患者さん向け 人生の最後の数日間(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、人生の最後の数日間から数時間に実施されるケアに関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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概要

終末期は数ヵ月続くこともあれば、数週間や数日間、あるいは数時間しか続かないこともあります。この時期には、がん患者さんの治療とケアについて多くの決定を下します。家族や医療提供者が、事前に患者さんの希望を把握し、終末期の計画について患者さんとオープンに話し合うことが重要です。こうしておくことで、終末期に家族が患者さんに関する大切な決定を下しやすくなります。

治療法の選択肢と計画に関する話し合いを終末期になる前に行っておけば、患者さんとその家族にかかるストレスを軽減することができます。最も効果的なのは、がんと診断された直後に終末期の計画と意思決定を開始し、疾患の経過中も続ける方法です。こうした決定事項を書面にしておけば、家族と医療チームの双方に対して患者さんの希望を明確にすることができます。

小児の患者さんが終末期疾患を患っている場合、終末期について主治医と話し合っておくと、その子が病院で過ごす期間を短縮することができ、両親が心の準備を整える助けとなるでしょう。

本要約は、がんを患っている成人の終末期について書かれたもので、がんの小児のことにも触れています。本要約では、人生の最後の数日間から数時間に実施されるケアについて説明し、さらに、よくみられる症状に対する治療法や想定される倫理的問題についても述べています。これらの情報は、この時期に直面する意思決定について、患者さんや家族が考えるときに役立ちます。

緩和ケアホスピスケアなど、終末期の計画に関する詳しい情報については、PDQ進行がんにおける終末期ケアへの移行計画に関する要約をご覧ください。

最後の数時間のケア

最後の数日間から数時間に予測される出来事を知っておくと、家族の気持ちの負担が軽減されます。

ほとんどの人は死の間際にどんな徴候が現れるかを知りません。何が起こるかを理解していれば、愛する人の死に対する覚悟ができ、ストレスや混乱を軽くすることができます。医療提供者は、最後の数時間に患者さんに起こりうる変化と、そのときに愛する人にしてあげられることについて、患者さんの家族にご説明できます。

最後の数日間から数時間になると、患者さんは食欲をなくすことがあります。

最後の数日間から数時間になると、患者さんはしばしば食欲をなくし、出された食べ物や水分を摂りたがらないことがあります。患者さんの家族は、氷のかけらを口に含ませたり綿棒で口の中や唇をぬぐってあげたりすることで、乾燥を防ぐことができます。食べ物や飲み物を強制してはいけません。患者さんを不快にさせるほか、窒息につながる可能性もあります。

死を間近に控えた患者さんは呼びかけに反応しないことがあります。

患者さんがなにもしなくなり、より長い時間を寝て過ごすようになることがあります。こうした患者さんは、質問しても答えるのが遅くなったり、全く答えなくなったり、錯乱しているように見えたり、周囲に関心を示さなくなったりします。ほとんどの患者さんは、しゃべれなくなった後も音を聞くことができます。たとえ患者さんが反応しなくても、家族が患者さんの体に触れ、話しかけ続けるようにすれば、苦痛をいくらか取り除くことができます。

死を間近に控えた患者さんでは、多くの身体的な変化がみられるのが一般的です。

終末期の患者さんには、以下のような身体的な変化が現れることがあります:

しかしながら、これらの徴候や変化は、全ての患者さんに常に起こるとは限りません。このため、患者さんがいつ死期を迎えるか知ることは困難です。

患者さんやご家族が、臨終の際に重要となる文化的または宗教的な信念や習慣をもっていることがあります。

患者さんが亡くなった後も、患者さんの家族や介護者がしばらくその場にいることを望む場合があります。この時期に患者さんや家族にとって重要となる特定の習慣や儀式がある場合もあります。具体的には、死に対処するための儀式、患者さんの遺体を扱う儀式、遺体に最後の処置を施すための儀式、故人に対する敬意を表すための儀式などがあります。患者さんが亡くなった後に行いたい習慣や儀式があるなら、患者さんと家族は医療チームにそのことを知らせておくべきです。

葬儀社への連絡など、患者さんが亡くなった後に必要となる事柄については、医療提供者、ホスピススタッフ、ソーシャルワーカー霊的指導者などに説明してもらうことが可能です。

詳しい情報については、PDQがん医療における霊性に関する要約をご覧ください。

人生最後の数ヵ月、数週間、数日間に現れる症状

終末期によくみられる症状には、次のものがあります:

せん妄

終末期には、様々な原因でせん妄が起こります。

最後の数日間になると、せん妄がよくみられます。ほとんどの患者さんは意識レベルが低下します。活動性が衰え、覚醒度が低く、活力のない状態になることがあります。患者さんによっては、激越したり落ち着きがなくなったりし、幻覚が生じる(現実に存在しないものを見たり聞いたりする)こともあります。錯乱や激越状態の患者さんが事故を起こしたり自身を傷つけたりしないよう、保護すべきです。詳しい情報については、PDQせん妄に関する要約をご覧ください。

せん妄は、脳における腫瘍の増殖といった、がんの直接的な作用が原因で生じることがあります。その他の原因には以下のものがあります:

せん妄は、その原因を特定して治療することで制御できる可能性があります。

せん妄の原因に応じて、医師は以下のような対応をとります:

最後の数時間を迎えた患者さんには、せん妄の症状だけを治療して、あとはできるだけ快適な状態を維持するという決定が下される場合もあります。 これらの症状を非常によく軽減できる薬があります。

終末期には、せん妄とは無関係の幻覚もしばしば発生します。

亡くなる間際の患者さんでは、すでに亡くなった愛する人に関する幻覚を体験することがよくあります。このような幻覚を体験している患者さんを見て、家族の方が苦痛を感じるのは正常なことです。聖職者や病院付きのチャプレンなど、宗教的なアドバイザーと話をすることが助けになるかもしれません。

疲労

疲労は最後の数日間における代表的な症状の1つです。

疲労(強い倦怠感)は終末期に生じる代表的な症状です。この時期、患者さんの疲労は日々強まっていくことがあります。眠気、筋力低下、睡眠障害が生じることもあります。脳の活動性、覚醒度、活力などを高める薬が有用です。詳しい情報については、PDQの疲労に関する要約をご覧ください。

息切れ

息切れを感じることが多くなり、最後の数日間や数週間になると、さらに悪化することがあります。

息切れがする、通常の呼吸状態に戻れないなどの症状は、しばしば進行がんが原因で生じます。その他の原因には以下のものがあります:

オピオイド薬の使用やその他の方法によって患者さんの呼吸を楽にすることができます。

オピオイドには、患者さんの息切れを軽減する働きがあります。患者さんのケアの目標に合っていれば、気管支拡張薬ステロイドといった他の薬物も検討されます。

息切れを感じている患者さんには、他にも以下の方法が有用です:

痛み

鎮痛薬にはいくつかの投与方法があります。

最後の数日間になると、鎮痛を飲み込めない患者さんもいます。患者さんが薬を飲み込めないときは、注射点滴で鎮痛剤の投与が行われることもあります。これらの方法は、医師の指示の下で、自宅で行うことも可能です。

多くの場合、最後の数時間の痛みは制御できます。

痛みの緩和にはオピオイド鎮痛薬が非常に有効で、終末期によく用いられます。患者さんや家族のなかには、オピオイド薬を使用すると死期が早まるのではと心配する方もいますが、研究により、オピオイド薬の使用と早期の死との間に関連性はないことが示されています。オピオイド薬に関する詳しい情報については、PDQのがんの疼痛に関する要約をご覧ください。

終末期に出る咳はいくつかの方法で治療することができます。

終末期には咳で患者さんの不快感が増すことがあります。咳を繰り返すことよって、痛みが生じたり、睡眠が妨げられたり、疲労感が強まったり、息切れが悪化したりする可能性があります。終末期には、その原因を特定し治療するのではなく、咳という症状を治療するという選択がなされる場合もあります。以下のような薬を用いて、患者さんの快適さをできるだけ保つことができます:

詳しい情報については、PDQの心肺症候群に関する要約をご覧ください。

便秘

最後の数日間に便秘が生じることがあります。

がん患者さんは最後の数日間に便秘になることがあります。嚥下に障害が生じた患者さんは、口から下剤を飲み込めない場合があります。便秘を治療して患者さんを快適にするために、必要に応じて下剤を直腸から注入することがあります。

嚥下障害

終末期の患者さんは食べ物や飲み物を飲み込めなくなることがあります(嚥下障害)。

最後の数日間に、がん患者さんが嚥下障害を起こすことがあります。液体と固形物の両方が飲み込みにくくなると、それによって食欲がなくなり、体重が落ちて筋消耗が起き、筋力が低下します。患者さんの食べたいときに、好きな食べ物を少量、食べてもらうとよいでしょう。補助栄養剤は最後の数日間を迎えた患者さんに有益ではなく、誤嚥や感染のリスクを高める恐れがあります。

患者さんが薬を飲み込むことができない場合は、薬剤を直腸内に入れる、注射または点滴する、皮膚にパッチを貼る、などの投与方法が用いられます。

死前喘鳴

咽頭や上気道の内部に唾液などの液体が溜まると、喘鳴が聞かれます。

咳払いができないほどに衰弱した患者さんでは、咽頭や気道の内部に唾液などの液体が溜まってくると、ゴロゴロといった音(喘鳴)が聞かれます。喘鳴には2種類のものがあります。死前喘鳴は、咽頭の後方部分での唾液の貯留が原因で起こります。もう一種の喘鳴は、感染や腫瘍、誤嚥により気道内に貯留した液体や、身体組織内の余分な水分が原因で生じます。

口腔内の唾液の量を低下させたり、上気道を乾燥させたりするために、薬を投与することもあります。

薬を使用しない喘鳴の治療としては、患者さんの姿勢を変える、水分の摂取量を少なくするなどの方法があります。

ベッドの頭側を起こす、枕で患者さんの体を支える、患者さんを横に向かせる、などの方法が喘鳴の軽減に有用となりえます。喘鳴の原因が咽頭後方部分に貯留した液体である場合は、口から吸引チューブを入れて液体を優しく除去することが可能です。

死前喘鳴は死が近いことを示す徴候です。

死前喘鳴は、数時間ないし数日間で死に至る可能性があるということを示す徴候です。喘鳴は患者さんのそばにいる人にとっては衝撃の大きい出来事かもしれません。しかし、患者さんにとっては苦痛ではないようで、息切れと同じではありません。

ミオクローヌス

ミオクローヌスは長期間、オピオイド薬を大量に使用することで生じる可能性があります。

ミオクローヌスとは、筋肉が突然ピクピクと動く症状で、本人の意思では制御できない現象です。しゃっくりもミオクローヌスの一種です。全身の様々な筋肉群がいくつか、衝撃を受けたように短く痙攣することがあります。非常に多くの用量のオピオイド薬を長期間にわたって使用すると、この症状が副作用として生じることがありますが、原因はこのほかにも存在します。

オピオイド薬がミオクローヌスの原因となっている場合は、別の種類のオピオイド薬に変更するのが有用となりえます。オピオイド薬への反応性は患者さんごとに異なるため、人によっては、ある特定のオピオイドが他のオピオイドよりミオクローヌスの原因になりやすい場合があります。

死を間近にした患者さんには、オピオイド薬を変更する代わりに、ミオクローヌスを止めるための薬が投与されることもあります。ミオクローヌスが重度の場合は、患者さんを落ち着かせ、不安を軽減し、睡眠を助けることを目的としてを使用することもあります。

発熱

感染症や薬剤、あるいはがん自体が原因で、発熱することがあります。

最後の数日間に生じる発熱の治療法は、患者さんが苦痛や不快を感じているかどうかによって異なります。感染症や薬剤、あるいはがん自体が原因で、発熱することがあります。感染症は抗生物質で治療できますが、死を間近に控えた患者さんは、発熱の原因に対する治療を受けないことを選ぶ場合があります。

出血

特定のがんや病態のある患者さんでは、突然(強い)出血が起きることがあります。

出血(短時間での重度の出血)はまれな現象ですが、最後の数時間から数分間に発生することがあります。特定のがんやがん治療では血管が損傷を受けることがあります。例えば、放射線療法では治療対象の部分の血管が脆くなることがあります。腫瘍もまた血管に損傷を与えることがあります。以下の病態のある患者さんでは、出血のリスクが高くなります:

出血の可能性について何らかの不安がある場合は、患者さんと家族はそのことについて医師と話をするべきです。

終末期に出血が起きた場合には、患者さんの状態を快適にしていくことがケアの目標となります。

出血がいつ起こるかを知ることは困難です。通常、終末期に突然の出血が起きると、患者さんは意識を失い、すぐに亡くなります。心肺蘇生(心臓の拍動を再開させようとする処置)は、たいていの場合、うまくいきません。

ケアの主要な目標は、患者さんの苦痛を取り除くことと、患者さんの家族へのサポートです。出血が起きると、患者さんの家族にとって非常に衝撃的な出来事にもなりえます。こうしたケアは、家族の方がこの出来事によって生じた感情について話をし、それについて質問をする場合に有用です。

最後の数週間、数日間、数時間のケアに関する決定

化学療法に関する決定

化学療法を続けるか中止するかの決定は、患者さんと医師が一緒に行います。進行がんの場合、患者さんの約3分の1が終末期にも化学療法などの治療を継続します。

この時期に化学療法を行うと、次のような結果につながることがあります:

しかし、一部のがん患者さんは、化学療法が現状に立ち向かうための積極的治療になると考えて、化学療法の続行を選択します。他方で、痛みなどの症状に対処する緩和ケアを選ぶ患者さんもいます。実際にどうするかは、患者さんのケアの目標と治療のリスクや有益性を考慮して決定します。

免疫療法に関する決定

免疫療法を続けるか中止するかの決定は、患者さんと医師が一緒に行います。これらの薬物を使用する患者さんは多くが高齢者か、化学療法が効かなくなった方ですが、望ましくない副作用が出ることもあります。

終末期に免疫療法による治療を行うと、次のような結果がもたらされることがあります:

ホスピスに関する決定

ホスピスケアは進行がんの患者さんが終末期に選ぶことのできる大事な選択肢です。患者さんによっては、ホスピスケアを開始するのは闘病をあきらめることだ、と感じるかもしれません。また、担当の腫瘍医との関係が悪くなることを心配する方もおられるでしょう。しかし、ホスピスケアは多くの患者さんと介護者に大きな利益をもたらします。

ホスピスケアを受けると、患者さんは次のような状態でいられるようです:

ホスピスに関連するサービスには、次のものがあります:

医師、患者さん、介護者は、ホスピスケアとその開始時期について話し合うべきです。

ホスピス利用がメディケアの給付対象になるには、患者さんが余命6ヵ月以内で治癒のための治療を受けていないことを医師が保証する必要があります。その他の保険については、ホスピスや州によって異なります。

死を迎える場所に関する決定

進行がんの患者さんの多くは自宅で亡くなることを望みます。自宅でホスピスサービスとサポートを受けながら亡くなる患者さんのほうが、症状のコントロールがうまくいき、生活の質も高くなります。さらに、病院の病室や集中治療室で亡くなる患者さんよりも、心の準備を整えて死を迎えられます。悲嘆に暮れる介護者も、愛する人が自宅で亡くなった場合のほうが喪失に順応しやすく、患者さんの意思を尊重したと感じることができます。

ホスピスケアを受ける患者さんは、希望どおり自宅で死を迎えることが多くなります。ホスピスケアは患者さんの症状をコントロールするのに役立ち、介護者に必要な支援を行います。

しかし、全ての患者さんが自宅で亡くなることを選ぶわけではありません。患者さんが望む臨終の場所とそれをかなえるための最適な方法について、患者さん、介護者、医師の三者で話し合うことが重要です。

進行がんの小児の場合は、病状が進む前に、死を迎える場所について家族と医師が話し合っておくようにしてください。病院で亡くなる小児は強い治療を受ける傾向があり、そうした小児の保護者は、自宅で亡くなる小児の保護者よりも複雑な悲嘆を体験するかもしれません。

最後の数日間に行われる延命治療に関する決定

最後の数日間に、患者さんと家族は、患者さんの命をつなぐための治療について決定を下さなければなりません。

生命を引き延ばすための延命治療を行うかどうかを、最後の数週間から数日間に決めようとすると、大きな混乱不安を招くことになります。こうした治療には、人工呼吸器の使用や非経腸栄養透析などがあります。

担当の腫瘍医が患者さんの方針を導くこともありますが、延命治療に関して決定を下す権利は患者さんにあります。以下のような疑問について話し合います:

終末期のケアや治療に関する選択は、患者さんが自分で決断できるうちに行っておくべきです。

最後の数日間に、可能な治療を全て受けたいと希望する患者さんもいれば、一部の治療法だけを望む患者さんや、一切の治療を望まない患者さんもいます。これらの決定事項は、前もって事前指示書リビングウィルもその一種)という書面にすることができます。事前指示書とは、一定の種類の法的書類を総称した用語で、ある人が自分の意思を表明できなくなったときに受けたい、あるいは受けたくないと望む治療法やケアを記載するものです。

研究によると、主治医との間で終末期についての話し合いを行ったがんの患者さんは、心肺蘇生や人工呼吸器の使用などの処置を選択することが少なくなるようです。また、集中治療を受けることも少なくなり、最後の数週間の医療コストは低くなる傾向にあります。介護者からの報告によれば、こうした患者さんは、より多くの処置を選択した患者さんと同じくらいの期間にわたって生存し、最後の数日間の生活の質はより高いものになるそうです。

詳しい情報については、PDQ進行がんにおける終末期ケアへの移行計画に関する要約をご覧ください。

患者さんの霊的健康をサポートするケアで、生活の質が上がることがあります。

霊的評価は、患者さんの人生に宗教的信念や霊的信念が果たす役割を医師が理解するための手法でありツールです。医師は、これらの信念が患者さんのがんへの対処法やがん治療に関する決定にどう影響するかを把握するために、霊的評価を利用できます。

がんのような重篤な病気になると、患者さんや家族介護者の方が自らの信念や宗教的価値観に疑念を抱き、霊的な苦悩を感じることがあります。いくつかの研究によると、がん患者さんは診断を受けた後に、神に対する怒りを感じたり、信仰心を失ってしまったりする場合があります。また、がんに対処するときに霊的な苦悩を感じる患者さんもいます。霊的な苦悩があると、終末期に関する決定に影響が及び、うつ状態が強まります。

医師と看護師は、ソーシャルワーカー心理士と協力して、患者さんの霊的健康をサポートするケアを行うことができます。霊的な面でのリーダーや宗教指導者に会ったり、霊的サポートグループに参加したりするよう、患者さんに勧めることもあります。こうした活動を通じて、生活の質や病気への対処能力が向上するかもしれません。進行がんの患者さんが医療チームから霊的面で支援を受けている場合は、終末期にホスピスケアを選ぶ傾向が高く、積極的な治療を選択することはほとんどありません。

詳しい情報については、PDQのがん医療における霊性に関する要約をご覧ください。

水分

終末期に水分を補給する目的について、患者さんと家族に医師を交えて話し合うべきです。

患者さんが通常のように飲食できなくなった後に、水分投与が行われることがあります。水分投与は、静脈内(IV)カテーテルや皮膚下に挿入した針から行われます。

水分投与に関する決定は患者さんのケア目標をもとに行うべきです。水分投与によって患者さんの余命が延びることや生活の質が改善されることは、証明されていません。しかし、悪影響は少ないので、患者さんの疲労が軽くなり覚醒度が高まるようであれば、家族が有益と感じることもあるでしょう。

家族が少量の水や氷のかけらを口に入れてあげたり、綿棒で口の中や唇をぬぐってあげたりして、乾燥を防ぐことができます。

栄養サポート

最後の数日間の患者さんに対する栄養サポートの目標は、がん治療を行っている期間における目標とは異なります。

がんの治療中、栄養サポートによって健康状態の改善や治癒の促進を図ることができます。最後の数日間における栄養療法の目標は、積極的ながん治療を受けている患者さんや回復過程にある患者さんの目標とは異なります。最後の数日間になると、患者さんは飲食に関する願望を失うことがよくあり、出された飲食物をとりたがらないこともあります。さらに、栄養管を挿入する手技が、患者さんにとって非常に大きな負担になりかねません。

最後の数日間における栄養サポートについて計画を立てておくことが有益です。

終末期ケアの目標は、苦痛を未然に防ぎ、症状を緩和していくことにあります。栄養サポートが原因で生じる苦痛の程度がその有益性を上回る場合には、それ以降から終末期の栄養サポートは中止されることがあります。栄養サポートを行うかどうかについては、その患者さんのニーズと最善の利益が決定の指針となります。患者さんが栄養サポートに関する意思決定と計画を行っておけば、医師と患者さんの家族は、自分たちが患者さんの希望に沿って行動していると確信することができます。

栄養サポートには一般に2種類の方法が用いられます。

患者さんが物を飲み込むことができない場合には、一般に以下の2種類の栄養サポートの方法が用いられます:

どちらの栄養サポートにも有益な点とリスクがあります。詳しい情報については、PDQのがん医療における栄養に関する要約をご覧ください。

抗生物質

最後の数日間に抗生物質を使うことの利益は、明らかになっていません。

感染に対する抗生物質などの治療は、最後の数日間を迎えた患者さんに一般的に用いられていますが、どのくらい有効かは一口に言えません。また、終末期に抗生物質を使用することが有益かどうかも、はっきりした答えを出しにくい問題です。

概して、最後の数日間がくると、医師は余命を延ばす見込みのない治療よりも、患者さんを快適にする処置を好ましいと考えます。

輸血

進行がんの場合に輸血を行うかどうかは、ケアの目標やその他の要因に応じて決定します。

進行がんの患者さんの多くに貧血がみられます。進行した血液がんの患者さんは、血小板減少症血液中の血小板の数が正常よりも少なくなった病態)を患うこともあります。これらの病態に対して輸血を行うかどうかは、以下の要因に基づいて決定します:

通常、患者さんは自宅以外の医療施設で輸血を受けることになるので、簡単には決められません。

多くの患者さんは、積極的治療や支持療法の間に輸血を受けているので、安心を求めて輸血を続けたいと望むことがあります。しかし、複数の研究によると、終末期の輸血は安全とも有効であるとも言えません。

蘇生

患者さんは心肺蘇生(CPR)を希望するかどうかを決めるべきです。

患者さんが決定しておくべき重要な事柄の1つに、心肺蘇生(CPR)(停止した心臓の拍動と呼吸を再開させようとする行為)を行うかどうかがあります。CPRに関する希望については、できるだけ早いうち(例えば、入院するときや、積極的ながん治療を中止するとき)に家族、医師、介護者と話し合っておくのが最善です。他の医療従事者が死の瞬間にCPRを行わないように(そうして患者さんが自然な死を迎えられるように)するために、医師によって蘇生処置拒否(DNR)指示が書かれます。希望する場合には、患者さんは医師にDNR指示を書くよう依頼することができます。また、患者さんはいつでもDNR指示の変更や撤回を依頼することができます。

病院または集中治療室で迎える最後の数日間

集中治療を行うかどうかは、話し合って選択すべきです。

終末期付近になって、進行がんの患者さんが他のケアを選択しておらず、病院または集中治療室(ICU)に入院することがあります。ICUで、患者さんや家族の方は、余命を延ばすかもしれないが生活の質を改善しない積極的な治療を開始または継続するかどうか、あるいは中止するかどうかという厳しい決断を迫られます。家族は気持ちが定まらず、治療の制限や回避をなかなか決められないかもしれません。

短期間の透析輸血などの治療が試されることもあります。しかし、患者さんや家族はICUケアの継続について、いつでも医師に要望を伝えることができます。最後の数日間に緩和ケアに切り替えることもできます。

人工呼吸器を使用すれば、正常な呼吸が停止した後も患者さんの生命を維持できます。

人工呼吸器は患者さんの呼吸を補助するための機械です。ときとして、人工呼吸器を使用しても患者さんの状態は改善されず、延命につながるだけの場合があります。ケアの目標が患者さんの余命を延ばすことである場合には、患者さんの希望に応じて、人工呼吸器が使用されることがあります。人工呼吸器の使用が患者さんにとって有益でなくなった場合や、それがもはや患者さんの意に沿わなくなった場合には、患者さんや家族、医療チームによって、人工呼吸器を停止するという決断が下されることがあります。

人工呼吸器を停止する場合、患者さんの家族は、それ以降に何が起こるかについての事前説明を受けます。

患者さんの家族には、人工呼吸器を外したときの患者さんの反応や、患者さんの苦痛を取り除くために行う鎮痛または鎮静についての説明が行われます。患者さんの家族が、看取りを希望する患者さんの愛する人たちに連絡を取れるように、一定の時間が設けられます。家族に対する支援を提供するためにチャプレンソーシャルワーカーが呼ばれることもあります。

終末期の苦痛と緩和療法による鎮静

患者さんと介護者の感情は密接に関連しています。

患者さんと介護者はがんの苦悩を共有し、ときには介護者が患者さん以上に苦しむこともあります。介護者の苦悩は、患者さんの幸福感にも喪失に対する介護者の適応にも悪影響を及ぼしかねないので、早くから継続的に介護者を支援することが非常に重要です。

緩和療法による鎮静は意識レベルを低下させ、極度の痛みと苦しみを緩和します。

緩和療法による鎮静は、鎮静剤と呼ばれる薬剤で患者さんを鎮静化し意識を喪失させることにより、極度の苦痛を緩和します。

終末期の患者さんに鎮静を行うかどうかは難しい決断です。鎮静は、患者さんの苦痛を取り除くため、あるいは制御できない痛みなどの身体的な状態に対処するために検討されます。緩和療法による鎮静は断続的に行われることもあれば、亡くなるまで続けられることもあります。終末期の鎮静に対する考え方や感じ方は、患者さんの属する文化や信念に大きく依存することがあります。死に直面して不安になる患者さんのなかには、鎮静を希望する人もいます。一部の患者さんとその家族は、互いにコミュニケーションをとることができる鎮静のレベルを希望する場合があります。一方で、死の直前には鎮静をはじめ一切の処置を行ってほしくないと望む患者さんもいます。

いくつかの研究で、最後の数日間に緩和療法による鎮静で余命が短くなるかどうかが検討されましたが、証明されませんでした。

終末期の鎮静についての希望を家族と医療提供者に伝えておくことが、患者さんにとって重要です。鎮静についての希望を患者さんが前もって明確にしておけば、医師と家族は、自分たちが患者さんの希望に沿って行動していると確信することができます。緩和的鎮静を使用する場合に、家族が医療チームやメンタル・ヘルス・カウンセラーの支援を必要とすることもあります。

悲嘆と喪失

悲嘆は、愛する人を失ったことに対する正常な反応です。喪失に対処できないと感じている人には、訓練を受けた専門家による悲嘆カウンセリング悲嘆療法が助けになることがあります。詳しい情報については、PDQ悲嘆、死別、喪失への対処に関する要約をご覧ください。

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、人生の最後の数日間から数時間に実施されるケアに関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Last Days of Life.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/advanced-cancer/caregivers/planning/last-days-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389429]

本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。

免責事項

PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。