このPDQがん情報要約では、非小細胞肺がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("最終更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
肺は、胸部に位置する円錐形をした左右一対の呼吸器官です。肺の果たしている役割の1つは、息を吸い込むときに酸素を体内に取り込むことです。また、息を吐き出すときに二酸化炭素(全身の細胞から出てくる老廃物)を体外に放出するという役割も果たしています。左右の肺はそれぞれいくつかの部分に分かれていて、それらのことを肺葉と呼びます。左側の肺は2つの肺葉で構成されています。右側の肺は左側の肺よりも若干大きく、3つの肺葉で構成されています。また、肺には気管支と呼ばれる管が1本ずつ入り込んでいますが、これらは気管から伸びています。肺がんはときにこの気管支も侵します。肺の内部は、肺胞と呼ばれる空気の入った微小な袋と、細気管支と呼ばれる小さな管から構成されています。
呼吸器系の解剖図:気管、左右の肺とそれぞれの肺葉、気道を示します。リンパ節と横隔膜も示されています。肺に吸い込まれた酸素は、肺胞の薄い膜を通過して血液中に取り込まれます(拡大図を参照)。 |
左右の肺の外側と胸腔の内壁は胸膜と呼ばれる薄い膜で覆われています。この胸膜は胸膜腔と呼ばれる袋を形成しています。この胸膜腔の中には正常時でも少量の液体が存在していて、この液体のおかげで、呼吸に伴った胸腔内での肺の動きが円滑に保たれています。
肺がんには、大きく分けて非小細胞肺がんと小細胞肺がんの2種類があります。
肺がんに関する詳しい情報については以下のPDQの要約をご覧ください:
それぞれの種類の非小細胞肺がんには、種類の異なるがん細胞が認められます。その種類ごとに、がん細胞の増殖の仕方や拡がり方が異なります。それぞれの種類の非小細胞肺がんには、そのがんの中に認められる細胞の種類とそれを顕微鏡で観察したときの外観に応じて、以下のような名前が付けられています:
あまり多くはみられないものの、多形性がんやカルチノイド、唾液腺がん、分類不能がん腫などの腫瘍も非小細胞肺がんに含まれます。
喫煙は非小細胞肺がんの主要なリスク因子です。疾患が発生する可能性を増大させるものは全てリスク因子と呼ばれます。リスク因子を持っていれば必ずがんになるというわけではありませんし、リスク因子を持っていなければがんにならないというわけでもありません。肺がんのリスクについて不安がある場合は、担当の医師にご相談ください。
肺がんのリスク因子には以下のものがあります:
高齢であることは、ほとんどのがんで主要なリスク因子です。歳をとればとるほど、がんになる確率は高まります。
喫煙だけでなくそれ以外のリスク因子が同時に存在する場合は、肺がんのリスクはさらに高くなります。
非小細胞肺がんの徴候には、息切れや治らない咳などがあります。肺がんでは、何の徴候も症状も現れないことがあります。別の状態に対して実施された胸部X線検査で発見されることもあります。徴候や症状が現れたとしても、肺がんが原因の場合もあれば、別の病態が原因である可能性もあります。以下の問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:
非小細胞肺がんでは、発見と診断と病期分類について、そのための検査や手技を一度に実施することが多くなっています。以下のような検査法や手技が用いられます:
胸部X線検査。この検査では、X線を利用して胸部の臓器と骨の画像を撮影します。X線は患者さんの体内を通過してからフィルム上に到達します。 |
肺の穿刺吸引生検。患者さんにはCT(コンピュータ断層撮影)装置の中を水平に移動する台の上に横になってもらい、この装置によって体の内部のX線写真を撮影します。このX線画像は、肺のどこに異常組織が存在するのかを特定するのに役立ちます。続いて生検針を胸壁から肺の異常組織のある領域まで挿入します。この針を通して少量の組織を採取し、これを顕微鏡で観察して、がんの徴候がないかを調べます。 |
気管支鏡検査。気管支鏡を口から気管および気管支を通して肺の内部まで挿入して、異常な部分がないかを調べます。気管支鏡とは、観察用のライトとレンズを備えた細いチューブ状の器具のことです。組織を切除するための器具を備えているものもあります。これにより組織のサンプルが採取されることもあり、顕微鏡で疾患の徴候を調べる検査が行われます。 |
予後(回復の見込み)と治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:
治療法の改善を目的として数多くの臨床試験が実施されていますので、肺がんと診断された場合には、そうした臨床試験への参加を検討すべきです。どの病期の非小細胞肺がんについても、米国のほとんどの地域で臨床試験が実施されています。現在進行中の臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。
がんの肺の中での拡がりや他の部位への転移の有無を調べていくプロセスは、病期分類と呼ばれます。この過程で集められた情報を基にして病期が判定されます。治療計画を立てるためには病期を把握しておくことが重要です。非小細胞肺がんでは、診断の際に用いられる検査法が病期分類の際にも用いられます。(一般的な情報のセクションをご覧ください。)
病期分類の過程で用いられるその他の検査法や手技としては以下のものがあります:
PETスキャン(陽電子放射断層撮影)。患者さんが横たわった台がPET装置の中を水平に移動していきます。ヘッドレストと白い帯は患者さんの動きを制止するためのものです。放射性のブドウ糖を少量だけ静脈内に注射した後、スキャナを作動させて、ブドウ糖が消費されている領域を示す体内の画像を作成していきます。悪性腫瘍細胞は、正常な細胞よりもブドウ糖を多く取り込むため、この画像では腫瘍がより明るく映し出されます。 |
超音波内視鏡下の穿刺吸引生検。超音波プローブと生検針を備えた内視鏡が口から食道の内部へと挿入されています。プローブから出た音波が体の組織で反響することによってエコーが発生し、この情報を基にして食道付近のリンパ節のソノグラム(コンピュータ画像)が作成されます。このソノグラムは、リンパ節から組織を採取するために生検針を挿入する位置を決定するのに役立ちます。切除された組織は顕微鏡で観察され、がんの徴候がないか調べられます。 |
縦隔鏡検査。胸骨の最上部に作られた切開口から縦隔鏡を胸部に挿入し、左右の肺の間の領域に異常な部分がないかを調べます。縦隔鏡とは、観察用のライトとレンズを備えた細いチューブ状の器具のことです。組織を切除するための器具を備えているものもあります。胸部の右側のリンパ節から組織のサンプルを採取することもあり、そのサンプルは顕微鏡で観察され、がんの徴候がないか調べられます。前縦隔切開(チェンバレン手技)では、胸骨の横が切開され、そこから胸部の左側のリンパ節から組織サンプルが採取されます。 |
がんが体内の他の部位に拡がることを転移と呼びます。がん細胞は発生した場所(原発腫瘍)から分離し、リンパ系や血液を介して移動します。
転移性腫瘍は、原発腫瘍と同じ種類の腫瘍です。例えば、非小細胞肺がんが脳に転移した場合、脳にできたがん細胞は、実際は肺がんの細胞です。このような疾患は、転移性肺がんであって、脳腫瘍ではありません。
非小細胞肺がんでは以下のような病期が用いられます:潜伏期では、がんを画像検査や気管支鏡検査で見つけることはできません。痰(咳によって肺から排出される粘液)または気管支洗浄液(肺につながっている気道内から採取した細胞のサンプル)の中にがん細胞が認められます。がんが体の他の部位に拡がっている場合もあります。
0期(上皮内がん)0期では、気道の表面に異常な 細胞が認められます。こうした異常細胞は、がん化して周辺の正常組織に拡がっていく可能性があります。0期は上皮内がんとも呼ばれます。
I期I期の非小細胞肺がん。IA期では、肺の内部のみにがんが認められ、大きさは3cm以下です。IB期では、(a)がんの大きさが3cmを超えるが5cm以下、(b)主気管支まで拡がっている、(c)肺胸膜の最も内側の層まで拡がっているなどの特徴がいくつかあります。さらに、肺の一部がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあります(図には示していません)。 |
I期では、すでにがんが形成されています。I期は、以下のIA期とIB期に分けられます:
II期は、IIA期とIIB期に分けられます。IIA期とIIB期は、腫瘍の大きさ、腫瘍が発見された場所、がんがリンパ節に転移しているかどうかによって、それぞれ2つの種類に分けられます。
IIA期の非小細胞肺がん。がんは原発腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節に転移しており;さらに、(a)がんの大きさが5cm以下、(b)主気管支まで拡がっている、(c)肺胸膜の最も内側の層まで拡がっているなどの特徴がいくつかあります。または、がんはリンパ節に転移していませんが;(d)がんの大きさが5cmを超えているが7cm以下、(e)主気管支まで拡がっている、(f)肺胸膜の最も内側の層まで拡がっているなどの特徴がいくつかあります。さらに、肺の一部がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあります(図には示していません)。 |
(1) 腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。がんが転移するリンパ節は、肺の内部または気管支の近くです。さらに、以下の条件の1つまたは複数が満たされます:
または、
(2)がんはリンパ節に転移しておらず、以下の条件の1つまたは複数が満たされます:
IIB期の非小細胞肺がん。がんが原発腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節に転移しており;さらに、(a)がんの大きさが5cmを超えるが7cm以下、(b)主気管支まで拡がっている、(c)肺胸膜の最も内側の層まで拡がっているなどの特徴がいくつかあります。さらに、肺の一部がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあります(図には示していません)。または、(d)がんの大きさが7cmを超える;(e)主気管支、(f)横隔膜、(g)胸壁または胸壁胸膜のいずれかにがんが拡がっている;(h)心臓の周囲を覆っている膜にがんが拡がっているなどの特徴がいくつかあります。さらに、肺の同じ葉に別の腫瘍が1つ以上存在している;横隔膜を制御する神経にがんが拡がっている;全ての肺がつぶれているか、炎症を起こしているなどの特徴がいくつかある場合もあります(図には示していません)。 |
(1) 腫瘍と同じ側の胸にある近くのリンパ節にがんが転移しています。がんが転移するリンパ節は、肺の内部または気管支の近くです。さらに、以下の条件の1つまたは複数が満たされます:
または、
(2)がんはリンパ節に転移しておらず、以下の条件の1つまたは複数が満たされます:
IIIA期は、腫瘍の大きさ、腫瘍が発見された場所、および(もしあれば)どのリンパ節にがんが転移しているかによって、3つの種類に分けられます。
IIIA期の非小細胞肺がん(1)。原発腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。(a)主気管支;(b)肺胸膜、胸壁内膜、または胸壁;(c)横隔膜;(d)心臓の周囲を覆っている膜のいくつかにがんが拡がっている場合があり;(e)肺の同じ葉に別の腫瘍が1つ以上存在している場合もあります。さらに、横隔膜を制御する神経にがんが拡がっている場合があり、肺の一部または全ての肺がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあります(図には示していません)。 |
(1)腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。がんが転移するリンパ節は、胸骨の近く、または気管支が肺に入るところです。さらに、以下の条件が満たされます:
または、
IIIA期の非小細胞肺がん(2)。原発腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。(a)主気管支;(b)肺胸膜、胸壁内膜、または胸壁;(c)横隔膜;(d)心臓とその周囲を覆っている膜;(e)心臓につながる大きな血管;(f)気管;(g)食道;(h)胸骨;(i)気管分岐部のいくつかにがんが拡がっている場合があり;(j)同じ肺のいずれかの葉に別の腫瘍が1つ以上存在している場合もあります。さらに、横隔膜や喉頭を制御する神経にがんが拡がっている場合があり、全ての肺がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあります(図には示していません)。 |
(2)腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。がんが転移するリンパ節は、肺の内部または気管支の近くです。さらに、以下の条件が満たされます:
または、
IIIA期の非小細胞肺がん(3)。(a)心臓;(b)心臓につながる大きな血管;(c)気管;(d)食道;(e)胸骨;(f)気管分岐部のいくつかにがんが拡がっています。さらに、喉頭を制御する神経にがんが拡がっている場合もあります(図には示していません)。 |
(3)がんはリンパ節に転移しておらず、腫瘍の大きさは様々です。以下のいずれかにがんが拡がっている:
IIIB期は、腫瘍の大きさ、腫瘍が発見された場所、どのリンパ節にがんが転移しているかによって、2つの種類に分けられます。
IIIB期の非小細胞肺がん(1)。鎖骨の上のリンパ節、または原発腫瘍と反対側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。(a)主気管支;(b)肺胸膜、胸壁内膜、または胸壁;(c)横隔膜;(d)心臓またはその周囲を覆っている膜;(e)心臓につながる大きな血管;(f)気管;(g)食道;(h)胸骨;(i)気管分岐部のいくつかにがんが拡がっている場合があり;(j)肺のいずれかの葉に別の腫瘍が1つ以上存在している場合もあります。さらに、肺の一部または全ての肺がつぶれたり、炎症を起こしたりする場合もあり、がんが背骨に拡がっていたり、横隔膜や喉頭を制御する神経に拡がっていたりする場合もあります(図には示していません)。 |
(1)鎖骨の上のリンパ節、または腫瘍と反対側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。さらに、以下の条件が満たされます:
または、
IIIB期の非小細胞肺がん(2)。原発腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しており、(a)心臓;(b)心臓につながる大きな血管;(c)気管;(d)食道;(e)胸骨のいくつかにがんが拡がっていて;(g)同じ肺の異なった葉に別の腫瘍が存在している場合もあります。さらに、背骨にがんが転移している場合や、喉頭を制御する神経にがんが拡がっている場合もあります(図には示していません)。 |
(2)腫瘍と同じ側の胸にあるリンパ節にがんが転移しています。がんが転移するリンパ節は、胸骨の近く、または気管支が肺に入るところです。さらに、以下の条件が満たされます:
IV期の非小細胞肺がん。がんが他方の肺やリンパ節、肺または心臓の周りにある体液のほか、脳、肝臓、副腎、腎臓、骨といった体の他の部位に転移しています。 |
IV期では、腫瘍の大きさは様々で、がんがリンパ節に転移している場合があります。さらに、以下の条件の1つまたは複数が満たされます:
非小細胞肺がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、既存の治療法を改良したり、がんの患者さんのための新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。複数の臨床試験で現在の標準治療より新しい治療法のほうが良好であることが明らかになった場合は、その新しい治療法が標準治療となります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
標準治療として以下の9種類が用いられています:たとえ医師が手術の際に確認できる全てのがんを切除したとしても、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させることを目的として、術後に化学療法や放射線療法が実施される場合があります。このようにがんの再発リスクを低減させるために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。
放射線療法放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。放射線療法には2種類のものがあります:
定位放射線療法は、外照射療法の一種です。毎回の治療で放射線を同じ位置に照射できるよう、専用の装置を用いて患者さんの姿勢を固定します。数日にわたり、1日1回、放射線照射装置で腫瘍に対して直接、通常より高い線量の放射線を照射します。毎回、患者さんに同じ姿勢をとってもらうことで、周辺の正常な組織に対する損傷を抑えます。この手法は、定位体外照射療法や定位放射線治療とも呼ばれます。
定位放射線手術は外照射療法の一種で、脳に転移した肺がんの治療に用いられます。放射線療法中に頭部が動かないよう、頭蓋骨に硬いフレームを取り付けます。装置は脳の腫瘍に直接当たるように、高線量の放射線を1回照射します。この治療法は実際に手術を行うものではありません。定位手術的照射、ラジオサージェリー、放射線手術とも呼ばれます。
気道の腫瘍に対しては、内視鏡を通じて放射線を腫瘍に直接照射します。
放射線療法の実施方法は、治療対象となるがんの種類と病期に応じて異なります。また、がんが見つかった部位にも左右されます。非小細胞肺がんの治療には外照射療法と内照射療法が用いられます。
化学療法化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脳脊髄液内や臓器内、あるいは腹部などの体腔内に薬剤を直接注入する化学療法では、その領域にあるがん細胞に薬が集中的に作用します(局所化学療法)。
化学療法の実施方法は、治療対象となるがんの種類と病期に応じて異なります。
詳しい情報については、非小細胞肺がんに対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。
標的療法標的療法とは、特定のがん細胞を攻撃する薬物や物質を用いる治療法です。標的療法は一般に、化学療法や放射線療法に比べ、正常な細胞に及ぼす有害性が小さい療法です。進行したか転移した、または再発した非小細胞肺がんの治療に用いられている標的療法には、主にモノクローナル抗体とチロシンキナーゼ阻害薬の2種類があります。
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体療法は、製造ラボにおいて単一の免疫系細胞から作り出した抗体を使用する治療法です。これらの抗体は、がん細胞の表面上に存在する物質や、正常な血液および組織内のがん細胞の増殖を促す物質を特定することができます。こうした抗体がそれぞれの標的物質に結合することにより、がん細胞の死滅、増殖の阻止、転移の抑止などといった効果が得られます。モノクローナル抗体は点滴によって投与されます。単独で使用されることもありますが、薬や毒素、放射性物質などをがん細胞に直接送り届けるという用途でも用いられます。
数種類のモノクローナル抗体療法があります:
免疫チェックポイント阻害薬。腫瘍細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1などのチェックポイント蛋白は、免疫反応の抑制に関与します。PD-L1とPD-1が結合すると、T細胞による体内の腫瘍細胞の殺傷は抑制されます(左図)。免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1または抗PD-1)でPD-L1とPD-1の結合を阻害すると、T細胞が腫瘍細胞を殺傷することができます(右図)。 |
チロシンキナーゼ阻害薬
チロシンキナーゼ阻害薬は、細胞膜を通過してがん細胞の内部で作用し、がん細胞の成長と分裂に必要な信号を阻害する低分子薬です。一部のチロシンキナーゼ阻害薬には、血管新生を阻害する効果もあります。
数種類のチロシンキナーゼ阻害薬があります:
詳しい情報については、非小細胞肺がんに対する使用が承認されている薬剤(英語)をご覧ください。
レーザー治療レーザー治療は、レーザー光線(照射幅の狭い強力な光線)を利用してがん細胞を破壊する治療法です。
光線力学療法(PDT)光線力学療法(PDT)は、薬と特定の波長のレーザー光線を用いてがん細胞を死滅させる治療法です。まず、光が当たることで活性化する薬を静脈内に注射します。この薬は正常細胞よりもがん細胞により多く集まります。その後、光ファイバーチューブを使ってがん細胞にレーザー光線を照射すると、この薬が活性化してがん細胞を殺傷していきます。光線力学療法では、健常組織への損傷がごくわずかで済みます。この治療法は主に、皮膚上や皮膚のすぐ下または内臓の内腔の表面にできた腫瘍の治療に用いられます。腫瘍が気道に存在する場合は、内視鏡を用いて腫瘍に直接PDTを実施します。
凍結手術凍結手術は、特殊な装置を用いて異常 組織(上皮内がんなど)を凍結し破壊する治療法です。この種の治療は凍結療法とも呼ばれます。気道の腫瘍に対しては、内視鏡を用いて凍結手術を実施します。
電気焼灼電気焼灼は、電流によって加熱されたプローブまたは針を用いて異常組織を破壊する治療法です。気道の腫瘍に対しては、内視鏡を用いて電気焼灼を実施します。
注意深い経過観察注意深い経過観察とは、徴候や症状の出現や変化がみられるまで、治療を一切行わずに患者さんの状態を注意深く監視していくことです。非小細胞肺がんの一部のまれなケースでは、この方法が用いられることがあります。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。本項では、臨床試験で研究されている治療について説明しています。現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。
化学予防化学予防とは、がんのリスクや再発リスクの低減を目的として、薬やビタミン剤、その他の物質を使用することです。肺がんでは、新しい腫瘍が肺にできる可能性を低下させるために化学予防が行われます。
放射線増感剤放射線増感剤は、放射線療法で腫瘍細胞を殺傷しやすくする物質です。化学療法と放射線増感剤を用いた放射線療法との併用は、非小細胞肺がんの治療法として研究されています。
新しい併用方法治療法の新しい併用方法が現在臨床試験で検証されています。
患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。臨床試験はがんの研究プロセスの一部を構成するものです。臨床試験は、新しいがんの治療法が安全かつ有効であるかどうか、あるいは標準治療よりも優れているかどうかを確かめることを目的に実施されます。
今日のがんの標準治療の多くは以前に行われた臨床試験に基づくものです。臨床試験に参加する患者さんは、標準治療を受けることになる場合もあれば、新しい治療法を初めて受けることになる場合もあります。
患者さんが臨床試験に参加することは、将来のがんの治療法を改善することにもつながります。たとえ臨床試験が効果的な新しい治療法の発見につながらなくても、重要な問題に対する解答が得られる場合も多く、研究を前進させることにつながるのです。
患者さんはがん治療の開始前や開始後にでも臨床試験に参加することができます。ただし一部には、まだ治療を受けたことのない患者さんだけを対象とする臨床試験もあります。一方、別の治療では状態が改善されなかった患者さんに向けた治療法を検証する試験もあります。がんの再発を阻止したり、がん治療の副作用を軽減したりするための新しい方法を検証する臨床試験もあります。
臨床試験は米国各地で行われています。詳しくは、治療選択肢のセクションにある現在進行中の治療臨床試験へのリンクを参照してください。そこで検索された情報はNCIの臨床試験一覧のものです。
フォローアップ検査が必要となることもあります。がんの診断や病期判定のために実施される検査の中には、繰り返し行われるものがあります。治療の奏効の程度を確かめるために繰り返し行われる検査もあります。治療の継続、変更、中止などの決定はこうした検査の結果に基づいて判断されます。
治療が終わってからも度々受けることになる検査もあります。こうした検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんの再発(再び現れること)の有無を知ることができます。こうした検査はフォローアップ検査または定期検査と呼ばれることがあります。
潜伏期非小細胞肺がんの治療法は、疾患の病期に応じて異なります。潜伏期の腫瘍は、早期(腫瘍が肺内にのみ存在している時期)に発見されることが多く、手術による治癒が可能な場合もあります。
NCI支援のがん臨床試験リストから、潜伏期非小細胞肺がんの患者さんを現在受け入れている臨床試験を調べることができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。日本語でのタイトル検索は、こちらから)。試験の場所、治療のタイプ、薬剤の名前など、他の検索要素を用いて絞り込み検索を行うと、より具体的な結果が得られます。ご自身に適した臨床試験については、担当の医師にご相談ください。NCIのウェブサイトから臨床試験についての一般的な情報をご覧いただけます。
0期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
NCI支援のがん臨床試験リストから、0期非小細胞肺がんの患者さんを現在受け入れている臨床試験を調べることができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。日本語でのタイトル検索は、こちらから)。試験の場所、治療のタイプ、薬剤の名前など、他の検索要素を用いて絞り込み検索を行うと、より具体的な結果が得られます。ご自身に適した臨床試験については、担当の医師にご相談ください。NCIのウェブサイトから臨床試験についての一般的な情報をご覧いただけます。
I期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
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II期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
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手術によって切除できるIIIA期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
手術によって切除できないIIIA期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
咳、息切れ、胸痛などの徴候や症状に対する支持療法の詳しい情報については、PDQの心肺症候群に関する要約をご覧ください。
肺尖の非小細胞肺がんは、しばしばパンコースト腫瘍と呼ばれ、肺の上部で発生し、胸壁、大血管、脊椎などの隣接組織に拡がることがあります。パンコースト腫瘍の治療法には以下のようなものがあります:
胸壁に拡がったIIIA期の非小細胞肺腫瘍の中には、完全に摘出できるものがあります。胸壁腫瘍の治療法には以下のようなものがあります:
NCI支援のがん臨床試験リストから、III期非小細胞肺がんの患者さんを現在受け入れている臨床試験を調べることができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。日本語でのタイトル検索は、こちらから)。試験の場所、治療のタイプ、薬剤の名前など、他の検索要素を用いて絞り込み検索を行うと、より具体的な結果が得られます。ご自身に適した臨床試験については、担当の医師にご相談ください。NCIのウェブサイトから臨床試験についての一般的な情報をご覧いただけます。
IIIB期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
咳、息切れ、胸痛などの徴候や症状に対する支持療法の詳しい情報については、以下のPDQの要約をご覧ください:
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IV期の非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
咳、息切れ、胸痛などの徴候や症状に対する支持療法の詳しい情報については、以下のPDQの要約をご覧ください:
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再発 非小細胞肺がんの治療法には以下のようなものがあります:
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PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。
PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。
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臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
PDQには臨床試験のリストが掲載されており、NCIのウェブサイトから臨床試験を検索することができます。また、PDQには、臨床試験に参加している多数のがん専門医のリストも掲載されています。より詳細な情報については、Cancer Information Service(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。
PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。
本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:
PDQ® Adult Treatment Editorial Board.PDQ Non-Small Cell Lung Cancer Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/lung/patient/non-small-cell-lung-treatment-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389355]
本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、2,000以上の科学関連の画像が収載されています。
PDQ要約の情報は、保険払い戻しに関する決定を行うために使用されるべきではありません。保険の適用範囲についての詳細な情報は、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手可能です。
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