患者さん向け がんの予防法の概要(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、がんの予防に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Screening and Prevention Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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予防とは

がん予防とは、がんになる可能性を減らすためにとる対策です。米国では2021年に190万人近くががんと診断されることになります。がんによる身体的問題や精神的な苦痛に加えて、高い介護のコストもまた、患者、家族、一般人に負担となります。がんを予防することで、がんの新規症例の数が減少します。うまくいけば、それにより、がんの負担やがんによる死亡者の数を減らすことができます。

がんは単一の疾患ではなく、関連する疾患群です。私たちの遺伝子や生活習慣、周囲の環境に含まれる多くの事物によって、がんになるリスクは増減します。

科学者はがんを予防するために、以下のような多くの方法を研究しています:

発がん

発がんとは、正常な細胞ががん細胞へと変化する過程のことです。

発がんとは、正常な細胞ががん細胞へと変化する中で起こる一連の段階を示します。細胞は体を構成する最小単位で、体の組織を形成しています。それぞれの細胞には遺伝子が含まれ、そこに体の成長や発育、自己修復の方法が規定されています。多くの遺伝子が存在し、細胞が生存するか死ぬか、分裂(増殖)するか否か、また、特別な機能を担うようになる(神経細胞や筋細胞になるなど)かどうかを制御します。

遺伝子内の変化(突然変異)は発がんの過程で起こります。

遺伝子内の変化(突然変異)は、細胞内の正常な調整を崩壊させる原因になります。これが発生すると、細胞が適切なときに死ななくなり、体が必要としていないときにも新しい細胞が生産されるようになります。余分な細胞が作られると、腫瘤(腫瘍)の形成を引き起こす場合があります。

腫瘍は良性の場合も、悪性(がん性)の場合もあります。悪性腫瘍細胞は周囲の組織に侵入し、体の他の部位に拡がります。良性腫瘍細胞は周囲の組織に侵入せず、拡がることもありません。

リスク因子

新たながんの発生を予防するために、科学者リスク因子防御因子に注目します。がん発生の可能性を高めるものは全てがんのリスク因子と呼ばれ、がん発生の可能性を低減させるものは全てがんの防御因子と呼ばれます。

がんのリスク因子には回避できるものもありますが、回避できないものも数多くあります。例えば、喫煙の習慣と特定の遺伝子をもっていることは、どちらもある種のがんのリスク因子ですが、避けることができるのは喫煙だけです。人が管理できるリスク因子は、修正可能なリスク因子と呼ばれます。

他にも私たちの環境、食事、生活様式には多くの因子があり、がんを引き起こしたり、予防したりすることが考えられます。本要約では、がんの主要なリスク因子と防御因子のうち、がんのリスクを低下させるために管理または変更できるものについて説明しています。本要約で扱われていないリスク因子には、性的行為、エストロゲンの使用、就業中の特定の物質への曝露、特定の化学物質への曝露などがあります。

がんのリスクを増大させることが判明している因子

紙巻きタバコの喫煙やその他のタバコの使用

タバコの使用は、様々ながんのリスクの増大に強く関連しています。紙巻きタバコの喫煙は以下のがんの最大の原因です:

喫煙しないことや禁煙の実施は、がんになるリスクやがんで死亡するリスクを低下させます。科学者の間では、米国で発生している全てのがんによる死亡の約30%が、紙巻きタバコの喫煙が原因で発生していると考えられています。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

感染

特定のウイルス細菌はがんを引き起こす可能性があります。発がん性のウイルスや細菌の例には以下のものがあります:

発がん性因子への感染を予防する2種類のワクチンがすでに開発されており、米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けています。1つはB型肝炎ウイルスへの感染を防ぐワクチンです。もう1つのワクチンは、子宮頸がんを引き起こすいくつかの系統のヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぎます。科学者により、がんを引き起こす感染に対するワクチンの研究が続けられています。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

放射線

放射線への曝露は、がんの原因となることが知られています。がんのリスク増大に関係する放射線は、主に次の2種類です:

電離放射線は、白血病甲状腺がん、女性の乳がんを引き起こすと科学者たちは考えています。さらに電離放射線は、骨髄腫結腸食道膀胱卵巣のがんにも関連している可能性があります。診断用X線により放射線に曝されることで、患者さんやX線技師ががんになるリスクが高まります。小児と青年に対する診断的放射線は、若い年齢でがんになるリスクが高くなることと関連しています。

過去20年間にわたってCTスキャンの利用が増加するにつれ、電離放射線の曝露が増加しています。さらに、CTスキャンを患者さんが受けた回数と、1回ごとの放射線の線量の増加とともにがんリスクは増加します。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

臓器移植後の免疫抑制薬

他の人から提供された臓器移植後に、患者さんに対して免疫抑制薬が使用されることがあります。この種の薬物は移植された臓器の拒絶反応を抑制します。これらの薬物は体の免疫反応を抑えることで、そうした拒絶反応を防止します。免疫抑制薬は体ががんの発生を抑える能力を低下させるため、がんのリスク増大と関連しています。がん、特にウイルスによって引き起こされるがんのリスクは、臓器移植後6ヵ月で高くなりますが、リスクは長年にわたって続きます。

がんのリスクに影響する可能性のある因子

食事

日常的に摂取する食物によって食事が構成されます。食事はがんのリスク因子として研究されています。食事には、がんを予防する働きを持つ食物とがんのリスクを高める食物がともに含まれているため、がんに対する食事の影響を研究することは困難です。

さらに、研究に参加する人々が長期間にわたって食べたものを記録し続けることも容易ではありません。いくつもの研究で、食事ががんのリスクに及ぼす影響について様々な結論が出ているのは、こうした理由によると考えられます。

いくつかの研究では、脂肪、蛋白カロリー、赤肉を多く含む食事は、大腸がんのリスクを高めることが示されていますが、別の複数の研究ではこの結果は証明されていません。

脂肪をあまり含まず、線維、果物、野菜を多く含む食事が大腸がんのリスクを低下させるかどうかについては、明らかになっていません。

アルコール

複数の研究により、アルコールの摂取(飲酒)は以下のがんのリスク増大に関連することが示されています:

飲酒は肝がんと女性の大腸がんのリスクを高める可能性もあります。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

運動

よく体を動かしている人は、あまり運動をしない人と比べて特定のがんのリスクが低いことが複数の研究で示されています。しかし、運動自体がこのリスク低下の理由かどうかは明らかになっていません。

運動と大腸がんのリスク低下の間に強い関連があることが、複数の研究で示されています。いくつかの研究は、運動が閉経後の乳がんと子宮内膜がんを予防することを示しています。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

肥満

複数の研究で、肥満は以下のがんのリスク増大に関連することが示されています:

いくつかの研究で、肥満は胆嚢がんおよび肝がんのリスク因子にもなることが示されています。

体重の減量により肥満に関連するがんのリスクが低下するかどうかは明らかになっていません。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

糖尿病

複数の研究により、糖尿病は、以下のがんのリスクをわずかに高める可能性があることがわかりました:

糖尿病とがんの間には、いくつか共通のリスク因子があります。こうしたリスク因子には以下のようなものがあります:

糖尿病とがんにはこうしたリスク因子が共通しているので、がんのリスク上昇が糖尿病のせいなのか、これらのリスク因子のせいなのかを判別することは困難です。

複数の研究で、糖尿病治療用の薬剤ががんのリスクに及ぼす影響が調べられています。

環境リスク因子

周囲環境に存在する化学薬品などの物質へ曝されることは、以下のように一部のがんと関係しています:

殺虫剤やその他の汚染物質によりがんのリスクが高まるかどうかを調べる研究がすでにいくつか行われています。これらの研究では、他の因子により研究の結果が左右されるため、明確な結果は得られませんでした。

がんのリスクを低下させることが判明している介入

介入とは、疾患を予防または治療するため、あるいはその他の方法によって健康状態を改善するために行われる治療や行為のことです。多くの研究で、がんの発生や再発(再び現れること)を阻止する方法の探索が行われています。

がん発生のリスクが高い患者さんを対象に、化学予防が研究されています。

化学予防では、がんのリスクを低下させたり再発を防止したりする物質を使用します。天然由来の物質もあれば、製造ラボで産生される物質もあります。いくつかの化学予防薬は、特定のがんのリスクが高い人を対象として試験が行われています。そのリスクは、前がん状態家族歴、または生活習慣などの因子によるものです。

以下のいずれかの薬物を使用すると、がんのリスクが低下する可能性があります:

がんの予防に関する詳しい情報については、NCIのWebサイトをご覧ください。

がんのリスクを低下させることが判明していない介入

ほとんどのがんに対するアスピリンの予防効果は実証されていません。

アスピリン化学予防の手段として研究されています。これらの研究では相反する結果が出ていますが、アスピリンががんを予防しないことを示した結果が大半です。しかし、長期間にわたりアスピリンを服用すると、一部の人の大腸がんを予防する可能性があることが報告されています。詳しい情報については、PDQ大腸がんの予防に関する要約をご覧ください。ランダム化試験の結果から、高齢者のアスピリン服用はがんの増殖を速める可能性があることが示唆されていますが、この結果を確かめるにはさらに長期の経過観察が必要です。アスピリンの副作用には消化管や脳の出血があります。アスピリンは、ほとんどのがんに関する発生リスクの低減効果は認められていませんが、それ以外にも多くの用途があり、例えば心疾患により死亡する確率を低下させる働きがあります。長期間のアスピリン使用を開始する前に、関連する利益と害について担当医と話し合うことが重要です。

ビタミン剤と栄養補助食品のがん予防効果は証明されていません。

介入とは、疾患を予防または治療するため、あるいはその他の方法によって健康状態を改善するために行われる治療や行為のことです。

複合ビタミン剤およびミネラル栄養補助食品、または単一のビタミンもしくはミネラルの摂取によりがんが予防できるという十分な証拠はありません。以下のビタミンおよびミネラルの栄養補助食品が研究されていますが、がんのリスクを低下させる効果は示されていません:

セレンとビタミンEによるがん予防試験(Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial 、SELECT)により、ビタミンE単独の服用では前立腺がんのリスクが高くなることが明らかになりました。このリスクは、男性がビタミンEの服用を停止した後も継続して認められました。ビタミンEにセレンを併用した場合またはセレンを単独で併用した場合には、前立腺がんのリスクは増加しませんでした。

ビタミンDに抗がん作用があるかどうか調べる研究も行われています。皮膚が日光に曝されると、ビタミンDが産生されます。また、ビタミンDは食事栄養補助食品で摂ることもできます。ビタミンDを400~1,100 IU/日の用量で服用した場合にがんのリスクが増えるか減るかは、いずれも証明されていません。

ビタミンDとオメガ-3の試験(VITamin D and OmegA-3 TriaL、VITAL)が実施中で、ビタミンD(2,000 IU/日)と海洋生物(油が豊富な魚)由来のオメガ3脂肪酸を摂取することで、がんのリスクが低下するかどうか研究されています。

すでにがんにかかっていて複合ビタミン剤を毎日摂取している男性が二次がんのリスクがわずかに低くなる可能性があることがPhysicians' Health Studyによって明らかになりました。

詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:

現在、新たながんの予防法が臨床試験で検証されています。

NCIが支援する臨床試験に関する情報は、NCIの臨床試験検索ウェブページで探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、がんの予防に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Screening and Prevention Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Cancer Prevention Overview.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/patient-prevention-overview-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389424]

本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。

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PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。

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Cancer.govウェブサイトを通じてのお問い合わせやサポートの依頼に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載しています。ウェブサイトのE-mail Usから、Cancer.govに対して質問を送信することもできます。