ご利用について
このPDQがん情報要約では、成人原発性肝がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- 肝がんとは
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原発性肝がんは、肝臓の組織の中に悪性(がん)細胞ができる疾患です。他の部位で発生し、肝臓に転移したがんは原発性肝がんではありません。肝臓は体内で最も大きな臓器の1つです。2つの葉から構成され、胸郭の内部に位置し、右上腹部の空間の大部分を占めています。肝臓の主な働きには以下のものがあります:
肝がんの種類
成人原発性肝がんの主な種類として、肝細胞がんと胆管がんがあります。
成人原発性肝がんの大部分は肝細胞がんです。この肝がんは、世界的にみて、がん関連の死亡を3番目に多く引き起こしています。
原発性肝がんは成人にも小児にも発生します。しかし、小児に対する治療法は成人の場合と異なります。詳しい情報については、小児肝がんをご覧ください。
肝がんの症状と徴候
以下のような徴候や症状が成人原発性肝がんが原因で起こることがあります(他の病態が原因で起こることもあります)。以下の症状が1つでもあれば、医師の診察を受けてください:
- 成人原発性肝がんの診断
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肝がんの発見と診断には、肝臓と血液を調べる検査法が用いられます。具体的には以下のような検査が行われますが、ここに記載されている検査が常にすべて行われるわけではありません。
行われる可能性がある検査や手技は次の通りです:
原発性肝がんの診断がついた後に、がん細胞の肝臓内での拡がりや他の部位への転移の有無を明らかにするために、さらに検査が行われます。がんの大きさや位置を調べ、他の場所に広がっていないかを確認する過程は、病期分類と呼ばれます。
病期分類の過程では、CTスキャンやMRIなど、肝がんを診断するために用いる検査法や手技が用いられることがあります。陽電子放射断層撮影(PETスキャン)が行われることもあります:
- PETスキャン:この検査法は体内の悪性腫瘍細胞を検出するために用いられます。まず放射性のあるブドウ糖の溶液を少量だけ静脈内に注射します。その後、周囲を回転しながら体の内部を調べていくPETスキャナという装置を用いて、ブドウ糖が消費されている体内の領域を示す画像を作成します。悪性腫瘍細胞は、正常な細胞よりも活発でブドウ糖をより多く取り込む性質があるため、画像ではより明るく映し出されます。
肝がんの予後に影響を与えるもの
肝がんと診断された場合、予後(回復の見込み)と治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:
- がんの病期(腫瘍の大きさ、がんに侵されているのは肝臓の一部か全体か、もしくは体の他の部位にも転移しているか)
- 肝臓の機能の状態
- 患者さんの健康状態(肝硬変の有無を含む)
肝がんを早期に発見して治療を行えば、肝がんによる死亡を予防できる可能性があります。
- 肝がんの病期
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このページでは成人の肝がんの病期について説明しています:病期は体内におけるがんの程度を表すものです。肝がんの病期を知ることは、最善の治療を計画する役に立ちます。
小児の肝がんの病期については、肝芽腫の病期を参照してください。
原発性肝がんの診断と病期分類のために用いられる検査と手技については、肝がんの診断を参照してください。
肝がんには数種類の病期分類システムが存在します。原発性肝がんの病期分類には、バルセロナクリニック肝がん病期分類システム(BCLC:Barcelona Clinic Liver Cancer Staging System)が広く用いられています。このシステムは、以下の状態に基づいて、患者さんが回復する可能性について予測し、治療計画を立てるために用いられます:
- がんの肝臓内での拡がり、または体の他の部位への転移の有無
- 肝臓の機能の状態
- 患者さんの健康状態と快適さ
- がんにより生じている症状
BCLC病期分類システムは5段階に分かれています:
- 0期:最初期
- A期:早期
- B期:中間期
- C期:進行期
- D期:終末期
成人の肝がんはまた、がんをどのように治療するかによって病期がグループ化されています:
- 限局性の肝がんは、肝臓の外に広がっていない状態のがんで、手術で取り除くことができます。これにはBCLC 0期、A期、B期が含まれます。
- 局所進行肝がんは、肝臓から離れた場所にはかんが拡がっていない状態ですが、手術で安全に取り除くことはできません。これにはBCLC C期が含まれます。
- 転移性肝がんは、肝臓から体の遠隔部位に拡がっているがんのことです。転移性肝がんは手術で完全に取り除くことはできません。これにはBCLC D期が含まれます。転移がんの詳細については転移がん:がんが拡がる場合(英語)をご覧ください。
- 再発肝がんは、治療後に再発したがんのことです。がんは肝臓内に再発することもあれば、体の他の部位に再発することもあります。再発がんの詳しい情報については、再発がん:がんが再び発生する場合(英語)をご覧ください。
がんの病期分類が他にどのように行われるかについては、がんの病期分類(英語)をご覧ください。
治療の選択肢については、肝がんの治療をご覧ください。
- 肝がんの治療
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肝がんの患者さんには様々な治療法が存在します。その中には、標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。
治療の種類
サーベイランス(監視)
サーベイランスは、スクリーニングで見つかった1cm以下の病変に対して行われるものです。3ヵ月ごとのフォローアップが一般的です。サーベイランスでは、患者さんの状態を注意深く観察しますが、検査結果に状態の悪化を示すような変化がみられないかぎり、治療は行いません。積極的サーベイランスの実施中は、特定の診察や検査が定期的に行われます。
手術
肝部分切除術(肝臓のがんに侵されている部分を切除する手術)が行われることがあります。組織の楔状切除、肝葉全体の切除、肝臓の大部分とがん周囲の正常組織の切除などが行われます。手術後も、残った肝臓組織によって肝臓の機能は維持され、組織が再生することもあります。
肝移植
肝移植では、肝臓全体を切除して、ドナーから提供された健康な肝臓を移植します。肝移植は、がんの存在範囲が肝臓のみに限られ、なおかつ肝臓のドナーがみつかった場合に行われます。肝臓の提供を待たなければならない場合は、必要に応じて他の治療が行われます。
焼灼(アブレーション)療法
焼灼(アブレーション)療法では組織を除去または破壊します。肝がんに対し、様々な種類の焼灼療法が用いられます:
- ラジオ波焼灼術:皮膚から直接、または腹部の切開口から特殊な針を挿入して、腫瘍に到達させます。高エネルギーのラジオ波で針と腫瘍を熱し、がん細胞を殺傷します。
- マイクロ波療法:マイクロ波で腫瘍を高温に加熱します。これにより、がん細胞に損傷を与えて殺傷したり、放射線や特定の抗がん剤に反応しやすくすることができます。
- 経皮的エタノール注入:小さな針を用いて腫瘍の内部に直接エタノール(純粋アルコール)を注入することにより、がん細胞を死滅させます。いくつかの処置が必要になることがあります。通常は局所麻酔が用いられますが、肝臓内に腫瘍が数多く存在する場合は全身麻酔が行われます。
- 冷凍アブレーション:専用の装置を用いて、がん細胞を凍結させ破壊します。この種の治療は凍結療法または凍結手術とも呼ばれます。超音波診断装置によるガイド下で実施されることもあります。詳細については、凍結療法によるがん治療(英語)をご覧ください。
- 電気穿孔療法:腫瘍内部に配置した電極から電気パルスを送出して、がん細胞を死滅させます。電気穿孔療法は、臨床試験で研究されています。
塞栓療法
塞栓療法は腫瘍を切除する手術や焼灼療法が受けられない患者さん、または腫瘍が肝臓外に拡がっていない患者さんに使用されます。塞栓療法は、物質を使用して、肝動脈から腫瘍への血流を遮断する、または減少させる療法です。腫瘍に酸素や栄養分が供給されなくなると、増殖が止まります。
肝臓には肝門脈と肝動脈から血液が流入します。肝門脈から肝臓に運ばれる血液は、通常、正常な肝臓組織に行き渡ります。肝動脈から流入してくる血液は、通常、腫瘍に到達します。塞栓療法で肝動脈を遮断しても、健康な肝臓組織には引き続き、肝門脈からの血液が流入します。
塞栓療法には主に2種類があります:
- 経動脈塞栓(TAE):大腿の内側に小さな切開を施し、そこからカテーテル(細くて柔軟性のある管)を挿入して、肝動脈内まで進めていきます。カテーテルを留置した後、肝動脈を詰まらせ、腫瘍への血流を遮断する物質を注入します。
- 経動脈化学塞栓(TACE):この手技はTAEに似ていますが、抗がん剤を投与する点が異なります。この塞栓法は、小型のビーズに抗がん剤を付着させて肝動脈に注入するか、カテーテルを介して肝動脈に抗がん剤を注入し、その後、肝動脈を塞ぐ物質を注入する方法で行われます。その結果、抗がん剤の大半が腫瘍の近くにとどまり、体内の他の部位に送られる抗がん剤の量が少なくなります。この種の治療は化学塞栓とも呼ばれます。
標的療法
標的療法とは、特定のがん細胞だけを認識し攻撃する性質をもった薬物やその他の物質を用いる治療法です。標的療法では一般に、化学療法や放射線療法に比べて、正常な細胞に及ぼす害が少なくなります。進行肝がんを治療するために用いられる標的療法の薬には以下のものがあります:
- ベバシズマブ
- カボザンチニブ
- レンバチニブ
- ラムシルマブ
- レゴラフェニブ
- ソラフェニブ
標的療法とその副作用に関する詳しい情報については、がん標的療法(英語)をご覧ください。
免疫療法
免疫療法は、患者さんの免疫系を利用して、がんと戦う治療法です。体内で生産された物質や製造ラボで合成された物質を用いることによって、体が本来もっているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したり、回復させたりします。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫療法の一種です。肝がんの治療で用いられる免疫チェックポイント阻害薬には以下のものがあります:
- アテゾリズマブ (ベバシズマブを用いる標的療法と併用)
- ニボルマブ (イピリムマブと併用)
- ペムブロリズマブ
免疫療法とその副作用に関する詳しい情報については、がん免疫療法(英語)および免疫療法の副作用(英語)をご覧ください。
放射線療法
外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんのある体の部位に高エネルギーX線などの放射線を照射する方法です。これによりがん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりします。特定の方法で外照射療法を行うと、周辺の健康な組織の損傷を防ぐことができます:
- 三次元原体照射療法:三次元原体照射療法は、コンピュータを用いて腫瘍の三次元(3D)画像を作成するもので、腫瘍の形状に合わせて放射線ビームを調整します。これにより、周辺の正常組織の損傷を抑えながら、高い線量の放射線を腫瘍に照射することができます。
- 定位放射線療法:定位放射線療法では毎回の治療で放射線を同じ位置に照射できるよう、専用の装置を用いて患者さんの姿勢を固定します。数日にわたり、1日1回、放射線照射装置で腫瘍に対して直接、通常より高い線量の放射線を照射します。毎回、患者さんに同じ姿勢をとってもらうことで、周辺の正常な組織に対する損傷を抑えます。この手法は、定位体外照射療法や定位放射線治療とも呼ばれます。
- 陽子線治療:陽子線治療は高エネルギー外照射療法の一種で、陽子(正の電荷を帯びた小さな粒子)の流れを利用して、腫瘍細胞を殺傷します。この種の治療法は、腫瘍付近に位置する健康な組織に放射線が与える損傷を少なく抑えることができます。
放射線療法とその副作用に関する詳しい情報については、放射線療法によるがん治療(英語)および放射線療法の副作用(英語)をご覧ください。
臨床試験
治療法の臨床試験とは、既存の治療法を改良したり、がんの患者さんのための新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。
NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。
臨床試験についての詳しい情報については、患者さんと介護者向けの臨床試験の情報(英語)をご覧ください。
限局性肝がんの治療
限局性肝がんの治療には以下のようなものがあります:
- 1cm未満の病変に対するサーベイランス
- 全肝切除術と肝移植
- 肝部分切除術
- 以下のいずれかの方法による腫瘍の焼灼:
- ラジオ波焼灼術
- マイクロ波療法
- 経皮的エタノール注入
- 冷凍アブレーション