ご利用について
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのスクリーニングについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- 概要
-
注:卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの予防;上皮性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの治療;卵巣胚細胞腫瘍の治療;および卵巣低悪性度腫瘍の治療については、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。
スクリーニングに関連した死亡率の有益性の欠如を示す証拠
単一閾値のがん抗原(CA-125)値および経膣超音波検査(TVU)
卵巣がん発症の平均リスクを有する55~74歳の女性について血清マーカーのCA-125(陽性結果を35U/mLとする固定閾値で)を年1回6年間およびTVUを4年間実施するスクリーニングでは、追跡期間中央値14.7年後で、卵巣がんによる死亡率の低下にはつながらないことを示す固い証拠が得られている。
影響の大きさ:卵巣がんによる死亡率は、スクリーニング群で女性10,000人当たりの死亡3.8、通常ケア群で10,000人年当たりの死亡3.6であったことから、死亡率比は1.06(95%信頼区間[CI]、0.87-1.30)となる。[ 1 ]
TVU単独でのスクリーニング、またはCA-125値(Risk of Ovarian Cancer Algorithm[ROCA:卵巣がんリスクアルゴリズム]で評価)とTVUの複数の方式によるスクリーニング
英国のCollaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS)において、TVU単独でのスクリーニング、またはCA-125値(ROCAで評価)とTVUを併用した複数の方式によるスクリーニングでは、7~11回のスクリーニングを受けた女性を中央値で11.1年間追跡したところ、予め設定されていた主要エンドポイントに基づくいずれのアプローチのスクリーニングでも死亡率の有益性は示されなかった。[ 2 ]
影響の大きさ:複数の方式によるスクリーニングでは、スクリーニングなしと比較して有意でないものの死亡率の低下に関連した(15%の死亡率低下;95%CI、-3%から30%;P = 0.10)。超音波単独スクリーニングでもまた、有意ではない死亡率の低下が得られた(11%の死亡率低下;95%CI、-7%から27%;P = 0.21)。[ 2 ]
有害性の記述
固い証拠によると、卵巣がんのスクリーニングにより、偽陽性の検査結果が生じる。スクリーニングを受けた女性では、卵巣摘出術の割合およびその他の失神および挫傷のような軽度の合併症の割合が高かった。
影響の大きさ:
UKCTOCS試験において、手術手技で明らかになる偽陽性率はTVU単独群でスクリーニング10,000例当たり50例、複数の方式によるスクリーニング群ではスクリーニング10,000例当たり14例であった。[ 2 ]
一般集団におけるスクリーニングの対象は閉経後女性であり、重大な合併症は手術に関係している。比較的若年の女性、BRCA1/2突然変異キャリアにおける潜在的な標的集団において、45歳未満で受ける卵巣摘出術は心血管系疾患に続発する死亡を増加させうる。また卵巣摘出術は、比較的若年の女性に実施した場合、エストロゲン受容体陽性乳がん(BRCA2突然変異キャリアでの発生頻度が高い)のリスクを低下させる可能性もある。
参考文献- Pinsky PF, Yu K, Kramer BS, et al.: Extended mortality results for ovarian cancer screening in the PLCO trial with median 15years follow-up. Gynecol Oncol 143 (2): 270-275, 2016.[PUBMED Abstract]
- Jacobs IJ, Menon U, Ryan A, et al.: Ovarian cancer screening and mortality in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): a randomised controlled trial. Lancet 387 (10022): 945-56, 2016.[PUBMED Abstract]
- 証拠の記述
-
発生率および死亡率
卵巣がんはまれである;卵巣がんと診断される生涯リスクは1.25%である。[ 1 ]
卵巣がんは米国人女性におけるがん死亡の主要原因の中で第5位を占めており、すべての婦人科がんの中では最も死亡率が高い。米国における2020年の卵巣がんの新規患者数は21,750人、同疾患による死亡者数は13,940人と推定されている。2007年から2016年までの期間には、卵巣がんの発生率は年間1.6%減少した。2008年から2017年の期間には、卵巣がんの死亡率は年間2.3%減少した。[ 2 ]卵巣がんの生存予後はおおむね病期に依存しており、病期は病理組織学的タイプに強く関連している。卵巣がん女性の約80%が高悪性度の漿液性がんを有し、このうち90%が、不良な生存につながるIII期またはIV期疾患を呈する。[ 1 ][ 2 ][ 3 ]
上皮性卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの種類
卵巣がんという用語は、卵巣内の胚細胞や間質組織、上皮組織から発生しうる卵巣起源の不均一な悪性腫瘍群を包含している。上皮性がんは最も一般的なタイプの卵巣がんであり、さらに次の主要な5つの型に分類される:高悪性度の漿液性がん、類内膜性がん、明細胞型がん、粘液性がん、および低悪性度の漿液性がん。[ 4 ]BRCA1/BRCA2突然変異キャリアからリスク低減のための手術中に切除された標本の精密な病理検査のデータにより、卵管采において高悪性度の漿液性がん(漿液性卵管上皮内がん[STIC])の推定前駆体が実証されたことから、以前は卵巣に分類されたこのグループのがんの多くが実際には卵管原発腫瘍であることが示唆されている。同様の病変がBRCA1/2突然変異の非キャリアにおいて発見されているが、このグループのデータのほとんどは骨盤の至るところに巨大ながんが同時に存在することで制限がある。STICはすべての高悪性度漿液性がんの症例で発見されるわけではないため、それらの腫瘍には他の起源の可能性が示唆されている。多くの子宮内膜がんおよび明細胞型がんは、剥離した月経期子宮内膜の移植および持続の結果として起こりうる良性病変である子宮内膜症から発生すると仮定されている。
悪性胚細胞腫瘍および間質性腫瘍(顆粒膜細胞腫瘍など)はまれであり、悪性卵巣腫瘍の10%以下を占める。[ 5 ]
危険因子
卵巣がんリスクの増加または低下に関連する因子の詳細な記述に関する詳しい情報については、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんの予防に関するPDQ要約の十分な証拠が得られている卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのリスク増大因子のセクションを参照のこと。BRCA1およびBRCA2遺伝性乳がん-卵巣がん症候群やリンチ症候群など、いくつかのがん家族症候群が卵巣がんリスクの顕著な増加と関連している。[ 5 ][ 6 ](これらの症候群および卵巣がんのこの他の遺伝的危険因子に関する詳しい情報については、乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関するPDQ要約の乳がんおよび婦人科がんの素因の常染色体優性遺伝のセクションを参照のこと。)
さまざまなスクリーニング方法に関連した死亡率の有益性の欠如を示す証拠
卵巣がんは、持続性ながらあいまいな症状を示すことが多く、通常はがんが転移した後に症状が現れる。そのため、卵巣がんのスクリーニング方法として症状指数の使用を提唱している研究者もいる。[ 7 ][ 8 ]これは、定義上、無症候性スクリーニングではないため、本要約では詳しい検討は行わない。
婦人科検診には通常、双合診が含まれるが、この手技は一般的に早期がんの発見には感度が不足しているとみなされている。[ 9 ][ 10 ]この検査によって卵巣がんの早期発見および卵巣がん死亡率の低下が得られるという有益性の証拠はなく、追加の検討はされていない。
その他のスクリーニング検査には、経膣超音波検査(TVU)および血清中のがん抗原125(CA-125)の測定がある。これらは、組み合わせて実施されることが多い。卵巣がんのスクリーニングに適用される可能性のあるいくつかのバイオマーカーが開発段階にあるが、早期発見および死亡率低下に対する効力に関しての妥当性の確認または評価は未だ行われていない。
2016年9月に発表された米国食品医薬品局のSafety Communicationでは、卵巣がんを検査するためにすべての集団の女性に現在提供されているスクリーニング検査を使用しないように推奨している。スクリーニング検査が偽陰性の無症状の高リスク女性は、有効な予防のための治療を延期する可能性がある。
英国のCollaborative Trial of Ovarian Cancer Screening(UKCTOCS)
TVU(または経膣ソノグラム[TVS])は、卵巣の大きさを確実に測定でき、小さな腫瘤も検出できることから、卵巣がんのスクリーニング法として提唱されている。[ 11 ]
UKCTOCSでは、50~74歳でTVU単独で年1回のスクリーニングを7~11回実施にランダムに割り付けられた閉経後女性50,623人およびCA-125検査とTVUの複数の方式によるスクリーニングを受けた女性50,264人(下記を参照のこと)における転帰が、スクリーニングを受けなかった女性101,299人(比較群として機能)の結果と比較された。女性は2001年から2005年に英国の13の試験施設で募集された。試験開始後(ただし、解析前に)、プロトコルは2回修正された:1)この研究はより大きな検出力を達成するために延長された、2)複数の方式によるスクリーニング群における紹介基準は陽性のスクリーニングのパーセンテージを高めるために緩和された。[ 12 ]
TVUは正常(年1回のスクリーニングを継続);中等度(3ヵ月後にCA-125およびTVUによる再検査);または異常(6週間以内に再検査)に採点された。TVU群では、314例のがんが診断され、卵巣がん関連死は154例であったのに比べ、非スクリーニング群では、630例のがんが診断され、卵巣がん関連死は347例であった。死亡率はTVUスクリーニング群の方が有意ではないものの低かった(11%;95%CI、-7%から27%;P = 0.21)。TVUスクリーニングによって手術で明らかになる偽陽性は、女性10,000人のスクリーニング当たり50例であった。合併症はスクリーニングでは1%未満で、手術で3.4%であった。追跡期間中央値11.1年で、卵巣がん死はスクリーニング受診女性の0.30%および非スクリーニング女性の0.34%でみられた。[ 12 ][ 13 ]
卵巣がんスクリーニングのための血清CA-125検査
CA-125は、上皮性卵巣がん患者を臨床的にモニターするのに用いられる腫瘍関連抗原である。[ 14 ][ 15 ]CA-125値の測定は、ある閾値のカットポイントを用いた単一の検査または経時的な値の変化を調べるアルゴリズムにより、卵巣がんを早期発見するための強力なマーカーとして提案されている。2件のランダム化試験で、複合的なスクリーニングを行うためにCA-125がTVUと並行してまたは逐次的に用いられている。最も一般的に報告されているスクリーニング検査陽性となるCA-125の参照値は35U/mLであり、この値が検査結果異常を定義するためにProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian(PLCO)Screening Trial(NCT01696994)において用いられた参照値であった。TVUと併用するCA-125値の測定[ 16 ]は、PLCO試験において評価されている卵巣スクリーニング介入である。[ 17 ][ 18 ]CA-125値の上昇は卵巣がんに特異的なものではなく、婦人科がん以外のがん[ 15 ]、子宮内膜症、[ 19 ]肝疾患、うっ血性心不全、胸膜液または腹水の貯留、妊娠第1トリメスターといった患者に確認されている。[ 20 ][ 21 ]血清バンクを用いたネステッドケースコントロール研究2件で、卵巣がんの検出に関するCA-125試験の感度が推定された。[ 22 ][ 23 ]CA-125値の閾値を35U/mL以上とした場合の感度は、追跡開始から3年以内に発症した症例を対象とすると20~57%であった;特異度は95%であった。
第II/III相バイオマーカー研究が実施され、卵巣がん患者の4つの部位から採取した標本を用いてCA-125値など、卵巣がんのいくつかのマーカーの感度が評価された。早期がん(I期およびII期卵巣がん)に対する推定感度は、95%に固定した特異度を得られるように設定されたカットポイントで56%(95%信頼区間[CI]、49%-72%)であった。95%の特異度でのCA-125のカットポイントに対する閾値は24U/mLであった。症例全体(症例の56%が診断時にIII期またはIV期疾患であった)に対する感度は73%(95%CI、64%-84%)であった。35U/mLの臨床的カットポイントを用いた場合、感度は低下した。[ 24 ]
Prostate, Lung, Colorectal, and Ovarian(PLCO)Cancer Screening Trial:単一閾値のCA-125値およびTVU
PLCO試験では、55~74歳の女性に対して、陽性閾値を35U/mLとして血清CA125検査を6年間毎年実施するスクリーニングとTVUを4年間毎年実施するスクリーニングに基づいて、スクリーニングの卵巣がん死亡率に対する効果が評価された。女性は1993年11月から2001年7月に米国内の10箇所のスクリーニング施設でスクリーニング群(n = 39,105)または通常ケア群(n = 39,111)にランダムに割り付けられた。被験者およびその医療担当者は、スクリーニング検査の結果を受け取り、異常判定の評価に対処した。通常ケア群では、CA-125またはTVUによるスクリーニングは提供されなかったが、通常の医療は受けた。2010年2月28日まで、被験者は最大13年(中央値、12.4年;範囲、10.9~13.0年)の期間、がんの診断および死亡について最初に監視された。原発性腹膜がんおよび卵管がんを含めた卵巣がんによる死亡率が主要アウトカム評価値であった。副次的アウトカムは、卵巣がん発生率、スクリーニング検査および診断検査に伴う合併症などであった。[ 25 ]PLCO試験参加者を集約度の高い追跡プロセスに移行した後、死亡率の追跡は2012年末まで延長され、追跡期間は最長で19.2年、中央値は14.7年となった。[ 26 ]
スクリーニングの遵守率は、1回目の85%から6回目の73%の範囲で、通常ケア群における混入率は、CA-125の約3.0%からTVUの約4.6%の範囲であった。最初の4回のスクリーニングでは、女性の11.1%が1回以上陽性となり、TVUでは8.1%が1回以上陽性、CA-125検査では3.4%が1回以上陽性であった。両検査法によるがん発見数は期間を通してほぼ一定であった。卵巣がんと診断された女性は、介入群で212人(10,000人年当たり5.7)、通常ケア群で176人(10,000人年当たり4.7)であった(率比、1.21;95%CI、0.99-1.48)。病期の分布は両研究群とも同程度で、III期およびIV期のがん症例が介入群(163例、77%)および通常ケア群(137例、78%)のいずれも大多数を占めた。がん症例の治療法の分布は、各病期内では両群間できわめて類似していた。当初の追跡期間(最長、13年)では、卵巣がんによる死亡は、介入群で118人(10,000人年当たり3.1)、通常ケア群で100人(10,000人年当たり2.6)であった(死亡率比、1.18;95%CI、0.82-1.71)。延長した追跡期間(中央値、14.7年;最長、19.2年)では、卵巣がんによる死亡は、介入群で187人(10,000人年当たり3.8)、通常ケア群で176人(10,000人年当たり3.6)であった(死亡率比、1.06;95%CI、0.87-1.30)。[ 26 ]検査結果が偽陽性であった女性3,285人のうち、1,080人が外科的フォローを受けた。外科的フォローを受けた1,080人のうち、163人の女性が重大な合併症を1回以上経験した(15%)。合計すると、介入群の女性1,771人(7.7%)および通常ケア群の女性1,304人(5.8%)が卵巣摘出を行ったと回答した。別の原因(卵巣がん、大腸がん、および肺がんを除く)により、介入群で2,924人(10,000人年当たり76.6)、通常ケア群で2,914人(10,000人年当たり76.2)が死亡した(率比、1.01;95%CI、0.96-1.06)。[ 25 ][ 27 ]
PLCO試験において、卵巣の画像検査を受けていた女性は、卵巣の画像検査を受けていなかった女性よりも卵巣がんリスクがわずかに高かった(ハザード比、1.42;95%CI、1.00-2.01)。[ 28 ]ネステッド解析により、卵巣容積の増加が診断の1~2年前に検出可能であったが、変化の大きさを臨床管理に言い換えられるとは考えられなかった。したがって、米国の一般集団の女性を対象に、CA-125とTVUによる同時スクリーニングを通常ケアと比較しても、卵巣がんの死亡率に減少はみられなかった。[ 25 ]
Shizuoka Cohort Study of Ovarian Cancer Screeningでは、1985年から1999年まで日本の静岡県にある212箇所の病院において一般女性を対象にスクリーニング群(n = 41,668)または対照群(n = 40,799)にランダムに割り付けた。この試験でのスクリーニングプロトコルは年1回の頻度で超音波検査とCA-125検査を行うというものであった。異常所見が認められた女性は婦人腫瘍科医に紹介された。2002年の静岡県のがん登録とのレコードリンケージによって卵巣がんの診断状況が確認された。静岡県の1年分の死亡証明書ファイルが調査され、生存状況が確認された。平均追跡期間は9.2年であり、1人当たりのスクリーニング受診回数の平均値は5.4回であった。発見された卵巣がんの数は、スクリーニング群では35例、対照群では32例であり、病期の分布にも統計的有意差は認められなかった。一方、定期的にスクリーニングを受けていた被験者では、その9%が1回以上の偽陽性を経験していた。[ 29 ]この試験から死亡率の結果は得られていない。
Risk of Ovarian Cancer Algorithm(ROCA)の陽性検査結果に従ったCA-125とTVUを併用する卵巣がんスクリーニング
UKCTOCS試験では、ROCA(このアルゴリズムに基づくと、陽性の検査基準は絶対値にかかわりなく、ある女性の連続測定における統計的に有意な増加として定義されている)を用いて経時的なCA-125測定を評価した。このアプローチの目標は、個人におけるわずかな変化を同定することでがんを早期に発見することである。UKCTOCSの複数の方式によるスクリーニングでは、一次スクリーニングとしてROCAおよび(ROCAの結果に基づいて)二次スクリーニングとしてTVSを用いる2段階のスクリーニングが組み込まれ、卵巣がん死亡率への影響についてスクリーニングなしの観察と比較された。複数の方式によるスクリーニング群の女性50,078人中、338人が卵巣がんを診断され、148人がこのがんにより死亡した。複数の方式によるスクリーニングにより、卵巣がんの40%がI期、II期、またはIIIA期で発見された一方、スクリーニングなしの群では26%がこれらの病期で診断された(P < 0.0001)。この群における合併症は、スクリーニングの1%未満であり、3.1%が手術による合併症を発症した。複数の方式によるスクリーニングを用いて、偽陽性の結果として手術に至った割合は、10,000スクリーニング当たり14例であった。追跡期間中央値11.1年で、このスクリーニング方法での死亡は0.29%であったのに対し、観察群では0.34%であった。Cox回帰分析に基づくスクリーニングでの死亡率低下の主要エンドポイントは、15%の統計的に有意でない死亡率の低下を示した(95%CI、-3%から30%;P = 0.10)。試験ではベースライン時のCA-125値に基づいて疾患であると考えられた症例を除いて事前に規定された解析を実施していた。このサブセット解析により、観察群と比較して20%という有意な死亡率の低下(95%CI、-2%から40%、P = 0.021)が明らかにされた。[ 12 ]
ROCAの使用により、早期(I期およびII期)卵巣がんの同定が潜在的に改善できるかどうかを明らかにするため、PLCO試験において1件のネステッド事後研究が実施された。[ 30 ]この研究では次の2つのシナリオ:最高の条件および病期の移行において、潜在的な影響が評価された。最高の条件のシナリオでは、ROCAによって単一閾値のCA-125値よりも早期に発見されたがんはすべて死亡を回避できると仮定された。病期の移行シナリオでは、PLCOで観察された早期生存率をROCAによりさらに早期で発見された症例に適用された。ROCAによる卵巣がん死亡リスクは比較的低かったが、推定値は統計的に有意ではなかった(最高の条件のシナリオでの相対リスク[RR]、0.90[95%CI、0.69-1.17]および病期の移行シナリオでのRR、0.95[95%CI、0.74-1.23])。
PLCO試験の年1回のCA-125値を用いた別のレトロスペクティブ研究では、PLCO試験で同定された卵巣がん発生症例44例をより早期に発見するためにパラメトリック経験ベイズ法(PEB)の長期アルゴリズムの潜在的影響が調査された。特異度を99%に設定した場合、PEBでは単一閾値のカットポイントを用いた場合よりも平均で10ヵ月早くCA-125値を「異常」と示した。[ 31 ]このことが卵巣がん死亡率に利益があるかどうかは決定できない。
PLCO試験ではまた、卵巣がん発症の予測因子としてCA-125値の変化速度も多重ロジスティックス回帰モデルを用いて調査されている。[ 32 ]CA-125値の変化速度とスクリーニング検査の間隔はどちらも卵巣がんの発症に関連している。卵巣がんのリスクは、変化速度(1ヵ月当たりのU/mLとして測定される)が増加するにつれて高くなり、スクリーニング検査の間隔が長くなるほど低くなった。
他の潜在的なマーカー
この他にも単独でまたはCA-125値と併用して卵巣がんを早期発見しうるバイオマーカーを明らかにするための研究が継続されている。CA-125、HE4、トランスサイレチン、CA15.3、CA72.4など、一連のバイオマーカーが複数のコホート研究およびランダム化試験(PLCO試験など)から集められた標本を用いて評価された。[ 24 ]第II相およびIII相バイオマーカー研究により、CA-125は依然として卵巣がんに対する「単一の最良のバイオマーカー」であると結論付けられた。PLCO試験内でネストされた別のレトロスペクティブ研究には、118人の卵巣がん症例と1症例当たり8人の対照が含められ、CA-125に加えて7つのプロテオミクスバイオマーカー(アポリポ蛋白A1、切断されたトランスサイレチン、トランスフェリン、ヘプシジン、β-2ミクログロブリン、結合組織活性化蛋白III、およびインターαトリプシンインヒビター重鎖)が評価された。[ 33 ]CA-125への7つの蛋白バイオマーカーの追加によって、CA-125値単独使用を上回る感度の改善は得られなかった。これは、同じ集団を診断前の血液標本よりも診断後の血液標本を用いてこれらのマーカーを予備的に評価したものとは対照的であった。[ 34 ]
スクリーニングの有害性
PLCO試験により提供されているデータは、スクリーニングに関係した悪影響についての信頼性が現在のところ最も高い。[ 25 ]CA-125およびTVUに関連した挫傷や失神などの軽度の合併症は、CA-125によるスクリーニングを受けた女性10,000人当たり58.3例の割合で発生し、TVUによるスクリーニングを受けた女性10,000人当たり3.3例の割合で発生した。卵巣がんを診断された女性における診断検査に関連した重大な合併症としては、感染症、失血、腸損傷、および心血管イベントが含まれた。通常ケア群で卵巣がんと診断された女性の52%およびスクリーニング群で卵巣がんと診断された女性の45%で、重大な合併症が1件以上報告された。
3,285人の女性で偽陽性の検査結果が得られ、これは各スクリーニングで約5%の割合となる。偽陽性検査のほとんど(60%)がTVUの結果であった。検査結果が偽陽性であった女性3,285人のうち、33%が手術を受けた。手術を受けた1,080人のうち、15%が222の重大な合併症を経験し、これは100回の外科手技当たり20.6回の合併症発生率である。[ 25 ]
介入群の女性は、対照群の女性よりも卵巣摘出術を受けることが多かった。卵巣摘出術の割合は、スクリーニング群では10,000人年当たり85.7であったのに対し、通常ケア群では10,000人年当たり64.2であった(率比、1.33;95%CI、1.24-1.43)。[ 25 ]
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- 本要約の変更点(04/20/2020)
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PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
証拠の記述
本文で以下の記述が改訂された;卵巣がんはまれである;卵巣がんと診断される生涯リスクは1.25%である(引用、参考文献1としてHowlader et al.)。
本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
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本要約の目的
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、卵巣がん、卵管がん、原発性腹膜がんのスクリーニングについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Ovarian, Fallopian Tube, and Primary Peritoneal Cancer Screening.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/ovarian/hp/ovarian-screening-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389336]
本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。
免責条項
これらの要約内の情報は、保険払い戻しの決定基準として使用されるべきものではない。保険の適用範囲に関する詳しい情報については、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手できる。
お問い合わせ
Cancer.govウェブサイトについての問い合わせまたはヘルプの利用に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載されている。質問はウェブサイトのEmail UsからもCancer.govに送信可能である。