医療専門家向け 卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの予防(PDQ®)

ご利用について

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

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リスクのある個人

卵巣がんはまれな疾患で、がん腫が腫瘍の約90%を構成し、胚細胞腫瘍と間質腫瘍が残りを占める。卵巣がんは主として閉経後女性に罹患する疾患である。卵巣がんはいくつかの病理組織学的タイプからなり、高悪性度の漿液性がんは最も一般的で最も致死性となっている。卵巣境界悪性腫瘍または卵巣低悪性度腫瘍(歴史的に卵巣がんの状況において考慮されていた)のカテゴリーは、現在では一般的に非悪性の疾患実体と考えられているが、一部の組織学的サブタイプの低悪性度卵巣がん発症と関係していると仮定されている。[ 1 ]

卵巣がんに対する危険因子として、乳がんおよび/または卵巣がんの家族歴、およびBRCA1BRCA2のほか、選択された高浸透度の遺伝子における有害な変異の遺伝が挙げられる。[ 2 ][ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ](詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)卵巣がんの他の危険因子には、肥満、高身長、子宮内膜症、閉経後のホルモン療法の実施などがある。[ 7 ][ 8 ][ 9 ]

一部の危険因子の卵巣がんとの関連は、病理組織学的サブタイプによって異なる。子宮内膜症と卵巣がんとの関連は、非漿液性サブタイプ、特に明確な細胞がんおよび類内膜がんのサブタイプに対してより強い。[ 10 ]さらに、BRCA1またはBRCA2に有害な変異を有するキャリアでは、以前は卵巣の高悪性度漿液性がんに分類されていた腫瘍の多くが卵管上皮に発生した悪性細胞から発症(漿液性卵管上皮内がん[STIC])している可能性を示唆する証拠が増えつつあるが、こうした腫瘍はほとんどの文書で卵巣がんと記述され続けている。BRCA1またはBRCA2変異のキャリアではない個人においても、卵管に高悪性度漿液性がんが発生する可能性が仮定されているが、同時に高病期の疾患が認められない女性におけるSTICはほとんど確認されていない。さらに、高悪性度漿液性がんと他の組織型の高悪性度がん、特に類内膜がんとの区別については信頼性が低いことをデータが示唆している。粘液がん診断の報告されている割合は劇的に低下しているが、専門家による病理学的レビューでは、これは、卵巣原発腫瘍の割合における真の低下というよりもむしろ潜伏性消化管原発腫瘍からの卵巣への転移の認識が増加したことを反映していると示唆されている。[ 11 ]

卵巣がんリスクの減少に関連する因子には、多経産、経口避妊薬の使用、複数回の妊娠、授乳、卵管結紮術、卵管切除術などがある。[ 12 ][ 13 ][ 14 ][ 15 ]未産婦と比較して、経産婦では卵巣がんのリスクが30~60%低く、出産が増えるたびに予防効果が高くなる。[ 16 ][ 17 ]

参考文献
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  8. Trabert B, Wentzensen N, Yang HP, et al.: Ovarian cancer and menopausal hormone therapy in the NIH-AARP diet and health study. Br J Cancer 107 (7): 1181-7, 2012.[PUBMED Abstract]
  9. Lahmann PH, Cust AE, Friedenreich CM, et al.: Anthropometric measures and epithelial ovarian cancer risk in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition. Int J Cancer 126 (10): 2404-15, 2010.[PUBMED Abstract]
  10. Poole EM, Lin WT, Kvaskoff M, et al.: Endometriosis and risk of ovarian and endometrial cancers in a large prospective cohort of U.S. nurses. Cancer Causes Control 28 (5): 437-445, 2017.[PUBMED Abstract]
  11. Seidman JD, Kurman RJ, Ronnett BM: Primary and metastatic mucinous adenocarcinomas in the ovaries: incidence in routine practice with a new approach to improve intraoperative diagnosis. Am J Surg Pathol 27 (7): 985-93, 2003.[PUBMED Abstract]
  12. Garg PP, Kerlikowske K, Subak L, et al.: Hormone replacement therapy and the risk of epithelial ovarian carcinoma: a meta-analysis. Obstet Gynecol 92 (3): 472-9, 1998.[PUBMED Abstract]
  13. Lacey JV, Mink PJ, Lubin JH, et al.: Menopausal hormone replacement therapy and risk of ovarian cancer. JAMA 288 (3): 334-41, 2002.[PUBMED Abstract]
  14. Mills PK, Riordan DG, Cress RD, et al.: Hormone replacement therapy and invasive and borderline epithelial ovarian cancer risk. Cancer Detect Prev 29 (2): 124-32, 2005.[PUBMED Abstract]
  15. Calle EE, Rodriguez C, Walker-Thurmond K, et al.: Overweight, obesity, and mortality from cancer in a prospectively studied cohort of U.S. adults. N Engl J Med 348 (17): 1625-38, 2003.[PUBMED Abstract]
  16. Permuth-Wey J, Sellers TA: Epidemiology of ovarian cancer. Methods Mol Biol 472: 413-37, 2009.[PUBMED Abstract]
  17. Wentzensen N, Poole EM, Trabert B, et al.: Ovarian Cancer Risk Factors by Histologic Subtype: An Analysis From the Ovarian Cancer Cohort Consortium. J Clin Oncol 34 (24): 2888-98, 2016.[PUBMED Abstract]
概要

注:卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのスクリーニングおよび上皮性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの治療については、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。

十分な証拠が得られている卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのリスク増大因子

家族歴と卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんに対する遺伝的感受性

固い証拠によると、卵巣がんの家族歴、特に第一度近親者における家族歴を有する女性、およびBRCA1またはBRCA2変異などの卵巣がんの遺伝的素因をもつ女性は卵巣がんの発生リスクが高い。(詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)

子宮内膜症

中等度の証拠によると、自己報告され、腹腔鏡下で確認された子宮内膜症は、卵巣がんリスク増加と関連している。[ 1 ][ 2 ]この関連は、非漿液性組織学的サブタイプ、特に類内膜がんおよび明細胞がんに対してより強い。[ 2 ][ 3 ]

影響の大きさ:若干の影響があり、観察されている相対リスク(RR)は1.8~2.4。

ホルモン補充療法

中等度の証拠によると、現在または最近のホルモン療法は卵巣がんリスクの小幅な増加と関連する。ホルモン療法の中止後にリスクは減少する。製剤の種類(エストロゲン単独 vs エストロゲン/プロゲスチン併用)によるリスクの差は認められなかった。[ 4 ][ 5 ]

影響の大きさ:若干の影響があり、観察されているRRは1.20~1.8。

肥満および身長

中等度の証拠によると、身長の伸びおよび肥満指数(BMI)の増加は卵巣がんリスクの若干の増加と関連する。

影響の大きさ:47件の疫学研究より卵巣がんの女性25,157人と卵巣がんではない女性81,211人についての概要分析に基づくと、卵巣がんのRRは身長5cmの増加につき1.07である(95%信頼区間[CI]、1.05-1.09)。また、BMIにおける5kg/m2の増加当たりの卵巣がんのRRは、ホルモン療法を利用したことのない女性で1.10(95%CI、1.07-1.13)、ホルモン療法を受けた経験のある女性で0.95(95%CI、0.92-0.99)である。[ 6 ]

十分な証拠が得られている卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのリスク減少因子

経口避妊薬:便益

固い証拠によると、経口避妊薬の使用は卵巣がん発生リスクの減少と関連する。

影響の大きさ:リスク減少の程度は、経口避妊薬の使用期間と最終使用時から経過した期間により異なる。デンマークの15~49歳の女性を対象にした1件の現代的な全国規模のプロスペクティブ・コホート研究により、ホルモン避妊薬の何らかの使用は10万人年当たり3.2例という卵巣がんの割合の絶対的低下に関連することが明らかにされた。使用中止後30年以上にわたってリスク減少は持続するが、減少の程度は経時的に小さくなる。[ 7 ]

経口避妊薬:有害性

固い証拠によると、エストロゲン-プロゲスチン経口避妊薬の現在の同時併用は特に喫煙者(使用は禁忌である)において静脈血栓塞栓症のリスク増加と関連する。経口避妊薬は長期的な乳がんリスクの増加とは関連しないが、経口避妊薬を使用している間は短期的なリスクの増加と関連する場合がある。この乳がんリスクは最終服用時から経時的に減少する。

影響の大きさ:リスクは製剤ごとに異なる。全体的にみて、経口避妊薬を使用している間の静脈血栓塞栓症の絶対リスクは、1年につき10,000人当たり約3件である。このリスクは喫煙によって変化する。長期的(10年以上)かつ現在も継続して使用している女性における乳がんリスクは、1年につき100,000人当たりで1件増加すると推定されている。このリスクは最終服用から時間とともに消退する。

卵管結紮術:便益

固い証拠によると、卵管結紮術は卵巣がんリスクの減少と関連する。

影響の大きさ:他の避妊法に対して調整したとき、卵管結紮術は卵巣がん発生オッズにおける約30%の相対的低下が得られる。

卵管結紮術:有害性

中等度の証拠によると、有害性には外科処置による以下のようなリスクが含まれる:[ 8 ]

多経産

十分な証拠によると、多経産は卵巣がんリスクの減少と関連する。

影響の大きさ:複数の観察疫学研究からの十分な証拠によると、経産婦では未経産婦よりも卵巣がんリスクが約30%低い。[ 6 ][ 9 ][ 10 ]

卵管切除術

限定されたデータによると、卵管切除術は卵巣がんリスクの減少と関連する。

影響の大きさ:両側卵管切除術については約50%の減少、片側卵管切除術については予防効果がより低い。

授乳

固い証拠によると、授乳は卵巣がんリスクの減少と関連する。

影響の大きさ:授乳1ヵ月ごとに2%の減少。[ 11 ]

リスク低減のための両側卵管卵巣摘出術:便益

固い証拠によると、リスク低減のための両側卵管卵巣摘出術は卵巣がんリスクの減少と関連する。術後の患者で腹膜がん腫症がまれに報告されている。一般にリスク低減のための手術は、卵巣がんに対する遺伝的感受性を有する女性など、卵巣がん発生リスクの高い女性にのみ用いられる。

影響の大きさBRCA1またはBRCA2の突然変異を認める女性で、卵巣がんリスクが90%減少することが観察されている。

リスク低減のための両側卵管卵巣摘出術:有害性

固い証拠によると、手術時点で閉経前の女性に対する予防的卵巣摘出術は、不妊、血管運動症状、性的関心の減退、膣乾燥、頻尿、骨塩密度の低下、および心血管疾患の増加に関連する。

影響の大きさ:自然閉経前に卵巣摘出術を受けた女性において報告されている、血管運動症状の有病率は41~61.4%とさまざまである。両側卵巣切除術を受けホルモン療法を受けなかった女性では、自然閉経を迎えている女性と比べて中等度または重度のほてりを起こす可能性が2倍であった。両側卵巣摘出術を受け早発閉経を来した女性における心血管疾患のRRは4.55(95%CI、2.56-9.01)であった。

不確定な領域

不妊症治療のための卵巣過剰刺激

現在、卵巣過剰刺激と卵巣がんのリスクとの関連を確定できる証拠は不十分である。卵巣がんのリスクは、卵巣刺激薬による治療後も妊娠しない状態(nulligravid)が継続する女性において増大しうる。

影響の大きさ:不確定—浸潤性卵巣がんのリスクは、治療後も妊娠しない状態が継続する女性において増大しうる;卵巣境界悪性腫瘍のリスクは不妊症治療薬の投与を受ける女性において増大しうる。

参考文献
  1. Poole EM, Lin WT, Kvaskoff M, et al.: Endometriosis and risk of ovarian and endometrial cancers in a large prospective cohort of U.S. nurses. Cancer Causes Control 28 (5): 437-445, 2017.[PUBMED Abstract]
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  6. Braem MG, Onland-Moret NC, van den Brandt PA, et al.: Reproductive and hormonal factors in association with ovarian cancer in the Netherlands cohort study. Am J Epidemiol 172 (10): 1181-9, 2010.[PUBMED Abstract]
  7. Iversen L, Fielding S, Lidegaard Ø, et al.: Association between contemporary hormonal contraception and ovarian cancer in women of reproductive age in Denmark: prospective, nationwide cohort study. BMJ 362: k3609, 2018.[PUBMED Abstract]
  8. Lawrie TA, Kulier R, Nardin JM: Techniques for the interruption of tubal patency for female sterilisation. Cochrane Database Syst Rev (9): CD003034, 2015.[PUBMED Abstract]
  9. Fortner RT, Ose J, Merritt MA, et al.: Reproductive and hormone-related risk factors for epithelial ovarian cancer by histologic pathways, invasiveness and histologic subtypes: Results from the EPIC cohort. Int J Cancer 137 (5): 1196-208, 2015.[PUBMED Abstract]
  10. Yang HP, Trabert B, Murphy MA, et al.: Ovarian cancer risk factors by histologic subtypes in the NIH-AARP Diet and Health Study. Int J Cancer 131 (4): 938-48, 2012.[PUBMED Abstract]
  11. Feng LP, Chen HL, Shen MY: Breastfeeding and the risk of ovarian cancer: a meta-analysis. J Midwifery Womens Health 59 (4): 428-37, 2014 Jul-Aug.[PUBMED Abstract]
証拠の記述

発生率および死亡率

米国では2020年に、新たに21,750人が卵巣がんと診断され、この疾患により13,940人が死亡すると推定される。[ 1 ]統計解析モデルを用いると、卵巣がんの新規症例の割合は、過去10年間で毎年平均2.3%低下している。死亡率は、2007年から2016年までに毎年平均2.3%低下している。[ 2 ]2016年に、65歳以上の女性における卵巣がんの全発生率は、女性100,000人年当たり36.5例であった。[ 3 ]Surveillance, Epidemiology, and End Results Programでは卵巣摘出術または卵管切除術に対する調整を行っていないことを考慮すると、これらの手技を受けた女性の割合における人種差は、人種による発生率の比較にバイアスを生じさせている可能性がある。報告遅延調整後の発生率(delayed adjusted incidence)では、白人で2000年から2016年に1.7%、黒人で2000年から2016年に0.7%の統計的に有意な低下が観察された。死亡率では、白人で2003年から2016年に年間2.3%、黒人で2002年から2016年に年間1.8%の統計的に有意な低下が観察された。一般集団における卵巣がんの生涯リスクは1.3%である;一般集団における卵巣がんによる死亡の生涯リスクは0.88%である。[ 3 ]

卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの組織学と発生機序

卵巣がんは次のようないくつかの主要なサブタイプ:漿液性、粘液性、類内膜、および明細胞を含む生物学的および臨床的に不均質な腫瘍クラスである。卵巣がんをI型およびII型腫瘍に分ける分類が提唱されている。この分類システムでは、I型腫瘍に以下が含まれる:[ 4 ]

  1. 類内膜、明細胞、粘漿液性などの子宮内膜症関連サブタイプ。
  2. 低悪性度漿液性。
  3. 粘液性および悪性ブレンナー腫瘍。

I型腫瘍では、類内膜がんと明細胞がんは数的に優勢で、臨床的に最も重要である。一般的に、I型卵巣がんはII型腫瘍よりも低い病期で発症し、より良好な予後を示す。

II型腫瘍は主に高悪性度漿液性がんで構成され、すべての卵巣がんサブタイプの中で最も一般的で最も致死性となっている。これらのがんは通常、症候性の巨大なIII期またはIV期疾患および腹水を呈する。多くの(ただし、おそらくすべてではない)高悪性度漿液性がんが、卵管采上皮における悪性の上皮内(in situ)病変から発生するようであり、続いて卵巣に転移するが、卵巣がんと呼ばれ続けている。卵管起源の証拠は主として、BRCA1/BRCA2変異キャリアに実施されたリスク低減のための卵管卵巣摘出術で得られた標本の検査に基づいており、偶発的に発見された低容積の病変により、漿液性卵管上皮内がん(STIC)を認識できる。しかしながら、高悪性度漿液性がんを有するすべての女性にSTICを同定できるわけではなく、BRCA1/BRCA2変異のキャリアではない女性における卵管の研究はほとんど実施されておらず、これらの腫瘍の発生機序は十分に理解されていないことが示唆されている。漿液性がんは、分子的特徴に基づいてさらに分けることができる。[ 5 ]

異なる卵巣がんのサブタイプの病因および発生機序における不均一性、および経時的な腫瘍分類の変動および研究間でのばらつきにより、病因論的データの解釈は困難である。卵巣がんはまれながんであるため、がんのサブタイプごとに中等度の関連性を検出するには、研究のサンプルサイズと検出力が限られている。しかしながら、より明確ながんの下位分類は、将来の研究で卵巣悪性腫瘍の病因の理解を進めるための一助となるだろう。

十分な証拠が得られている卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのリスク増大因子

家族歴と卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんに対する遺伝的感受性

一部の女性は、遺伝的変異のためにリスクが増加し、そのリスクの大きさは影響を受けた遺伝子と具体的な変異に依存する。基礎にある卵巣がんのリスクは正確な家系図および/またはリスクの遺伝子マーカーを用いて評価することができる。ある特定の遺伝子変異に関連するがんリスクの不確定性ゆえに、卵巣がんの発生率が高い家系外で遺伝情報の解釈を行うことは困難な場合がある。

本要約では、複数の遺伝的症候群または受け継いだ遺伝的要因でリスクが高い女性も対象としていない。(複数の遺伝的症候群に関連する卵巣がんリスクとBRCA1/BRCA2変異のキャリアにおける卵巣がんに関する具体的な情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学および大腸がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)

子宮内膜症

子宮内膜症は卵巣がんリスクのわずかな増加と関連している。この関連は、非漿液性組織学的サブタイプ、特に類内膜がんおよび明細胞がんに対してより強い。卵巣がんのケースコントロール研究13件のデータがプールされた1件の解析では、Ovarian Cancer Association Consortiumの一部であった対照13,226人および浸潤性卵巣がん女性7,911人が含まれた。自己報告の子宮内膜症と卵巣がんリスクとの関連を評価するため、ロジスティック回帰分析が行われた。自己報告の子宮内膜症は、明細胞卵巣がん(オッズ比[OR]、3.05;95%信頼区間[CI]、2.43-3.84;P < 0.0001)、低悪性度漿液性卵巣がん(OR、2.11;95%CI、1.39-3.20;P < 0.0001)、および類内膜浸潤性卵巣がん(OR、2.04;95%CI、1.67-2.48;P < 0.0001)の有意なリスク増加に関連していた。子宮内膜症と、粘液性卵巣がん(OR、1.02;95%CI、0.69-1.50;P = 0.93)または高悪性度漿液性浸潤性卵巣がん(OR、1.13;95%CI、0.97-1.32;P = 0.13)、あるいはいずれかのサブタイプの境界型腫瘍(漿液性卵巣がんについてOR、1.20;95%CI、0.95-1.52;P = 0.12、および粘液性卵巣がんについてOR、1.12;95%CI、0.84-1.48;P = 0.45)との関連は示されなかった。[ 6 ]明細胞卵巣がんおよび類内膜卵巣がんはすべての卵巣がんの約15%を占めていたことを考えると、これらの組織学的サブタイプの生涯リスクは約0.2%であり、これらのデータに基づいて、自己報告の子宮内膜症が認められると生涯リスクは約0.4~0.6%に増加することになる。

Danish National Patient Registerからのコホート研究では、1977年から2012年の間に臨床的に子宮内膜症と診断された45,790人の女性が確認された。データは、卵巣がんの診断を受けた186人の女性が確認されたDanish Cancer Registerと結合された。子宮内膜症は卵巣がん全体におけるリスクのわずかな増加に関連した(標準化発生比[SIR]、1.34;95%CI、1.16-1.55)。これは主に類内膜サブタイプ(SIR、1.64;95%CI、1.09-2.37)および明細胞サブタイプ(SIR、3.64;95%CI、2.36-5.38)の増加に起因していた。漿液性または粘液性の組織学的サブタイプのリスク増加は報告されなかった。[ 7 ]

Nurses' Health Study IIからのデータを用いて、適格女性102,025人から228の卵巣がんが確認された。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、子宮内膜症とがんリスクとの関連が査定され、自己報告 vs 腹腔鏡下で確認された子宮内膜症、診断の遅れ、および危険因子への曝露における子宮内膜症診断後の変化の影響が評価された。自己報告の子宮内膜症は卵巣がんに関連していた(相対リスク[RR]、1.81;95%CI、1.26-2.58)が、腹腔鏡下で確認された子宮内膜症の診断では関連がより強かった(RR、2.14;95%CI、1.45-3.15)。診断の遅れまたは危険因子への曝露における子宮内膜症診断後の変化は、リスクにほとんど影響しなかった。この研究は組織学的サブタイプに基づくリスクの差を検出するには検出力が限られていたが、非漿液性症例はリスクが高い(RR、2.44;95%CI、1.48-4.01)ことが示され、漿液性症例ではリスクは高くなかった(RR、1.69;95%CI、0.92-3.11)。[ 8 ]アフリカ系米国人女性における1件の大規模ケースコントロール研究により、子宮内膜症の既往と卵巣がんとの同様の関連が明らかにされた(OR、1.78;95%CI、1.09-2.90)ことから、主に白人女性集団での所見が黒人女性においても観察されることが示唆されている。[ 9 ]

ホルモン補充療法/ホルモン療法

21,488例の卵巣がんを含む52件の研究(17件がプロスペクティブ研究で35件がレトロスペクティブ研究)のメタアナリシスでは、プロスペクティブ研究における現在または最近のホルモン補充療法の使用によるリスク増大が明らかにされ(RR、1.37;95%CI、1.29-1.46)、レトロスペクティブ研究のデザインでも同様の結果が示された。漿液性がんおよび類内膜がんのサブタイプに対して有意な関係が明らかにされた。[ 10 ]最近の使用では、ホルモン補充療法の使用が5年未満の女性でもリスクと強く関連していた(RR、1.41;95%CI、1.32-1.50)。使用を中止した女性ではリスクが減少し、中止期間が長いほど効果が大きかった。製剤の種類(エストロゲン単独 vs エストロゲン/プロゲスチン併用)によるリスクの差は認められなかった。また使用時の年齢によるリスクの差も認められなかった。[ 11 ][ 12 ]

エストロゲン、プロゲストゲン、およびアンドロゲンの作用を備えた合成ステロイドのチボロンは、現在使用者の場合、非使用者と比較して、子宮内膜がんの発生率比3.56(95%CI、3.08-4.69)の増加に関連している。チボロンは、多くの国で更年期症状の管理または骨粗鬆症の予防に使用することが承認されている。しかしながら、カナダまたは米国では承認されていない。エストロゲンとプロゲスチンによる他の併用療法も乳がんのリスクを高める可能性があるため、リスクおよび有益性を考慮する必要がある。[ 13 ]

肥満および身長

卵巣がんのリスクは身長の伸びおよび体重の増加(肥満指数[BMI])に伴って増大する。[ 14 ]Collaborative Group on Epidemiological Studies of Ovarian Cancerでは、卵巣がん女性12,157人および対照81,311人を含む47件の疫学的研究からの発表済みおよび未発表の両方の個々のデータが集計された。RRは、身長の伸び(身長5cm当たり1.07)およびBMIの増加(5kg/m2当たり1.10)に伴い有意に増大した。これらの知見は、卵巣がんリスクに関連していることが既知の他の因子による影響を受けなかったが、1つの例外としてホルモン療法の実施経験者はBMIの増加に伴うリスクの増大が認められなかった。身長、体重、およびBMIは強く相関すると考えられているので、個別の影響を分離することは困難な場合がある。肥満女性ではまた、卵巣がん死亡率も高いことが示されている。[ 15 ][ 16 ]

十分な証拠が得られている卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのリスク減少因子

経口避妊薬

21ヵ国、45件の研究から得られた卵巣がんの女性23,257人および卵巣がんに罹患していない女性87,303人の個々のデータについて、1件の共同解析が実施された。[ 17 ]経口避妊薬の使用は使用期間による用量反応作用に関連していたが、1960年代から1980年代(この期間に経口避妊薬に含有されるエストロゲンの量がほぼ半減)における10年間の使用では、リスク減少に変化はみられなかった。経口避妊薬の使用が1年未満の女性にリスク減少は観察されなかった。1~4年、5~9年、10~14年、15年以上の使用期間に関連するリスク減少は、それぞれ0.78(99%CI、0.73-0.893)、0.64(99%CI、0.59-0.69)、0.56(99%CI、0.50-0.62)、0.42(99%CI、0.36-0.49)であった。観察されたリスク減少は経口避妊薬療法の中止後も持続したが、最後の使用から時間が経過するにつれて減少の程度は減弱した。使用期間5年当たりの相対的なリスク減少は、直前の10年以内に使用を中止した女性では29%(95%CI、23%-34%)であった;20~29年前に使用を中止した女性では、そうしたリスク減少は15%(95%CI、9%-21%)であった。

経口避妊薬の中でも、より最近の製剤タイプを反映するために、初回解析が2000年以降に発表された24件のケースコントロール研究とコホート研究のみを対象とした1件のメタアナリシスでも、使用期間による用量反応性が観察された。[ 18 ]著者らは、1件の卵巣がんを予防するための治療必要数は185人が5年間服用と推定した。推定される生涯リスクは1.38%であり、経口避妊薬の服用経験率は83%であったことから、著者らは経口避妊薬に起因しうる卵巣がんの生涯の相対的減少率は0.54%と推定した。190万人近い女性を代表したデンマークの1件のプロスペクティブ・コホート研究でもまた、現代的な経口避妊薬が調査され、現在の経口避妊薬使用者では0.58(95%CI、0.49-0.68)というRRの減少が得られ、以前の経口避妊薬使用者では0.77(95%CI、0.66-0.91)というRRの減少が得られていたことが明らかにされた。有益性は使用期間が長くなるほど強化され、最後の使用からの時間が長くなるほど弱まった。プロゲステロンのみの避妊薬では有益性が認められなかった。この研究は、50歳未満の女性に生じた卵巣がんの発生しか含められなかったため、制限があった。[ 19 ]

BRCA1/BRCA2変異のキャリアにおける卵巣がんリスクに関する具体的な情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約を参照のこと。)

デポ型酢酸メドロキシプロゲステロン

注射用プロゲステロン避妊薬(デポ型酢酸メドロキシプロゲステロン[DMPA])の使用と卵巣がんのリスクについては、情報が限られている;複数の研究で他の避妊薬(特に経口避妊薬)との交絡が生じている。メキシコおよびタイで実施された1件の病院ベースの研究では、224症例と対照1,781人が検討されたが(腫瘍およびステロイド避妊薬に関する世界保健機関の共同研究)、DMPAと卵巣がんの関連は認められなかった(RR、1.07;95%CI、0.6-1.8)。[ 20 ]しかし、DMPA経験者の症例はわずか22例しかなく、うち9例は使用期間が6ヵ月未満であった。

その後、タイの12の病院で実施された多施設研究では、330症例と対応対照982人について、経口避妊薬使用と他の関連因子を調整したとき、DMPA使用に関する卵巣がんリスクの統計的に有意な減少が観察された(OR、0.52;95%CI、0.33-0.88)。用量反応の関連性が観察されたが、長期使用のカテゴリーのサンプルサイズは限られていた。[ 21 ]

卵管結紮術

16件のケースコントロール研究、3件のレトロスペクティブ研究、2件のプロスペクティブ・コホート研究を対象とした1件のメタアナリシスで、卵管結紮術に関連する卵巣がんのリスク減少が観察された(RR、0.66;95%CI、0.60-0.73)。[ 22 ]このリスク減少は、最長で卵管結紮術の14年後まで観察された。そのメタアナリシスに引き続き発表された902症例と対照1,802人に対する1件の集団ベースのケースコントロール研究では、卵管結紮術の施行歴に関連する調整後ORが0.62であった(95%CI、0.51-0.75)。[ 23 ]この関連性は経口避妊薬の服用について調整されており、服用は卵巣がんのリスク減少(OR、0.62;95%CI、0.47-0.85)や他の危険因子にも関連していた。[ 23 ]

集団ベースのケースコントロール研究13件の一次データをプールした他のプロジェクトでは、卵管結紮術と卵巣がんリスクの関連に対する調査で、上皮性卵巣がん7,942例、および対照13,904例の検討が行われた。[ 24 ]全体で、卵管結紮術は29%のリスク減少と関連していた(OR、0.71;95%CI、0.66-0.77)。浸潤がんの亜型ごとに異なるリスク減少が観察され、類内膜がんでは52%(OR、0.48;95%CI、0.40-49);明細胞がんでは48%(OR、0.52;95%CI、0.40-0.67);粘液性がんでは32%(OR、0.68;95%CI、0.52-0.89);漿液性がんでは19%(OR、0.81;95%CI、0.74-0.89)であった。

21件のプロスペクティブ・コホート研究からのプール解析では、計130万人の参加者サンプルにおける浸潤性卵巣がん5,584例を対象に、組織学的サブタイプごとに14のホルモン、生殖、および生活スタイルの因子が調査された。全体で、卵管結紮術は18%のリスク減少と関連していた(OR、0.82;95%CI、0.73-0.93)。観察されたリスク減少は浸潤がんのサブタイプごとに異なり、類内膜がんでは40%(OR、0.60;95%CI、0.41-88);明細胞がんでは65%(OR、0.35;95%CI、0.18-0.69);および漿液性がんでは9%(OR、0.91;95%CI、0.79-1.06)であった。粘液性がんでは、1%(OR、1.01;95%CI、0.60-1.71)という有意でないリスク増加が示された。[ 25 ]

授乳

5件のプロスペクティブ研究と30件のケースコントロール研究を含む1件のメタアナリシス[ 26 ]で、授乳と卵巣がんリスクの関連が調査された。授乳経験は卵巣がんリスクの減少に関連していた(RR、0.76;95%CI、0.69-0.83)。授乳期間が5ヵ月増加するごとに、卵巣がんリスクが8%減少した(95%CI、0.90-0.95)。5件のプロスペクティブ研究および35件のケースコントロール研究を含めた別のメタアナリシスにより、授乳経験は卵巣がんリスクの減少に関連していた(RR、0.70;95%CI、0.64-0.76)ことが明らかにされた。これらの結果は以前のメタアナリシスと一致しており、授乳期間の増加とより高いレベルの予防との関連を示唆する以前の知見をさらに支持している。[ 27 ]4件のコホート研究と15件のケースコントロール研究を含む19件の研究の別のメタアナリシスにより、ORが0.66(95%CI、0.57-0.76)で卵巣がんリスクの全般的減少および授乳期間との関連(1ヵ月当たり2%の減少)が明らかにされた。授乳の有益性は最初の8~10ヵ月で最も大きかった。[ 28 ]

リスク低減のための卵管卵巣摘出術

リスク減少手術は、卵巣がんに対する遺伝的感受性を有するなど、卵巣がんのリスクが高い女性に対して検討される選択肢である。(リスク低減のための介入としての手術に関する詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約の経口避妊薬のセクションを参照のこと。)一般集団女性における日和見的な卵管切除術、卵巣摘出術、または卵管卵巣摘出術は他の良性の適応症に対する手術時に考えられる介入として検討されている。卵管切除術もまた、不妊手術の好ましい手段として議論されている。[ 29 ][ 30 ]

有害性

6件の発表された研究で、(卵管切除術または子宮摘出術を併用する、または併用しない)卵巣摘出術で組織が良性であった場合に伴うリスクが分析されている。3件のコホート研究では、閉経前(45~50歳)に実施された卵巣摘出術は、おそらく心血管疾患に関係して全般的な死亡率の増加に関連していることが明らかにされた。この知見は、特にホルモン補充を使用していない個人で示された。Women's Health Initiativeでは、両側卵管卵巣摘出術は死亡率の増加に関連していなかった。National Health and Nutrition Examination Survey(NHANES III)では、卵巣摘出術は全体としては死亡率に関係していなかったが、ホルモン補充を使用していない40歳未満の肥満女性では死亡率が増加した。California Teachers Studyでは、卵巣摘出術による死亡リスクは明らかにされなかったが、ホルモン補充を使用していない女性はわずかに3%であった。全体として、データは、比較的若年の女性における卵巣摘出術によって全死亡率がおそらく増加すること、およびこのリスクはホルモン補充により弱められることを示唆している。[ 31 ][ 32 ][ 33 ][ 34 ][ 35 ][ 36 ]

卵管切除術

卵管切除術と卵巣がん/卵管がんのリスクに関するデータは限定されているが、一貫している。3件の研究を対象とした1件のメタアナリシスにより、卵管切除術を受けた女性では、卵管が無傷の女性と比較してこれらのがんのリスクに対するORが0.51(95%CI、0.35-0.71)であることが明らかにされた。[ 37 ]これらの研究には、1973年から2009年に実施されたスウェーデンのレコードリンケージ研究(平均追跡期間23年)が含まれており、手術を受けていない女性と比較して、卵巣がんリスクに対して以下のハザード比(HR)が明らかにされた:

両側卵管切除術に対する予防は片側卵管切除術に対する予防の約2倍であった。[ 38 ]この報告には限定的な共変量データが含まれたが、結果はメタアナリシスに含まれた他のより小規模の研究と類似していた。

卵巣の蓄えを示す循環血中の代替マーカーに基づく限られたデータでは、卵管切除術は卵巣機能に有害な影響を及ぼさないことが示唆されている。[ 39 ][ 40 ]

卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんとの関連性についての証拠が不十分な因子

食事因子

これまでに、各種の食事因子と卵巣がんのリスクとの間で一貫した関連性は認められていない。

23件のケースコントロール研究と3件のコホート研究に対する1件の系統的レビューとメタアナリシスでは、アルコール摂取と上皮性卵巣がんとの関連に対する証拠は示されなかった。[ 41 ]

米国農務省の現行のガイドラインに基づくHealthy Eating Index(HEI)についての1件のケースコントロール研究では、どの食品群においても最高水準のHEIスコアと卵巣がんリスクの間に関連が認められなかった。[ 42 ]卵巣がんにおける食事の役割に関する1件の系統的レビューは、200例以上の症例を報告しているプロスペクティブ研究に限定して検討を行った。[ 43 ]10件のコホート研究から発表された24報の文献に対するレビューが行われたが、卵巣がんのリスクに一貫して関連する食事因子は認められなかった。

アスピリンおよび非ステロイド性抗炎症薬

観察研究21件についての1件の系統的レビューおよびメタアナリシスでは、浸潤性卵巣がんのリスク減少とアスピリン使用の関連(RR、0.88;95%CI、0.79-0.98)が示されたが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)との間には統計的に有意な関連は認められなかった。[ 44 ]このレビュー以降に発表された1件の研究では、NIH-AARP Diet and Health StudyにおけるNSAID使用と卵巣がんリスクを調査した。卵巣がんの発生とアスピリンの常用(RR、1.06;95%CI、0.87-1.29)の間にも、NSAID使用(RR、0.93;95%CI、0.74-1.15)との間にも関連は認められなかった。[ 45 ]902例の発生症例と対照1,802人に対する1件の集団ベースのケースコントロール研究[ 46 ]では、卵巣がんのリスク減少が継続使用(0.71;95%CI、0.53-0.97)または低用量での毎日の使用(0.72;95%CI、0.53-0.97)に関連していることが認められた。この研究では、非選択的NSAIDではなく、選択的シクロオキシゲナーゼ-2 NSAIDが卵巣がんのリスク減少に関連していた(OR、0.60;95%CI、0.39-0.94)。Nurses' Health Studiesに参加した約200,000人の女性を対象とするコホート分析では、経時的なアスピリン使用の強度とその期間に関する詳細なデータが用いられ、低用量のアスピリン使用(≤100mg/日)について卵巣がんリスクの低下(HR、0.77;95%CI、0.61-0.96)が示された一方で、標準用量のアスピリンではリスクの低下が認められなかった(HR、1.17;95%CI、0.92-1.49)。[ 47 ]

会陰部のタルカムパウダー曝露

会陰部のタルカムパウダー曝露と卵巣がんリスクの増加との関連を支持するほど、証拠は優位ではない。複数のケースコントロール研究およびコホート研究の結果は一貫していない。16件の研究のメタアナリシスでは、タルカムパウダーの使用に伴うリスクの増大が観察された(RR、1.33;95%CI、1.16-1.45);しかしながら、用量反応関係は認められなかった。[ 48 ]症例8,525例および対照9,859例を含む複数のケースコントロール研究で構成されたOvarian Cancer Association Consortiumからのプール解析では、陰部へのパウダー使用に関連する上皮性卵巣がんの若干のリスク増加(OR、1.24;95%CI、1.15-1.33)が明らかにされたが、生涯にわたる使用回数の増加に関する傾向は統計的に有意ではなかった(P trend = 0.17)。[ 49 ]米国におけるアフリカ系米国人女性を対象にした1件の集団ベースのケースコントロール研究により、陰部へのパウダー使用と上皮性卵巣がんのリスク間の関連が明らかにされた(OR、1.44;95%CI、1.11-1.86)。[ 50 ]症例584例および対照745例を対象にしたこの研究では、すべての陰部へのパウダー使用について用量反応関係が報告された。特に、すべての陰部へのパウダー使用において、毎日のパウダー使用は、毎日使用していない場合(OR、1.12;95%CI、0.80-1.58)と比較して、卵巣がん発生の調整後ORの増加(OR、1.71;95%CI、1.26-2.33)に関連した。看護師を対象としたコホート研究では、会陰部のタルク使用と卵巣がんリスクの関連性は観察されず(RR、1.09;95%CI、0.86~1.37)、使用頻度の増加に伴うリスク増大の証拠も認められなかった。[ 51 ]

別のプロスペクティブ研究であるWomen's Health Initiativeで、登録時のがんの病歴がなく、曝露情報を提示した女性61,576人について、会陰部のタルカムパウダー使用と卵巣がんの発生の関連が検討された。この集団内で429例の卵巣がんが生じた。陰部へのパウダー、生理用ナプキン、ペッサリーの使用が、個別に、および複数の組み合わせによる曝露として調査された。女性の追跡期間は平均12.4年であった。個別の曝露方法または全般的な組み合わせによる曝露について解析したところ、卵巣がんと使用経験との関連は認められなかった。会陰部へのパウダー曝露を組み合わせて観察されたリスク(HR)は1.06(95%CI、0.87-1.28)であり、使用期間の長期化によるリスク増加は観察されなかった。[ 52 ]女性の健康に関する4件の長期研究に参加した100万人の女性の4分の1を含む最近の別の研究は、他の前述の研究と一致しており、会陰部のタルカムパウダー曝露を利用したことのない場合における卵巣がんリスクは、利用した場合と同程度で、HRが1.08(95%CI、0.99-1.17)であった。[ 53 ]

不確定な領域

不妊症治療による卵巣過剰刺激

卵巣過剰刺激と卵巣がんの関連については議論が続いている。9件のコホート研究に対する1件の系統的レビューおよびメタアナリシスの結果は、不妊症治療(すなわち、in vitro受精[IVF])で卵巣過剰刺激に曝露した女性109,969人を対象とし、76例の卵巣がんの発生を認めたが、関連についての証拠は結論に達しなかった。[ 54 ]卵巣がんのリスク増大は、比較群が一般集団である場合に認められたが(RR、1.50;95%CI、1.17-1.92)、曝露していない不妊症女性を基準群とした場合は、統計的に有意なリスク増大はみられなかった(RR、1.26;95%CI、0.62-2.55)。メタアナリシスに含まれたコホート研究のうち、IVFに曝露した女性を10年以上にわたって追跡した研究が1件しかないことが、1つの主な限界である。

計186,972人の女性を対象にした11件のケースコントロール研究と14件のコホート研究を含む1件のCochrane系統的レビューでも、関連は確定できなかった。方法論的および臨床的な不均一性が原因で、要約統計量は算出されなかった。治療を受けた女性と未治療で妊孕性が低い女性を比較した7件のコホート研究では、過剰刺激をもたらす薬剤との関連について過剰リスクは示されなかった。2件のコホートでは、治療を受けた女性と一般集団との比較において、2~5倍のリスク増大が示された。卵巣境界悪性腫瘍のリスク増大は、3件のケースコントロール研究と2件のコホート研究で認められた。全体として著者らは、浸潤性卵巣腫瘍のリスク増大が不妊治療薬による治療に関連していることを示す有力な証拠はないと結論付けた。[ 55 ]

Cochraneレビューの後、不妊症コホートについての追跡研究[ 56 ]が発表された。1965年から1988年に登録した女性9,825人からなるレトロスペクティブ・コホートは、2010年まで追跡された。85人に卵巣がんが発生した。全体的にみて、卵巣がんとクエン酸クロミフェン(RR、1.34;95%CI、0.86-2.08)の間にも、ゴナドトロピン(RR、1.00;95%CI、0.48-2.07)との間にも関連性は存在しなかった。治療後も未経妊が継続する女性のサブグループでは、卵巣がんのリスク増大がクエン酸クロミフェンに関連していた(RR、3.63;95%CI、1.36-9.72);治療後に妊娠に至った女性では、治療を受けていない女性との比較でリスク増大が観察されなかった。

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本要約の変更点(04/22/2020)

PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。

証拠の記述

本文に以下の記述が追加された;統計解析モデルを用いると、卵巣がんの新規症例の割合は、過去10年間で毎年平均2.3%低下している;死亡率は、2007年から2016年までに毎年平均2.3%低下している(引用、参考文献2としてNational Cancer Institute)。米国における卵巣がん発生率および死亡率の変化の統計も更新された(引用、参考文献3としてHowlader et al.)。

本文に以下の記述が追加された;プロスペクティブ研究であるWomen's Health Initiativeで、登録時のがんの病歴がなく、曝露情報を提示した女性61,576人について、会陰部のタルカムパウダー使用と卵巣がんの発生の関連が検討された。個別の曝露方法または全般的な組み合わせによる曝露について解析したところ、卵巣がんと使用経験との関連は認められなかった;会陰部へのパウダー曝露と組み合わせて観察されたリスクは1.06であり、使用期間の長期化によるリスク増加は観察されなかった(引用、参考文献52としてHoughton et al.)。本文に以下の記述も追加された;女性の健康に関する4件の長期研究に参加した100万人の女性の4分の1を含む最近の別の研究は、他の前述の研究と一致しており、会陰部のタルカムパウダー曝露を利用したことのない場合における卵巣がんリスクは、利用した場合と同程度で、ハザード比が1.08であった(引用、参考文献53としてO'Brien et al.)。

本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。

本PDQ要約について

本要約の目的

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

査読者および更新情報

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:

要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。

本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。

証拠レベル

本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。

本要約の使用許可

PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。

本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:

PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Ovarian, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancer Prevention.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/ovarian/hp/ovarian-prevention-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389359]

本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。

免責条項

これらの要約内の情報は、保険払い戻しの決定基準として使用されるべきものではない。保険の適用範囲に関する詳しい情報については、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手できる。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトについての問い合わせまたはヘルプの利用に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載されている。質問はウェブサイトのEmail UsからもCancer.govに送信可能である。