患者さん向け がん治療に関連する吐き気と嘔吐(PDQ®)

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このPDQがん情報要約では、吐き気と嘔吐(N&V)の原因および治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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一般情報

吐き気と嘔吐はがん治療の重篤な副作用です。

吐き気嘔吐がん療法副作用で、化学療法を受けるほとんどの患者さんに影響があります。脳、消化管肝臓に対する放射線療法も吐き気と嘔吐の原因になります。

吐き気とは、の背部やに生じる不快感で、波打つように発生と消失を繰り返します。その後に嘔吐が起こることがあります。嘔吐とは、胃の内容物が口から排出されることをいいます。むかつきとは、嘔吐を伴わない胃と食道の動きのことで、空吐きとも呼ばれます。治療法は改良されてきたものの、吐き気と嘔吐は患者さんに苦痛を感じさせ、他の健康問題を引き起こすことがあるため、今もがん治療の深刻な副作用です。吐き気は、嘔吐より頻繁に起こることがあります。

吐き気は、無意識に働く身体機能(呼吸や消化など)を調節している自律神経系の一部によって制御されています。嘔吐は脳の嘔吐中枢などによって制御される反射現象です。嘔吐は匂い、味、不安、痛み、便通により引き起こされるほか、体内の変化、例えば炎症行不良、胃への刺激などの誘因によっても生じることがあります。

吐き気と嘔吐は、患者さんの治療を継続し生活の質をより高く保つために制御することが重要です。

がんの患者さんが治療を継続し、日常生活を営むうえで、吐き気と嘔吐を予防し制御することは非常に重要です。吐き気と嘔吐を制御しないと、以下の事象が生じる場合があります:

様々な種類の吐き気と嘔吐が、化学療法、放射線療法、または他の条件によって生じます。

吐き気と嘔吐は、治療の前、最中、後のいずれにおいても生じることがあります。

以下のような吐き気と嘔吐があります:

原因

多くの要因が化学療法に伴う吐き気や嘔吐のリスクを高めます。

患者さんが以下のような状態にある場合に、化学療法による吐き気嘔吐が起こりやすくなります:

長期にわたって大量のアルコールを摂取した患者さんは、化学療法を受けた後の吐き気と嘔吐のリスクが低下します。

放射線療法も吐き気と嘔吐を引き起こす場合があります。

治療に関する次の要因は、吐き気と嘔吐のリスクに影響を及ぼすことがあります:

患者さんに以下の要因があると、放射線療法に伴う吐き気や嘔吐が起こりやすくなります:

長期にわたって大量のアルコールを摂取した患者さんは、放射線療法を受けた後の吐き気と嘔吐のリスクが低下します。

その他の病態が、進行がんの患者さんの吐き気と嘔吐のリスクを高めることもあります。

吐き気や嘔吐は他の病態によっても起こります。進行がんの患者さんでは、以下の病態によって慢性の吐き気と嘔吐が生じる場合があります:

予測性の吐き気と嘔吐

予測性の吐き気と嘔吐は数回の化学療法後に生じることがあります。

一部の患者さんでは、一連の治療を何回か受けた後、次回の治療期間が始まる前に吐き気嘔吐が起こることがあります。これは予測性の吐き気と嘔吐と呼ばれます。その誘因となるのは、治療室のにおいなどです。例えば、化学療法の開始と同時にアルコール綿の匂いをかいだ患者さんが、後日アルコール綿の匂いだけで吐き気や嘔吐を経験することがあります。化学療法の回数を重ねるほど、予測性の吐き気や嘔吐を起こしやすくなります。

以下の項目に3点以上該当する場合も、予測性の吐き気や嘔吐が起こりやすくなります:

他の要因によっても、予測性の吐き気や嘔吐が起こりやすくなります:

予測性の吐き気と嘔吐の発見が早ければ早いほど、治療効果が高くなる可能性があります。

予測性の吐き気と嘔吐の症状が早期に診断されると、治療は成功しやすくなります。

専門的な訓練を受けた心理士や他のメンタルヘルス専門家は、様々な機会に予測性の吐き気と嘔吐がみられる患者さんを支援することができます。以下の治療法が用いられることがあります:

予測性の吐き気と嘔吐に制吐を投与しても、効果は得られないようです。

急性または遅発性の吐き気と嘔吐

急性または遅発性の吐き気と嘔吐は、化学療法を受けている患者さんによくみられます。

化学療法は、がん治療に関係する吐き気嘔吐の原因のなかでも最も一般的なものです。

吐き気と嘔吐の頻度と重症度は、次の要因に左右されます:

以下のような患者さんでは、化学療法に伴う急性または遅発性の吐き気や嘔吐が起こりやすくなります:

化学療法で急性の吐き気や嘔吐を起こしている患者さんには、遅発性の吐き気や嘔吐も起こりやすいと考えられます。

化学療法または放射線療法による急性および遅発性の吐き気と嘔吐は、通常、薬で治療します。

毎回の治療前に、吐き気と嘔吐を予防する薬が投与される場合があります。また、化学療法後に遅発性の嘔吐を防止する薬が投与される場合もあります。数日間連続で化学療法を受ける患者さんは、急性および遅発性の吐き気と嘔吐に対する治療を受ける必要があるでしょう。一部の薬は体内での作用時間が短く、頻繁な投与が必要です。一方、長時間持続するため、それほど頻繁に投与しなくてもよい薬もあります。

次の表は、化学療法によって生じる吐き気と嘔吐の予防によく使用される薬とその種類を示しています。

化学療法が原因で生じる吐き気と嘔吐の予防に用いられる薬剤。
薬剤名 薬剤の種類
クロルプロマジン、プロクロルペラジン、プロメタジン ドパミン受容体拮抗薬:フェノチアジン
ハロペリドールドロペリドール ドパミン受容体拮抗薬:ブチロフェノン
メトクロプラミド、トリメトベンズアミド ドパミン受容体拮抗薬:置換ベンズアミド
ドラセトロングラニセトロンオンダンセトロンパロノセトロン セロトニン受容体拮抗薬
アプレピタントホスアプレピタントネツピタントロラピタント サブスタンスP/NK-1受容体拮抗薬
デキサメタゾンメチルプレドニゾロン 副腎皮質ステロイド
アルプラゾラムロラゼパム ベンゾジアゼピン
オランザピン 抗精神病薬/モノアミン拮抗薬
ドロナビノールナビロンカンナビスショウガ その他

次の表は、放射線療法によって生じる吐き気と嘔吐の予防によく使用される薬とその種類を示しています:

放射線療法が原因で生じる吐き気と嘔吐の治療に用いられる薬
薬剤名 薬剤の種類
グラニセトロンオンダンセトロンパロノセトロンドラセトロン セロトニン受容体拮抗薬
デキサメタゾン 副腎皮質ステロイド
メトクロプラミドプロクロルペラジン ドパミン受容体拮抗薬

放射線療法の最初の5日間に制吐を投与する方法と、治療コース全体で投与する方法のどちらが最適かは明らかになっていません。担当医と相談して、患者さんに合った治療計画を立てる必要があります。

薬物を使用しない吐き気と嘔吐の治療

吐き気と嘔吐の制御を目的として、薬物を使用しない治療が行われることがあります。

薬物を使用しない治療法は、吐き気嘔吐を軽減し、制吐薬を効きやすくする効果があります。以下の治療法があります:

小児の治療に関連する吐き気と嘔吐

化学療法を受けた小児の吐き気と嘔吐は深刻な問題です。

成人と同じく、化学療法を受けている小児の吐き気嘔吐よりも大きな問題です。小児は、予測性、急性、遅発性の吐き気と嘔吐を起こすことがあります。

小児に予測性の吐き気と嘔吐が生じることがあります。

化学療法後に吐き気や嘔吐を起こした小児は、次回の治療前に治療室の様子を見たり、においや音を感じたりしたときに、同様の吐き気や嘔吐などの症状を経験することがあります。これは予測性の吐き気と嘔吐と呼ばれます。

化学療法の最中と治療後に小児の吐き気と嘔吐が十分管理されていると、次回の療法開始前に小児が感じる不安は小さくなり、予測性の症状が現れにくくなります。

小児にみられる予測性の吐き気と嘔吐に対処している医療専門家は、次の手段が有効となりうるとしています:

小児では通常、急性の吐き気と嘔吐は薬剤投与などの方法で治療します。

毎回の治療前に、吐き気と嘔吐を予防する薬が投与される場合があります。また、化学療法後に遅発性の嘔吐を防止する薬が投与される場合もあります。数日間連続で化学療法を受ける患者さんは、急性および遅発性の吐き気と嘔吐に対する治療を受ける必要があるでしょう。一部の薬は体内での作用時間が短く、頻繁な投与が必要です。一方、長時間持続するため、それほど頻繁に投与しなくてもよい薬もあります。

次の表は、化学療法によって生じる吐き気と嘔吐の予防によく使用される薬とその種類を示しています。急性と遅発性の吐き気と嘔吐を治療するために、数種類の薬を同時に投与することもあります。

化学療法が原因で生じる吐き気と嘔吐の予防に用いられる薬剤。
薬剤名 薬剤の種類
クロルプロマジン、プロクロルペラジン、プロメタジン ドパミン受容体拮抗薬:フェノチアジン
メトクロプラミド ドパミン受容体拮抗薬:置換ベンズアミド
グラニセトロンオンダンセトロンパロノセトロン セロトニン受容体拮抗薬
アプレピタントホスアプレピタント サブスタンスP/NK-1受容体拮抗薬
デキサメタゾンメチルプレドニゾロン 副腎皮質ステロイド
ロラゼパム、 ベンゾジアゼピン
オランザピン 非定型抗精神病薬
ドロナビノールナビロン その他の薬剤

薬物を使用しない治療法は、小児において吐き気と嘔吐を軽減し、制吐薬を効きやすくする効果があります。以下の治療法があります:

食事支援には以下のような方法があります:

小児では、遅発性の吐き気を見つけにくい場合があります。

成人と異なり、小児の遅発性の吐き気と嘔吐は、親や介護者がなかなか発見できない場合があります。小児の食べるパターンに起こる変化が、この問題を示唆する唯一の徴候です。加えて、小児に対するほとんどの化学療法で、数日にわたるスケジュールが組まれます。これにより、遅発性の吐き気が起こるタイミングとそのリスクが不明瞭になります。

小児における遅発性の吐き気と嘔吐の予防は、まだあまり研究されていません。小児に対する処置は一般に成人と同じであり、吐き気を予防する薬剤を年齢に応じて調整された用量で投与されます。

吐き気と嘔吐についてさらに学ぶために

米国国立がん研究所が提供しているがん治療に関連する吐き気嘔吐に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、吐き気と嘔吐(N&V)の原因および治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Nausea and Vomiting Related to Cancer Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute. Updated <MM/DD/YYYY>. Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/nausea/nausea-pdq. Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389289]

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