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このPDQがん情報要約では、小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍の治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- 小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍についての一般的な情報
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小児急性骨髄性白血病(AML)は、がんの一種で、骨髄において異常な血液細胞が過剰に作られるようになる疾患です。
小児急性骨髄性白血病(AML)は、血液と骨髄のがんの一種です。AMLはまた、急性骨髄芽球性白血病や急性非リンパ性白血病などとも呼ばれます。急性のがんは通常、治療しないと急速に悪化します。慢性のがんは通常、ゆっくりと悪化します。
骨の解剖図。骨は緻密骨、海面骨、骨髄で構成されています。緻密骨は、骨の外層を形成しています。海面骨は、そのほとんどが骨の末端にみられる部分で、赤色骨髄を含んでいます。骨髄は、大半の骨の中心部にあって、内部には多くの血管が走っています。骨髄には赤色骨髄と黄色骨髄の2種類があります。赤色骨髄には、白血球、赤血球、血小板になることができる造血幹細胞が含まれています。黄色骨髄は、大部分が脂肪でできています。 本要約は小児AML、一過性骨髄異常増殖症、小児急性前骨髄球性白血病、若年性骨髄単球性白血病、小児慢性骨髄性白血病、および小児骨髄異形成症候群の治療法について書かれたものです。小児急性リンパ芽球性白血病の治療の詳しい情報については、小児急性リンパ芽球性白血病の治療をご覧ください。
白血病を始めとする血液と骨髄の疾患では、赤血球、白血球、および血小板に異常が発生します。
正常な状態の骨髄では、造血幹細胞と呼ばれる未熟な細胞が作られていて、それらが時間とともに成熟して血液細胞(血球)に成長します。造血幹細胞は骨髄系幹細胞とリンパ系幹細胞のどちらかに成長します。リンパ系幹細胞は白血球の一種に成長します。
骨髄系幹細胞は成熟して以下の3種類の血液細胞のいずれかになります:
血液細胞の成長。造血幹細胞はいくつかの段階を経て赤血球、血小板、または白血球になります。 AMLでは通常、骨髄系幹細胞が骨髄芽球(骨髄系の芽球)と呼ばれる未熟な白血球になります。AMLの骨髄芽球は、白血病細胞とも呼ばれ、異常であるために正常な白血球には成長できません。白血病細胞は血液中や骨髄中に蓄積することがあり、そうなると正常な白血球、赤血球、血小板のためのスペースが少なくなってしまいます。このことにより、感染や貧血を起こしたり、出血が起きやすくなったりします。
白血病細胞はさらに、中枢神経系(脳と脊髄)、皮膚、歯ぐきなど、血液以外の部位に拡がる可能性もあります。ときには、白血病細胞が骨髄性肉腫と呼ばれる固形腫瘍を形成することもあります。骨髄性肉腫は顆粒球肉腫や緑色腫とも呼ばれます。
他の骨髄性疾患によって血液と骨髄に障害が生じる場合もあります。
一過性骨髄異常増殖症(TAM)
TAMはダウン症候群の新生児に発生することがある骨髄の疾患です。TAMは通常、生後3カ月以内に自然に消失します。しかし、TAMの乳児は3歳までにAMLを発症する可能性が高くなります。TAMは一過性骨髄増殖性疾患や一過性白血病とも呼ばれます。
急性前骨髄球性白血病(APL)
APLはAMLの亜型です。APLでは、15番染色体上の一部の遺伝子が17番染色体上の遺伝子と入れ替わることで、PML-RARAと呼ばれる異常な遺伝子が形成されます。このPML-RARA遺伝子から前骨髄球(白血球の一種)の成熟を抑止するメッセージが出されます。前骨髄球(白血病細胞)は血液中や骨髄中に蓄積することがあり、そうなると正常な白血球、赤血球、血小板のためのスペースが少なくなってしまいます。重度の出血や血栓を伴う問題が起こることもあります。これは深刻な健康問題で、できる限り速やかに治療を行う必要があります。
若年性骨髄単球性白血病(JMML)
JMMLは、2歳前後の小児に多くみられ、男児により多く発生する、まれな小児がんです。JMMLでは、過剰な数の骨髄系造血幹細胞が骨髄球と単球(いずれも白血球の一種)になります。それらの骨髄系造血幹細胞の一部は成熟した白血球に成長しません。それらの未熟な細胞は芽球と呼ばれ、正常には機能できません。やがて骨髄球、単球、芽球によって、健康な白血球、赤血球、血小板が骨髄から締め出されるようになります。このような状態に陥ると、感染症や貧血が起きたり、出血が起きやすくなったりします。
慢性骨髄性白血病(CML)
CMLは多くの場合、早期の骨髄系血液細胞で遺伝子に特定の変化が生じることで発生します。それは、9番染色体のABL遺伝子を含む部分が22番染色体のBCR遺伝子がある部分と入れ替わる変化です。これにより非常に短い22番染色体(フィラデルフィア染色体)と非常に長い9番染色体が形成されます。22番染色体にはBCR-ABLという異常な遺伝子が形成されます。このBCR-ABL遺伝子からは、血液の細胞にチロシンキナーゼと呼ばれる蛋白を過剰に生産するよう指令が出されます。このチロシンキナーゼが原因となり、骨髄で異常な白血球(白血病細胞)が過剰に作られるようになります。白血病細胞は血液中や骨髄中に蓄積することがあり、そうなると正常な白血球、赤血球、血小板のためのスペースが少なくなってしまいます。このことにより、感染や貧血を起こしたり、出血が起きやすくなったりします。CMLは小児ではまれな疾患です。
フィラデルフィア(Ph)染色体は、9番染色体の断片と22番染色体の断片が互いに入れ替わることで形成される異常な染色体です。9番染色体に由来するABL遺伝子が22番染色体のBCR遺伝子に結合して、BCR::ABL融合遺伝子が形成されます。この融合遺伝子をもつ異常な22番染色体はフィラデルフィア染色体と呼ばれます。 骨髄異形成症候群(MDS)
MDSは小児より成人に多くみられます。MDSでは、骨髄で作られる赤血球、白血球、血小板の量が非常に少なくなります。これらの血液細胞が成熟できず血液中に送り出されない場合もあります。MDSは侵される血液細胞の種類に応じていくつかの型に分けられます。
MDSの治療法は赤血球、白血球、血小板の減少の程度に応じて異なります。MDSは時間とともにAMLに変化することがあります。
特定の化学療法や放射線療法の後にAMLまたはMDSが発生することがあります。
特定の化学療法薬によるがん治療や放射線療法が、治療関連AML(t-AML)や治療関連MDS(t-MDS)を引き起こすことがあります。このような治療関連骨髄疾患のリスクは、使用された化学療法薬の総用量や放射線の線量と照射範囲に左右されます。なかにはt-AMLやt-MDSの遺伝性のリスクがある患者さんもいます。これらの治療関連疾患は、通常は治療から7年以内に発生しますが、小児ではまれです。
小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍のリスク因子は類似しています。
疾患が発生する可能性を増大させるものは全てリスク因子と呼ばれます。リスク因子があると必ずがんを発症するというわけではありませんし、リスク因子がなければがんにならないというわけでもありません。お子さんにリスクがあるかもしれないと思われる場合は、担当の医師に相談してください。これらの要因やその他の要因が小児AML、APL、JMML、CML、MDSのリスクを高めることがあります:
小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍の徴候や症状としては、発熱や疲労感のほか、出血しやすくなる、あざができやすくなるなどがあります。
これらのような徴候や症状は、小児AML、APL、JMML、CML、MDSが原因のこともありますが、別の病態が原因である可能性もあります。お子さんに以下の症状が1つでもみられる場合は、医師の診察を受けてください:
TAMの症状・徴候としては以下のようなものがあります:
小児急性骨髄性白血病やその他の骨髄系悪性腫瘍の診断と転移の検査には、血液と骨髄を調べる検査法が用いられます。
以下のような検査法や手技が用いられます:
- 身体診察と病歴聴取:しこりなどの通常みられない疾患の徴候に注意しながら、体を総体的に調べます。患者さんの健康習慣、過去の病歴、治療歴なども調べます。
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血算(全血球算定)と白血球分画:血液を採取して以下の項目について調べる検査:
血算(全血球算定)。静脈に針を刺して注射器の中に血液を吸い込むことにより、血液を採取します。採取された血液は検査室に送られ、そこで赤血球と白血球と血小板の数が調べられます。血算は数多くの病態の検査、診断、モニタリングに用いられています。 - 胸部X線検査:胸部の臓器と骨を撮影するX線検査です。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルムに照射すると、フィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
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生検:細胞や組織を採取する手技で、採取されたサンプルは病理医が顕微鏡で観察して、がんの徴候がないか調べます。以下のような生検が行われます:
- 免疫表現型検査:抗体を利用して、細胞の表面にある抗原やマーカーの種類に基づいてがん細胞を特定する臨床検査です。この検査は特定の種類の白血病の診断に用いられます。
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染色体検査:血液または骨髄のサンプルに含まれる細胞の染色体を観察して、その数を計測するとともに、染色体に破損、欠失、再構成、過剰などの変化がないか調べる臨床検査です。特定の染色体に認められる変化は、がんの徴候である可能性があります。染色体検査は、がんの診断、治療計画、治療効果の判定に用いられます。
以下の検査は染色体検査の一種です:
- FISH(蛍光in situハイブリダイゼーション)検査:細胞や組織のサンプルで遺伝子や染色体について調べる臨床検査です。蛍光色素を組み込んだDNAの断片を製造ラボで作製し、患者さんの細胞や組織のサンプルにそのDNA断片を添加します。蛍光標識されたDNA断片がサンプルに含まれる特定の遺伝子や染色体領域と結合すると、蛍光顕微鏡で観察したとき、結合した部分が光って見えます。FISH検査はがんの診断と治療計画に用いられます。
- 分子生物学的検査は、組織、血液、骨髄のサンプルに特定の遺伝子、蛋白、その他の分子が含まれていないか調べる臨床検査です。分子生物学的検査では、AMLの原因になったり発生の可能性を高めたりする遺伝子や染色体の変化がないかも調べます。さらに、治療計画を立てたり、治療がどのくらい効いているかを調べたり、予後を判定したりするためにも用いられます。
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腰椎穿刺:脊柱から髄液を採取する際に用いられる手技です。脊椎の2本の骨の間に針を刺し、髄液が流れている脊髄周囲の空間まで針先を進めて、髄液のサンプルを採取します。髄液のサンプルは顕微鏡で観察して、白血病細胞が脳や脊髄に拡がった徴候がないか調べます。この手技は脊椎穿刺とも呼ばれることがあります。
腰椎穿刺。患者さんに背中を曲げた姿勢で台の上に横たわってもらいます。腰の小さな領域に麻酔を施してから、腰椎穿刺針(細長い針)を脊柱の下部に挿入して、髄液(青色で示されている)を採取します。採取した液体を検査のために検査室に送ることもあります。
特定の要因が予後(回復の見込み)や治療選択肢に影響を及ぼします。
小児急性骨髄性白血病(AML)の予後や治療選択肢を左右する要因としては以下のものがあります:
小児急性前骨髄球性白血病(APL)の予後や治療選択肢を左右する要因としては以下のものがあります:
- 診断時の血液中の白血球数
- 白血病細胞における特定の染色体または遺伝子の変化の有無
- 初発の(新たに診断された)APLか、治療後に再発したAPLか
若年性骨髄単球性白血病(JMML)の予後や治療選択肢を左右する要因としては以下のものがあります:
- がんと診断されたときの年齢
- 変異がある遺伝子の種類と変異がある遺伝子の数
- 治療後の血液中に存在する血小板の数
- 治療後の血液中に存在するヘモグロビンの量
- 初発の(新たに診断された)JMMLか、治療後に再発したJMMLか
小児慢性骨髄性白血病(CML)の予後や治療選択肢を左右する要因としては以下のものがあります:
- 診断を受けてからの経過期間
- 血液中の芽球の数
- 治療開始後に血液や骨髄中の芽球数が十分に減少しているかどうか、その減少の程度
- 初発の(新たに診断された)CMLか、治療後に再発したCMLか
骨髄異形成症候群(MDS)の予後や治療選択肢を左右する要因としては以下のものがあります:
- 過去のがん治療によって引き起こされたMDSかどうか
- 赤血球数、白血球数、血小板数の減少の程度
- 初発の(新たに診断された)MDSか、治療後に再発したMDSか
- 小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍の病期
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小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍の病期には、標準的な病期分類システムがありません。
がんの拡がりの程度は通常は病期で表現されます。治療法は病期の代わりに、以下の要素に基づいて決められます:
初発の小児AML
初発の(新たに診断された)小児AMLとは、発熱や出血、痛みなどの徴候や症状の緩和以外に一切の治療が行われておらず、さらに以下の条件に当てはまるがんです:
寛解期の小児AML
寛解期の小児AMLとは、すでに治療が行われていて、さらに以下の条件を満たしている場合のことです:
- 血算の結果がほぼ正常である。
- 骨髄中の芽球(白血病細胞)の数が全細胞数の5%未満である。
- 脳や脊髄のほか、体のどの部位にも、白血病の徴候や症状が認められない。
- 治療選択肢の概要
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小児の急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍に対する治療法には様々なものがあります。
小児の急性骨髄性白血病(AML)、一過性骨髄異常増殖症(TAM)、急性前骨髄球性白血病(APL)、若年性骨髄単球性白血病(JMML)、慢性骨髄性白血病(CML)、および骨髄異形成症候群(MDS)の患者さんは、様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、がんの患者さんを対象に、既存の治療法を改良したり、新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。新しい治療法が標準治療よりも優れていることが複数の臨床試験で示された場合、その新しい治療法が標準治療になる可能性があります。
AMLなどの骨髄性疾患は小児ではまれな疾患ですので、臨床試験への参加を検討するべきです。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
小児白血病などの血液疾患の治療に精通した医療従事者で構成されるチームが治療計画を策定します。
治療は小児腫瘍医(小児がんの治療を専門とする医師)が監督します。小児腫瘍医は、小児白血病の治療に精通しつつ、同時に特定の医療分野を専門とする他の医療従事者と協力しながら治療に取り組んでいきます。具体的には以下のような専門医や専門家です:
通常、小児AMLやその他の骨髄系悪性腫瘍の治療には2つの段階があります。
小児AMLの治療は以下の段階に分けられます:
寛解導入療法の段階では、中枢神経系予防と呼ばれる治療が行われることがあります。標準用量の化学療法では中枢神経系(脳と脊髄)に存在する白血病細胞に効果が及ばない可能性があるため、中枢神経系は白血病細胞の「聖域」(隠れ場所)になる可能性があります。髄腔内化学療法では、中枢神経系内の白血病細胞にも効果を及ぼすことができます。それにより白血病細胞を死滅させ、白血病が再発する可能性を低下させます。
小児APLの治療には、維持療法と呼ばれる第3の段階があります。維持療法の目標は、残存している白血病細胞を死滅させることで、再び増殖して再発するのを予防することです。多くの場合、このがん治療では、寛解導入療法や地固め/強化療法よりも少ない用量で薬剤が投与されます。
小児AMLとその他の骨髄系悪性腫瘍には7種類の標準治療が用いられています。
化学療法
化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止するがん治療です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入り、全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。髄液(髄腔内化学療法)や臓器、あるいは腹腔などの体腔の中に薬剤を直接投与する化学療法では、その領域にあるがん細胞に薬が集中的に作用します(局所化学療法)。多剤併用化学療法は複数の抗がん剤を使用する治療法です。
化学療法の実施方法は、治療対象となるがんの種類に応じて異なります。AMLでは、化学療法は経口投与、静脈内投与、または髄液中への投与によって行われます。
AMLでは、白血病細胞が脳や脊髄に拡がることがあります。AMLに対する化学療法として経口または静脈内投与された薬は、血液脳関門を通過することができず、脳と脊髄の周囲を満たしている液体の中に入り込むことができません。そこで、脳と脊髄に拡がっている可能性のある白血病細胞を死滅させるために、液体で満たされたこの空間内に化学療法薬が直接注入されます(髄腔内化学療法)。
髄腔内化学療法。髄液(青色で示されている)で満たされた空洞である脊髄腔の中に抗がん剤が注入されます。これには2種類の方法があります。1つめはこの図の上の部分に示されているもので、オンマイヤーレザバー(手術中に頭皮の下に設置されるドーム状の容器で、細い管を通して脳内に薬剤を投与することを可能にします)に薬剤を注入する方法です。もう1つは図の下の部分に示されているもので、腰の小さな領域に麻酔を施してから、脊柱の下部から直接髄液内に薬剤を注入する方法です。 詳しい情報については、急性骨髄性白血病に対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。
造血幹細胞移植
まず、がん細胞やその他の異常な血液細胞を死滅させる目的で化学療法を行われます。すると、このがん治療によって、造血幹細胞を含めた正常な細胞も破壊されてしまいます。そこで造血幹細胞移植を行って、造血幹細胞を新しいものに置き換えます。患者さんまたはドナーから採取した血液または骨髄から造血幹細胞(未成熟の血液細胞)を取り出し、それを凍結保存しておきます。化学療法の終了後に、保存していた造血幹細胞を解凍し、それを点滴で患者さんの体内に戻します。体内に戻された造血幹細胞が成長することで、血液の機能が回復します。
ドナー造血幹細胞移植。(ステップ1):ドナーから造血幹細胞を採取する4~5日前に、血流内を循環する幹細胞の数を増やすための薬剤をドナーに投与します(図には示されていません)。その後、ドナーの腕の太い静脈から造血幹細胞を採取します。造血幹細胞を取り出すアフェレーシス装置の中に血液を流します。残った血液は反対側の腕の静脈からドナーの体内に戻されます。(ステップ2):患者さんに化学療法を行うことでがん細胞を殺傷して、患者さんの体がドナーの造血幹細胞を受け入れる環境を作ります。放射線療法を行う場合もあります(図には示されていません)。(ステップ3):患者さんにドナー幹細胞を投与します。 分子標的療法
分子標的療法は、特定のがん細胞を認識し攻撃する性質をもった薬物やその他の物質を用いる治療法です。分子標的療法では通常、化学療法や放射線療法と比べて、正常な細胞に及ぼす害が少ないです。分子標的療法の種類には以下のものがあります:
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チロシンキナーゼ阻害薬療法:必要以上に多くの幹細胞を白血球(芽球)に成長させるチロシンキナーゼという酵素を阻害する治療法です。チロシンキナーゼ阻害薬は、補助療法(がんが再発するリスクを抑えるために初回治療の後に行われる治療)として他の化学療法薬と併用されることがあります。
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モノクローナル抗体:モノクローナル抗体は、人工的に作られ、がんを含む様々な疾患の治療に用いられている免疫系の蛋白です。この種の抗体は、がんの治療薬として、がん細胞やその他の細胞の表面に存在してがん細胞の増殖に関与している特定の標的物質に結合することができます。これにより、抗体はがん細胞の死滅、増殖の阻止、転移の抑止などの効果を発揮できるようになります。モノクローナル抗体は点滴で投与されます。単独で使用されることもありますが、薬物や毒素、放射性物質などをがん細胞に直接送り込ませる用途でも用いられます。
- ゲムツズマブ オゾガマイシンは、化学療法薬を結合させたモノクローナル抗体の一種です。AMLの治療に使用されます。
詳しい情報については、白血病に対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。
その他の薬物療法
特定の染色体変化によって発生した骨髄異形成症候群の患者さんでは、輸血の必要性を減らす目的でレナリドミドが使用されることもあります。
三酸化二ヒ素とトレチノインは、特定の種類の白血病細胞を死滅させたり、白血病細胞の分裂を妨害したり、白血病細胞の白血球への成熟を促進したりする作用がある薬剤です。これらの薬剤は急性前骨髄球性白血病の治療に使用されます。
詳しい情報については、急性骨髄性白血病に対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。
注意深い経過観察
注意深い経過観察とは、徴候や症状の出現や変化がみられるまで、治療を一切行わずに患者さんの状態を注意深くモニタリングしていくことです。一過性骨髄異常増殖症(TAM)の治療に用いられることがあります。
支持療法
支持療法は、疾患やその治療が原因で生じた問題を軽減するために行われます。白血病の患者さん全員に支持療法が行われます。支持療法には以下のようなものがあります:
- 輸血療法:疾患やがん治療によって破壊された血液細胞を補充するために赤血球や血小板を投与する治療法です。血液はドナーから提供を受ける場合もあれば、前もって患者さん自身から採取して必要になるまで保存される場合もあります。
- 抗真菌薬:カスポファンギンやフルコナゾールなどの、真菌(微生物の一種)によって引き起こされる感染症の予防や治療に使用される薬剤です。AMLの患者さんのケアに重要です。
- 抗菌薬などの薬物療法。
- 白血球除去療法:専用の装置を用いて血液から白血球を除去する治療法です。患者さんから採取した血液を血球分離装置にかけて、白血球を除去します。その後、残った血液を患者さんの体内に戻します。白血球除去療法は白血球数が非常に多い患者さんの治療に用いられます。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。
本項では、臨床試験で研究されている治療について説明しています。現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。
小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍の治療は副作用を引き起こすことがあります。
がんの治療中に発生する副作用の詳細については、副作用(英語)のページをご覧ください。
定期的なフォローアップ検査が非常に重要です。がん治療による副作用のうち、治療後に始まって月単位または年単位で続くものは、晩期合併症(晩期障害)と呼ばれます。がん治療の晩期合併症(晩期障害)には以下のようなものがあります:
晩期合併症(晩期障害)には治療やコントロールが可能なものもあります。AMLやその他の血液疾患の治療を受ける小児の保護者は、がん治療によってお子さんに生じうる晩期合併症(晩期障害)について担当の医師とよく相談することが重要です。(詳しい情報については、PDQの小児がん治療の晩期合併症(晩期障害)に関する要約をご覧ください。)
患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。
患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。臨床試験はがんの研究プロセスの一部を構成するものです。臨床試験は、新しいがんの治療法が安全かつ有効であるかどうか、あるいは標準治療よりも優れているかどうかを確かめることを目的に実施されます。
がんに対する今日の標準治療の多くは、過去に行われた臨床試験の結果を根拠としています。臨床試験に参加する患者さんは、標準治療を受けることになる場合もあれば、まだ人に用いられたことがない新しい治療法を受けることになる場合もあります。
患者さんが臨床試験に参加することは、将来のがん治療を改善することにもつながります。たとえ臨床試験が新しい効果的な治療法の発見につながらなくても、しばしば重要な問題に対する答えが得られ、研究を前進させる助けになります。
患者さんはがん治療の開始前だけでなく、開始後でも臨床試験に参加することができます。
ただし一部には、まだ治療を受けたことのない患者さんだけを対象とする臨床試験もあります。一方、別の治療では状態が改善されなかった患者さんに向けた治療法を検証する試験もあります。がんの再発を阻止したり、がん治療の副作用を軽減したりするための新しい方法を検証する臨床試験もあります。
臨床試験は米国各地で行われています。NCIが支援する臨床試験に関する情報は、NCIの臨床試験検索ウェブページで探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。
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チロシンキナーゼ阻害薬療法:必要以上に多くの幹細胞を白血球(芽球)に成長させるチロシンキナーゼという酵素を阻害する治療法です。チロシンキナーゼ阻害薬は、補助療法(がんが再発するリスクを抑えるために初回治療の後に行われる治療)として他の化学療法薬と併用されることがあります。
- 小児急性骨髄性白血病の治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
初発の(新たに診断された)小児急性骨髄性白血病(AML)に対する寛解導入期に対する治療法には以下のようなものがあります:
寛解期(地固め/強化療法の段階)の小児AMLに対する治療法はAMLの病型によって異なりますが、以下のようなものがあります:
難治性の小児AMLに対する治療法には以下のようなものがあります:
再発した小児AMLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- 多剤併用化学療法。
- モノクローナル抗体(ゲムツズマブ オゾガマイシン)による分子標的療法。
- 局所再発した骨髄性肉腫の治療には放射線療法。
- 分子標的療法(ミドスタウリン、ソラフェニブ、ギルテリチニブ)の臨床試験への参加。
- 2回目の完全寛解を達成した患者さんには多剤併用化学療法と造血幹細胞移植。
- 1回目の造血幹細胞移植後に再発した患者さんには2回目の造血幹細胞移植。
- 一過性骨髄異常増殖症の治療、ダウン症候群を合併している小児のAMLの治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
一過性骨髄異常増殖症(TAM)は通常は自然に消失します。初発の(新たに診断された)TAMが自然に消失しない場合や他の健康問題を引き起こしている場合の治療法としては、以下のようなものがあります:
ダウン症候群がある4歳未満の小児の初発急性骨髄性白血病(AML)に対する治療法には以下のようなものがあります:
4歳以上のダウン症候群がある小児における初発AMLの治療は、ダウン症候群がない場合と同じものになることがあります。
- 小児急性前骨髄球性白血病の治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
初発の(新たに診断された)小児急性前骨髄球性白血病(APL)に対する治療法には以下のようなものがあります:
寛解期(地固め/強化療法の段階)の小児APLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- トレチノインと三酸化二ヒ素。
- トレチノインと化学療法、場合により三酸化二ヒ素。
寛解期(維持療法)の小児APLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- トレチノインと多剤併用化学療法。
再発した小児APLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- 若年性骨髄単球性白血病の治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
初発の(新たに診断された)若年性骨髄単球性白血病(JMML)に対する治療法には以下のようなものがあります:
難治性または再発の小児JMMLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- 1回目の造血幹細胞移植後に再発した患者さんには2回目の造血幹細胞移植。
- チロシンキナーゼ阻害薬(トラメチニブ)による分子標的療法の臨床試験への参加。
- 小児慢性骨髄性白血病の治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
初発の(新たに診断された)小児慢性骨髄性白血病(CML)に対する治療法には以下のようなものがあります:
難治性または再発の小児CMLに対する治療法には以下のようなものがあります:
- 小児骨髄異形成症候群の治療
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以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。
初発の(新たに診断された)小児骨髄異形成症候群(MDS)に対する治療法には以下のようなものがあります:
- 小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍についてさらに学ぶために
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米国国立がん研究所が提供している小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄系悪性腫瘍に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:
小児がんに関するさらなる情報とがん全般に関するその他の資料については、以下をご覧ください:
- 本PDQ要約について
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PDQについて
PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。
PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。
本要約の目的
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患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
臨床試験に関する情報
臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。詳しい情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。
本要約の使用許可について
PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。
本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:
PDQ® Pediatric Treatment Editorial Board.PDQ Childhood Acute Myeloid Leukemia/Other Myeloid Malignancies Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute. Updated <MM/DD/YYYY>. Available at: https://www.cancer.gov/types/leukemia/patient/child-aml-treatment-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389303]
本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。
免責事項
PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。
お問い合わせ
Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。