ご利用について
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、 肝(肝細胞)がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- 概要
-
注:肝(肝細胞)がんのスクリーニング、成人原発性肝がんの治療、小児肝がんの治療、およびがんのスクリーニング(検診)と予防の研究に関する証拠レベルについては、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。
リスクのある個人
世界で肝細胞がん(HCC)の80%以上で重大な病原体は、慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染および慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染である。[ 1 ]両ウイルスは、単独でも、他の危険因子があっても、これらの肝炎ウイルスがない場合と比較して、HCCリスクが驚くほど高いことに関与している。慢性HBVまたはHCV感染の男性は、同じ慢性感染の女性よりHCCを発症する傾向が高く、一部では他の危険因子の保有率が異なることによって違いが説明できるが、完全に説明できるわけではない。[ 2 ]肝硬変は、その病因にかかわらず、HCCに対する患者の素因となり[ 3 ]、診断時点でHCC患者の70~90%にみられる。[ 4 ]大量のアルコール摂取は、肝硬変の原因となるため、HCCの強い病原因子であり、HBVまたはHCVの存在はリスクをさらに高める。[ 5 ]アフラトキシンB1への曝露は、慢性HBV感染患者でHCCリスクを大幅に高め、慢性HBV感染のない患者でもその可能性があるが、その程度ははるかに低い。[ 1 ]非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、肝硬変を合併した患者でHCCリスクを高め[ 6 ]、肝硬変のない患者でもわずかにリスクが増加することがある。[ 7 ][ 8 ]喫煙はわずかにリスクを高める。[ 9 ]未治療の遺伝性ヘモクロマトーシスおよび他の特定のまれな病状および遺伝性疾患は、HCCリスクの大幅な増加の原因となるが、小さな割合の症例のみに関与する。[ 1 ]新たに非アルコール性脂肪肝(NAFL)と診断された患者における将来のHCC発生率は不明であり、NAFLはNASHに進行することがある上に、NAFL患者は肝硬変を発症することがあるため、NAFL患者はリスクが高いと考えられる理由が存在する。[ 10 ]メタボリックシンドローム(MetS)の診断は、HCCリスク増加と関係しており[ 11 ]、肥満および2型糖尿病も同じであり、これらはMetSで一般的な要素疾患である。[ 11 ]これらの3つの疾患は、NAFLと同時に発生することもある。[ 12 ]これら4つの疾患の頻繁な併存は、疾患特異的リスク判定の解釈を困難にする。HBVワクチン接種プログラムの実施後にHCC発生率の低下が認められており[ 13 ]、ヌクレオシドアナログ療法により慢性HBV感染患者でHCCリスクが低下するが、リスクがなくなるわけではない。[ 14 ]アフラトキシンB1により重度に汚染された食料品を含有レベルがはるかに低いものと交換することで、原発性肝がんに50%超える減少が認められた。[ 15 ]持続的なウイルス学的反応が得られる直接作用型抗ウイルス療法によるHCV治療で、HCCリスクが低下する可能性がある。[ 16 ]
肝細胞がん(HCC)のリスク増加を示す十分な証拠がある因子
慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染
固い証拠によると、慢性HBV感染がHCCを引き起こす。
影響の大きさ:アジアおよびアフリカで慢性HBV感染はHCCの第一の原因である。[ 17 ]HBVは、単独でも、他の危険因子があっても、HCC発症リスクが驚くほどの高いことに関与している。リスク増加の程度は、他の因子の存在または感染の特徴によってさまざまであるが、平均すると、HBVの相対リスクが5倍以上であると想定することが妥当である。[ 2 ]
慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染
固い証拠によると、慢性HCV感染がHCCを引き起こす。
影響の大きさ:北米、欧州、および日本でHCV感染はHCCの第一の原因である。[ 17 ]HCVは、単独でも、他の危険因子があっても、HCC発症リスクが驚くほどの高いことに関与している。リスク増加の程度は、他の因子の存在または感染の特徴によってさまざまであるが、平均すると、HCVの相対リスクが15倍以上であると想定することが妥当である。[ 18 ]
肝硬変
固い証拠によると、肝硬変は、その病因にかかわらず、HCCに対する患者の素因となる。[ 3 ]HCCは、ほとんどの例で肝硬変の存在下で発生する。[ 3 ]
影響の大きさ:剖検研究で、HCCにより死亡した患者の80~90%が肝硬変であった。[ 3 ]HCCのリスクは、肝硬変の原因により異なる;HCV関連の肝硬変患者は、HBV関連の肝硬変患者よりリスクが高く、HBV関連の肝硬変患者は、アルコール関連の肝硬変患者よりリスクが高い。[ 17 ][ 18 ]肝硬変患者がHCCを発症する5年累積リスクは、5%から30%に及ぶ。[ 18 ]
大量のアルコール摂取
固い証拠によると、大量のアルコール摂取はHCCのリスクを高める。[ 2 ]大量のアルコール摂取は肝硬変を引き起こし、ほとんどのアルコール関連のHCCの発生は、そのような経路を介して発生すると考えられる。[ 3 ]しかしながら、大量のアルコール摂取で肝硬変を発症しない場合でも、HCC発症のリスクが高くなる。[ 3 ]
影響の大きさ:大量のアルコール摂取はHCCのリスクを2倍以上に高める;数件の研究で5倍以上の増加が示唆される。[ 17 ]HBVまたはHCV感染患者でも、この関連の大きさはほぼ同じである。[ 19 ]しかしながら、大量のアルコール摂取と慢性HCV感染は、HCCリスクに対して相乗的に作用すると考えられ、感染がみられず、大量のアルコール摂取をしない人と比較して、おそらく100倍のリスク増加をもたらす。HBVとの相乗作用が存在する一貫性は乏しいが、ある研究で、50倍のリスク増加が観察された。[ 19 ]
アフラトキシンB1
アフラトキシンB1は、温暖で湿潤な環境に保管されたコーンやピーナッツを汚染することがあるカビ毒(マイコトキシン)である。[ 1 ]固い証拠によると、アフラトキシンB1曝露はHCCリスクを高める。[ 18 ]
影響の大きさ:慢性HBV感染患者で、アフラトキシンB1曝露はリスクを60倍に高めると推定される。[ 18 ]慢性HBV感染は、アフラトキシンB1への曝露が環境的懸念である地域で有病率が高いため、HBVに感染していない人で影響の大きさを評価することは難しいが、利用できる限られたデータによると、リスク増加が4倍になる可能性が示唆される。[ 20 ]
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)
中等度の証拠によると、NASHはHCCのリスクを高める。
影響の大きさ:NASHで肝硬変の患者195人を対象とした研究によると、追跡期間中央値3.2年で13%がHCCと診断された。[ 6 ]肝硬変でないNASH患者では、HCCの発生頻度が低かった;しかしながら、これらの患者はHCCリスクがわずかに高いと考えられる。[ 7 ][ 8 ]
喫煙
中等度の証拠によると、喫煙はHCCのリスクを高める。
影響の大きさ:ウイルス感染がない状況での喫煙は、HCCリスクのわずかな(最大2倍)増加を伴っている。喫煙および慢性HBVまたはHCV感染の存在は、HCCリスクに対して少なくとも相加的な作用をもたらす。[ 9 ]
特定のまれな遺伝疾患および内科的疾患(未治療の遺伝性ヘモクロマトーシス[HH]、α-1-アンチトリプシン欠損症、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症、ウィルソン病)
固い証拠によると、未治療のHH、α-1-アンチトリプシン欠損症(AAT)、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症、およびウィルソン病は、HCCのリスクを高めるが、それで説明できるのは数例である。[ 1 ]治療をしないと、HHは肝硬変に至るが、肝臓が非硬変性の患者でHCCを発症した報告がある。[ 1 ]
影響の大きさ:未治療のHHは、20倍以上のリスク増加をもたらすが[ 17 ]、他の因子(HBVおよびHCV感染を含む)に応じてリスクは異なる。鉄貯蔵量を減少させる治療は、リスクを大幅に低下させる可能性がある。AAT欠損症、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症、およびウィルソン病は、HCCリスクに大幅な増加をもたらすが、増加の幅はさまざまである。[ 1 ]
HCCのリスク増加を示す証拠が不十分な因子
非アルコール性脂肪肝
限定的な証拠によると、一部のNAFL患者がNASHまたは肝硬変を発症する。[ 10 ]したがって、 NAFLはHCCリスクを高めると想定される。
影響の大きさ:小規模な臨床研究で、20~50%のNAFL患者がNASHを発症する可能性があることが示唆された。[ 10 ]最大4%のNAFL患者が肝硬変を発症する可能性がある。[ 21 ]NAFL患者がこれらの疾患を発症していることが観察され、これらの疾患はHCCリスクを高めることが知られているため、NAFLはHCCリスクを高めるという結論につながったものの、新たにNAFLと診断された患者における将来のHCC発生率は不明である。
HCCのリスク減少を示す証拠が十分にある介入
HBVワクチン接種
固い証拠によると、新生児でのHBVワクチン接種または若い年齢でのキャッチアップ・ワクチン接種により、若年成人でのHCC発生率が低下する。[ 24 ]
影響の大きさ:生後または小児早期にワクチン接種を受けたコホートで、小児および若年成人でのHCCリスクの50%以上減少が観察されている。普遍的な新生児ワクチン接種により、究極的に世界で70~85%のHCC症例がなくなると予想される。[ 24 ][ 25 ]
アフラトキシンB1を含まない食品の利用拡大
固い証拠によると、アフラトキシンB1を多く含む食品をアフラトキシンB1の含有量がはるかに低い食品と交換することで、肝がんによる死亡率が低下する。[ 15 ]
影響の大きさ:肝がんによる死亡率が50%を超える低下。
HCCのリスク減少を示す証拠が不十分な介入
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)によるHCV治療
中等度の証拠によると、持続的ウイルス学的奏効(SVR)をもたらすDAAを用いたHCV治療により、HCCリスクが低下する可能性がある。
影響の大きさ:DAAによる治療を受け、SVRに達した患者では、SVRに達しなかった患者と比較してHCCリスクが約75%低下した。[ 16 ]SVRによる相対リスクの減少は、肝硬変がある患者(ハザード比[HR]、0.31;95%CI、0.23-0.44)と肝硬変がない患者(HR、0.18;95%CI、0.11-0.30)において同程度であった。肝硬変の有無にかかわらず、インターフェロンを投与された人とは対照的に、DAAを投与された人ではHCCのリスクは増加しない。[ 26 ][ 27 ]
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- 証拠の記述
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発生率、死亡率、および生存率
肝がんは、組織型にかかわりなく、米国におけるがん診断の約2%、がんによる死亡の5%を占めているが、米国で診断されるがんの上位10位までに含まれていない。[ 1 ]しかしながら、肝がんは米国におけるがんによる死亡で4番目に多い原因である。[ 1 ]2020年に米国において発生が予想される肝がんの新規症例数は約42,810例である;予測される死亡者数は30,160人である。[ 2 ]肝細胞がん(HCC)は、米国におけるすべての肝がんの約70%を占めている。[ 3 ]1975年では、米国における肝がんの発生率が100,000人当たり2.64人であった。2016年では、この発生率が100,000人当たり8.63人と、3倍を超える上昇を示している。[ 3 ]5年生存率は、限局性病変例で高い32.6%から、遠隔転移例で低い2.4%まで、病期によりさまざまである。[ 1 ]米国における肝がん発生率は、白人で最も低く、ヒスパニック系の男性およびアメリカインディアン/アラスカ原住民女性で最も高い。肝がん死亡率は、白人で最も低く、アメリカインディアン/アラスカ原住民で最も高い。これら割合は、ヒスパニック系でも、非ヒスパニック系と比較して高い。[ 1 ]
世界規模では、肝がんは6番目に多くみられるがんであり、がん関連死の主要原因の第4位となっている。[ 4 ]世界では、年間約841,080人のHCC新規症例が発生し、781,631人がこの疾患により死亡する[ 4 ];ほとんどの国で、HCCの年間発生率および死亡率はほぼ同じである。[ 4 ]HCCは、成人男性が診断されるがんで5番目に多く、女性が診断されるがんで9番目に多い。[ 4 ]HCCの発生率は、地理的位置によって大きく異なる。[ 4 ]発生率が高い地域には、北部および西部アフリカ(エジプト、ガンビア、ギニア)、東部および東南アジア(モンゴル、カンボジア、ベトナム)がある。北米、南米、ほとんどの欧州諸国、オーストラリア、および一部の中東諸国では、HCCの発生率が低い。[ 4 ][ 5 ]世界のすべての地域で、HCCは女性より男性に多くみられる。[ 4 ][ 5 ]
HCCのリスク増加を示す証拠が十分にある因子
慢性HBV感染
慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染は、アジアおよびアフリカでHCCの第一の原因である。[ 6 ]B型肝炎は、感染した血液、精液、またはその他の体液との接触を介して伝播する。慢性HBV感染およびHCCの発生率が高い地域では、約70%の感染が周産期または小児早期に生じる。[ 7 ]HBVは、母から子への伝搬に加えて、性的接触および感染した血液との接触を介して拡がることがある。[ 8 ]米国で、最も一般的な伝播経路は、薬物注射針の共有である。[ 9 ]米国では、85~220万人が慢性HBV感染者であり[ 8 ]、その感染によるHCC症例が10~15%であると推定されている。[ 10 ]世界保健機関(WHO)では、世界で2億4,000万人が感染していると推定している。[ 9 ]
慢性HBV感染とHCCの因果関係の証拠は、病因学的研究、ケースシリーズ、ケースコントロール研究、およびプロスペクティブ疫学研究から得られる。[ 7 ]病因学的研究では、慢性HBVの有病率とHCCの発生率および死亡率に強い正相関が認められている。HBVは、ウイルス血清陽性のほぼすべてのHCC患者の肝臓組織に認められ[ 7 ]、血清陰性でもHBV抗体が陽性の患者では、HCC腫瘍の10~20%にHBV DNAが認められている。[ 7 ]ケースコントロール研究およびプロスペクティブ研究では、慢性HBV感染についてのオッズ比または相対リスク(RR)が5以上であることが観察されている。[ 7 ]一部のプロスペクティブ研究で、50を超えるRRが観察されている。[ 7 ]慢性HBV感染者におけるHCCの生涯リスクは10~25%と推定される。[ 7 ]慢性HBV感染者でリスクを高めると報告されている臨床因子には、高レベルのHBV複製、特定のHBV遺伝子型、長い感染期間、C肝炎ウイルス(HCV)、HIV、またはD型肝炎ウイルスとの同時感染がある。[ 11 ]肝硬変の存在はリスクを高めるが、肝硬変がなくとも、HBVはHCCを引き起こすことがある。[ 12 ]
HCVとの同時感染は、リスクに対して相加的な影響を及ぼすと考えられる。[ 13 ]さらに、慢性HBVによるリスク増加の程度は、他の因子の存在により変化し、本要約では、これらの具体的な因子を対象としたセクションで考察している。
慢性HCV感染
北米、欧州、および日本で慢性HCV感染はHCCの第一の原因である。[ 6 ]米国において、慢性HCV感染は、HCC症例の約3分の1を占めている。[ 9 ]HCVは血液媒介病原体である;献血またはヒト臓器提供でスクリーニングが実施される(1992年)前は、輸血または臓器移植を介してHCV感染がしばしばみられた。今日では、新たな感染のほとんどが薬物注射針の共有により生じている。HCVは、性的接触時に伝播することがあるが、これが生じるのはまれである。米国では、270~390万人が慢性C型肝炎であると推定されている。[ 14 ]米国における多くの症例が他の危険因子よりも、慢性HCV感染によるものである。[ 15 ]
HCVがHCCリスクを高める機序が不明であるにしても、慢性HCV感染はHCCの発症原因に関与しているとして認められている。強い相関の証拠は、主に横断研究およびケースコントロール研究から得られており、HCV感染者は、HCVに感染していない場合と比較してHCCリスクが15倍以上高いことが示唆される。[ 11 ]台湾の23,000人を超える住民を対象としたプロスペクティブ研究で、生涯での累積HCC発生率は、男性が24%、女性が17%であった[ 16 ];輸血を介してHCVに偶発的に感染した人に関するケースシリーズを含む他のプロスペクティブ研究では、幅広い発生率の推定値が得られている。[ 7 ]このような変動の原因は、研究対象集団で進行した線維症および肝硬変の有病率がさまざまであったことによる可能性が高い。慢性HCV感染は典型的に肝線維症の原因となるが、線維症が軽度またはみられないHCV陽性患者で、HCCはまれである。[ 11 ]HCV関連の肝硬変を発症すると、年間1~8%の患者にHCCが発生する。[ 11 ]慢性HCV感染患者でリスクを高めることが報告されている他の臨床因子には、HBVまたはHIVの同時感染、HCV遺伝子型1b、および脂肪肝がある。[ 11 ]
HBVとの同時感染は、リスクに対して相加的な影響を及ぼすと考えられる。[ 13 ]さらに、慢性HCVによるリスク増加の程度は、他の因子の存在により変化し、本要約では、これらの具体的な因子を対象としたセクションで考察している。
肝硬変
米国における肝硬変の有病率は、0.3%と推定されており、60万人を超える成人に相当する。[ 17 ]肝硬変はHCC診断時に患者の70~90%にみられることから[ 18 ]、肝硬変はHCCの素因とみなされる。[ 19 ]剖検研究で、HCCにより死亡した患者の80~90%が肝硬変であった。[ 19 ]デンマークの肝硬変患者11,065人(半数を超える症例がアルコール摂取によるもの)を対象とした16年間にわたるプロスペクティブ研究で、標準化発生比が60であることが観察された。[ 7 ]肝硬変患者がHCCを発症する5年累積リスクは5~30%で、リスクは肝硬変の原因および肝硬変の進行度に依存していた。[ 11 ]
おそらくアフラトキシンB1を除くすべてのHCCの危険因子は、肝硬変の危険因子でもある。[ 6 ]肝硬変が確定した患者で、HCCのリスクは、肝硬変に関与する因子を取り除くことで変更できる可能性がある。[ 20 ]しかしながら、その可能性を裏付ける証拠は限られており、リスクの低下は、肝硬変前の変化またはきわめて初期の肝硬変を有する患者のみにみられる可能性が高い。[ 20 ]
HCV関連の肝硬変の患者では、HBV関連の肝硬変患者およびアルコール関連の肝硬変患者よりもHCC発症リスクが大きい。[ 19 ]数件のプロスペクティブ研究からのデータを用いると、特定の危険因子を有する肝硬変患者でのHCCの5年累積発生率は、以下のように推定された:HCVで日本が30%および西欧諸国が17%;HBVで流行地域が15%および西欧諸国が10%;アルコールで8%。[ 19 ]
大量のアルコール摂取
大量のアルコール摂取は肝硬変を引き起こす;この疾患は慢性アルコール依存患者の8~20%が発症する。[ 6 ]HCCは、肝硬変でない大量のアルコール摂取者でも生じる。大量のアルコール摂取と喫煙、脂肪性肝疾患、およびメタボリックシンドローム(MetS)の各要素によるHCCリスクに対する相乗的作用を示唆するデータも存在する。[ 21 ]
多くの疫学研究で、アルコール摂取とHCCの関係について検討されている;曝露増加の影響を検討できた研究では、典型的に摂取とリスクに正相関が認められている。メタアナリシスから得られたモデルにより、以下のRR(95%信頼区間[CI])が導出された:1日当たりのアルコール量が25gで1.19(1.12-1.27);50gで1.40(1.25-1.56);100gで1.81(1.50-2.19)。[ 6 ]アルコール摂取(特に大量の摂取)が重要なHCCの危険因子であることに異論はないが、リスク増加の大きさについては、研究間で異なっている。[ 21 ]一部の研究では、大量の摂取でリスクが2倍に増加すると報告しているが、5倍以上の大幅な増加を観察している研究もある。対照被験者の選択、紹介カテゴリーの選択、大量のアルコール摂取の定義、補因子の存在などの多くの因子により変動が生じる可能性が高い。
肝硬変のアルコール依存患者は、肝硬変のないアルコール依存患者と比較してHCC発症リスクが大まかに10倍も高いと考えられる。[ 19 ][ 21 ]アルコール依存患者のコホート研究で、要約発生率は、肝硬変の患者が100人年当たり0.2、肝硬変でない患者が100人年当たり0.01であった。[ 19 ]大量のアルコール摂取でリスクが2~3倍高いことを示す証拠は、慢性HCV感染患者の方が慢性HBV感染患者よりも一貫してみられる。[ 21 ]イタリアのケースコントロール研究で、大量のアルコール摂取とHBVまたはHCV感染の相乗的作用が観察された:大量のアルコール摂取とHBVまたはHCV感染がない場合と比較すると、大量のアルコール摂取とHBV感染ではリスクが50倍に増加し、大量のアルコール摂取とHCV感染ではリスクが100倍に増加した。[ 22 ]
アフラトキシンB1
アフラトキシンB1は、温暖で湿潤な環境に保管されたコーンやピーナッツを汚染することがあるカビ毒(マイコトキシン)である。[ 7 ]最も高いレベルのアフラトキシンB1曝露は、サハラ以南のアフリカ、東南アジア、中国でみられる。[ 23 ]
アフラトキシンB1は、1987年にInternational Agency for Research on Cancer(IARC)により発がん性物質と判定された。[ 7 ]HCCに対するアフラトキシンB1の集団寄与リスクは、西太平洋諸国(中国を含む)で20%、東南アジアで27%、アフリカで40%と推定された。[ 24 ]世界では、最大155,000人のHCC症例が曝露に起因している可能性がある。[ 24 ]
プロスペクティブ・コホート研究で、アフラトキシンB1はHCCの病原因子として確立され、リスクの大きさは、慢性HBV感染の有無により異なることが実証された。1980年代に上海に在住していた約18,000人の男性からなるネスティドケースコントロール研究で、アフラトキシン曝露は慢性HBV感染のない人でリスクを4倍に高めるが、慢性HBV感染がある人ではリスクを60倍に高めることが示された。[ 25 ]その後の台湾でのコホート研究では、両因子が存在する場合、いずれの因子もない場合と比較すると、同様な相乗的なリスク増加または相乗作用を上回るリスク増加が観察された。[ 25 ]
NASH
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は、侵攻性であるが動的な疾患である;退縮する場合も、比較的一定した活動レベルで持続することもあり、さらに進行性の線維症を引き起こして、肝硬変に至ることもある。米国の成人集団の6%がNASHで、米国の成人の2%が生涯のある時点でNASH関連の肝硬変を発症すると推定されている。[ 26 ]
17件以上のプロスペクティブ・コホート研究で、NASHまたは非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者を対象にHCCリスクが検討されているが、NASH患者のみを対象とした研究はほとんどない。[ 27 ]NASH患者に関して最も高頻度で参照されている研究は、米国で実施されたプロスペクティブ・コホート研究で、NASH関連の肝硬変患者195人を対象にHCCの経験について調査された。追跡期間中央値3.2年後で、13%の患者がHCCと診断されていた。[ 28 ]このケースシリーズで年間累積発生率は2.6%であった。HCV患者のケースシリーズも同時に実施された;そのグループでは、さらに高い発生率がみられた(20%がHCCと診断され、年間累積発生率は4%であった)。
HCCは、肝硬変のないNASH患者でも観察されている。相対リスク推定値は得られていないが、ほとんどの研究者がこれらの人は肝硬変のある人より低いものの、リスクが高いと考えている。[ 27 ]
MetS、肥満、2型糖尿病、インスリン抵抗性、高血圧、および高脂血症または異脂肪血症は、HCCで疑われる危険因子であり、NASHと関係している。22ヵ国からの850万人を対象とした研究で、以下と診断されたNASH患者の有病率推定値が報告された:過体重または肥満が80%;高脂血症または異脂肪血症が72%;2型糖尿病が44%;MetSが71%。[ 29 ]
喫煙
喫煙と肝がんの関係は、長年にわたり広範に研究されている。[ 30 ]初期の疫学研究で、正相関が得られたが、HBV状態、HCV状態、およびアルコール摂取による交絡が残存している可能性があるため、独立した危険因子としての喫煙の正当性に関しては疑いがある。さらに、一部の研究でも、リスク増加はサブグループのみに存在し、特に慢性HBV感染患者にみられる可能性が示唆された。2004年にIARCは、喫煙とHCCに因果関係があると報告した;その結論は、可能性のある交絡因子を慎重に考慮した上で、喫煙期間および喫煙量によるリスク増加を一貫して示した研究に基づいていた。[ 30 ]2014年に、米国のSurgeon Generalは、2004年以降に公表された研究の結果に基づいて因果関係があると結論した。[ 31 ]
2009年に公表された広範なメタアナリシスでは、喫煙と肝がんの関係について評価した38のコホート研究および58のケースコントロール研究が調査された。[ 30 ]可能性のある交絡因子の調整程度が研究間で異なっていたが、ほとんどが年齢について調整し、約3分の1がアルコール摂取について調整していた。喫煙歴がない場合と比較して、要約RR(SRR)は、現在の喫煙者で1.51(95%CI、1.37-1.67)、過去の喫煙者で1.12(95%CI、0.78-1.60)であった。点推定値は、アルコール摂取について調整した5件の高質の研究に限定した場合、同程度であった(RR、1.45;95%CI、1.14-1.80);慢性HBV感染について調整した3件の研究および慢性HCV感染について調整した3件の研究に限定した場合、点推定値は同程度であったが、有意ではなかった。1日当たりのタバコの本数について、用量反応関係が観察されたが、それでも、その解析のために一緒に解析された8件の研究で実質的な統計的不均一性が認められた。そのメタアナリシス後に公表されたプロスペクティブ・コホート研究で、1日当たりのタバコの本数、喫煙年数、およびパック年単位での喫煙歴の増加とともに、リスクにおける有意な線形の増加が観察された;解析は、1日当たりに摂取したアルコールのグラム数について調整され、毎日の飲酒者を除いた場合でも、有意な線形の増加が観察された。[ 32 ]
慢性HBVまたはHCV感染の有無で、喫煙の関係について検討したメタアナリシスでは、以下が観察された[ 33 ]:ウイルスに感染していない場合、喫煙に伴うRRは約1.5~2で、HBVに感染している場合、リスクの増加は相加的であるとみられ、HCVに感染している場合、リスクの増加は相乗的増加を上回っているとみられた。HBVが陰性で、喫煙歴がない人と比較すると、喫煙歴のあるHBV患者で、調整後の変量効果は21.7(11.8-40)と推定された。HCVが陰性で、喫煙歴がない人と比較すると、喫煙歴のあるHCV患者で、調整後の変量効果は19.6(1.55-247)と推定された。[ 33 ]
特定のまれな内科的疾患および遺伝疾患(未治療のHH、α-1-アンチトリプシン欠損症、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症、ウィルソン病)
未治療の遺伝性ヘモクロマトーシス(HH)、α-1-アンチトリプシン(AAT)欠損症、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)、およびウィルソン病は、HCCの発症リスクを高めることが知られている。リスク増加が大きいことが知られている、または信じられているものの、これらの疾患によるHCCの負担に対する関与はわずかである。
ヘモクロマトーシスは常染色体劣性疾患であり、食品鉄の過剰な吸収をもたらし、それにより肝臓を含む特定の臓器に鉄過剰を引き起こす。[ 7 ]北欧系の400人に1人から200人に1人が最も一般的な遺伝子変異を保有しているが、これらの人の多くは進行性の鉄過剰を発症しない。[ 34 ]未治療のヘモクロマトーシス患者は肝硬変を発症することがある。ヘモクロマトーシス患者におけるHCCの年間発生率は、肝硬変が確定している場合、4%である。[ 35 ]未治療のヘモクロマトーシスで肝硬変の患者コホートで、観察されたHCC症例数は、予想より20倍以上高い。[ 34 ]まれであるが、肝硬変のないヘモクロマトーシス患者で、HCCがみられる。[ 34 ]ヘモクロマトーシス患者で、早期死亡の25~45%はHCCに起因している。[ 34 ]ヘモクロマトーシスは、瀉血を必要な間隔で繰り返す治療によって改善できる。[ 35 ]肝硬変を発症する前の治療により、HCCのリスクが大幅に低下するとみられる。[ 35 ]未治療のヘモクロマトーシス患者では、他のHCCの危険因子、特に慢性HBV感染、慢性HCV感染、および大量のアルコール摂取があると、相加的増加を上回ってリスクが高まると仮定されているが[ 34 ]、この可能性を探索するための適切なデータは得られていない。
AAT欠損症は遺伝性疾患で、肺、肝臓、およびまれに皮膚に障害を及ぼす。米国で約100,000人がAAT欠損症であると推定されている。[ 36 ]分泌されなかった多様体AAT蛋白が幹細胞内へ蓄積することによって肝疾患を来す。[ 37 ]ある種の遺伝子型のAAT欠損症患者は、HCC発症リスクが高い。[ 38 ]
グルコース-6-ホスファターゼ欠損症(G6PD)は、常染色体劣性の疾患である。フォン・ギールケ病としても知られ、より一般的には糖原病1型(GSD1)として知られている。関与している欠損酵素は、主に肝臓や腎臓で活性が高い。GSD1の発生率は生児100,000人に1人である。HCCは、GSD1の遅発性合併症と認識されている。[ 39 ]HCCリスク増加の推定値は得られていない。
PCTは、肝ウロポルフィリノーゲンの活性欠損の結果である;急性間欠性ポルフィリン症(AIP、スウェーデン型ポルフィリン症としても知られる)は、ポルホビリノーゲンの活性欠損を特徴とする。米国におけるPCTの有病率は25,000人に1人である。[ 40 ]PCTおよびAIPは、HCCリスクの増加を伴う。[ 7 ]ポルフィリン症患者を対象としたスウェーデンのプロスペクティブ研究で観察された標準化発生比は、PCTが21、AIPが70であった。[ 41 ]
ウィルソン病(肝レンズ核変性症)は、常染色体劣性で遺伝する遺伝子異常により引き起こされ、細胞銅輸送の障害につながる。世界での有病率は、生児30,000人に約1人である。[ 42 ]ウィルソン病は、肝硬変を含む進行性の肝損傷を引き起こす。ウィルソン病とHCCの関連性は明確でないが、ウィルソン病患者でHCCを含む肝腫瘍が観察されることを考慮すると、関連が疑われる。[ 43 ]
HCCのリスク増加を示す証拠が不十分な因子
NAFL
非アルコール性脂肪肝(NAFL)は、脂肪肝がアルコール摂取またはウイルス感染により説明できない場合に診断される。[ 44 ]一般に無症状で良性の疾患であり、しばしば偶然に発見される。[ 45 ]NAFLは、肝硬変またはNASHに進行することがある。NAFL患者の最大4%が肝硬変を発症し[ 46 ]、小規模な臨床研究で、NAFL患者の20~50%がNASHを発症する可能性が示唆された。[ 47 ]HCCリスクを高めることが知られているこれらの疾患をNAFL患者が発症しているという観察から、NAFLはHCCリスクを高めるという結論に至った。
NAFLとNASHでは臨床的関連性が異なるとしても、これらはしばしばNAFLDとして知られる1つの疾患実体にまとめられる。NAFLDおよびNASHについては、有病率推定値およびRR測定値が得られているが、NAFLについては得られていない。しかしながら、NAFLDの推定値により、NAFLでの上限値が得られる可能性がある。
米国におけるNAFLDの有病率は25%と推定される。[ 29 ]NAFLDの有病率は、この30年間で2倍を超えており[ 44 ]、現在では米国で最も一般的な肝疾患である。[ 44 ]NAFLDは、ときにMetSの肝症状と言われる[ 29 ];NAFLD発生率の増加に伴い、肥満および2型糖尿病を含むMetSの発生率も増加する。[ 44 ]MetS、肥満、および2型糖尿病は、しばしばNAFLDの併存症となる。NALFD患者におけるMetS、肥満、および2型糖尿病の世界全体での有病率は、以下の通りである:MetSが43%、肥満が51%、2型糖尿病が23%。[ 44 ]世界中の国からのデータを考慮したメタアナリシスで、NAFLD患者対非NAFLD患者のHCC発生率比は、1.94(95%CI、1.28-2.92)と報告された。[ 44 ]HCCは、肝硬変のNAFLD患者でも、そうでないNAFLD患者でも診断されている。[ 48 ]米国Veterans' AdministrationのNAFLD患者1,500人を対象とした研究で、107人の患者がHCCを発症した。107人の患者のうち、6人の患者が肝硬変ではないレベル1のエビデンス(組織像)、31人の患者が肝硬変ではないレベル2のエビデンス(画像または生物検体)を有していた。[ 49 ]さらに、NAFLD患者における肝硬変でないHCC患者の割合は、他の既知のHCC危険因子で観察されたものより大きかった。[ 49 ]
MetS
MetSは、5つの代謝性危険因子(中心性肥満、トリグリセリド高値、高比重リポ蛋白低値、空腹時血糖高値、高血圧)のうち3つ以上に該当する場合に診断される。[ 50 ]MetSの有病率は、少なくともこの30年間で上昇しており、2012年までに米国成人の3分の1を超える人がMetSの基準を満たした。[ 51 ]
5件の研究からの7,000人を超えるHCC症例を対象としたメタアナリシスで、MetSの診断に対するリスク比が1.8(95%CI、1.37-2.40)であることが得られた。[ 52 ]併合したリスク比はさまざまであった(範囲、1.2[95%CI、0.55-2.53]~3.7[95%CI、1.78-7.58])。
MetSとNAFLDはしばしば併存疾患となる。NAFLD患者でのMetSの有病率は、世界中からの研究を含むメタアナリシスで42.5%と推定された。[ 44 ]ともにHCCの危険因子と疑われる肥満および2型糖尿病は、MetSの原因となる要素であり、NAFLD患者でも有病率が高いことを考慮すると、疫学的データを用いてMetSによるHCCリスクに対する独立した影響を解明する試みは妥当でない。観察された関連性を因果関係と解釈してはならない。
インスリン抵抗性、高血圧、および異脂肪血症について検討している研究はほんのわずかであるが、最初の2つがHCCのリスク増加と関係していることが示唆されている。[ 53 ]これらの因子については、これ以上考察しない。
肥満
肥満は、HCCの危険因子として広範に検討されており、ほとんどの例で正相関が観察されている。HCCの177症例を対象とした欧州の多施設共同プロスペクティブ・コホート研究で、ウエストヒップ比で測定した中心性肥満が検討され、アルコール摂取などのいくつかの可能性のある交絡因子について調整後に、最大の三分位数(男性で27.81以上、女性で26.65以上)で、最小の三分位数と比較してHCCリスクの3倍を超える増加(RR、3.51;95%CI、2.09-5.87)が観察された。[ 54 ]26件のプロスペクティブ研究(25,337人のHCC症例)を対象としたメタアナリシスで、肥満(BMIが30kg/m2以上)は、原発性肝がんのリスク増加と関係していることが報告された(SRR、1.83;95%CI、1.59-2.11)。注意すべき点として、含められた研究間で交絡因子に対する調整に違いがあり、11件はアルコール摂取について調整されておらず、15件は糖尿病の既往について調整されていなかった;さらに、すべての研究が集団ベースで行われたわけではなかった。それでも、点推定値では、リスクのわずかな増加をほぼ一貫して示しており、日本および米国集団で同程度の大きさの関係性が認められている。[ 55 ][ 56 ]
NAFLDは、肥満の人の最大90%にみられると推定されている。[ 57 ]肥満は、別のHCC危険因子の疑いがあるMetSの原因となる要素である;肥満もしばしば2型糖尿病の共存症となり、これも別のHCC危険因子の疑いがある。疫学的データを用いて肥満によるHCCリスクに対する独立した影響を解明する試みは妥当でない。観察された関連性を因果関係と解釈してはならない。
2型糖尿病
2型糖尿病は、HCCの危険因子として広範に検討されており、ほとんどの例で正相関が観察されている。糖尿病とHCCに関する最近のメタアナリシスが2012年に公表された。[ 58 ]17件のケースコントロール研究および32件のコホート研究が含まれ、1型または2型糖尿病で観察された要約RRは2.31(95%CI、1.87-2.84)であった。要約RRの導出に使用された49件の研究のうち、アルコール摂取について調整されたのはわずか19件で、肥満について調整されたのは13件であり、すべてが集団ベースで行われたわけではなかった。2型糖尿病のみでの要約リスク推定値は、13件の研究からデータに基づいて、2.18(95%CI、1.58-3.01)であった。このメタアナリシス以降に公表された研究でも前述の要約値と同様な推定値が得られた。[ 59 ]
NAFLDは、2型糖尿病の人の最大70%にみられると推定されている。[ 57 ]2型糖尿病は、別のHCC危険因子の疑いがあるMetSの原因となる要素である;2型糖尿病もしばしば肥満の共存症となり、これも別のHCC危険因子の疑いがある。さらなる複雑性は、糖尿病が肝硬変により引き起こされることがある点である。[ 12 ]肝硬変を除くと、疫学的データを用いて2型糖尿病によるHCCリスクに対する独立した影響を解明する試みは妥当でない。観察された関連性を因果関係と解釈してはならない。
HCCのリスク減少を示す証拠が十分にある介入
HBVワクチン接種
HBVワクチンは、HBV感染予防に対して1980年代初期に利用可能になった。[ 60 ]WHOは、すべての乳児に対して生後できるだけ早く、望ましくは24時間以内にB型肝炎ワクチンを接種するように推奨している。[ 61 ]2011年までに180ヵ国で乳児へのHBVワクチン接種が導入されており、世界におけるHBVワクチン接種の最終投与での実施率は約78%と推定された。[ 60 ]2015年の世界での5歳未満の小児におけるHBV感染の有病率は約1.3%と推定されているのに対して、ワクチン接種が実施される以前の時代では約4.7%であった。[ 61 ]
HCCを減少させるB型肝炎ワクチン接種の能力に関する疫学的証拠は、小児のフォローアップ研究および小児肝がんのリスクからもたらされた。中国の啓東市(HBVが流行している地域)における75,000人の新生児に対するHBVワクチン接種に関するクラスターランダム化比較試験で、対照群(そのうち68%が10~14歳でキャッチアップ・ワクチン接種を受けた)と比較した出生時ワクチン接種群における原発性肝がんの発生比は、0.16(95%CI、0.03-0.77)であった。[ 62 ]台湾で実施された登録研究では、6~26歳のHCC患者1,509人が特定され、100,000人年当たりのHCC発生比は、ワクチン未接種コホートが0.92、出生時ワクチン接種コホートが0.23であったことが観察された。[ 63 ]
新生児ワクチン接種によって成人後期でのHCCリスクも減少するかどうかについて知るには早すぎる上に、成人期におけるワクチン接種の効果に関するデータは公表されていない。それでも、年齢にかかわらず、感染する前のワクチン接種によりHCCリスクを低減させるべきである。数理モデル化によると、新生児HBVワクチン接種により、最終的に世界でHBV関連のHCC症例の70~85%をなくせることが示唆される。[ 23 ]免疫機能が損なわれていない人に対して、ブースターワクチン接種は現時点で推奨されない。[ 64 ]
慢性HBV感染の治療
広範で持続的なHBVワクチン接種により、最終的に慢性HBV感染患者の集団が減少するが、予測可能な未来に、HCCのリスクを含め、慢性感染以降の結果を最小化する必要がある。慢性HBVキャリアに対する治療法選択肢は、インターフェロンおよびヌクレオシドアナログ(NA)による治療である。インターフェロンは短期の治療を希望する代償良好な肝疾患の若い患者に使用されるが[ 65 ]、HCC発生率の減少と一貫して関係しているわけではない。リスク低下は、観察された場合、典型的に肝硬変の既往がある治療奏効者に認められている。[ 66 ]肝硬変の状態にかかわらず、NAによる治療を受けた患者では、HCCリスク低下が一貫して観察されている。[ 66 ]
NA治療によるHCCリスク減少の程度は、研究間でほぼ一貫しており、治療を受けた患者のリスクは、NA治療を受けていない患者の約半分である。[ 66 ][ 67 ]ほとんどの研究が北米以外の国で実施されているが、北米で実施された2件の研究で、同程度の大きさの統計的に有意な減少が観察された。慢性HBV感染患者322人からなるカナダ人コホートで、予測より低いHCC発生比が認められた;標準化発生比は、NA治療を受けなかった患者と比較して、NA治療を受けた患者が0.46(95%CI、0.23-0.82)であった。[ 68 ]2,000人を超える慢性HBV感染患者からなる米国人コホートで観察された治療によるハザード比(HR)は0.39(95%CI、0.27-0.56)であったが、このコホートには、インターフェロンによる治療を受けた患者が含まれていた。[ 69 ]
ラミブジンおよびアデホビルを使用することで、耐性が生じることがあり、耐性はHCCリスクの再上昇につながる。[ 66 ]新しいNA治療薬ほど強力で、耐性の可能性も低い。[ 66 ]これらの治療により、同程度またはそれを超えるHCCリスク低下につながるかどうか、また肝機能および線維症の程度によってリスクに対する効果が異なるかどうかについて検討するには、まだ十分なデータが得られていない。
アフラトキシンB1を含まない食品の利用拡大
中国の啓東では、慢性HBV感染の流行およびアフラトキシンB1の汚染レベルが高い食品(主にコーン)のために、歴史的に原発性肝がんの発生率が例外的に高くなっている。1980年代の農業改革により、典型的にアフラトキシンB1の含有量がはるかに低い米が大量に利用可能になった。集団ベースのがん登録を用いて、啓東で新生児に対する普遍的なHBVワクチン接種が達成された2002年以前に生まれた居住者について、原発性肝がんによる死亡率が調査された。この集団で、米が利用可能になった後に、原発性肝がんによる死亡率の50%を超える減少が観察された。この有益性の約80%は、HBV感染者にあると推定された。[ 25 ]
HCCのリスク減少を示す証拠が不十分な介入
DAAによるHCV治療
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療で、ほぼすべての患者のHCV感染が消失するに至った。[ 70 ]治療目標は、HCV RNAを根絶し、持続的ウイルス学的奏効(SVR)を達成することであり、SVRは、治療完了から12週間後にRNAレベルが検出されなくなることで定義される。SVRの達成に伴い、5年間の追跡でHCV RNA陰性となる可能性が97~100%となり、それにより患者はHCV感染が治癒したとみなすことができる。[ 70 ]
SVR達成後のHCCリスクに関する研究では、相反する結果が得られている;治療後のリスク増加を観察している研究もある。[ 71 ]ほとんどの研究で、対象に含まれる患者数が少なく、追跡時間が不十分なものもあった。[ 71 ]一部の研究で、肝硬変の有無はHCCリスクに対するDAAの効果に影響を及ぼす可能性はないとみなされた。[ 72 ]
DAA治療とHCCリスクに関して、これまでで最も強い証拠は、HCV感染に対してDAA治療を受けた22,000人を超える米国退役軍人のコホート研究から得られている。[ 71 ]そのコホートで、271人がHCCと診断された。DAAによる治療を受け、SVRに達した患者では、SVRに達しなかった患者と比較してHCCリスクが約75%低下した。SVRによるRRの低下は、肝硬変がある患者(HR、0.31;95%CI、0.23-0.44)と肝硬変がない患者(HR、0.18;95%CI、0.11-0.30)で同程度であった。それでも、SVRに達した患者の中で肝硬変がある患者は、肝硬変がない患者と比較してHCCリスクが約5倍高かった(HR、4.73;95%CI、3.34-6.68)。
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- 本要約の変更点(04/22/2020)
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PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
証拠の記述
本文で以下の記述が改訂された;2016年では、肝がんの発生率が100,000人当たり8.63人と、3倍を超える上昇を示している(引用、参考文献3としてHowlader et al.);5年生存率は、限局性病変例で高い32.6%から、遠隔転移例で低い2.4%まで、病期によりさまざまである。米国における肝がん発生率は、白人で最も低く、ヒスパニック系の男性およびアメリカインディアン/アラスカ原住民女性で最も高い。また以下が追加された;肝がん死亡率は、白人で最も低く、アメリカインディアン/アラスカ原住民で最も高い。
本文で以下の記述が改訂された;世界規模では、肝がんは6番目に多くみられるがんであり、がん関連死の主要原因の第4位となっている。世界では、年間約841,080人の肝細胞がん(HCC)新規症例が発生し、781,631人がこの疾患により死亡する;ほとんどの国で、HCCの年間発生率および死亡率はほぼ同じである。また本文に以下の記述が追加された;HCCは、成人男性が診断されるがんで5番目に多く、女性が診断されるがんで9番目に多い(引用、参考文献4としてBray et al.)および;HCC発生率が高い地域には、北部および西部アフリカ、東部および東南アジアがある。
本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
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本要約の目的
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、 肝(肝細胞)がんの予防について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Liver (Hepatocellular) Cancer Prevention.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/liver/hp/liver-prevention-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389403]
本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。
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