患者さん向け 中枢神経系原発リンパ腫の治療(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、中枢神経系原発リンパ腫の治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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中枢神経系原発リンパ腫についての一般的な情報

中枢神経系原発リンパ腫は、脳や脊髄のリンパ組織の中に悪性(がん)細胞ができる疾患です。

リンパ腫は、リンパ系悪性がん細胞が発生する疾患です。リンパ系は免疫系の一部で、リンパ液リンパ管リンパ節脾臓胸腺扁桃骨髄から構成されています。リンパ球は(リンパ液の中を浮遊しながら)中枢神経系を出入りしています。このリンパ球の集団の一部の細胞が悪性細胞となり、それが中枢神経系の内部でリンパ腫を引き起こすものと考えられています。中枢神経系原発リンパ腫は、脊髄髄膜(脳の外側を覆っている膜)のいずれかより発生します。また、その位置が脳に非常に近いことから、眼球からも中枢神経系原発リンパ腫が発生することがあります(これは眼内リンパ腫と呼ばれます)。

リンパ系:リンパ管と、リンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示す。上の拡大図には、リンパ節とそれにつながるリンパ管の内部構造が示されており、さらにリンパ節内外へのリンパ液(透明な液体)の流れが矢印で示されている。もう一方の拡大図には、骨髄と血液細胞が示されている。

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リンパ系の解剖図:リンパ管とリンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示しています。リンパ液(透明な液体)とリンパ球はリンパ管を介してリンパ節まで移動し、リンパ球はそこで有害な物質を破壊します。リンパ液は心臓の近くの大きな静脈から血流に流れ込みます。

免疫系の機能が弱まった状態では、中枢神経系原発リンパ腫の発生リスクが高くなる場合があります。

疾患が発生する可能性を増大させるものは全てリスク因子と呼ばれます。リスク因子を持っていれば必ずがんになるというわけではありませんし、リスク因子を持っていなければがんにならないというわけでもありません。リスクについて不安がある場合は、担当の医師にご相談ください。

後天性免疫不全症候群(AIDS)を始めとする免疫系疾患の患者さんや臓器移植を受けた患者さんでは、中枢神経系原発リンパ腫が発生することがあります。AIDSの患者さんにおけるリンパ腫に関する詳しい情報については、PDQAIDS関連リンパ腫の治療に関する要約をご覧ください。

中枢神経系原発リンパ腫の徴候と症状には吐き気、嘔吐、発作などがあります。

これらの徴候症状は、中枢神経系原発リンパ腫が原因で起こることもあれば、別の病態が原因で起こることもあります。以下の問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:

中枢神経系原発リンパ腫を診断するために、眼、脳、脊髄を調べる検査が行われます。

以下のような検査法や手技が用いられます:

特定の要因が予後(回復の見込み)や治療法の選択肢に影響を及ぼします。

予後は以下の因子に左右されます:

治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:

中枢神経系原発リンパ腫の治療では、腫瘍が大脳(脳の最も大きな部分)の外部に拡がっていない、患者さんが60歳未満である、日常行動の大半に支障をきたしていない、AIDSなどの免疫系の機能を弱める疾患にかかっていない、これらの条件が全て揃っている場合に最も大きな効果がみられます。

中枢神経系原発リンパ腫の病期分類

中枢神経系原発リンパ腫の診断がついた後には、がん細胞の脳と脊髄の内部での拡がりや眼への転移の有無を明らかにするために、さらに検査が行われます。

中枢神経系原発リンパ腫は通常、中枢神経系の外部や眼球以外の場所には拡がりません。がんの拡がりの程度を調べていくプロセスは病期分類と呼ばれます。中枢神経系原発リンパ腫には、標準的な病期分類システムはありません。

治療計画を立てるために、以下の検査法や手技が用いられることがあります:

中枢神経系原発リンパ腫には、標準的な病期分類システムはありません。

中枢神経系原発リンパ腫は治療後に再発する(再び現れる)ことがよくあります。

多くの場合、中枢神経系原発リンパ腫の再発は、脊髄、眼球に起こります。

治療選択肢の概要

中枢神経系原発リンパ腫の患者さんには様々な治療法が存在します。

中枢神経系原発リンパ腫の患者さんは、様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、既存の治療法を改良したり、がんの患者さんのための新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。複数の臨床試験で現在の標準治療より新しい治療法のほうが良好であることが明らかになった場合は、その新しい治療法が標準治療となります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

中枢神経系原発リンパ腫の治療では、手術は用いられません。

標準治療として以下の4種類が用いられています:

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんのある領域に放射線を照射する方法です。中枢神経系原発リンパ腫はの全体に拡がるため、外照射療法は脳全体に対して行われます。これは全脳放射線療法と呼ばれます。

脳に対して高線量の放射線を照射すると、正常組織が損傷を受けて、思考や学習、問題解決、読解、書字、会話、記憶などに悪影響を及ぼす障害が引き起こされることがあります。そこで化学療法の単独での治療法や、放射線療法の前に化学療法を実施して正常脳組織への損傷を減らす治療法が、現在臨床試験で検証されています。

化学療法

化学療法は、を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脳脊髄液内(髄腔内化学療法)や臓器内、あるいは腹部などの体内に薬剤を直接注入する化学療法では、その領域にあるがん細胞に薬が集中的に作用します(局所化学療法)。

化学療法の実施方法は、中枢神経系内または眼内の腫瘍の位置に応じて異なります。中枢神経系原発リンパ腫に対しては、全身化学療法、髄腔内化学療法、脳室液体で満たされた空洞)に抗がん剤を注入する脳室内注入化学療法のいずれか、またはそれらを併用した治療が行われることがあります。中枢神経系原発リンパ腫が眼内に認められる場合は、眼の内部の硝子体液(ゼリー状の物質)に直接抗がん剤を注入します。

髄腔内化学療法:脳および脊髄内部の脳脊髄液(CSF)とオンマイヤーレザバー(手術によって頭皮の下に設置されるドーム状の容器で、細い管を通して脳内へと薬剤を流し込むことができる)を示す。図の上の方には、注射器と針を用いてオンマイヤーレザバーに抗がん剤を注入している様子が示されている。図の下の方には、注射器と針を用いて脊柱の下部から脳脊髄液中に直接抗がん剤を注入している様子が示されている。

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髄腔内化学療法。脳脊髄液(CSF、青色で示されている)で満たされた空洞である脊髄腔の中に抗がん剤が注入されます。2種類の方法があります。1つめはこの図の上の方に示されているもので、オンマイヤーレザバー(手術によって頭皮の下に設置されるドーム状の容器で、細い管を通して脳内へと薬剤を投与することができる)に薬剤を注入するという方法です。もう1つは図の下の方に示されているもので、腰の小さな領域に麻酔を施してから、脊柱の下部より直接CSF内に薬剤を注入するという方法です。

ステロイド療法

ステロイドとは、正常時から体内で生産されているホルモンの一種です。この物質は製造ラボで合成することもでき、薬として使用されることがあります。グルココルチコイドリンパ腫に対して抗がん作用を示すステロイド薬です。

標的療法

標的療法とは、薬物やその他の物質を用いて特定のがん細胞を認識し攻撃する治療法の一種です。標的療法では一般に、化学療法や放射線療法に比べて、正常な細胞に及ぼす害が少なくなります。

この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。

本項では、臨床試験で研究されている治療について説明しています。現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。

幹細胞移植を伴う大量化学療法

がん細胞を殺傷するために高用量化学療法が実施されます。造細胞を含む正常な細胞もがん治療により破壊されます。幹細胞移植は、造血細胞を置き換える治療法です。まず患者さん自身またはドナーから採取した血液や骨髄から幹細胞(成熟前の血液細胞)を取り出して、それを凍結保存しておきます。そして化学療法の終了後に、保存していた幹細胞を解凍して、これを点滴によって患者さんの体内に戻します。こうして再注入された幹細胞が血液細胞に成長することにより、血液の機能が回復していきます。

中枢神経系原発リンパ腫の治療は副作用を引き起こすことがあります。

がんの治療によって引き起こされる副作用に関する詳しい情報については、副作用(英語)のページをご覧ください。

患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。

患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。臨床試験はがんの研究プロセスの一部を構成するものです。臨床試験は、新しいがんの治療法が安全かつ有効であるかどうか、あるいは標準治療よりも優れているかどうかを確かめることを目的に実施されます。

今日のがんの標準治療の多くは以前に行われた臨床試験に基づくものです。臨床試験に参加する患者さんは、標準治療を受けることになる場合もあれば、新しい治療法を初めて受けることになる場合もあります。

患者さんが臨床試験に参加することは、将来のがんの治療法を改善することにもつながります。たとえ臨床試験が効果的な新しい治療法の発見につながらなくても、重要な問題に対する解答が得られる場合も多く、研究を前進させることにつながるのです。

患者さんはがん治療の開始前や開始後にでも臨床試験に参加することができます。

ただし一部には、まだ治療を受けたことのない患者さんだけを対象とする臨床試験もあります。一方、別の治療では状態が改善されなかった患者さんに向けた治療法を検証する試験もあります。がんの再発を阻止したり、がん治療の副作用を軽減したりするための新しい方法を検証する臨床試験もあります。

臨床試験は米国各地で行われています。NCIが支援する臨床試験に関する情報は、NCIの臨床試験検索ウェブページで探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。

フォローアップ検査が必要となることもあります。

がんの診断病期判定のために実施される検査の中には、繰り返し行われるものがあります。治療の奏効の程度を確かめるために繰り返し行われる検査もあります。治療の継続、変更、中止などの決定はこうした検査の結果に基づいて判断されます。

治療が終わってからも度々受けることになる検査もあります。こうした検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんの再発(再び現れること)の有無を知ることができます。こうした検査はフォローアップ検査または定期検査と呼ばれることがあります。

中枢神経系原発リンパ腫の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

新たに診断された中枢神経系原発リンパ腫の治療法には以下のようなものがあります:

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

眼内原発リンパ腫の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

新たに診断された眼内原発リンパ腫の治療法には以下のようなものがあります:

再発中枢神経系原発リンパ腫の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

再発中枢神経系原発リンパ腫の治療法には以下のようなものがあります:

中枢神経系原発リンパ腫についてさらに学ぶために

米国国立がん研究所が提供している中枢神経系(CNS)原発リンパ腫に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:

米国国立がん研究所が提供している一般的ながん情報とその他の資源については、以下をご覧ください:

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、中枢神経系原発リンパ腫の治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Adult Treatment Editorial Board.PDQ Primary CNS Lymphoma Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/lymphoma/patient/primary-cns-lymphoma-treatment-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389274]

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