患者さん向け リンパ浮腫(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、リンパ浮腫の原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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リンパ浮腫についての一般的な情報

リンパ浮腫は、リンパ系に損傷や閉塞がある場合に、軟部組織に体液が貯留した状態です。

リンパ浮腫は、リンパ系に損傷や閉塞がある場合に発生します。体液軟部組織に貯留し腫れが生じます。リンパ浮腫はよくみられる症状で、がんおよびその治療が原因となって起こります。リンパ浮腫は通常、腕や脚に発生しますが、体の他の部位にも見られます。リンパ浮腫は長期にわたって身体的、心理的、社会的な問題をもたらすことがあります。

リンパ系はリンパ管、組織、臓器からなるネットワークで、体内のあらゆる場所にリンパ液を運びます。

リンパ浮腫に直接関与するリンパ系には以下のものがあります:

脾臓胸腺扁桃骨髄もリンパ系の一部ですが、リンパ浮腫には直接関与していません。

リンパ系:リンパ管と、リンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示す。上の拡大図には、リンパ節とそれにつながるリンパ管の内部構造が示されており、さらにリンパ節内外へのリンパ液(透明な液体)の流れが矢印で示されている。もう一方の拡大図には、骨髄と血液細胞が示されている。

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リンパ系の解剖図:リンパ管とリンパ節、扁桃、胸腺、脾臓、骨髄を含むリンパ器官を示しています。リンパ液(透明の液体)とリンパ球はリンパ管を介してリンパ節まで移動し、リンパ球はそこで有害物質を破壊します。リンパ液は心臓の近くの大きな静脈から血流に流れ込みます。

リンパ浮腫はリンパ液が正常に体を流れないときに発生します。

リンパ系が正常に機能しているときは、リンパ液は体内を流れ、血流に戻ります。

リンパ系の一部が損傷したり閉塞したりすると、周囲の組織から体液を排出できなくなります。体液が組織に貯留して腫れが生じます。

リンパ浮腫には2種類あります。

リンパ浮腫は原発性か続発性のいずれかに分けられます:

本要約は、がんまたはがん治療によって生じた成人の続発性リンパ浮腫について書かれたものです。

リンパ浮腫の徴候として考えられるものには腕または脚の腫れがあります。

ただし、他の病態が原因で同様の症状が生じてくる場合もあります。以下のような症状がある場合は医師の診察を受けてください:

リンパ浮腫は日常の活動、労働や趣味を楽しむ能力に影響を及ぼすこともあります。

これらの症状はゆっくりと時間をかけて発生しますが、腕や脚に感染や外傷がある場合には、より急速に生じることもあります。

がんやその治療はリンパ浮腫のリスク因子です。

リンパ浮腫は、全てのがんの発生後、またはリンパ節を通るリンパ液の流れに影響するリンパ節切除などのがん治療の後に発生する可能性があります。また、治療開始後数日で起こる場合も、何年もしてから起こる場合もあります。リンパ浮腫のほとんどが手術後3年以内に起こります。リンパ浮腫のリスク因子には以下のものがあります:

リンパ浮腫は、乳房の全体または一部の切除や腋窩(わきの下)リンパ節の切除を受けた乳がんの患者さんに多く見られます。脚のリンパ浮腫は、子宮がん前立腺がんリンパ腫黒色腫の手術後に起こる可能性があります。外陰がんまたは卵巣がんで起こることもあります。リンパ浮腫は、高線量放射線療法を受けたり、手術を併用した頭頸部がんの患者さんに頻繁に見られます。

リンパ浮腫の診断には、リンパ系を調べる検査法が用いられます。

感染や血栓など腫れの原因が他にないか確認することが重要です。リンパ浮腫の診断には以下の検査や手法が用いられます:

通常は、腫れた腕や脚を検査し、もう一方の腕や脚と比較します。治療がどのぐらい奏効しているかをみるために、長期にわたって検査が繰り返し行われます。

リンパ浮腫を診断して表現するために、悪性度分類法も用いられます。悪性度1、2、3、4は、腕や脚の患部の大きさと、徴候や症状の重症度がどの程度かを基に判定します。

リンパ浮腫は病期を用いて表現されることがあります。

リンパ浮腫の管理

患者さんはいくつかの処置を行うことでリンパ浮腫を予防し、悪化を防ぐことができます。

予防処置をとれば、リンパ浮腫の進行を抑えることができます。医療提供者は、家庭でのリンパ浮腫の予防法や管理法を患者さんに指導します。リンパ浮腫が発生した場合にも、これらの方法で悪化を防止できます。

予防手段には以下のものがあります:

リンパ浮腫の症状に気づいたら、すぐに医療提供者に報告するべきです。

リンパ浮腫によって起こりうる症状については一般的な情報のセクションをご覧ください。これらの症状が起こったときには直ちに医師の診察を受けてください。治療を早く始めると、症状の改善の見込みが高くなります。リンパ浮腫は治療しないと、元の状態に戻らない症状を引き起こすことがあります。

感染を防ぐため皮膚や爪を清潔にケアします。

細菌は、切り傷、掻き傷、虫刺されなどの皮膚の損傷から体内に侵入します。リンパ浮腫によって体組織体液が貯留するため、細菌は容易に増殖し、感染を引き起こします。発赤、痛み、腫れ、熱感、発熱、皮膚の表面下にみられる赤斑などの感染の徴候に注意が必要です。これらの症状が起こったときには直ちに医師の診察を受けてください。次のように、皮膚や爪を十分にケアすることで感染を防止できます:

体液の流れを妨げないようにします。

特に、リンパ浮腫の患部やリンパ浮腫の起こる可能性のある部位で体液が滞らないようにすることが重要です。

患部に血液が滞らないようにします。

リンパ浮腫の患者さんでは、慎重に運動量を調節すれば、安全に運動を行えることが研究によって示されています。

リンパ浮腫のリスクがある患者さんでも、運動によってリンパ浮腫が生じる可能性が高まることはありません。昔、このような患者さんは、患部のある腕や脚を動かさないように指導されていました。今では、ゆっくりとした運動で慎重に運動量を調節すれば、安全に運動が行え、リンパ浮腫が生じないようにするためにも有用な可能性があることが研究によって示されています。乳がん生存者では、上半身の運動によってリンパ浮腫が生じるリスクが高まることはないことも研究によって示されています。(詳しい情報については、リンパ浮腫の治療の下の運動のセクションをご覧ください。)

リンパ浮腫の治療

治療の目的は、リンパ浮腫が原因となって起こる腫れとその他の障害を管理することです。

リンパ系の損傷は修復することができません。治療によってリンパ浮腫が原因となって起こる腫れを管理し、他の障害が発生したり悪化したりするのを防ぎます。理学(非薬物療法標準治療となります。理学的方法のいくつかを組み合わせて行う場合もあります。これらの治療の目的は、患者さんが日常生活活動を続ける助けとなり、痛みを和らげ、患部のある腕や脚を動かしたり使ったりできる能力を高めることにあります。リンパ浮腫の長期治療には薬剤を用いないのが通常です。

リンパ浮腫の治療法には以下のようなものがあります:

圧迫帯

圧迫帯は布製で、腕または脚の様々な部分に加える圧力を調節して体液が移動するのを助け、貯留しないようにします。患者さんによっては、ピッタリ適合するようにオーダーメイドの圧迫帯が必要な場合もあります。運動時に圧迫帯を巻くと、患部のある腕や脚がさらに腫れるのを防ぐのに役立つ場合があります。高度が高いところではリンパ浮腫が悪化する恐れがあるため、飛行機旅行中に圧迫帯を着用することは重要です。このような圧迫帯は、弾性スリーブ、リンパ浮腫スリーブ、あるいはストッキングとも呼ばれています。

運動

軽い運動と有酸素運動(心臓とをより激しく働かせる運動)はいずれも、リンパ液を患部のある腕や脚から移動させるリンパ管の働きを助け、腫れを軽減させます。

脚にリンパ浮腫があるがん生存者で、ウェイトリフティングが安全かどうか判断するには、さらに研究が必要です。

包帯法

リンパ液が腫れた腕や脚から排出された後、圧迫包帯を使用してその部分に再び体液が貯留するのを防ぐことができます。包帯にはリンパ管がリンパ液を移動させる働きを高める効果もあります。他の治療法でリンパ浮腫の改善が得られなかった場合でも、包帯法が有用となる場合があります。

スキンケア

スキンケアの目的は、感染の予防と皮膚を乾燥とひび割れから守ることです。スキンケアのポイントについてはリンパ浮腫の管理のセクションをご覧ください。

併用療法

複合理学療法は、訓練を受けた療法士によって行われるマッサージ、包帯法、運動、スキンケアからなるプログラムです。プログラムでは、最初に療法士が短時間で多くの治療を行い、リンパ浮腫による腕や脚の腫れの大部分を軽減します。その後、患者さんが自宅でこのプログラムを続け、腫れを減らしていきます。複合療法は複合うっ血緩和療法とも呼ばれます。

圧迫装置

圧迫装置とは、腕や脚に巻くスリーブに接続された圧迫ポンプで、間欠的に圧力をかけるものです。このスリーブは、一定の周期で膨張と収縮を繰り返します。このポンプ動作によって、リンパ管内と静脈内での体液の移動が促進され、腕や脚に体液が貯留しなくなります。加圧ポンプは複合療法に組み入れると有効です。外部の高い圧力によって皮膚表面付近のリンパ管が損傷する可能性があるため、加圧ポンプは必ず訓練を受けた医療専門家の監督下で使用するべきです。

体重減少

過体重の患者さんでは、体重を減らすことで、乳がんに伴うリンパ浮腫が改善する場合があります。

レーザー治療

レーザー治療は、乳房切除術後のリンパ浮腫による腫れや皮膚の硬化を軽減するのに有用な場合があります。携帯型の電池式器具を用いて、リンパ浮腫が生じている箇所に低レベルのレーザーを当てます。

薬物療法

リンパ浮腫では通常、薬物による治療は行われません。感染の治療および予防のために抗生物質が使用されることがあります。利尿薬抗凝固薬(血液希釈剤)などの他の種類の薬物は一般に有用ではなく、むしろリンパ浮腫を悪化させる恐れがあります。

手術

がんが原因で生じるリンパ浮腫は、手術で治療することはめったにありません。

マッサージ療法

リンパ浮腫に対するマッサージ療法(用手療法)は、必ず最初にリンパ浮腫を治療する訓練を専門に受けた人に行ってもらってください。この種のマッサージでは、体の軟部組織を優しくこすったり、叩いたり、撫でたりします。非常に軽く触れるだけなので、ほとんどブラシのような感触です。マッサージはリンパ管を機能させ、腫れのみられる患部からリンパ液を移動させるのに役立ちます。このようなマッサージ治療を患者さん自身ができるように、教えてもらうことができます。

マッサージ治療は、正しく行えば、医学的な問題が生じることはありません。以下の箇所では、マッサージを行ってはなりません:

リンパ浮腫が重症で治療を行っても効果が見られない場合には、他の問題が原因かもしれません。

リンパ浮腫には重症で治療を行っても効果が見られないものや、手術後数年経過して発生するものもあります。原因不明の場合には、医師は最初のがんやその治療以外に、別の腫瘍などの原因がないかどうか、解明を試みます。

リンパ管肉腫はまれな疾患ですが、リンパ管に急激に増殖するがんです。乳がんの患者さんの一部において、乳房切除術から平均で10年後に発生する場合があります。リンパ管肉腫は皮膚上に紫色の病変として現れ、平坦ないし隆起した形状をとります。リンパ管肉腫の有無はCTスキャンまたはMRIで調べます。リンパ管肉腫の治癒は困難となるのが通常です。

現在実施中の臨床試験

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、リンパ浮腫の原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Lymphedema.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/lymphedema/lymphedema-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389292]

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