患者さん向け 小児上衣腫

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このPDQがん情報要約では、小児上衣腫の治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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小児上衣腫

上衣腫は、または脊髄から発生する、まれな種類の腫瘍です。脳は呼吸、心拍数、記憶や学習、感情、感覚など体のあらゆる機能を制御しています。脊髄は、脳と体の各部との間でメッセージを伝達する神経線維が束になったものです。脳と脊髄をあわせて中枢神経系と呼びます。

上衣腫は、上衣細胞と呼ばれる細胞が無秩序に増殖することで発生します。脳室や脳内および脊髄の通路の壁を覆っている上衣細胞は髄液を作っていて、髄液は脳と脊髄を損傷から保護するクッションの役割を果たしています。上衣腫は、髄液によって上衣腫細胞が中枢神経系の他の部位に運ばれることで拡がる可能性があります。上衣腫が中枢神経系の外に拡がることはまれです。

上衣腫は小児と成人どちらにも発生しますが、幼児でより多くみられます。この種の腫瘍は小児の脳および脊髄腫瘍全体の約9%を占め、米国では毎年約200人の小児が罹患しています。

小児上衣腫の種類

上衣腫には、腫瘍の位置に応じて様々な種類があります。小児にみられる上衣腫には主に以下の3種類があります:

この脳内部の図は、側脳室、第三脳室、第四脳室、および脳室間の通路(青色の部分は髄液)を示している。大脳、小脳、脳幹(脳橋と延髄)、および脊髄も示している。

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この脳内部の解剖図は、側脳室、第三脳室、第四脳室、および脳室間の通路(青色の部分は髄液)を示しています。大脳、小脳、脳幹(脳橋と延髄)、および脊髄も示しています。

小児上衣腫の原因とリスク因子

小児上衣腫は、上衣細胞の挙動、特に成長して新しい細胞に分裂する過程での挙動が変化することによって発生します。そうした細胞の変化が生じる正確な原因は不明です。がんの発生の詳細については、がんとは何か(英語)をご覧ください。

リスク因子とは、疾患が発生する可能性を増大させるあらゆる要因のことです。神経線維腫症2型(NF2)と呼ばれる遺伝性疾患の小児では、視路に沿って上衣腫が発生するリスクが高まっている可能性があります。このリスク因子がある小児全員が上衣腫を発症するわけではありません。また、リスク因子が認められない小児が発症することもあります。

小児上衣腫の症状

上衣腫の症状は年齢と腫瘍の位置によって異なります。以下の症状が1つでもみられる場合は、お子さんの担当医に相談するべきです:

小児の後頭蓋窩上衣腫の症状には以下のようなものがあります:

小児のテント上上衣腫の症状には以下のようなものがあります:

小児の脊髄上衣腫の症状には以下のようなものがあります:

これらの症状は、上衣腫以外の病態によって引き起こされることもあります。状況を把握する唯一の方法は、担当医の話を聞くことです。

小児上衣腫の診断に用いられる検査

小児に上衣腫を示唆する症状がみられる場合、それらの原因が上衣腫なのか、それとも別の問題なのかを医師が確認する必要があります。医師は症状がいつから始まり、どのくらいの頻度で起きているかを質問します。医師はまた、保護者に小児の病歴家族歴をたずね、神経学的検査を含む身体診察を行います。それらの結果に応じて、ほかの検査を勧めることもあります。それらの検査の結果は、上衣腫と診断された場合に保護者と担当医で治療計画を立てるのに役立ちます。

このほかに小児の上衣腫の診断に用いられることがある検査として、以下のものがあります:

場合によりガドリニウムを使用するMRI(磁気共鳴画像)検査

MRI検査は、磁気、電波、コンピュータを用いて脳と脊髄の精細な連続画像を作成する検査法です。まずガドリニウムと呼ばれる物質を静脈内に注射して、血流に乗せて全身に行きわたらせます。ガドリニウムにはがん細胞の周辺に集まる性質があるため、撮影された画像ではがん細胞が明るく映し出されます。この検査法は核磁気共鳴画像法(NMRI)とも呼ばれます。

MRI(磁気共鳴画像)スキャン:この図は、患者さんが横たわった台がMRI装置内を水平に移動している間に体内領域の精細な画像が連続して撮影されている様子を示している

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MRI(磁気共鳴画像)スキャン。患者さんが台の上に横たわり、その台がMRI装置の中を水平に移動する間に、体内の精細な画像が連続で撮影されます。台の上で患者さんがとる姿勢は、撮影する体の部位によって異なります。

生検

診断検査で脳腫瘍が疑われる場合には、頭蓋骨の一部を切除するか頭蓋骨に小さな穴をあけて、針または手術器具を用いて脳組織のサンプルを採取することにより、生検を行うことができます。針を使用する場合は、コンピュータによる誘導に沿って組織のサンプルを採取することもあります。切除された組織は、病理医が顕微鏡で観察して、がん細胞の有無を調べ、腫瘍の悪性度を判定します。ここでがん細胞が発見された場合には、そのまま手術を継続して、安全を確保できる範囲内で可能な限り多くの腫瘍を切除します。

開頭術の図:頭皮の一部を切り取り、頭蓋骨の一部を切除し、脳を覆っている硬膜を切開して脳を露出させている。頭皮の下にある筋肉の層も示されている。

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開頭術。頭蓋骨に開口部を設け、頭蓋骨の一部を切除することで、脳の一部を露出させます。

生検で摘出した組織に対して以下の臨床検査が行われることがあります:

Molecular Characterization Initiativeという団体は、特定の種類のがんと新たに診断された小児、青年、および若年成人を対象として、無料の分子生物学的検査を提供しています。このプログラムは、NCIの小児がんデータイニシアチブ(Childhood Cancer Data Initiative)を通じて提供されています。詳細については、Molecular Characterization Initiativeについて(英語)をご覧ください。

腰椎穿刺

腰椎穿刺は、脊柱から髄液を採取する際に用いられる手技です。脊椎の2本の骨に針を刺し、脊髄を覆っている膜の中まで針先を進めて、髄液のサンプルを採取します。髄液のサンプルを顕微鏡で観察して、腫瘍細胞の徴候がないか調べます。サンプルに含まれる蛋白やの量を調べることもあります。

腰椎穿刺:この図は、背中を曲げた姿勢で台の上に横たわっている患者さんと、腰の部分に挿入されている脊椎穿刺針(細長い針)を示している。右側の拡大図は、脊柱下部の髄液の中に脊椎穿刺針が挿入されている様子を示している。

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腰椎穿刺。患者さんに背中を曲げた姿勢で台の上に横たわってもらいます。腰の小さな領域に麻酔を施してから、腰椎穿刺針(細長い針)を脊柱の下部に挿入して、髄液(青色で示されている)を採取します。採取した液体を検査のために検査室に送ることもあります。

セカンドオピニオンを受ける

小児の診断を確定して治療計画を立てるにあたって、保護者はセカンドオピニオンを求めることができます。セカンドオピニオンを求めるときは、最初の担当医に医学的検査の結果と報告書を提供してもらい、それらを別の医師に見せる必要があります。2人目の医師は、病理報告書、スライド、検査画像を確認してから、推奨を提示します。そして、最初の医師の見解に同意するか、治療計画の変更を提案したり、患者さんのがんについて新たな情報を提供したりします。

医師を選んでセカンドオピニオンを受けるプロセスの詳細については、がん治療の医療機関を探す(英語)をご覧ください。セカンドオピニオンを提供できる医師や病院の情報については、NCIのCancer Information Serviceまで、チャット、電子メール、電話(英語とスペイン語に対応)でお問い合わせください。受診時に聞いておくとよい質問については、がんについて主治医に尋ねるべき質問(英語)をご覧ください。

小児上衣腫の病期と悪性度

がんの拡がりの程度を調べるプロセスを病期診断といい、その結果は治療計画や予後予測の参考情報としてしばしば用いられます。小児上衣腫には病期分類のシステムがありませんが、代わりに腫瘍の悪性度が用いられています。腫瘍の悪性度分類は世界保健機関(WHO)の基準に基づいています。

腫瘍の悪性度とは、顕微鏡で観察したときにがん細胞がどの程度異常に見えるか、腫瘍が増殖して拡がる速さはどの程度か、治療後に再発する可能性はどれくらい高いかを表す指標です。WHOの基準では、上衣腫は脳または脊髄における位置(小児上衣腫の種類のセクションをご覧ください)と腫瘍の分子生物学的または遺伝学的特徴によっても分類されています。

低悪性度(グレードI)のがん細胞は、高悪性度(グレードIIまたはIII)のがん細胞よりも、正常な細胞に外観がよく似ています。またグレードIのがん細胞は、グレードIIまたはIIIのがん細胞と比べて、ゆっくりと増殖しながら拡がります。

小児上衣腫は治療後に再発することが多く、ときに最初の治療から15年が経過した後に再発することもあります。腫瘍は最初の発生部位に再発することがよくありますが、最初の発生部位に近い部分に拡がることもあります。上衣腫が最初の発生部位から離れた部位に転移することはまれです。

上衣腫の小児の治療を担う医療従事者

小児上衣腫の治療は、小児がんの治療を専門とする小児腫瘍医が監督します。小児腫瘍医は、小児脳腫瘍患者の治療に精通しつつ、同時に他の医療分野を専門とする他の医療従事者と協力しながら治療に取り組んでいきます。その他の専門職としては以下のものがあります:

小児上衣腫の治療法

小児と青年の上衣腫に対する治療法には様々なものがあります。保護者と担当のがん治療チームが協力して、治療法を決定します。がんの位置、年齢、全体的な健康状態、上衣腫の種類と悪性度など、数多くの要因が検討されます。

小児の治療計画では、がんについての情報、治療の目標、治療選択肢、起こりうる副作用などが検討対象に含まれます。これは、治療に先立って担当の治療チームと今後の見通しを話し合う上で役に立ちます。実際の進め方については、NCIのがんの小児:ご両親のための手引き(英語)をご覧ください。

選択される可能性がある治療法としては以下のものがあります:

手術

小児上衣腫では通常、腫瘍とその周囲の正常組織の一部を切除する手術が最初の治療になります。手術は、生検サンプルを採取して診断を確定すること(小児上衣腫の診断に用いられる検査をご覧ください)、腫瘍による脳や脊髄の圧迫に起因する症状を緩和すること、腫瘍を可能な限り摘出することを目的として行われます。

腫瘍を摘出した後に腫瘍が残存していないか調べるために、しばしばMRI検査が行われます。腫瘍が残存している場合は、残存している腫瘍をできるだけ多く切除する再手術が行われることがあります。

一部の小児では、残っているがん細胞を全て死滅させることを目的として、手術後に化学療法または放射線療法が行われることがあります。このようにがんの再発リスクを減らすために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図るがん治療です。上衣腫の治療には外照射療法が用いられます。この種の治療では、体外に設置された装置を用いて、がんがある部分に放射線を照射します。放射線療法は単独で行われることもあれば、化学療法など他の治療と併用されることもあります。

外照射療法を特殊な方法で行うことで、周辺の正常組織に対する放射線による傷害を避けられる可能性があります。以下のような方法があります:

年少の小児が脳に対して放射線療法を受けると、成長や発達に問題を生じるリスクが年長の小児の場合より高いです。三次元原体照射療法と陽子線治療について、幼児の成長と発達に対する放射線の影響を抑えることができるかどうかを検証する研究が行われています。

詳細については、がんの外照射療法(英語)放射線療法の副作用(英語)をご覧ください。

化学療法

化学療法は、薬剤を使用してがん細胞の増殖を阻止する治療法です。化学療法では、がん細胞を死滅させるか、がん細胞の分裂を停止させます。化学療法は単独で行われることもあれば、放射線療法など他の治療法と併用されることもあります。

上衣腫の治療では、化学療法薬が静脈に注入されます。この方法で投与すると、薬剤を血流に入れて、全身のがん細胞に到達させることができます。化学療法で使用される薬剤としては以下のようなものがあります:

これらの薬剤を組み合わせて使用することもあります。ここに挙げていない化学療法薬も使用されることがあります。

詳細については、化学療法によるがん治療(英語)をご覧ください。

臨床試験

治療法の臨床試験とは、がんの患者さんを対象として、既存の治療法を改良したり、新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。小児がんはまれな疾患ですので、臨床試験への参加を検討するべきです。

上衣腫の臨床試験(英語)で上衣腫の患者を対象とした臨床試験を探すか、NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施されている場所に基づいて、臨床試験を検索することができます。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。 

詳細については、患者さんと介護者のための臨床試験情報(英語)をご覧ください。

脳または脳幹の小児上衣腫の治療

新たに診断された脳または脳幹の小児上衣腫の治療には手術が含まれます。

手術後の治療計画は以下の要因に左右されます:

腫瘍が完全に切除され、がん細胞が拡がっていない場合の治療法としては、放射線療法などがあります。

手術後に腫瘍の一部が残存しているものの、がん細胞が拡がっていない場合の治療法としては、以下のようなものがあります:

脳や脊髄の中でがん細胞が拡がっている場合の治療法としては、以下のようなものがあります:

1歳未満の小児に対する治療法としては、以下のようなものがあります:

放射線療法は患者さんが1歳以上になるまでは行われません。

これらの治療法の詳細については、小児上衣腫の治療法をご覧ください。

小児脊髄上衣腫の治療

新たに診断された脊髄粘液乳頭状上衣腫(グレード2)に対する治療法は手術です。手術後に放射線療法が行われることもあります。

新たに診断された粘液乳頭状以外の脊髄上衣腫の小児に対する治療法は手術です。グレード2または3の腫瘍がある小児には、ときに手術後に放射線療法が行われます。

これらの治療法の詳細については、小児上衣腫の治療法をご覧ください。

再発小児上衣腫の治療

再発小児上衣腫に対する治療法には以下のようなものがあります:

これらの治療法の詳細については、小児上衣腫の治療法をご覧ください。

小児上衣腫の予後因子

子どもが上衣腫と診断されると、多くの保護者は、そのがんの深刻度や生存の可能性を知りたくなるでしょう。がんがどのような経過をたどるかの見通しを予後といいます。予後は以下のような数多くの要因に左右されます:

また予後は、行われた放射線療法の種類と線量や、化学療法が単独で行われたかどうかによっても異なります。

治療に対する反応には個人差があり、大きな差がみられる場合もあります。保護者が子どもの予後について知りたい場合は、担当のがん治療チームと話をするのが最善です。

がん治療の副作用と晩期障害

がん治療は副作用を引き起こす可能性があります。起こりうる副作用は、受けている治療の種類、用量、体の反応によって異なります。注意すべき副作用とその対処法について、担当の治療チームとよく話をしてください。

がんの治療中に発生する副作用の詳細については、副作用(英語)のページをご覧ください。

がん治療による問題のうち、治療後6カ月以降に始まって月単位または年単位で続くものは、晩期合併症(晩期障害)と呼ばれます。小児上衣腫に対する治療の晩期合併症(晩期障害)には以下のようなものがあります:

晩期合併症(晩期障害)には治療やコントロールが可能なものもあります。がんの治療によってお子さんに生じうる影響について担当医とよく相談することが重要です。詳細については、小児がん治療の晩期合併症(晩期障害)をご覧ください。

フォローアップケア

治療を進めるにつれて、フォローアップ検査または定期検査が行われます。がんの診断のために実施された検査の中には、治療の効果を確認するために繰り返し行われるものもあります。治療の継続、変更、中止などの決定がそれらの検査結果に基づいて判断されることもあります。

小児上衣腫は最初の治療から15年以上が経過した後に再発することもあります。そのため、治療が終了した後も、特定の検査を度々受けることになります。それらの検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんが再発したかどうかを知ることができます。

脳と脊髄のMRIを以下の間隔で行うことがあります:

子どものがんへの対処

小児ががんを発症すると、そのご家族全員に対してサポートが必要になります。この困難な時期には、保護者が自分自身のことに気を配ることも重要になります。担当の治療チームやご家族や地域の人々に助けを求めましょう。詳細については、小児がん患者さんのご家族のためにという記事と、がんの小児:ご両親のための手引き(英語)という冊子をご覧ください。