医療専門家向け リンパ浮腫(PDQ®)

ご利用について

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、リンパ浮腫の病態生理および治療について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

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概要

リンパ浮腫は蛋白を多く含むリンパ液が間質組織に蓄積する場合に起こる腫脹である。このリンパ液には血漿蛋白、血管外血球、余分な水分、および実質性産物(parenchymal products)が含まれる。[ 1 ]リンパ浮腫は、最も理解が進んでおらず、比較的に過少評価され、最も研究が行われていないがんまたはその治療の合併症の1つである。2006年にInstitute of Medicine of the National Academiesによって、がん患者向けに治療の晩期障害、健康管理行動、疾患管理、および再発の監視に関する情報を組み込んだ「生存のための医療計画(survivorship care plan)」を推奨する報告が発表された。[ 2 ]Institute of Medicineではまた、生存への移行において、特に治療の晩期障害に関する教育の提供が決定的に不足していることが強調された。

リンパ浮腫は比較的頻度が高く、患者には機能および生活の質において大きな意味があるため、がん患者の医療に携わる臨床家にとって重要な考慮事項である。リンパ浮腫は、社会経済状態、可動域低下、年齢、および肥満など他の予測因子を考慮に入れた場合でも、生活の質低下の独立した予測因子である。[ 3 ]

本要約では、がんに関係したリンパ浮腫の解剖学および病態生理、臨床症状、診断、および治療に関する問題のレビューを行う。一次性(先天性)リンパ浮腫およびがんに関係していないリンパ浮腫(例、再発性蜂窩織炎、結合組織疾患、および感染)について、本要約ではレビューを行わない。

特に明記していない場合、本要約には成人に関する証拠と治療について記載している。小児に関する証拠と治療は、成人の場合とかなり異なる可能性がある。小児の治療に関する情報が入手できる場合は、小児に関する情報であることを明記した上でその内容を要約する。

リンパ系の解剖学および病態生理

ヒトのリンパ系には一般に、浅リンパ管または一次リンパ管があり、これらのリンパ管は毛細血管様路から成る複雑な皮膚網を形成しており、皮下空隙に位置する大きな二次リンパ管に流れ込んでいる。この一次リンパ管および二次リンパ管は皮下静脈に平行しており、筋膜近傍の皮下脂肪に位置するさらにもう1つのリンパ管の深層に流れ込んでいる。筋層および多数の弁は、二次リンパ管および皮下リンパ管における一方向性の能動的なリンパ液の流れを促進している。一次リンパ管には筋層がなく、弁も存在しない。このほか、深動脈と平行し、筋コンパートメント、関節および滑膜の排液を行うリンパ管の筋内系が存在する。浅リンパ系および深リンパ系は異常な状態を除いて独立して機能していると思われるが、これらは近接しているリンパ節と交通しているという証拠がある。[ 4 ]リンパ液は下肢から腰リンパ本幹に流れ込み、この腰リンパ本幹で、腸リンパ本幹と左鎖骨下静脈に流れ込む胸管を形成する乳び槽とが合流している。左側上肢のリンパ管は左鎖骨下リンパ本幹に流れ込み、その後左鎖骨下静脈に流れ込む。右側上肢のリンパ路は右鎖骨下リンパ本幹に流れ込んで、その後右鎖骨下静脈に流れ込む。

リンパ系の機能の1つは、過剰な体液およびタンパク質を間質から心臓血管系に戻すことである。リンパ管は基底膜がないことが多いので、静脈に取り込むには大き過ぎる分子を再吸収できる。臨床的浮腫の機序には、動静脈毛細血管濾過の増大および組織液吸収量の低下がある。毛細血管濾過の増大の原因には、毛細血管内の静水圧の上昇、組織圧の低下、膜透過性の増大などが挙げられる。間質液の再吸収の低下は、血漿の膠質浸透圧低下、組織液の膠質浸透圧上昇、およびリンパ管の閉塞に原因がある。

リンパ系:リンパ管とリンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示す。上の拡大図には、リンパ節とそれにつながるリンパ管の内部構造が示されており、さらにリンパ節内外へのリンパ液(透明な液体)の流れが矢印で示されている。もう一方の拡大図には、骨髄と血液細胞が示されている。

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リンパ系の解剖図で、リンパ管とリンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示している。リンパ液(透明の液体)とリンパ球はリンパ管を介してリンパ節まで移動し、リンパ球はそこで有害物質を破壊する。リンパ液は心臓の近くの大きな静脈から血流に流れ込む。

臨床症状

二次性リンパ浮腫の発症はしばしば潜行性である。しかしながら、感染または四肢損傷などの原因から生じる局所の炎症によって突然引き起こされることがある。そのため、患者は蜂窩織炎の証拠がないか評価を受けるべきである。古典的に、リンパ浮腫は通常指を含めた肢の非陥凹性浮腫によって特徴づけられる。早期のリンパ浮腫は線維化が発生するまでは圧痕浮腫が現れる。腫脹の分布は肢の近位部または遠位部のみに限定されることがある。リンパ浮腫ではまた再発性の皮膚感染症に罹りやすい。[ 5 ]

リンパ浮腫は四肢に加えて体幹にも発生することがある。例えば、胸壁への放射線療法は特に照射された乳房における浮腫の発生に関連している。[ 6 ][ 7 ]頭頸部がんの患者では、高線量放射線療法および手術の併用という危険因子により、リンパ浮腫の有病率が75%に上ることが一部の報告で示唆されている。[ 8 ]

リンパ浮腫の患者は、肢の重量に関係した重苦しさまたは充満、皮膚がぴんと張った感覚、または患部の関節の可動域低下など多種多様な愁訴を報告する。皮膚の肌理は、いぼ状および小胞性の皮膚病変を伴う角質増殖性となることがある。上肢病変について、患者は衣類に患部が合いにくくなり、以前はぴったり合っていた指輪や腕時計、ブレスレットの装着が困難に感じることがある。下肢のリンパ浮腫に関する同様の困難には、靴を履く際の窮屈感または困難、脚またはつま先のかゆみ、脚の灼熱感、または睡眠障害および脱毛が挙げられる。患肢の大きさおよび重量が増すため、歩行運動が影響を受けることがある。日常生活活動、趣味、および以前の課業を遂行する能力にも影響が出る。

心理的症状

上肢のリンパ浮腫を認める乳がん生存者は、リンパ浮腫を認めない生存者よりも能力障害の程度が重く、生活の質がより悪く、心理的苦痛が重いことが明らかにされている。[ 9 ][ 10 ]また、腫脹を報告する女性は、複数の機能評価で有意に低い生活の質を報告している。[ 11 ]

疫学

リンパ浮腫は、リンパ節ドレナージに影響するすべてのがんまたはその治療の後に起こる可能性がある。リンパ浮腫は乳がんに対する治療後、数日以内から最大30年経過して起こることが報告されている。[ 12 ]80%の患者が手術の3年以内に発症を経験する;残りは年間1%の割合で浮腫を発症する。[ 13 ]上肢リンパ浮腫は乳がんの後に最もしばしば発生する;下肢リンパ浮腫は子宮がん、前立腺がん、リンパ腫、または悪性黒色腫とともに最もしばしば発生する。[ 1 ]1件の大規模な集団ベースの研究により、婦人科がんに対する治療後、かなりの割合の女性が下肢リンパ浮腫を経験し、有病率は外陰がんの生存者で最も高く(36%)、卵巣がんの生存者で最も低い(5%)という証拠が支持されている。[ 14 ]

乳がん後のリンパ浮腫の発生率および有病率に関するデータは一貫していないが、これはおそらく診断における差、調査された患者の異なる特性、およびこの疾患の遅発性の発症を取り込むには不十分な追跡によるものであろう。上肢のリンパ浮腫の全発生率は手術後2年経過時で8%~56%に及ぶ。[ 11 ]American College of Surgeons Oncology Group (ACOSOG)/Alliance Z1071乳がん臨床試験の経時的サブスタディでは、 患者報告による上腕の浮腫および重感の3年累積発生率は、実際には客観的所見よりも低かった。[ 15 ]

リンパ浮腫の診断および治療は軽度のうちになされることが重要であるが、それは軽度のリンパ浮腫を有するコホートが予防可能な消耗性の重度のリンパ浮腫を引き起こすためである。軽度のリンパ浮腫を有する女性は、リンパ浮腫を有さない女性よりも重度のリンパ浮腫を発症する可能性が3倍以上高い。[ 16 ]

危険因子

乳がんに対して腋窩の外科手術および/または腋窩の放射線療法を受ける患者は、上肢のリンパ浮腫を発症するリスクがより高い。以前の会議により、乳がん患者におけるリンパ節転移陽性はリンパ浮腫発生の素因であると提唱された。[ 17 ]腋窩の放射線で調整した1件の研究では実際のところ、リンパ節転移陽性と上肢の容積とは逆の関係を示した。[ 17 ]

腋窩リンパ節切除

腋窩の組織採取単独と比較して、乳房部分または全摘出術後の腋窩リンパ節完全郭清術は、患者が上肢の浮腫を発症する確率を有意に増加させる。例えば、乳房部分または全摘出術に続いて腋窩リンパ節完全郭清術を受けるか、または腋窩の組織採取を受けた女性100人の1件のシリーズにおいて、腋窩リンパ節郭清術を受けた患者の方が組織採取単独と比較して上肢の浮腫を多く発症した(30% vs なし)。[ 18 ]また、腋窩リンパ節郭清の範囲も上肢の浮腫を発症するリスクを高める。例えば、乳管腺様区分切除術および腋窩リンパ節郭清術を受けた女性381人の1件のシリーズにおいて、10以上のリンパ節を切除された女性では検体中にリンパ節がほとんどなかった女性よりも最初の1年以内(53% vs 33%)および次の2年以内(33% vs 20%)に上肢の症状が現れる可能性がより高かった。[ 19 ]

センチネルリンパ節生検

乳がん患者に対するセンチネルリンパ節生検は、I期またはIIA期乳がんでセンチネルリンパ節陽性の女性における腋窩リンパ節郭清術の第III相ランダム化研究(ACOSOG-Z0011)で示されているように、合併症が少なく、腋窩リンパ節郭清術による生存利益に疑問の余地があるため、早期がんの腋窩での病期分類については腋窩リンパ節郭清術よりも支持されている。[ 20 ][証拠レベル:I]数件の研究により、リンパ浮腫はセンチネルリンパ節生検を受ける乳がん患者よりも腋窩リンパ節郭清術を受ける乳がん患者においてよくみられることが示されている。[ 21 ][証拠レベル:II]1件の研究で、センチネルリンパ節生検を受けた一側性浸潤性乳がん患者30人および腋窩リンパ節郭清術を受けた患者30人が評価された。この研究で腋窩リンパ節郭清術群は20%の割合でリンパ浮腫を発症したが、センチネルリンパ節生検群ではリンパ浮腫はみられなかったことが明らかにされた。[ 21 ]センチネルリンパ節生検を受ける女性におけるリンパ浮腫の割合は、診断の閾値および追跡期間によって異なり、5%~17%であると報告されている。[ 22 ][ 23 ][ 24 ]診断されるリンパ浮腫の大多数は軽度である。[ 23 ][証拠レベル:II]

肥満

すべての乳がん患者において、肥満または過体重であると、女性は乳がんに対する治療後にリンパ浮腫を発症しやすくなる。[ 12 ][ 25 ][証拠レベル:I]1件の運営の優れたプロスペクティブ研究では、診断後30ヵ月にわたり138人の乳がん患者が追跡された。診断時の肥満指数が30以上の個人では、リンパ浮腫を発症する可能性が3.6倍高かったが、診断後の体重増加との関連は認められなかった。[ 26 ]

数件の研究により、リンパ浮腫の程度と肥満のレベルが互いに関連づけられている。[ 12 ][証拠レベル:I]同様に、若年の乳がん生存者における持続性の腫脹は、より多くのリンパ節切除および肥満と関係していた。[ 11 ]

肥満とリンパ浮腫発症リスクとの用量反応関係は明らかにされていない。リンパ浮腫発症リスクが高い患者における体重減少がリスクを低下させるかどうかを決定するための研究も行われていない。現時点では、体重減少とリスクの低下との用量反応関係または発生したリンパ浮腫のリスクが最も低い体重について患者に助言することができない。

この他のリスク

リンパ浮腫発症の他の危険因子には以下のものがある:

乳がん患者の約1/3(および乳がんのアフリカ系米国人の大多数)は局所病変および陽性リンパ節を呈し[ 24 ]、そのため腋窩リンパ節全摘除が必要である;多くの患者が腋窩および鎖骨上リンパ節床に追加で照射を受ける。リンパ浮腫は乳がん治療の持続性の有害作用であり、センチネルリンパ節生検の使用が増加しているにもかかわらず、今後も長く起こり続けると考えられる。

運動はリンパ浮腫発症リスクを増加させない

歴史的に、リンパ浮腫のリスクが高い患者は患肢の使用を避けるように助言されてきた。この臨床での助言の理由は、リンパ節の切除により炎症、感染、損傷、および外傷への患部の反応が変化し-したがって、肢へのストレスを回避することが賢明であるという指摘から生じているようである。しかしながら、軽い運動の身体への作用は激しい運動とは異なる;極度の運動は炎症および損傷を促進するため、リンパ浮腫のリスクがある患者では避けるべきである。[ 27 ]対照的に、リンパ浮腫のリスクがある肢への生理的ストレスを注意深い管理の下で徐々に進行的に増加させると、その身体部分への酷使を必要とする実生活の状況(例、食料雑貨の袋を運ぶ、休日にショッピングをする、子供を持ち上げる)で実質的に保護効果がある。[ 28 ]そのため、患肢の使用を制限するこれまでの助言を疑問視する生理学上の証拠がある。

さらに、上半身の運動は乳がん生存者におけるリンパ浮腫の発症を増加させないという経験的証拠が存在する。[ 29 ][ 30 ][ 25 ][ 31 ][ 32 ]これらの研究のうち最大規模の研究(N = 204)[ 25 ][証拠レベル:I]で、腋窩リンパ節郭清を伴う乳房の手術前に女性の両腕を測定し、参加者を以下の2つのリハビリテーションプログラムの1つにランダムに割り付けた:

手術後2年間の追跡終了時に、新たなリンパ浮腫の発生率は両グループで13%であった。注目すべきこととして、この大規模研究におけるリンパ浮腫発症の単一の最も重要な予測因子は肥満であった。[ 25 ]

別の大規模ランダム化研究(治療完了例 = 134)では、片側乳がんで2つ以上のリンパ節を切除した乳がん生存者を対象として、1年間のウェイトリフティング介入群と全く運動をしない対照群が比較された。ベースライン時に、リンパ浮腫が認められる患者はいなかった。進行的なウェイトリフティングプログラムは、リンパ浮腫の発生率増加をもたらさなかった。この研究は同等性試験としてデザインされたが、ウェイトトレーニング群におけるリンパ浮腫発生率の低下(11% vs 17%;5つ以上のリンパ節を切除した患者においては7% vs 22%で有意差あり)が確認された。[ 33 ]

リンパ浮腫を有する患者およびリスクの高い患者は、罹患した身体部分の運動を安全に行うため認定を受けたリンパ浮腫療法士(certified lymphedema therapist)による評価を受けるべきである。(米国各地の認定を受けたリンパ浮腫療法士への紹介についてはLymphology Association of North Americaのウェブサイトを参照のこと。)

リンパ浮腫を有する患者は患肢または罹患した身体部分を使うすべての運動中にピッタリ合った圧迫帯を巻くべきである。リンパ浮腫を発症しているかどうか不明の場合、圧迫帯の使用が有用か有害かに関する証拠はない。圧迫帯が有用であるためにはピッタリ合っている必要があり、費用が高く、明確な診断がなされていない場合は保険が適用されないことがあり、6ヵ月ごとに取り替える必要がある。診断がはっきりしない女性では、上半身の活動を避けるリスクの方が圧迫帯なしで徐々に進行的に上半身の活動を行うリスクを上回ると考えられる。リンパ浮腫のない患者は、リスクのある肢を使う運動中に圧迫帯を巻く必要はない。

乳がん生存者を対象とした研究の証拠から、リンパ浮腫を有する女性およびリスクの高い女性における上半身の運動はきわめて低い強度で開始し、徐々に症状の反応に応じて強度を上げるべきであると示唆されている。[ 28 ][ 31 ][証拠レベル:I]増悪または発症の可能性を評価する必要がある場合はこれらの女性を紹介できる認定を受けたリンパ浮腫専門家が存在すべきである。運動を1週間以上中断する場合、女性は上半身の活動の強度を下げ、その後再び徐々に強度を上げるべきであると強く推奨される。1週間以上持続する症状の変化(重苦しさ、痛み、腫れ、腫脹の増加)は発症または増悪の可能性について評価すべきである。低い強度で開始し、徐々に強度を上げることは、活動を避けるよりも患肢に良い可能性が高い。

診断および評価

リンパ浮腫は、以前に腋窩リンパ節の切除を受けているなど既知の危険因子を有する患者において、通常指を含めた非陥凹性浮腫などの臨床所見により典型的に明らかである。深部静脈血栓症、悪性腫瘍、感染など、肢の腫脹の他の原因を鑑別診断で検討し、適応があれば適切な検査を用いて除外すべきである。

臨床評価に基づく診断が明白でない場合は、リンパシンチグラフィによるリンパ系の画像検査法(放射性核種画像法)が必要であろう。リンパ管造影法は一般的にもはや好まれる診断検査ではなく、腫瘍転移の一因となりうるという懸念から悪性腫瘍を有する患者では禁忌である可能性もある。磁気共鳴画像法など追加の画像技術は、解剖学的およびリンパ節の詳細を提供することによりリンパシンチグラフィを介して得られる情報を補完する。[ 34 ]

肢の容積を評価するために文献で記述されている方法はさまざまであり、標準化されていないため、臨床家がリスクのある肢を評価するのは困難である。選択肢としては、水置換性測定、テープによる測定、赤外線スキャン、および生体電気インピーダンス測定がある。[ 35 ]

上肢リンパ浮腫を診断するのに最も広く利用されている方法は、特定の解剖学的標識を用いる上肢周囲の測定である。[ 5 ]上肢周囲の測定は、罹患した腕と罹患していない腕との容積の差を評価するために用いられる。両腕の以下の4つの点で連続測定が行われる:中手-指節骨関節、手関節、外上顆から10cm遠位部、および外上顆から15cm近位部。対側の腕と比較していずれかの点で2cm以上の差は臨床的に明らかであると考える専門家もいる。しかしながら、両腕の一定の差を測定することは、例えば、肥満女性の腕とやせた女性の腕の3cmの差には含みがあるため、臨床的関連は制限されている可能性がある。さらに、筋肉量の差に関係するよく利く方とそうでない方の肢には周径に生来の解剖学的相違があり、同側の腕の萎縮または対側の腕の肥大を起こしうる乳がん治療後の相違がみられる場合がある。[ 3 ]上肢リンパ浮腫を評価するためのさまざまな方法を比較した1件の小規模研究では、いずれの方法の優位性も示されなかった。[ 35 ]治療前の測定値を含め、長期間にわたる連続測定は臨床的により意味があることが証明されるであろう。

水置換性測定法は上肢の浮腫を評価するための別の方法である。罹患した腕と反対側の腕との200mL以上の容積の差は典型的に、リンパ浮腫を決定するためのカットオフ値であると考えられる。[ 36 ]

リンパ浮腫分類によくみられる方法では、重症度に基づいた3つの病期が用いられる。[ 5 ]I期は自然回復可能で、一般的に、圧痕浮腫、上肢周囲の寸法の増加、および重苦しさを特徴とする。II期は、圧痕浮腫の徴候を呈さない組織のスポンジ状の抵抗により特徴づけられる。その後、組織の線維化は四肢を硬くし、サイズを増加させる。[ 5 ]III期は、リンパうっ滞性象皮症(lymphostatic elephantiasis)とも呼ばれ、最も進行した病期であるが、乳がん治療後にみられることはまれである。[ 5 ]

リンパ浮腫分類における別の一般的に用いられるアプローチはCommon Terminology Criteria for Adverse Events v3.0(CTCAE)であり、これは臨床試験の状況で有害事象を分類するために開発された。[ 37 ]CTCAEアプローチの主たる優位性は、リンパ浮腫診断において客観的測定(肢間の差)と主観的な臨床評価の両方を含めていることである。これは、肢間の客観的な差異の基準を満たさないであろう四肢の1区分にのみ生じる、臨床的に有意で治療可能なリンパ浮腫を、患者が有しうるという非常に現実的な可能性を考慮したものであるが、そのようなリンパ浮腫も徴候および症状による重症度分類に基づいて以下のように格付けすることができる:

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管理

予防

教育

理想的には、予防は治療前にリンパ浮腫発症の潜在的リスクについて患者と家族を慎重に教育することで開始すべきである。この方法で進めると、リンパ浮腫について教育によって受ける情報に関して乳がん生存者の不満が減少し、意思決定を行い、後にリンパ浮腫を発症する場合でもリンパ浮腫に対処する基礎として役立つであろう。[ 1 ]治療成績は問題を早期発見した場合に有意に改善するため、患者には浮腫の初期徴候を認識するよう教えるべきである。[ 2 ]

運動

詳しい情報については、本要約の危険因子のセクションの運動はリンパ浮腫発症リスクを増加させないのサブセクションを参照のこと。

その他の予防手段

一般的に、予防手段を講ずるための逸話的な推奨には以下がある:

治療

リンパ浮腫治療の目標は、肢の腫脹を制御し、合併症を最小限に抑えることに集中している;基礎にあるリンパ管の遮断を修正することはできない。薬理学的手段を評価する臨床試験では一般的に有効性が示されないため、非薬理学的手段が治療の中心であり、日常生活活動の最大化、疼痛の減少、可動域の増加、および機能の改善が目標である。

運動

軽い運動はリンパを終末リンパ管(terminal lymphangioles)に移動させ、腫脹を軽減するに十分な筋収縮を引き起こす。有酸素運動もまた交感神経系の緊張を増加させ、これによりリンパコレクター管(lymph collector vessels)のより活発なポンプ運動を引き起こす。[ 3 ]複数の研究により、上半身の運動を含めて運動は乳がん関連リンパ浮腫の女性が行っても安全であることが示されている。[ 4 ]

また、以前に乳がん関連リンパ浮腫の診断を受けた女性がウェイトリフティングを徐々に進行的に行うことにより、理学療法士による治療を必要とする臨床的に意義があるリンパ浮腫の増悪(flare-up)の可能性を半分に減らすことができるという証拠もある。[ 5 ][証拠レベル:I]リンパ浮腫の乳がん生存者141人のグループが週2回1年間のウェイトリフティング介入群(N = 71)または待機リスト比較群(N = 70)にランダムに割り付けられた。介入は抵抗をほとんどまたは全く掛けない監督つきの13週間のトレーニングで開始された;持ち上げるウェイトの重量は非常に時間をかけて、リンパ浮腫の症状または腫脹に変化が見られない場合に限り増加された。参加者は全員、ピッタリ合った特別仕立ての圧迫帯を巻き、これは介入期間中6ヵ月で取り替えられた。乳がん関連リンパ浮腫の女性はこのプログラムを自身で行う前に、認定を受けたフィットネスの専門家または理学療法士の指導を受けて上半身のウェイトリフティング運動の正しい身体運動学的フォームを習得すべきである。(介入の詳細はNational Lymphedema Networkを通して認定を受けたフィットネスの専門家および理学療法士に公開されている。)この介入が広く用いられるように改訂を行うには、さらなる研究が必要である。

1件の小規模パイロット研究では、黒色腫、婦人科がん、または泌尿器がんに続発して下肢リンパ浮腫を発症したがん生存者において上述の介入とほぼ同じ介入の安全性が調査されている。この無対照パイロット研究では、参加者の20%が徐々に進行的に行うウェイトリフティングレジメンの開始後、最初の2ヵ月以内に蜂窩織炎に感染した。[ 6 ]下肢リンパ浮腫を有するがん生存者におけるウェイトリフティングが安全な運動方法であるか判断するには、さらなる研究が必要である。

段階的圧力衣服

段階的圧力衣服(gradient pressure garments)(リンパ浮腫スリーブまたはストッキングとしても知られる)は近位より遠位に大きな圧力がかかることで、浮腫液の流動を高める。患者によっては、ぴったり適合するように特別仕立てのスリーブが必要な場合がある。こうした衣服の使用は、飛行機旅行中など高高度では環境気圧が表在組織内における排出口の経毛細管圧(outlet transcapillary pressure)よりも低く浮腫の悪化を引き起こすことがあるため、特に重要である。

包帯

包帯法では、毛細管限外濾過を減らし、内在筋ポンプの効果を最適化することで、リンパの再貯留を阻止するために非弾性の生地が用いられる。包帯法は、最初は抵抗性の肢を浮腫の少ない肢に変化させ、肢の容積を少なくし、衣服の着用が上手くいくようにする。[ 7 ][証拠レベル:I]

スキンケア

スキンケアの目標は特に皮膚の裂け目への細菌および真菌による皮膚コロニー形成(dermal colonization)を最小化し、皮膚を保湿して乾燥およびひび割れを制御することである。

複合うっ血緩和療法

複合うっ血緩和療法は、用手的リンパ浮腫ドレナージ療法、低伸張性の包帯法、運動、およびスキンケアから成る集学的プログラムである。[ 8 ]このアプローチは、コンセンサス・パネルによって一次治療として、および弾力による標準的圧迫療法では奏効しないリンパ浮腫に対する効果的な治療法として推奨されている。[ 9 ][ 10 ]

複合うっ血緩和療法は連続した2つの段階に分けられる。第一段階は、リンパ浮腫の容積を多量に減少できるよう集中治療で構成される。第二段階は在宅での維持療法で構成される。弾性スリーブおよび低伸張性の包帯使用の遵守は、在宅での維持療法成功の重要な決定因子であることが明らかにされている。[ 8 ]複合うっ血緩和療法はまた、鼠径リンパ節郭清後のリンパ浮腫も改善することが示されている。[ 11 ]患者は、最適な結果を得るために訓練をしっかり積んだ療法士に紹介すべきである。

間欠的外部空気圧迫法

間欠的外部空気圧迫法(intermittent external pneumatic compression)もまた、リンパ系のうっ血緩和療法に付加して用いる場合に、リンパ浮腫を管理する上で追加的な改善を提供する。新規乳がんに関連したリンパ腫の女性23人を対象とした1件の小規模ランダム化試験により、用手リンパドレナージ単独と比較して、新たに有意な容積の減少が得られたことが明らかにされた(45% vs 26%)。[ 12 ][証拠レベル:I]同様に、維持療法期にも改善が示された。間欠的空気圧迫法の使用に関する関心事としては、最適な圧量と治療スケジュール、および浮腫の最初の減量後に維持療法が必要であるかどうかが挙げられる。[ 13 ][証拠レベル:I]60mmHgを超える圧力および長期間の使用により事実上リンパ管を損傷しうることが理論的に心配される。

薬理学的治療

リンパ浮腫患者に対する長期の薬理学的治療は推奨されていない。利尿薬は典型的に有益性がほとんどなく、リンパ浮腫液(lymphedema fluid)は脈管腔に容易に集めることはできないため、血管内血液容積の減少を助長しうる。クマリンは肝毒性と有意に関連しており、比較試験において有益性は全く示されていない。[ 14 ]蜂窩織炎の証拠を有する患者には抗生物質を迅速に使用すべきである;重度の蜂窩織炎、リンパ管炎、または敗血症には静注投与がときに必要となる。

体重減少

1件の小規模ランダム化試験の結果から、乳がん関連リンパ浮腫は体重減少により改善しうることが示唆されている。[ 15 ][証拠レベル:I]肥満がリンパ浮腫の素因となる機序は不明であるが、提案されている機序には、皮下脂肪による感染など術後の合併症リスクの増加、筋ポンプ効率(muscle pumping efficiency)の低下、およびリンパ管の分離が挙げられる。[ 15 ]リンパ浮腫の管理のための体重減少についてさらに探索するためには、リンパ浮腫のがん患者(下肢リンパ浮腫を有する患者も含めて)におけるより大規模で長期の体重減少介入が必要である。

低出力レーザー療法

諸研究は、低出力レーザー療法が一部の女性に対して臨床的に意味のある形でリンパ浮腫の縮小に有効であると示唆している。[ 16 ][証拠レベル:I[ 17 ][ 18 ]2サイクルのレーザー療法は、治療後3ヵ月経過時に乳房切除術後のリンパ浮腫患者の約1/3において罹患した腕の容積、細胞外液、組織の硬さを低下させる上で有効であることが示された。[ 16 ]レーザー療法に対して提案された理論的根拠は、線維化の潜在的な低下、マクロファージおよび免疫系の刺激、およびリンパ管新生を促す上での潜在的役割などである。[ 16 ]

手術

手術はがん関連リンパ浮腫を有する患者には、まれにしか実施されない。リンパ浮腫を治療するための主要な手術法は、浅リンパ系および深リンパ系の吻合を促すために筋肉内での皮膚弁の創設を伴う、または伴わない皮下脂肪および線維組織の切除から成る。これらの方法はプロスペクティブ試験では評価されておらず、1件のレトロスペクティブ・レビューにおいて患者の30%にのみ十分な結果が得られている。また、患者の多くが、皮膚壊死、感染、および感覚異常などの合併症に直面する。[ 19 ]腫瘍患者は通常、こうした手技の候補者とはならない。その他の手術の選択肢には以下がある:

統合的治療様式

用手的リンパ浮腫療法

マッサージ技術の一種である用手的リンパ浮腫療法では、表面に非常に軽いマッサージが用いられ、ゆるやかで周期的な皮膚の拡張は理想的には約30mmHg~45mmHgの圧力に制限される。[ 3 ]他の多くのマッサージ技術と比較して、用手的リンパ浮腫療法での皮膚への接触は非常に軽いものである。そのストロークはしばしば“はけで塗る”技法のように感じられる。用手的リンパ浮腫療法はリンパを循環系およびリンパ系に導くことにより、リンパ節の詰まりを減少させる。[ 3 ]用手的リンパ浮腫療法は罹患していない領域で開始し、患肢からリンパが排出されるように誘導する。

リンパ浮腫を経験している乳がんの女性において実施されている試験の数は限られている。これらの試験では、用手的リンパ浮腫療法が単一の介入としてまたは標準ケアの補助として実施される場合に、肢の容積における有意な低下が報告されている。[ 20 ][ 21 ][ 22 ][証拠レベル:I]しかしながら、これらの予備的知見を確認するには大規模なランダム化比較試験が必要である。

用手的リンパ浮腫療法は緊密な監視を受けた医療現場で、用手的リンパ浮腫療法に特化して訓練を受けた臨床家によって導入されるべきである。[ 23 ]乳がん女性に対して用手的リンパ浮腫療法を実施したパイロット研究では有害事象は報告されていない。報告されている有害事象は一般的なマッサージ療法と関連しており、大部分は無資格のマッサージ療法士によって行われた治療または深部への強いマッサージ技術を含む治療と関係している。用手リンパドレナージとしても知られる用手リンパ療法は、セルフケアのために患者に指導できる。

安全性のプロファイルにもかかわらず、マッサージ療法をがん患者に実施する際は以下のような特別な注意を考慮すべきである:

追加の統合的治療様式が、二次性リンパ浮腫の治療における役割について研究段階にある。リンパ浮腫に対する治療法として、セレンの臨床試験(NCT00188604)が実施済みであるほか、鍼療法および灸の臨床試験(LJMC-AMWELL-SL)が実施済みである。

難治性のリンパ浮腫および合併症

リンパ浮腫が大きく、治療に対して抵抗性であるか、初回手術後明らかな外傷なしに数年経過時に発症した場合、他の原因を探索すべきである。特に重要なことは、腫瘍の再発またはリンパ管肉腫の発症(コンピュータ断層撮影または磁気共鳴画像法により除外すべきである)を除外することである。リンパ管肉腫の合併症は古典的に、乳房切除術後のリンパ浮腫群にみられる(スチュアート-トリーヴェス症候群)。乳房切除術からリンパ管肉腫が発生するまでの平均期間は10.2年で、その生存期間中央値は1.3年である。臨床的に、リンパ管肉腫の病変は最初は青-赤または紫色で現れ、皮膚に黄斑または丘疹を伴う。多発性病変がよくみられる;皮下小結節が現れることがあり、慢性リンパ浮腫を有する患者では慎重に評価されるべきである。[ 25 ]

参考文献
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最新の臨床試験

NCIが支援しているがん臨床試験で現在患者登録中の試験を検索するには、 臨床試験アドバンスト・サーチを使用のこと(なお、このサイトは日本語検索に対応していない。日本語でのタイトル検索は、 こちらから)。このサーチでは、試験の場所、治療の種類、薬物名やその他の基準による絞り込みが可能である。臨床試験に関する一般情報も入手することができる。

本要約の変更点(08/28/2019)

PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。

概要

本文に以下の記述が追加された;頭頸部がんの患者では、高線量放射線療法および手術の併用という危険因子により、リンパ浮腫の有病率が75%に上ることが一部の報告で示唆されている(引用、参考文献8として Deng et al.)。

本文に以下の記述が追加された;American College of Surgeons Oncology Group (ACOSOG)/Alliance Z1071乳がん臨床試験の経時的サブスタディでは、 患者報告による上腕の浮腫および重感の3年累積発生率は、実際には客観的所見よりも低かった(引用、参考文献15として Armer et al.)。

本要約はPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。

本PDQ要約について

本要約の目的

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、リンパ浮腫の病態生理および治療について、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

査読者および更新情報

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:

要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。

本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。

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本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Board は、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。

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PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Lymphedema.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/lymphedema/lymphedema-hp-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389244]

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