患者さん向け 睡眠障害(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、睡眠障害の原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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睡眠障害についての一般的な情報

十分な睡眠は、身体と精神の健康に必要です。

睡眠は、身体の健康と精神の健康(メンタルヘルス)を保つために重要です。睡眠中の脳と体では、健康を維持し最適な機能を保つために重要な作業が数多く行われています。

必要な睡眠をとることには、次のような効果があります:

睡眠中には、睡眠の2つの段階が繰り返し訪れます。

睡眠には2つの段階があり、「よい眠り」を得るにはその両方が必要です。これらの段階には、レム睡眠(高速眼球運動睡眠)とノンレム睡眠(非高速眼球運動睡眠)の2つがあります。

夜間の睡眠中に、ノンレム睡眠に続いてレム睡眠が来るという周期が何度も生じます。1回の周期はおよそ90分間で、7~8時間の睡眠中に4~6回繰り返されます。

睡眠障害は正常な睡眠パターンに影響を及ぼします。

正常な睡眠パターンは人によって異なります。十分な休息をとるために、比較的長く眠る必要のある人もいれば、短い睡眠で済む人もいます。睡眠が妨げられたり、本人にとって短い時間しか眠れなかったりすると、睡眠は不完全なものになり、脳が心身の回復を促すための作業を完了できなくなります。正常な睡眠に影響を及ぼす睡眠障害には、主に5つのタイプがあります。

睡眠障害は、患者さんの夜間の安眠を妨げます。そのため、患者さんは日中、寝てしまわずに活動を続けることが困難になる場合があります。睡眠障害は、がん患者さんに各種の問題を引き起こす原因になります。例えば、治療の指示を忘れてしまうとか、意思決定に支障を来すといった問題が生じます。十分な休息をとることで、活力は回復し、がんとがん治療の副作用対処するのに役立つ可能性があります。

長期間継続している睡眠障害は、不安うつ病のリスクを増大させる可能性があります。

がん患者さんの睡眠障害

睡眠障害はがん患者さんによくみられる問題です。

がん患者さんの半数の人が睡眠障害を抱えています。がんの患者さんで最も多くみられる睡眠障害は、不眠症と睡眠覚醒周期の異常です。

次のように様々な理由によって睡眠障害を抱えることになります:

腫瘍は睡眠障害の原因になることがあります。

腫瘍が認められる場合、以下のような睡眠の妨げになる問題が生じることがあります。

特定の薬剤や治療法は睡眠に影響を及ぼすことがあります。

一般的ながんの治療法と薬剤は、正常な睡眠パターンに影響を及ぼすことがあります。睡眠の量と質は、以下のような療法や薬剤の影響を受けます:

特定の薬物を長期間使用していると、不眠症になる場合があります。特定の薬物の使用を中止または減量したときに、通常の睡眠が妨げられる場合もあります。また、以下の薬剤と治療法の副作用によっても、睡眠と覚醒の周期に影響が及ぶ可能性があります:

病院での滞在が睡眠を妨げることもあります。

病院で普段のように夜間の睡眠をとることは、容易ではありません。以下の要因は、病院での睡眠に影響を及ぼします:

他に不安や年齢も、入院中の睡眠に影響を及ぼすことがあります。

がんの診断を告知されることで生じるストレスは、往々にして睡眠障害の原因になります。

ストレス、不安、うつ病は、がんの告知を受けたときや、治療中または入院中に生じる反応としてよくみられます。これらは不眠症の原因として一般的なものです。詳しい情報については、うつ病に関する要約をご覧ください。

がんとは無関係の健康問題も、睡眠障害を引き起こすことがあります。

がん患者さんは他の健康問題のために睡眠障害になることがあります。いびき、頭痛、昼間の発作などの状態や病態がみられる場合は、睡眠障害を起こす可能性が高くなります。

睡眠障害の評価

睡眠障害の有無を調べるために評価が行われます。

評価は、睡眠障害の原因となる問題を特定し、それが患者さんの生活に及ぼす影響を明らかにする目的で行われます。軽度の睡眠障害が認められる患者さんには、いらだちや集中力の低下が現れることがあります。また、中等度の睡眠障害が認められる患者さんには、うつ病や不安がみられることがあります。こうした睡眠障害があると、患者さんが昼間に寝てしまわず、活動的に過ごすことは難しくなります。例えば、治療の指示を忘れてしまうとか、意思決定に支障を来すといった問題が生じます。十分な休息をとることで、活力は回復し、がんとがん治療の副作用対処するのに役立つ可能性があります。

睡眠障害は、多かれ少なかれ時間と共に重くなるため、がん患者さんは度々評価を受けるべきです。

睡眠障害の評価では、身体診察と病歴や睡眠状況の聴取が行われます。

医師は身体診察と、以下の項目に関する病歴などの聴取を行います:

患者さんとその家族が、睡眠パターンや過去の睡眠状況について医師に伝えることも可能です。

睡眠障害を診断するために、睡眠ポリグラフ検査が実施されることがあります。

睡眠ポリグラフ検査では、以下の各項目について睡眠中の状態が記録されます:

これらの情報は医師が睡眠障害の原因を特定する際に利用されます。

睡眠障害の治療

睡眠障害の治療には、がんやがん治療の副作用に対する支持療法も含まれます。

睡眠障害がん関連疲労に伴って起こることが多く、また、おそらく関連しています。がんやがん治療の副作用によって生じる睡眠障害は、副作用の症状を抑えることで軽減できる場合があります。指導や支援を受けられるように、患者さんは自身の睡眠障害について家族と医療チームに伝えておくことが重要です。支持療法は、生活の質と睡眠状況を改善します。

認知行動療法によって、不安が軽くなり、リラックスできるようになる場合があります。

認知行動療法(CBT)は、十分に眠れないことに対する不安を軽減します。否定的な考えや見解を肯定的な思考とイメージに変化させ、容易に眠れるようにする方法を学びます。CBTでは、「寝なければいけない」という不安を「楽にしていればいい」という意識に変えるよう促されます。よい睡眠の妨げになる睡眠習慣を変える方法についても学びます。医療専門家じきじきのセッションが不可能な場合には、ビデオによるCBTセッションが有効であると示されています。CBTでは以下のような治療が実施されます:

適切な睡眠習慣について知ることが重要です。

適切な睡眠習慣は寝付きをよくし、睡眠の継続を助けます。以下の習慣や方法は、睡眠の改善に役立ちます:

快適な寝床と寝室

快適な寝床と寝室は、患者さんの睡眠を促します。以下の方法で、寝室の快適さを向上させることができます:

規則的な排便と排尿の習慣

排便排尿の習慣を整え、夜間に起きる回数を減らします。夜間にトイレに行く回数は、以下の対策で減らすことができます。

食事と運動

以下の食事と運動の習慣は、睡眠の改善に役立ちます:

他にも次のような習慣が睡眠の改善に有効です:

入院中の日課

病院や介護施設では、夜間に十分な睡眠がとれないこともあります。上記の適切な睡眠習慣を保つことが、患者さんの助けになるでしょう。入院している患者さんには、以下の方法も有効です。

薬剤を使用しない治療法で効果が得られなければ、短期間だけ睡眠薬が使用されることがあります。

薬剤を使用しない治療法が常に有効であるとは限りません。認知行動療法を実施できない場合や、効果が得られない場合もあります。また、一部の睡眠障害は、ほてりや痛み、不安、うつ病、気分障害などの薬物治療を必要とする病態によって引き起こされます。睡眠障害のタイプ(入眠の障害、睡眠維持の障害など)と他の使用中のによって、治療に用いられる睡眠薬は異なります。使用中のあらゆる薬剤と全ての健康状態が、患者さんに対する睡眠薬の安全性と効果に影響を及ぼします。

睡眠を補助する薬剤の中には、急に中止するべきではないものがあります。これらの薬物を突然中止すると、神経質や痙攣発作の原因になったり、レム睡眠の変化によって夢や悪夢を見る回数が増えたりすることがあります。こうしたレム睡眠の変化は、消化性潰瘍や心疾患の患者さんにとって危険な場合があります。

特定条件下での睡眠障害

痛みを伴う病態の患者さん

睡眠を妨げるような痛みを抱えている場合は、睡眠の投薬に先立って、痛みを軽減する治療が実施されます。使用している鎮痛などの薬剤や他の健康状態が、睡眠薬の処方に影響することがあります。

高齢の患者さん

高齢の患者さんに、ある種の不眠がみられるのは普通のことです。加齢に伴う変化のために、睡眠が浅くなり、夜間に起きる回数が増え、合計の睡眠時間が少なくなるのです。がんを患っている高齢の患者さんに睡眠障害がみられる場合は、医師が以下のような個別の原因がないかどうかを検査します:

睡眠障害に対して、まずは薬剤を使用しない治療法が試みられます。以下の方法は、高齢の患者さんの睡眠改善に役立つ可能性があります:

薬剤を使用しない治療で改善しなければ、薬剤が用いられます。医師は睡眠薬を選択する前に、健康状態と使用中の薬剤を全て確認します。患者さんによっては、医師が睡眠障害を専門とするクリニックを紹介することもあります。

顎の手術を受けた患者さん

顎の手術を受けた患者さんは、睡眠時無呼吸(睡眠中に10秒以上にわたって呼吸が止まる睡眠障害)を起こすことがあります。顎を再建する形成手術によって、睡眠時無呼吸を防止できる場合があります。

現在実施中の臨床試験

NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。

睡眠障害についてさらに学ぶために

米国国立がん研究所が提供している睡眠障害に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、睡眠障害の原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Sleep Disorders.Bethesda, MD: National Cancer Institute. Updated <MM/DD/YYYY>. Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/sleep-disorders-pdq. Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389249]

本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。

免責事項

PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。