患者さん向け 乳がんの治療(成人)(PDQ®)

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このPDQがん情報要約では、成人乳がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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乳がんについての一般的な情報

乳がんは、乳房の組織の中に悪性(がん)細胞ができる疾患です。

乳房乳管から構成されています。左右の乳房には葉と呼ばれる区分が15~20個ずつ存在します。それぞれの葉は小葉と呼ばれる多数の小さな区分に分かれています。小葉の先には小さな腺房という構造が多数存在しており、そこで乳汁が作られています。これらの葉、小葉、腺房は乳管と呼ばれる細い管でつながっています。

女性の乳房の解剖図:リンパ節、乳頭、乳輪、胸壁、肋骨、筋肉、脂肪組織、葉、乳管、小葉を示す。

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女性の乳房の解剖図。乳頭と乳輪は乳房の外表面に示されています。リンパ節、葉、小葉、乳管などの乳房内の各組織も示されています。

乳房の中にはさらに血管リンパ管が通っています。リンパ管にはリンパ液と呼ばれるほぼ無色の水のような液体が流れています。リンパ管はリンパ節の間でリンパ液を運びます。リンパ節は小さな豆のような形をした臓器で、全身に分布しています。リンパ液のろ過を行い、感染や病気に対する防衛を担う白血球を貯蔵しています。腋窩(わきの下)の乳房付近や鎖骨の上、胸部などには、このリンパ節が群れを成すように存在しています。

乳がんのなかで最も多くみられるのは、乳管がんと呼ばれる、乳管の細胞から発生してくる種類のものです。葉や小葉で発生するがん小葉がんと呼ばれ、他の種類の乳がんと比べて、両方の乳房に同時に見つかることが多い疾患です。また、炎症性乳がんというまれな種類の乳がんもあり、乳房が赤く腫れあがって熱感を生じるのが特徴です。

乳がんに関する詳しい情報については、以下のPDQの要約をご覧ください:

乳がんの家族歴などの因子が乳がんのリスクを高めます。

疾患が発生する可能性を増大させるものは全てリスク因子と呼ばれます。リスク因子を持っていれば必ずがんになるというわけではありませんし、リスク因子を持っていなければがんにならないというわけでもありません。乳がんのリスクについて不安がある場合は、担当の医師にご相談ください。

乳がんのリスク因子には以下のものがあります:

高齢であることは、ほとんどのがんで主要なリスク因子です。歳をとればとるほど、がんになる確率は高まります。

NCIBreast Cancer Risk Assessment Tool(乳がんのリスク評価ツール)は女性のリスク因子を使用して、次の5年間と最長で90歳までの乳がんに関するリスクの推定を行います。このオンラインツールは医療提供者による使用を想定しています。乳がんのリスクに関する詳しい情報については、+1-800-4-CANCER(+1-800-422-6237)までお問い合わせください。

乳がんには、遺伝によって受け継がれた遺伝子の突然変異が原因で起こるものもあります。

細胞内に存在する遺伝子には、両親から受け継がれた遺伝情報が保持されています。乳がん全体の約5~10%は遺伝性の乳がんが占めています。乳がんと関係のある突然変異遺伝子には、特定の民族集団で一般の集団よりも頻繁に認められるものもあります。

BRCA1またはBRCA2突然変異などの特定の遺伝子変異を有する女性では、乳がんのリスクが高くなります。さらに、これらの女性では卵巣がんの発生リスクも高くなり、加えて他のがんのリスクも高くなる場合があります。男性でも乳がんに関係する突然変異遺伝子をもつ人では、乳がんのリスクが高くなります。詳しい情報については、PDQの男性乳がんの治療に関する要約をご覧ください。

突然変異遺伝子を検出(発見)できる検査がいくつかあります。このような遺伝子検査は、がんの発生リスクが高い家系の人に対して時折実施されています。詳しい情報については、PDQの乳がんおよび婦人科がんの遺伝学に関する要約をご覧ください。

特定の薬剤使用などの因子は乳がんのリスクを低下させます。

疾患が発生する可能性を低減させるものは全て防御因子と呼ばれます。

乳がんの防御因子には以下のものがあります:

乳がんの徴候には、乳房におけるしこりや異常などがあります。

こうした徴候には、乳がんによるものもあれば、他の病態によるものもあります。以下の問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:

乳がんの診断には、乳房を調べる検査法が用いられます。

乳房に何らかの変化がみられる場合は、担当の医師にご相談ください。以下のような検査法や手技が用いられます:

ここでがんが発見された場合は、検査を行ってがん細胞が調べられます。

最善の治療法は、これらの検査結果に基づいて決定されます。これらの検査から以下の情報が得られます:

検査には以下のものがあります:

これらの検査に基づいて、乳がんは次のいずれかのタイプで表されます:

この情報は、医師が患者さんのがんに最適な治療法を決定するときの参考になります。

特定の要因が予後(回復の見込み)や治療法の選択肢に影響を及ぼします。

予後と治療選択肢を左右する因子には以下のものがあります:

乳がんの病期

乳がんの診断がついた後には、がん細胞の乳房内での拡がりや他の部位への転移の有無を明らかにするために、さらに検査が行われます。

がん乳房内での拡がりや他の部位への転移の有無を調べていくプロセスは、病期分類と呼ばれます。この過程で集められた情報を基にして病期が判定されます。治療計画を立てるためには病期を把握しておくことが重要です。乳がん診断に用いられた検査結果の一部は、病期分類にも用いられます。(一般的な情報のセクションをご覧ください。)

病期分類の過程では、以下の検査や手技が行われる場合もあります:

体内でのがんの拡がり方は3種類に分けられます。

がんは組織リンパ系血液を介して拡がります:

がんは発生した場所から体内の他の部位に拡がることがあります。

がんが体内の他の部位に拡がることを転移と呼びます。がん細胞は発生した場所(原発腫瘍)から分離し、リンパ系や血液を介して移動します。

転移性腫瘍は、原発腫瘍と同じ種類のがんです。例えば、乳がんが骨に転移した場合、骨にできたがん細胞は、実際は乳がんの細胞です。このような疾患は、転移性乳がんであって、骨がんではありません。

乳がんの病期は、原発腫瘍の大きさと位置、周辺リンパ節や他の部位への転移、腫瘍の悪性度、特定のバイオマーカーの有無に基づいて決定されます。

最適な治療計画を立て、予後を理解するには、乳がんの病期について知ることが重要です。

乳がんの病期グループには以下の3種類があります:

TNMシステムは、原発腫瘍の大きさと周辺リンパ節や他の部位へのがんの拡がりを表現するために使用されます。

乳がんの場合は、TNMシステムで腫瘍が以下のように表されます:

腫瘍(T)。腫瘍の大きさと位置。

図は身近なものの大きさをミリメートル(mm)単位で示している:とがった鉛筆の先(1mm)、新しいクレヨン(2mm)、鉛筆の後ろについている消しゴム(5mm)、豆(10mm)、ピーナッツ(20mm)、ライム(50mm)。10mmが1cmであることを示す2センチメートル(cm)の目盛りも示されている。

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腫瘍の大きさは、ミリメートル(mm)やセンチメートルで表されることがよくあります。腫瘍の大きさをmm単位で表すために用いられる身近なもの:とがった鉛筆の先(1mm)、新しいクレヨンの先(2mm)、鉛筆の後ろについている消しゴム(5mm)、豆(10mm)、ピーナッツ(20mm)、ライム(50mm)。

リンパ節(N)。がんが転移したリンパ節の大きさと位置。

手術で切除されたリンパ節を病理医が顕微鏡で検査して、病理学的にリンパ節の病期を分類します。リンパ節の病理学的な病期分類は以下のように表されます。

乳腺X線撮影または超音波検査でリンパ節を調べた場合の病期分類は、臨床病期分類と呼ばれます。リンパ節の臨床病期分類についての説明は、ここでは省略します。

転移(M)。他の部位へのがんの拡がり。

悪性度分類法は、乳房腫瘍が増殖または拡がる速さの見込みを表すために用いられます。

悪性度分類法では、顕微鏡でがん細胞と組織がどのくらい異常に見えるか、およびそのがん細胞がどのくらい速く増殖または拡がりそうかという点に基づいて腫瘍を表現します。高悪性度のがん細胞に比べて、低悪性度のがん細胞は外観が正常な細胞に似ており、増殖や拡がりも緩やかに進む傾向があります。がん細胞と組織の異常度を表すために、病理医は以下の3つの特徴について評価を行います:

病理医はそれぞれの特徴に対して1~3のスコアを割り当てます。スコア「1」は細胞や腫瘍組織の外観が正常な細胞や組織に近い場合を表し、スコア「3」は細胞や組織の外観が著しく異常である場合を示します。特徴ごとのスコアを足し合わせると、合計でスコアは3~9になります。

次の3種類の悪性度に分けられます:

乳がん細胞が特定の受容体を持っているかどうかを明らかにするために、バイオマーカー検査が行われます。

健康な乳腺細胞や一部の乳がん細胞は、エストロゲンプロゲステロンというホルモンに結合する受容体(バイオマーカー)を持っています。これらのホルモンは健康な細胞や一部の乳がん細胞が増殖または分裂するために必要です。これらのバイオマーカーの検査を行うには、生検や手術により、乳がん細胞が含まれる組織のサンプルを採取します。このサンプルは検査室で調べられ、乳がん細胞にエストロゲン受容体プロゲステロン受容体が存在するかどうかが調べられます。

また、全ての乳がん細胞の表面には、HER2と呼ばれる別の種類の受容体(バイオマーカー)が存在します。HER2受容体は乳がん細胞の増殖や分裂に必要になります。

乳がんで用いられるバイオマーカー検査には以下のものがあります:

乳がん細胞は、トリプルネガティブまたはトリプルポジティブと呼ばれることがあります。

エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2受容体の状態を把握することは、最適な治療の選択に重要です。いくつかの薬物は、エストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンと受容体との結合を遮断して、がんの増殖を阻止できる可能性があります。また、乳がん細胞の表面に存在するHER2受容体を遮断してがんの増殖を阻止する別の薬物が使用されることもあります。

TNMシステム、悪性度分類法、バイオマーカーの状態を組み合わせて、乳がんの病期を分類します。

以下では乳がんに対する最初の治療として手術を受けた女性の3例を取り上げ、TNMシステム、悪性度分類法、バイオマーカーの状態を組み合わせて、乳がんの病理学的予後病期を判定します:

腫瘍の大きさが30mm(T2)で、周辺リンパ節に転移しておらず(N0)、体内で遠隔部位に転移しておらず(M0)、さらに以下の状態である場合:

この乳がんはIIA期です。

腫瘍の大きさが53mm(T3)で、4~9個の腋窩リンパ節に転移しており(N2)、体内で遠隔部位に転移しておらず(M0)、さらに以下の状態である場合:

この腫瘍はIIIA期です。

腫瘍の大きさが65mm(T3)で、3個の腋窩リンパ節に転移しており(N1a)、肺に転移しており(M1)、さらに以下の状態である場合:

このがんはIV期(転移性乳がん)です。

乳がんがどの病期に該当し、それを踏まえてどのように最適な治療を計画するのかを担当医と話し合ってください。

患者さんの担当医が手術後に受け取る病理報告には、原発腫瘍の大きさと位置、周辺リンパ節へのがんの転移、腫瘍の悪性度、特定のバイオマーカーの有無が記されています。病理報告や他の検査結果を参照して、乳がんの病期が判定されます。

患者さんが多くの疑問を持つことは珍しくありません。担当医に質問し、最適ながんの治療法を決定するうえで病期の情報をどのように使用するのか、またご自身に適しているかもしれない臨床試験があるかどうかについて説明を受けてください。

乳がんの治療法は、病期によってある程度決まります。

非浸潤性乳管がん(DCIS)の治療法については、非浸潤性乳管がんの治療をご覧ください。

I期、II期、IIIA期、および手術可能なIIIC期の乳がんの治療法については、早期、限局性、または手術可能な乳がんの治療をご覧ください。

IIIB期、手術不能のIIIC期、炎症性乳がんの治療法については、局所進行または炎症性乳がんの治療をご覧ください。

最初にがんが形成された領域の近く(乳房内、乳房の皮膚、胸壁、周辺のリンパ節など)に再発したがんの治療法については、局所領域再発乳がんの治療をご覧ください。

IV期(転移性)乳がんまたは遠く離れた部位で再発した乳がんの治療法については、転移性乳がんの治療をご覧ください。

炎症性乳がん(英語)

炎症性乳がんでは、がん乳房の皮膚まで拡がっていて、乳房が赤く腫れあがり、熱感を生じます。この赤みと熱感は、がん細胞により皮膚中のリンパ管が塞がれることによって生じます。また、乳房の皮膚に、橙皮状皮膚(オレンジの皮のような皮膚)と呼ばれるくぼみが認められることもあります。乳房に触知できるしこりが1つも存在しない場合もあります。炎症性乳がんの病期は、IIIB期、IIIC期、IV期のいずれかです。

発赤、橙皮状皮膚、陥没乳頭を伴う左胸の炎症性乳がん。

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橙皮状皮膚および陥没乳頭を伴う左胸の炎症性乳がん。

治療選択肢の概要

乳がんの患者さんには様々な治療法が存在します。

乳がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、既存の治療法を改良したり、がんの患者さんのための新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。複数の臨床試験で現在の標準治療より新しい治療法のほうが良好であることが明らかになった場合は、その新しい治療法が標準治療となります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

標準治療として以下の6種類が用いられています:

手術

乳がん患者さんのほとんどは、がんを摘出する手術を受けます。

センチネルリンパ節生検とは、手術中にセンチネルリンパ節を摘出することをいいます。センチネルリンパ節とは、リンパ節群のなかで原発腫瘍からのリンパ節ドレナージ(リンパ液の流れ)を最初に受けるリンパ節です。これは原発腫瘍中のがん細胞が最初に転移する可能性の高いリンパ節です。まず、放射性物質や青色の色素腫瘍の付近に注入します。すると、この放射性物質や色素はリンパを通ってリンパ節に流れ込みます。そうして、放射性物質や色素が最初に到達したリンパ節が切除されます。切除された組織病理医顕微鏡で観察して、がん細胞の有無を調べます。そこでがん細胞が発見されなければ、それ以上のリンパ節の切除が不要になる場合もあります。ときに、複数のリンパ節群で1つのセンチネルリンパ節が見つかることがあります。このセンチネルリンパ節生検が終われば、続いて外科医乳房温存手術または乳房切除術で腫瘍を摘出します。がん細胞が見つかった場合は、別の切開口からより多くのリンパ節を切除します。この手技はリンパ節郭清術と呼ばれます。

この他にも以下のような手術法があります:

手術で腫瘍を切除する前に、化学療法を実施する場合もあります。化学療法を手術前に実施すると、腫瘍が小さくなり、手術で切除する必要がある組織の量を減らせます。手術前に実施する治療は、術前療法または術前補助療法と呼ばれます。

手術の際に確認できる全てのがんを切除した後に、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させるために、手術後に放射線療法、化学療法、標的療法、あるいはホルモン療法を実施する場合があります。このようにがんの再発リスクを低減させるために手術の後に行われる治療は、術後療法または補助療法と呼ばれます。

乳房切除術を受けることになった患者さんには、乳房再建術(乳房切除術の実施後に乳房の形を元に戻す手術)の実施が検討されます。乳房再建術は、乳房切除術と同時に実施することもできますし、後になってから実施することもできます。乳房の再建には、患者さん自身の(乳房以外の)組織を用いることもできますし、生理食塩水シリコンゲルの入ったインプラントを使用することも可能です。インプラントの使用を決定する前に、米国食品医薬品局(FDA)の医療機器・放射線保健センター(CDRH)に電話でお問い合わせいただくか(1-888-463-6332)、FDAのウェブサイトにアクセスして、乳房インプラントの詳しい情報について確認してください。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。放射線療法には2種類のものがあります:

放射線療法の実施方法は、治療対象となるがんの種類と病期によってある程度決まります。乳がんの治療には外照射療法が用いられます。ストロンチウム89(放射性核種)を用いる内照射療法は、骨に転移した乳がんにより生じる骨痛を軽減するために行われます。まず、ストロンチウム89を静脈内に注入し、骨の表面に到達させます。放射線が放出され、骨内のがん細胞を殺傷します。

化学療法

化学療法は、を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。

詳しい情報については、乳がんに対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。

ホルモン療法

ホルモン療法は、ホルモンを体内から除去したりその働きを阻害したりすることによって、がん細胞の増殖を阻止する治療法です。ホルモンとは、体内の内分泌で作られて血流内を循環する物質のことです。ホルモンの中には一部のがんを増殖させるものがあります。がん細胞内にホルモンが結合する分子(受容体)が存在するということが検査によって判明した場合は、薬物投与や手術、放射線療法などの手段を用いて、そのホルモンの分泌を抑制したり作用を阻害したりする治療を行います。エストロゲンというホルモンには、一部の乳がんを増殖させる作用がありますが、このホルモンは主に卵巣で作られています。卵巣からのエストロゲンの分泌を阻止する治療法は卵巣機能抑制と呼ばれます。

手術で切除可能な早期の限局性乳がんの患者さんと転移性乳がん(体内の他の部位に転移した乳がん)の患者さんには、タモキシフェンを用いたホルモン療法がしばしば実施されます。しかし、タモキシフェンやエストロゲンを用いるホルモン療法には、全身の細胞に影響を及ぼす可能性があり、また、子宮内膜がん(子宮体がん)の発生リスクを増大させる可能性もあります。そのためタモキシフェンを服用している女性は、がんの徴候を見逃さないように内診(骨盤領域を調べる検査)を毎年受けるべきとされています。さらに、出血(月経による出血は除く)がみられる場合は、できるだけ早く医師に報告するべきです。

黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニストを用いるホルモン療法は、ホルモン受容体陽性乳がんと診断されて間もない一部の閉経前女性に対して実施されます。LHRHアゴニストは、体内のエストロゲンとプロゲステロンの量を減らします。

アロマターゼ阻害薬を用いるホルモン療法は、ホルモン受容体陽性乳がんの閉経後女性の一部に対して行われます。アロマターゼ阻害薬は体内において、アンドロゲンをエストロゲンに変換するアロマターゼと呼ばれる酵素の働きを阻害することで、体内のエストロゲンの量を減らします。アナストロゾールレトロゾールエキセメスタンはいずれもアロマターゼ阻害薬です。

手術で切除可能な早期の限局性乳がんに対する治療では、術後補助療法としてタモキシフェンの代わりに特定のアロマターゼ阻害薬を使用する場合や、タモキシフェンの使用から2~3年後にアロマターゼ阻害薬を投与する場合があります。また、転移性乳がんに対する治療では、アロマターゼ阻害薬をタモキシフェンによるホルモン療法と比較するための臨床試験が現在実施されています。

ホルモン受容体陽性の乳がんの女性では、5年以上の術後ホルモン療法により、がんが再発する(再び起こる)リスクが低下します。

他のホルモン療法には酢酸メゲストロールを使用するものや、フルベストラントなどの抗エストロゲン療法があります。

詳しい情報については、乳がんに対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。

標的療法

標的療法とは、特定のがん細胞を認識し攻撃する性質をもった薬物やその他の物質を用いる治療法です。標的療法では一般に、化学療法や放射線療法に比べて、正常な細胞に及ぼす害が少なくなります。乳がんの治療で使用される標的療法薬には、モノクローナル抗体チロシンキナーゼ阻害薬、サイクリン依存性キナーゼ阻害薬哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mTOR)阻害薬PARP阻害薬などがあります。

詳しい情報については、乳がんに対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。

免疫療法

免疫療法は、患者さんの免疫系を利用して、がんと戦う治療法です。体内で生産された物質や製造ラボで合成された物質を用いることによって、体が本来もっているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したり、回復させたりします。このようながんの治療法は生物学的療法の一種です。

免疫療法にはいくつかの種類があります:

この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。

臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。

乳がんの治療は副作用を引き起こすことがあります。

がんの治療中に発生する副作用に関する詳しい情報については、副作用(英語)のページをご覧ください。

乳がんの治療の中には、治療が終わってから何ヵ月または何年も副作用が続いたり、それだけの期間の後に現れたりするものがあります。こうした副作用は晩期合併症(晩期障害)と呼ばれます。

放射線療法の晩期合併症(晩期障害)は一般的ではありませんが、以下のようなものがあります:

化学療法の晩期合併症(晩期障害)は、使用する薬剤によって様々な病態が現れます:

トラスツズマブ、ラパチニブ、またはペルツズマブを使用する標的療法の晩期合併症(晩期障害)には、以下のようなものがあります:

患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。

患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。臨床試験はがんの研究プロセスの一部を構成するものです。臨床試験は、新しいがんの治療法が安全かつ有効であるかどうか、あるいは標準治療よりも優れているかどうかを確かめることを目的に実施されます。

今日のがんの標準治療の多くは以前に行われた臨床試験に基づくものです。臨床試験に参加する患者さんは、標準治療を受けることになる場合もあれば、新しい治療法を初めて受けることになる場合もあります。

患者さんが臨床試験に参加することは、将来のがんの治療法を改善することにもつながります。たとえ臨床試験が効果的な新しい治療法の発見につながらなくても、重要な問題に対する解答が得られる場合も多く、研究を前進させることにつながるのです。

患者さんはがん治療の開始前や開始後にでも臨床試験に参加することができます。

ただし一部には、まだ治療を受けたことのない患者さんだけを対象とする臨床試験もあります。一方、別の治療では状態が改善されなかった患者さんに向けた治療法を検証する試験もあります。がんの再発を阻止したり、がん治療の副作用を軽減したりするための新しい方法を検証する臨床試験もあります。

臨床試験は米国各地で行われています。NCIが支援する臨床試験に関する情報は、NCIの臨床試験検索ウェブページで探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。

フォローアップ検査が必要となることもあります。

がんの診断病期判定のために実施される検査の中には、繰り返し行われるものがあります。治療の奏効の程度を確かめるために繰り返し行われる検査もあります。治療の継続、変更、中止などの決定はこうした検査の結果に基づいて判断されます。

治療が終わってからも度々受けることになる検査もあります。こうした検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんの再発(再び現れること)の有無を知ることができます。こうした検査はフォローアップ検査または定期検査と呼ばれることがあります。

早期、限局性、または手術可能な乳がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

早期限局性、または手術可能な乳がんの治療法には、以下のようなものがあります:

手術

術後放射線療法

乳房温存術を受けた女性には、がんが再発する可能性を低下させるために乳房全体に対する放射線療法を行います。場合によっては、病巣周辺のリンパ節に放射線を照射することもあります。

非定型的根治的乳房切除術を受けた女性では、以下の条件のいずれかに該当する場合に、がんの再発可能性を低下させるために放射線療法を実施します:

術後全身療法

全身療法ではを投与して血流に入れ、全身のがん細胞に到達させます。術後全身療法は、手術で腫瘍を切除した後にがんが再発する可能性を低くするために行われます。

術後全身療法は以下の状況に応じて実施されます:

ホルモン受容体陽性腫瘍を有する閉経前女性では、それ以上の治療が不要か、以下のような術後療法が行われます:

ホルモン受容体陽性腫瘍を有する閉経後女性では、それ以上の治療が不要か、以下のような術後療法が行われます:

ホルモン受容体陰性腫瘍を有する女性では、それ以上の治療は不要か、以下のような術後療法が行われます:

HER2/neu陰性腫瘍を有する女性では、以下のような術後療法が行われることがあります:

小型のHER2/neu陽性腫瘍を有する女性で、リンパ節にがんが認められない場合は、それ以上の治療はおそらく不要です。がんがリンパ節に存在するか、腫瘍が大型である場合は、以下のような術後療法が行われます:

小型でホルモン受容体陰性、HER2/neu陰性(トリプルネガティブ)の腫瘍を有する女性で、リンパ節にがんが認められない場合は、それ以上の治療はおそらく不要です。がんがリンパ節に存在するか、腫瘍が大型である場合は、以下のような術後療法が行われます:

術前全身療法

全身療法では薬を投与して血流に入れ、全身のがん細胞に到達させます。術前全身療法は手術前に腫瘍を小さくするために行われます。

乳房温存手術を受けることができない患者さんに術前化学療法を行うと、乳房温存手術の施行が可能になることがあります。がんがリンパ節に転移した患者さんに術前化学療法を使用して、リンパ節郭清の必要性を低減することができる可能性もあります。

ホルモン受容体陽性腫瘍を有する閉経後女性では、以下のような術前療法が行われることがあります:

ホルモン受容体陽性腫瘍を有する閉経前女性では、以下のような術前療法が行われることがあります:

HER2/neu陽性腫瘍を有する女性では、以下のような術前療法が行われることがあります:

HER2/neu陽性腫瘍またはトリプルネガティブ腫瘍を有する女性では、以下のような術前療法が行われることがあります:

トリプルネガティブまたはHER2陽性乳がんの患者さんの場合は、術前療法に対する反応を踏まえて、手術後の最適な治療法を決定することがあります。

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

局所進行または炎症性乳がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

局所進行または炎症性乳がんの治療法は、以下のような療法を組み合わせた併用療法です:

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

局所領域再発乳がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

局所領域再発乳がん(治療後に乳房内、胸壁内、または周辺のリンパ節に再び現れたがん)の治療法には、以下のようなものがあります:

乳房外、胸壁外、周辺リンパ節外の部位に拡がった乳がんの治療選択肢については、転移性乳がんの治療のセクションをご覧ください。

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

転移性乳がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

転移性乳がん(体内の遠隔部位に拡がったがん)の治療選択肢には以下のようなものがあります:

ホルモン療法

転移性乳がんと診断されたばかりの閉経後女性で、ホルモン受容体陽性ホルモン受容体の状態が不明である場合は、以下のような治療法があります:

転移性乳がんと診断されたばかりの閉経前女性で、ホルモン受容体陽性の場合は、以下のような治療法があります:

ホルモン受容体陽性またはホルモン受容体の状態が不明な腫瘍を有し、骨または軟部組織にのみ転移があり、タモキシフェンによる治療を受けたことのある女性には、以下のような治療法があります:

標的療法

ホルモン受容体陽性の転移性乳がんを有する女性で、他の治療を行っても効果が得られなかった場合は、以下のような標的療法を用いることがあります:

HER2/neu陽性の転移性乳がんを有する女性には、以下のような治療法があります:

HER2陰性BRCA1またはBRCA2遺伝子変異が認められる転移性乳がんで、既に化学療法による治療を受けている女性には、以下のような治療法があります:

化学療法

転移性乳がんを有する女性で、腫瘍がホルモン受容体陰性か、ホルモン療法を行っても効果が得られないか、他の臓器に転移しているか、または症状がみられる場合には、以下のような治療法があります:

化学療法および免疫療法

ホルモン受容体陰性でHER2陰性の転移性乳がんを有する女性には、以下のような治療法があります:

手術

放射線療法

他の治療選択肢

転移性乳がんに対する他の治療選択肢には以下のようなものがあります:

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

非浸潤性乳管がん(DCIS)の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

非浸潤性乳管がんの治療法には以下のようなものがあります:

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

乳がんについてさらに学ぶために

米国国立がん研究所が提供している乳がんに関する詳しい情報については、以下をご覧ください:

米国国立がん研究所が提供している一般的ながん情報とその他の資源については、以下をご覧ください:

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、成人乳がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Adult Treatment Editorial Board.PDQ Breast Cancer Treatment (Adult).Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/breast/patient/breast-treatment-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389406]

本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。

免責事項

PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。