
死が予想される場合、その訪れの前に予期悲嘆が起こることがあります。この感情を抱くのは、死期が迫りつつある人やその家族です。予期悲嘆は家族が死別に対して感情的な準備を整える契機になります。また、死にゆく人に対してお別れの言葉や愛の言葉を伝えるなど、やり残していたことを済ませる時期でもあります。
愛する人の死後に起こる悲嘆と同じように、予期悲嘆は精神的、感情的、文化的、社会的な各種の反応を含みます。しかし、予期悲嘆は愛する人の死を迎えた後に起こる悲嘆と同一ではありません。予期悲嘆の症状には、次のものがあります:
予期悲嘆は家族がこれから起こることに対処する助けになります。一方、死期が迫っている患者さんにとっては、予期悲嘆は制御できないほど大きな問題であり、そのせいで患者さんが他人と距離をとるようになる場合があります。
予期悲嘆は必ず生じるわけではありません。一部の研究者は、予期悲嘆はめったに起こらないと報告しています。いくつかの研究によると、悲嘆の間に一般的にみられる受容と回復の期間は、患者さんが実際に亡くなる前にはあまり起こらないようです。死別が迫っている人は、愛する人の死を生前に受け入れようとすると、死に直面している患者さんを見放してしまうように感じる場合があります。
また、死の前に悲嘆を感じたとしても、死後の悲嘆が軽くなったり、その期間が短くなったりするわけではありません。
正常な悲嘆正常な悲嘆を感じている間に、死別者は次第に喪失を受け入れ、困難ではあっても通常の日常生活を継続できるようになります。一般的な悲嘆反応には、次のものがあります:
正常な悲嘆の場合、症状が起こる頻度は比較的低く、時間の経過とともに感じ方も薄れていきます。回復は一度に起こりません。正常な悲嘆を感じるほとんどの死別者では、症状は喪失後6ヵ月~2年にわたって軽減します。
ほとんどの死別者は悲嘆の突発や悲嘆の激痛を経験します。悲嘆の突発または悲嘆の激痛とは、短時間(20~30分)の非常に激しい苦悩のことです。こうした突発は故人についての記憶が原因で起こる場合があります。また、特に理由なく生じるような場合もあります。
悲嘆は、段階的な過程として説明されることがあります。正常な悲嘆の進行過程についての理論はいくつか存在しています。喪失に対処するときに人々が経験する段階の種類と数は、専門家の間で見解が異なっています。現時点では、他の理論よりも正確な理論を判別する十分な情報は得られていません。
多くの死別者は経験した喪失に対処するにあたってよく似た反応を示しますが、定型的な悲嘆反応は存在しません。悲嘆の過程は個人的なものです。
複雑性悲嘆正しい悲嘆や間違った悲嘆というものはありませんが、いくつかの研究では一般的な悲嘆と異なるパターンが示されています。こうした悲嘆は複雑性悲嘆と呼ばれています。
複数の研究で確認されている複雑性悲嘆反応には、次のようなものがあります。
突然の予期せぬ喪失は、より問題の多い悲嘆につながるように思われます。しかし、複数の研究では、自尊心が高い人や人生をコントロールできると感じている人、もしくはその両方に該当する人が死別に遭遇すると、予期せぬ喪失の後であっても、正常な悲嘆反応を示す傾向がみられました。一方、自尊心が低い人や人生をコントロールできないと感じている人、もしくはその両方に該当する人が予期せず死別を経験すると、その後に複雑性悲嘆が現れる傾向がありました。この反応にはうつ病と身体的な問題が含まれます。
死別者の性格。数件の研究によると、特定の人格特性を持つ人は喪失後に長期のうつ病になりやすいようです。愛する故人に大きく依拠していた人(配偶者など)や、喪失が頭から離れず、いつも苦悩を感じている人などが含まれます。
死別者の宗教的信念。数件の研究は、宗教が悲嘆に対処する際の助けになることを示しています。一方、別の複数の研究は、宗教は助けにならないか苦悩を深めるということを示しています。宗教は頻繁に教会に行く人の助けとなるようです。教会に通う人はより多くの社会的支援が得られ、それが悲嘆に対して肯定的な影響を及ぼすようです。
死別者が男性か女性か。配偶者の死亡後、一般的に男性のほうが女性より多くの問題を抱えるようです。男性は喪失後に女性よりもうつ病が悪化しやすく、健康を害しやすい傾向があります。一部の研究者は、喪失後に受ける社会的支援の量が男性はより少ないことを原因に挙げています。
死別者の年齢。一般的に、高齢の死別者よりも若い死別者のほうが喪失後に多くの問題を抱えることになります。より重度の健康問題や悲嘆症状、他の精神的または身体的な症状が発生します。しかし、若い死別者は利用できる資源や社会的支援が多いため、高齢の死別者よりも早く回復する場合があります。
死別者に対する社会的支援の量。社会的支援の欠如は、喪失への対処に問題が生じる可能性を高めます。社会的支援とは、死別者の家族や友人、隣人、地域社会のメンバーなどが提供できる心理的、身体的、経済的な支援です。近親者が死亡すると、多くの人はそれに関連してさまざまなものを失います。例えば、配偶者の死は収入の喪失につながり、生活習慣と日常生活に変化を起こすことがあります。これらはすべて社会的支援に関係しています。
死別者のほとんどは、直後の6ヵ月から2年以内に悲嘆と回復を経験します。正常な悲嘆を体験している死別者に対して、正式な治療は有用かどうかが研究されています。また、複雑性悲嘆を起こしやすい人に治療を施すことにより、そうした悲嘆を予防できるか否かも研究中です。
重度の悲嘆反応や苦悩の症状がみられる人には、治療が有用な場合があります。
複雑性悲嘆はいくつかの種類の心理療法(トークセラピー)で治療できることがあります。悲嘆の精神的、情緒的、社会的、行動的な各症状に対する治療法が研究されています。ディスカッション、傾聴、カウンセリングなどの治療法が対象とされています。
複雑性悲嘆治療(CGT)は、臨床試験で有用であることが示された悲嘆療法の一種です。複雑性悲嘆治療(CGT)は次の3段階に分けられます:
複雑性悲嘆の患者さんを対象とした臨床試験で、CGTが対人関係心理療法(IPT)と比較されました。IPTは他者との関係性を重視する心理療法の一種であり、うつ病の治療に有用です。複雑性悲嘆の患者さんにおいて、CGTはIPTよりも有効でした。
複雑性悲嘆に対する認知行動療法(CBT)は、臨床試験で有用であることが示されました。認知行動療法(CBT)は、人の思考と行動が関連する方法を対象とします。CBTは、否定的な思考を置き換え、特定の行動の報酬を変化させることで態度や行動を変化させる技法を患者が習得できるよう支援します。
1件の臨床試験で、複雑性悲嘆に対するCBTとカウンセリングが比較されました。その結果、CBTによる治療を受けた患者群は、カウンセリングを受けた群よりも症状と全般的な精神的苦悩が大きく改善されました。
悲嘆に関連したうつ病は、薬物により治療されることがあります。悲嘆に伴ううつ病の標準的な薬物療法は存在しません。うつ病は通常の悲嘆の一部で、治療は不要であると考えている医療専門家もいます。悲嘆に関連するうつ病を薬物で治療するかどうかは、患者さんと医療専門家が判断します。
悲嘆に関連するうつ病に対する複数の抗うつ薬の臨床試験では、これらの薬剤がうつ病の症状の軽減に役立つ可能性があることが示されました。しかし、悲嘆に関連しないうつ病に対して使用した場合と比べると、軽減の程度は小さく、効果が得られるまでの期間が長くなりました。
喪失に対する子供の反応は、大人のものとは異なります。子供の悲嘆は、例えば以下のような点で大人と異なります。
悲嘆には個人差がありますが、以下の要因は子供の悲嘆過程に影響を及ぼす可能性があります。
乳児
乳児は死という概念を認識していませんが、喪失や別離に関する感情が死に対する意識の発達に一部関与します。乳児を母親から引き離すと、動きが緩慢になる、おとなしくなる、微笑や声かけに反応しなくなる、身体的徴候(体重減少など)、睡眠時間の減少などといった現象が生じることがあります。
2~3歳
この年齢の子供では死と眠りの区別がついていない場合が多いのですが、3歳にもなると不安を経験するようになります。そうした子供は会話をしなくなってしまい、完全に苦悩を感じているようにみえます。
3~6歳
この年齢の子供は死を眠りの一種だと理解しており、死者も生きていて、ただその方法が制限されているだけだと考えています。つまり、生と死の区別が完全にはついていないのです。子供によっては、埋葬が終わった後でさえもその人は生きていると思っています。そうした子供は、故人に関する質問をするかもしれません(食事の仕方、トイレの行き方、呼吸する方法、どうやって遊ぶのかなど)。幼い子供は、死は肉体的なものであり、それで終わりではないと思っています。
死に対する子供の理解には、「呪術的思考」が組み込まれている場合もあります。例えば子供は、そう思うことで他人を病気にしたりあるいは死なせたりすることができると考えていることがあります。
5歳未満の子供では、悲嘆が原因で食事や睡眠、あるいは膀胱や腸の調節機能に支障が生じることがあります。
6~9歳
この年齢の子供は、往々にして死に強い興味を抱き、死んだ人の体には何が起きるのかと質問することがあります。生きていた人間の体から人格や魂が離れ、がいこつやお化け、天使、子取り鬼などのようになることが死であると認識しています。この年齢になると、死のことを人生の終わりを意味する恐ろしいものと考えるようになりますが、一方、高齢の人ばかりに起こる(つまり自分達には起こらない)ものとも捉えています。
悲嘆の過程にある子供は、学校を怖がる、学習面に問題を抱える、反社会的な行動や攻撃的な行動をとる、過剰に健康を心配する、想像上の症状を訴える場合があります。また、この年齢の子供は他の人を避けたり、過度に人に密着し、まとわりつくようになったりする場合もあります。
男の子は、悲しみを率直に表現する代わりに、攻撃的で破壊的な行動を示す(例えば、学校での「行動化」)ようになるケースも多くみられます。
片方の親を亡くし、もう一方の親が悲嘆のために子供を情緒面で支えられない場合、子供は亡くなった親と生存している親の双方に見捨てられたように感じることがあります。
9歳以上
9歳以上の子供は、死は避けられないものであり、罰ではない出来事であることを理解しています。12歳になるまでには、死は人生の終わりを意味するもので、また誰にでも起きるものであることを理解するようになります。
| 年齢 | 死の理解 | 悲嘆の表現 |
|---|---|---|
| 乳児から2歳 | まだ死を理解できない。 | 寡黙、不機嫌、不活発、不眠、体重減少。 |
| 母親との分離により変化が生じる。 | ||
| 2~6歳 | 死は眠りのようなもの。 | たくさんの質問をする(どうやってトイレに行くの?どうやって食事するの?)。 |
| 摂食、睡眠、排尿、排便の問題。 | ||
| 捨てられることへの恐怖。 | ||
| かんしゃく。 | ||
| 死者は何らかの方法で生きて活動し続けている。 | 「呪術的思考」(僕が死ねって思ったから?言ったから?大嫌いだ、死ねばいいのにって言ったから?)。 | |
| 死は終わりではない。 | ||
| 死者は生き返ることができる。 | ||
| 6~9歳 | 死を人格または魂の離脱と考える(がいこつ、お化け、子取り鬼)。 | 死への好奇心。 |
| 特定の質問をする。 | ||
| 学校を恐れることがある。 | ||
| 死は終わりであり、怖いもの。 | 攻撃的な行動を取ることがある(特に男児)。 | |
| 病気を想像して心配になる。 | ||
| 死は他人には訪れるが、自分には訪れない。 | 見捨てられた気持ちになることがある。 | |
| 9歳以上 | 人は皆いつか死ぬ。 | 感情の高ぶり、自責感、怒り、羞恥心。 |
| 自分の死についての不安が増大する。 | ||
| 気分の変動。 | ||
| 死は終わりである。 | 拒絶されることを恐れ、友達と違うことを嫌がる。 | |
| 自分もいつか死ぬ。 | 食習慣の変化。 | |
| 睡眠の問題。 | ||
| 退行行動(屋外活動への興味の喪失)。 | ||
| 衝動的行動。 | ||
| 生きていることへの罪悪感(特に兄弟姉妹や友人の死について)。 |
喪失に対処する子供は、しばしば次の3つの質問を発します:
私のせいで死んでしまったの?子供はしばしば自分が「呪術的な力」をもっていると信じています。母親がいらだちのあまり「あなたのせいでお母さんは死にそうよ」などと言って、その後実際に亡くなってしまった場合には、その子供は実際に自分が母親の死を引き起こしてしまったと考えてしまうことがあります。また子供は、けんかの中で「死んでしまえ」などと言う(あるいは思う)ことがあります。そうして相手の子供が実際に亡くなるようなことがあると、生存している子供は自分の考えが実際にその死を引き起こしたと考えることがあります。
私も死んじゃうの?子供にとって他の子供の死は非常につらいことです。その死は(親や医師の手によって)防げたかもしれないと考える子供は、自分も死んでしまうのではないかと考えるようになることがあります。
だれが私の面倒を見てくれるの?子供は両親や他の大人に養育面で依存しているため、悲嘆の過程にある子供は、大切な人が死んだ後には誰が自分の面倒をみてくれるのだろうと心配になることがあります。
死について誠実に話し、儀式に子供も参加させることが、悲嘆している子供にとって助けになるでしょう。死について話すことは、子供が喪失に対処する方法を学ぶのに役立ちます。子どもと死について話すときは、簡潔に説明するようにします。それぞれの子供の理解の限度に応じた詳しい説明によって、真実が伝えられなければなりません。質問には、子供が理解できる言葉で答えます。
子供は往々にして、自分も死んでしまうのではないか、残った親もどこかへ行ってしまうのではないかと心配します。今後も安全で面倒をみてもらえるという言葉を必要とします。
正確な言葉を使うようにします。子供と死について話し合うときには、「がん」、「死んだ」、「死」などの正しい言葉を使うべきです。言い換えて表現する(例えば、「どこかに行った」、「眠りについた」、「いなくなってしまった」)と、子供に混乱や誤解を与えることがあります。
追悼行事の計画や式典に子供を参加させるようにします。誰かの死に際して、子供は追悼行事の計画や式典に参加できることを望ましいと感じるでしょう。こうした行事に参加することで、子供は愛する人のことを記憶に留めておくことができます。行事への参加を強制するのはよくありませんが、子供が無理なく出席できる場合は参加するよう促します。葬儀、通夜、告別式などに出席する前に、子供に何が起きるのかをきちんと説明しておきます。悲嘆のあまり、生存している親が子供に説明できない場合は、身近な成人や家族が説明を補助してもかまいません。
悲嘆している子供の支援に関する情報が得られる書籍などの資料があります。以下の書籍やビデオは、悲嘆の過程にある子供の助けになるかもしれません:
愛する人を喪失したときに感じる悲嘆は、あらゆる文化に属するすべての年齢の人に起こるものです。しかし、それぞれの文化には、死別にまつわる態度や信念、慣習に影響を及ぼす、死についてのさまざまな迷信や神秘的教義が存在しています。
とはいうものの、文化が異なっていても個人としての悲嘆の経験は似通っています。あらゆる文化において、そこに属する人々が個人として感じる悲嘆の経験は似ています。文化が異なれば、喪の儀式、伝統、悲嘆の表現方法なども異なりますが、各人の悲嘆が類似していることは確かでしょう。
愛する人の喪失に対処する人に影響を与える文化的問題には、儀式、信念、役割などがあります。愛する人の死に対処する家族を支援するには、その家族の文化と弔い方に敬意を払います。以下の質問は、介護者が相手の文化に必要なものを学習するのに役立てることができます。
死、悲嘆、喪は人生における正常な出来事です。どの文化にも死に対処する際の必要性をよく満たす慣習があります。他の文化での死に対する反応を理解している介護者は、異なる文化の患者さんが自身の文化における通常の悲嘆過程を経験するにあたって、そのための支援を提供することができます。
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