医療専門家向け 乳がんのスクリーニング(PDQ®)

ご利用について

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、乳がんのスクリーニングについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

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概要

注:乳がんの予防乳がんの治療(成人)男性の乳がんの治療、および妊娠中の乳がんの治療については、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。

マンモグラフィは乳がん発見用に最も広く用いられているスクリーニング方法である。マンモグラフィが50~69歳の女性で乳がん死亡率を低下させ、生命を脅かすことのない臨床的に重要ではないがんの発見(過剰診断)を含む有害性と関連しているという証拠が存在する。40~49歳の女性に対するマンモグラフィの有益性は不明確である。[ 1 ][ 2 ]スクリーニング検査に乳房視触診(CBE)を使用する検討を行ったランダム化試験がインド、イラン、およびエジプトで実施されている。これらの研究の一部では、進行がんへの移行が示唆されている;しかしながら、死亡に対する有益性を結論するには、まだ証拠が不十分である。[ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ][ 7 ][ 8 ]乳房自己検査には死亡に対する有益性がないことが示されている。CBEについて発生率または死亡率の成績に関する結果は発表されていない。

超音波検査、磁気共鳴画像法、分子乳房画像法などの技術は通常、マンモグラフィの補助として評価されており、平均的集団における一次スクリーニングのツールではない。

説明を受けた上での医学的意思決定は、がんのスクリーニングを検討している患者に対して、ますます推奨されている。多種多様な意思決定支援が研究されている。(詳しい情報については、がんスクリーニングの概要に関するPDQ要約を参照のこと。)

マンモグラフィによるスクリーニング

有益性

50年前に開始されたランダム化比較試験(RCT)から、スクリーニングマンモグラフィが60~69歳の女性(固い証拠)および50~59歳の女性(中等度の証拠)で乳がん特異的死亡率を低下させるという証拠がもたらされている。より最近実施された集団ベース研究は、より長期間にわたりスクリーニングに参加するスクリーニング受診集団に対する有益性について疑問を提起している。

影響の大きさ:RCTのメタアナリシスに基づけば、乳がん死を1例防ぐためにスクリーニングに勧誘する必要のある女性数は女性の年齢によって異なる:39~49歳の女性では、1,904人が必要(95%信頼区間[CI]、929-6,378);50~59歳の女性では、1,339人が必要(95%CI、322-7,455);60~69歳の女性では、377人が必要(95%CI、230-1,050)。[ 9 ]

死亡率に関する有益性を実証するRCTのメタアナリシスの妥当性は、RCTの完了以降の数十年での医療用画像検査および治療法の改善により限定的となっている。2014年に完了したCanadian National Breast Screening Study(CNBSS)[ 10 ]の25年に及ぶ追跡では、スクリーニングマンモグラフィに関連する死亡率に関する有益性は示されなかった。

有害性

固い証拠によると、スクリーニングマンモグラフィは以下の悪影響をもたらすことがある。

スクリーニングマンモグラフィによる潜在的有害性に関するこのような結論のいずれについても、内部妥当性、一貫性および外部妥当性は良好である。

乳房視触診(CBE)

有益性

CNBSS試験ではスクリーニング受診なしに対するCBEの効力について調査されなかった。インドで2件、エジプトで1件が進行中のランダム化試験は、スクリーニングCBEの有効性を評価するようデザインされているが、まだ死亡率データを報告していない。[ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ][ 7 ][ 8 ]このため、スクリーニングCBEの有効性の評価はまだ不可能である。

有害性

CBEによるスクリーニングは以下の悪影響をもたらすことがある:

乳房自己検査(BSE)

有益性

BSEがスクリーニングなしと比較されており、乳がん死亡率の低下に関する有益性がないことが示されている。

有害性

BSEを実施するために正式に指導および奨励を行うことで、より多くの胸部生検の実施につながるとともに、良性の乳房病変の診断が増加することを示す固い証拠が存在する。

参考文献
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証拠の記述

乳がんの発生率および死亡率

乳がんは、米国の女性において最も一般的な非皮膚性のがんであり、2020年には新たに浸潤がん276,480例、非浸潤(in situ)がん48,530例が生じると推定され、42,170例が死亡すると予想されている。[ 1 ]BRCA1およびBRCA2遺伝子キャリアを含む遺伝リスクを有する女性が乳がん症例に占める割合はおおよそ5~10%である。男性は乳がん症例および乳がん死の1%を占める。[ 1 ]

乳がんの最大の危険因子は女性であることであり、次が加齢である。他の危険因子には、ホルモン的諸側面(早期初潮、遅発閉経、未経産、初回妊娠の遅さ、閉経後のホルモン療法など)、飲酒、および電離放射線への曝露などがある。

白人女性の乳がん発生率は黒人女性より高く、黒人女性は診断時のあらゆる病期で生存率も低い。このことはスクリーニング行動や医療へのアクセスの違いを反映している可能性がある。ヒスパニック系およびアジア太平洋諸島の出身者では、発生率および死亡率はいずれも白人や黒人よりも低い。[ 3 ]

乳がん発生率は、生殖の問題(早期妊娠 vs 晩期妊娠、多経産、および授乳など)、スクリーニングへの参加、および閉経後のホルモン使用により異なる。乳がんの発生率(特に非浸潤性[in situ]乳管がん[DCIS])は、米国および英国でマンモグラフィが広く採用されるようになって以降、劇的に増加した。[ 4 ]閉経後のホルモン療法の広範な使用は乳がん発生率の劇的な増加と関連していたが、この傾向はその使用が減少したことで反転した。[ 5 ]

いかなる集団でも、スクリーニングを採用してもその後に進行期がんの発生率は低下していない。

乳房症状の評価

乳房に症状を有する女性は、症状のない女性で施行されるスクリーニングマンモグラフィではなく、診断的マンモグラフィを受ける。医学的関心を促す乳房症状に関する10年間の研究で、乳房腫瘤ががんの診断に結びついたのは症例の10.7%であったのに対し、痛みががんと関連付けられたのは症例の1.8%のみであった。[ 6 ]

乳房組織の病理学的評価

浸潤性乳がん

乳がんは、生検時に切除された乳房組織の細胞を顕微鏡的に検査することで診断が可能である。標本採取する乳房組織は、画像検査での異常または触知可能であることで同定できる。乳房生検は、シリンジに取り付けた細い針(穿刺吸引法)、より太い針(コア生検)、または切除(切除生検)により施行することができる。画像ガイダンスにより精度を向上させることができる。針生検では、診断を下せるだけの広い異常部位の標本を採取する。切除生検は異常な領域全体を切除することを目的とする。

非浸潤性(in situ)乳管がん(DCIS)

DCISは浸潤がんと関連することがあり、またさまざまな頻度および時間経過で浸潤がんへと進行しうる非浸潤性病変である。[ 7 ]著者の中にはDCISを浸潤性乳がんの統計に含める者もいるが、DCISという用語は、子宮頸部および前立腺の前駆病変に用いられる用語法と同様に乳管上皮内新生物と言い換える方が適切であり、乳がんの統計からDCISを除外することを検討すべきであると主張する者もいる。

DCISはそのほとんどがマンモグラフィによって診断される。米国では、スクリーニングマンモグラフィ採用以前の1983年にDCISと診断された女性はわずか4,900人であったのに対し、2020年には約48,530人の女性が診断されると予想される。[ 1 ][ 7 ][ 8 ]50~59歳の女性を評価したCanadian National Breast Screening Study-2では、乳房視触診(CBE) + マンモグラフィを併用したスクリーニングを受けた女性のDCISの症例数が、CBEのみのスクリーニングを受けた女性で症例数の4倍であったが、乳がん死亡率には差がなかったことが判明した。[ 9 ](詳しい情報については、乳がんの治療[成人]に関するPDQ要約を参照のこと。)

DCISの自然史は、DCIS症例のほぼすべてがスクリーニングにより検出され、治療を受けるため、ほとんど解明されていない。DCISの治療後の乳がん発生は病変の病理学的特徴および治療法によって異なる。1件のランダム化試験では、腫瘤摘出術によりDCISを切除した女性の13.4%が90ヵ月以内に同側浸潤性乳がんを発症したのに対し、腫瘤摘出術に放射線療法を併用した女性では3.9%であった。[ 10 ]DCISを診断されて治療を受けた女性のうち、乳がんにより死亡した女性の割合は年齢をマッチさせた一般集団よりも低かった。[ 11 ][ 12 ]この良好な治療成績は、DCISの良性の性質や治療の有益性、ボランティア効果(すなわち、乳がんのスクリーニングを受ける女性は一般的にスクリーニングを受けない女性よりも健康的である)を反映している可能性がある。

異型

乳がんの危険因子の1つである異型は、乳房生検の4~10%で認められる。[ 13 ][ 14 ]異型は現役の病理医の間にかなりの相違がみられる診断分類である。[ 15 ]

乳房生検標本の解釈に関する病理医の診断のばらつき

病理医による乳房組織の診断の範囲には、異型なしの良性から、異型あり、DCIS、浸潤性乳がんが含まれる。乳房の異型またはDCIS病変の発生率は、過去30年間にマンモグラフィによるスクリーニングが普及した結果、上昇している(ただし、一般に異型についてはマンモグラフィでは検知されない)。[ 16 ][ 17 ]乳房病変の誤分類は病変の過剰治療または過小治療につながる可能性があり、異型およびDCISの診断では特にばらつきがある。[ 15 ][ 18 ][ 19 ][ 20 ][ 21 ][ 22 ]

このテーマに取り組んだ最大規模の研究であるB-Path研究では、米国の現役病理医115人に症例ごとに1つの乳房生検のスライドを解釈してもらい、その結果を専門家の合意による基準診断と比較した。[ 15 ]個別の病理医の解釈と専門家の基準診断との全般的な一致は浸潤がんで最も高かった一方、DCISと異型では一致のレベルが顕著に低かった。[ 15 ]B-Path研究には、実地臨床で一般的にみられるよりも異型およびDCIS症例の割合が高かったため、著者らは、乳房生検を受けた50~59歳の米国人女性の観点から診断のばらつきが正確度に及ぼす影響の程度を推定するため、ベイズの定理を適用して作業を拡大した。[ 18 ]米国の集団レベルでは、乳房生検による診断の92.3%(信頼区間[CI]、91.4%-93.1%)が専門家の合意による基準診断で確認され、最初の乳房生検の4.6%(CI、3.9%-5.3%)が過剰解釈され、3.2%(CI、2.7%-3.6%)が過少解釈されると推定されている。図1は、100乳房生検当たりの予測される結果を全体および診断カテゴリー別に示している。

図は、100乳房生検当たりの予測される結果を全体および診断カテゴリー別に示す。

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図1.100乳房生検当たりで予測される全体および診断カテゴリー別の結果。From Annals of Internal Medicine, Elmore JG, Nelson HD, Pepe MS, Longton GM, Tosteson AN, Geller B, Onega T, Carney PA, Jackson SL, Allison KH, Weaver DL, Variability in Pathologists' Interpretations of Individual Breast Biopsy Slides: A Population Perspective, Volume 164, Issue 10, Pages 649-55, Copyright © 2016 American College of Physicians.All Rights Reserved.American College of Physicians, Inc.から許諾を得て転載。

乳房組織の診断において不一致の割合が高い問題に対処するため、セカンドオピニオンを必要とする検査室の方針が一般的になりつつある。B-Path研究に参加した252人の乳房病理医を対象にした米国の調査で、回答者の65%が最初に浸潤がんと診断された全症例に対して検査室の方針ではセカンドオピニオンが必要であると報告した。また、回答者の56%がDCISの最初の診断に対して検査室の方針ではセカンドオピニオンが必要であると報告した一方、最初に異型乳管過形成が診断された症例に対してセカンドオピニオンを必要とする検査室の方針を報告した回答者は36%であった。[ 23 ]この同じ調査で、圧倒的多数の病理医が、セカンドオピニオンにより診断精度(96%)が改善したことに同意した。

B-Path研究のデータを用いた1件のシミュレーション研究では、乳房の病理組織所見の解釈を改善すべくセカンドオピニオンを得ることに対する12の戦略が評価された。[ 24 ]セカンドオピニオンを浸潤がん症例のみに限定した戦略を除いて、すべてのセカンドオピニオン戦略で正確度が有意に改善した。診断における病理医の信頼や経験値に関係なく、正確度が改善した。セカンドオピニオンにより正確度が改善した一方で、特に乳房異型の見分けにくい症例で診断のばらつきを完全に排除することはできなかった。

特殊集団

リスクが高く、スクリーニングで得られる有益性が高い可能性のある女性

BRCA1およびBRCA2遺伝子変異を有する女性

BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を原因とする乳がんのリスクが高い女性はスクリーニングを増やすことが有益となる可能性がある。(詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)

胸部放射線療法を受けた女性

ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫で、マントル放射線照射による治療を受けた女性は、治療完了10年後から乳がんのリスクが高くなり、その状態が生涯続く。このため、開始が比較的若年齢となる場合であっても、スクリーニングマンモグラフィが提唱されている。[ 25 ][ 26 ]

スクリーニングによる有益性がほとんどない個人

余命が限られた女性患者

スクリーニングマンモグラフィの潜在的有益性は検査のかなり後、しばしば何年も後に得られるのに対し、有害性はすぐに生じる。このため、余命が限られ、併存症のある女性は有害性を被っても、有益性が得られない場合がある。それでも、このような女性の多くはスクリーニングマンモグラフィを受ける。[ 27 ]ある研究では、進行がん女性の約9%ががんスクリーニング検査を受けた。[ 28 ]

高齢女性

スクリーニングマンモグラフィでは、66~79歳の女性の約1%においてがんの診断がなされるが、これらのがんのほとんどは低リスクである。[ 29 ]高齢女性における限局性乳がんの診断および治療が有益かどうかについては疑問が残る。

若年女性

40歳未満の平均リスクの女性におけるスクリーニングマンモグラフィ実施の有益性については証拠がない。

男性

すべての乳がんのうち、男性に発症するのは約1%である。[ 30 ]ほとんどの症例は、触知可能の病変(通常は容易に発見できる)の評価を行う間に診断される。治療は手術、放射線照射、補助全身ホルモン療法、または化学療法で構成される。(詳しい情報については、男性の乳がんの治療に関するPDQ要約を参照のこと。)スクリーニングが有益となる可能性は低い。

参考文献
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マンモグラフィ

記述と背景

マンモグラフィは、電離放射線を利用して乳腺組織の画像を描出する。検査は2枚のプレート間で乳房をしっかり圧迫することで行うが、このようにすることで重なっている組織が広げられ、画像描出に必要な放射線量が減る。米国におけるルーチンのスクリーニング検査用には、斜位(内外)方向および上下方向の両方から撮影する。[ 1 ]いずれの像も、乳頭から胸筋までの乳腺組織が描出されるようにする。放射線曝露は標準の2方向スクリーニング撮影ごとに4~24mSvである。2方向撮影では、正常な乳腺構造の重複による異常についての懸念が軽減されるため、1方向撮影のみの検査に比べてリコール率が低くなる。[ 2 ]2方向撮影ではまた、1方向撮影のみの検査よりも中間期がんの発生率が低い。[ 3 ]

マンモグラフィを実施する米国の施設はすべて、職員が標準的なトレーニングを受けており、低線量の標準化されたマンモグラフィ検査であることを保証するため1992年に議会が制定したMammography Quality Standards Act(MQSA)の下で米国食品医薬品局(FDA)の認定を受けなくてはならない。[ 4 ]Mammography Facility Surveys, Mammography Equipment Evaluations, and Medical Physicist Qualification Requirement under MQSAに関するFDAのウェブページを参照のこと。)1998年のMQSA再認可条例は、マンモグラフィの結果の一般向け要約文書を患者に渡すよう要求している。

マンモグラフィの結果の報告には、次のBreast Imaging Reporting and Data System(BI-RADS)のカテゴリーが用いられる:[ 5 ]

ほとんどのスクリーニングマンモグラフィは陰性または良性と解釈され(それぞれBI-RADS 1または2)、追加の評価のために再来院を求められる米国人女性は約10%である。[ 6 ]追加の評価のために再来院を求められる女性の割合は、各女性の遺伝的特徴だけでなく、マンモグラフィを実施する施設および放射線科医によっても異なる。[ 7 ]

デジタルマンモグラフィとコンピュータ支援検出

デジタルマンモグラフィはスクリーンフィルムマンモグラフィ(SFM)より高価であるが、データの記憶と共有により適している。がん発見率、感度、特異度、および陽性適中率(PPV)について、SFMとデジタルマンモグラフィ双方の性能が数件の試験で直接比較されているが、ほとんどの患者群で結果は同様であった。

Digital Mammographic Imaging Screening Trial(DMIST)において、米国の33の施設での42,760人の女性のデジタルおよびフィルムマンモグラフィの所見が比較された。50歳未満の女性におけるがん検出については、デジタルマンモグラフィが優れていた(デジタルについて曲線下面積[AUC] 0.84 +/- 0.03;フィルムについてAUC 0.69 +/- 0.05;P = 0.002)が、全体的乳がん検出について差は認められなかった。[ 8 ]DMISTの2番目の報告では、65歳以上の女性で、フィルムマンモグラフィの方がデジタルマンモグラフィより高いAUCを示す傾向が認められた。[ 9 ]

別の米国の大規模コホート研究[ 10 ]でも、50歳未満の女性でフィルムマンモグラフィの方が感度がわずかに良好であり、特異度は同様であったことが認められている。

2004年から2010年にオランダで実施されたデジタルマンモグラフィスクリーニング150万回とスクリーンフィルムマンモグラフィスクリーニング450万回の所見を比較したところ、デジタルマンモグラフィスクリーニングの方がリコール率とがん発見率が高いことが認められた。[ 11 ]DMIST[ 8 ][ 9 ]および米国のコホート研究[ 10 ]を含む10件の研究のメタアナリシス[ 12 ]では、デジタルマンモグラフィとフィルムマンモグラフィの両方を経験した女性82,573人を対象として、これらの手法が比較された。変量効果モデルで、2種類のマンモグラフィの間にがん検出に関する統計的有意差は認められなかった(フィルム:AUC 0.92、デジタル:AUC 0.91)。50歳未満の女性では、すべての研究でデジタルマンモグラフィの方が感度が高かったが、特異度は同等か、フィルムマンモグラフィの方が高かった。

コンピュータ支援検出(CAD)システムは、微小石灰クラスタや腫瘤などの疑わしい領域を強調するもので[ 13 ]、一般に感度は高めるが、特異度を低下させ[ 14 ]、非浸潤性(in situ)乳管がん(DCIS)の検出率を高める。[ 15 ]数種のCADシステムが使用されている。CADシステム導入前後のリコール率および乳がん発見率を比較した1件の大規模集団ベースの研究では、いずれの率にも変化が認められなかった。[ 13 ][ 16 ]別の大規模研究では、リコール率の増加およびDCIS発見の増加が確認されたが、浸潤がん発見率における向上は示されなかった。[ 15 ][ 17 ]40~89歳の女性を対象に大規模データベースおよびデジタルマンモグラフィを用いた別の研究で、CADは感度、特異度、または中間期がんの発見率を改善しなかったが、DCISの発見率を高めたことが認められた。[ 18 ]

Surveillance, Epidemiology, and End Results (SEER)-Medicareリンクデータベースに依拠し、2つの期間(2001年から2002年および2008年から2009年)における65歳以上の女性27万人以上による新たなスクリーニングマンモグラフィ法の使用について調査が行われた。デジタルマンモグラフィは2%から30%に増加し、CADは3%から33%に増加し、費用は$660,000,000から$962,000,000に増加した。CADは2008年にMedicareにより支払われたスクリーニングマンモグラフィの74%で使用され、これは2004年の約2倍の多さであったが、早期(DCISまたはI期)腫瘍または進行期(IV期)腫瘍の発見率における差は認められなかった。[ 19 ]

トモシンセシス

トモシンセシス、つまり3次元(3-D)マンモグラフィでは、標準の2-Dマンモグラフィと同様、乳房を圧迫し、X線を用いて画像を描出する。複数枚の短時間曝露X線写真がさまざまな角度で撮影される。一部のがんはマンモグラフィや超音波検査よりもこの方法での方が適切に描出される。放射線量は2-Dマンモグラフィの2倍である。

バーモント州の8つのスクリーニング施設からの観察データにより、2012年から2016年に実施されたデジタル乳房トモシンセシス(DBT)86,379例およびフルフィールドデジタルマンモグラフィ(FFDM)97,378例のスクリーニング検査の所見の比較が可能になった。女性の参加条件は、乳がんの既往がないか、乳房インプラントの挿入を受けていないこと、および臨床研究プロジェクトからの離脱を選択したことがないこととされた。質問票で人口統計学的因子および危険因子の情報が入手され、生検はすべてVermont Breast Cancer Surveillance Systemを介して病理検査が行われた。リコール率はDBTの方がFFDMよりも低かった(7.9% vs 10.9%;95%信頼区間[CI]、0.77-0.85)が、生検率または良性あるいは悪性病変の検出率における差は認められなかった。[ 20 ]

乳房画像検査により発見されたがんの特徴

病期、リンパ節転移の状態、および腫瘍の大きさに関係なく、スクリーニングで検出されたがんの方がスクリーニング以外で診断されたがんよりも予後が良好である。[ 2 ]このことは、そのようながんは生物学的に致死性が低い(おそらくは成長が遅く、局所的に浸潤し、転移する可能性が低い)ことを示唆している。これはスクリーニングに関連するレングス・バイアス効果と一致している。すなわち、スクリーニングでは緩慢性(増殖が遅い)乳がんが検出されやすい一方で、より侵攻性のがんはスクリーニング未実施期間に検出される。

浸潤性乳がんに罹患しているフィンランドの女性1,983人を対象とした10年にわたる追跡調査は、がんの検出方法が予後の独立変数であることを証明した。年齢、リンパ節転移の状態、および腫瘍の大きさに関する対照がある場合、スクリーニングで検出されたがんの方が再燃リスクが低く、全生存率が良好であった。スクリーニング以外の方法でがんが検出された女性では、たとえ補助全身療法を受ける可能性が高くても、死亡のハザード比(HR)は1.90(95%CI、1.15-3.11)であった。[ 21 ]

同様に、3件のランダム化スクリーニング試験(Health Insurance Plan、全国乳がんスクリーニング研究[NBSS]-1、およびNBSS-2)で発見された乳がんの検査では、病期、リンパ節転移の状態、および腫瘍の大きさが考慮され、スクリーニングでがんが発見された患者は予後がより良好であったという判断に至った。スクリーニングにより検出されたがんと比較すると、中間期がんおよび発生がんの死亡の相対リスク(RR)は1.53(95%CI、1.17-2.00)であった;スクリーニングにより検出されたがんと比較すると、対照群のがんでは1.36(95%CI、1.10-1.68)であった。[ 22 ]

3つ目の研究では、英国において1998年から2003年までに診断された女性計5,604人のスクリーニング発見乳がんの患者と症状のある乳がんの患者との間で転帰の比較が行われた。腫瘍の大きさ、リンパ節転移の状態、悪性度、患者の年齢について調整が行われた結果、スクリーニング発見乳がんの女性の方が経過が良好であったことが明らかになった。症状のある乳がん女性の生存に対するハザード比は0.79であった(95%CI、0.63-0.99)。[ 21 ][ 23 ]

これらの研究の知見は、スクリーニングで検出されたがんの一部は低リスクで過剰診断であるという証拠とも一致している。

スクリーニングバイアス-概念

膨大な数の非対照試験およびレトロスペクティブ・シリーズで、臨床経過の良好な小さな初期乳がんを診断するマンモグラフィの能力が実証されている。[ 24 ]がんがスクリーニングにより発見された患者は、スクリーニングにより生存期間が延長しない場合でさえ、がんがスクリーニングにより発見されなかった患者よりも高い生存率を示す。この概念は以下の4種類の統計的偏りにより説明される:

  1. リードタイム・バイアス:スクリーニングにより、症状に基づいて発見されたであろうがんより早期に発見されたがんは、診断日が早まるだけである。早期に発見、治療を行ってもがんの自然な進行は変化しない。診断時からの5年生存率は、スクリーニングによって患者の生存期間に差が生じない場合でも、早期に発見されたがんの方が高くなる。
  2. レングス・バイアス:スクリーニングマンモグラフィは、臨床的に現れた(医師または具合の悪くなった本人により発見される)がんより予後の良好な成長の遅いがんを発見する。このような非進行性のがんを生命を脅かすがん(早期の治療により治療成績が影響を受けない)に加えることで、スクリーニングによってどれだけ多くの人命が救われるかに違いが生じていない場合でも、5年生存率は増加する。
  3. 過剰診断バイアス:スクリーニングにより、決して症状や死亡の原因とならないであろうがんが発見され、生存期間を変えることなく生存率が増加する。
  4. 健康ボランティア・バイアス:スクリーニングへの参加を志願する人は、一般集団の中でも最も健康であり、または健康意識が最も高い女性である可能性がある。このため、彼女らの転帰は、早期診断で得られる可能性のある有益性に関係なく、健康でもなく、健康意識が高いわけでもない女性の転帰より良好となる。

このようなバイアスの影響は不明である。生存に関する有益性と、過剰診断バイアス、リードタイム・バイアス、レングスタイム・バイアス、健康ボランティア・バイアスの影響の双方を検討するために、原因別死亡をエンドポイントとする新たなランダム化比較試験(RCT)が必要である。これは実現可能ではない;患者をスクリーニング群と非スクリーニング群にランダム化することは非倫理的であり、また少なくとも30年間の追跡が必要となり、その間に治療法と画像検査技術の変化により結果が無効となるはずである。このため、判断は、制約があっても入手可能なRCT、また適切な対照群を用意し、交絡について調整を行った地域相関研究やコホート研究に基づかざるを得ない。(詳しい情報については、がんスクリーニングの概要に関するPDQ要約を参照のこと。)

性能と正確度の評価

米国におけるスクリーニングマンモグラフィの性能の基準は、Breast Cancer Surveillance Consortium(BCSC)のウェブサイトに記述されている。(詳しい情報については、がんスクリーニングの概要に関するPDQ要約を参照のこと。)

感度

マンモグラフィの感度とは、マンモグラフィによるスクリーニングにより発見される乳がん女性の割合をいう。感度は、腫瘍のサイズ、目立ちやすさ、ホルモン感受性、乳腺組織の陰影濃度、患者の年齢、月経周期の時期、画像全体の質、放射線科医の読影力に左右される。全体的な感度は約79%であるが、年齢の低い女性および乳房が濃く映る(dense breast)女性では低くなる(BCSCウェブサイトを参照のこと)。[ 25 ][ 26 ][ 27 ]乳がんに罹患している可能性のある女性の中には過剰診断により有害性が生じる場合もあるため、感度は有益性と同じというわけではない。Physician's Insurance Association of America(PIAA)によると、乳がん診断の遅れおよび誤診は、医療過誤訴訟の一般的な原因である。2002年から2011年までのPIAAのデータにより、乳がんに関する賠償請求で賠償金の支払総額が最も高かったのは誤診についてのものであり、賠償金の平均支払額は$444,557であったことが示されている。[ 28 ]

特異度および偽陽性率

マンモグラフィの特異度とは、乳がんのない全女性のうち陰性である割合をいう。偽陽性率とは、乳がんのない女性で検査結果が陽性となる確率をいう。特異度が低く、偽陽性率が高い場合は、不要な追加検査および追加措置を実施することになる。特異度はがんのないすべての女性を分母に含むため、偽陽性の割合が低い場合でも、絶対数は大きくなる。このため—スクリーニングでは—特異度は非常に高いことが必要である。95%の特異度でもスクリーニング検査としては非常に低い。

中間期がん

中間期がんとは、通常のスクリーニング検査後から予期される次のスクリーニングマンモグラフィの日までの期間の間に診断されるがんである。中間期がんは50歳未満の女性に比較的多く発生し、粘液性または小葉性であり、高い組織学的悪性度と増殖活性を示し、マンモグラフィの所見は比較的良性で、石灰化を示さないことがある研究で認められている。逆に、スクリーニングで発見されたがんは、しばしば管腔状の組織型をとり、腫瘍径が小さく、病期が進んでおらず、ホルモン感受性があり、DCISの成分が大部分を占めていた。[ 29 ]全体として、中間期がんは急激な増殖を特徴としており[ 29 ][ 30 ]、診断時には進行期にあり、予後不良である。[ 31 ]

Nova Scotia Breast Screening Programは、見逃されたがんを以前のスクリーニング検査で偽陰性であったものと定義しており、頻度は女性1,000人当たり1件未満としている。同プログラムは、中間期がんの発生頻度は40~49歳の女性では1,000人当たり約1件、50~59歳の女性では1,000人当たり約3件であったと結論している。[ 32 ]

逆に、より大規模な試験では、中間期がんは40~49歳の女性で有病率が高かったことが認められている。スクリーニングマンモグラフィで陰性であった後、12ヵ月以内に現れる中間期がんは通常は乳腺密度が高いためと考えられた。24ヵ月以内に現れる中間期がんは、乳腺密度が高いことによるマンモグラフィの感度低下、または腫瘍の急激な増殖に関係していた。[ 33 ]

正確度に関連する変数

患者の特徴

マンモグラフィの正確度は、女性の年齢、乳腺密度、最初の検査であるかその後の検査であるか、前回のマンモグラフィからの経過時間など、患者の特徴により異なることが指摘されている。若い女性では、高齢女性より感度が低く、偽陽性率が高い。

英国のMillion Women Studyは、50~64歳の女性において、閉経後にホルモン療法を使用している場合、以前に乳房手術を受けている場合、または肥満指数が25未満である場合に感度と特異度が低下することを明らかにした。[ 34 ]前回のマンモグラフィからの間隔が長い場合、感度、リコール率、がん検出率は高くなり、特異度は低くなる。[ 35 ]

感度は、検査を月経開始後またはホルモン療法の停止中に予定することで改善できる。[ 36 ]肥満の女性はマンモグラフィの結果が偽陽性となるリスクが20%以上高くなるが、感度に変化はない。[ 37 ]

デンスブレスト(高濃度乳腺)はマンモグラフィでの小さな腫瘤の検出を不明瞭にする場合があり、それによりマンモグラフィの感度が低下する。[ 10 ]いずれの年齢の女性でも、乳腺密度が高ければ特異度は10~29%低くなる。[ 26 ]高い乳腺密度は生来の体質であり、遺伝性である可能性があり[ 38 ][ 39 ]、年齢、内因性[ 40 ]および外因性[ 41 ][ 42 ]のホルモン[ 43 ]、タモキシフェンのような選択的エストロゲン受容体調節因子[ 44 ]、食事の影響も受ける場合がある。[ 45 ]ホルモン療法は高い乳腺密度、マンモグラフィでの感度低下、中間期がんの割合の増加と関連している。[ 46 ]

デジタルマンモグラフィはデンスブレストの検査においてフィルムマンモグラフィよりも正確である。[ 8 ]米国のほとんどの州では、マンモグラフィ検査施設が乳腺密度を報告するように法律で定めているが、複数のガイドラインで一貫性がないため、患者と医療提供者の間で混乱と不安が生じている。[ 47 ]

デンスブレスト組織は異常ではない。乳腺密度はマンモグラフィ画像において濃く映る乳房組織 vs 脂肪組織の割合の記述である。[ 48 ]American College of RadiologyのBI-RADSでは、乳腺密度を以下のように分類している:

  1. ほぼ完全に脂肪性。
  2. 散在性線維腺組織(scattered fibroglandular densities)。
  3. 不均一高濃度。
  4. きわめて高濃度。

後者2つのカテゴリーはデンスブレスト組織と考えられ、40~74歳の女性の43%にみられる乳房組織である。[ 49 ]放射線科医による乳腺密度の割り付けは主観的であり、すべての女性で割り付けは経時的に変化しうる。[ 49 ][ 50 ]

乳腺密度が乳がんリスクの増加に関連する一方で[ 51 ]、乳腺密度は乳がんに対する危険因子としてはごくわずかであり、乳がん死に対するリスクはあまり高くない。乳腺密度カテゴリーaと乳腺密度カテゴリーdを比較した場合の乳腺密度による乳がん発生リスクの増加は4倍である。

いくつかのグループにより、デンスブレスト女性のスクリーニングでは超音波検査または乳房磁気共鳴画像法(MRI)による補助的な画像検査が提唱されているが、この戦略により乳がん死亡率が低下することを示すデータは得られていない。これらの補助的スクリーニング検査を追加した場合の潜在的な有害性は偽陽性が増加する可能性であり、追加の画像検査および乳房生検とともに結果として不安と費用が付随する。[ 51 ]補助的スクリーニング検査ではまた乳がんの過剰診断が増加する可能性があり、結果として過剰治療が行われる。

腫瘍の特徴

粘液性がんおよび小葉がんはマンモグラフィで発見されやすい。急速に増殖するがんは正常な乳房組織とときに間違えられることがある(例、髄様がん、しばしばBRCA1変異および侵攻性の特徴と関連するが、治療に対して比較的良好な反応を示す場合があるまれなタイプの浸潤性乳管がん)。[ 29 ][ 52 ]進行が緩徐に見えることがあるBRCA1/2変異に関連した他の一部のがんもまた、見逃される場合がある。[ 53 ][ 54 ]

医師の特徴

放射線科医の能力には幅があり、経験値および放射線科医が読影したマンモグラム数による影響を受ける。[ 55 ]学術センターの放射線科医が推奨した生検では、地域の放射線科医の推奨による生検よりも陽性適中率(PPV)が高い。[ 56 ]乳房画像検査のフェローシップ・トレーニングが発見の向上につながる。[ 8 ]

能力は施設によっても異なる。マンモグラフィによるスクリーニングの正確度は、診断検査も行っている施設よりもスクリーニング検査のみを行っている施設での方が高かった。乳房画像検査専門家のスタッフを有し、二重読影に対して単独読影を行い、毎年2回以上読影監査による見直しを受けていた施設でも、正確度が高かった。[ 57 ]

医療過誤に関する関心が高い施設および弱い立場にある女性(人種または民族的少数派の女性および教育程度が低く、家計収入が少なく、非都市部在住の女性)にサービスを提供している施設では、偽陽性率が高い。[ 58 ]このような集団ではがんの有病率が高く、フォローアップが行われない可能性がある。[ 59 ]

国際的な比較

スクリーニングマンモグラフィを多国間で比較したところ、集約度の高いスクリーニングシステムと国で定めた品質保証プログラムのある国では特異度が高くなることが判明した。[ 60 ][ 61 ]

リコール率は、米国での方が英国よりも2倍高いが、がん発見率に違いはない。[ 60 ]

有病率 vs その後の検査と検査の間隔

がん診断の可能性は、有病率(初回)のスクリーニング検査時が最も高く、検診1,000件につき年齢に応じて9~26例のがんが見つかる。その可能性は追跡検査を重ねる間に低下して、がん診断はスクリーニング1,000件につき1~3例となる。[ 62 ]

スクリーニングマンモグラフィの至適実施間隔は不明である;プロトコルおよびスクリーニング間隔に違いがあるにも関わらず、試験間のばらつきはほとんどない。英国の1件のプロスペクティブ試験では、50~62歳の女性が1年ごとまたは3年ごとのマンモグラフィを受ける群にランダムに割り付けられた。腫瘍の悪性度およびリンパ節転移の状態は両群とも同程度であったが、3年ごとにスクリーニングを実施する群と比較した場合、1年ごとにスクリーニングを実施する群では、サイズがやや小さいがんが多く検出された。[ 63 ]

ある大規模な観察研究によると、40代女性で2年ごとに実施するスケジュールに従った群は、1年ごとの実施スケジュールに従った群に比べ、診断時に進行がんとなるリスクがわずかに増大した(28% vs 21%;オッズ比[OR]、1.35;95%CI、1.01-1.81)が、50代または60代女性ではスケジュールの違いに基づく差は認められなかった。[ 64 ][ 65 ]

フィンランドの研究では、40~49歳の女性14,765人を1年ごとのスクリーニング群または3年ごとのスクリーニング群のいずれかにランダムに割り付けた。3年ごとのスクリーニング群では100,738生存年での乳がんによる死亡者数が18人で、1年ごとのスクリーニング群では88,780生存年での乳がんによる死亡者数が18人であった(HR、0.88;95%CI、0.59-1.27)。[ 66 ]

乳がん死亡率に関するマンモグラフィによるスクリーニングの有益性

ランダム化比較試験(RCT)

乳がん死亡率に対するスクリーニングマンモグラフィの影響を調べるRCTが1963年から2015年に実施され、4ヵ国の50万人以上の女性が参加した。1件の試験、Canadian NBSS-2では、マンモグラフィと乳房視触診(CBE)の併用とCBEのみ実施した場合とが比較された;他の試験は、CBEを併用するまたは併用しないスクリーニングマンモグラフィを通常のケアと比較した。本試験の詳細な記述については、本要約のランダム化比較試験の付録のセクションを参照のこと。

これらの試験は、デザイン、被験者の募集方法、介入方法(スクリーニング、治療のいずれも)、対照群の管理、スクリーニング群と対照群への割り付けのコンプライアンス、転帰の解析法が異なっていた。個々のランダム化を用いた試験もあれば、コホートを特定してからスクリーニングを提示したクラスターランダム化を採用した試験もある;1件の試験では誕生日の日にち(月には関係なく)を基に非ランダムに割り付けしたのもあった。クラスターランダム化を行うと、ときに、介入群と対照群との間に不均衡が生じることになった。数件の試験で、年齢差があることが明らかになっているが、その差が試験成績に大きな影響を及ぼすことはなかった。[ 67 ]Edinburgh Trialでは、乳がん死リスクと相関する社会経済的状態が介入群と対照群で顕著に異なっていたため、試験成績の解釈が不可能となった。

これらの各試験で乳がん死亡率が主要な治療成績パラメータであったため、死因の帰属に細心の注意が必要となった。盲検化したモニタリング委員会(ニューヨーク)の使用や、全国死亡登録(スウェーデンの諸試験)などの独立したデータ供給元との連携が組み入れられたが、スクリーニング群または対照群の女性の死因の偏りのない帰属を確保することはできなかった。Two-County Trialで乳がん死の誤分類が生じ、スクリーニングを支持する結果へのバイアスが生じた可能性が示唆されている。[ 68 ]

また、これらの試験結果の解析に用いられた方法にも違いがあった。スウェーデンの5件の試験のうち4件では、対照群ではスクリーニングマンモグラフィを1回だけ行うようデザインされ、研究群で実施する一連のスクリーニングマンモグラフィの最終回に時期を合わせて実施した。これらの試験の初期解析では評価解析を用いて、試験で実施した最後のマンモグラフィ時またはその前までにがんが発見された女性で生じた乳がん死のみをカウントしている。これらの試験の一部では、最後のマンモグラフィを実施するのが遅れたため、対照群の女性に乳がんが発生するまたは乳がんと診断される期間が長くなった。追跡解析を用いた試験もあり、診断の時期とは無関係に、乳がんに起因する全死亡者数をカウントしている。このタイプの解析は、評価解析に関する懸念を受けて、スウェーデンの試験5件のうち4件のメタアナリシスで用いられた。[ 68 ]

国際的な監査および検証に関するデータの入手しやすさも異なっており、公的な監査を受けたのはカナダの試験でのみであった。他の試験はさまざまな程度の監査を受けているが、厳格さの程度は低かった。[ 69 ]

いかなる集団においても乳がん死が全死亡者数に占める割合がごく小さいことから、これらの研究はすべて全原因死亡率ではなく乳がん死亡率を研究すべくデザインされている。諸試験における全原因死亡率をレトロスペクティブに検討すると、Edinburgh Trialのみがその研究群における前述の社会経済的差に起因する差を示した。このほか、4件のスウェーデンの試験のメタアナリシス(追跡手法)でも、全原因死亡率において、わずかな改善が認められた。

スクリーニングに原因を求めることのできる乳がん死亡率の相対的改善は約15~20%であり、個人レベルでの絶対的改善ははるかに小さい。乳がんスクリーニングの潜在的有益性は、乳がんの早期発見によって生存が延長された数で表すことができる。[ 70 ][ 71 ]

RCTの結果は限定的期間の定期的検査での経験を表すものだが、実際には女性は生涯を通じて20~30年間スクリーニングを受ける。[ 65 ][ 72 ]

最大50年前に実施されたこのようなRCTを用いて、乳がん死亡率に対するスクリーニングの現在の有益性を推定するにあたってはいくつか問題が存在する。以下に問題の例を挙げる:

  1. マンモグラフィの技術の向上により、ますますわずかな異常が確認できるようになっていること。
  2. 一般集団における乳がんに対する意識の高まりにより、女性がより早期に評価と治療を求めるようになっていること。
  3. 集団における乳がんの危険因子(初潮年齢、初回妊娠年齢、肥満、閉経後のホルモン療法の使用など)の変化。
  4. 乳がんの治療法が改善し、より大きく、より進行したがんでも以前より治癒率が高くなっていること。
  5. 短期RCT(例、5~10年)の結果を適用しての乳がんスクリーニングの生涯にわたる影響の推定。

このような理由のため、現在のスクリーニングにより生じる乳がん死亡率低下の推定は、RCTに加え、運営の優れたコホート研究や地域相関研究に基づいて行われる。

集団ベースのスクリーニングプログラムの有効性

スクリーニングの有効性の推定は、スクリーニング集団 vs 非スクリーニング集団の非ランダム化比較研究、実在の地域社会でのスクリーニングのケースコントロール研究、および大規模集団を対象としたスクリーニングの影響を調べるモデリング研究から行うことができる。これらの研究は、乳がん治療法の改善や地域社会での乳がんに対する意識の向上といった、乳がん死亡率に影響を及ぼす関係のない傾向の影響をわずかに抑えるか、排除するようデザインされている必要がある。

スウェーデンから報告された3件の集団ベースの観察研究では、スクリーニングマンモグラフィ計画の有無における乳がん死亡率が比較された。1件の研究では、スウェーデンの25県のうち7県において隣接する2つの期間を比較し、スクリーニングにより乳がん死亡率が、統計的に有意な18~32%の低下を示したことが認められた。[ 73 ]この研究における最も重大なバイアスは、乳がん補助療法の有効性に劇的な改善がなされた期間にこれらの県でスクリーニングが開始されており、研究の著者らがこの変化に対処しなかったことである。2つ目の研究では、11年間にわたる検討で、スクリーニングプログラムを実施した7つの県と実施しなかった5つの県が比較された。[ 74 ]スクリーニングを支持する傾向がみられたが、ここでも著者らは補助療法の影響や治療の実践に影響しうる地理的差(都市部 vs 非都市部)を考慮しなかった。

3つ目の研究では治療の影響を説明するために県ごとの詳細な解析が行われた。スクリーニングによる影響はほとんどないことが認められたが、この結論はデザインと解析のいくつかの欠陥により弱いものとなっている。[ 75 ]

1975年にオランダのナイメーヘンで集団ベースのスクリーニングプログラムが実施され、ケースコホート研究でスクリーニングを受けた女性の死亡率がスクリーニングを受けなかった女性との比較で低下したことが認められた(OR、0.48)。[ 76 ]しかしながら、ナイメーヘンの乳がん死亡率とスクリーニングプログラムを実施しなかったオランダの隣市アルンヘムの乳がん死亡率を比較したその後の研究では、乳がん死亡率の差は示されなかった。[ 77 ]

1983年から1998年に実施された米国の高品質の医療システムでのスクリーニングを対象とした地域社会ベースのケースコントロール研究では、以前のスクリーニングと乳がん死亡率の低下との間に関連は見出されなかったが、マンモグラフィによるスクリーニング率は概して低かった。[ 78 ]

運営の優れた1件の地域相関研究で、医療制度の類似性および集団の構成で対応させた欧州の3組の隣国の比較が行われた(このうち一国では、国家的なスクリーニングプログラムが他国よりも数年早く開始されていた)。研究者たちは、各国で乳がん死亡率の低下がもたらされたが、対応する国どうしでのスクリーニングによる差は認められなかったことを明らかにした。死亡率の低下はスクリーニングによるものというよりも、乳がん治療および/または医療機関の改善によるものである可能性が高いことが、著者たちによって示唆された。[ 79 ]

2011年3月までに発表された地域相関研究および大規模コホート研究の系統的レビューで、乳がんスクリーニングをさまざまな時期に開始した50~69歳の女性の大規模集団における乳がん死亡率が比較された。17件の研究が選択基準を満たしたが、いずれの研究にも、対照群の相違点、乳がんリスクおよび乳がん治療の地域差に対する調整の不十分さ、そして比較された地域間での乳がん死亡率の測定値が類似していることに伴う問題といった方法論的な問題がみられた。研究間の結果には大きなばらつきがあり、4件の研究では33%以上の乳がん死亡率の相対的低下(広範な信頼区間を伴う)がみられ、5件の研究では乳がん死亡率における低下はみられなかった。乳がん死亡率の全般的な低下のうち、スクリーニングによるものはほんの一部であると考えられるため、このレビューでは、スクリーニングによる乳がん死亡率の相対的低下は10%程度であろうと結論付けられた。[ 80 ]

1976年から2008年に実施された米国の1件の地域相関分析で、40歳以上の女性に対する早期 vs 進行期乳がんの発生率が調査された。スクリーニングの効果を評価するため、著者らは早期がんの増加の大きさと進行がんの予想される減少の大きさを比較した。研究期間中、早期がん発生率の絶対的増加は女性10万人当たり122例であった一方、進行がんの絶対的減少は女性10万人当たり8例であった。ホルモン療法および他の不明な原因による発生率の変化の調整後、著者らは(1)乳がん死亡率に対するスクリーニングの有益性は小さく、(2)乳がんと診断されたうちの22~31%は過剰診断であり、(3)乳がん死亡率で認められた改善はおそらくはスクリーニングではなく、治療法の改善による可能性が高いと結論付けた。[ 81 ]

乳がん死亡率の減少に対するスクリーニング vs 治療の寄与、および過剰診断の大きさを概算するために、分析アプローチが用いられた。[ 82 ]40歳以上の女性において、米国での(マンモグラフィ導入前から)2012年(広く普及した後)までの乳がんの大きさの分布における変化が、SEERデータを用いて調査された。この期間中、臨床的に意義のある乳がんの割合が一定しているものと仮定された。著者らは、乳がん症例の致死率の低下とともに、比較的大きな(2cm以上)腫瘍の発生率の低下を認めた。比較的大きい腫瘍を有する女性の死亡率の低下は治療の改善によるものであった。大きさ別の症例の致死率の低下の3分の2は治療の改善によるものであった。

グラフは、スクリーニングマンモグラフィの導入と浸潤性乳がん発生率の増加との時間的な関係を示す。

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図2.スクリーニングマンモグラフィと浸潤性乳がん発生率の増加。1975年から2012年の期間中、Surveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムの9つの場所で40歳以上の女性における全般的な浸潤性乳がんおよび転移性乳がんの発生率が示されている。From New England Journal of Medicine, Welch HG, Prorok PC, O'Malley AJ, Kramer BS, Breast-Cancer Tumor Size, Overdiagnosis, and Mammography Screening Effectiveness, Volume 375, Issue 15, Pages 1438-47, Copyright © 2016 Massachusetts Medical Society.Massachusetts Medical Societyから許諾を得て転載。

米国における地域社会ベースのスクリーニングプログラムに関する1件のプロスペクティブ・コホート研究により、1年ごとのスクリーニングマンモグラフィは2年ごとのスクリーニングマンモグラフィと比較して、50~74歳の女性または乳房がきわめて濃く映ることのない40~49歳の女性において発見される予後不良な乳がんの割合を低下させないことが明らかにされた。乳房がきわめて濃く映る40~49歳の女性では、1年ごとのスクリーニングにより2.0cmを超えるがんが減少した(OR、2.39;95%CI、1.37-4.18)。[ 83 ]

40~74歳の女性を対象にカナダの12のスクリーニングプログラムの7つで実施された観察研究では、1990年から2009年の間に少なくとも1回のスクリーニングを受けた参加者(集団の85%)における乳がん死亡率がスクリーニングを受けなかった女性(集団の15%)の乳がん死亡率と比較された。抄録では、参加者における乳がん死亡率が平均40%であったと報告されているが、この研究のDiscussionの記載内容に基づくと、乳がん死亡率が40%低下したことを報告しようとした可能性が高い。[ 84 ]

この研究の制限として、全原因死亡率に関するデータがないこと、スクリーニングの程度、研究以外でのスクリーニング、研究以前のスクリーニング、予想された死亡率および非参加者の参照率の算出に用いられた手法、非参加者の生存率、州別の集団差、データベースの制限により参加者間で年齢および他の差を補正できなくなる程度、単一の州(ブリティッシュコロンビア)のサブスタディデータの一般化可能性、および選択バイアスの潜在的に大きな影響が挙げられた。全体として、この研究は重要なデータが不足しており、方法論およびデータ解析に制限があった。

米国における乳がん発生率と死亡率の統計モデル分析

スクリーニングの最適な実施間隔について、モデラーによる取り組みが行われている。モデリングでは正しくない可能性がある仮説を設ける;それでも、そのモデリングの信頼性は、そのモデルによりランダム化試験と一致する全体的な結果が得られる場合、およびそのモデルを使用して内挿または外挿される場合により高くなる。例えば、1年ごとのスクリーニングについてモデルの出力がRCTの結果と一致すれば、2年ごと vs 1年ごとのスクリーニングの相対的有効性の比較において信頼性がより高くなる。

2000年に米国国立がん研究所はモデリンググループ(Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network[CISNET])のコンソーシアムを創設し、米国における乳がん死亡率に観察された減少に対するスクリーニングおよび補助療法の相対的寄与率の解明に取り組んだ。[ 85 ]これらのモデルでは、RCTの状況で予測されたものと同様な乳がん死亡率の減少が予測されたが、現代的な補助療法の使用に対して更新されていた。2009年に、CISNETモデラーにより、1年ごと vs 2年ごとのスクリーニングの比較を含めて、マンモグラフィの有害性および有益性に関するいくつかの課題への取り組みが行われた。[ 65 ]50~74歳の女性は、2年ごとにマンモグラフィを受けることで、1年ごとのスクリーニングの死亡率に関する有益性の大半を得ていた。スクリーニングを1年ごとから2年ごとに変更したために維持された乳がん死亡数の減少の範囲は6つのモデル群全体で72~95%に及び、中央値で80%であった。

1990年以降にみられる死亡率低下がどの程度スクリーニングのための画像技術の進歩によるものなのか、およびどの程度治療における有効性の改善の結果であるかに関するデータは限られている。6つのシミュレーションモデルに関する1件のCISNET研究において、2012年の乳がん死亡率低下の約1/3がスクリーニングによるものであり、治療によるものと均衡が取れていた。[ 86 ]このCISNET研究では、スクリーニングまたは治療を実施しない場合に2012年に推定されるベースラインの死亡率と比較して、全乳がん死亡率において推定された低下の平均は49%(モデルの範囲、39~58%)であった;この低下の37%(モデルの範囲、26~51%)がスクリーニングに関連し、この低下の63%(モデルの範囲、49~74%)が治療に関連した。

マンモグラフィによるスクリーニングの有害性

スクリーニングマンモグラフィの悪影響には、過剰診断(臨床的意義をもたないであろう真陽性)、偽陽性(検査の特異度に関係する)、偽陰性(検査の感度に関係する)、検査に伴う不快感、放射線曝露リスク、心理的有害性、経済的なストレス、および機会費用がある。

表1は、年1回のスクリーニングマンモグラフィを10年間にわたって受診した女性10,000人について推定されるスクリーニングマンモグラフィの有益性と有害性の概要を示している。[ 87 ]

表1.年1回のスクリーニングマンモグラフィを10年間にわたって受診した女性10,000人について推定されるスクリーニングマンモグラフィの有益性と有害性a
年齢、歳 マンモグラフィスクリーニングにより、次の15年間にわたって回避される乳がん死亡数 10年間に1回以上偽陽性結果となる数(95%CI) 10年間に1回以上の偽陽性結果が生検実施につながる数(95%CI) 臨床的には決して重要にならない乳がんまたはDCISが10年間に診断される数(過剰診断)
CI = 信頼区間;DCIS = 非浸潤性(in situ)乳管がん。
a出典:Pace and Keating.[ 87 ]
b回避された死亡数の出典:Welch and Passow.[ 88 ]下方限界は、(カナダの試験[ 89 ][ 90 ]の最小限の有益性に基づいて)乳がん死亡の相対リスクが0.95であった際の乳がん死亡の低下を示し、上方限界は、(スウェーデンの2-County Trial[ 91 ]に基づいて)相対リスクが0.64であった際の乳がん死亡の低下を示す。
c偽陽性および生検の推定値および95%信頼区間はHubbard et al.およびBraithwaite et al.において報告された10年累積リスクである。[ 92 ] [ 93 ]
d過剰診断例数はWelch and Passowにより算出された。[ 88 ]下方限界はMalmö試験[ 94 ]の結果に基づく過剰診断であり、上方限界はBleyer and Welch[ 81 ]からの推定値である。
eWelch and Passow[ 88 ]により報告された過剰診断の下方限界推定値の出典はMalmö試験[ 94 ]であった。この研究には50歳未満の女性は登録されなかった。
40 1–16 6,130 (5,940–6,310) 700 (610–780)
50 3–32 6,130 (5,800–6,470) 940 (740–1,150)
60 5–49 4,970 (4,780–5,150) 980 (840–1,130)

過剰診断

過剰診断は、スクリーニングを実施しなければ臨床では決して明らかにならないであろうがんがスクリーニング手技によって発見される場合に起こる。こうしたがんの同定は患者に利益をもたらさない一方で、診断的手技およびがん治療の副作用が重大な有害性を引き起こす可能性があるため、特に重要である。過剰診断の大きさが、特に自然史が不明ながん前駆病変であるDCISに関して議論されている。このように診断時に腫瘍の挙動を確信的に予測できないことで、浸潤がんとDCISに対する標準治療法が過剰治療の原因となる可能性がある。関連する有害性には、治療関連の副作用およびがんの診断に伴ういくつかの有害性の数があり、これらは直ちに生じる。逆に、死亡率に関する有益性は将来の不定の時点で生じる。

過剰診断を解明するための1つのアプローチは、がん以外の原因で死亡した女性における潜伏がんの有病率を調べることである。7件の剖検研究の概要では、有病率の中央値は潜伏浸潤性乳がんで1.3%(範囲、0~1.8%)、DCISで8.9%(範囲、0~14.7%)であった。[ 95 ][ 96 ]

過剰診断は、スクリーニング受診集団とスクリーニング非受診集団における乳がん発生率を比較することで間接的に測定することができる。こうした比較では、時代、地理、健康行動、ホルモンの使用など、集団の差によって交絡が生じる可能性がある。過剰診断の算定はリードタイム・バイアスに対する調整において相違がみられることがある。[ 97 ][ 98 ]29件の研究の概要により、算定された過剰診断の割合は0~54%であり、ランダム化研究での割合は11~22%であったことが明らかにされた。[ 99 ]スクリーニング受診集団とスクリーニング非受診集団が同時に存在したデンマークでは、2つの異なる方法論が用いられ、浸潤がんの過剰診断の割合は14%および39%と算定された。DCISの症例を含めた場合、過剰診断の割合は24%および48%であった。2つ目の方法論はスクリーニング対象年齢より若い女性における地域差を考慮しており、より正確である可能性が高い。[ 100 ]

理論的には、ある集団において早期に発見される乳がんが増えると、その後の進行期がんの発生率が低下するはずである。現在までに研究されたいかなる集団においてもこの低下は起こっていない。したがって、より多くの早期がんの発見は過剰診断を意味している可能性が高い。オランダの集団ベースの研究では、スクリーニングで発見されたDCISを含むすべての乳がんの約半数が過剰診断を意味しており、スクリーニングに関連するかなりの割合の過剰診断を示した他の研究と一致している。[ 101 ]

ノルウェーの1件のコホート研究で、年齢と居住地に基づく適格性により、スクリーニングに適格な女性におけるがん発生率の増加と、スクリーニングに適格ではないより年齢の低い女性におけるがん発生率とが比較された。適格な女性では限局性がんの発生率が60%増加した(RR、1.60;95%CI、1.42-1.79)一方、進行がん発生率は2群間で同程度のままであった(RR、1.08;95%CI、0.86-1.35)。[ 102 ]

米国の異なる郡を比較した集団研究では、スクリーニングマンモグラフィの利用率が高いほど乳がん診断率が高かったが、それに対応する10年乳がん死亡率における低下はみられなかったことが示された。[ 103 ]この研究の強みは、非常に大規模であること(1600万人の女性)と郡間で観察された相関の強さおよび一貫性が挙げられる。この研究の限界には、マンモグラフィの自己報告、スクリーニング受診率推定での2年の期間の使用、解析期間(閉経期のホルモン使用が行われていた時期)がある。[ 103 ]

ランダム化臨床試験であるCanadian NBSSで過剰診断の程度が推定されている。5回のスクリーニング検査終了時に、マンモグラフィ受診群では対照群と比較して浸潤性乳がんの診断が142例多かった。[ 104 ]15年経過時に対照群と比較したマンモグラフィ受診群のがん症例の過剰数は106例であり、スクリーニングで発見された484例の浸潤がんに対する過剰診断の割合が22%であったことを意味している。[ 104 ]

スクリーニングマンモグラフィの結果として、現在、挙動が緩徐な多数の乳がんが同定されており、潜在的な過剰治療を引き起こしている。早期乳がん患者においてタモキシフェン vs 全身療法なしを比較したランダム化試験の2回目の解析において、著者らは70-gene MammaPrintアッセイを利用し、15%の患者が超低リスクであることを確認した(20年疾患特異的生存率はタモキシフェン群で97%で対照群で94%であった)。したがって、これらの患者は手術単独できわめて良好な転帰を有する可能性が高い。スクリーニング集団におけるこうした超低リスクがんの頻度は、およそ25%であろう。70-gene MammaPrintアッセイなどのツールは将来、これらのがんの同定に用いられる可能性があり、これにより過剰治療のリスクが低下する。ただし、こうした所見を確認するために追加の研究が必要である。[ 105 ]

2016年に、25年間の追跡を実施したランダム化スクリーニング試験であるCanadian NBSSでは、マンモグラフィスクリーニングによる年齢層別の乳がんの過剰診断を再評価し、40~49歳の女性においてスクリーニングで発見された浸潤がんの約30%および50~59歳の女性においてスクリーニングで発見された浸潤がんの最大20%が過剰診断であったと結論付けた。非浸潤性(in situ)がんを含めると、過剰診断の推定リスクは40~49歳の女性で40%および50~59歳の女性で30%である。過剰診断は、対照群と比較したスクリーニング群において持続する過剰な発生率をスクリーニングで発見された症例数で除したものとして計算された(過剰発生率法)。 この方法を利用して過剰診断を適切に推定するための要件には、以下のものが含まれた:

  1. 試験のスクリーニングプロトコルが完了している場合は、スクリーニング群の参加者はスクリーニングを停止すること。
  2. スクリーニング停止後の追跡は、スクリーニングで発見された症例における最も長いリードタイム(スクリーニングで発見されたがんの確認とスクリーニングが行われなかった場合にそのがんに症状が現れて診断されるまでの間の期間)と同じだけの期間が必要である。
  3. ランダム化試験の対照群と同様に、スクリーニング群におけるスクリーニング中およびスクリーニング停止後のがん発生に対する比較集団は、スクリーニングが実施されていないが同等のがんリスクを有する個人で構成する必要がある。
  4. 試験プロトコルのスクリーニング期間中、スクリーニング群におけるスクリーニングに伴うコンプライアンスは高く、対照群における混合(プロトコル以外のスクリーニング)は低いこと。

カナダ全域で集団ベースのスクリーニングが最短でも2年、ほとんどの場合5~10年後まで利用できなくなったこと(これにより、試験スクリーニング期間後のスクリーニングが中止され、リードタイムのほとんどの推定値よりも長期の追跡が可能となった)、混合は最小限となっていることが証明されていること、および個別のランダム化によって2つの試験群間で44の人口統計学的因子および危険因子がほとんど同じように分散されたことにより、CNBSSではこれらの条件の大部分が満たされた。

1988年における試験スクリーニング期間の終結以降、スクリーニングの質、強度、勧誘された年齢層、生検の閾値における差によって、これらの結果の一般化可能性が低下している。これらの因子および画像検査技術/質の向上および生検に対する低い閾値は、浸潤がんの過剰診断の推定値よりも非浸潤性(in situ)がんの過剰診断の推定値の低下に貢献している可能性が高い。[ 106 ]

上記の表1は、10,000人の女性の10年間にわたるスクリーニングの結果であり、臨床的には決して重要なものとならない(過剰診断)乳がんまたはDCISを有する女性の推定数を示している。旧技術のマンモグラフィおよびCBEを用いたHealth Insurance Plan研究では過剰診断はおそらく認められなかった。改善された技術を用いたマンモグラフィの時代では過剰診断がより顕著になっている。しかしながら、技術の向上により死亡率が元の技術よりさらに低下すると示されたわけではない。要約すると、乳がんの過剰診断は複雑な話題である。多くのさまざまな方法を用いた諸研究により、広範な推定値が報告されており、新たながん症例が過剰診断されたものであるのか、あるいは患者に真に害を及ぼすものであるのかを評価する方法は現在のところ存在しない。[ 87 ]

偽陽性による追加介入

スクリーニングを受診した女性1,000人のうち乳がんがあるのは5人未満であるため、マンモグラフィの特異度を90%としても(すなわち、乳がんのない全女性のうち90%がマンモグラフィの陰性所見を得る)、マンモグラフィの異常所見のほとんどは偽陽性である。[ 62 ]

このようなマンモグラフィの高い偽陽性率は過小評価されており、基準謬論として知られる統計に基づく認知バイアスのために直感に反したものにみえる場合がある。乳がんのベースになる発生率は低い(5/1,000)ため、この偽陽性率は、非常に正確な検査を利用した場合でさえ、真陽性率を大きく上回る。

約90%というマンモグラフィの真陽性率は、乳がんを有する女性のうち約90%が陽性所見を示すということである。90%という真陰性率は、乳がんのない女性のうち、90%が陰性所見を示すということである。1,000人について10%の偽陽性率があるということは、1,000人中100人が偽陽性となるということである。1,000人の女性のうち5人に乳がんがある場合、乳がんを有する女性4.5人が陽性所見を示す。別の言い方をすれば、4.5人の真陽性例ごとに約100例の偽陽性例が生じるということである。

さらに、スクリーニングマンモグラフィの結果が異常であれば、懸念領域のマンモグラフィ、超音波検査、MRI、および組織採取(穿刺吸引法、コア生検、または切除生検による)などの追加の検査や手技が促される。全体として、不要な検査や治療による有害性は、早期発見の有益性に照らして評価する必要がある。

健康維持機構に加入している女性2,400人における乳がんスクリーニング研究では、10年間に88例のがんが診断され、そのうち58例がマンモグラフィで同定されたことが分かった。被験者の3分の1に、追加検査を必要とするマンモグラフィ異常所見が認められて、539人に追加のマンモグラフィ、186人に超音波検査、188人に生検が実施された。マンモグラフィの異常所見による累積生検率(真の陽性率)は、約1/4(23.6%)であった。この母集団におけるスクリーニングマンモグラフィ異常所見でのPPVは、40~49歳の女性で6.3%、50~59歳で6.6%、60~69歳で7.8%であった。[ 107 ]同じ女性コホートから得られたデータの継続解析とモデリングでは、マンモグラフィで少なくとも1回偽陽性となるリスクは、初回マンモグラフィで7.4%(95%CI、6.4%-8.5%)、5回までのマンモグラフィで26.0%(95%CI、24.0%-28.2%)、9回までのマンモグラフィで43.1%(95%CI、36.6%-53.6%)と推定された。[ 108 ]少なくとも1回偽陽性である累積リスクは、4つの患者の変数(比較的年齢が低いこと、以前の乳房生検回数が多いこと、乳がんの家族歴、および現在のエストロゲン使用)と3つのX線の変数(スクリーニングの間隔が長いこと、現在および以前のマンモグラフィの比較を行えないこと、およびマンモグラフィを異常と解釈する放射線科医それぞれの傾向)によって異なった。全体的に見て、偽陽性のマンモグラフィの原因となる最大の因子は、放射線科医それぞれがマンモグラフィを異常と読影する傾向であった。

地域社会ベースのスクリーニングに関する1件のプロスペクティブ・コホート研究により、1年ごとにスクリーニングを受けた女性が10年後に少なくとも1回のスクリーニングで偽陽性を経験する割合は、乳腺密度に関係なく、2年ごとにスクリーニングを受けた女性における割合よりも高いことが明らかにされた。散在性線維腺組織(scattered fibroglandular densities)を有する女性について、40歳代でのこの差は68.9%(1年ごと) vs 46.3%(2年ごと)であった。この乳腺組織を有する集団の50~74歳の女性における差は、49.8%(1年ごと) vs 30.7%(2年ごと)であった。[ 83 ]

表1に示されているように、年1回のスクリーニングマンモグラフィを10年間にわたって受診した女性10,000人のうち、少なくとも1回は検査結果が偽陽性となる女性の推定数は、40~50歳で6,130人、60歳で4,970人である。偽陽性の検査結果が生検実施につながる女性の数は年齢によって700~980人に及ぶと推定されている。[ 87 ]

偽陰性による誤った安心感

マンモグラフィの感度は、読影を行う放射線科医の特徴(経験の程度)および女性の特徴(年齢、乳房密度、ホルモン状態および食事)に応じて、70~90%の幅がある。平均感度を80%と仮定すると、マンモグラムはスクリーニング時に存在している乳がんの約20%を見落とすことになる(偽陰性)。見落とされたこれらのがんの多くが高リスクであり、有害な生物学的特徴を有する。正常なマンモグラムであるために女性または担当医が乳房の症状の評価を中止または延期すると、女性が有害な結果を被る可能性がある。このため、マンモグラフィが陰性であったからといって、女性や担当医は乳房の症状の追加評価を決して中止するべきではない。

不快感

女性の位置決めおよび乳房の圧迫によって動きの人為的結果が減少し、マンモグラムの画像の質が向上する。マンモグラフィを受診した女性の90%が疼痛および/または不快感を報告しており、女性の12%はその感覚を強いまたは耐えられないものと評価した。[ 109 ]マンモグラフィに伴う疼痛および不快感について調査した22件の研究の系統的レビューでは大きなばらつきが認められ、その一部は月経周期の段階、不安、およびマンモグラフィ前の疼痛の予期に関連していた。[ 110 ]

放射線曝露

放射線関連の乳がんの主要危険因子は曝露時の若年齢および線量であるが、まれに放射線誘発性の損傷に対する遺伝的脆弱性を有する女性がおり、この場合はいかなる年齢でも放射線曝露を避ける必要がある。[ 111 ][ 112 ]40歳以上の女性の多くでは、スクリーニングマンモグラフィで得られる可能性のある有益性はリスクを上回る。[ 113 ][ 111 ][ 114 ] 標準2方向スクリーニングマンモグラフィによる乳房に対する曝露の平均線量は4mSvであり、全身に対しては0.29mSvである。[ 112 ][ 115 ]したがって、40歳から80歳まで年1回のマンモグラフィを受けた女性1,000人につき、最大で1件の乳がんが引き起こされる可能性がある。放射線量を増やす必要のある大きな乳房をもつ女性や、追加の撮影を必要とする豊胸を行った女性では、このようなリスクは倍増する。放射線誘発乳がんは、40歳で毎年スクリーニングを開始する場合より、50歳で2年ごとのスクリーニングを開始する女性の方が5倍減らすことができる。[ 116 ]

偽陽性の心理的有害性

スクリーニングマンモグラフィから3ヵ月経過した時点で実施された308人の女性の電話調査法では、追加検査のために呼び戻された女性68人のうち約1/4が、その検査でがんの可能性が否定されたにもかかわらず、その時点でも気分や機能を損なうほどの不安に苛まれていることが明らかになった。[ 117 ]偽陽性の検査結果の心理的影響が長期に及ぶかどうかに関する調査では相反する結果が得られた。2002年のスペインにおけるコホート研究では、偽陽性のマンモグラフィ結果を受け取った後の女性に対する即時の心理的影響が明らかにされたが、これらの結果は2~3ヵ月以内に消失した。[ 118 ]偽陽性の検査結果を受けてから数年後の心理的影響を測定した2013年のデンマークにおけるコホート研究では、長期にわたるマイナスの心理的結果が明らかにされた。[ 119 ]数件の研究は、偽陽性の検査結果の評価後の不安が原因となって、その後のスクリーニング検査への参加が増大したことを示している。[ 120 ][ 121 ][ 122 ][ 123 ]

経済的負担と機会費用

スクリーニングのこのような潜在的有害性については十分な研究が行われていないが、それらが存在することは明らかである。

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その他の画像検査法:超音波検査、磁気共鳴画像法(MRI)、サーモグラフィ

超音波検査

超音波検査は、初回スクリーニング方法としての実施ではなく、触知可能な腫瘤またはマンモグラフィにより確認された腫瘤の診断的評価に使用される。乳がんスクリーニングに関するヨーロッパグループ(European Group for Breast Cancer Screening)による文献と専門家の見解の見直しでは、「あらゆる年齢において、集団乳がんスクリーニングへの超音波検査の使用を支持する証拠はほとんどない」という結論に達している。[ 1 ]Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial(J-START)は、マンモグラフィと超音波検査によるスクリーニング(介入群)またはマンモグラフィのみによるスクリーニング(対照群)に40~49歳の女性をランダムに割り付けたスクリーニング試験である。この試験の最初の結果では、超音波検査による補助的スクリーニング(すなわち、マンモグラフィ+超音波検査vsマンモグラフィ単独)が早期乳がんの検出率を増加させたことが示されたが、死亡率に対する影響は現時点では明らかではない。[ 2 ]

乳房のMRI

乳房のMRIは、シリコンインプラントの完全性評価、手術後または放射線療法後の触知可能な腫瘤の査定、腋窩リンパ節転移のある女性におけるマンモグラフィまたは超音波検査によって存在を示唆された潜伏乳がんの発見、既知の乳がんを有する患者に対する術前計画などの診断的評価のために女性に用いられる。この手技によって電離放射線に曝露することはない。BRCA1/2突然変異キャリア、乳がんの強い家族歴、またはリー-フラウメニ症候群やコーデン症候群などいくつかの遺伝的症候群に基づいて、乳がんリスクが高い女性における乳がんのスクリーニング検査としてMRIが奨励されている。[ 3 ][ 4 ][ 5 ]乳房のMRIはスクリーニングマンモグラフィよりも感度は高いものの特異度は低く[ 6 ][ 7 ]、費用は最大35倍高い。[ 8 ][ 9 ][ 10 ][ 11 ][ 12 ]

サーモグラフィ

赤外線画像技術を用いる乳房サーモグラフィは、皮下に存在する腫瘍の潜在的指標として皮膚の温度変化を検知し、色分けしてその変化を表示する。サーモグラフィ装置は米国食品医薬品局により510(k)の下、承認されているものだが、サーモグラフィを他のスクリーニング法を比較したランダム化試験は行われていない。複数の小規模コホート研究では、サーモグラフィを補助診断法として使用することに関する追加の有益性は何も示唆されていない。[ 13 ][ 14 ]

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  4. Kriege M, Brekelmans CT, Boetes C, et al.: Efficacy of MRI and mammography for breast-cancer screening in women with a familial or genetic predisposition. N Engl J Med 351 (5): 427-37, 2004.[PUBMED Abstract]
  5. Warner E, Hill K, Causer P, et al.: Prospective study of breast cancer incidence in women with a BRCA1 or BRCA2 mutation under surveillance with and without magnetic resonance imaging. J Clin Oncol 29 (13): 1664-9, 2011.[PUBMED Abstract]
  6. Lord SJ, Lei W, Craft P, et al.: A systematic review of the effectiveness of magnetic resonance imaging (MRI) as an addition to mammography and ultrasound in screening young women at high risk of breast cancer. Eur J Cancer 43 (13): 1905-17, 2007.[PUBMED Abstract]
  7. Lehman CD, Gatsonis C, Kuhl CK, et al.: MRI evaluation of the contralateral breast in women with recently diagnosed breast cancer. N Engl J Med 356 (13): 1295-303, 2007.[PUBMED Abstract]
  8. Pataky R, Armstrong L, Chia S, et al.: Cost-effectiveness of MRI for breast cancer screening in BRCA1/2 mutation carriers. BMC Cancer 13: 339, 2013.[PUBMED Abstract]
  9. Saadatmand S, Tilanus-Linthorst MM, Rutgers EJ, et al.: Cost-effectiveness of screening women with familial risk for breast cancer with magnetic resonance imaging. J Natl Cancer Inst 105 (17): 1314-21, 2013.[PUBMED Abstract]
  10. Ahern CH, Shih YC, Dong W, et al.: Cost-effectiveness of alternative strategies for integrating MRI into breast cancer screening for women at high risk. Br J Cancer 111 (8): 1542-51, 2014.[PUBMED Abstract]
  11. Pistolese CA, Ciarrapico AM, della Gatta F, et al.: Inappropriateness of breast imaging: cost analysis. Radiol Med 118 (6): 984-94, 2013.[PUBMED Abstract]
  12. Cott Chubiz JE, Lee JM, Gilmore ME, et al.: Cost-effectiveness of alternating magnetic resonance imaging and digital mammography screening in BRCA1 and BRCA2 gene mutation carriers. Cancer 119 (6): 1266-76, 2013.[PUBMED Abstract]
  13. Wishart GC, Campisi M, Boswell M, et al.: The accuracy of digital infrared imaging for breast cancer detection in women undergoing breast biopsy. Eur J Surg Oncol 36 (6): 535-40, 2010.[PUBMED Abstract]
  14. Arora N, Martins D, Ruggerio D, et al.: Effectiveness of a noninvasive digital infrared thermal imaging system in the detection of breast cancer. Am J Surg 196 (4): 523-6, 2008.[PUBMED Abstract]
画像検査以外のスクリーニング法

乳房視触診

乳がん死亡率に対するスクリーニングのための乳房視触診(CBE)の影響は十分に確立されていない。Canadian National Breast Screening Study(CNBSS)は、50~59歳の女性を対象に高品質のCBEとマンモグラフィの併用をCBE単独と比較した。1乳房当たり5~10分間行うCBEは、診療の質を定期的に評価されている熟練した医療専門家が行った。がん診断の頻度、病期、中間期がんおよび乳がん死亡率は、両群間ではほぼ同じであり、マンモグラフィ単独での転帰と同様であった。[ 1 ]平均13年の追跡で、乳がん死亡率は、両群間でほぼ同じであった(死亡率比、1.02;95%信頼区間[CI]、0.78-1.33)。[ 2 ]研究者らは、CBE単独について作業特性を推測した;50~59歳の女性19,965人では、試験開始から1、2、3、4、および5年の感度はそれぞれ83%、71%、57%、83%、および77%であり、特異度は88%と96%の間に分布した。陽性適中率(PPV)とは、検査で異常を認めた件数に対する検知されたがんの割合を示し、3~4%と推定された。登録時にのみ検査を受けた40~49歳の女性25,620人について、推定感度は71%、特異度は84%、PPVは1.5%であった。[ 3 ]

地域の臨床医を対象とした臨床試験では、CBE型のスクリーニングは、検査者が経験したよりも特異度が高く(97~99%)[ 4 ]、感度は低かった(22~36%)。[ 5 ][ 6 ][ 7 ][ 8 ]乳がん家族歴のある女性における1件のスクリーニング研究では、通常の初期評価の後、患者自身または担当医が実施するCBEの方がマンモグラフィより多くのがんを同定したことが示された。[ 9 ]

別の研究では、スクリーニングマンモグラフィにCBEを追加する方法の有用性が調査された;マンモグラフィおよびCBEによるスクリーニングを受けた40歳を超える女性61,688人において、マンモグラフィの感度は78%、マンモグラフィとCBEの併用した場合の感度は82%であった。両方のスクリーニング法を受けた女性は、マンモグラフィ単独を受けた女性よりも特異度が低かった(97% vs 99%)。[ 10 ]CBEに関する他の国際的試験がインドで2件およびエジプトで1件進行中である。

乳房自己検査(BSE)

月1回のBSEが奨励されているが、乳がん死亡率を低下させるという証拠はない。[ 11 ][ 12 ]唯一のBSEの大規模ランダム化臨床試験では、上海の工場勤務者の女性266,064人を、BSEの指導、強化、奨励群、または背中下部の痛みの予防に関する指導の群に割り付けた。両群とも他の方法による乳がんスクリーニングは受けなかった。10~11年間の追跡調査の後、指導群の乳がん死は135例、対照群では131例であった(相対リスク[RR]、1.04;95%CI、0.82-1.33)。両群における浸潤性乳がんの診断例はほぼ同数であったが、指導群では、胸部生検を受けた症例と良性病変が診断された症例が対照群の症例よりも多かった。[ 13 ]

BSEに関する他の研究結果が3件の試験から得られている。第一に、レニングラードの10万人以上の女性がBSEトレーニング群または対照群にクラスターランダム化により割り付けられた;BSEトレーニング群では乳房生検の実施が多かったが、乳がん死亡率の改善はみられなかった。[ 14 ]第二に、英国の乳がん早期発見試験(United Kingdom Trial of Early Detection of Breast Cancer)では、45~64歳の女性63,500人以上がBSEの講習会に招かれた。10年間の追跡後、乳がん死亡率は組織的なBSE教育を実施しなかった施設の死亡率と同様であった(RR、1.07;95%CI、0.93-1.22)。[ 15 ]第三に、対照的に、CNBSS内ネステッドケースコントロール研究では、登録前の自己申告によるBSE実践頻度と乳がん死亡率とが比較された。自分の乳房を視覚的にチェックして、指球と示指、中指、薬指の3本の指で腫瘤の有無を調べた女性の方が、乳がん死亡率が低かった。[ 16 ]

組織採取(穿刺吸引法、乳頭吸引法、乳管洗浄法)

乳がんのスクリーニング方法として、悪性腫瘍が乳房組織にないかを分析するためのさまざまな方法が提唱されているが、死亡率の低下と関連することが示されているものはない。

参考文献
  1. Baines CJ: The Canadian National Breast Screening Study: a perspective on criticisms. Ann Intern Med 120 (4): 326-34, 1994.[PUBMED Abstract]
  2. Miller AB, To T, Baines CJ, et al.: Canadian National Breast Screening Study-2: 13-year results of a randomized trial in women aged 50-59 years. J Natl Cancer Inst 92 (18): 1490-9, 2000.[PUBMED Abstract]
  3. Baines CJ, Miller AB, Bassett AA: Physical examination. Its role as a single screening modality in the Canadian National Breast Screening Study. Cancer 63 (9): 1816-22, 1989.[PUBMED Abstract]
  4. Fenton JJ, Rolnick SJ, Harris EL, et al.: Specificity of clinical breast examination in community practice. J Gen Intern Med 22 (3): 332-7, 2007.[PUBMED Abstract]
  5. Fenton JJ, Barton MB, Geiger AM, et al.: Screening clinical breast examination: how often does it miss lethal breast cancer? J Natl Cancer Inst Monogr (35): 67-71, 2005.[PUBMED Abstract]
  6. Bobo JK, Lee NC, Thames SF: Findings from 752,081 clinical breast examinations reported to a national screening program from 1995 through 1998. J Natl Cancer Inst 92 (12): 971-6, 2000.[PUBMED Abstract]
  7. Oestreicher N, White E, Lehman CD, et al.: Predictors of sensitivity of clinical breast examination (CBE). Breast Cancer Res Treat 76 (1): 73-81, 2002.[PUBMED Abstract]
  8. Kolb TM, Lichy J, Newhouse JH: Comparison of the performance of screening mammography, physical examination, and breast US and evaluation of factors that influence them: an analysis of 27,825 patient evaluations. Radiology 225 (1): 165-75, 2002.[PUBMED Abstract]
  9. Gui GP, Hogben RK, Walsh G, et al.: The incidence of breast cancer from screening women according to predicted family history risk: Does annual clinical examination add to mammography? Eur J Cancer 37 (13): 1668-73, 2001.[PUBMED Abstract]
  10. Oestreicher N, Lehman CD, Seger DJ, et al.: The incremental contribution of clinical breast examination to invasive cancer detection in a mammography screening program. AJR Am J Roentgenol 184 (2): 428-32, 2005.[PUBMED Abstract]
  11. Baxter N; Canadian Task Force on Preventive Health Care: Preventive health care, 2001 update: should women be routinely taught breast self-examination to screen for breast cancer? CMAJ 164 (13): 1837-46, 2001.[PUBMED Abstract]
  12. Humphrey LL, Helfand M, Chan BK, et al.: Breast cancer screening: a summary of the evidence for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med 137 (5 Part 1): 347-60, 2002.[PUBMED Abstract]
  13. Thomas DB, Gao DL, Ray RM, et al.: Randomized trial of breast self-examination in Shanghai: final results. J Natl Cancer Inst 94 (19): 1445-57, 2002.[PUBMED Abstract]
  14. Semiglazov VF, Moiseyenko VM, Bavli JL, et al.: The role of breast self-examination in early breast cancer detection (results of the 5-years USSR/WHO randomized study in Leningrad). Eur J Epidemiol 8 (4): 498-502, 1992.[PUBMED Abstract]
  15. Ellman R, Moss SM, Coleman D, et al.: Breast cancer mortality after 10 years in the UK trial of early detection of breast cancer. UK Trial of Early Detection of Breast Cancer Group. The Breast 2 (1): 13-20, 1993.[PUBMED Abstract]
  16. Harvey BJ, Miller AB, Baines CJ, et al.: Effect of breast self-examination techniques on the risk of death from breast cancer. CMAJ 157 (9): 1205-12, 1997.[PUBMED Abstract]
ランダム化比較試験の付録

1963年、Health Insurance Plan、米国 [ 1 ][ 2 ]

1976年 マルメー、スウェーデン[ 3 ][ 4 ]

1977年 エステルイェトランド(County E of Two-County Trial)、スウェーデン[ 6 ][ 7 ][ 8 ]

1977年 コッパルベリ(County W of Two-County Trial)、スウェーデン[ 6 ][ 7 ][ 8 ]

1976年 エジンバラ、英国[ 10 ]

この研究デザインおよび運営方法によって、これらの試験結果の評価が、また結果を他の試験結果と合わせることが難解になる。

1980年 カナダ全国乳がんスクリーニング研究(National Breast Screening Study[NBSS])-1、カナダ[ 11 ]

1980年 NBSS-2、カナダ [ 15 ]

1981年 ストックホルム、スウェーデン[ 16 ]

1982年 Gothenberg、スウェーデン

AGE Trial[ 17 ][ 18 ]

追跡期間中央値17.7年での乳がん死亡率の低下は、死亡1,000例当たり0.1例(または10,000例当たり1例)の絶対リスク低下に相当する。

39~49歳の女性におけるスクリーニングマンモグラフィ開始によって乳がん死亡率が臨床的に有意に低下するという結論を支持するには、この証拠は不十分である。標準以外の画像検査スケジュール、標準以外の画像検査プロトコル、および生検に対する標準以外の閾値に基づくと、報告された乳がん死亡率の低下は非常に小さく一過性の低下である;したがって、一般集団との関連は不明である。絶対的には、これは死亡1,000例当たり0.1例(または10,000例当たり1例)の絶対リスク低下に相当する。また、この死亡率の低下は統計的に有意でなかった元のデータセットの再解析に基づいており、サブグループの乳がん死亡率の再計算は10年間の追跡に限定されていた。20年の追跡期間で、乳がんのリスクまたは全原因死亡率における統計的に有意な低下は認められなかった。[ 18 ]

過剰診断の大きさを明確に判断するには、証拠が不十分である。証拠がサブグループ解析と標準以外の画像検査スケジュール、標準以外の画像検査プロトコル、および生検に対する標準以外の閾値に基づいており、一般集団との関連が不明であるため、「最悪の場合でもわずかな過剰診断」という研究者の結論は支持されない。[ 18 ]

参考文献
  1. Shapiro S, Venet W, Strax P, et al.: Ten- to fourteen-year effect of screening on breast cancer mortality. J Natl Cancer Inst 69 (2): 349-55, 1982.[PUBMED Abstract]
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  5. Nyström L, Andersson I, Bjurstam N, et al.: Long-term effects of mammography screening: updated overview of the Swedish randomised trials. Lancet 359 (9310): 909-19, 2002.[PUBMED Abstract]
  6. Tabár L, Fagerberg CJ, Gad A, et al.: Reduction in mortality from breast cancer after mass screening with mammography. Randomised trial from the Breast Cancer Screening Working Group of the Swedish National Board of Health and Welfare. Lancet 1 (8433): 829-32, 1985.[PUBMED Abstract]
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  8. Tabar L, Fagerberg G, Duffy SW, et al.: The Swedish two county trial of mammographic screening for breast cancer: recent results and calculation of benefit. J Epidemiol Community Health 43 (2): 107-14, 1989.[PUBMED Abstract]
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  10. Roberts MM, Alexander FE, Anderson TJ, et al.: Edinburgh trial of screening for breast cancer: mortality at seven years. Lancet 335 (8684): 241-6, 1990.[PUBMED Abstract]
  11. Miller AB, To T, Baines CJ, et al.: The Canadian National Breast Screening Study-1: breast cancer mortality after 11 to 16 years of follow-up. A randomized screening trial of mammography in women age 40 to 49 years. Ann Intern Med 137 (5 Part 1): 305-12, 2002.[PUBMED Abstract]
  12. Bailar JC, MacMahon B: Randomization in the Canadian National Breast Screening Study: a review for evidence of subversion. CMAJ 156 (2): 193-9, 1997.[PUBMED Abstract]
  13. Baines CJ, Miller AB, Kopans DB, et al.: Canadian National Breast Screening Study: assessment of technical quality by external review. AJR Am J Roentgenol 155 (4): 743-7; discussion 748-9, 1990.[PUBMED Abstract]
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  15. Miller AB, Baines CJ, To T, et al.: Canadian National Breast Screening Study: 2. Breast cancer detection and death rates among women aged 50 to 59 years. CMAJ 147 (10): 1477-88, 1992.[PUBMED Abstract]
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  17. Moss SM, Cuckle H, Evans A, et al.: Effect of mammographic screening from age 40 years on breast cancer mortality at 10 years' follow-up: a randomised controlled trial. Lancet 368 (9552): 2053-60, 2006.[PUBMED Abstract]
  18. Moss SM, Wale C, Smith R, et al.: Effect of mammographic screening from age 40 years on breast cancer mortality in the UK Age trial at 17 years' follow-up: a randomised controlled trial. Lancet Oncol 16 (9): 1123-32, 2015.[PUBMED Abstract]
本要約の変更点(04/29/2020)

PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。

その他の画像検査法:超音波検査、磁気共鳴画像法(MRI)、サーモグラフィ

本文で以下の記述が改訂された;Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial(J-START)試験の最初の結果では、超音波検査による補助的スクリーニング(すなわち、マンモグラフィ+超音波検査vsマンモグラフィ単独)が早期乳がんの検出率を増加させたことが示されたが、死亡率に対する影響は現時点では明らかではない。

本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。

本PDQ要約について

本要約の目的

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、乳がんのスクリーニングについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

査読者および更新情報

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:

要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。

本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。

証拠レベル

本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。The PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。

本要約の使用許可

PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。

本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:

PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Breast Cancer Screening.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/breast/hp/breast-screening-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389344]

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