ご利用について
本PDQがん情報要約では、がん患者およびその家族とのコミュニケーションについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は、編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- 概要
-
臨床医と患者の間のコミュニケーションは多元的な概念であり、そこには会話の内容、感情的要素(すなわち、医師と患者が対面する際に各々の感情に生じるもの)、非言語的行動などが含まれる。
腫瘍科の診療では、臨床対応における重要目標を達成する上でコミュニケーションの技能が鍵となる。[ 1 ]以下のような目標が設定される:[ 2 ][ 3 ][ 4 ]
効果的かつ支持的なコミュニケーションは、緩和ケアへの移行を円滑に進める上で患者および患者家族への支援となりうる。[ 5 ]加えて、本当の意味でのインフォームド・コンセントの必要性と、医療情報の提供と心のこもったケアを受けられる患者の権利から、腫瘍科でのコミュニケーションにおける適格性が、倫理的、法的、人間的な義務となっている。[ 6 ]
特に明記していない場合、本要約には成人に関する証拠と治療について記載している。小児に関する証拠と治療は、成人の場合とかなり異なる可能性がある。小児の治療に関する情報が入手できる場合は、小児に関する情報であることを明記した上でその内容を要約する。
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- がん患者とのコミュニケーションに特有の側面
-
医療提供者患者間のコミュニケーションに関する研究は、そのほとんどがプライマリケアや一般内科における診療を対象としたものである。そうした知見の多くが腫瘍科の診療に応用できるかもしれないが、腫瘍科には他の多くの診療科にはみられない固有の要素がいくつか存在する。がんは命を脅かす疾患である。近年の治療法の改善により治癒の望みや少なくとも疾患の進行を止められる望みが増してきたものの、がんの診断は多大な恐怖と不安感を惹起し、しばしば辛く高価で複雑な治療も必要となる。したがって、医療提供者と患者および患者家族とのコミュニケーションや関係性が、がんという危機を通して支援を提供していくのに特に重要となる。
またがん患者のケアは、悪い知らせの告知や臨終および死への対応を頻繁に行わなければならない腫瘍医にとって感情的な負担となる場合もある。情報を得ることへの患者側の希望が高まってきている一方で、診療報酬上の問題のために診療時間は短縮されてきている。[ 1 ]患者は担当の腫瘍医のことを心理的支援の資源として最も重要な存在と考えているが[ 2 ]、その一方で、コミュニケーションや患者ケアの対人的側面について腫瘍医はまったくと言っていいほど訓練を受けていない。[ 3 ]
腫瘍科領域におけるコミュニケーションの調査研究により、良好なコミュニケーション技能が以下の各点に関連することが実証されてきており、上記のような状況にも変化がみられ始めている:[ 4 ]
しかしながら、腫瘍科領域におけるコミュニケーションに関する科学的研究はまだ揺籃期にある。それでも、医療提供者と患者および患者家族との相互作用における対人技能とコミュニケーション技能の重用性が明らかにされてきた中で、重要な知見が3つ浮上してきてる:
これらの問題については数件の報告でレビューされている。[ 7 ][ 8 ][ 9 ][ 10 ][ 11 ]
患者中心型のケア
患者中心型のケアモデルでは、臨床医と患者および患者家族との関係が1つの治療手段として重用であることが強調されるとともに、治療の重要な要素として共同での意思決定が推奨されており、さらに、患者の関心事や情報ニーズに関する臨床医の理解と対応が患者の幸福および生活の質の向上に重要であることが強調されている。[ 12 ][ 13 ]これらの目標を達成するには、対人技能とコミュニケーション技能が不可欠であり、これらの技能は患者、患者家族、および医療チームに関わる他の重要な臨床的アウトカムとも関連する。これらの技能は、緩和ケアへの移行時や終末期など、感情的に大きな負荷のかかる状況において特に重要となる。
患者の情報ニーズ
患者に情報を提供することには、以下のような重要な作用がある:
多くの患者は積極的に情報を求め、情報の獲得を自身の優先事項と考えている。ある研究では[ 14 ]、12個の具体的情報と支援に関する事項をリストにして提示し、患者が最も必要としている事項を選択させた。がんの予後について多くのフィードバックを求めた患者は全体の97%で、自身の疾患に関する将来の見通しについて多くの情報を求めたのは88%、自身の疾患について多くの情報を求めたのは91%であった。別の研究[ 15 ]では、面接を行った女性乳がん患者のうち、83%はできるだけ多くの情報を求めたが、16%は一部の情報のみを求め、91%は術後補助療法の開始前から自身の予後について知りたいと回答した;また、63%は自分が予後について知りたいかどうかを担当の腫瘍医に尋ねてほしいと回答した。しかしながら、初回の診察後すぐに患者のニーズが支援面に移る場合もある。ある研究によると、63%の患者が世話をしてもらえることへの保証を強く求め、59%が安心感や希望を強く要望し、59%が自身の心配事や恐怖感について人と話をすることが必要と表明した。[ 14 ]数件の研究では、情報を追求することには、コンプライアンスの改善、患者満足度の向上、生活の質の改善、および苦痛の軽減という面で有益な効果があることが示されている。[ 14 ][ 16 ][ 17 ]
多くの患者が高い情報ニーズを有している一方で、自身のがんについて多くを知りたがらない患者もいる。調査研究もこうした臨床経験を支持しており、自身のがんケアについて知りたいと考える情報の量が患者ごとに異なるということは明白となってきている。[ 18 ]さらに、患者の情報ニーズは疾患や治療の経過の中で変化する場合もあり、進行した患者には自身の疾患について多くの情報を知りたがらない傾向がみられる。[ 14 ]患者が欲している情報の量と種類を正確に推測してそれを提供することは、医療提供者にとってしばしば困難となるが、それができない場合には、提供された情報の量や種類について患者が不満を覚えることになる。[ 19 ][ 20 ][ 21 ][ 22 ]したがって臨床医には、どれくらいの情報を欲しているかを患者に尋ねることが重要となる。
多様な情報獲得様式の特徴づけを目的とした調査研究がさまざまな方法を駆使して試みられている。そうした情報獲得様式の一例が監視型(monitoring)と場当たり型(blunting)である。[ 23 ]監視型(monitoring)の患者は積極的に情報を求め、対する場当たり型(blunting)の患者は情報を避けたり、情報から目を背けようとしたりする。例えば、ある研究[ 24 ]では、monitoringの情報獲得様式は詳細な情報を好む傾向、医学的意思決定への参加、ならびに患者の質問行動と関係していたことが示されている。したがって、患者の情報獲得様式がコミュニケーションに対する患者の嗜好や患者-医療者間の相互作用に大きな影響を及ぼしている可能性がある。この分野は、さらなる研究を必要としており、患者のがん体験に対する適応の方法とも密接に関係している。
意思決定における参加様式
意思決定における参加様式とは、患者が自身のがんに関する意思決定の過程にどの程度まで関与したがっているかを意味する。治療法の決定への参加に関する患者の希望を調査した諸研究からは相反する結果が得られているが、それらは意思決定への参加をどのように定義しているかに大きく依存している。参加には、患者が意思決定過程に積極的に関与するものから、最終的な決定を医師に委ねようとするものまでがある。[ 25 ]治療法の決定に参加したいという希望は、自身の統制をどのように帰する傾向があるかを表す概念である統制の所在と関連している。内的統制者の患者は自分自身の運命を自ら制御しようとして情報を求める一方、外的統制者は自身の運命を受動的に受容する傾向がみられる。[ 26 ]
患者の意思決定は一様でないということが調査研究より明らかにされていることから、すべての患者に対して参加を勧めていくことは、最も有効な戦略ではないのかもしれない。ある研究[ 27 ]では、早期乳がんの患者を以下のようなグループに分類している:
別の研究[ 28 ]では、患者の感情面の相違が治療法の意思決定に及ぼす影響を説明することを目的として、次の4つのパターンを同定している:
受動型の意思決定者は、指示的な医師が自身の治療法を決定するのを容認した。これらの患者は医療提供者の気遣いのある態度により反応しやすく、自律的な意思決定の機会よりも信頼できる人物を必要としていた。回避型の意思決定を行う乳がん患者は、自身の診断に積極的に向き合うことやがん治療に関する計画に参加することを拒絶した。パニック型の患者は、がんの診断に直面した際、恐怖のあまり意思決定に参加することができなかったが、理性型の意思決定者は、強い恐怖感を制御して最後まで意思決定に参加することができた。[ 28 ]
さらにまた別の研究では、状態の良い患者の大半は意思決定において積極的な役割を担うことを好んだが、非常に状態の悪い患者は医師に決定を委ねることを好んだという結果が示されており[ 14 ]、重篤な患者においては、意思決定で積極的役割を担うにはその患者が出しうる量を超える身体的・精神的エネルギーが必要となる可能性があるため、そのケアにおいてはある程度の父権主義的対応が好ましい場合もありうることが示唆されている。あるいは、患者の対処能力が重度に障害されるまでに患者が受容することのできる否定的、悲観的情報の量に限界がある場合もある。[ 14 ]
参加様式によって患者をさまざまに類別することは、コミュニケーションのパターンを定義する上である程度有用な予測的方法となるようであるが、問題は複雑である。表出された患者のニーズを満たした情報と支援を提供していくには、理想的には頻繁に患者のニーズを本人に尋ねていくべきであるということが示唆されている。[ 14 ][ 29 ]情報や参加に対する嗜好は、病状の変化や医師の診察時の行動などの諸因子に影響されることもある。[ 28 ]意思決定における自律性を推奨するより、患者が好む意思決定の様式に応じて治療に関する話し合いを個別化していくことの方が、がん患者の転帰を最大限に改善できる可能性が高い。[ 30 ]
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- コミュニケーションの重要なアウトカム
-
患者満足度
患者満足度は、患者の医療ニーズ、期待、または嗜好についてどの程度まで対応がなされているかを反映する。患者ケアへの満足度の測定は、満足度スコアが高値側に偏りやすいという患者側のバイアスのために複雑となる。腫瘍科の診療においては、コミュニケーション技能がいくつかの領域の患者満足度と関係しているという考えを支持した研究もみられる。具体的には、数件の研究で患者満足度が心理的調整と関係づけられており、そこでは、診断時に提供された情報の量および種類に関する患者満足度[ 1 ];治療選択肢について話し合うことへの医師の意欲[ 2 ];腫瘍医のことを思い遣りがある、気遣いができる、あるいは感情面でも支援してくれる存在と患者が認識できるかどうか[ 3 ][ 4 ][ 5 ];医師とのコミュニケーションに対する患者の評価などが検討されている。また他の研究でも、基本的なコミュニケーション技能が患者満足度と関係づけられており[ 6 ][ 7 ]、そこでは、婦人科および腫瘍内科の患者における満足度は、気遣い、関心、および親しみやすさと、また情報の提供方法と関連することが実証されている。腫瘍科の患者に関するこれらの知見は他の診療科における知見とも類似している。
インフォームド・コンセント
十分な情報提供下での意思決定は、がん治療の処方や調査研究を倫理的に実施していく上で不可欠な要素である。しかしながら、臨床におけるすべての意思決定に患者を関与させることは医師にとって困難な課題である;それでもなお、近年は、治療法の説明の際には形式的なものではない、より双方向的なアプローチで患者に接することが医師には求められている。[ 8 ][ 9 ]インフォームド・コンセントの目的は、情報の開示や患者の意思決定への参加を書類への署名や法的責任からの医師の保護といった経営上の要件と捉えるのではなく、それ自体を目標と捉えるような、より効果的な患者-医師間のコミュニケーションを強調することにある。[ 10 ]そうした対話によって、医師は患者が実際に望んでいる情報の量を把握することができるであろうし、知りたくない情報を知らないでいる患者の権利を尊重することにもつながる。[ 10 ][ 11 ]
腫瘍医がどのようにインフォームド・コンセントを実践しているのかを調べたデータは少なく、治療法の決定に関する患者とのコミュニケーションのためのガイドラインはどれも不十分である。[ 12 ]最良のデータは臨床試験におけるコミュニケーションの研究から得られており、それによると、腫瘍医は患者に提供された情報の質とランダム化の説明に関する評点が低く、暗黙のうちに1つの治療法に偏重する傾向を示すということ[ 13 ];医師は治療法に関する具体的な情報に関して患者満足度を過大に見積もるということ[ 14 ];すべての患者が治療法の未証明の側面を理解しているわけではないということ[ 15 ]が示されている。情報提供の時期についての柔軟性のなさが臨床試験の参加者募集の障壁となることがある。例えば、臨床試験に参加する患者に対する乳がん治療は、その患者がインフォームド・コンセントの書類に署名するまで開始することができない。この要件は、医師が診断確定後すぐに患者に情報を開示せざるを得なくなることの大きな要因となっている。ある研究[ 16 ]では、診断や予後に関する情報を患者に伝える際にはできることなら少しずつ話をしたいと回答する医師が全体の61%を占めていた。彼らの主張によると、各治療法の不明確な点について患者に詳細な説明を聴いてもらうには、診断の告知による患者のショックが治まるのを待つ必要があるが、インフォームド・コンセントを得なければならないことで患者に対する情報開示のスケジュールに制約が生じていた。[ 16 ]
適格な患者が臨床試験への参加を拒否する理由がいくつかの研究で探索されており、そこでは不適切なコミュニケーションに関係する問題の多くが検討されている。ある研究では、医師が誠実な態度を示し、患者との信頼関係を構築でき、患者の関心事に気を配っている場合には、患者が臨床試験に参加する可能性が高かったという結果が示されている。[ 17 ]研究者による研究実施を促進する金銭的な奨励を除くと、腫瘍科領域の臨床試験数を増加させる手段を発見するのに成功した介入は、ランダム化臨床試験に関するコミュニケーションの改善を目的とした介入研究[ 18 ]や地方部の米国人がん患者の登録数増加を狙って策定された介入プログラム[ 19 ]など、ごく少数のものに限られている。アフリカ系米国人患者の臨床試験への参加を阻む障壁について調査したパイロット研究では、人種よりもむしろ、宗教、教育、収入に関連する因子が臨床試験への参加に対する大きな障壁になっている可能性があるという結論が得られている。[ 20 ]この研究の著者らは、アフリカ系米国人の腫瘍科患者の臨床試験参加者数は教育と収入を標的とした介入を実施ことで増加させることが可能であろうと結論付けている。[ 20 ]人種や教育および収入の水準を問わず、すべての腫瘍科患者からの臨床試験参加者数を向上させるため、この分野におけるさらなる研究が必要とされている。
またインフォームド・コンセント過程の改善を目的とした介入から、マルチメディアや洗練された同意書類を使用することよりも、研究チームのメンバーあるいは教育担当者に患者との1対1の対話により多くの時間をかけさせて臨床試験に関する理解を改善することの方がより成功につながりやすいという事実も示されている。[ 21 ]患者または保護者から治療の一部分についてのみ同意を得るという段階的アプローチを用いた研究もあり、有望な結果が得られている。[ 22 ]
医療過誤の訴え
訴訟の発生数は一部の少数の医者に偏って多くみられる傾向がある。[ 23 ]医療過誤の訴えに関する危険因子は数多く-医師の専門分野、診察する患者の数、医師の性格など-存在するが、患者の性格、ケアの技術的側面、もしくはケアの複雑さから予測することは不可能のようである。[ 24 ]それよりもむしろ、患者の不満-特にケアの対人的側面に関する不満-が重要で決定的な因子のようである。こうした対人的側面に関する因子には、以下のようなものがある:[ 25 ]
また他の少数の調査研究から、コミュニケーション技能が患者の記憶、治療コンプライアンス、臨床医の燃え尽き[ 26 ]、腫瘍科チーム内の連携[ 27 ]、ならびに緩和ケアへの移行の困難さの増大とも関係することが示唆されている。[ 28 ]
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- コミュニケーションに影響する因子
-
年齢、人種、民族とコミュニケーション
コミュニケーションの問題に関する重要な領域の中心に、医師-高齢女性患者間と医師-若年女性患者間とのコミュニケーションの差がある。良好な患者-医師間のコミュニケーションは、次の因子と関連しており、特に高齢で恵まれない患者において顕著である。[ 1 ]
高齢の乳がん患者における医療の不均衡について検討したある研究では、高齢およびラテン系民族という患者背景と医師から受けた双方向的な情報支援の量との間に負の関連が示されており、また、これらの患者では若年の患者と比べて担当医から受けた双方向的な情報支援の量が少なかった。[ 2 ]著者らは、乳がん患者の年齢および民族集団間にみられる治療の不均衡を解消していくには、患者-医師間の相互作用というレベルでコミュニケーションの質を改善していくことが重要な手段になりうると結論づけている。[ 2 ]
最も確実なケアを受けていない高齢の乳がん患者では、他の女性患者と比較して、再発率と死亡率が高く、最も確実な治療を受けられないリスクが依然として高いということが調査研究から示唆されている。ある調査では、80歳以上の患者を若年の患者と比較すると、治療法の選択肢について受けた説明の情報量が著明に少なく、乳がん治療について選択肢を与えられたと明確に回答する者の割合が少なく、自分からコミュニケーションを取り始める可能性も、外科医の方からコミュニケーションを取ってきたと感じる可能性も低かった。[ 1 ]別の研究[ 3 ]でも、高齢乳がん患者と担当医との間のコミュニケーションの重要性が浮き彫りにされている。この研究では、高齢患者は乳がんに関する情報をさまざまな情報源から得ていたが、情報源として最も当てにしていたのは担当の医師であったことが示されている。こうした予測や、患者-医師間のコミュニケーションの重要性に関する知見、さらには乳房温存手術(BCS)の施行数の増加にもかかわらず、高齢の乳がん患者がBCSを受ける割合は若年患者のそれと比べて低い値となっている。さらに高齢患者では、ときにBCS実施後の放射線療法が省略されることもある。たとえこれらのケアのパターンを説明しうる因子が多数存在するとしても[ 4 ]、高齢患者と腫瘍医との間のコミュニケーションの質がこうした治療法のばらつきに寄与している可能性は依然として残る-伝統的な医療標準[ 4 ]と推奨治療の地域差[ 5 ]からBCSを推奨しない医師の存在を説明できるとしても同様である。治療選択肢に関する医師との話し合いを行うことによって、高齢患者が最も確実な乳がん一次治療(腋窩リンパ節郭清および放射線療法を伴う非定型的乳房切除術またはBCSと定義)を受ける可能性を高めることができたという研究結果が示されている。[ 1 ]
いくつかの研究から、腫瘍科における人種とコミュニケーションとの関係性が検討されている。がんの新規診断患者405人を対象とした研究では、医師が白人患者との関係構築にかけた時間が非白人患者の場合のそれよりも長かったという結果が報告されている。[ 6 ]また別の研究からは、肺がんの黒人患者では担当医から得ていた情報の量が有意に少なく、担当医に情報の提供を促した患者の割合も少なかったという結果が示されている。[ 7 ]これらの患者ではさらに、診察後の担当医に対する信頼度も低かった。[ 8 ]これは明らかに、これまで軽視されてきたコミュニケーション技能に関する重要な領域の1つである。
社会経済的地位
若年で教育水準の高い患者は、医学的意思決定において積極的な役割を担う可能性が最も高い。いくつかの研究から、教育水準のあまり高くない低収入の女性は治療に関する嗜好や関心事や恐怖感に関して医師と巧くコミュニケーションを取ることができないという知見が示されている。[ 4 ][ 9 ][ 10 ][ 11 ]未婚であること、社会経済的地位が低いこと、および治療選択肢に関する話し合いの頻度が少ないことは、高齢であることに加えて、腫瘍に対する一次治療として保存的治療が実施されることの危険因子である。[ 11 ]経済的制約は乳腺腫瘤摘出術後の放射線療法施行の障壁となることが示されている。放射線療法を実施する施設への通院に要する交通手段もまた別の障壁となる。さらに、患者-医師間のコミュニケーションパターンにおける差異が収入層間でのBCS施行率のばらつきに寄与している可能性があることも研究データから示唆されている。
文化/民族性/言語による影響
がんに関するコミュニケーションに際して文化的に適切なアプローチを採ることで患者および/または患者家族の苦痛を軽減できる場合がある。がん告知の問題に関する文化の枠を越えた取り組みが認知されるようになったことで、文化的および個人的に多様ながん患者が抱く期待に対して医師はより敏感になってきている。文化の異なる患者と診断や治療法について話し合う際には、率直に議論することと患者の文化的価値観を尊重することの間でのバランスの取り方を考慮することが臨床医にとっては重要となる。[ 12 ]
最も優位な文化が西洋哲学に由来する患者は、一般に、確実性、予測可能性、統制、および実現可能な結果に理解を示す。[ 13 ]この文化は治療法の決定において自己決定と自律性を重要視するアプローチを生み出してきた。[ 14 ]患者を中心に置くこの社会では、十分な情報を与えられて健康状態について自身で正確な評価を行えるということが文化的な特権として重んじられる。[ 12 ]欧米の文化には、医療において何が正しく何が正当かという前提が存在する。そうした前提の1つが、自己決定の原則であり、治療法の決定において患者の自律性を実現可能にする上でのその重要性である。[ 15 ]
一方、イタリア、中国、および日本の患者[ 14 ];スペインの患者[ 16 ];タンザニアの患者[ 17 ];ならびに韓国系米国人およびメキシコ系米国人は、診断や終末的な予後について告知を控えることに肯定的な価値が本来的に存在すると考える。[ 14 ][ 15 ][ 16 ]メキシコ系および韓国系米国人、エチオピア難民、イタリア人にみられるような家族中心型の医学的意思決定モデルにおいては、自律は孤立と同等に捉えられる。[ 14 ][ 16 ]エジプト系の背景をもつ患者は、家族に属し家族という枠の中で疾患に対応していくことで威厳、自己同一性、ならびに安心感を得られると考える。[ 18 ]疾患に対する文化的態度の多様性に関する別の例がナバホ族の文化に認められる。ナバホ族の人々は、悪い情報を知らされると秩序と調和が乱されると考え[ 14 ];好ましくない診断や予後の告知は呪いの一種のように受け取られる。[ 16 ]
一部の文化では、がんという言葉に付きまとう負の印象が強いあまり、この単語を使用することが失礼あるいは無礼であると、さらにはそれ自体が原因であるとさえ受け取られることがある。末期がん患者への誠実な告知を阻む患者家族に関係する障壁の不可解な因子と解決法について検討する研究が、台湾で実施された全国的調査の一環として実施された。その結果から、家族は、高齢の患者に真実を告げるのは不要なことであり、真実を知らない方が患者が幸福となる場合もあると考えていることが示されている。[ 19 ]がんと診断されたエチオピア難民の場合、まず最初に家族に話をすることが重要とされるが、さらに、眠れない夜という負担を回避するため、好ましくない情報は夜間には告知しないようにすることも重要とされる。[ 16 ]一部の文化における非言語的コミュニケーションの活用やがんなどの言葉のもつ心理社会的影響について認識しておくことが助けとなる。しばしば、悪性の腫瘍やできものといった語句の方が刺激が少なく受容されやすい場合もあり[ 16 ]、また感情の伴う話題には遠回しにアプローチすることも同様である。以上のように、患者のがんについて患者とコミュニケーションを取る際には、その文化的信念を評価および検討することが不可欠となる。
アジア系米国人女性の乳がん体験について調べた研究[ 20 ]では、乳がんに関する知識の欠如、疾患についての信念に関係する文化的因子、性別と家族内での義務(例えば、自己犠牲)、ならびに言語的障壁がアジア系米国人女性にみられるケアへの積極的関与の欠如に寄与していたという結果が示されている。
上述のように、文化的背景はコミュニケーション過程の多くの側面に多大な影響を及ぼす。異文化間の検討を行った記述研究もいくらかは実施されているが、特に診断の告知という観点でみると、文化が患者-医療者間の相互作用に及ぼす具体的影響に関する知見は比較的少ない。文化的変数が患者の欲する情報、患者が好み前提とする参加様式、ならびに相互作用の他の側面にどのように影響しうるのかを検討するために今後もさらなる研究が必要とされている。
患者の家族
家族は患者が自身に対するケアについて良い決定を行う手助けをすることができる。[ 21 ]そのため一部には、医療における意思決定のほとんどが家族内でのケアや義務を伴いながら行われることから、医学的意思決定において患者の自律性を重視する患者中心型のアプローチから家族中心型のアプローチに転換していくべきと考える者もいる。
以下の点について構造化された継続的な対話を家族との間で実現することが、医療専門家にとって重要である:[ 22 ]
介護者には具体的で個別化された指示が助けとなり、それにより彼らがケアを提供する際に経験する不安感を軽減できると報告する。[ 22 ]家族介護者は進行がんのケアでの連携において必要不可欠な存在と考える必要がある。[ 22 ]ある調査では、医療現場への関与を歓迎することは、単純でありながら介護者から非常に高く評価される行動であり、介護者が進展する事象に対応することを可能にした。[ 23 ]がんという筋書きの中で適切な位置を占めていれば、介護者は患者のニーズと同時に自分自身のニーズにも関心を向けやすくなる可能性がある。[ 23 ]しかしながら理想的には、医師は患者とよく相談して、意思決定への介護者の関与の度合いについて患者の希望を把握しておくべきである。
(詳しい情報については、がんにおける家族介護者:役割と課題に関するPDQ要約を参照のこと。)
その他のコミュニケーション障壁
直接勧められない限り、患者の多くはしばしば自身の疾患や治療法に関する重要な疑問について質問することを躊躇する。情報および感情的ニーズを示唆する間接的な手掛かりの方が情報や支援に関する直接的な要求よりもはるかに多く発せられていることも調査研究から示されている。また同時に、医師はニーズの直接的な表出には確実に対応することができるが、患者のニーズを暗に示す間接的行動に気づいてそれに対応するのには困難さを覚える。
特に、以下のような間接的なコミュニケーション形態は、多くの医師の理解と対応を困難にする:[ 24 ]
担当医は関係することは何でも話してくれるものと思い込んでいる患者もいれば;質問をして自身の知識の無さが明らかになるのが愚かしく見えるのを心配する患者;多忙な医師の時間を多く取り過ぎることに罪悪感を覚える患者もいる。[ 25 ][ 26 ]率直な話し合いが行われない場合には、患者の情報に関するニーズや嗜好について医師が誤った思い込みをして一方的な決定を行う恐れもあり、さらに医師自身の情報提供行動の評価も不正確となる。[ 27 ]他のコミュニケーション障壁としては、患者が診療を受ける専門医の多さ;治療チーム内で患者が対面しうる医師および他の医療関係者(例えば、医師、mid-level practitioner、看護師、会計事務員、患者の支持者)の多さ;教育水準、文化差、および民族性の多様性により生じる問題;初回の面接や重大な情報告知(例えば、病期の再判定結果の告知)のある面接にしばしば伴う不安などが考えられ、これらが患者の理解に影響を及ぼす可能性がある。
患者および患者家族の支持者としての看護師
看護師はがんという危機にある患者を支援していく中で重要な役割を果たしており、また今日の集学的がん治療チームの中でも重要な役目を担っている。彼らはがん経過のほぼすべての段階において非常に重要な機能を担う。外来および病棟の看護師は、しばしば臨床において患者やその家族と最初に接する者となり、その最初の相互作用を通して、患者が以降のケア過程の中で受けていく支援の方向付けを行う。看護師は手技、治療法、および患者ケアの他の側面について重要な情報源となる。治療チームの医師達と比べて患者と過ごす時間が長いことから、看護師はしばしば情報の獲得という点においてがん治療チームの中で最も信頼された存在となり、「私はどのくらい悪いのですか」、「私はあとどれくらい生きられるのですか」などといった重要で繊細な疑問が生じた際には、患者の支持者としての役割を担うことになる。看護師はまた、悪い知らせが伝えられた後の患者および患者家族の感情的ニーズにも注意しなければならず、また患者もしくは患者家族の怒りや患者の引きこもりや抑うつなど、感情的疲労をもたらす他の状況にも最初に対応しなければならない。高度専門看護師は直接的な患者ケアを提供するが、しばしば、医師に準じる役割を果し、患者に対する日々のケアの大部分を管理する。
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- 疾患の経過に応じたコミュニケーション
-
基本的なコミュニケーション技能
患者および患者家族とのコミュニケーションには数多くの基本的技能が必要となるが、それらは以下の5つのEで覚えることができる:[ 1 ]
これらの技能は以下の目的に役立つ:
これらの基本的技能について詳しく説明した「Communication and Interpersonal Skills in Cancer Care(がんケアにおけるコミュニケーションと個人内の技能)」と題されたオンライン講義が、International Psycho-Oncology Societyのウェブサイトにて公開されている。
基本的なコミュニケーション技能を腫瘍科領域における数多くの難題-悪い知らせの告知、共同での意思決定、うつ病患者や難しい患者への対応など-に応用する試みについても概要が示されている。[ 2 ]
臨床医は患者の多くが診察を受けることに不安があるということを覚えておくべきである。患者を安心させることは情報の吸収を良好にし、また患者の観点から質問していく、話を中断することなくリストを作成する、共感的態度をとるなどの技能は、支持的で気遣いがあると受け取られる。ある研究[ 3 ]で示されているように、以後長く残る印象が形成される最初の数回の相互作用が特に重要であり;友好的な握手とアイコンタクトが信頼関係を構築する上での重要な最初の一歩となる。医療提供者は座ることで目線を患者と同じ高さに置くことができ、これにより一方的な会話ではない話し合いが可能になる;また室内にいる他の人物の名前と間柄を尋ねておけば、患者のケアにおける協力者としての潜在的役割を認めることにつながる。患者の出身地や家族を始めとする生活に関する個人的事項について短く質問することは、その存在を一患者から一個人へと移行させるのに役立つ。患者の話を遮らず、患者の関心事の重要性を認めていけば、患者は自分の考え方が尊重されているように感じ取る。
悪い知らせの告知
悪い知らせの告知は、腫瘍医がしばしば経験する重大なコミュニケーションの難題である。さらに言うと、典型的な腫瘍医がそのキャリアの中で実際に悪い知らせを告知する回数は数千回にも及ぶ。がん患者の生存率が向上してきたことは、患者に対して疾患の状態や多数の治療への反応に関する経時的な情報を効果的に伝えていく必要があることを意味するだけでなく、不可逆的あるいはその可能性のある副作用や、疾患および治療の合併症、ならびに将来の見通しの悪化などに関する好ましくない情報を告知しなければならないことも同時に意味している。
診断の告知と予後に関する話し合い
有効な抗がん治療がほとんど存在しないとき、医師は患者の精神的落ち込みを恐れてがんの診断告知を躊躇する。[ 10 ][証拠レベル:II]がんの診断告知については、1950年代から1960年代までに医師中心型の父権主義的アプローチから医師-患者間のコミュニケーションへと、さらに1970年代後半までには完全告知へと進展をみせてきた。[ 11 ]治療法の改善と社会態度の変化、さらに米国では情報提供下での意思決定に関する患者の権利を強化した法律の制定もあり、医師-患者間のコミュニケーションはより開かれたものへと変化していった。[ 12 ]その結果、今日の北米および多くの西洋諸国においては、予後に関しては患者から尋ねられるまで話し合いを行わないものの、がんの存在に関しては完全に開かれた告知が行われている。イタリアとスペインを含むヨーロッパ南部においては、終末的な予後については完全な告知を避ける傾向が依然として残っている。[ 13 ]しかしながら患者にとってみると、診断について話し合いを行わないことは、孤立感、不安、自律性や統制感の喪失、心理的な見捨てられ、不信、疑念、裏切られなどの感情を生じさせることにつながりうる。一方で、診断について開かれた話し合いを行えば、不確実性を減らし、ケアに関する意思決定への参加を促進し、心理的支援へのアクセスを可能にし、セルフケアを奨励し、患者が将来計画を立て始められるようにすることが可能になる。[ 12 ]
誠実な告知には短期的には感情面への負の影響を伴いうるが、ほとんどの患者は時間とともに良好に適応していく。感謝の念と精神的平静、前向きな態度、不安の軽減、および良好な適応は、患者ががんの診断について話をしてもらったことで得られたと報告する良い結果の一部である。不確実性が患者にとっての感情的苦痛の主要な原因の1つであることから、不確実性の解消それ自体が治療的となる可能性もあり[ 14 ]、患者は時間とともに不確実性の理論における法則に相関した心理社会的目標を達成していくと考える者もいる。[ 15 ]悪い知らせを支持的態度で適切かつ誠実に伝えることができれば、その会話に関する患者の体験は比較的ストレスの少ないものとなる。患者の状態の重症度について話がされなかったり、恐怖感や関心事を表出する機会が与えられなかったりすると、自分の助けになるものは何もないと患者が思い込んだり、疾患に関する患者の理解が妨げられたりすることがある。[ 16 ];[ 17 ][証拠レベル:II]一方で、悪い知らせの告知という困難な課題を早急に終わらせようとする医師によって悪い知らせが無遠慮に告げられると、患者にきわめて強い恐怖感や孤独感が生じる可能性が高くなる。それ以上できることはないと告げられることは、見捨てられ感につながることがある。[ 17 ]ある研究[ 18 ][証拠レベル:II]では、497人のがん患者を対象として、被験者ががんの診断を受けたときの体験について調査している。
話し合いに関する患者満足度に対する有意な予測因子には、以下のものがあった:
ほとんどの患者は自身の状態について完全かつ正確な情報を望むが、自身の嗜好に応じた情報を得られるという患者の権利を医師が認識(例えば、「あなたはご自身の状態について、詳細な事まですべて知りたいですか」)しない限り、多くの患者はその情報を無理に押し付けられたと感じる。
M.D. Anderson Cancer Centerを受診したさまざまな病期のさまざまながんの患者351人を対象とした研究[ 19 ][証拠レベル:II]では、最初のがん診断もしくは再発について告知を受ける際のコミュニケーションに関する患者の嗜好を明らかにしている。最も評点が高かったのは以下の要素であった:
患者の嗜好については性別、年齢、および教育水準に応じた差異が指摘されており、話し合いを患者ごとに個別化することの重要性が強調されている。がんの種類は患者の嗜好の予測因子ではない。患者の利益について多くの誤解が顕在化されうることから、医師には患者の状態に関する患者の考え方を明確化しておくことが重要となる。
悪い知らせの告知に関するプロトコルないし手法の1つに、その頭文字を取ってSPIKES[ 4 ]と呼ばれるアプローチ法があり、以下の6つの段階から構成されている:
このSPIKESという手法は、短く、容易に理解でき、練習可能な具体的技能に焦点を置いているため有用である。さらにこのプロトコルは、悪い知らせの告知ならば、診断時、再発時、緩和ケアへの移行時、さらには医療過誤の告白時に至るまで、ほとんどの状況に適用可能である。この手法はまた、悪い知らせの伝達者として振る舞う際に医師自身が感じる苦痛への対処方法についても考え深い示唆を与えている。がんの再発に関する悪い知らせの伝達に焦点を当てた1件の革新的な定性的研究[ 20 ]では、過去2年間に消化管がんの診断を受けた患者に対し、SPIKES法を用いた腫瘍医による(標準化の訓練を受けた演技者に対する)告知の録音を聞かせ、その伝達に対する好ましい点と好ましくない点を挙げさせた。その結果、次の3つの主要な主題が特定された:
患者は一貫して、医師が「残念ながら」のような言葉で開始した悪い知らせの告知を好ましく思わなかったと報告している。
欧米の国々では、ほとんどの医師が患者にがんの存在を告知している一方、予後に関する情報が提示されることはあまり一般的でない。ほとんどのがん患者は、予後に関する情報は自身にとって非常に重要であると回答する。患者に質問をするように積極的に働きかけた場合、予後は患者が情報を求め、実際に質問の数が増加する領域の1つである。[ 21 ]ある研究[ 22 ][証拠レベル:II]では、早期乳がんの女性患者が最も重要と評定した予後に関する情報には、治癒の可能性、病期、および治癒的治療の成功の可能性に関する情報と術後補助療法を受ける場合と受けない場合の10年生存率の値が含まれていた。治癒の可能性と病期に関する知識は、早期乳がんの女性患者を対象とした別の研究においても、優先度の高いニーズとして同定されている。[ 23 ][証拠レベル:II]しかしながら、予後に関する希望が患者によって異なるのは明白であり、より進行したがんの患者では余命に関する情報をあまり知りたがらない場合もある[ 24 ];他の多くの患者は両価的な態度をとりうる。医師と進行がん患者はしばしば生存の確率を過大に推定するということが示されている。[ 11 ]そのため、患者との予後に関する話し合いの実施方法についてはかなりの論争がある;この点については多くの文献が貴重な示唆を与えている。[ 24 ][ 25 ][ 26 ][ 27 ][ 28 ]
緩和および終末期ケアへの移行
臨死患者とのコミュニケーションは、医師自身の不安、悲しみ、フラストレーションなどの反応[ 7 ]に、治癒に焦点を置く西洋医学の歴史的傾向が相まって複雑化することがある。ある研究のデータからは別の理由も示唆されている。医師は、誠実な情報提供を行うことと患者の希望をくじかぬようにすることとの間で微妙なバランスを取るのに苦心する。[ 29 ]非常に悪い予後を知ることで患者の希望が損なわれたり、一種の予言のような形で患者の生きる意志が削がれたりするのではないかと恐れる場合もある。この恐れは、人はがんと闘うことを望むものだという西洋文化の前提的思想と一貫するものである。また、個々の患者がいつどのように死亡するかは分からないため、医師は余命、再発、治癒の見込みについて予測を立てることにも気まずさを覚える。[ 11 ]ある研究では[ 30 ][証拠レベル:II]、希望は回答者にとって一貫した関心事であった。しかしながら、多くの患者では治癒という観点のみから希望を推し量ることはできず、むしろ希望は、目標の達成、家族および腫瘍医からの支援の提供、可能な範囲で最善の治療の実施などを反映している場合もある。[ 30 ][ 31 ]
終末期の話し合いの価値は、単に精神的なことだけではない。加えて、この種のコミュニケーションを通して終末期の話し合いすることは、医療費影響を与える。ある進行がんの大規模研究では、医師と終末期の話し合いを持った患者(n=188)は、話し合いを持たなかった患者(n=415)よりも医療費が著しく低かった。これらは、蘇生、人工呼吸器の使用、集中治療室在室の減少によって証明された。医師と終末期の話し合いをした患者(n=75)としなかった患者(n=70)では、生存期間と化学療法の可能性に違いはない。より高いコストは、介護者(ホスピス看護師または家族)の割合による死亡時のより悪いQOLと関連していた。[ 32 ][証拠レベル:II]
死に直面している患者は、以下をはじめとして、無数の問題を抱える:[ 33 ][ 34 ][ 35 ][ 36 ]
移行期には、患者は担当の腫瘍医に対して、生物医学的情報を提供し、自身を一個人として気に掛けていることを示し、希望と現実とのバランスを取ってもらうことを希望する。ある研究[ 37 ]では、「質問し、話し、質問する」や「最善を望み、最悪に備える」など、いくつかのコミュニケーション戦略が同定されている。死に関する疑問について話をする機会に感謝する患者も数多くいる一方で、医療スタッフが死や臨死についての会話を恐れたり気まずく感じたりするのを経験する患者が多いために、患者がそういった機会をほとんどもてない場合も多く[ 31 ]、その場合には孤立感や分離感といった感情が悪化する。
終末期患者とのコミュニケーションについて実践的な示唆を与えているある文献に、患者との別れについて考察した個所がある。[ 38 ]その著者は、患者に別れを告げることは腫瘍医がその患者との関係について成就感を得るための重要な手段であり、それは患者との関係の重要性を認識して患者に対する感謝を表現することによってなされる、と示唆している。
悪い知らせの告知のための戦略
実存的問題が臨床的に表出されるようになると、悪い知らせをいかに巧く伝えるかが第一の関心事となる。悪い知らせが唐突に伝えられると、その負の影響が増強されるということが分かっている。[ 39 ]以下のような状況においても、結果として患者は特に否定的な反応を示す:
患者はまた、悪い知らせの告知形態として手紙と録音テープが有用で、提供された情報についての満足度および記憶度が高まる可能性があるとも報告する。[ 14 ]
ある調査によると、臨床家の大半が患者への悪い知らせの告知に関して一貫した計画や戦略を有していないことが明らかになっている。[ 39 ]米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology)の年次総会に出席した臨床医から構成された標本のうち、患者に悪い知らせを伝える際に一貫したアプローチを採っていないと回答した者の割合は22%、いくつかの技法や戦術はあるが全体的な計画は有していないと回答したのは51.9%であった。すでにあるガイドラインを改良し、この困難な課題に特異的な証拠に基づく勧告を策定するには、患者がこの相互作用の中で重要視する事項を特定していくことが有用となりうる。[ 4 ]
悪い知らせを伝える面接の実施方法について示した総合的なガイドラインや勧告がいくつか発表されている。[ 4 ][ 19 ][ 41 ][ 42 ][ 43 ]しかしながら、これらの勧告は通常、逸話的な経験やわずかな経験的根拠に基づく見解を基に導き出された実践的アドバイスという形式を取っている。例えば、1973年から1993年までに発表された300以上の文献を調査したレビューでは、記述的データを報告していた著者は全体の23.2%にすぎず、3分の2ほどが意見、レビュー、レター、症例報告、もしくはデータに基づかない記述研究であった。[ 39 ]悪い知らせの告知について推奨されているそれぞれのアプローチの間には微妙な差異もみられるが、共通する要素も数多く存在する。例えば、上記の参考文献で紹介されている各戦略では、適切な状況下で告知すること(静かな場所で中断なく行えること)、自身の疾患に関する患者の理解度を評価すること、患者が欲する情報を提供すること、患者が感情を表出できるようにして適切に応答すること、提供した情報を要約すること、ならびに次の段階の計画を策定しておくことを推奨している。これらの技法を経験的に支持するために、さらなる調査研究が必要とされている。
また以下のように、告げられた内容についての患者の記憶力が診察の構造と内容によって影響を受けるということも示唆されている:[ 16 ]
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- がんについて小児患者と話し合う
-
成人に限らず小児であっても、重篤な患者においては、将来への不安感からしばしば顕著な自己統制感の喪失を来すことがある。小児でも自身の疾患や治療計画について情報を望むということが研究から示されている。[ 1 ]小児患者の情報ニーズは年齢に依存する場合もあるが、大半の小児患者は自身の疾患や治療によって自身の日常生活や周囲の人々に影響が及ぶことを憂慮する。患児に対して情報の開示が差し控えられると、たとえそれが好ましくない情報であったとしても、その沈黙によって患児の恐怖感や空想が増強されるという事実も研究から明らかになっている。[ 2 ]終末期の小児患者すべてが死や死の過程に関して特に話をしたがるわけではないが、自身の未来が限られていることに気づいた場合には、次の休日や大事なイベントなど、より近い未来に関心を移すことによって適応していく。[ 3 ]なかには自身の死が近いという事実を驚くべきほどによく認識している小児患者もいる。小児は次のような質問をすることがある:
ときに破壊的行動で自身の関心事を表出することもある。そうした破壊的行動は、コミュニケーションの問題に対する対応がなされることでしばしば消失する。
小児患者は死の概念についてどのように理解しているか
古典的な発達理論によると、11~16歳ぐらいまでの小児は死の不可逆性を完全には理解していない。[ 4 ]しかしながら、かなり幼い小児でも原因と結果の法則は理解しており;致死的状態にある患児の大半は-3~4歳の幼児でさえ-自身の体の生理学的変化と親や病院スタッフの反応から手がかりを察知しており、それゆえ疾患や死の概念については高い理解度を有している。[ 5 ]臨死の小児患者、特に自身の未来について強く意識している青年期の患者は、自分にあまり時間が残されていないということも認識している。そのため、典型的な小児のもつ死に関する理解度を前提として患児にアプローチする方法は、臨床においては必ずしも有用とはならない。[ 6 ]
小児と終末期を話し合う
終末期の問題についての話し合いに関する諸戦略から、話し合い(しばしば終末期のかなり前から開始される)の際に用いるべき特定の諸技能を予め系統立てて整理しておくのが有用であることが示唆されている。[ 5 ]臨死の小児患者およびその家族とコミュニケーションを行う医療提供者向けの指針として、6つのEで表される以下の戦略が用いられることがある:[ 7 ]
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- コミュニケーション技能の訓練
-
医療提供者の訓練
医師-患者間の効果的なコミュニケーションについては、他の医科学分野と同様に厳格な教育を行うべき中心的な臨床技能であると考える者もいる。[ 1 ]こうした考え方の根底には、研究知見の蓄積やガイドラインの策定によって、医師は優れたコミュニケーション技能を生得的に備えている必要はなく、むしろ他の厳密な医学分野を習得していくのと同様にこの技能も学習可能であるという認識が定着してきたという事実がある。[ 2 ]
がん医療を専門とする臨床家は、コミュニケーション面と管理面の技能訓練の不足が自身のストレス、職務に対する満足感の欠如、ならびに感情的な燃え尽きの大きな要因であると認識している。[ 3 ][ 4 ]不幸なことに、コミュニケーション技能に関して、変化の促進や自信および適性の向上をもたらす可能性の高い手法を用いた公式教育を十分に受けてきたと感じている腫瘍医や看護師は少数である。[ 3 ][ 4 ]その一方で、医師-患者間のコミュニケーションが良好であることは、次の各項目と関連する。[ 3 ][ 4 ]
患者-医師間のコミュニケーションに関する研究の大半(80%)はプライマリケア医(すなわち、家庭医、一般内科医、または小児科医)に関するものである。しかしながら、あるレビュー[ 5 ]で検討された研究のうち、約20%はがん医療の従事者を対象としており、腫瘍医やがん患者を担当する他の医療専門家では患者とのコミュニケーションに関する訓練が不十分であるという傾向が示され、特に、悪い知らせの告知と感情的負荷のかかる困難な面接での対応に関する部分で顕著であった。[ 5 ][ 6 ]
ある研究者グループは、効果的な医師-患者間のコミュニケーションに関する教育を行う過程には、以下の4つの課題があると考えている:[ 7 ]
- 包括的で証拠に基づくカリキュラムを策定し発表すること。
- そのカリキュラムを採用し実際に使用する施設および/または地域医師を募集すること。
- 有効な介入を促進しつつ、患者への対応の中で自然に成立してくる多様なコミュニケーション様式に関する臨床的議論にも焦点を置けるように、カリキュラムの内容を科学的証拠に支持された諸行動の範囲に維持していくこと。
- 長期的に補強を行っていくこと。
良く策定されたカリキュラムが広く受け入れられたならば、優れたコミュニケーションプログラムを確立するために次に行うべきことは、そのカリキュラム内容を学習、実践、習得する機会を最大限に作り出せる環境を整備していくことである。団結した教育者の集団による長期的な教育プログラムを実施すれば、学習者の実践スタイルへのカリキュラム要素の取り込みをより有意義なものにすることができる。[ 7 ]
がん患者とのコミュニケーションに関する医師の訓練についても、これらの指針を満たしたさまざまなアプローチが考案されている。その1つにOncotalkと呼ばれるプログラムがあるが[ 8 ]、これは証拠に基づく教育技法の上に立脚したコミュニケーション技能プログラムである。終末期のコミュニケーションに焦点を置いた集中的な研修が4日間にわたって実施され、参加した腫瘍内科の医療者は具体的な面接技能を取り入れた教材に触れることとなる。その後、参加者は標準模擬患者との面接を行うが、訓練を受けたスタッフがその様子を観察しており、そのスタッフがコーチとなり、参加者がそこで直面する障害や難題を認識し対応していく手助けをする。このカリキュラムは、情緒的問題や患者の感情面への対処方法といった基本的なコミュニケーション技能と、疾患経過に応じた以下のようなコミュニケーション技能をカバーしている:[ 8 ][ 9 ]
米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)などの諸学会は、高齢がん患者とのコミュニケーションについて特別なカリキュラムを策定し採用している。[ 7 ]腫瘍科領域におけるコミュニケーション技能訓練に関するランダム化試験や他のアウトカム評価が数人の研究者によって実施されており、肯定的な結果が発表されている。[ 10 ][ 11 ];[ 12 ][ 13 ][証拠レベル:I][ 14 ][ 15 ]
これまでに医師のコミュニケーション技能の向上を目的として用いられてきたアプローチとしては、他に以下のものがある:
医師とのコミュニケーションにおける看護師
一般に、看護師が患者と過ごす時間は医師のそれよりも長い。看護師はがんという危機にある患者を支援する上で非常に重要な役割を果たしている。悪い知らせの告知や疾患についての説明を医師が行った際には、その後の事態の収拾はしばしば看護師に任せられる。医師の手を煩わせることに気が進まない患者や、質問することを気まずく感じる患者などから、「私はどのくらい悪いのですか」や「私はあとどのくらい生きられるのですか」などといった質問が看護師に向けられることも多い。看護師は治療チームの中でも非常に重要な役目を担っており、患者の支持者として、また患者の要求や関心事を伝える仲介者としての役割を果たしている。そのため、医師と看護師との間のチームワークが不可欠となる。しかしながら、看護師と医師との間の役割や地位の違いから、ときにコミュニケーションが難しくなる場合もある。
看護師は大学学部課程においてコミュニケーション技能や対人技能に関してかなりの訓練を受けているが、その一方で腫瘍科の看護師については、コミュニケーション技能と死や臨終などの問題に関してさらに進んだ訓練を行うことが強く望まれるという見解が広く認識されている。調査研究の結果も、そうした訓練プログラムが有用で評判が良いことを示唆している。[ 21 ]
患者を対象としたコミュニケーション技能の訓練
医療提供者に対する介入と比べると一般的ではないが、医療問題への対応の手助けや医療提供者とのコミュニケーションの改善を目的とした患者向けの介入も数多く考案されている。そうした介入の目標は研究間でさまざまであり、次のようなアウトカムが採用されてきた:
これらの介入はさまざまな程度で成功を収めているが、そのほとんどは相当の労力を要する。
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- 最新の臨床試験
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現在、米国で参加者を募っているがん医療におけるコミュニケーションについての支持療法と緩和ケアの試験は、NCIのPDQ Cancer Clinical Trials Registryを参照のこと(なお、このサイトは日本語検索に対応していない。)。試験のリストは、場所、薬物、介入、他の基準によりさらに絞り込むことができる。
臨床試験に関する一般情報は、NCIウェブサイトからも入手することができる。
- 本要約の変更点(02/01/2018)
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PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
本要約には編集上の変更がなされた。
本要約はPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
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本要約の目的
本PDQがん情報要約では、がん患者およびその家族とのコミュニケーションについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Communication in Cancer Care.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/coping/adjusting-to-cancer/communication-hp-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389370]
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