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このPDQがん情報要約では、びまん性内在性橋膠腫の治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- びまん性内在性橋膠腫(DIPG)
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びまん性内在性橋膠腫(DIPG)は、脳幹の脳橋と呼ばれる部分から発生する増殖が速い種類の脳腫瘍です。脳幹とは、脳のうち首の後ろ側の上にあって脊髄とつながっている部分です。脳橋は、呼吸や心拍数、血圧などの多くの生体機能と、見る、聞く、歩く、話す、食べるといった行為に用いられる神経と筋肉を制御しています。DIPGはグリオーマ(神経膠腫)の一種ですが、これは脳幹のグリア細胞(神経膠細胞)から発生することを意味します。グリア細胞は脳の神経細胞を支え、保護しています。
米国では、毎年約300人の小児がDIPGと診断されています。DIPGは主に5~10歳の小児に発生しますが、より年少の小児や10代の若者にも発生する可能性があります。DIPGは成人ではまれです。
脳の解剖図。テント上領域(脳の上部)には、大脳、側脳室、第三脳室(青色は髄液)、脈絡叢、松果体、視床下部、下垂体、視神経が含まれます。後頭蓋窩/テント下領域(脳の下部後方)には、小脳、視蓋、第四脳室、脳幹(中脳、脳橋、髄質)が含まれます。頭蓋と髄膜で脳と脊髄を保護しています。 DIPGの原因とリスク因子
DIPGは、神経芽細胞の挙動、特に成長して新しい細胞に分裂する過程での挙動が変化することによって発生します。そうした細胞の変化が生じる正確な原因は多くの場合、不明です。がんの発生の詳細については、がんとは何か(英語)をご覧ください。
リスク因子とは、疾患が発生する可能性を増大させるあらゆる要因のことです。DIPGのリスク因子として知られているものはありません。
DIPGの症状
DIPGの症状は、以下の要因によって異なります:
DIPGの症状は急速に現れます。以下の症状がみられる場合は、お子さんの担当医に直ちに相談するべきです:
これらの症状は、DIPG以外の病態によって引き起こされることもあります。状況を正しく把握する唯一の方法は、担当医の話を聞くことです。
DIPGの診断に用いられる検査
小児にDIPGを示唆する症状がみられる場合、それらの原因がDIPGなのか、それとも別の問題なのかを医師が確認する必要があります。担当医は、症状がいつ始まったか、どのくらいの頻度で起きているかという質問をするでしょう。医師はまた、保護者に小児の病歴と家族歴をたずね、神経学的検査を含む身体診察を行います。それらの結果に応じて、ほかの検査を勧めることもあります。それらの検査の結果は、DIPGと診断された場合に保護者と担当医で治療計画を立てるのに役立ちます。
このほかにDIPGの診断に用いられることがある検査や手技として、以下のものがあります:
場合によりガドリニウムを使用するMRI(磁気共鳴画像)検査
MRI検査は、磁気、電波、コンピュータを用いて体内領域の精細な連続画像を作成する検査法です。まずガドリニウムと呼ばれる物質を静脈内に注射します。ガドリニウムにはがん細胞の周辺に集まる性質があるため、撮影された画像ではがん細胞が明るく映し出されます。この検査法は核磁気共鳴画像法(NMRI)とも呼ばれます。
MRI(磁気共鳴画像)スキャン。患者さんが台の上に横たわり、この台がMRI装置内を水平に移動する間に、体内の精細な画像が連続で撮影されます。台の上で患者さんがとる姿勢は、撮影する体の部位によって異なります。 セカンドオピニオンを受ける
小児の診断を確定して治療計画を立てるにあたって、保護者はセカンドオピニオンを求めることができます。セカンドオピニオンを求めるときは、最初の担当医に医学的検査の結果と報告書を提供してもらい、それらを別の医師に見せる必要があります。2人目の医師は、病理報告書、スライド、検査画像を確認します。そして、最初の医師の見解に同意するか、治療計画の変更を提案したり、患者さんのがんについて新たな情報を提供したりします。
医師を選んでセカンドオピニオンを受けるプロセスの詳細については、がん治療の医療機関を探す(英語)をご覧ください。セカンドオピニオンを提供できる医師や病院の情報については、NCIのCancer Information Serviceまで、チャット、電子メール、電話(英語とスペイン語に対応)でお問い合わせください。受診時に聞いておくとよい質問については、主治医に尋ねるべき質問(英語)をご覧ください。
DIPGの小児の治療を担う医療従事者
DIPGの治療は、小児がんの治療を専門とする小児腫瘍医が監督します。小児腫瘍医は、脳腫瘍の小児の治療に精通し、他の医療分野も専門とする他の医療専門職と協力しながら治療に取り組んでいきます。その他の専門職としては以下のものがあります:
DIPGの治療法
小児と青年のDIPGに対する治療法には様々なものがあります。保護者と担当のがん治療チームが協力して、治療法を決定します。小児の全体的な健康状態や、がんが新たに診断されたものかそれとも再発したものかなど、数多くの要因が検討されます。
小児の治療計画では、がんについての情報、治療の目標、治療選択肢、起こりうる副作用などが検討対象に含まれます。これは、治療に先立って担当のがん治療チームと今後の見通しを話し合う上で役に立ちます。実際の進め方については、NCIのがんの小児:ご両親のための手引き(英語)をご覧ください。
選択される可能性がある治療法としては以下のものがあります:
放射線療法
放射線療法では、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図ります。DIPGの治療としては、外照射療法が用いられます。この種の放射線療法では、体外に設置された装置を用いて、がんがある部分に放射線を照射します。
脳に対する放射線療法を行ってから数カ月すると、画像検査で脳組織に変化がみられる場合があります。それらの変化は、放射線療法に起因したものである場合もあれば、腫瘍の増殖を意味するものである場合もあります。そのため、さらなる治療を加える前に腫瘍が増殖していることを確実に確かめることが重要です。
詳しい情報については、がんの外照射療法(英語)および放射線療法の副作用(英語)をご覧ください。
化学療法
化学療法は、薬剤を使用してがん細胞の増殖を阻止する治療法です。化学療法では、がん細胞を死滅させるか、がん細胞の分裂を停止させます。
乳児のDIPGの治療では、化学療法の薬剤を口から投与するか、静脈に注射します。この方法で投与すると、薬剤を血流に入れて、全身のがん細胞に到達させることができます。血液脳関門を通過して脳内の腫瘍細胞に到達できる化学療法薬が使用されます。
脳に対する放射線療法は幼児の成長や脳の発達に悪影響を及ぼす可能性があることから、放射線療法の開始を遅らせたり照射量を減らしたりする目的で化学療法が行われることがあります。
詳細については、化学療法によるがん治療(英語)をご覧ください。
シャントを留置する手術
DIPGの小児では、ときに脳や脊髄の周囲を満たしている液体が増加していることがあります。その場合、シャント(細長い管)を脳室(液体で満たされた脳内の空間)から体内の他の部分(通常は腹腔)まで、皮膚の下を通して留置する手術が必要になることがあります。このシャントを通して、脳内に過剰にたまった液体を体内の他の部分に送って、そこで体に吸収されるようにします。そうすることで液体の量が減り、脳や脊髄にかかっている圧力が低下します。
髄液シャント(細長い管)により、脳内に過剰にたまった液体を体内の他の部分に送って、そこで体に吸収されるようにします。シャントは脳室(液体で満たされた脳内の空間)から体内の他の部分(通常は腹腔)まで、皮膚の下を通して留置されます。シャントには髄液の流れを制御する弁が付いています。 臨床試験
治療法の臨床試験とは、がんの患者さんを対象に、既存の治療法を改良したり、新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。小児がんはまれな疾患ですので、臨床試験への参加を検討すべきです。
NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。
詳細については、患者さんと介護者向けの臨床試験の情報(英語)をご覧ください。
DIPGの予後および予後因子
子どもがDIPGと診断されると、多くの保護者は生存の可能性を知りたくなるでしょう。がんがどのような経過をたどるかの見通しを予後といいます。
医師がDIPGの予後を予測するときには、以下のような要因を考慮します:
DIPGは、脳内に位置すること、進行の速さ、および正常組織への拡がり方のために、治療が難しいがんです。残念ながら、DIPGの小児の大半は診断後2カ月以内に亡くなっています。小児のがん治療チームは、小児の予後について、最も的確に保護者と話すことができる立場にあります。
フォローアップケア
治療を進めるにつれて、フォローアップのための検査や健診が行われます。がんの診断のために行った検査の一部を、治療効果を確認する目的で再び行うこともあります。治療の継続、変更、中止などの決定がそれらの検査結果に基づいて判断されることもあります。
治療が終わってからも度々受けることになる検査もあります。それらの検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんが再発したかどうかを知ることができます。DIPGの治療後に行った画像検査で脳内に腫瘤が認められた場合は、生検を行って、それが死んだ腫瘍細胞で構成されているのか、新しいがん細胞が増殖しているのかを調べることがあります。
子どものがんへの対処
小児ががんを発症すると、そのご家族全員に対してサポートが必要になります。この時期には、保護者が自分自身のことに気を配ることも重要になります。がんの診断に伴う精神的および身体的ストレスに対処するための支援について、担当の治療チームやご家族や地域の人々とよく話をしてください。詳細については、小児がん患者さんのご家族のためにという記事と、がんの小児:ご両親のための手引き(英語)という冊子をご覧ください。
関連資料
小児がんに関するさらなる情報とがん全般に関するその他の資料については、以下をご覧ください: