダム化試験からの支持はほとんどまたは全くない。例えば、集団ベースの疫学的データによると、繊維を多く含む食事が結腸新生物の予防に推奨された。しかしながら、食物繊維サプリメントのRCTを対象とした2017年コクランデータベースの系統的レビューでは、2~8年の期間内に腺腫性ポリープの既往がある人で、食物繊維の摂取量を増やすことで腺腫性ポリープの再発が低下することを示唆する証拠がないことが明らかにされた。[ 21 ]同様に、コホート研究[ 22 ][ 23 ]およびランダム化試験[ 24 ]の系統的エビデンスレビューによると、全体的ながん発生率および死亡率に対する赤身肉の摂取または摂取量減少の影響はわずかか、認められないことが明らかになった。エビデンスの質のグレードは低いから非常に低いと判定された。
自己報告評価を基にした観察的疫学解析から報告された関連性は、上述のような限界に照らして扱うべきである。一方で、比較的短期のRCTでは、特にがんの誘引または予防において生涯にわたる食生活パターンまたは特定の時期に摂取する食物が最も重要であれば、因果関係の強力な証拠が得られる可能性は低い。
アルコール
がんリスクを増加させうる食事因子に関して、World Cancer Research FundとAmerican Institute for Cancer Research(WCRF/AICR)の報告における最も強い証拠では、飲酒が支持された。飲酒は、口腔がん、食道がん、乳がん、および大腸がん(後者は男性について)のリスクを増加させるという証拠は、「説得力がある」と判断された。さらに、飲酒は、肝がんおよび大腸がん(CRC)(後者は女性について)のリスクを増加させるという証拠は、「もっともらしい」と判断された。
ヒトのがんとの関係において、食事は、果物/野菜の摂取および飲酒の例で実証されているように、曝露の複雑な混合の総計を反映する。すべての形態のがんと一様に関連していると考えられる食事因子は存在しない。(詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
身体活動
身体活動がより多い人は、座位がより多い人より特定の悪性腫瘍のリスクが低いことを示唆する疫学的証拠が増している。WCRF/AICRの報告において、身体活動の増加は大腸がんを予防するという証拠は、「説得力がある」と判断された。身体活動は、閉経後乳がんおよび子宮内膜がんのリスク低下と関連するという証拠もまた、「もっともらしい」と判断された。上述の食事因子と同様に、身体活動は、選択された悪性腫瘍においてより際立った役割を果たしているようである。選択された悪性腫瘍に対して観察された逆の関連性によって、このことは特に因果関係が確立されていないために、がん予防研究の有望な分野となっている。肥満に伴ってみられる多くのがんの過剰リスクは、身体活動が少なくとも2~3のがんと逆相関していることを示唆する証拠と相まって、エネルギーバランスはがんリスクに影響している可能性があるという仮説を提起している。(詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;および子宮内膜がん(子宮体がん)の予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
肥満
肥満はがんの重要な危険因子としてますます認識されつつある。WCRF/AICRの報告で、肥満は閉経後乳がんおよび食道がん、膵がん、大腸がん、子宮内膜がん、および腎がんと説得力をもって関連していると結論付けられた。それに加えて、WCRF/AICRの報告で、体脂肪は胆嚢がんに対するおそらく危険因子であり、肝がんについては「可能性あり」の証拠と判断された。WCRF/AICRの証拠のレビューによるこうした結論は、英国の成人524万人の医療記録データに基づくコホート研究において確証された。[ 25 ]この英国のコホート研究の結果はまた、肥満指数(BMI)と胆嚢がん(BMIの5kg/m2の増加につきRR、1.3;95%CI、1.1-1.5)および肝がん(BMIの5kg/m2の増加につきRR、1.19;95%CI、1.12-1.27)との関連の証拠を増強した。[ 25 ]がん死亡率との関係における肥満を調査した全国的に典型的なコホートを対象にした1件のプロスペクティブ研究では、がんと関連する因子はどのヒトの悪性腫瘍にも一様に適用されるわけではない点が強調された。研究結果から、肥満は肥満関連悪性腫瘍により死亡するリスクの増加と関連するが、肥満は総合的がん死亡率とは関連していないことが明らかにされた。[ 26 ]まだ確立されていないが肥満と上述のがんとの関連に因果関係がある場合、米国やその他の地域における肥満有病率の現在の増加は、がん予防の努力に対する重大な問題となる。肥満が公衆衛生に及ぼす影響の大きさおよびがんの集団負担はかなり大きい可能性が高いが、喫煙の影響よりは小さいと予想されている。喫煙は喫煙率が高く、13種類のがんと因果関係があり、関連の大きさは肥満で観察される関連の大きさよりもしばしばはるかに強力である。そのうえ、体重減少は肥満関連悪性腫瘍のリスクを低下させるということはまだ示されていない。[ 27 ](詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;子宮内膜がん(子宮体がん)の予防;および肺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
長期間続いているNurses' Health Study and Health Professionals Follow-up Studyの最近の解析[ 4 ]により、低リスクのライフスタイル(非喫煙者または前喫煙者であること、飲酒をしないまたは中程度の飲酒をすること、BMIが18.5~27.5であること、および2008 Physical Activity Guidelines for Americansを満たしていることを特徴とする)を採りいれた場合の米国人集団におけるがん症例およびがん死の割合が推定された。この研究の主な弱点の1つは、研究の前提として非喫煙の危険因子が因果関係にあることを想定していたことであった。解析は、自己報告の食事および飲酒の測定値を用いること、および(すべての時間よりむしろ)余暇時間のみの身体活動を測定することでさらに弱められた。また、著者らは喫煙について説明した後、非喫煙の危険因子の効果については発表しなかった。したがって、この解析や同様の弱点を有する他の解析は慎重に解釈すべきである。
糖尿病
複数の観察研究により、すべてのがんの発生率および死亡率が糖尿病の個人でわずかに増加する(10~15%)が、その増加は特定の臓器のある部位で大きく、他の部位ではみられないことが示唆されている。[ 28 ][ 29 ][ 30 ]糖尿病とがんは生物学的に異質であること、糖尿病とがんが多くの危険因子を共有していること、および糖尿病ではほとんど常に長期の医薬品の使用が必要であることを考慮すると、観察された関連(特にこうした関連が小さい場合)が実際に何を意味するのかに答えることは不可能である。さらに、ほとんどの観察研究では糖尿病の自己報告(「糖尿病である」または「糖尿病でない」など)に依存しているため、こうした関連が糖尿病の種類または重症度、糖尿病コントロールの程度、および生体試料の使用や測定の繰り返しによってのみ明らかにできる他の因子によって差があるのかどうかを調査することは不可能である。所見を解釈する場合は、こうした制限に留意する必要がある。
少なくとも、以下に挙げる糖尿病の4つの特徴ががんリスクを増加させるという仮説が立てられている:
糖尿病とがんは、加齢、肥満、喫煙、不健康な食事、身体的不活動性など、多くの危険因子を共有する。[ 5 ]糖尿病の治療には、外因性インスリン注射のほか、インスリンの分泌と感受性を修正する、血糖値を低下させる、または腎臓での血糖再吸収を阻害する経口医薬品が含まれる。[ 31 ]
複数のプロスペクティブ観察研究によると、糖尿病の個人では肝がん、膵がん、結腸/大腸がん、および女性の乳がんのリスクとこれらによる死亡が一貫して高い。子宮内膜がん、卵巣がん、膀胱がん、および口腔/咽頭がんについてもリスクおよび死亡の増加が観察されている。米国の成人100万人以上を長期間追跡した1件のプロスペクティブ・コホート研究[ 29 ]-解析では年齢、教育、BMI、喫煙、飲酒、野菜の摂取、赤身肉の摂取、身体的活動、およびアスピリンの使用について調整した-において、上述のがんについて死亡率を最も増加させたのは男性の肝がんであった(RR、2.26;95%CI、1.89-2.70);女性における乳がんは最も増加が少なかった(RR、1.16;95%CI、1.03-1.29)。男性の乳がんによる死亡(解析にはこのがんの終末期の糖尿病患者12人が含まれた)を除いて、肯定的で統計的に有意なRRの残りは1.5以下であった。97件のプロスペクティブ研究(ほぼ821,000人の個人)の蓄積されたデータ解析(年齢、喫煙状態、およびBMIで調整し、男女併せたハザード比[HR]を発表した)[ 28 ]により、前述の研究とほぼ同じ知見が報告された;しかしながら、前述の研究とは対照的に、肺がん(HR、1.27;95%CI、1.13-1.43)および卵巣がん(HR、1.45;95%CI、1.03-2.02)による死亡リスクの増加が明らかにされた。2型糖尿病とがんに関するメタアナリシスの包括的レビュー[ 30 ]により、すべてのがんの発生リスクにおける統計的に有意な10%の増加、すべてのがんによる死亡率の統計的に有意な16%の増加、および12のがんの発生率の統計的に有意な増加が報告された。膵がん、子宮内膜がん、および肝がん発生率の相対的増加は約2倍で統計的に有意であった。
メトホルミンは複数の観察研究において乳がん発生率および死亡率の低下に関連しており、現在臨床試験で研究段階にある。メトホルミンは、アデノシン1リン酸(AMP)キナーゼ活性化を介して腫瘍細胞の成長および増殖を阻害することでリスクを低下させると仮定されている。インクレチン受容体の信号伝達に影響する医薬品の使用は膵がん発生率を増加させると仮定されているが、動物実験のデータも臨床データ(限られているが)も現時点ではこの主張を支持していない。[ 32 ]長時間作用型の外因性インスリンを長期間使用することでがんリスクが増加することが一貫して示されているわけではない。
スクリーニングでの発見がリスク測定に及ぼす影響
がんの病因に関する草分け的な観察研究の多くは、がんスクリーニングが広く実施されていなかった時代にさかのぼる。過去25年間で特定のがんに対するスクリーニングが広く実施されるようになっているため、最近実施された観察病因学的研究には、疾患がスクリーニングによって発見された参加者が含まれている。スクリーニングに付随して過剰診断が存在し、スクリーニング行動または診断的評価を求める意思ががんの危険因子と相関する場合、今日の病因学的研究から得られた相対リスクの測定結果は、スクリーニングが広く用いられる前に実施された研究の測定結果とは一致しない可能性がある。これは、過剰診断された症例はスクリーニングがなければ決して診断されていなかったためである。例えば、青い目は(茶色い目と比較して)前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングの受診または診断的生検への好みと関連しているが、前立腺がんとは関連していないと仮定する。スクリーニングが存在しなければ、青い目と前立腺がんの関連について観察される結果は0になる。スクリーニングが存在すると、青い目はスクリーニングにつながり、スクリーニングによって過剰診断される症例が検出されるため、青い目は前立腺がんと関連することになる。[ 33 ]
有益性が証明された介入
化学予防
化学予防とは、浸潤がんが現れる前に早期の発がんを妨げるため天然または合成の化合物を使用することである。[ 34 ]いくつかの薬物で有益性が証明されている。
選択的エストロゲン受容体モジュレータ(タモキシフェンおよびラロキシフェン)を毎日最長5年間使用すると、高リスク女性における乳がん発生率を50%低下させる。[ 34 ]予防目的でのこれらの医薬品の広範な使用は、副作用(ほてり、およびタモキシフェンの場合は子宮内膜がん)のために制限がある。(詳しい情報については、乳がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
フィナステリド(α-レダクターゼ阻害薬)は、前立腺がんの発生を低下させる。[ 35 ]フィナステリドはPSA値を低下させ(これにより前立腺生検が少なくなる)、正常な前立腺組織を縮小させる(がんの発見が容易になる)。これらの効果はどちらも、フィナステリド服用者では高悪性度前立腺がんの絶対発生率が高い、すなわち低リスクがんの発生率が低い(より低い過剰診断)という所見を説明しうる。フィナステリドのランダム化試験において7年の治療介入の完了後に実施された長期間の追跡調査(年齢中央値、18歳)で、前立腺がんリスクの継続的な減少が示された。高悪性度の腫瘍数の増加に関する懸念に関しては、フィナステリドによる治療を受けた男性に前立腺がん死亡率のリスク増大がみられないことの長期的な証拠が注目されている(前立腺がんによる死亡リスクのHR、フィナステリド vs プラセボ、0.75;95%CI、0.50–1.12)。[ 36 ](詳しい情報については、前立腺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
COX-2阻害薬は、炎症誘発性プロスタグランジンの合成に関与するシクロオキシゲナーゼ酵素を阻害する。COX-2阻害薬による結腸がんおよび乳がんの予防を示唆する証拠はあるが、心血管リスクに関する懸念があり、広範な研究が妨げられる。関節炎を有する患者における中程度に高用量のセレコキシブに関するRCTでは、非選択的非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と比較した場合に心血管系転帰における差は示されなかった。[ 37 ](詳しい情報については、乳がんの予防および大腸がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
アスピリンは化学予防薬として広く研究されている。しかしながら、一般集団におけるがんまたはがん死亡の予防に関する有益性の証拠は相反しているが、一般に否定的である。主要エンドポイントを血管イベントとした7件のプラセボ対照RCTから得られた蓄積データの二次解析では、アスピリンを毎日、少なくとも4年以上にわたって投与すると、全がん死亡率が18%低下した(オッズ比、0.82;95%CI、0.70-0.95)ことが示された。[ 38 ]アスピリンががん発生率に与える効果は、この解析では大腸がんに限定されるようである。アスピリン(81~1,200mg/日に及ぶ用量)をプラセボ対照と比較した追跡期間平均値5.48年(範囲、2–10.7年)の16のRCTを対象とした最近のメタアナリシスによると、がん死亡率(RR、0.99;95%CI、0.87–1.12)、全原因死亡率(RR、0.97;95%CI、0.92–1.02)、またはがん発生率(RR、0.98;95%CI、0.92–1.04)に対するアスピリンの好ましい効果は明らかにならなかった。[ 39 ]
糖尿病患者を対象とした心血管疾患に対するアスピリン/オメガ3脂肪酸の化学予防に関するプラセボ対照RCTにおいて、がんの転帰の二次解析により、アスピリン使用によってもたらされる消化管がんリスク低下の証拠は示されなかったが、著者らはがん発生率における差を判定する検出力が低かったと指摘した。[ 40 ]アスピリン服用の特定の適応がない年長の個人を対象とした一次予防としてのアスピリンに関するランダム化試験は、1件しか実施されていない。Reducing Events in the Elderly(ASPREE)試験では、心血管疾患、認知症、身体障害のない70歳以上(アフリカ系またはヒスパニック系の米国人については65歳以上)の研究参加者が対象とされた。他のアスピリンに関するランダム化試験とは対照的に、アスピリン群で全原因死亡率の増加(HR、1.14;95%CI、1.01–1.29)とがんによる死亡リスクの増大(HR、1.31;95%CI、1.10–1.56)が観察された。付随論説では、追跡調査期間が他の類似試験よりわずかに短く、継続的な追跡調査の結果として有益な情報が得られる見込みが強調されていた。この試験の特徴には他にも、研究対象集団は一般集団よりも健康とみられる集団であったことや、年齢、性別、人種/民族性の分布が同様の一般集団と比較して、死亡率が低いことが挙げられる。試験の5年時点で、根本的な理由のない、つまりアスピリンの医学的適応のない健康な集団において、正味の有益性に関する証拠は示されなかった。[ 41 ][ 42 ]アスピリンの重大な副作用は出血であるため、がん予防のための広範な使用が妨げられる。大出血を含む出血による有害性の証拠は、上に要約した有益性の証拠よりも一貫している。
アスピリンは(がんよりも多くの死因となっている)心血管疾患による死亡を低下させる上で有用な可能性があるため、がんの範囲を越えたより大きな予防の観点でアスピリンの使用を検討すべきである。同様に、(消化管または頭蓋内からの)出血による重篤な有害性については、特定の有害性に関する患者の個別のリスクに照らして考慮すべきである。(詳しい情報については、大腸がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
有益性が証明されていない介入
ビタミンおよび栄養補助食品の使用
がん予防のためにビタミンおよびミネラルサプリメントを提唱している者もいる。抗がん効果のための多くのさまざまな機構的な経路が引き合いに出されている。一般的に検証されている仮説は、DNAに対する酸化損傷ががん進行に至るという前提に基づいて抗酸化ビタミンはがんを予防する可能性があるということである。それゆえ、DNAの酸化的損傷を防止することでがんへの進行が阻止されると考えられる。しかしながら、がんを予防するための総合ビタミンおよびミネラルサプリメントまたは単一ビタミンまたはミネラルの使用を支持する証拠は不十分である。[ 43 ]ベータカロチンは、食べ物からのベータカロチンの食事による摂取または食事での摂取のマーカーとしての血中レベルを調査した数件の観察的疫学研究の結果に基づいて、肺がんに至る喫煙に関係する変化を予防または逆転すると考えられていた抗酸化物質である。[ 44 ]しかしながら、2件のプロスペクティブ・プラセボ対照試験により、ベータカロチンサプリメントを服用した喫煙者と前喫煙者では、肺がんの発生率および肺がんによる死亡率が高かったことが明らかにされた。[ 45 ]
栄養補助食品の使用については、この他にも予期しない有害事象が報告されている。カルシウム500mg/日以上 vs プラセボの毎日の投与を評価した11件の二重盲検ランダム化プラセボ対照試験のメタアナリシスによって、カルシウムサプリメントが心筋梗塞の有意なリスク増大に関連することが実証された(RR、1.27;95%CI、1.01-1.59)。[ 46 ]食事によるカルシウム摂取の心筋梗塞のリスク増加への関与は観察されなかった。[ 47 ]食事によるカルシウム摂取と大量補給との知見の不一致により、食事による摂取に比べて栄養補助食品を選択する価値について疑問がもたれるようになった。1986年に55歳から69歳の4万人以上の女性が登録した観察研究であるIowa Women's Health Studyでは、栄養補助食品の使用と死亡との関連が調査された。[ 48 ]総合ビタミン、ビタミンB6、葉酸、鉄、マグネシウム、亜鉛、および銅の使用により、統計的に有意な死亡の過剰リスクが観察された。非使用者と比較して死亡率の統計的に有意な低下と関連したのはカルシウム使用者のみであった。
ビタミンおよびミネラルサプリメントの潜在的な抗がん特性の研究が進行中であり、結果は引き続き、がんの予防に関してビタミンサプリメントの効力の不足を強調している。Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial(SELECT)の長期にわたる追跡の結果、プラセボと比較してビタミンE補給(all rac-α-トコフェロールアセテート400 IU/日)に伴う前立腺がんの統計的に有意な過剰リスクが明らかにされた(HR、1.17;99%CI、1.0004-1.36;P = 0.008)。ビタミンE使用に伴う前立腺がんリスクの絶対的増加は、1,000人年当たり1.6であった。セレンは前立腺がんリスクを低下させなかった(HR、1.09;99%CI、0.93-1.27)。[ 49 ]
Physicians' Health Study(PHS)IIの結果から、ビタミンEおよび/またはビタミンCの補給は、前立腺がん発生またはすべてのがんの発生の予防に関して、プラセボとの比較で有益性が認められないことが実証された。[ 50 ]
Women's Antioxidant Cardiovascular Studyの結果から、プラセボと比較してビタミンC、ビタミンE、またはベータカロチンの補給は、すべてのがんの発生を低下させる上で効果がないことが示された。[ 51 ]この同じ研究において、葉酸、ビタミンB6、およびビタミンB12を含む毎日のサプリメントがプラセボと比較された;この介入はがん発生の全リスクを低下させる上で効果がなかった。[ 52 ]ノルウェーの2件のRCTで蓄積されたデータの探索的解析では、葉酸とビタミンB12による治療を受けた患者のがん発生率とがん死亡率は、プラセボまたはビタミンB6単独の投与を受けた患者と比較して、いずれも高くなることが示された。[ 53 ](詳しい情報については、乳がんの予防;大腸がんの予防;肺がんの予防;および前立腺がんの予防に関するPDQ要約を参照のこと。)
ビタミンDもまた、潜在的な抗がん活性をもつ物質として関心を集めている。ビタミンDの供給源としては、日光曝露に基づく皮膚での合成、食事での摂取、サプリメントが含まれる。がんの予防におけるカルシウムを併用するまたは併用しないビタミンDサプリメントの効力に関する証拠は、RCTの副次エンドポイントとして利用可能であり、3件の試験結果の要約で効力の不足を示す証拠が提供されている。[ 54 ]さらに4件目のRCTでは、ビタミンDのがんに対する化学予防効果の不足が実証されている。[ 55 ]これらの研究から得られたヒトにおける全体的な一連の実験的証拠によると、検討された用量(範囲、400~1,100IU/日)のビタミンDサプリメントでは、がんの全般的なリスクが低下または増加しないことを示している。[ 56 ][ 57 ]2種類の補給(2,000 IU/日のビタミンDおよび1g/日のオメガ3脂肪酸)に関するプラセボ対照試験、VITamin D and OmegA-3 TriaL(VITAL)により、いずれの種類の補給も浸潤がんの発生率低下をもたらさなかったことが明らかにされた。浸潤がんの発生率は(複合主要エンドポイントとして大心血管系イベントとともに)VITALの主要エンドポイントの1つであったため、VITALの否定的な結果は、大量のビタミンD補給であってもがんに対する認識可能な影響がみられないという追加の強力な証拠を提供した。[ 57 ][ 58 ][ 59 ][ 60 ]オメガ3脂肪酸に関するVITALの知見は、糖尿病患者を対象にした心血管疾患に対するアスピリン/オメガ3脂肪酸の化学予防に関するプラセボ対照RCTにおけるがんの転帰の二次解析からの知見と一致している。[ 61 ]
上述のRCTで、米国の一般集団がよく摂取する総合ビタミンサプリメントを研究したものはない;しかしながら、PHS IIの別の集団でこの問題が直接研究されている。PHS IIでは、14,641人の男性医師が中央値で11年間にわたって毎日総合ビタミンサプリメントまたはプラセボのいずれかを摂取する群にランダムに割り付けられた。[ 62 ]総合ビタミンサプリメント摂取群ではがんの発生が相対的に8%低下した(HR、0.92;95%CI、0.86-0.998;P = 0.04)。研究開始前にがん診断経験のある男性(HR、0.66;95%CI、0.50-0.88)の方が、がんの既往歴のない男性(HR、0.95;95%CI、0.87-1.03)よりもがんリスクの全般的低下が顕著であったことから、全般的ながん発生率の低下における総合ビタミンのわずかな有益性は、主に二次原発がんの予防から得られたことが示唆されている。この分かりにくい結果は、多くの異なるエンドポイントに対して複数の統計的比較がなされたことや弱い関連性と相まって、このPHS IIによって得られた証拠の強さを減少させている。注目すべきこととして、PHS IIでは総合ビタミンの使用と総死亡率とで有意な関連は観察されておらず(HR、0.94;95%CI、0.88-1.02;P = 0.13)、寿命へのマイナスの影響もプラスの影響も示唆されていない。[ 63 ]この知見は、観察的なIowa Women's Health Studyで報告されたサプリメントと高い死亡率との関連とは異なっている。[ 48 ]
環境曝露と汚染物質
環境汚染物質と発がんリスクの関係は、長い間、研究者や一般市民の関心の的となってきた。曝露の型式別にがんの潜在的負担を推計したところ、前述した喫煙や感染症などの因子ががん負担に占める比率は、環境汚染物質が占めるそれよりもはるかに大きかった。とはいえ、環境汚染物質とがんの間にある程度の関連性があることは明白である。おそらく肺は大気中の汚染物質に対する曝露の度合いが最も高いので、汚染物質とがんの関係を示す最も確実な例は、タバコの副流煙、屋内ラドン、屋外大気汚染や中皮腫のアスベストなど、特に肺がんに関連するものである。がんと関連性のあるもう1つの環境汚染物質は、飲料水中に含まれる高濃度の無機ヒ素で、これは皮膚がん、膀胱がん、肺がんとの因果関係があるとされる。殺虫剤など他の多くの環境汚染物質についても、ヒトにおける発がんリスクの評価が行われているが、確定的な結果は得られていない。これらの研究では、例えば長期間の曝露量をどうすれば正確に計測できるかなど、方法論について困難な課題に直面しており、それが環境汚染物質とがんの関連性の解明を難しくしている。
要約
上で考察した話題の一覧は網羅的ではない。ほかに、がんリスクに(有益にまたは有害に)影響すると知られているライフスタイルおよび環境因子には、特定の性および生殖行為、外因性エストロゲンの使用、および特定の職業曝露および化学曝露がある。
本要約では、いくつかの種類のがんのリスクに影響すると考えられ、かつ潜在的に修正可能であると同定されている因子が選択された。これらには喫煙が含まれており、喫煙は広範な悪性腫瘍と決定的に関連している;喫煙の回避はがん発生を低下させることが明らかにされている。潜在的に修正可能な他のがん危険因子として、飲酒および肥満がある;身体活動は特定のがんのリスクと逆相関している。これらの関連に因果関係があるかどうか、そしてこれらのリスクと関連する行為を回避または予防のための行動を増加させることでがんの発生が実際に減少するかどうかを判断するには、さらなる研究が必要である。
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- 本要約の変更点(04/08/2020)
-
PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
証拠の記述
本文で以下の記述が改訂された;同様に、コホート研究およびランダム化試験の系統的エビデンスレビューによると、全体的ながん発生率および死亡率に対する赤身肉の摂取または摂取量減少の影響はわずかか、認められないことが明らかになった(引用、参考文献23としてVernooij et al.);エビデンスの質のグレードは低いから非常に低いと判定された。
本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
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本要約の目的
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、がん予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Cancer Prevention Overview.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/hp-prevention-overview-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389451]
本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。
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