ご利用について
このPDQがん情報要約では、便秘、宿便、腸閉塞、下痢、放射線腸炎などの消化管の合併症に関する原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
CONTENTS
- 一般的な情報
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消化管は、摂取した食物中の栄養素(ビタミン、ミネラル、炭水化物、脂質、蛋白質、水分)の消化吸収と、老廃物の体外への排出という役割を担う消化器系の一部を成しています。消化管には胃と腸が含まれます。胃は上腹部にあるアルファベットのJに似た形をした臓器です。咽頭(喉)を通過した食べ物は、食道と呼ばれる筋肉でできた中空の管を通って胃へと運ばれます。胃で一部消化された食べ物は、さらに小腸から大腸へと送られていきます。 結腸(太い腸)は大腸の最初の部分で、長さは約5フィート(およそ152cm)です。加えて、大腸の終端部に直腸と肛門管があり、これらの長さは6~8インチ(15~20cm)です。そしてこの肛門管の終端部が肛門(大腸の体外への開口部)です。
消化管の合併症はがん患者さんによくみられます。合併症とは、疾患を患っている間や処置または治療の後に発生する医学的問題です。その疾患や処置、治療が原因となって生じる場合も、他の原因により引き起こされる場合もあります。本要約では、以下にあげる消化管の合併症と、その原因および治療法について説明します。
本要約は、がんを患っている成人に起こる消化管の合併症について書かれたものです。小児に起こった消化管の合併症の治療は、成人の場合とは異なります。
- 便秘
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便秘になると、排便が困難になったり、通常より回数が少なくなったりします。
便秘は、大腸を通る便の動きが鈍くなっている状態です。便は大腸を通過する時間が長くなればなるほど水分が失われ、乾燥して硬くなります。それにより、排便できなくなる、強くきばらなければ便が排出されない、あるいは通常より排便回数が少なくなるなどの状態が生じます。
便秘の一般的な原因には、特定の薬剤、食事の変化、水分の摂取不足、活動性の低下などがあります。
便秘はがん患者さんによくみられる問題です。がん患者さんの便秘は、健康な人の場合にもみられる通常の原因によって発生することがあります。こうした原因には、加齢、食事の変化、水分摂取、運動不足などがあります。これらの一般的な原因に加えて、がん患者さんの便秘には他の原因もあります。
他の便秘の原因には下記のようなものがあります:
治療計画を立てるために、評価が実施されます。
評価では、身体診察のほか、患者さんの普段の排便状況とその変化について尋ねる質問が行われます。
便秘の原因を探るために、以下のような検査法と手技が用いられます:
- 身体診察:しこりなどの通常みられない疾患の徴候に注意しながら、総体的に身体を調べる診察法。医師は腸雑音や腫れて痛みを伴う腹部の検査を行います。
- 直腸指診(DRE):直腸を調べる検査。医師または看護師が、手袋をはめて潤滑剤を塗った指を直腸内に挿入し、しこりなどの異常がないかを調べます。女性の場合、膣の検査も行われる場合があります。
- 便潜血検査:顕微鏡でしか見ることのできない微量の血液が便の中に混入していないかを調べる検査法。患者さんに少量の便を専用のカードの上に置いてもらい、それを医師か検査室に提出してもらって、検査を行います。
- 直腸鏡検査:直腸鏡を使用して、直腸および肛門内部に異常な領域がないか調べる検査法。直腸鏡とは、直腸および肛門の内部の観察用のライトとレンズを備えた細いチューブ状の器具のことです。組織のサンプルを採取するための器具が付いているものもあり、それで切除された組織は、顕微鏡での観察によってがんの徴候がないか調べられます。
- 結腸鏡検査:直腸および結腸内部に、ポリープや異常な領域、がんなどがないか調べる検査法。この検査では結腸鏡が直腸から結腸内部へと挿入されます。結腸鏡とは、観察用のライトとレンズを備えた細いチューブ状の器具のことです。ポリープや組織のサンプルを採取するための器具が付いているものもあり、それで切除された組織は、顕微鏡での観察によってがんの徴候がないか調べられます。
- 腹部X線検査:腹部の臓器のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
がん患者さんの排便に、「正常な」回数というものはありません。個人差があります。患者さんは、排便習慣、食べ物、使用している薬剤について、次のような質問を受けます:
人工肛門を形成している患者さんの場合は、人工肛門のケアに関する質問が行われます。
便秘の治療は、患者さんの快適さを保ち、より深刻な問題を予防するために重要です。
便秘の予防は、軽減させるよりも容易です。医療チームは患者さんと協力して便秘の予防に努めます。オピオイドの投与を受ける患者さんは、直ちに下剤の服用を開始して便秘を予防する必要があります。
便秘が非常に不快で、苦悩の種になる場合があります。治療せずに放置していると、便秘により宿便が生じることもあります。これは便が結腸や直腸から出てこなくなる深刻な病態です。 宿便を予防するには、便秘を治療することが重要です。
予防と治療の方法は、患者さんごとに異なります。便秘の予防と治療では、以下の対策が実施されます:
- 排便日記をつける。
- 1日3リットル(約8オンス[およそ240mL]のグラスで約12杯)の水分を毎日とる。腎疾患や心疾患などの病態を抱えた患者さんは、量を抑える必要があるかもしれません。
- 定期的に運動する。歩けない患者さんは、ベッドでの腹筋運動やベッドから椅子への移動で体を動かします。
- 以下の食物の摂取量を増やすことで食物繊維を多くとる:
食物繊維を多く含む食物をたくさん食べているときは、水分も多くとるようにして、便秘を悪化させないようにすることが重要です。小腸または大腸の閉塞を発症したことのある患者さん、または腸の手術(例えば、人工肛門造設術)を受けたことのある患者さんは、食物繊維の多い食事を避けるようにしてください。- レーズン、プルーン、桃、リンゴなどの果物。
- カボチャ、ブロッコリー、ニンジン、セロリなどの野菜。
- 全粒のシリアルやパン、ふすま。
- 通常の排便時刻の約30分前に温かい飲み物を飲む。
- 排便時にプライバシーと静かな時間を確保する。
- 寝たまま使用できる差し込み便器ではなく、トイレに行くか簡易便器を使用する。
- 医師に処方された薬以外は飲まない。 便秘薬には、膨張性下剤、緩下薬、便軟化剤や、腸内を空にする働きのある薬剤があります。
- 医師の指示がない限り、座薬または浣腸は使用しない。がんの患者さんによっては、これらの治療は出血、感染、または有害な副作用を引き起こす場合があります。
オピオイドが原因で生じた便秘の治療では、オピオイドの作用を抑止する薬や他の薬剤、便軟化剤、浣腸が用いられるほか、手で便を除去する方法がとられることもあります。
- 宿便
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宿便は、乾燥して硬くなり、結腸や直腸から出てこなくなった便の塊です。
宿便は体外に排出できない乾燥した便です。宿便の患者さんの中には、消化管の症状がみられない人もいます。代わりに、血液循環、心臓、呼吸の問題がみられることがあります。宿便を治療せず放置しておくと、悪化して死を招くことがあります。
よくみられる宿便の原因は、頻繁な緩下薬の使用です。
緩下薬を次第に用量を増やして何度も使用していると、排便の必要が生じた際に結腸で自然に起きる反応が弱くなっていきます。これが宿便が生じる一般的な原因です。他に次のような原因があります:
特定の精神疾患が宿便を招くこともあります。
評価では、身体診察と便秘の場合と同様の質問が行われます。
医師は、便秘の評価の場合と類似した、以下のような質問を行います:
- どのくらいの頻度で排便がありますか。いつ、量はどのくらいですか。
- 最後の排便はいつですか。どんな便(量、硬さ、色)でしたか。
- 便に血液は混ざっていましたか。
- 胃の痛みや痙攣、吐き気、嘔吐、ガスが生じたり、直腸付近に張りを感じたりしたことはありますか。
- 緩下薬または浣腸を常用していますか。
- 便秘を解消するために、普段は何をしていますか。その方法は、多くの場合に有効ですか。
- どのような食事をとっていますか。
- 1日にどのような水分をどれくらい飲んでいますか。
- 薬を飲んでいますか。どれくらいの量をどのくらいの頻度で飲んでいますか。
- この便秘は最近起こったものですか。
- 1日におならは何回ぐらい出ますか。
医師は患者さんに宿便がみられるかどうかを明らかにするために身体診察を実施します。また、以下の検査と手技を行うこともあります:
- 身体診察:しこりなどの通常みられない疾患の徴候に注意しながら、総体的に身体を調べる診察法。
- X線検査:X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。 宿便を確認するために、腹部または胸部のX線検査が行われることがあります。
- 直腸指診(DRE):直腸を調べる検査。医師または看護師が、手袋をはめて潤滑剤を塗った指を直腸内に挿入し、宿便やしこりなどの異常がないかを調べます。
- S状結腸鏡検査:宿便やポリープ、異常組織、がんを発見するために、直腸やS状(下部)結腸の内部を調べる検査法です。この検査ではS状結腸鏡が直腸からS状結腸内部へと挿入されます。S状結腸鏡とは、観察用のライトとレンズを備えた細いチューブ状の器具のことです。ポリープや組織のサンプルを採取するための器具が付いているものもあり、それで切除された組織は、顕微鏡での観察によってがんの徴候がないか調べられます。
- 血液検査:血液サンプルを採取し、血液中に含まれる特定の物質の量を測定したり、各種の血液細胞の数を算定したりする検査。血液検査は、病気の徴候や疾患を引き起こす病原体を探したり、抗体や腫瘍マーカーを調べたりするために実施されるほか、治療の効果を確認するためにも行われます。
- 心電図(EKG):心臓の活動を示す検査。胸部や手首、足首の皮膚に小さな電極を取り付けて、心電計に接続します。心電計は、時間の経過に沿って心臓の電気的な活動の変化を示した線グラフを描画します。このグラフは、動脈の閉塞や電解質(電荷を帯びた粒子)濃度の変化、心臓組織内での電流の流れ方の変化など、異常な状態の存在を示します。
- 腸閉塞
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腸閉塞とは、宿便以外の原因によって小腸または大腸が塞がることです。
腸閉塞が起こると、便は小腸または大腸を通過できなくなります。この状態は身体的な変化によって生じることも、腸の筋肉が正常に動かなくなる病態によって起こることもあります。腸は部分的に、または完全に閉塞します。ほとんどの閉塞は小腸で起こります。
身体的な変化
腸が身体的な変化で閉塞している場合は、閉塞部分への血流が減少します。血流を正常に戻さなければ、対象範囲の組織が壊死することもあります。
腸の筋肉に影響を及ぼす病態
腸閉塞を引き起こすことが多いがんは、結腸がん、胃がん、卵巣がんです。
ほかにも、肺がんや乳がん、黒色腫などのがんが腹部に拡がり、腸閉塞を来すこともあります。腹部の手術または放射線療法を受けた患者さんは、腸閉塞のリスクが高くなります。腸閉塞は、進行期のがんで最もよくみられます。
評価では、身体診察と画像検査が行われます。
腸閉塞を診断するために、以下の検査と手技が行われることがあります:
- 身体診察:しこりなどの通常みられない疾患の徴候に注意しながら、総体的に身体を調べる診察法。医師は、患者さんに腹痛や嘔吐がみられないか、あるいは腸内でガスや便の動きがあるかどうかを調べます。
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全血球算定(CBC):血液を採取して以下の項目について調べる検査法:
- 電解質検査:ナトリウム、カリウム、塩化物などの電解質の濃度を測定する血液検査。
- 尿検査:尿の色と尿に含まれる成分(糖分、蛋白、赤血球、白血球など)を調べる検査法。
- 腹部X線検査:腹部の臓器のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。
- バリウム注腸検査:下部消化管の一連のX線検査。まずバリウム(銀白色の金属化合物)を溶かした液体を直腸内に注入します。その後バリウムが下部消化管の表面を覆ったところで、X線撮影を行います。この検査法は下部消化管造影とも呼ばれます。この検査では、腸の閉塞箇所が示されます。
腸閉塞の治療法は、急性か慢性かによって異なります。
急性腸閉塞
急性腸閉塞は突然発生し、長くは続かず、初回の発生である場合もあります。治療法には以下のようなものがあります:
- 補液療法:体内の水分を正常な量に回復させる治療。場合によっては静脈内への水分補給が行われ、薬剤が処方されることもあります。
- 電解質補正:血液中に含まれるナトリウム、カリウム、塩化物などの化学物質の濃度を適正値に回復させる治療。電解質を含む補液を点滴投与するなどの方法で実施されます。
- 輸血:全血(血液そのもの)または血液の一部の成分を投与する処置。
- 経鼻胃管または経肛門的イレウス管:経鼻胃管は鼻から挿入し食道を通して胃に到達させます。経肛門的イレウス管は直腸から結腸内部へと挿入します。腫れや貯留している水分とガスの除去、減圧を行うために実施します。
- 手術:重度の症状が生じ、他の治療では軽減されない場合は、閉塞を解消するための手術が行われます。
症状が悪化し続けている患者さんには、ショックの徴候や症状がみられないか、また、閉塞が悪化していないかを調べるフォローアップ検査が実施されます。
慢性の悪性腸閉塞
慢性腸閉塞は時間とともに悪化します。進行がんの患者さんには、ときに手術で解消することができない慢性腸閉塞が起こります。こうした場合には、腸の複数箇所で閉塞または狭窄が生じていたり、完全には除去できないほど大きな腫瘍が存在していたりすることがあります。以下の治療が行われます:
- 手術:閉塞を解除して痛みを軽減し、患者さんの生活の質を向上させます。
- ステント:腸に挿入し、閉塞している領域を開通させる金属製の管。
- 胃瘻管:腹壁から直接胃に挿入される管。胃瘻管は、体液や胃に溜まった空気を取り除き、管を通して直接胃に医薬品や水分を注入することができます。胃瘻管にはバルブ付きの排液袋を取り付けることも可能です。バルブが開いていると食物は直接この袋に排出されるので、患者さんは食物を飲食できるようになります。これにより、患者さんは食事を味わい、口の中を潤すことができます。固形食は、管と排液袋を詰まらせてしまうことがあるので避けた方がよいでしょう。
- 薬剤:痛みや吐き気、嘔吐に対処するために、もしくは腸を空にする目的で行われる、薬剤の注射や点滴。薬剤はステントや胃瘻管では対処できない患者さんに処方されることがあります。
- 下痢
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下痢とは、水様の緩い便が頻繁に排泄されることです。
下痢とは、水様の緩い便が頻繁に排泄されることです。急性下痢は、継続期間が4日間を超え、2週間未満のものを指します。急性下痢の症状には、便が緩くなることに加え、1日に4回以上、軟便の排泄があることが挙げられます。2ヵ月以上続く下痢は、慢性(長期)の下痢です。
がん患者さんの下痢の原因で特によくみられるものは、がん治療です。
がん患者さんにおける下痢の原因には、以下のものがあります:
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化学療法、標的療法、免疫療法、放射線療法、骨髄移植、手術などのがん治療。
- 一部の化学療法や標的療法薬は、小腸における栄養素の分解や吸収の過程を変化させ、下痢を引き起こします。化学療法を受けている患者さんの半数以上に、治療の必要な下痢が生じています。
- 免疫療法は免疫系ががんと闘うのを助ける、がんの治療法の一種です。がん細胞を攻撃するとき、正常な細胞と組織も攻撃します。これにより、下痢やインフルエンザに似た症状になることがあります。
- 腹部や骨盤への放射線療法は、腸の炎症を引き起こすことがあります。患者さんには、食物の消化不全、ガス、鼓脹、痙攣、下痢などの問題がみられます。これらの症状は、長くて治療後8~12週間にわたり持続する場合がありますが、治療後数ヵ月または数年間にわたって起こらない場合もあります。治療法には、食生活の変更、医薬品、手術などがあります。
- 放射線療法と化学療法を受けている患者さんは、激しい下痢を経験することがよくあります。入院治療の必要がないこともあります。そうした場合は、外来診療所や在宅ケアで治療が実施されます。静脈内への水分補給が行われ、薬剤が処方されることもあります。
- ドナーから提供された骨髄の移植を受けた患者さんには、移植片対宿主病(GVHD)が発生する可能性があります。胃と腸に現れるGVHDの症状には、吐き気と嘔吐、重度の腹痛と痙攣、水っぽい緑色の下痢便があります。これらの症状は、多くが移植後1週間から3ヵ月の間に起こります。
- 胃または腸に対する手術。
- がんそのもの。
- がんと診断され、治療を受けていることによるストレスと不安。
- がん以外の病態や疾患。
- 感染。
- 特定の感染症に対する抗生物質療法。抗生物質療法は腸の内壁を刺激し、治療により改善しない下痢を引き起こす場合があります。
- 緩下薬。
- 宿便とそれによる閉塞の周囲から便が流れ出ている状態。
- 繊維や脂肪を多く含む特定の食物。
評価では、身体診察と臨床検査のほか、食事や排便習慣についての質問が行われます。
下痢は生命を脅かす場合があるため、早急に原因を突き止め、治療を開始することが大切です。医師は下記の質問を行い、治療計画の参考とすることがあります:
以下のような検査法と手技が行われます:
- 身体診察と病歴聴取:しこりなどの通常みられない疾患の徴候に注意しながら、総体的に身体を調べる診察法。患者さんの健康習慣、過去の病歴、治療歴なども調べます。 この診察では、血圧、脈拍、呼吸を検査し、皮膚や口腔粘膜の組織が乾燥しているかどうかを確認するほか、腹痛や腸雑音も調べます。
- 直腸指診(DRE):直腸を調べる検査。医師または看護師が、手袋をはめて潤滑剤を塗った指を直腸内に挿入し、しこりなどの異常がないかを調べます。この検査では、宿便の徴候を調べます。臨床検査用に便が採取されることもあります。
- 便潜血検査:顕微鏡でしか見ることのできない微量の血液が便の中に混入していないかを調べる検査法。患者さんに少量の便を専用のカードの上に置いてもらい、それを医師か検査室に提出してもらって、検査を行います。
- 便検査:便に含まれている水分とナトリウムの量を調べ、下痢を引き起こしうる物質の検出を行う臨床検査。さらに細菌や真菌、ウイルスへの感染についても便を調べる。
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全血球算定(CBC):血液を採取して以下の項目について調べる検査法:
- 電解質検査:ナトリウム、カリウム、塩化物などの電解質の濃度を測定する血液検査。
- 尿検査:尿の色と尿に含まれる成分(糖分、蛋白、赤血球、白血球など)を調べる検査法。
- 腹部X線検査:腹部の臓器のX線検査。X線は放射線の一種で、これを人の体を通してフィルム上に照射すると、そのフィルム上に体内領域の画像が映し出されます。腹部X線検査は、腸閉塞やその他の問題を確認するために実施される場合もあります。
下痢の治療法は原因によって異なります。
下痢の原因によって、治療法は異なります。医師は、使用する薬剤や食事、飲み物に対して、以下のような調整を行います。
- 必要な場合には、緩下薬の使用法が変更されます。
- 下痢を治療するために、腸の動きを抑制し、腸による液体の分泌量を減らし、栄養素の吸収を促進する薬剤が処方されることがあります。
- がん治療により生じる下痢は、食事に関する変更によって治療されることがあります。食事は少量ずつとり、以下の食物は避けるようにします:
- 軽度の下痢の場合、BRAT食、つまりバナナ(Banana)、米(Rice)、リンゴ(Apple)、トースト(Toast)を食べるようにすると、効果が見込めます。
- 透明な飲料を飲むと、下痢の緩和につながります。1日に最大で3クォート(約3リットル)の透明な飲料を飲むとよいでしょう。こうした飲料には水、スポーツドリンク、薄い澄んだスープ、薄いカフェイン抜きのお茶、カフェインを含まないソフトドリンク、澄んだ果汁、ゼラチンなどがあります。重度の下痢の患者さんには、静脈内への輸液を行うか、他の栄養を静脈内投与する必要があるでしょう。
- 移植片対宿主病(GVHD)による下痢では、多くの場合に特別な食事による療法が実施されます。長期治療と食事管理が必要となる患者さんもいます。
- プロバイオティクスが推奨されることがあります。プロバイオティクスは生きた微生物であり、消化と正常な腸機能を助ける栄養補助食品として使用されます。特に一般的なプロバイオティクスは、ヨーグルトに含まれるラクトバチルス(Lactobacillus acidophilus)という細菌です。
- 下痢と他の症状がみられる患者さんには、水分と薬剤の静脈内投与が必要となる場合があります。
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化学療法、標的療法、免疫療法、放射線療法、骨髄移植、手術などのがん治療。
- 放射線腸炎
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放射線腸炎は、放射線療法により引き起こされる腸の炎症です。
放射線腸炎は、腹部、骨盤、直腸への放射線療法を受けている期間中やその後に、腸の内壁が腫大し炎症を起こす病態です。小腸と大腸は放射線に対して非常に高い感受性を示します。放射線の線量が高いほど、正常な組織が受ける損傷が大きくなります。腹部と骨盤の腫瘍には、ほとんどの場合に大量の放射線照射が必要です。腹部や骨盤、直腸に放射線の照射を受けた患者さんは、ほぼ全員が腸炎を起こします。
腹部と骨盤のがん細胞を殺傷する放射線療法は、腸の内壁に存在する正常細胞にも影響を及ぼします。放射線療法は、がん細胞や他の急速に増殖する細胞の成長を停止させます。腸の内壁に存在している正常な細胞も増殖が速いので、この領域に対する放射線療法により、これらの細胞の増殖が妨げられる場合があります。その結果、組織の自己修復が遅れることになります。細胞が死んで新しい細胞と入れ替わらないと、その後、数日~数週間にわたって消化管の問題が発生します。
症状は放射線療法の実施中に生じることも、数ヵ月~数年後に始まることもあります。
放射線腸炎には急性のものと慢性のものがあります:
- 急性放射線腸炎は、放射線療法の実施中に発生し、長い場合は治療終了から8~12週間後まで続くことがあります。
- 慢性放射線腸炎は、放射線療法の終了から数ヵ月~数年後に起こる場合や、最初は急性腸炎として発症し、再発を繰り返す場合があります。
照射される放射線の総量とその他の要因が、放射線腸炎のリスクに影響を及ぼします。
腹部への放射線治療を受ける患者さんのうち、慢性的な問題が起こるのはわずか5~15%です。腸炎が続く期間と症状の程度は、以下の因子に左右されます:
急性腸炎と慢性腸炎の症状はよく似ています。
急性腸炎の患者さんには、下記の症状がみられることがあります:
急性腸炎の症状は通常、治療終了後2~3週間で消失します。
慢性腸炎の症状は通常、放射線療法の終了後6~18ヵ月の間に現れます。その診断は困難な場合があります。医師は最初に、症状の原因が小腸に生じた再発腫瘍かどうかを確認します。また、その患者さんが受けた放射線療法の治療歴を把握しようとします。
慢性腸炎の患者さんには、下記のような徴候と症状がみられます:
- 腹部の痙攣。
- 血性下痢。
- 頻回の便意切迫感。
- ベトベトした脂肪分の多い便。
- 体重減少。
- 吐き気。
放射線腸炎が急性と慢性のどちらかによって、治療法は異なります。
急性放射線腸炎
急性腸炎の治療では、症状の治療が行われます。通常は治療によって症状は改善しますが、症状が悪化する場合は、がんの治療が一時的に中止されることもあります。
急性放射線腸炎の治療法には以下のようなものがあります:
- 下痢を抑える薬剤。
- オピオイド系鎮痛剤。
- 直腸の炎症を緩和するステロイド泡沫剤。
- 膵がんの患者さんの場合は、膵酵素補充療法。膵酵素の量が少なくなると下痢が生じることがあります。
- 食生活の変化。放射線療法によって損傷を受けた腸は消化に必要な酵素、特にラクターゼを十分に産生できなくなることがあります。ラクターゼは牛乳や乳製品に含まれる乳糖の消化に必要な酵素です。急性腸炎の症状の管理には、乳糖が含まれない、低脂肪、低繊維の食事が有用です。
- 避けるべき食品:
- 摂取すべき食品:
- 加熱調理した魚、鶏肉、牛肉。
- バナナ。
- リンゴソースと皮をむいたリンゴ。
- リンゴジュースとグレープジュース。
- 精白パン、トースト。
- マカロニや麺類。
- 加熱調理したジャガイモ。
- アスパラガスのチップ、緑豆、にんじん、ほうれん草、カボチャなど、柔らかい加熱調理した野菜。
- マイルドなプロセスチーズ。プロセスチーズは、製造時に乳糖が除去されるので、問題は起こりません。
- バターミルク、ヨーグルト、乳糖を含まないミルクセーキタイプの補助栄養製品(Ensureなど)。
- 卵。
- 滑らかなピーナッツバター。
- 参考になるヒント:
- 避けるべき食品:
慢性放射線腸炎
慢性放射線腸炎の治療法には以下のようなものがあります:
- 急性放射線腸炎の症状と同じ治療。
- 手術。症状の管理に手術が必要となるのは、ごく少数の患者さんに限られます。
手術には以下の2種類が使用されます:
医師は患者さんの健康状態と損傷を受けた組織の量を考慮して、手術が必要かどうかを判断します。手術後の治癒には時間がかかることが多く、長期間の経管栄養が必要になる場合もあります。手術後も多くの患者さんに依然として症状がみられます。
- 最新の臨床試験
NCIの臨床試験検索から、現在患者さんを受け入れているNCI支援のがん臨床試験を探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。がんの種類、患者さんの年齢、試験が実施される場所から、臨床試験を検索できます。 臨床試験についての一般的な情報もご覧いただけます。
- 消化管の合併症についてさらに学ぶために
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米国国立がん研究所が提供している便秘または下痢に関する詳しい情報については、以下をご覧ください:
- 本PDQ要約について
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PDQについて
PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。
PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。
本要約の目的
このPDQがん情報要約では、便秘、宿便、腸閉塞、下痢、放射線腸炎などの消化管の合併症に関する原因と治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。
査読者および更新情報
PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。
患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Supportive and Palliative Care Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。
臨床試験に関する情報
臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。
NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。
本要約の使用許可について
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本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:
PDQ® Supportive and Palliative Care Editorial Board.PDQ Gastrointestinal Complications.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/about-cancer/treatment/side-effects/constipation/GI-complications-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389438]
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お問い合わせ
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