ご利用について
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、カポジ肉腫の治療について包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Adult Treatment Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
CONTENTS
- カポジ肉腫に関する一般情報
-
疫学
カポジ肉腫(KS)は1872年にハンガリーの皮膚科医、Moritz Kaposiによって最初に報告された。それ以降、AIDSで同定される現在のHIV感染症の流行までは、KSはまれな腫瘍であった。ヨーロッパおよび北米でみられる症例のほとんどは、イタリア人または東ヨーロッパ系ユダヤ人を祖先にもつ高齢男性に発生していたが、カポジ肉腫は免疫抑制療法を受けている患者にも発生しうる。[ 1 ]HIV疾患に合併するKSの播種型および劇症型が、古典型KSおよび移植関連の新生物と区別するために、流行性KSとして別に扱われている。[ 2 ]
病理組織学
タイプは異なっていてもカポジ肉腫であれば病理組織はいずれも本質的に同一であるが、臨床症状および経過は劇的に異なる。[ 2 ]カポジ肉腫ヘルペスウイルスとしても知られるヒトヘルペスウイルス8は、実質的には古典型KS、移植関連型KS、およびAIDS関連型KSのいずれの患者からもKSの組織生検により同定できるが、浸潤の認められない組織には存在しない。[ 2 ]
古典型カポジ肉腫
まれな疾患であると考えられる古典型KSは男性に好発し、その男女比は約10~15:1である。北米人およびヨーロッパ人では、発症年齢は通常50~70歳である。古典型KS腫瘍は通常、1つ以上の症状のない紅斑、紫斑または褐色斑、プラークないし結節性皮膚病変を呈する。病巣は通常、特に足首および足底をはじめとする下肢の一方または両方に認められ、1つまたは複数の局在性の病変にとどまることが多い。
古典型カポジ肉腫は、最も一般的には10~15年またはそれ以上にわたり比較的良性かつ無痛性の経過をたどり、原発腫瘍は緩徐に拡大をみるほか、新たな病変が徐々に発生する。罹患した下肢に静脈うっ血およびリンパ浮腫を併発することが多い。長期にわたり罹患した症例では、全身性病変が消化管に沿って生じるか、リンパ節や他の臓器に生じることがある。内臓病変は、臨床的には消化管出血をみることもあるが、一般に無症候性であり、剖検時にはじめて発見されることが多い。33%もの古典型KS患者に二次原発がんが認められ、その多くが非ホジキンリンパ腫である。[ 3 ]
流行性カポジ肉腫(HIV関連カポジ肉腫)
高活性抗レトロウイルス療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)の導入により、薬剤耐性HIV株の出現が遅れるかまたは予防されることになり、その結果ウイルス量が大きく減少することによって生存率が増加し、日和見感染のリスクが減少した。[ 4 ]HAARTの採用は、複数の大規模なコホートにおけるKSの発生率がかなり減少傾向をたどることと関連している。[ 5 ][ 6 ][ 7 ]KSは、HAARTによりHIVが完全に抑制されている間も依然として発生することがある;米国における症例のほとんどは、CD4数が高くHAARTによる治療を受けている患者に発生する。[ 8 ]
発症病変は皮膚、口腔粘膜、リンパ節のほか、消化管、肺、肝および脾臓をはじめとする内臓に及ぶ。KSの皮膚粘膜病変を合併するHIV疾患患者のほとんどが自分は健康であると感じており、通常、最初に日和見感染の発症をみたHIV患者に比べて全身症状は認められない。流行性KSの病巣が認められる部位は、この腫瘍の他の型にみられる部位よりもはるかに多種多様な部位に及んでいる。患者のほとんどに皮膚病変が認められるが、ときにリンパ節または消化管のKS病変が皮膚病変より前に生じうると考えられる。この疾患はしばしば、少数の局在病変または広範囲の皮膚粘膜病変に始まり、リンパ節病変、消化管をはじめその他の器官の病変を伴う、おびただしい数の病変と全身性の皮膚疾患へと段階を追って進展する。胸膜および肺のKSは通常、流行性KSの経過の後半にみられる悪兆であり、特にKSが直接の死因となるような患者に認められる。
参考文献- Ruocco E, Ruocco V, Tornesello ML, et al.: Kaposi's sarcoma: etiology and pathogenesis, inducing factors, causal associations, and treatments: facts and controversies. Clin Dermatol 31 (4): 413-422, 2013 Jul-Aug.[PUBMED Abstract]
- Uldrick TS, Whitby D: Update on KSHV epidemiology, Kaposi Sarcoma pathogenesis, and treatment of Kaposi Sarcoma. Cancer Lett 305 (2): 150-62, 2011.[PUBMED Abstract]
- Safai B, Good RA: Kaposi's sarcoma: a review and recent developments. Clin Bull 10 (2): 62-9, 1980.[PUBMED Abstract]
- Lodi S, Guiguet M, Costagliola D, et al.: Kaposi sarcoma incidence and survival among HIV-infected homosexual men after HIV seroconversion. J Natl Cancer Inst 102 (11): 784-92, 2010.[PUBMED Abstract]
- Portsmouth S, Stebbing J, Gill J, et al.: A comparison of regimens based on non-nucleoside reverse transcriptase inhibitors or protease inhibitors in preventing Kaposi's sarcoma. AIDS 17 (11): F17-22, 2003.[PUBMED Abstract]
- Carrieri MP, Pradier C, Piselli P, et al.: Reduced incidence of Kaposi's sarcoma and of systemic non-hodgkin's lymphoma in HIV-infected individuals treated with highly active antiretroviral therapy. Int J Cancer 103 (1): 142-4, 2003.[PUBMED Abstract]
- Grabar S, Abraham B, Mahamat A, et al.: Differential impact of combination antiretroviral therapy in preventing Kaposi's sarcoma with and without visceral involvement. J Clin Oncol 24 (21): 3408-14, 2006.[PUBMED Abstract]
- Yanik EL, Achenbach CJ, Gopal S, et al.: Changes in Clinical Context for Kaposi's Sarcoma and Non-Hodgkin Lymphoma Among People With HIV Infection in the United States. J Clin Oncol 34 (27): 3276-83, 2016.[PUBMED Abstract]
- カポジ肉腫の病期情報
-
古典型カポジ肉腫(KS)患者の病期評価は個別に行うべきである。患者の大半が高齢者であること、腫瘍が局在しているという性質、内臓転移はまれであること、通常無痛性の経過をたどることから、評価の範囲を緩めることになる。ほとんどの患者では、皮膚およびリンパ節を慎重に検査すれば十分である。ただ、腫瘍が急速に増悪をみるほか、内臓転移の徴候または症状が認められるまれなKS例では、適切な評価が必要になる。流行性KSに利用できる世界的に統一された分類はない。臨床像とともに臨床検査所見とを総合した病期分類基準が提唱されている。流行性KS例では、KSそのものが原因で死亡することはほとんどなく、腫瘍負荷以外の因子が生存率に明らかに寄与している。
KSの病期分類に用いられる従来法およびKS治療の有用性を評価するのに用いる方法は、HIV治療が変化してきたために、標準的な腫瘍評価法に不備があることを踏まえながら、進展を遂げてきた。KSの臨床経過、治療法の選択、および治療の奏効性は、根底にある免疫不全および日和見感染の程度に大きく左右される。
AIDS臨床試験研究グループ(ACTG)腫瘍学委員会が流行性KSの評価に関する基準を発表している。[ 1 ]この病期分類法は、KSの拡がりの測定、免疫不全の重症度、および全身症状の存在の有無を一体化したものである。以下の表1に示すように、ACTG基準では、腫瘍が局在しているか播種しているか、CD4細胞数が多いか少ないか、全身疾患が認められるか認められないかで分類している。
この基準の発表に続いて1989年から1995年、ACTG主催のKSに関する試験に登録された294例を前向き分析したところ、腫瘍、免疫系、および全身疾患の数値はいずれも、独立して生存率を左右する因子であることが明らかにされた。[ 2 ]多変量解析によれば、単独では免疫系障害が最も重要な生存率予測因子であった。CD4細胞数が比較的高い患者では、腫瘍病期分類が予測に有用であった。CD4細胞数150/mm3という数値は、発表されている200/mm3というカットオフ値よりも有益な分類基準であろう。ウイルス量を分類基準に加えることの可否を検討する研究が進行中である。以前の研究は高活性抗レトロウイルス療法(HAART)を容易に用いることができる時代に施行されたものではない。HAARTがKS患者の生存率に与える影響に関しては引き続き評価する必要がある。
表1.AIDS臨床試験グループによる病期分類 予後良好(0) 予後不良(1) (以下のいずれか) (以下のいずれか) 腫瘍(T) 皮膚、リンパ節、軽度の口腔病変のすべてまたはいずれかに限局[注: 軽度の口腔病変とは、口蓋に限局した非結節性KSである。] 腫瘍が原因の浮腫または潰瘍 広範な口腔KS 消化管KS 他の非結節性内臓KS 免疫系(I) CD4細胞数 200/µL以上 CD4細胞数 200/mm3未満 全身疾患(S) 日和見感染または口瘡の既往歴なし[注: 日和見感染とは易感染症である。] 日和見感染および/または口瘡の既往歴あり 「B」症状なし[注: 「B」症状とは、説明のつかない発熱、寝汗、意図しない10%を超える体重減少、または2週間を超えて続く下痢である。] 「B」症状あり パフォーマンスステータス70(カルノフスキー)以上 パフォーマンスステータス 70未満 他のHIV関連疾患(例えば、神経疾患やリンパ腫) 参考文献- Krown SE, Metroka C, Wernz JC: Kaposi's sarcoma in the acquired immune deficiency syndrome: a proposal for uniform evaluation, response, and staging criteria. AIDS Clinical Trials Group Oncology Committee. J Clin Oncol 7 (9): 1201-7, 1989.[PUBMED Abstract]
- Krown SE, Testa MA, Huang J: AIDS-related Kaposi's sarcoma: prospective validation of the AIDS Clinical Trials Group staging classification. AIDS Clinical Trials Group Oncology Committee. J Clin Oncol 15 (9): 3085-92, 1997.[PUBMED Abstract]
- 古典型カポジ肉腫の治療
-
古典型カポジ肉腫(KS)は通常、皮膚に限局し緩徐な経過をたどる。この型の罹患者は、二次原発がんに罹患しやすいため、主治医は追跡治療の計画を立てる際にこの因子を考慮すべきである。
同等の標準治療法の選択肢:
孤立性病変:
- 放射線療法:孤立性病変または範囲の限られた病変では、辺縁に一定の幅をとって病変に中等量の放射線を照射すれば、治療部位のKS制御に大きな効果が見込まれる。通常、電子線をはじめとする表在性放射線が用いられる。病巣のある皮膚にのみ放射線療法を施行すれば、隣接する未治療組織に再発をみることが多いと確信し、むしろ広範囲にわたって放射線を照射する方が高い治癒率を得ることができると主張している研究者もいる。[ 1 ]
- 小さい表在性病変には外科切除が奏効しうるが、局所性に再発しやすいことが問題である。しかし、数年にわたって複数の小病変が切除され良好な成績を達成することもある。
広範な皮膚病巣:
- 放射線療法:KSを制御するには中等度の線量が有効である。放射線の種類(すなわち、光子 vs 電子)および照射野は、病巣の分布に応じて症例ごとに変更する必要がある。[
1
]
この方法でのEBRTにより、孤立病変が生じるたびに逐次照射する放射線療法よりも長期的にみて良好な結果が得られた。[ 2 ]
- 化学療法:古典型カポジ肉腫は米国ではきわめてまれな疾患であり、通常はまず放射線療法を施行するため、化学療法を施行した症例は少なく、薬剤ごとに比較を行う前向きランダム化試験は実施されていない。ビンブラスチン約0.1mg/kgを週1回単独投与した報告が数件ある。[
3
][
4
][
5
][
6
]ほぼ全例で良好または著効という成績が報告されている。ほとんどの場合、部分奏効を維持するためには数年に及ぶ長期的な治療を必要とした。ビンブラスチンの用量は白血球数が3,000以上を維持するように患者ごとに調整した。治療完了後の追跡調査に関しては報告がない。10年間にわたる治療を受けた55例の多施設試験において、ペグ化リポソーマルドキソルビシンの使用は71%の全奏効率を示した。[
7
][証拠レベル:3iiiDiv]ペグ化リポソーマルドキソルビシンおよびこのようなビンカアルカロイド系薬剤による肯定的な奏効率に加え、病変の50%以上の減少を示す奏効率が、エトポシド、タキサン系薬剤、ゲムシタビン、インターフェロンアルファを対象とした複数の小規模非対称研究で報告されている。[
8
][証拠レベル:3iiiDiv]
患者1名は、ビンクリスチン0.25~0.50mgを病変内局注して、治療病変が完全に消失するまで繰り返し治療を受けた。[ 9 ]無投与部位に病巣の再発を認めたため、数回にわたって治療を繰り返す必要があった。
古典型KS患者19人に対して皮膚病変への電気穿孔法がブレオマイシン静注と併用された。ほとんどの患者が1回の実施後に反応し、残りの患者は2回または3回の実施後に反応し、奏効期間中央値は16ヵ月であった。[ 10 ][証拠レベル:3iiiDiv]
リンパ節および消化管転移:
- 化学療法:播種性皮膚病変の化学療法を受け、リンパ節および消化管にも転移病巣が認められた患者が数人いた。ビンブラスチンはこの部位の病巣にも効果があった。試験は、治療法を決定するために必要である。こうした試験の1つであるMSKCC-04055(NCT00096538)が、終了している。
- 個々の病変が緊急に治療を要するのであれば、化学療法に局所放射線療法を併用するとよい。
最新の臨床試験
NCIが支援しているがん臨床試験で現在患者登録中の試験を検索するには、臨床試験アドバンスト・サーチを使用のこと(なお、このサイトは日本語検索に対応していない。)。このサーチでは、試験の場所、治療の種類、薬物名やその他の基準による絞り込みが可能である。臨床試験に関する一般情報も入手することができる。
参考文献- Tsao MN, Sinclair E, Assaad D, et al.: Radiation therapy for the treatment of skin Kaposi sarcoma. Ann Palliat Med 5 (4): 298-302, 2016.[PUBMED Abstract]
- Nisce LZ, Safai B, Poussin-Rosillo H: Once weekly total and subtotal skin electron beam therapy for Kaposi's sarcoma. Cancer 47 (4): 640-4, 1981.[PUBMED Abstract]
- Solan AJ, Greenwald ES, Silvay O: Long-term complete remissions of Kaposi's sarcoma with vinblastine therapy. Cancer 47 (4): 637-9, 1981.[PUBMED Abstract]
- Tucker SB, Winkelmann RK: Treatment of Kaposi sarcoma with vinblastine. Arch Dermatol 112 (7): 958-61, 1976.[PUBMED Abstract]
- Scott WP, Voight JA: Kaposi's sarcoma. Management with vincaleucoblastine. Cancer 19 (4): 557-64, 1966.[PUBMED Abstract]
- Klein E, Schwartz RA, Laor Y, et al.: Treatment of Kaposi's sarcoma with vinblastine. Cancer 45 (3): 427-31, 1980.[PUBMED Abstract]
- Di Lorenzo G, Kreuter A, Di Trolio R, et al.: Activity and safety of pegylated liposomal doxorubicin as first-line therapy in the treatment of non-visceral classic Kaposi's sarcoma: a multicenter study. J Invest Dermatol 128 (6): 1578-80, 2008.[PUBMED Abstract]
- Régnier-Rosencher E, Guillot B, Dupin N: Treatments for classic Kaposi sarcoma: a systematic review of the literature. J Am Acad Dermatol 68 (2): 313-31, 2013.[PUBMED Abstract]
- Odom RB, Goette DK: Treatment of cutaneous Kaposi's sarcoma with intralesional vincristine. Arch Dermatol 114 (11): 1693-4, 1978.[PUBMED Abstract]
- Di Monta G, Caracò C, Benedetto L, et al.: Electrochemotherapy as "new standard of care" treatment for cutaneous Kaposi's sarcoma. Eur J Surg Oncol 40 (1): 61-6, 2014.[PUBMED Abstract]
- 流行性カポジ肉腫の治療
-
治療の可能性:
- 特定の皮膚病変が消失ないしは退縮し、それにより、下肢に認められる多発性皮膚腫瘍を伴うことが多い慢性浮腫および潰瘍が原因で生じる不快感を緩和しうる。
- 皮膚粘膜病変および内臓病変が原因で生じる症状を管理しうる。
しかし、治療によって生存率が改善することを示すデータはない。[ 1 ]カポジ肉腫(KS)の至適治療戦略の基本要素には、抗腫瘍療法のほか、高活性抗レトロウイルス療法(HAART)、日和見感染の予防および併発感染の早期発見、早期治療がある。
AIDS臨床試験研究グループによりT0と定義される予後良好患者のほとんどは、HAART単独で腫瘍の退縮を示す。[ 2 ][ 3 ][ 4 ]T1と定義される予後不良患者は通常、HAARTと化学療法を併用する必要があり、皮膚病変の消失後は化学療法が中止される。[ 2 ][ 3 ][ 4 ]T1疾患を有する患者140人において、HAARTとリポソーマルドキソルビシンの併用により、85%の5年全生存(OS)率が得られた。[ 3 ][証拠レベル:3iiiDiv]
局所的治療法
KSの局所性小病変は、電気乾固および凍結療法による掻爬または外科切除によって治療しうる。KS腫瘍はまた、一般的に局所放射線療法によく反応し、20Gyもしくはわずかに高い線量でも優れた緩和作用が得られている。[ 5 ][ 6 ]放射線療法は一般に、皮膚および口腔の局在する病巣の治療に限られる。肺、消化管をはじめとする他の部位のKS病変を制御するために用いられることは少ない。局在性のKS病変もビンブラスチン病変内投与により効果的に治療されている。[ 7 ]1件のランダム化プロスペクティブ多施設試験では、アリトレチノイン0.1%ゲルにより局所コントロールが得られた。[ 8 ][証拠レベル:1iiDiv]
化学療法
流行性KSでは、宿主の免疫状態が既に大きく抑制されているので、全身化学療法の治療効果は限られる。流行性KSの全身化学療法試験では、ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、エトポシド、パクリタキセル、およびドセタキセルの単剤投与または併用投与が検討されている。[ 9 ][ 10 ][ 11 ][ 12 ][ 13 ][証拠レベル:3iiiDiv]T1疾患を有する患者140人において、HAARTとリポソーマルドキソルビシンの併用により、85%の5年OS率が得られた。[ 3 ][証拠レベル:3iiiDiv]
多施設ランダム化試験では、奏効率の改善が示されたほか(45~60% vs 20~25%)、ドキソルビシン、ブレオマイシンおよびビンクリスチンの併用投与またはブレオマイシンおよびビンクリスチンの併用投与と比較したペグ化リポソーマルドキソルビシンまたはリポソーマルダウノルビシンの、より良好な毒性プロファイルが明らかにされた。[ 14 ][ 15 ][ 16 ][証拠レベル:1iiDiv]HAART療法中、ペグ化リポソーマルドキソルビシンおよびパクリタキセルはいずれも単剤で活性を示し、奏効率は50%近い。[ 17 ][証拠レベル:1iiDiv]
生物学的療法および標的療法
インターフェロンアルファもまた広く研究されており、流行性KS患者には40%の客観的奏効率を示す。[ 18 ][ 19 ]これらの報告では、疾患の進展度のほか、日和見感染が以前にあったかまたは合併しているか、以前の化学療法、CD4リンパ球数が200/mm3未満であるか、酸不安定インターフェロンアルファが血中に存在するかどうか、β2ミクログロブリンが増大しているかといった予後因子に応じて奏効率に有意差が認められた。インターフェロンアルファと他の化学療法薬とを併用した治療試験も数件ある。併用試験では概ね、インターフェロンと化学療法の併用療法がインターフェロン単剤投与より有益であるという成績は明らかにされていない。
遺伝子組換え型インターフェロンアルファ-2aおよびインターフェロンアルファ-2bが、KS治療に承認された最初の薬剤である。1980年代、抗レトロウイルス療法の出現より前に実施された単剤試験に基づいて承認された。当初の試験では、比較的高用量で高い効力が実証された。今日では高用量の単剤投与が施行されることはまれであるが、これに代わってインターフェロン400万~1,800万単位が他の抗HIV剤と併用投与されている。好中球減少により用量が制限され、100万~1,000万単位を骨髄抑制作用の低い抗レトロウイルス剤と併用投与する試験が進行中である。インターフェロンの奏効は緩徐であり、効果が最大に達するのは6ヵ月以上経ってからである。おそらくインターフェロンは進行の速い症候性KSの治療に用いるべきではない。
c-kit/PDGF(血小板由来増殖因子)受容体阻害薬のイマチニブにより、治療歴(HAART + 化学療法)のある患者30人中10人に部分奏効が得られた。[ 20 ]
抗血管内皮増殖因子ヒト化モノクローナル抗体であるベバシズマブは、HAARTおよび化学療法開始後に改善がみられなかった16人の患者のうち、5人において奏効した。[ 21 ][証拠レベル:3iiiDiv]
インターロイキン-12は、第I相および第II相試験で評価可能な24人の患者に71%の奏効率(95%信頼区間、48%-89%)をもたらした。[ 22 ][証拠レベル:3iiiDiv]
最新の臨床試験
NCIが支援しているがん臨床試験で現在患者登録中の試験を検索するには、臨床試験アドバンスト・サーチを使用のこと(なお、このサイトは日本語検索に対応していない。)。このサーチでは、試験の場所、治療の種類、薬物名やその他の基準による絞り込みが可能である。臨床試験に関する一般情報も入手することができる。
参考文献- Safai B: Kaposi's sarcoma and acquired immunodeficiency syndrome. In: DeVita VT, Hellman S, Rosenberg S, eds.: AIDS: Etiology, Diagnosis, Treatment and Prevention. 4th ed. Philadelphia, Pa: Lippincott-Raven Publishers, 1997, pp 295-318.[PUBMED Abstract]
- Krown SE: Highly active antiretroviral therapy in AIDS-associated Kaposi's sarcoma: implications for the design of therapeutic trials in patients with advanced, symptomatic Kaposi's sarcoma. J Clin Oncol 22 (3): 399-402, 2004.[PUBMED Abstract]
- Bower M, Dalla Pria A, Coyle C, et al.: Prospective stage-stratified approach to AIDS-related Kaposi's sarcoma. J Clin Oncol 32 (5): 409-14, 2014.[PUBMED Abstract]
- Krell J, Stebbing J: Broader implications of a stage-guided stratified therapeutic approach for AIDS-related Kaposi's sarcoma. J Clin Oncol 32 (5): 373-5, 2014.[PUBMED Abstract]
- Singh NB, Lakier RH, Donde B: Hypofractionated radiation therapy in the treatment of epidemic Kaposi sarcoma--a prospective randomized trial. Radiother Oncol 88 (2): 211-6, 2008.[PUBMED Abstract]
- Tsao MN, Sinclair E, Assaad D, et al.: Radiation therapy for the treatment of skin Kaposi sarcoma. Ann Palliat Med 5 (4): 298-302, 2016.[PUBMED Abstract]
- Epstein JB, Lozada-Nur F, McLeod WA, et al.: Oral Kaposi's sarcoma in acquired immunodeficiency syndrome. Review of management and report of the efficacy of intralesional vinblastine. Cancer 64 (12): 2424-30, 1989.[PUBMED Abstract]
- Bodsworth NJ, Bloch M, Bower M, et al.: Phase III vehicle-controlled, multi-centered study of topical alitretinoin gel 0.1% in cutaneous AIDS-related Kaposi's sarcoma. Am J Clin Dermatol 2 (2): 77-87, 2001.[PUBMED Abstract]
- Evans SR, Krown SE, Testa MA, et al.: Phase II evaluation of low-dose oral etoposide for the treatment of relapsed or progressive AIDS-related Kaposi's sarcoma: an AIDS Clinical Trials Group clinical study. J Clin Oncol 20 (15): 3236-41, 2002.[PUBMED Abstract]
- Saville MW, Lietzau J, Pluda JM, et al.: Treatment of HIV-associated Kaposi's sarcoma with paclitaxel. Lancet 346 (8966): 26-8, 1995.[PUBMED Abstract]
- Lim ST, Tupule A, Espina BM, et al.: Weekly docetaxel is safe and effective in the treatment of advanced-stage acquired immunodeficiency syndrome-related Kaposi sarcoma. Cancer 103 (2): 417-21, 2005.[PUBMED Abstract]
- Gill PS, Tulpule A, Espina BM, et al.: Paclitaxel is safe and effective in the treatment of advanced AIDS-related Kaposi's sarcoma. J Clin Oncol 17 (6): 1876-83, 1999.[PUBMED Abstract]
- Di Lorenzo G, Konstantinopoulos PA, Pantanowitz L, et al.: Management of AIDS-related Kaposi's sarcoma. Lancet Oncol 8 (2): 167-76, 2007.[PUBMED Abstract]
- Stewart S, Jablonowski H, Goebel FD, et al.: Randomized comparative trial of pegylated liposomal doxorubicin versus bleomycin and vincristine in the treatment of AIDS-related Kaposi's sarcoma. International Pegylated Liposomal Doxorubicin Study Group. J Clin Oncol 16 (2): 683-91, 1998.[PUBMED Abstract]
- Northfelt DW, Dezube BJ, Thommes JA, et al.: Pegylated-liposomal doxorubicin versus doxorubicin, bleomycin, and vincristine in the treatment of AIDS-related Kaposi's sarcoma: results of a randomized phase III clinical trial. J Clin Oncol 16 (7): 2445-51, 1998.[PUBMED Abstract]
- Gill PS, Wernz J, Scadden DT, et al.: Randomized phase III trial of liposomal daunorubicin versus doxorubicin, bleomycin, and vincristine in AIDS-related Kaposi's sarcoma. J Clin Oncol 14 (8): 2353-64, 1996.[PUBMED Abstract]
- Cianfrocca M, Lee S, Von Roenn J, et al.: Randomized trial of paclitaxel versus pegylated liposomal doxorubicin for advanced human immunodeficiency virus-associated Kaposi sarcoma: evidence of symptom palliation from chemotherapy. Cancer 116 (16): 3969-77, 2010.[PUBMED Abstract]
- Real FX, Oettgen HF, Krown SE: Kaposi's sarcoma and the acquired immunodeficiency syndrome: treatment with high and low doses of recombinant leukocyte A interferon. J Clin Oncol 4 (4): 544-51, 1986.[PUBMED Abstract]
- Groopman JE, Gottlieb MS, Goodman J, et al.: Recombinant alpha-2 interferon therapy for Kaposi's sarcoma associated with the acquired immunodeficiency syndrome. Ann Intern Med 100 (5): 671-6, 1984.[PUBMED Abstract]
- Koon HB, Krown SE, Lee JY, et al.: Phase II trial of imatinib in AIDS-associated Kaposi's sarcoma: AIDS Malignancy Consortium Protocol 042. J Clin Oncol 32 (5): 402-8, 2014.[PUBMED Abstract]
- Uldrick TS, Wyvill KM, Kumar P, et al.: Phase II study of bevacizumab in patients with HIV-associated Kaposi's sarcoma receiving antiretroviral therapy. J Clin Oncol 30 (13): 1476-83, 2012.[PUBMED Abstract]
- Little RF, Pluda JM, Wyvill KM, et al.: Activity of subcutaneous interleukin-12 in AIDS-related Kaposi sarcoma. Blood 107 (12): 4650-7, 2006.[PUBMED Abstract]
- 本要約の変更点(07/27/2018)
-
PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
カポジ肉腫(KS)に関する一般情報
本セクションは広範囲にわたって改訂された。
カポジ肉腫の病期情報
本文で以下の記述が改訂された;以前の研究は高活性抗レトロウイルス療法を容易に用いることができる時代に施行されたものではない。
古典型カポジ肉腫の治療
参考文献1としてTsao et al.が追加された。
流行性カポジ肉腫の治療
参考文献6としてTsao et al.が追加された。
本要約はPDQ Adult Treatment Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
- 本PDQ要約について
-
本要約の目的
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、カポジ肉腫の治療について包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
査読者および更新情報
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Adult Treatment Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
証拠レベル
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Adult Treatment Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
本要約の使用許可
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Adult Treatment Editorial Board.PDQ Kaposi Sarcoma Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/soft-tissue-sarcoma/hp/kaposi-treatment-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389335]
本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。
免責条項
入手可能な証拠の強さに基づき、治療選択肢は「標準」または「臨床評価段階にある」のいずれかで記載される場合がある。これらの分類は、保険払い戻しの決定基準として使用されるべきものではない。保険の適用範囲に関する詳しい情報については、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手できる。
お問い合わせ
Cancer.govウェブサイトについての問い合わせまたはヘルプの利用に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載されている。質問はウェブサイトのEmail UsからもCancer.govに送信可能である。