ご利用について
このPDQがん情報要約では、腎がんの遺伝学に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Genetics Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- 腎がんとは
腎がんは、腎臓の尿細管の中に悪性(がん)細胞ができる疾患です。
腎がん(腎細胞がんとも呼ばれる)は、腎臓の尿細管(非常に細い管)の内面に悪性(がん)細胞が発生する疾患です。腎臓は体内に2つ存在し、腰の上方の背骨の左右両側に位置しています。腎臓は内部の微細な管に血液を通してろ過し、きれいにします。また、老廃物を除去して尿を生成します。左右の腎臓を出た尿は、尿管と呼ばれる長い管を通って膀胱に送られます。膀胱に溜まった尿は、やがて尿道から排泄されます。
尿管または腎盂(尿が集まって尿管へ流れ込む部分)に発生するがんは、腎細胞がんとは異なる疾患であり、本要約で取り上げる遺伝性症候群に関連するものではありません。腎盂のがんは、リンチ症候群という別の遺伝性疾患に関連していることがあります。(詳しい情報については、PDQの大腸がんの遺伝学に関する医療専門家向け要約をご覧ください)。
- 遺伝性腎がんとは
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特定の遺伝性症候群があると、腎がんのリスクが高くなることがあります。
ほとんどの腎がんは親から子に遺伝しません。家系内の数世代の人に腎がんが見られる場合は、遺伝性腎がんと呼ばれます。遺伝性腎がんは発生数が少なく、腎がん全体の5~8%を占めているだけです。このがんは通常、遺伝性症候群に関連しています。遺伝性症候群とは、親から子へと受け継がれる可能性のある遺伝子の変化が原因となって同時に発生する一連の徴候や症状、または病態のことです。遺伝性症候群は、遺伝症候群や家族性がん症候群と呼ばれることもあります。本要約で説明する遺伝性症候群を抱えている人は、腎がんに罹患するリスクが高くなります。
本要約では、以下の4種類の遺伝性症候群について解説します:
遺伝性の腎がんと非遺伝性の腎がんは、いくつかの点で異なります。
患者さん向けの本要約では、腎がんに関連する遺伝性症候群についての情報を示します。散発性腎がんや腫瘍シークエンシングで見つかった体細胞突然変異についての情報は掲載していません。
- 遺伝カウンセリングとはどのようなもので、どんな人が受けるべきですか
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遺伝カウンセリングは、特別な訓練を積んだ医療専門家と疾患の遺伝的リスクが懸念される人の間で行われるコミュニケーションの一過程です。
対象者の家族歴と個人の病歴について話し合いが行われ、その結果、カウンセリングで遺伝子検査が勧められることもあります。遺伝カウンセラーや専門的な訓練を受けた他の医療専門家は、患者さんが遺伝子検査を受けるかどうかを情報に基づいて決定するための支援を提供することができます。
家系内に認められる状態が遺伝性のものかどうかは、簡単に判断できるとは限りません。遺伝カウンセラーや専門的な訓練を受けた他の医療専門家は、患者さんが自身の家族歴や遺伝子検査の選択肢を把握し、遺伝情報を知ることに関するリスクとメリットを理解するための支援を提供できます。患者さんが遺伝子検査を受けることを選択した場合は、血液や唾液、または皮膚のサンプルを使用して検査が行われます。遺伝子検査の結果によって家族に関する情報が明らかになり、家族関係の緊張を招く場合があります。遺伝カウンセラーは、当事者が遺伝子検査の結果に対処できるよう、家族と話し合う方法を示すなどの支援を行うことができます。
- 主な遺伝性腎がん症候群にはどのようなものがありますか
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遺伝子に起きた変異(変化)が、腎がんのリスクを上昇させる遺伝性症候群を引き起こすことがあります。遺伝子はDNAの一片であり、そこには形質や遺伝性疾患を決定付ける情報が含まれています。
遺伝子は親から子に受け継がれます。以下で取り上げる遺伝性症候群はいずれも、子が片方の親から変異を起こした遺伝子のコピーを受け継いでいる場合にのみ罹患します。こうした遺伝は、常染色体優性遺伝と呼ばれます。
4種類の遺伝性腎がん症候群とそれぞれの原因となる遺伝子が特定されています。
フォン・ヒッペル-リンダウ病(VHL)
VHLは腎がんと腎嚢胞のリスクを上昇させる遺伝性症候群です。VHLは、ゆっくり増殖することの多い明細胞型腎がんに関連があります。VHLの患者さんでは、中枢神経系、網膜、膵臓、副腎、内リンパ嚢、精巣上体(男性の場合)、子宮広間膜(女性の場合)に、他の種類の悪性腫瘍(がん)や良性(がんでない)腫瘍が発生することもあります。
VHLはVHL遺伝子の変異が原因で発生します。VHL遺伝子は、腫瘍抑制遺伝子と呼ばれるタイプの遺伝子です。正常なVHL遺伝子には、細胞の増殖と分裂が速く進みすぎないように制御する働きがあります。VHL遺伝子が特定の変異を起こして保護的な機能を失うと、細胞増殖が制御されなくなり、がんにつながる場合があります。変異したVHL遺伝子のコピーは親から子に受け継がれます。この変異によって引き起こされる症候群は、常染色体優性の形式で遺伝します。片方の親がVHLに罹患していると、その変異は50%(2分の1)の確率で子に伝わります。
VHLの詳細については、国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS:National Center for Advancing Translational Sciences)の遺伝・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center)のサイトをご覧ください。
遺伝性平滑筋腫症-腎細胞がん(HLRCC)
HLRCCは腎がんのリスクを上昇させる遺伝性症候群です。HLRCCは急速に進行することのある珍しい種類の腎がんに関連があり、状況に応じて異なる治療法が採用されます。HLRCCの患者さんは平滑筋腫という皮膚病変を来すことがあり、女性では子宮筋腫が発生することもあります。
HLRCCはFH遺伝子の変異が原因となって発生します。FH遺伝子はフマラーゼという蛋白を作ります。フマラーゼは細胞の酸素消費とエネルギー生成を助けます。FH遺伝子に変異が生じると、細胞が酸素を使用できなくなり、がんの発生につながることがあります。こうした変異は親から子に受け継がれます。この変異によって引き起こされる症候群は、常染色体優性の形式で遺伝します。片方の親がHLRCCに罹患していると、その変異は50%(2分の1)の確率で子に伝わります。
HLRCCの詳細については、NCATSの遺伝・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center)のサイトをご覧ください。
バート・ホッグ・デュベ症候群(BHD)
BHDは、通常は増殖が遅い数種類の腎がんのリスクを上昇させる遺伝性症候群です。BHDの患者さんでは、線維毛包腫という皮膚病変、肺嚢胞、自然気胸(肺の虚脱)が発生することもあります。
BHDはFLCN遺伝子の変異が原因となって発生します。FLCN遺伝子は腫瘍抑制遺伝子です。正常なFLCN遺伝子には、細胞の増殖と分裂が速く進みすぎないように制御する働きがあります。FLCN遺伝子に変異が生じると、細胞の増殖が制御されなくなり、がんの発生につながることがあります。変異したFLCN遺伝子のコピーは親から子に受け継がれます。この変異によって引き起こされる症候群は、常染色体優性の形式で遺伝します。片方の親がBHDに罹患していると、その変異は50%の確率で子に伝わります。
BHDの詳細については、NCATSの遺伝・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center)のサイトをご覧ください。
遺伝性乳頭状腎がん(HPRC)
HPRCは、1型乳頭状腎がんという、ゆっくりと増殖することの多い腎がんのリスクを上昇させる遺伝性症候群です。乳頭状腎がんは尿細管の内側を覆う細胞で発生します。
HPRCはMET遺伝子の変異が原因となって発生します。MET遺伝子は、細胞内のシグナル伝達と細胞の増殖に関係するMETという蛋白を作ります。MET遺伝子に変異が起きると、細胞が増殖を妨げるシグナルに反応しなくなり、がんの発生につながることがあります。変異したMET遺伝子は親から子に受け継がれます。この変異によって引き起こされる症候群は、常染色体優性の形式で遺伝します。片方の親がHPRCに罹患していると、その変異は50%(2分の1)の確率で子に伝わります。
乳頭状腎がんの詳細については、NCATSの遺伝・希少疾患情報センター(Genetic and Rare Diseases Information Center)のサイトをご覧ください。
- 遺伝性腎がん症候群の診断を受けた後は何が行われますか
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腎がんの患者さんに対するスクリーニングと治療の推奨は、ほとんどが臨床試験で得られた証拠に基づいています。しかし、遺伝性の腎がん症候群が認められる家系はまれであるため、上記の遺伝性腎がんは多くの試験で検討されていません。遺伝性症候群の家系を対象とした研究結果が利用できない場合、遺伝性腎がんの患者さんに対する監視とケアのガイドラインは、専門家の意見とこれらの症候群が見られる家族の治療経験をもつ医療従事者の統一見解に基づきます。
遺伝性腎がん症候群の家族は、腎臓やその他の臓器に疾患の徴候がないか詳しく調べられます。ほとんどの腎腫瘍は手術で切除できますが、再発することがあります。他の治療法が用いられることもあります。
本要約で取り上げた各遺伝性症候群のスクリーニングと治療法に関する情報は、PDQの腎細胞がんの遺伝学に関する医療専門家向け要約をご覧ください。一般集団の腎がんの治療に関する情報については、PDQの腎細胞がんの治療に関する要約をご覧ください。
- 遺伝性腎がん症候群の人が参加できる臨床試験はありますか
NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。
- 腎がん(腎細胞がん)についてさらに学ぶために
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米国国立がん研究所と米国国立衛生研究所が提供している腎がんとその遺伝学に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:
米国国立がん研究所が提供している一般的ながん情報とその他の資源については、以下をご覧ください:
- 本PDQ要約について
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PDQについて
PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。
PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。
本要約の目的
このPDQがん情報要約では、腎がんの遺伝学に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
査読者および更新情報
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。
患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Cancer Genetics Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
臨床試験に関する情報
臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。
本要約の使用許可について
PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。
本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:
PDQ® Cancer Genetics Editorial Board.PDQ Hereditary Kidney Cancer Syndromes.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/kidney/patient/kidney-genetics-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.
本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。
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