ご利用について
このPDQがん情報要約では、心肺症候群(呼吸困難、悪性胸水、悪性心のう液貯留、上大静脈症候群など)の病理生理と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- 心肺症候群の概要
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心肺症候群は、がんまたはその他の健康上の問題により引き起こされうる心臓や肺の病態です。この要約では、がんが原因で生じる可能性のある心肺症候群として、以下の5つについて解説しています:
本要約は、がんを患っている成人と小児の心肺症候群について書かれたものです。小児に関する情報が記載されているセクションでは、タイトルにその旨が記載されています。
- 進行期のがんにみられる呼吸困難
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呼吸困難は様々な原因で引き起こされます。
呼吸困難は、呼吸ができないとか十分に息を吸い込めないと感じる状態です。息切れまたは空気飢餓感などとも呼ばれます。がんの患者さんの呼吸困難では、以下のような原因が考えられます:
身体診察と病歴聴取は呼吸困難の原因を明らかにするうえで重要です。
診断検査には以下のものがあります:
- 身体診察と病歴聴取:速い呼吸または首や胸の筋肉を使った呼吸など、呼吸困難の徴候や症状に注意しながら、総体的に身体を調べる診察法。患者さんの健康習慣、過去の病歴、治療歴なども調べます。さらに医師は、呼吸困難が発生した日時、そのときどう感じたか、呼吸困難と同時に生じた別の徴候や症状、呼吸困難を改善または悪化させた事柄についても尋ねるでしょう。
- 機能的評価:呼吸困難が、食事や入浴、階段の昇降といった日常生活での活動にどのような影響を及ぼすかを調べる検査。この検査では、平らな固い地面の上で6分間、どのくらいの速さで歩けるかを測定する6分間歩行テスト(6MWT)などを行います。
- 胸部X線検査:胸部の臓器と骨のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
- CTスキャン(CATスキャン):体内の領域を様々な角度から撮影して、精細な連続画像を作成する検査法。この画像はX線装置に接続されたコンピュータによって作成されます。臓器や組織をより鮮明に映し出すために、造影剤を静脈内に注射したり、患者さんに飲んでもらったりする場合もあります。この検査法はコンピュータ断層撮影法(CT)やコンピュータ体軸断層撮影法(CAT)とも呼ばれます。
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全血球算定:血液を採取して以下の項目について調べる検査法:
- 酸素飽和度検査:赤血球によって運ばれている酸素の量を測定する検査法。酸素量が正常値より低いと、肺疾患やその他の健康上の問題がある可能性が考えられます。1つの測定方法は、手の指に特殊な装置を取り付ける方法です。この装置によって、指の細い血管を流れる血液中の酸素量が測定されます。また、動脈(通常は手首の動脈)から血液を採取してその中の酸素量を測定する方法もあります。
- 最大吸気圧(MIP)検査:最大吸気圧(MIP)とは、深く息を吸い込む際に肺内にかかる圧力の最高値のこと。マノメータと呼ばれる装置を通して呼吸をすると、圧力が測定されます。測定情報はコンピュータに送信されます。圧力値は呼吸筋の強さを示します。
がんの患者さんに生じる呼吸困難には様々な治療法があります。
治療法には以下のようなものがあります:
- 放射線療法:放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。
- 化学療法:薬を用いてがん細胞を殺傷したり細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脳脊髄液内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬剤を直接注入する化学療法では、薬はその領域にあるがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の方法は、治療対象のがんの種類と病期に応じて決定されます。
- 大気道にできた腫瘍に対するレーザー治療:レーザー光線(強力で照射幅の小さな光線)をメスのように使って腫瘍を除去する治療法。
- 大気道にできた腫瘍に対する焼灼術:加熱装置や電流、腐食剤などを用いて腫瘍を破壊する治療法。
- 肺周辺に溜まった液体(悪性胸水)や心臓付近の液体(悪性心のう液貯留)、もしくは腹腔内の液体(腹水)を排出させる手技。(詳しい情報については、悪性胸水と悪性心のう液貯留の徴候と症状の管理に関するセクションを参照のこと。)
- ステント留置:気道にステント(細い管)を留置して、開口状態を維持する手術。これは、腫瘍が外側から大気道を圧迫して塞いでいる場合に実施します。
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医薬品:
- 貧血に対する輸血。
呼吸困難の治療法はその原因により異なります。
呼吸困難の治療法には、原因に応じて以下のものがあります:
表1 呼吸困難の原因: 考えられる治療法: 胸部または肺内の大気道または小気道を腫瘍が塞いでいる • 放射線療法。 • 化学療法(この治療法にすばやく反応する腫瘍の場合)。 • レーザー手術による腫瘍の切除。 • 腫瘍の焼灼術。 • 気道の開通を維持するためのステント留置。 胸水 • 針または胸腔ドレーンによる肺周囲の余分な液体の除去。 心のう液 • 針を使用した心臓周囲の余分な液体の除去。 • 心膜内化学療法。 • 手術。 腹水 • 針を使用した腹腔内の余分な液体の除去。 がん性リンパ管症 • ステロイド療法。 • 化学療法(この治療法にすばやく反応する腫瘍の場合)。 上大静脈症候群 • 化学療法(この治療法にすばやく反応する腫瘍の場合)。 • 放射線療法。 • 上大静脈へのステント留置術による開口状態の維持。 • オピオイドまたはステロイド、もしくはそれらの併用による治療。 胸部感染 • 抗生物質。 • 呼吸治療。 肺塞栓症 • 抗凝固薬。 気管支痙攣または慢性閉塞性肺疾患 • 気管支拡張薬。 • ステロイド吸入。 放射線療法後の閉塞性細気管支炎 • ステロイド療法。 心不全 • 利尿薬やその他の心臓に作用する薬剤。 貧血 • 輸血。 チェックポイント阻害薬による免疫療法関連の肺臓炎 • 薬物療法の中止。 • 副腎皮質ステロイド。 • 綿密な経過観察。 呼吸困難の徴候と症状を制御するための治療もあります。
呼吸困難の徴候と症状を制御するには以下のような治療法があります:
- 慢性の咳
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慢性の咳は大きな身体的苦痛の原因になることがあります。
慢性の咳は、痛み、睡眠障害、呼吸困難、疲労を引き起こす場合があります。慢性の咳の原因は、呼吸困難の原因とほとんど同じです。呼吸困難のセクションに原因の一覧が記載されています。
慢性の咳の原因を治療できる場合もあります。
治療法には以下のようなものがあります:
- 悪性胸水
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胸水は、肺の周囲に溜まった余分な液体です。
胸膜腔は、各肺の外側と胸腔の内壁をともに覆っている胸膜(組織の薄い層)内の空間です。胸膜の組織は通常、胸腔内での呼吸による肺の動きを円滑にするために、少量の液体を分泌しています。胸水は、胸膜腔内の余分な液体です。この液体が肺を圧迫すると、呼吸がしにくくなります。
胸水は、がんやがんの治療によって引き起こされることもあれば、別の病態が原因で発生することもあります。
胸水には、悪性の場合(がんが原因の場合)と非悪性の場合(がん以外の病態が原因の場合)があります。悪性胸水は、特定のがんの患者さんに共通した問題です。悪性胸水の原因としては、肺がん、乳がん、リンパ腫、白血病がその大部分を占めています。
また胸水は、放射線療法、化学療法、肺の虚脱、リンパ節に転移したがんによって引き起こされることもあります。がんの患者さんでは、うっ血性心不全や肺炎、肺の血栓、栄養失調など、胸水につながる別の病態が並存している場合があります。
胸水の徴候または症状には、呼吸困難(息切れ)や咳などがあります。
胸水が原因となり、以下のような徴候や症状がみられることがあります。これらの問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:
- 呼吸困難(息切れ)。
- 咳。
- 胸部の不快感または痛み。
胸水の原因を特定することは、治療計画の作成に役立ちます。
悪性胸水と非悪性胸水ではその治療法が異なるため、正確な診断が重要です。胸水の原因を特定するために以下のような診断検査が行われます:
- 胸部X線検査:胸部の臓器と骨のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
- CTスキャン:体内の領域を様々な角度から撮影して、精細な連続画像を作成する検査法。この画像はX線装置に接続されたコンピュータによって作成されます。臓器や組織をより鮮明に映し出すために、造影剤を静脈内に注射したり、患者さんに飲んでもらったりする場合もあります。この検査法はコンピュータ断層撮影法(CT)やコンピュータ体軸断層撮影法(CAT)とも呼ばれます。
- 超音波検査:高エネルギーの音波(超音波)を内部の組織や臓器に反射させ、それによって生じたエコーを利用する検査法。このエコーを基にソノグラムと呼ばれる体内組織の映像が描出されます。
- 胸腔穿刺:針を使用して胸壁の表面を覆う組織と肺の間の空間から液体を排出させる手技。採取された液体を病理医が顕微鏡で観察して、がん細胞の有無を調べます。この手技は肺にかかる圧力を減らすためにも実施されます。
- 生検:細胞や組織を採取する手技のことで、採取されたサンプルは病理医が顕微鏡で観察し、がんの徴候がないか調べます。胸腔穿刺を実施できない場合、胸腔鏡検査の際に生検が実施されることがあります。胸腔鏡検査は、胸部内の臓器に異常な領域がないかを調べる方法です。まず隣り合う2本の肋骨の間を切開し、そこから胸腔鏡(ライトと観察用のレンズの付いた細い管)を胸腔内へと挿入します。胸腔鏡の末端に付いている切除器具を使用して、組織のサンプルを採取します。
- フローサイトメトリー:試料中の細胞の数、試料中の生きている細胞の割合、細胞の特徴(大きさ、形状、細胞表面の腫瘍マーカーや腫瘍以外のマーカーの有無など)を計測する臨床検査。患者さんの血液や骨髄、または他の組織のサンプルから得られた細胞を蛍光色素で染色し、液体に入れて流し、1つずつ細胞に光線が当たるようにライトの前を通過させます。この検査の結果は、蛍光色素で染色された細胞が光線にどう反応するかに基づきます。
治療計画を立てるうえで、がんの種類、過去に受けたがん治療、患者さんの意向も重要です。
治療によって胸水の徴候と症状を管理し、生活の質を改善することができます。
手術で切除できない、または治療中に増殖または拡がり続ける進行がんでは、しばしば悪性胸水が発生します。死期を間近に控えた患者さんにも多くみられます。そうした場合の治療は、徴候や症状を軽減して生活の質を改善することを目標とした、緩和療法になるのが通常です。
悪性胸水の徴候と症状には、以下の治療法があります:
- 胸腔穿刺。胸腔穿刺は、針を使用して、肺と胸壁の間の胸膜腔から貯留した体液を排出させる手技です。液体を排出することで、短期間、重い症状を軽減できる場合があります。多くの場合、余分な液体を排出してから数日後には、元の状態に戻り始めます。胸腔穿刺のリスクには、出血や感染、肺の虚脱、肺内部での液体の貯留、血圧の急降下などがあります。
- 胸腔カテーテル留置(IPC)。胸腔カテーテル留置(IPC)は、小さな管を体内に挿入し、肺周囲に液体が貯留しないようにする処置です。管の片方の端を胸の内部に留置し、液体を排出するために反対側の端を体外に出しておきます。この種のカテーテルを用いると、長期のケアで毎回新たに排出の処置を施す必要がなくなります。IPCのリスクには、感染やカテーテルの詰まりなどがあります。
- 胸膜癒着術。これは胸水の再発を防ぐために胸膜にある空間を閉じてしまう治療法です。まず胸腔チューブを使用して胸腔穿刺を行い、胸腔内の液体を排出します。その後、胸腔に挿入した管から、胸膜の空間を閉じる働きのある薬物を胸腔内に注入します。ブレオマイシンやタルクなどの薬物が使用されます。
- 手術。胸膜腔内の液体を腹腔内へと移動させ、体外への排出を容易にするために、シャントと呼ばれる管を体内に留置する手術が行われることもあります。胸膜切除術という別の種類の手術が実施される場合もあります。この手術では、胸腔の表面を覆う胸膜の一部を切除します。
- 悪性心のう液貯留
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心のう液は、心臓の周囲に溜まった余分な液体です。
心のう液(心のう液貯留)は、心臓を包む袋の内部に貯留した余分な液体です。この過剰な液体によって心臓が圧迫され、血液を正常に送り出す心臓の動きが妨げられます。 液体が貯留すると、心タンポナーデと呼ばれる病態が生じることがあります。心タンポナーデになると、心臓は体の各部に十分な血液を送り出すことができません。この状態は生命に関わるので、直ちに治療を開始しなければなりません。
心のう液貯留は、がんや別の病態が原因で発生することがあります。
心のう液貯留には、悪性の場合(がんが原因の場合)と非悪性の場合(がん以外が原因の場合)があります。悪性心のう液貯留は、肺がん、乳がん、黒色腫、リンパ腫、白血病の患者さんによくみられます。非悪性の心のう液貯留の原因には、心膜炎(心臓を取り囲む組織の肥厚)、心臓発作、甲状腺機能低下症、全身性エリテマトーデスなどがあります。また、放射線療法や化学療法が原因となって心膜炎を発症し、心のう液の発生につながることもあります。
心のう液貯留の徴候または症状には、呼吸困難(息切れ)や咳などがあります。
初期には、心のう液は何の徴候も症状も起こさない場合があります。心のう液や心タンポナーデが原因となって以下の徴候や症状などが生じることがあります。これらの問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:
進行がんの患者さんには心のう液貯留が発生することがよくあります。
心のう液貯留が進行がんの患者さんや死期を間近に控えた患者さんに生じることは珍しくありません。こうした時期には、病態の診断よりも、症状を軽減する方が重要な場合があります。しかし、場合によっては、以下の検査法や手技によって心のう液の診断が行われます:
- 胸部X線検査:胸部の臓器と骨のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
- 心臓超音波検査:高エネルギーの音波(超音波)を胸部の内部組織や臓器に反射させ、それによって生じたエコーを利用する検査法。このエコーから得られる情報をもとに、心臓の位置や心臓壁の動き、弁などの心臓の内部構造の様子を示す画像が描出されます。
- 心電図(EKGまたはECG):心臓内を流れる電流の変化を線グラフで記録して心拍数と心拍リズムを評価する検査法。まず患者さんの胸部、腕、脚に小さな電極をいくつか貼り付けます。この電極は、導線によってEKG装置に接続されています。そうして心臓の電気的な活動を紙に記録します。電気的活動が正常よりも速い場合や遅い場合は、心臓に生じている問題の徴候の可能性があります。
- 心のう穿刺:胸壁から心のう内に針を挿入し、中に溜まった液体を排出させる手技。医師は、心臓の動きと胸部に挿入した針の動きを確認するために、心臓超音波検査を実施する場合もあります。採取された液体を病理医が顕微鏡で観察して、がん細胞の有無や感染の徴候を調べます。この手技は心のう液の治療にも使用されます。液体を排出することで、心臓への圧迫が軽減されます。
- フローサイトメトリー:試料中の細胞の数、試料中の生きている細胞の割合、細胞の特徴(大きさ、形状、細胞表面の腫瘍マーカーや腫瘍以外のマーカーの有無など)を計測する臨床検査。患者さんの血液や骨髄、または他の組織のサンプルから得られた細胞を蛍光色素で染色し、液体に入れて流し、1つずつ細胞に光線が当たるようにライトの前を通過させます。この検査の結果は、蛍光色素で染色された細胞が光線にどう反応するかに基づきます。
治療によって、心のう液の症状を管理し、生活の質を改善することができます。
そうした場合の治療は、症状を軽減して生活の質を改善することを目標とした、緩和療法になるのが通常です。悪性心のう液貯留が重度である場合は、通常は排液によって管理されます。
治療法の選択肢は以下の通りです:
- 心のう穿刺。胸壁から針を刺入し、心臓を取り囲む袋の内部に溜まった液体を排出させる手技。医師は、心臓の動きと胸部に挿入した針の動きを確認するために、心臓超音波検査を実施する場合もあります。液体を排出することで、心臓への圧迫を軽減することができます。患者さんによっては、心のう穿刺の施行後に、心臓を包む袋の内部に再び液体が溜まることがあります。カテーテル(液体を静脈に注入するときや静脈から血液を採取するときに使用する柔軟性に富んだ管)を挿入して適所に配置し、液体がほとんどまたは一切排出されなくなるまで数日間にわたり留置します。この治療法は、進行がんの患者さんに対して、より負担の大きい手術の代わりに実施されます。
- 心外膜癒着術。心臓を包んでいる袋に液体が溜まらないよう、心外膜内の空間をなくす治療法。最初に心外膜穿刺を行い、心外膜内の液体を排出させます。次に、カテーテル(静脈内に液体を注入したり、静脈から血液を採取するための柔軟性に富んだ管)から心外膜内の空間に、その空間を閉じる作用のある薬物または化学物質を注入します。心外膜内の空間を完全に閉じるためには、3種類以上の薬物や薬品が必要となる場合もあります。
- 心膜切開術。排液管を挿入する手技。胸部と心外膜を切開し、排液管を適所に挿入します。これにより心外膜内から排液できる量が増えます。
- 心外膜切除術。心外膜の一部を切除する手術。心タンポナーデが生じた場合に、すばやく液体を排出するための方法です。この手術は心外膜開窓術とも呼ばれます。
- バルーン心外膜切開術。先端にバルーンの付いたカテーテル(液体を静脈に注入したり、静脈から血液を採取したりするための柔軟性に富んだ管)を、胸部から心外膜に挿入します。次にバルーンをふくらませて、心外膜の切開口を拡げます。それからバルーンをしぼませて撤去します。拡げられた切開口から胸膜腔内に液体を排出できるようになります。この方法は、心のう穿刺の実施後に心のう液が再発した場合や、より負担の大きい手術の代わりの方法として用いられます。
- 胸腔鏡下手術。ビデオカメラで撮影した胸部領域の拡大映像をテレビに映し、その映像を確認しながら進める手術。切開が小さくて済むため、他の方式の手術より望ましい場合があります。
- 上大静脈症候群
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上大静脈症候群(SVCS)とは、上大静脈が部分的に閉塞する(塞がる)ことが原因で生じる一群の徴候と症状です。
上大静脈は心臓に通じる大静脈です。心臓は4つの部分に分けることができます。右心房と左心房は心臓上部を構成し、右心室と左心室は心臓下部を構成します。心臓の右心房には、次の2つの大静脈から血液が流れこみます。
- 上大静脈:上半身の血液を心臓に戻す。
- 下大静脈:下半身の血液を心臓に戻す。
様々な病態によって、上大静脈の血液の流れは遅くなります。こうした病態には、胸部の腫瘍、付近のリンパ節の腫れ(がんによるもの)、上大静脈内の血栓などがあります。この静脈が完全に塞がれてしまう場合もあります。同じ領域内の別の小さい静脈が太くなり、閉塞した上大静脈の代役を果たすこともありますが、これには一定の時間がかかります。上大静脈症候群(SVCS)とは、この静脈が部分的に閉塞した場合に発生する、一群の徴候と症状のことです。
通常SVCSはがんによって発生します。
通常SVCSはがんによって発生します。成人では、以下の種類のがんでSVCSが多くみられます:
比較的少ないSVCSの原因には以下のものがあります:
上大静脈症候群(SVCS)でよくみられる徴候や症状には、呼吸障害と咳があります。
上大静脈の閉塞が急速に起こる場合には、SVCSの徴候や症状はより重くなります。これはその領域の他の静脈が拡がる時間が足りず、上大静脈を通過できない血流の行き場がなくなるためです。
最もよくみられる徴候には、以下のものがあります:
- 呼吸障害。
- 咳。
- 顔面や頸部、上半身、腕などの腫れ。
比較的に頻度の低い徴候や症状には、以下のものがあります:
- 嗄声(させい:しわがれ声)。
- 嚥下障害や言語障害。
- 喀血(かっけつ:痰の中に血が混ざること)。
- 胸部の静脈や頸部の静脈の腫れ。
- 胸痛。
- 速い呼吸。
閉塞を検出し診断するために検査が実施されます。
上大静脈症候群の診断と閉塞位置の特定には以下のような検査法が用いられます:
- 胸部X線検査:胸部の臓器と骨のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。放射線科医は腫瘤、胸水、肺の虚脱、心臓の肥大の有無を調べます。
- CTスキャン(CATスキャン):胸部の領域を様々な角度から撮影して、精細な連続画像を作成する検査法。この画像はX線装置に接続されたコンピュータによって作成されます。臓器や組織をより鮮明に映し出すために、造影剤を静脈内に注射したり、患者さんに飲んでもらったりする場合もあります。この検査法はコンピュータ断層撮影法(CT)やコンピュータ体軸断層撮影法(CAT)とも呼ばれます。
- 静脈造影:X線で静脈を撮影する検査法。静脈の外形をX線で鮮明に写し出すために造影剤を静脈内に注射します。
- MRI(磁気共鳴画像法):磁気、電波、コンピュータを用いて、体内領域の精細な連続画像を作成する検査法。この検査法は核磁気共鳴画像法(NMRI)とも呼ばれます。
- 超音波検査:高エネルギーの音波(超音波)を内部の組織や臓器に反射させ、それによって生じたエコーを利用する検査法。このエコーを基にソノグラムと呼ばれる体内組織の映像が描出されます。この像は印刷して後で見ることができます。
治療を開始する前に上大静脈症候群の原因を特定することが重要です。がんの種類が、必要な治療の種類に影響する場合があります。成人の場合、気道の閉塞や脳の腫れが認められないかぎりは、診断がつくまで治療の開始を待ったとしても問題は生じないのが通常です。医師が問題の原因として肺がんを疑っている場合は、痰の採取と生検が行われます。
がんが原因となって生じた上大静脈症候群の治療は、その原因、徴候や症状、予後により異なります。
がんが原因となって生じた上大静脈症候群の治療は、以下の要因により異なります:
上大静脈症候群の治療法には、注意深い経過観察、化学療法、放射線療法、血栓溶解、ステント留置、手術などがあります。
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注意深い経過観察。注意深い経過観察とは、徴候や症状の出現または変化がみられるまで、治療を一切行わずに患者さんの状態を注意深く監視していくことです。問題が生じている領域内の細い静脈の血流が良好に保たれていて症状が軽い患者さんには、特に治療を行う必要はありません。
徴候や症状を軽減して患者さんの生活を快適に保つために、以下のようなケアを行うことがあります:
- 化学療法。化学療法は、小細胞肺がんやリンパ腫などの抗がん剤に反応する腫瘍に対して一般的に用いられる治療法です。化学療法では、がん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がん細胞の増殖を阻止します。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脳脊髄液内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬剤を直接注入する化学療法では、薬はその領域にあるがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の方法は、治療対象のがんの種類と病期に応じて決定されます。
- 放射線療法。上大静脈の閉塞の原因となっている腫瘍に対して化学療法の効果がみられない場合には、放射線療法を実施することがあります。放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。放射線療法の方法は、治療対象のがんの種類と病期に応じて決定されます。
- 血栓溶解。上大静脈症候群は、静脈の細くなった部分に血栓(血の塊)ができることによっても起きる場合があります。血栓溶解とは、この血栓を溶かして除去する治療法のことです。これは血栓除去術によって実施されます。血栓除去術は、血栓を除去する手術を実施するか、静脈内に血栓を除去するための器具を挿入して使用します。血栓を溶解する薬は、使用することもしないこともあります。
- ステント留置。上大静脈が腫瘍によって部分的に塞がれている場合は、開通を維持して血液が流れるようにするため、拡張式のステント(管)を上大静脈内に留置する場合があります。これはほとんどの患者さんに有効です。 さらなる血栓が形成されないようにする薬剤が使用されることもあります。
- 手術。静脈の閉塞部をバイパスする(迂回路を造る)手術が施行されることがありますが、この手術はがん患者さんに対してよりも、がんでない患者さんに対して頻繁に行われています。
- 小児の上大静脈症候群
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小児では気管の閉塞が起きやすいことから、小児における上大静脈症候群(SVCS)の発生は緊急の対処を必要とする深刻な事態といえます。
小児の上大静脈症候群(SVCS)はまれですが、発症した場合は生命を脅かすこともあります。成人の硬い気管とは異なり、小児の気管は軟らかく、圧迫されると簡単に閉じて塞がります。また、小児の気管は狭いので、わずかな腫れでも呼吸障害が生じます。こうした気管の圧迫は上縦隔症候群(SMS)と呼ばれます。小児では上大静脈症候群と上縦隔症候群の併発がよくみられるため、これら2つの症候群は同一のものとして扱われています。
小児の上大静脈症候群で最も多くみられる症状は、成人の場合とほぼ同様です。
- 咳。
- 嗄声(させい:声のしわがれ)。
- 呼吸障害。
- 胸痛。
頻度は低くなるものの、より重篤な徴候と症状には、以下のものがあります:
小児の上大静脈症候群の原因で最も多いのは非ホジキンリンパ腫です。
小児では、上大静脈症候群はまれにしかみられません。最も多くみられる原因は非ホジキンリンパ腫です。成人の場合と同様に、上大静脈症候群は、上大静脈で静脈内カテーテル(液体を静脈内に注入したり、静脈から血液を採取したりするために使用する柔軟性に富んだ管)を使用している際に形成された血栓によっても発生することがあります。
- 最新の臨床試験
NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。
- 本PDQ要約について
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PDQについて
PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。
PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。
本要約の目的
このPDQがん情報要約では、心肺症候群(呼吸困難、悪性胸水、悪性心のう液貯留、上大静脈症候群など)の病理生理と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
査読者および更新情報
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。
患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
臨床試験に関する情報
臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。
本要約の使用許可について
PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。
本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:
PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Cardiopulmonary Syndromes.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/cardiopulmonary-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389457]
本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。
免責事項
PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。
お問い合わせ
Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。