医療専門家向け 小児の肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の治療(PDQ®)

    • 原文更新日:2024-04-26
    • 翻訳更新日:2025-03-28

ご利用について

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、小児の肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の治療について、専門家の査読を経た、証拠に基づく情報を包括的に提供している。本要約は、患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。医療上の意思決定のための正式なガイドラインや推奨事項を提供するものではない。

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardにより定期的にレビューされ、随時更新される。本要約は独自の文献レビューの結果を反映するものであり、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

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発生率と組織学

炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)は全身に発生するが、肺が最も侵されやすい臓器である。IMTは小児で最も頻度の高い肺腫瘍の一つで、様々な症例集積研究で症例の16%~38%を占めている。[ 1 ][ 2 ]

IMTの生物学的挙動は多彩で、局所再発やまれに遠隔転移を起こす可能性がある。[ 3 ]IMT症例の約50%において、染色体2p23にあるALK遺伝子に再構成が認められる。[ 4 ]このほかにも標的となりうる融合が報告されている。それらの融合にはROS1PDGFRBなどの遺伝子が関与する。[ 5 ]

参考文献
  1. Yu DC, Grabowski MJ, Kozakewich HP, et al.: Primary lung tumors in children and adolescents: a 90-year experience. J Pediatr Surg 45 (6): 1090-5, 2010.[PUBMED Abstract]
  2. Weldon CB, Shamberger RC: Pediatric pulmonary tumors: primary and metastatic. Semin Pediatr Surg 17 (1): 17-29, 2008.[PUBMED Abstract]
  3. Lichtenberger JP, Biko DM, Carter BW, et al.: Primary Lung Tumors in Children: Radiologic-Pathologic Correlation From the Radiologic Pathology Archives. Radiographics 38 (7): 2151-2172, 2018 Nov-Dec.[PUBMED Abstract]
  4. Coffin CM, Hornick JL, Fletcher CD: Inflammatory myofibroblastic tumor: comparison of clinicopathologic, histologic, and immunohistochemical features including ALK expression in atypical and aggressive cases. Am J Surg Pathol 31 (4): 509-20, 2007.[PUBMED Abstract]
  5. Lovly CM, Gupta A, Lipson D, et al.: Inflammatory myofibroblastic tumors harbor multiple potentially actionable kinase fusions. Cancer Discov 4 (8): 889-95, 2014.[PUBMED Abstract]
臨床像と診断的評価

炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)は、末梢に位置する大きな分葉状の腫瘤を呈し、下葉優位である。胸壁、血管、および縦隔浸潤がみられることもある。ときに石灰化がみられる。造影CTでは増強が不均一である。MRI所見は様々であるが、IMTは骨格筋と等信号となることがある。

小児の肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の治療

肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)に対する治療法の選択肢としては以下のものがある:[ 1 ][ 2 ][ 3 ]

  1. 手術
  2. 分子標的療法

手術

可能であれば、外科的切除が選択すべき治療法である。腫瘍が完全切除された患者は極めて予後良好である。

分子標的療法

切除不能例と再発例では、ALK多様体があり、かつクリゾチニブ投与後に完全または不完全切除が行われた場合、クリゾチニブで奏効が得られることがある。セリチニブによる治療でも客観的奏効が得られている。

証拠(分子標的療法):

  1. クリゾチニブある研究ではクリゾチニブによる治療を受けたIMT患者14人が組み入れられた。[ 4 ]証拠レベルC3
  2. セリチニブ多施設共同第I相試験において、セリチニブの投与を受けたIMT患者10人中7人で客観的奏効が認められた。[ 5 ]

この腫瘍の治療に関する詳細な情報については、「小児軟部肉腫の治療」の炎症性筋線維芽細胞性腫瘍および類上皮炎症性線維芽細胞肉腫のセクションを参照のこと。

参考文献
  1. Coffin CM, Hornick JL, Fletcher CD: Inflammatory myofibroblastic tumor: comparison of clinicopathologic, histologic, and immunohistochemical features including ALK expression in atypical and aggressive cases. Am J Surg Pathol 31 (4): 509-20, 2007.[PUBMED Abstract]
  2. Butrynski JE, D'Adamo DR, Hornick JL, et al.: Crizotinib in ALK-rearranged inflammatory myofibroblastic tumor. N Engl J Med 363 (18): 1727-33, 2010.[PUBMED Abstract]
  3. Chavez C, Hoffman MA: Complete remission of ALK-negative plasma cell granuloma (inflammatory myofibroblastic tumor) of the lung induced by celecoxib: A case report and review of the literature. Oncol Lett 5 (5): 1672-1676, 2013.[PUBMED Abstract]
  4. Mossé YP, Voss SD, Lim MS, et al.: Targeting ALK With Crizotinib in Pediatric Anaplastic Large Cell Lymphoma and Inflammatory Myofibroblastic Tumor: A Children's Oncology Group Study. J Clin Oncol 35 (28): 3215-3221, 2017.[PUBMED Abstract]
  5. Fischer M, Moreno L, Ziegler DS, et al.: Ceritinib in paediatric patients with anaplastic lymphoma kinase-positive malignancies: an open-label, multicentre, phase 1, dose-escalation and dose-expansion study. Lancet Oncol 22 (12): 1764-1776, 2021.[PUBMED Abstract]
小児肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍に対して臨床評価段階にある治療選択肢

米国国立がん研究所(NCI)が支援している臨床試験に関する情報は、NCIウェブサイトに掲載されている。他の組織がスポンサーを務める臨床試験に関する情報については、ClinicalTrials.govのウェブサイトを参照のこと。

がんの小児の治療に関する特別な考慮事項

小児および青年のがんはまれであるが、全体の発生率は1975年以降、緩やかに上昇してきている。[ 1 ]小児期および青年期に発生するがんの治療経験を有するがん専門医で構成された集学的チームを擁する医療機関への紹介を考慮すべきである。この集学的チームのアプローチには、小児が至適な生存期間および生活の質を達成できる治療、支持療法、およびリハビリテーションを受けられることを保証するべく、以下に該当する医療専門職の技能が必要とされる:

小児および青年のがん患者に対する支持療法に関する具体的な情報については、支持療法および緩和ケアに関する要約を参照のこと。

American Academy of Pediatricsは、小児がんセンターと小児がん患者の治療におけるその役割に関するガイドラインの概要を示している。[ 2 ]それらの小児がんセンターでは、小児および青年に発生するがんの大半について、それらを対象とする臨床試験が実施されており、大半の患者とその家族に参加の機会が提供されている。小児および青年のがん患者を対象とする臨床試験は一般に、より優れている可能性がある治療法を最新の標準治療と比較するべくデザインされている。小児がんに対する根治的治療法の特定において得られた進歩は、その大半が臨床試験を通じて達成されたものである。現在実施中の臨床試験に関する情報は、NCIウェブサイトからも入手することができる。

小児および青年のがんでは、生存期間の劇的な改善が達成されている。1975年から2020年の間に、小児がんの死亡率は50%以上低下した。[ 3 ][ 4 ][ 5 ]小児および青年のがん生存者では、治療から数カ月または数年経過後もがん治療の副作用が持続または発現することがあるため、綿密なモニタリングが必要である。小児および青年のがん生存者における晩期障害の発生率、種類、およびモニタリングに関する具体的な情報については、小児がん治療の晩期合併症(晩期障害)を参照のこと。

小児がんはまれな疾患であり、米国において20歳未満で診断される症例は年間約15,000例である。[ 6 ]米国の2002年希少疾患対策法(Rare Diseases Act of 2002)では、希少疾患の定義を患者数20万人未満の疾患と定めている。そのため、小児がんはすべて希少疾患とみなされる。

まれな腫瘍の指定は小児集団と成人集団の間で統一されていない。成人の場合は、まれながんは年間発生率が100,000人当たり6例を下回るものと定義されている。それらは欧州連合(EU)で診断されるすべてのがんの最大24%を占め、米国で診断されるすべてのがんの約20%を占める。[ 7 ][ 8 ]また小児のまれな腫瘍の指定は、以下に示すように、国際グループ間で統一されていない:

このようなまれながんは、個々の診断を受ける患者の数が少ないこと、青年集団にまれながんが多いこと、およびまれながんの青年についての臨床試験が行われていないことから、研究がきわめて困難である。

参考文献
  1. Smith MA, Seibel NL, Altekruse SF, et al.: Outcomes for children and adolescents with cancer: challenges for the twenty-first century. J Clin Oncol 28 (15): 2625-34, 2010.[PUBMED Abstract]
  2. American Academy of Pediatrics: Standards for pediatric cancer centers. Pediatrics 134 (2): 410-4, 2014. Also available online. Last accessed December 15, 2023.[PUBMED Abstract]
  3. Smith MA, Altekruse SF, Adamson PC, et al.: Declining childhood and adolescent cancer mortality. Cancer 120 (16): 2497-506, 2014.[PUBMED Abstract]
  4. National Cancer Institute: NCCR*Explorer: An interactive website for NCCR cancer statistics. Bethesda, MD: National Cancer Institute. Available online. Last accessed December 15, 2023.[PUBMED Abstract]
  5. Surveillance Research Program, National Cancer Institute: SEER*Explorer: An interactive website for SEER cancer statistics. Bethesda, MD: National Cancer Institute. Available online. Last accessed March 6, 2024.[PUBMED Abstract]
  6. Ward E, DeSantis C, Robbins A, et al.: Childhood and adolescent cancer statistics, 2014. CA Cancer J Clin 64 (2): 83-103, 2014 Mar-Apr.[PUBMED Abstract]
  7. Gatta G, Capocaccia R, Botta L, et al.: Burden and centralised treatment in Europe of rare tumours: results of RARECAREnet-a population-based study. Lancet Oncol 18 (8): 1022-1039, 2017.[PUBMED Abstract]
  8. DeSantis CE, Kramer JL, Jemal A: The burden of rare cancers in the United States. CA Cancer J Clin 67 (4): 261-272, 2017.[PUBMED Abstract]
  9. Ferrari A, Brecht IB, Gatta G, et al.: Defining and listing very rare cancers of paediatric age: consensus of the Joint Action on Rare Cancers in cooperation with the European Cooperative Study Group for Pediatric Rare Tumors. Eur J Cancer 110: 120-126, 2019.[PUBMED Abstract]
  10. Pappo AS, Krailo M, Chen Z, et al.: Infrequent tumor initiative of the Children's Oncology Group: initial lessons learned and their impact on future plans. J Clin Oncol 28 (33): 5011-6, 2010.[PUBMED Abstract]
本要約の最終更新(2024/04/26)

PDQがん情報要約は、定期的にレビューされ、新たな情報が得られ次第更新される。このセクションでは、上記の日付で本要約に加えられた最新の変更内容を記載する。

本要約には編集上の変更が加えられた。

本要約の作成および更新作業はPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが行っており、同委員会は編集面においてNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューの結果を反映するものであり、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の要約方針および役割に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® Cancer Information for Health Professionalsのページを参照のこと。

本PDQ要約について

本要約の目的

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、小児の肺炎症性筋線維芽細胞性腫瘍の治療について、専門家の査読を経た、証拠に基づく情報を包括的に提供している。本要約は、患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。医療上の意思決定のための正式なガイドラインや推奨事項を提供するものではない。

査読者および更新情報

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardにより定期的にレビューされ、随時更新される。本要約は独自の文献レビューの結果を反映するものであり、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

委員会のメンバーは毎月、直近で発表された記事をレビューし、個々の記事について以下を行うべきかどうかを判断する:

要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。

本要約の内容についてコメントまたは質問がある場合は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govに連絡されたい。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。

証拠レベル

本要約で引用されている参考文献の一部には証拠レベルの指定が明記されている。それらの指定は、読者が特定の介入またはアプローチの利用を支持している証拠の強さを評価する上で参考になることを意図したものである。PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardは、証拠レベルの指定を策定するにあたり公式順位分類を使用している。

本要約の使用許可

PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約として特定することはできない。ただし、著者は“NCI’s PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋】.”のような一文を記載することができる。

本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:

PDQ® Pediatric Treatment Editorial Board. PDQ Childhood Pulmonary Inflammatory Myofibroblastic Tumors Treatment. Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>. Available at: https://www.cancer.gov/types/lung/hp/child-pulmonary-inflammatory-myofibroblastic-tumor-treatment-pdq. Accessed <MM/DD/YYYY>. [PMID: 35412727]

本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。

免責条項

入手可能な証拠の強さに基づき、治療選択肢は「標準」または「臨床評価段階にある」のいずれかで記載される。これらの分類は、保険払い戻しの決定基準として使用されるべきものではない。保険の適用範囲に関する詳しい情報については、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手できる。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトについての問い合わせまたはヘルプの利用に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載されている。質問はウェブサイトのEmail UsからもCancer.govに送信可能である。