ご利用について
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、乳がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- リスクのある個人
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女性であることに加えて、加齢は乳がんの最大の危険因子である。閉経後のエストロゲン-プロゲステロンホルモンの併用と同様に、早期初潮や遅発閉経といった内因性エストロゲンへの曝露を増加させる生殖因子もリスクを増大させる。未経産および飲酒もまた、リスク増加に関連している。
浸潤性乳がんの家族歴または個人歴を有する女性、非浸潤性(in situ)乳管がんまたは非浸潤性(in situ)小葉がんの女性、または乳房生検で良性増殖性病変が明らかになった経歴をもつ女性は、乳がんのリスクが高い。[ 1 ][ 2 ][ 3 ][ 4 ]
高い乳腺密度はリスク増加に関連している。高い乳腺密度はしばしば遺伝性の特性であるが、未経産婦、最初の妊娠が遅い女性、閉経後にホルモン療法を受けており、飲酒習慣のある女性においても比較的頻繁にみられる。
特に思春期や若年成人期の電離放射線への曝露、および有害な遺伝子突然変異の遺伝は乳がんリスクを増大させる。
参考文献- Kotsopoulos J, Chen WY, Gates MA, et al.: Risk factors for ductal and lobular breast cancer: results from the nurses' health study. Breast Cancer Res 12 (6): R106, 2010.[PUBMED Abstract]
- Goldacre MJ, Abisgold JD, Yeates DG, et al.: Benign breast disease and subsequent breast cancer: English record linkage studies. J Public Health (Oxf) 32 (4): 565-71, 2010.[PUBMED Abstract]
- Kabat GC, Jones JG, Olson N, et al.: A multi-center prospective cohort study of benign breast disease and risk of subsequent breast cancer. Cancer Causes Control 21 (6): 821-8, 2010.[PUBMED Abstract]
- Worsham MJ, Raju U, Lu M, et al.: Risk factors for breast cancer from benign breast disease in a diverse population. Breast Cancer Res Treat 118 (1): 1-7, 2009.[PUBMED Abstract]
- 概要
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注:乳がんのスクリーニング;乳がんの治療(成人);男性の乳がんの治療;妊娠中の乳がんの治療;およびがんのスクリーニング(検診)と予防の研究に関する証拠レベルについては、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。
乳がんリスク増加の十分な証拠がある因子
性別および年齢
固い証拠によると、女性であることと加齢は、乳がん発症に対する主要な危険因子である。
影響の大きさ:女性が乳がんを発症する生涯リスクは男性のリスクの約100倍である。ある70歳の女性における乳がんの短期リスクは、30歳の女性におけるリスクの約10倍である。
遺伝的リスク
固い証拠によると、乳がんの家族歴(特に第一度近親者)を有する女性は、乳がんリスクが高い。
影響の大きさ:罹患した第一度近親者が1人いる場合のリスクは2倍となる;2人の第一度近親者が診断されている場合のリスクは5倍に増加する。
固い証拠によると、乳がんと関連する遺伝子突然変異を受け継いでいる女性はリスクが高い。
影響の大きさ:不定、遺伝子突然変異、家族歴、および遺伝子発現に影響する他の危険因子に依存する。
乳がんリスク増加の十分な証拠がある修正可能な因子
併用ホルモン療法
固い証拠によると、併用ホルモン療法(HT)(エストロゲン-プロゲスチン)は、乳がん発生のリスク増加と関連している。
影響の大きさ:浸潤性乳がんの発生率の約26%の増加;過剰な乳がん1例を発生させるために必要となる数は237人である。
電離放射線
固い証拠によると、胸部の電離放射線への曝露は、曝露から10年後に始まり生涯にわたって持続する乳がん発生リスク増加の原因となる。リスクは放射線量および曝露時の年齢によって異なり、特に乳房が発達する思春期中に曝露する場合にリスクが高くなる。
影響の大きさ:不定であるが、全体で約6倍の増加。
肥満
固い証拠によると、肥満は、ホルモン療法の使用経験がない閉経後女性における乳がんリスク増加と関連している。肥満女性における体重の減少が乳がんリスクを低下させるかどうかは不明である。
影響の大きさ:閉経後女性85,917人を対象にしたWomen's Health Initiative観察研究により、体重は乳がんと関連していることが明らかにされた。体重が58.7kg未満の女性と82.2kgを超える女性を比較すると、RRは2.85(95%信頼区間[CI]、1.81-4.49)であった。
アルコール
固い証拠によると、飲酒は用量依存的に乳がんリスク増加と関連している。ヘビードリンカーによる飲酒の減量がリスクを低下させるかどうかは不明である。
影響の大きさ:1日に約4杯飲酒する女性のRRは、飲酒しない女性と比べて1.32(95%CI、1.19-1.45)である。RRは1日当たり1杯ごとに7%(95%CI、5.5~8.7%)増加する。
乳がんリスク低下の十分な証拠がある因子
早期妊娠
固い証拠によると、20歳以前に満期産を経験する女性では乳がんリスクが低い。
影響の大きさ:未産婦または35歳を過ぎて出産する女性と比較して50%の乳がん減少。
授乳
固い証拠によると、母乳哺育をする女性は乳がんリスクが低い。
影響の大きさ:乳がんの相対リスクは各出産に対する7%の低下に加えて、12ヵ月間の授乳ごとに4.3%低下する。
運動
固い証拠によると、1週間に4時間以上の精力的な運動は乳がんリスクの減少と関連している。
影響の大きさ:RR減少の平均は30~40%である。影響は、体重が正常または軽い閉経前女性で最大であろう。
以前に子宮摘出術を受けた女性によるエストロゲン使用:有益性
中等度の証拠によると、以前に子宮摘出術を受けており、抱合型ウマエストロゲンで治療されている女性では乳がんの発生率が低い。しかしながら、疫学研究では結果が矛盾している。
影響の大きさ:1件のRCTにおける6.8年後の発生率は、エストロゲンによる治療を受けた女性の方が23%低かった(中央値5.9年の使用で年当たり0.27%であったのに対し、プラセボ投与群では年当たり0.35%)が、1件の観察研究ではエストロゲンによる治療を受けた女性の方が発生率が30%高かった。これらの結果の相違は、これらの研究の女性によるスクリーニング行動の違いで説明できる可能性がある。
以前に子宮摘出術を受けた女性によるエストロゲン使用:有害性
固い証拠によると、子宮摘出術を受けており、閉経後にエストロゲン投与を受けている女性では、脳卒中および全心血管疾患のリスクが高い。
影響の大きさ:脳卒中発生率が39%増加し(RR、1.39;95%CI、1.1-1.77)、心血管疾患は12%増加する(RR、1.12;95%CI、1.01-1.24)。
乳がんリスク低下の十分な証拠がある介入
選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM):有益性
固い証拠によると、タモキシフェンおよびラロキシフェンは閉経後女性における乳がん発生率を低下させ、タモキシフェンはリスクが高い閉経前女性における乳がんリスクを低下させる。タモキシフェンおよびラロキシフェンについて、積極的な治療の中止後、数年間効果が持続することが示されており、ラロキシフェンよりもタモキシフェンの方が効果の持続期間が長い。[ 4 ]
主にラロキシフェンについて、SERMによりすべての骨折が減少したが、タモキシフェンでの減少はみられなかった。椎骨骨折の減少(34%の低下)および椎骨以外の骨折の小規模の減少(7%)が示された。[ 4 ]
影響の大きさ:タモキシフェンでは、高リスク女性におけるエストロゲン受容体陽性(ER陽性)乳がんおよび非浸潤性(in situ)乳管がん(DCIS)の発生率が5年間の治療で約30~50%低下した。ER陽性の浸潤性乳がんの減少は、少なくとも治療開始の16年後(タモキシフェン中止の11年後)まで維持された。乳がんの死亡率に影響はみられなかった。[ 5 ]
選択的エストロゲン受容体モジュレータ:有害性
固い証拠によると、タモキシフェンは、子宮内膜がん、血栓症(すなわち、肺塞栓症、脳卒中、および深部静脈血栓)、および白内障のリスクを増大させる。子宮内膜がんのリスクは、タモキシフェン中止後5年間持続するが、血管イベントまたは白内障のリスクは持続しない。固い証拠によると、ラロキシフェンもまた肺静脈塞栓症および深部静脈血栓を増やすが、子宮内膜がんを増やすわけではない。
影響の大きさ:メタアナリシスでは、子宮内膜がんについては2.4(95%CI、1.5-4.0)、静脈血栓塞栓性イベントについては1.9(95%CI、1.4-2.6)のRRが示された。メタアナリシスで、子宮内膜がんに対するハザード比(HR)はタモキシフェンが2.18(95%CI、1.39-3.42)で、ラロキシフェンが1.09(95%CI、0.74-1.62)であったことが示された。全体として、静脈塞栓性イベントのHRは1.73(95%CI、1.47-2.05)であった。50歳を超える女性の有害性はそれより若年の女性の有害性よりも有意に高かった。
アロマターゼ阻害剤または不活化物質:有益性
固い証拠によると、リスクが高い閉経後女性では、アロマターゼ阻害薬またはアロマターゼ不活化物質(AI)により乳がんの発生が減少する。
影響の大きさ:追跡期間中央値35ヵ月後、危険因子(60歳以上、またはゲイル5年リスクが1.66%を超えるか、DCISで乳房切除していること)が1つ以上あり、毎日エキセメスタン25mgを服用した35歳以上の女性では、対照と比較して浸潤性乳がんのリスクが低下した(HR、0.35;95%CI、0.18-0.70)。絶対リスク減少は、2,280人の参加者の中で、がんが避けられたのは35ヵ月で21人であった。治療必要数は約100例であった。[ 6 ]
アロマターゼ阻害剤または不活化物質:有害性
4,560人の女性を対象とした35ヵ月にわたる単一のRCTによる中等度の証拠によると、エキセメスタンはプラセボと比較して、ほてりおよび疲労を伴う。[ 6 ][ 7 ]
影響の大きさ:ほてりの絶対的増加は8%、疲労の絶対的増加は2%であった。
予防的乳房切除術:有益性
固い証拠によると、予防的両側乳房切除は、強い家族歴を有する女性における乳がんリスクを減少させ、ほとんどの女性で乳がんのリスクに関する不安が軽減する。同側乳がんに対する手術後に対側乳房の予防的切除を受ける女性における乳がんの転帰について調査している研究はない。
影響の大きさ:リスクが高い女性における予防的両側乳房切除後の乳がんリスクは、90%もの大幅な減少を示す可能性がある。
予防的卵巣摘出術または卵巣機能抑制:有益性
固い証拠によると、BRCA遺伝子変異を有する閉経前女性における予防的卵巣摘出術は、乳がん発生率低下と関連している。正常な閉経前女性および胸部照射を受けたことで乳がんリスクが高まった女性において、卵巣機能抑制および卵巣摘出術では同様な結果がみられる。
影響の大きさ:乳がん発生率は最大50%減少する可能性がある。
予防的卵巣摘除術または卵巣機能排除:有害性
固い証拠によると、去勢術は、ほてり、不眠、不安、うつ病など更年期症状の突然の発症を引き起こしうる。長期的影響としては、性欲減退、膣乾燥、骨塩密度減少などが挙げられる。
影響の大きさ:ほとんどすべての女性が何らかの睡眠障害、気分の変化、ほてり、および骨の無機質減少を経験するが、これらの症状の重症度には大きな幅がある。
参考文献- Boyd NF, Martin LJ, Rommens JM, et al.: Mammographic density: a heritable risk factor for breast cancer. Methods Mol Biol 472: 343-60, 2009.[PUBMED Abstract]
- McCormack VA, dos Santos Silva I: Breast density and parenchymal patterns as markers of breast cancer risk: a meta-analysis. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev 15 (6): 1159-69, 2006.[PUBMED Abstract]
- Col: Breast cancer and breastfeeding: collaborative reanalysis of individual data from 47 epidemiological studies in 30 countries, including 50302 women with breast cancer and 96973 women without the disease. Lancet 360 (9328): 187-95, 2002.[PUBMED Abstract]
- Cuzick J, Sestak I, Bonanni B, et al.: Selective oestrogen receptor modulators in prevention of breast cancer: an updated meta-analysis of individual participant data. Lancet 381 (9880): 1827-34, 2013.[PUBMED Abstract]
- Cuzick J, Sestak I, Cawthorn S, et al.: Tamoxifen for prevention of breast cancer: extended long-term follow-up of the IBIS-I breast cancer prevention trial. Lancet Oncol 16 (1): 67-75, 2015.[PUBMED Abstract]
- Goss PE, Ingle JN, Alés-Martínez JE, et al.: Exemestane for breast-cancer prevention in postmenopausal women. N Engl J Med 364 (25): 2381-91, 2011.[PUBMED Abstract]
- Maunsell E, Goss PE, Chlebowski RT, et al.: Quality of life in MAP.3 (Mammary Prevention 3): a randomized, placebo-controlled trial evaluating exemestane for prevention of breast cancer. J Clin Oncol 32 (14): 1427-36, 2014.[PUBMED Abstract]
- 証拠の記述
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発生率および死亡率
米国女性で、乳がんは最も多く診断される非皮膚悪性腫瘍で、女性におけるがん死亡が肺がんに次いで2番目である。[ 1 ]2020年の米国集団での推定値では、276,480人の女性が乳がんと診断され、本疾患により42,170人が死亡し、2,620人の男性が乳がんと診断され、本疾患により520が死亡する。[ 1 ]女性における乳がん発生率は、2000年初期に閉経後ホルモン療法の使用低下と同時に急激に減少するまで、長年にわたり徐々に増加してきた。[ 2 ]Surveillance, Epidemiology and End Results(SEER)プログラムのデータによると、2013年から2017年までの乳がん死亡率は、毎年1.3%低下している。[ 1 ]
乳がんの主要な危険因子は加齢である。ある30歳の女性が次の10年間に乳がんと診断される可能性は250人に1人である一方、70歳の女性では27人に1人である。[ 3 ]
乳がんの発生率および死亡率は、地理、文化、人種、民族、および社会経済的状態によっても変化する。白人女性では乳がん発生率が高く、これは部分的にスクリーニング行動に起因している可能性がある。しかしながら、黒人女性における乳がんの発生率は、2005年から2014年の間に1年当たり0.3%増加しているため、これらの両群での発生率は現在同程度である。[ 1 ][ 4 ]
マンモグラフィを用いたスクリーニングでは、早期の段階で症例を同定し治療することにより、乳がん死亡率が低下する。しかしながら、スクリーニングはまた、女性の生涯の間に症候性となるよりも多くの症例を同定するため、スクリーニングによって乳がん発生率が高くなる。(詳しい情報については、乳がんのスクリーニングに関するPDQ要約の過剰診断のセクションを参照のこと。)
乳がんの病因と発生機序
一連の遺伝子突然変異が起こると、乳がんが発生する。[ 5 ]一部のがん関連変異は遺伝するが、ほとんどは、女性の生涯でランダムイベントとして発生する体細胞変異である。当初の突然変異は組織の組織学的外観を変化させないが、突然変異が蓄積することで、過形成、異形成、非浸潤性(in situ)がん、そして最終的には浸潤がんに至る。[ 6 ]女性が長く生きるほど、それだけ多くの体細胞変異が発生し、こうした変異が最終的に悪性腫瘍になることがある細胞の集団を生み出す可能性が高い。エストロゲンおよびプロゲスチンホルモンは、内因性であるか外因性であるかにかかわらず、おそらく形質転換増殖因子(TGF)-αのような増殖因子を通して乳腺細胞の成長および増殖を刺激する。[ 7 ]これらのホルモンによる刺激は、乳がん細胞の発生および増殖を促進する可能性がある。
乳がん罹患率の国際的相違は、遺伝学、生殖因子、食事、運動、およびスクリーニング行動の差で説明できる可能性がある。これらの因子の相対的重要度は、米国へ移民した日本人の乳がん発生率に関する研究で実証された。日本に在住する日本人女性では乳がんの発生率が低いが、2つの移民世代内で米国に在住する日本人女性では乳がんの発生率がはるかに高く、米国人女性と同程度である。[ 8 ][ 9 ][ 10 ]
内因性エストロゲン
内因性エストロゲンは乳がんの発生に関与している。11歳以下で初潮を迎えた女性は、14歳以上で初潮を迎えた女性よりも乳がん発生の確率が約20%高い。[ 11 ][ 12 ][ 13 ]遅発閉経の女性もまたリスクが高い。乳がんを発生する女性は、エストロゲンおよびアンドロゲンの内因性レベルがより高い傾向がある。[ 13 ][ 14 ][ 15 ][ 16 ][ 17 ]
これとは逆に、早発閉経を経験する女性は、乳がんのリスクが比較的低い。卵巣機能抑制後には、乳がんリスクは年齢、体重、出産歴に応じて75%も低下し、若年、痩せ型、未産婦で最も低下する。[ 18 ][ 19 ][ 20 ][ 21 ]一側卵巣切除も乳がんリスクを低下させるが、その程度はより小さい。[ 22 ]
その他のホルモンの変化もまた乳がんリスクに影響する。(詳しい情報については、本要約の乳がんリスク低下の十分な証拠がある因子のセクションの早期妊娠および授乳のサブセクションを参照のこと。)
内因性エストロゲンレベル、インスリン濃度、および肥満-いずれも乳がんリスクに影響する-の相互作用についてはほとんど解明されていないが、リスクを低下させるための介入戦略が示唆されている。生殖に関わる危険因子は、罹患しやすい遺伝子型と相互に影響を及ぼすようである。例えば、Nurses' Health Studyでは[ 23 ]、初産、初潮、閉経の年齢と乳がん発生との間の相関は、母親または姉妹に乳がん家族歴を認めない女性においてのみ観察された。
遺伝的リスク
乳がんリスクは、家族歴(特に複数の第一度近親者が罹患している場合)のある女性で高くなる。[ 23 ]データベース、コホート研究、およびケースコントロール研究から導き出された以下のリスク評価モデルにより、このリスクが定量化される:
特定のアレル異常は約5%の乳がんに関連する。(詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)BRCA遺伝子における変異は常染色体優性の形式で遺伝し、しばしば比較的若い年齢でがんを引き起こす浸透度が高い。[ 24 ][ 25 ][ 26 ]家族歴およびBRCA1またはBRCA2遺伝子内の変異部位が、乳がんの遺伝的素因をもつ女性におけるがん発生リスクに寄与している可能性がある。[ 27 ]乳がんの生涯リスクは、BRCA1変異キャリアで55~65%で、BRCA2変異キャリアで45~47%である。[ 28 ][ 29 ]これに対して、一般集団における乳がんの生涯リスクは12.4%である。[ 30 ]
乳がんリスクを増加させる突然変異原または増殖因子に対する感受性を受け継ぐ女性もいる。[ 31 ][ 32 ](詳しい情報については、本要約の乳がんリスク増加の十分な証拠がある因子のセクションの電離放射線曝露のサブセクションを参照のこと。)
高い乳腺密度
スクリーニングマンモグラムが広く用いられるようになって、乳房組織の密度における大きなバラツキが実証されている。組織が濃く映る割合が高い女性は乳がんの発生率が高い。マンモグラフィでの組織の濃さも、マンモグラムによるがんの同定を混乱させる。マッチさせた1,112組のケースコントロールペアを用いてスクリーニング受診集団を対象にした3件のネステッドケースコントロール研究の報告で、リスク増加の程度が記述された。密度が乳房組織の10%未満の女性と比較して、密度が乳房の75%以上の女性はがんがスクリーニングで発見される(OR、3.5;95%CI、2.0-6.2)か、またはスクリーニング検査で陰性であった後12ヵ月以内に発見される(OR、17.8;95%CI、4.8-65.9)かにかかわらず、乳がんのリスクが高かった(オッズ比[OR]、4.7;95%信頼区間[CI]、3.0-7.4)。発見がスクリーニングか他の方法によるかは関係なく、乳がんリスクの増加は研究登録後、少なくとも8年間は持続し、高齢の女性よりも若年の女性で高かった。年齢中央値56歳よりも若い女性について、すべての乳がんの26%およびスクリーニング検査で陰性であった後12ヵ月以内に発見されたがんの50%が、マンモグラフィの乳腺密度が50%以上の女性で確認された。[ 33 ][ 34 ]
乳腺密度が低い女性と比較して、乳房が濃く映る女性は、乳腺密度の程度に比例してリスクが高くなる。相対リスク(RR)の増加は、乳腺密度がわずかに高い女性の1.79から乳房が非常に濃く映る女性の4.64までに及ぶ。[ 35 ]乳房が濃く映る(dense breast)組織を有する女性では乳がん死亡のリスク増加は認められなかった。[ 36 ]
乳がんリスク増加の十分な証拠がある因子
ホルモン療法
15万人以上の女性を含む51件の疫学研究を対象とした1997年の再解析により、閉経後のホルモン療法(HT)は乳がんリスク増加と関連していることが示された。[ 37 ]
2002年に、Heart and Estrogen/Progestin Replacement Studyにより、この知見が裏付けられた。[ 38 ]この研究では、冠動脈心疾患を有し、平均年齢67歳の女性2,763人が、エストロゲンおよびプロゲスチン療法を受ける群またはプラセボ投与群のいずれかにランダムに割り付けられた。平均6.8年間の追跡後に、乳がんのRRは1.27(95%CI、0.84-1.94)であった。このRR推定値は、統計的に有意ではなかったものの、同じく2002年に発表されたはるかに大規模のWomen's Health Initiative(WHI)研究の結果と整合している。
WHIにより、ホルモンおよび食事介入の心疾患および乳がんリスクに対する影響が調査された。[ 39 ]無傷の子宮を有する50~79歳の女性が、持続的プロゲスチン療法と併用する抱合エストロゲンを受ける群(N = 8,506)またはプラセボ投与群(N = 8,102)にランダムに割り付けられた。併用HTでは、冠動脈心疾患のリスクが低下しないばかりか、脳卒中および乳がんのリスクが増加したため、この試験は早期に中止された。すべてのサブグループの女性において浸潤性乳がん(ただし、非浸潤性[in situ]乳がんではない)リスクの割合増加(ハザード比[HR]、1.24;95%CI、1.02-1.50)が観察された。併用HTに関連したがんは、悪性度、組織型、およびエストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体、HER2/neuの発現量において類似していたが、併用HT群ではがんのサイズが比較的大きく、リンパ節転移の発生率が高いという傾向がみられた。[ 40 ]追跡の延長(平均11年間の追跡)によって、HT群の方が乳がん特異的死亡率が高いことが示された(死亡、25例 vs 12例、0.03% vs 0.01%/年、HR、1.95;95%CI、1.0-4.04;P = 0.049)。併用HTでは、マンモグラム異常の比率も高かった。[ 41 ]
WHIのランダム化比較研究と並行して、WHI観察研究では50~79歳の閉経後女性が募集された。平均11.3年間の追跡後に、エストロゲン + プロゲスチンを使用していた女性における乳がんの年間発生率が0.60%であったのに対し、非使用者では0.42%(HR、1.55;95%CI、1.41-1.70)であったが、乳がん診断後の生存期間は同程度であった。乳がんによる死亡数は併用HT使用者の方が非使用者よりも多かったが、その差は統計的に有意ではなかった(HR、1.3;94%CI、0.90-1.93)。閉経時にHTを開始した女性で乳がんリスクが最も高かったが、閉経から併用HT開始までの期間が長くなるほど低下した。乳がん診断後の全原因死亡率は併用HT非使用者よりも使用者の方が統計的に有意に高かった(HR、1.87;95%CI、1.37-2.54)。全体として、これらの知見はRCTの結果と一致していた。[ 42 ]
WHIではまた、以前に子宮摘出術を受けており、したがって子宮内膜がん(対抗されていないエストロゲン療法に関連している)のリスクがない女性についても調査された。50~79歳の女性(N = 10,739)が、抱合型ウマエストロゲン(CEE)投与群かプラセボ投与群にランダムに割り付けられた。この試験も脳卒中のリスクが高く、総合的なリスク・ベネフィット評価(global risk-benefit index)で改善が認められなかったことから、早期に中止された。[ 43 ][ 44 ]平均追跡期間6.8年後の乳がんの発生率は、CEE投与群の方が低かった(年間0.26% vs 0.33%;HR、0.77;95%CI、0.59-1.01)。総合的なリスク・ベネフィット評価でCEEはわずかに不良であった。[ 43 ]中央値にして11.8年間に追跡が延長され、試験参加者の78%が延長に組み込まれた。[ 44 ][ 45 ]最初の研究で示された結果が持続し、CEE投与患者で乳がんリスクが同様に低下し(HR、0.77;95%CI、0.62-0.95)[ 44 ][ 45 ]、乳がん死亡数が減少した(死亡、6例 vs 16例;HR、0.37;95%CI、0.13-0.91)。全原因死亡率もまた、CEE群の方(年間0.046% vs 0.076%;HR、0.62;95%CI、0.39-0.97)が低かった。CEEの中止後、脳卒中のリスクが介入中止後の期間に減少した。全追跡期間を通じて、冠動脈心疾患、深部静脈血栓症、脳卒中、股関節骨折、または大腸がんの発生率における差は認められなかった。[ 44 ]閉経から5年以内にCEEまたはプラセボの投与を開始した女性における乳がん発生率はほぼ同じであった(HR、1.06;95%CI、0.74-1.51)。
閉経期に入った女性1,006人を対象にしたHTに関するデンマークの試験は、心血管系の転帰を評価するようにデザインされた。無傷の子宮を有する女性407人には併用HT(三相型エストラジオールおよびノルエチステロン)が実施され、子宮摘出術を受けた女性95人にはエストラジオールが投与された。対照群(無傷の子宮を有する女性407人および子宮摘出術を受けた女性97人)は治療されなかった。10年経過時には、かなりの混合がみられた。依然として処方されたHTを受けていた女性はHT群に割り付けられた女性の半数しかおらず、対照群の女性の22%がHTを開始していた。心血管系の転帰はHT治療女性の方が良好であったが、乳がん発生率における差は認められなかった。[ 46 ]
複数の観察研究により、RCTで得られた情報が強化されている。
Million Women Study[ 47 ]では、1996年から2001年に英国の50~64歳の女性1,084,110人が募集され、HT使用やその他の個人的詳細に関する情報が入手された。女性は乳がんの発生および死亡について追跡された。女性の半数がHTを使用していた。追跡期間2.6年経過時に、9,364例の浸潤性乳がんが認められた;4.1年経過時には637人が乳がんにより死亡した。募集時にHTの現在使用者は、非使用者よりも乳がんの発症(調整後RR、1.66;95%CI、1.58-1.75;P < 0.0001)および乳がんによる死亡(調整後RR、1.22;95%CI、1.00-1.48;P = 0.05)の可能性が高かった。しかしながら、HTの過去使用者では発生乳がんまたは致死的乳がんのリスク増加は認められなかった(それぞれ、1.01[95%CI、0.94-1.09]および1.05[95%CI、0.82-1.34])。エストロゲン単独(RR、1.30;95%CI、1.21-1.40;P < 0.0001)、併用HT(RR、2.00;95%CI、1.88-2.12;P < 0.0001)、およびチボロン(RR、1.45;95%CI、1.25-1.68;P < 0.0001)の現在使用者に対する発生率は有意に高かった。併用HTに対する関連リスクの大きさは他のタイプのHTよりもかなり大きかった(P < 0.0001)。
Cancer Surveillance System of Puget Soundにより、乳がんの女性965人および対照1,007人を対象とした集団ベースの調査が実施された。この調査により、併用HT使用者では浸潤性乳がんのリスクが1.7倍高かった一方、エストロゲン単独使用者でリスク増加は認められなかったことが示された。[ 48 ]
併用HTの使用と乳がんリスク増加との関連はすべての試験で一貫している。対照的に、エストロゲン単独HTと乳がん発生率との関連は、1件のランダム化試験で予防効果が示され、観察研究でリスク増加が示されたように、一貫していない。おそらく閉経期の開始と関連するエストロゲン単独HTのタイミングがきわめて重要であり、非使用者と比較して、HT使用者によるスクリーニング活動への参加も同様である。[ 49 ][ 50 ]
WHIの結果が発表された後、世界でHTの使用は減少した。併用HT群のWHI参加者は治療を中止し、マンモグラフィスクリーニングの割合は同程度であったにもかかわらず、治療による高い乳がんリスクの急速な低下が2年以内に認められた。[ 51 ]米国の50歳以上の女性で、2002年から2003年に乳がん発生率が低下した。[ 52 ][ 53 ]同様に、HT使用の普及率が高かった多くの国でも、処方パターンの減少および/または報告された使用の普及率の低下と一致して、同様な時期に乳がんの発生率が低下した。[ 54 ][ 55 ][ 56 ] マンモグラフィによるスクリーニングを定期的に受けている女性を対象とした研究から、2002年から2003年に認められた乳がんの発生率の急激な減少は、マンモグラフィ実施率の減少よりも、むしろHTの中止が主な原因であったという知見が裏付けられる。[ 57 ] 2002年から2003年に乳がん発生率が低下して以降、米国の発生率は安定した。[ 57 ][ 58 ]
電離放射線曝露
電離放射線曝露とその後の乳がんとの間には十分に確立された関係が存在する。[ 59 ]原子爆弾被爆、結核に対する頻繁な蛍光透視検査、およびざ瘡、白癬、胸腺肥大、分娩後乳腺炎、リンパ腫の放射線療法に関連して過剰な乳がんリスクが認められる。若年者、特に思春期の頃はリスクが高くなる。医用放射線学に関連する乳がんリスクの推定値は、乳がん全症例の約1%未満と試算される。[ 60 ]しかしながら、理論的には、ATヘテロ接合体などの一定の集団では、放射線曝露による乳がんのリスクが高いと想定されている。[ 31 ]BRCA1またはBRCA2の変異を保有する女性を対象とした1件の大規模コホート研究により、胸部X線は、特に20歳未満であれば、すでにレベルが高い乳がんのリスクをさらに高める(RR、1.54;95%CI、1.1-2.1)と結論づけられた。[ 61 ]
16歳までにマントル照射でホジキンリンパ腫の治療を受けた女性では、その後40歳までに乳がんを発症するリスクが最大35%となる。[ 62 ][ 63 ][ 64 ]高線量の放射線(乳がん症例の線量中央値40Gy)および10~16歳の間に受ける治療が高リスクに関連している。[ 62 ]二次白血病のリスクとは異なり、治療に関連した乳がんのリスクは追跡期間中に軽減されることはなく、リスクの増加は治療後25年を超えて持続する。[ 62 ][ 64 ][ 65 ]これらの研究では、乳がんを発症した患者のほとんど(85~100%)は、照射野内または境界に病変をみている。[ 62 ][ 63 ][ 65 ]オランダの研究では、ホジキン病の治療後少なくとも5年経過して乳がんが発生した女性48人を調べ、乳がんが発生しなかった175人のマッチさせたホジキン病の女性と比較した。化学療法およびマントル照射で治療された患者は、マントル照射単独治療を受けた患者よりも乳がんの発生が少ない傾向がみられるが、おそらくそれは化学療法誘因の卵巣機能抑制が原因と考えられる(RR、0.06;95%CI、0.01-0.45)。[ 66 ]放射線関連の乳がん患者105人および年齢および放射線をマッチさせた対照266人の別の研究により、卵巣照射に対する同様の予防効果が示された。[ 64 ]これらの研究から、卵巣ホルモンを減少させると、放射線誘発性変異を伴う乳房組織の増殖が制限されることが示唆される。[ 64 ]
腫瘤摘出術 + 放射線療法(L-RT)で治療された乳がん患者は、乳房切除術で治療した患者よりも、二次乳がんまたは他の悪性腫瘍のリスクが増大しているかどうかについての問題が生じている。L-RT患者1,029人の治療成績が、乳房切除術を受けた患者1,387人の治療成績と比較された。中央値15年間の追跡では、二次性悪性腫瘍のリスクに差は認められなかった。[ 67 ]3件のRCTによる追加的な証拠でも再確認されている。1件の報告において、乳房全切除術、腫瘤摘出術のみまたはL-RTにランダムに割り付けられた女性1,851人の対側乳がんの割合は、それぞれ8.5%、8.8%および9.4%であった。[ 68 ]別の1件の研究において、根治的乳房切除術または乳房温存手術に続く放射線療法にランダムに割り付けられた女性701人の対側乳がんの割合は、それぞれ10.2 vs 8.7/100人年であった。[ 69 ]3つ目の研究において、根治的乳房切除、単純乳房切除または単純乳房切除と放射線療法との併用にランダムに割り付けられた女性1,665人の25年後の治療成績が比較された。対側乳がんの割合に治療群による有意差は認められず、全割合は6%であった。[ 70 ]
肥満
肥満は、特にHTの使用経験がない閉経後女性における乳がんリスク増加と関連している。WHIにより50~79歳の女性85,917人が観察され、体重歴のほか、乳がんに対する既知の危険因子に関する情報が収集された。[ 71 ][ 72 ]身長、体重、ウエスト囲および殿囲が測定された。追跡中央値34.8ヵ月で、1,030人の女性が浸潤性乳がんを発症した。ホルモン療法(HT)を全く使用しなかった女性では、乳がんリスク増加は登録時の体重、登録時の肥満指数(BMI)、50歳時のBMI、最大BMI、成人および閉経後の体重変化、およびウエスト囲と殿囲と関連があった。体重は最も強い予測因子であり、体重が58.7kg未満の女性に比べて82.2kgを超える女性ではRRは2.85(95%CI、1.81-4.49)であった。
肥満、糖尿病、およびインスリン濃度と乳がんリスクとの関連が研究されているが、明確に定義されていない。60~79歳の女性を対象にしたBritish Women's Heart and Health Studyでは、乳がんの診断を受けた女性151人と診断を受けていない女性3,690人が比較された。糖尿病でない女性におけるlog(e)インスリン濃度の1単位増加ごとの年齢調整後ORは、1.34(95%CI、1.02-1.77)であった。この関連は交絡因子および潜在的な仲介因子(mediating factor)で調整後も、閉経前と閉経後の両方の乳がんで観察された。さらに、空腹時血糖値、ホメオスタシスモデル評価スコア(空腹時血糖値×インスリン濃度/22.5)、糖尿病、妊娠糖尿の既往もまた、乳がんと関連していた。[ 73 ]
アルコール
飲酒は乳がんのリスクを増加させる。53件のケースコントロールおよびコホート研究からの個々のデータがBritishメタアナリシスに含められた。[ 74 ]アルコール摂取を報告しなかった女性に対する乳がんのRRと比べて、35g~44g/日のアルコールを摂取する女性に対する乳がんのRRは1.32(95%CI、1.19-1.45;P < 0.001)、45g/日以上アルコールを摂取する女性では1.46(95%CI、1.33-1.61;P < 0.001)であった。乳がんのRRは、アルコール摂取1日当たり10g(すなわち、1杯)ごとに約7%(95%CI、5.5%-8.7%;P < 0.001)ずつ増加する。これらの知見は、人種、教育、家族歴、初潮年齢、身長、体重、BMI、授乳、経口避妊薬の使用、閉経期のホルモン使用とその種類、および閉経時の年齢に対する層別化後も持続した。
乳がんリスク低下の十分な証拠がある因子
早期妊娠
分娩により数年間乳がんリスクが増大した後、リスクは長期にわたり低下するが、低下は若年女性でより大きい。[ 21 ][ 75 ][ 76 ]1件の研究では、20歳前に最初の満期産を経験した女性が乳がんを発症する可能性は、未産婦または35歳以上で最初の満期産を経験した女性の1/2であった。[ 77 ][ 78 ]
乳がんリスクに対する出産の影響は、15件のプロスペクティブ・コホート研究により約89万人の女性から得られた個人レベルのデータのプール解析を行ったInternational Premenopausal Breast Cancer Collaborative Groupによって実証された。未産婦と比較した場合、経産婦は出産後の20年間まで、ER陽性およびER陰性の両方の乳がんを発症するリスクが高かった。しかし、約24年後、ER陽性乳がんの発症リスクは減少したが、ER陰性乳がんの発症リスクは高いままであった。したがって、経産歴と乳がんリスクとの関連は複雑であり、出産後の期間と同様に腫瘍の表現型によっても影響を受けるようである。[ 79 ]
授乳
授乳は乳がんリスク低下と関連している。[ 80 ]乳がんの女性50,302人および対照96,973人を対象にした30ヵ国、47件の疫学研究からの個々のデータを再解析したところ、授乳経験のある経産女性では授乳経験のない経産女性よりも乳がん発生率が低いことが明らかにされた。乳がん発生率はまた授乳期間とも比例した。[ 81 ]乳がんのRRは各出産に対する7%(95%CI、5.0%-9.0%;P < 0.0001)の低下に加えて、12ヵ月間の授乳ごとに4.3%(95%CI、2.9%-5.8%;P < 0.0001)低下した。
運動
活発な運動は、特に若い経産女性における乳がんリスクを低下させうる。[ 82 ]身体活動レベルと乳がんリスクとの関係に関する膨大な観察研究で逆相関が示されている。[ 83 ]RR低下の平均値は30~40%であるが、交絡因子-食事または乳がんに対する遺伝的素因など-については、扱われていない。ノルウェーの女性25,000人以上を対象にしたプロスペクティブ研究で、きつい肉体労働または1週間当たり4時間以上の運動は、特に閉経前女性および体重が標準または標準以下の女性において乳がんリスクを低下させることが明らかにされた。[ 84 ]アフリカ系米国人女性のケースコントロール研究では、激しいレクリエーションの身体活動(>7時間/週)は、乳がん発生率低下と関連していた。[ 85 ]
有益性の十分な証拠がある介入
選択的エストロゲン受容体モジュレータ(SERM)
タモキシフェンは、転移乳がんの治療に使用されているほか、乳がんの外科的切除後の局所再発および新たな原発性乳がんの抑制に使用されている。[ 86 ]タモキシフェンはまた、閉経後の乳がん女性の骨密度を維持する。[ 87 ][ 88 ][ 89 ][ 90 ][ 91 ]有害作用には、ほてり、静脈血栓塞栓性イベント、および子宮内膜がんがある。[ 92 ][ 93 ][ 94 ]
Breast Cancer Prevention Trial(BCPT)では、乳がんリスクが高い13,388人の患者をタモキシフェンまたはプラセボを受ける群にランダムに割り付けた。[ 95 ][ 96 ]この研究は、タモキシフェン投与群の乳がん発生率が対照群より49%低かった(4年経過時に浸潤性乳がん症例が85例 vs 154例、および非浸潤性[in situ]乳がん症例が31例 vs 59例)ため、早期に終了された。タモキシフェン投与群の女性はまた骨折も少なかった(47 vs 71)が、子宮内膜がん(33例 vs 14例)および肺塞栓症(17 vs 6)を含む血栓性病変の発生(99 vs 70)が多かった。[ 96 ]
追跡7年後のBCPTの最新結果では、これらの結果が確認され、拡張された。[ 97 ]タモキシフェンの有益性およびリスクは当初の報告と有意に異ならず、骨折減少の有益性および子宮内膜がん、血栓、白内障手術のリスク増加が持続的に認められた。7年間の追跡後、全死亡率の有益性は観察されなかった(RR、1.10;95%CI、0.85-1.43)。
乳がんの一次予防のための、タモキシフェンの他の3件の試験が終了している。[ 98 ][ 99 ][ 100 ]
これらのタモキシフェンに関する一次予防の試験のメタアナリシスが実施され、乳がんの発生率において、統計的に有意なばらつきを伴わない38%の減少が示された。[ 94 ]ER陽性腫瘍は48%減少した。静脈血栓塞栓性イベント(RR、1.9;95%CI、1.4-2.6)と同様に、子宮内膜がんの割合も増加した(コンセンサスRR、2.4;95%CI、1.5-4.0)。これらの一次予防の試験で、乳がんの死亡率における差を検出するようデザインされたものはなかった。
非浸潤性(in situ)乳管がん(DCIS)の既往歴のある女性は対側乳がんのリスクが高い。National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)試験、B-24ではこれらの女性の管理について検討された。女性は、タモキシフェンの補助療法を併用するまたは併用しないL-RTにランダムに割り付けられた。6年経過時に、タモキシフェン投与女性では浸潤性および非浸潤性(in situ)乳がんが少なかった(8.2% vs 13.4%;RR、0.63;95%CI、0.47-0.83)。タモキシフェン投与女性では対側乳がんのリスクも低かった(RR、0.49;95%CI、0.26-0.87)。[ 105 ]
塩酸ラロキシフェン(Evista)は乳腺には抗エストロゲン様作用を有し、骨、脂質代謝、および血栓にはエストロゲン様作用を有するSERMの1つである。タモキシフェンとは異なり、塩酸ラロキシフェンは子宮内膜に抗エストロゲン様作用を有する。[ 106 ]Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation(MORE)試験は、1994年から1998年に米国の180施設で、骨粗鬆症のある7,705人の閉経後女性を評価したランダム化二重盲検試験であった。椎骨骨折が減少した。乳がん発生率に対する効果は2番目のエンドポイントであった。追跡期間中央値47ヵ月後に、ラロキシフェン投与群の女性における浸潤性乳がんのリスクが低下した(RR、0.25;95%CI、0.17-0.45)。[ 107 ]ラロキシフェンはタモキシフェンと同じように、ER陽性乳がんのリスクを低下させたが、ER陰性乳がんのリスクを低下させることはなく、ほてりおよび血栓塞栓性イベントの過剰リスクと関連していた。子宮内膜がんまたは子宮内膜増殖症の過剰リスクは観察されなかった。[ 108 ]
MORE試験の延長であるContinuing Outcomes Relevant to Evista(CORE)試験は、複数の群にランダムに割り付けされたMORE参加者の約80%について、さらに4年間検討を継続した。2つの研究には中央値10ヵ月の差異があり、割り当てられた薬物投与を継続していた女性は約55%にとどまったが、ラロキシフェン投与群では、ER陽性浸潤性乳がんのより低い発生率が継続的にみられた。MOREおよびCOREの8年間、浸潤性乳がんの全体的な減少は66%(HR、0.34;95%CI、0.22-0.50)であった;ER陽性浸潤性乳がんの減少は76%(HR、0.24;95%CI、0.15-0.40)であった。[ 109 ]
Raloxifene Use for the Heart試験は、ラロキシフェンの冠動脈イベントおよび浸潤性乳がん発生への影響を評価するランダム化プラセボ対照試験であった。MOREおよびCORE研究と同様に、ラロキシフェンは浸潤性乳がんのリスクを低下させた(HR、0.56;95%CI、0.38-0.83)。[ 110 ]
Study of Tamoxifen and Raloxifene(STAR)試験(NSABP P-2)では、高リスク女性19,747人におけるタモキシフェンとラロキシフェンを比較し、平均で3.9年間監視した。浸潤性乳がん発生率は両方の薬物でほぼ同じであったが、非浸潤性がんはタモキシフェン群の方が少なかった。子宮がん、静脈塞栓性イベント(VTE)、白内障といった有害事象はタモキシフェン治療群の女性でより多くみられ、虚血性心疾患イベント、脳卒中、または骨折の発生における差は認められなかった。[ 111 ]性交疼痛症、筋骨格系の問題、体重増加といった治療関連症状はタモキシフェン投与群の方が発生頻度が低かったが、血管運動性潮紅、排尿コントロール症状、婦人科症状、こむらがえりはラロキシフェン投与群の方が発生頻度が低かった。[ 112 ]
女性1,000人当たりの結果の発生 タモキシフェン ラロキシフェン RR、95%CI CI = 信頼区間;RR = 相対リスク;VTE = 静脈血栓塞栓症。 浸潤性乳がん 4.3 4.41 1.02, 0.82–1.28 非浸潤性乳がん 1.51 2.11 1.4, 0.98–2.00 子宮がん 2.0 1.25 0.62, 0.35–1.08 VTE 3.8 2.6 0.7, 0.68–0.99 白内障 12.3 9.72 0.79, 0.68–0.92 症状の発生(0~4スケール) タモキシフェンの方が軽度 性交疼痛症 0.68 0.78 P < 0.001 筋骨格系の問題 1.10 1.15 P = 0.002 体重増加 0.76 0.82 P < 0.001 ラロキシフェンの方が軽度 血管運動性症状 0.96 0.85 P < 0.001 排尿コントロール症状 0.88 0.73 P < 0.001 こむらがえり 1.10 0.91 P < 0.001 婦人科の問題 0.29 0.19 P < 0.001 アロマターゼ阻害剤または不活化物質(Al)
ホルモン感受性乳がんの女性の治療に使用される別のクラスの薬物も乳がんを予防しうる。こうした薬物は、副腎の酵素であるアロマターゼ(閉経後の女性においてエストロゲンを産生させる)を阻害する。アナストロゾールおよびレトロゾールはアロマターゼの活性を阻害し、エキセメスタンはこの酵素を不活性化する。3つの薬物にはいずれも副作用があり、疲労、関節痛、筋肉痛、骨塩密度の低下、および骨折率の増加が挙げられる。
以下の研究で示されているように、以前に乳がんを診断された女性は、AIで治療された場合に乳がんの再発リスクおよび新規発生リスクが低下する:
- 原発性乳がんに対する補助療法としてアナストロゾールとタモキシフェンを比較したArimidex, Tamoxifen, Alone or in Combination試験において、アナストロゾール群では局所所属リンパ節再発および遠隔再発の割合がタモキシフェン群と比較して低かった(7.1% vs 8.5%)が、併用群では高かった(9.1%)。[ 113 ]アナストロゾールはまた、新たな対側乳がん発生率の低下においても有効性が高かった(0.4% vs 1.1% vs 0.9%)。
- 5年間補助タモキシフェン治療を受けた女性5,187人を対象にした別の試験では、女性がレトロゾール投与群またはプラセボ群のいずれかにランダムに割り付けられた。[ 114 ]中央値にして2.5年のみの追跡後、前もって定義された効力のエンドポイントに達したので、研究が終了した。レトロゾールによる治療を受けた患者では、局所所属リンパ節および遠隔がん再発の発生が少なく、新たな対側乳がんの発生も少なかった(14 vs 26)。
- 乳がんの女性1,918人における別のプラセボ対照試験で、補助タモキシフェンとその後にレトロゾールを5年間投与された女性においてレトロゾール治療を追加で5年間延長した場合の効果が調査された。[ 115 ]研究登録から中央値で6.3年経過時に、レトロゾール延長群では5年無病生存率が改善し、95%(95%CI、93%-96%)であったのに対し、対照群では91%(95%CI、89%-93%)(HR、0.66)であったが、全生存における差は認められなかった。新たな対側乳がん診断における差は統計的に有意であった:レトロゾール延長群で21%(95%CI、10%-32%)であったのに対し、対照群では49%(32%-67%)(HR、0.42)であった。レトロゾールによる治療を受けた女性では、骨痛(18% vs 14%)、骨折(14% vs 9%)、および骨粗鬆症の新規発症(11% vs 6%)のリスクが高かった。
- 1件の試験では、既に2年間補助タモキシフェン治療を受けた女性4,742人がタモキシフェン治療を継続するか、エキセメスタンに切り替えるかのいずれかにランダムに割り付けられた。[ 116 ]中央値にして2.4年間の追跡後、エキセメスタン投与群では、局所再発または転移性再発のリスクが低くなり、新たな対側乳がんの発生も少なかった(9 vs 20)。
以下の研究で示されているように、アロマターゼ阻害剤または不活化物質はまた、リスクが高い女性における乳がんを予防することが示されている:
- 危険因子(60歳を超える年齢、ゲイル5年リスクが1.66%を超えるか、またはDCISで乳房切除の既往)を1つ以上有する女性4,560人を対象にした乳がんの一次予防に関するRCTで、エキセメスタンとプラセボが比較された。追跡期間中央値35ヵ月後、エキセメスタン群の女性では浸潤性乳がんを診断される頻度が低かった(11 vs 32;HR、0.35;95%CI、0.18-0.70;治療必要数、35ヵ月で約100)。エキセメスタン投与群ではプラセボ群と比べ、ほてり(増加率、8%)および疲労(増加率、2%)に増加がみられたが、骨折または心血管系イベントにおける差はみられなかった。[ 117 ]
- International Breast Cancer Intervention Study II(IBIS-II)では、乳がん発生リスクが高い閉経後女性3,864人が、5年間、毎日のアナストロゾール(1mg)投与群かプラセボ投与群のいずれかにランダムに割り付けられた。[ 118 ]高リスクの定義は年齢により変化し、一般集団と比較したRRで定義された:40~44歳の女性ではRRが4以上とされ;45~60歳の女性ではRRが2以上;そして60~70歳の女性ではRRが1.5以上とされた。このほかに、(Tyrer-Cuzickモデルによる)乳がん発生の10年リスクが5%以上と推定される女性も研究への登録に適格とされた。6ヵ月以内にDCISを診断され、片側乳房切除術で治療された女性も試験に適格とされ、326人がランダムに割り付けられた。中央値で5年の追跡後、プラセボ群よりもアナストロゾール投与群の方が、乳がん(浸潤がんおよびDCIS)の発生が少なかった(HR、0.47;95%CI、0.32-0.68)。ホルモン受容体陽性乳がんのリスクが低下した(ただし、ホルモン受容体陰性乳がんのリスク低下は認められなかった)。予測された7年累積発生率によると、7年間の追跡期間中に1例の乳がんを予防するために5年間治療が必要となる高リスク女性(IBIS-II適格基準に基づく)の数は36人(95%CI、33-44)と推定された。アナストロゾールで治療された女性は、プラセボを投与された女性よりも関節痛(51% vs 46%)、関節硬直(7% vs 5%)、手足の痛み(9% vs 8%)、手根管症候群(3% vs 2%)などの筋骨格症状;高血圧(5% vs 3%);血管運動神経症状(57% vs 49%);およびドライアイ(4% vs 2%)を有する可能性が高かった。手足の痛みとアナストロゾールによる治療との関連は統計的有意差に近い値であった;上述の他の副作用はいずれもアナストロゾールによる治療に統計的に有意に関連した。
予防的乳房切除
1件のレトロスペクティブ・コホート研究では、家族歴に基づく乳がんリスクが中等度から高度な女性において乳がんの発生に対する予防的両側乳房切除の影響が評価された。[ 119 ]BRCA変異状態は不明であった。これらの女性の90%では、乳腺全切除よりもむしろ皮下乳腺摘除が実施された。手術から中央値14年の追跡後、中等度リスク女性425人のリスク低下は89%であった;高リスク女性214人では、乳がん予測率の算出に用いた手法により90~94%低下した。乳がん死のリスク低下は、中等度リスク女性で100%、高リスク女性で81%であった。この研究ではリスク指標として、遺伝子検査よりもむしろ家族歴を用いていたため、乳がんリスクが過剰評価されている可能性がある。
U.S. National Cancer Data Baseのデータに基づき、片側乳がん(DCISおよび早期の浸潤性乳がん)を有する女性のうち、両側乳房切除術を受ける割合は、1998年の1.9%から2011年の11.2%に増加していることが報告された。[ 120 ]
同側乳がんを有する女性における対側乳がんを防ぐための、平均リスク集団における予防的乳房切除の有益性に関する研究は実施されていない。
予防的卵巣摘出術
卵巣機能抑制および卵巣摘出術は、正常な女性または胸部照射を受けた結果としてリスクが増大した女性における乳がんリスクの低下と関連している。(詳しい情報については、本要約の証拠の記述のセクションにおける内因性エストロゲンのサブセクションを参照のこと。)BRCA1またはBRCA2遺伝子突然変異が原因で乳がんリスクが高い女性を対象にした複数の観察研究でも、卵巣がんを予防するための予防的卵巣摘出術は、乳がん発生率の50%の低下と関連することが示された。[ 121 ][ 122 ][ 123 ]これらの研究には、選択バイアス、患者と対照者間の家族関係、卵巣摘出術の適応、およびホルモンの使用に関する不十分な情報という交絡がある。1件のプロスペクティブ・コホート研究で同様の知見が得られており、BRCA2突然変異キャリアの方がBRCA1突然変異キャリアより乳がんリスクの減少幅が大きかった。[ 124 ]
関連の証拠が不十分な因子および介入
ホルモン避妊薬
経口避妊薬は、時が経つにつれて経口避妊薬の使用が減少する現在の使用者において、乳がんのわずかなリスク増加と関連している。[ 125 ]適切に実施されたケースコントロール研究によると、乳がんリスクと経口避妊薬使用との関連は、過去の使用、使用期間、または最近の使用のいずれについても認められなかった。[ 126 ]
他のケースコントロール研究では、35歳~64歳までの女性において、注射用または埋め込み型プロゲスチン単独避妊薬の使用と乳がんリスクの増加には関連がみられなかった。[ 127 ]
デンマークにおける全国的なプロスペクティブ・コホート研究により、ホルモン避妊薬を現在使用中または最近使用した女性は、ホルモン避妊薬の使用経験がない女性よりも乳がんのリスクが高いことが明らかにされた。さらに、乳がんのリスクはホルモン避妊薬の使用期間が長くなるとともに増加した。しかしながら、絶対的期間での乳がんリスクに対する経口避妊薬の影響は非常に小さい;ホルモン避妊薬を1年間使用する女性7,690人ごとに乳がんの症例が約1例増加すると予想される。[ 128 ]
環境因子
職業的曝露、環境曝露、または化学曝露がすべて乳がんの原因として提唱されている。最大134の環境化学物質、その発生源、曝露のバイオマーカーについて記述したメタアナリシスにより、これらはがんに関連しうることが示唆されている。[ 129 ][ 130 ]殺虫剤などによる有機塩素曝露が乳がんリスクの増大に関連しうることを示唆する複数の研究があるが[ 131 ][ 132 ]、他のケースコントロール研究およびネステッドケースコントロール研究はこれを示唆していない。[ 133 ][ 134 ][ 135 ][ 136 ][ 137 ][ 138 ]明白な関係を報告している諸研究は、原因となる有機塩素剤の同定に関して一致していない。これらの物質の一部は弱いエストロゲン作用を有するが、乳がんリスクに及ぼす作用は依然として証明されてない。ジクロロジフェニルトリクロロエタンの使用は米国では1972年に禁止され、1977年にはポリ塩化ビフェニルの製造も中止された。全体として、乳がんと特定の環境曝露との関連を支持する疫学的研究および動物研究の証拠は一般的に弱い。非常に多くの因子を考慮する必要があるため、乳がんまたは他のがんとの関連は、多重性、測定の困難さ、リコールおよび公表バイアスの解析的問題によって交絡が生じている可能性がある。[ 139 ][ 140 ]
関連がほとんどまたは全くないという証拠が十分にある因子および介入
中絶
中絶は乳がんの危険因子の1つとして提唱されている。複数の観察研究からの知見は大きく異なっている;関連が示された研究もあれば、示されなかった研究もある。この関連を支持している観察研究は、社会的に微妙な問題について女性による識別想起(differential recall)のためにあまり厳格ではなくバイアスを受けている可能性があった。[ 141 ][ 142 ][ 143 ][ 144 ]例えば、中絶に対する社会的態度が異なる地域を比較した1件の研究において、想起または報告バイアスの影響が実証された。[ 145 ]Committee on Gynecologic Practice of the American College of Obstetricians and Gynecologistsにより、「最近のより厳格な研究では、人工流産とその後の乳がんリスクの増加との間の因果関係は実証されていない」と結論付けられている。[ 146 ]中絶に関してプロスペクティブに記録されたデータを用いた研究では、それによって想起バイアスが回避され、一般に乳がんのその後の発生との関連は示されなかった。[ 147 ][ 148 ][ 149 ][ 150 ][ 151 ][ 152 ]
食事
何らかの食事内容の変更が乳がんの発生に影響するという証拠はほとんど得られていない。
ヒトを対象にしてさまざまな食事内容についてがんの発生率を比較したランダム化試験は非常に少数である。ほとんどの研究が観察研究(ランダム化試験の事後解析を含む)であり、観察の解釈が困難になるほど大規模なバイアスの影響を受けやすい。特に、P値とCIは、ランダム化試験において主要エンドポイントについて計算する場合と同じ解釈にならない。
1975年以前に発表された複数の生態学的研究の要約により、国際的な年齢調整乳がん死亡率と食事による1人当たり脂肪消費量推定値との間に正の相関があることが示された。[ 153 ]複数のケースコントロール研究の結果が取り混ぜられている。20年後、7件のコホート研究から得た結果のプール分析では、食事からの全脂肪摂取量と乳がんリスクとの関連は明らかにされなかった。[ 154 ]
Women's Health Initiativeにも登録された50~79歳の閉経後女性48,835人において、食事の改善に関するランダム化比較研究が実施された。介入により、野菜、果物、および穀類の摂取を増加させることで全脂肪摂取量を20%低下させる目標が推進された。介入群は、8.1年を超える追跡で約10%の脂肪摂取量低減を達成し、エストラジオールおよびγトコフェロール値が低くなったが、持続的な体重減少は認められなかった。浸潤性乳がんの発生率は介入群で統計的に有意ではないものの数値的に低くなり、HRは0.91(95%CI、0.83-1.01)であった。[ 155 ]全原因死亡率、全死亡率、または心血管系イベントの発生率における差は認められなかった。[ 156 ]
果物および野菜の摂取に関して、350,000人以上の女性のうち7,377人が乳がんを発症した8件のコホート研究のプール分析では、さまざまに仮定された統計モデルで関連はわずかしか、または全く示されなかった。[ 157 ]
Women's Healthy Eating and Living Randomized Trial[ 158 ]により、以前に乳がんと診断された女性において原発性乳がんの新規発生に対する食事の効果が調査された。3,000人以上の女性が登録し、果物および野菜の摂取と繊維が豊富で脂肪の少ない集中的なレジメンを受ける群、または「5-A-Day」の食事に関する指針に基づいた印刷物を配布された比較群にランダムに割り付けられた。平均7.3年間の追跡後、新たな原発がんの減少、無病生存における差、および全生存率における差は認められなかった。
スペインの1件のランダム化試験[ 159 ]では、心血管系リスクが高い参加者が次の3つの食事内容の1つに割り付けられた:エキストラバージンオリーブオイルを追加した地中海食、ミックスナッツを追加した地中海食、または対照としての地中海食(食事からの脂肪を減らすようにカウンセリング)。研究者らにより、試験の主要エンドポイントであった大心血管系イベントにおける統計的に有意な低下が報告された。[ 160 ]研究者らはまた、乳がんの発生率など他のエンドポイントについても扱っていたが、どの程度多くのエンドポイントが調査されたかについては明記されていない。(288例の大心血管系イベントと比較して)わずか35例の浸潤性乳がんによると、それぞれの食事における乳がんの発生率は8/1,476(0.54%);10/1,285(0.78%);および17/1,391(1.22%)で、平均追跡期間はそれぞれ4.8年、4.3年、および4.2年であった。研究の事情から、これらの差の統計的有意性を明らかにすることは困難である。
ビタミン
乳がんリスク低下のための特定の微量栄養素の潜在的な役割が、心血管疾患およびがんをアウトカムとする複数の臨床試験で調査されている。39,876人の女性に関するWomen's Health Studyのランダム化試験では、ベータカロチン vs プラセボのいずれかに割り付けられた女性の間で2年経過時の乳がん発生率に差は認められなかった。[ 161 ]この同じ研究では、600 IUのビタミンEを一日おきに摂取した女性において、がんに対する総合的な効果はみられなかった。[ 162 ]Women's Antioxidant Cardiovascular Studyでは、すべてのがんと浸潤性乳がんの発生率について8,171人の女性が調査されたが、ビタミンC、ビタミンE、またはベータカロチンの効果は示されなかった。[ 163 ]2年後、5,442人の女性サブセットが1.5mgの葉酸、50mgのビタミンB6、および1mgのビタミンB12、またはプラセボを摂取する群にランダムに割り付けられた。7.3年後、すべての浸潤がんまたは浸潤性乳がん発生率に差は認められなかった。[ 164 ]
フェンレチニド[ 165 ]はビタミンAアナログであり、前臨床研究で乳がんの発生を減少させることが分かっている。イタリアの第III相試験が、I期の乳がんまたはDCISを外科的に切除した30~70歳の女性2,972人において無治療とフェンレチニド5年間の介入の効力を比較した。観察期間中央値97ヵ月で、両群間には対側乳がんの発生(P = 0.642)、同側乳がんの発生(P = 0.177)、遠隔転移率、乳房以外の悪性腫瘍、およびすべての原因による死亡率に統計的有意差は認められなかった。[ 166 ]
積極的喫煙と受動喫煙
乳がんの病因における積極的喫煙の潜在的な役割が30年以上にわたって研究されているが、関連を示す明確な証拠は得られていない。[ 167 ]1990年代の中頃以降の喫煙と乳がんの研究では、受動喫煙に関する説明はより慎重なものとなっている。[ 167 ][ 168 ]最近の1件のメタアナリシスにより、受動喫煙の全体的な関連性は認められないことおよび研究の方法論(乳がん診断後の曝露の確認)が一部の研究でみられる見かけ上のリスクの関連の原因である可能性が示唆されている。[ 169 ]
腋下の消臭剤/制汗剤
一般紙で腋下の消臭剤および制汗剤が乳がんの原因となると女性に警告されているが、これらの懸念を支持する証拠は存在しない。乳がんに罹患した女性813人および対照793人との面談に基づく研究では、乳がんリスクと制汗剤の使用、消臭剤の使用、またはこれらの製品を使う前の剃刀の使用との関連は示されなかった。[ 170 ]対照的に、乳がんの生存者437人を対象にした研究では、制汗剤/消臭剤を使用し、腋下を比較的頻繁に剃毛していた女性は有意に若い年齢でがんを診断されていたことが明らかにされた。この知見は、シェービングおよび制汗剤/消臭剤の使用よりも、むしろ内因性ホルモンの違いで説明できる可能性がある。早い初潮および体毛の増加の両方が内因性ホルモン値の増加と関連しており、これらは乳がんの危険因子であることが知られている。[ 171 ]
スタチン
RCT[ 172 ]およびRCTと観察研究[ 173 ]を対象に適切に実施された2件のメタアナリシスでは、スタチン使用により、乳がんリスクが増加または減少するのか、いずれの証拠も得られなかった。
ビスホスホネート系薬物
高カルシウム血症および骨粗鬆症を治療するためのビスホスホネート系薬物の経口および静脈内投与が、乳がん予防の可能性がある有益な効果について研究されている。初期の複数の観察研究で、これらの薬物を約1~4年間にわたって使用した女性では乳がんの発生率が比較的低いことが示唆された。[ 174 ][ 175 ][ 176 ][ 177 ]これらの知見には、骨粗鬆症の女性は骨密度が正常な女性よりも乳がんのリスクが低いという事実により交絡が生じている。乳がんを診断された女性を対象にした研究から別の証拠が得られた;これらの薬物を使用すると新たな対側乳がんが少なかった。[ 178 ]こうした背景から、2件の大規模ランダム化プラセボ対照試験が実施された。Fracture Intervention Trial(FIT)では、骨減少症の閉経後女性6,194人がアレンドロン酸またはプラセボで治療されたが、3.8年経過時に乳がん発生率における差は認められず、発生率はそれぞれ、1.8%および1.5%(HR、1.24;CI、0.84-1.83)であった。Health Outcomes and Reduced Incidence With Zoledronic Acid Once Yearly-Pivotal Fracture Trial(HORIZON-PRT)では、骨減少症の閉経後女性7,580人へのゾレドロネート静注またはプラセボ投与が調査されたが、2.8年経過時に乳がん発生率における差は認められず、発生率はそれぞれ、0.8%および0.9%(HR、1.15;CI、0.7-1.89)であった。[ 179 ]
夜勤シフトでの労働
動物を用いた研究からの証拠に基づいて、世界保健機関の国際がん研究機関(IARC:International Agency for Research on Cancer)は、概日リズム破壊を伴うシフト労働を乳がん発がん推定要因として分類した。[ 180 ]2013年に、15件の疫学研究のメタアナリシスにより、夜勤シフトでの労働に携わった女性において乳がん発生率が増加するという証拠はかなり弱いことが明らかになった。[ 181 ]2016年には、80万人近くの女性を対象にした英国の最近の3件のプロスペクティブ研究からの結果が、他の7件のプロスペクティブ研究からの結果と統合され、乳がん発生率と夜勤シフトでの労働とが関連するという証拠は示されなかった。特に、20年以上に及ぶ夜勤シフトでの労働に対してでさえ、発生率比に対する信頼区間は狭かった(率比、1.01;95%CI、0.93-1.10)。こうした結果から、乳がん発生率と長期間の夜勤シフトでの労働との中等度の関連が除外される。[ 182 ]
2003年に、乳がんの危険因子と原因について扱うU.K. Generations Studyが設立された。105,000人の女性を対象にしたプロスペクティブ・コホートにおいて、研究登録時と20歳時の夜間の寝室の光量について質問票により情報が入手された。研究では平均6.1年間女性を追跡し、1,775例の乳がんが観察された。夜勤シフトでの労働など、潜在的な交絡因子について調整したところ、夜間の寝室の光量が乳がんリスクに関連しているという証拠は示されなかった。夜間の光量が最高の場合と最低の場合を比較したところ、乳がん発生率のHRは1.01(95%CI、0.88-1.15)であった。[ 183 ]
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- 本要約の変更点(04/29/2020)
-
PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
本要約は包括的に見直された。
本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
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本要約の目的
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、乳がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Breast Cancer Prevention.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/breast/hp/breast-prevention-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389323]
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