医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、肝(肝細胞)がんのスクリーニングについて包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
注:成人原発性肝がんの治療および小児肝がんの治療については、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。
中等度の証拠によると、リスクの高い個人のスクリーニングは肝細胞がんの死亡率の減少をもたらさない。
中等度の証拠によると、スクリーニングによって、特に直径2cm超の病変では針通過部に沿った播種など穿刺吸引細胞診に関連した、まれではあるが重篤な副作用、および出血、胆汁性腹膜炎、および気胸を引き起こしうる。経頸静脈性肝生検はまれに肝被膜の穿孔または胆管炎といった重大な合併症と関連する。
肝細胞がん(HCC)は、世界で4番目によくみられるがんである。 [1] 年齢標準化発生率は、北米の2.1例/10万人 [2] から中国の80例/10万人までと幅がある。 [1] 2018年に米国では新たに42,220人が診断され、30,200人が同疾患により死亡すると推定されている。 [3] 米国ではどの人種でも明らかに男性優位であるが、この傾向は中国系アメリカ人で最も著明であり、男性のHCC年間発生率は20.8例/10万人、女性では7.6例/10万人である。 [4] 慢性B型肝炎および慢性C型肝炎はHCCのリスクを増大させる世界共通の主要因子で、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスに同時感染していると、リスクがさらに高くなると考えられている。 [5] [6] [7] 慢性肝炎患者のHCC発生率は0.46%/年である。米国では、慢性B型および慢性C型肝炎患者がHCC発症例の約30~40%を占めている。慢性G型肝炎の感染とHCCとの間には、HBsAg陽性キャリアでも非キャリアでも相関はみられない。 [8]
肝硬変も、その原因に関係なくHCCの危険因子である。肝硬変患者のHCC発症リスクは年間1~6%である。 [6] これ以外の危険因子には、アルコール性肝硬変、ヘモクロマトーシス、α-1-アンチトリプシン欠損症、糖原病、晩発性皮膚ポルフィリン症、チロシン血症およびウィルソン病があるが [2] 、まれに胆汁性肝硬変が危険因子となることもある。 [9] レトロスペクティブなケースコントロール研究により、肥満、2型糖尿病、異脂肪血症、インスリン抵抗性など非アルコール性脂肪肝炎を示唆する特徴が、ウイルスまたはアルコールが病因のHCC患者よりも、特発性肝硬変と関連したHCC患者で頻繁に観察されることが明らかにされた。 [10] [11] ある種のアスペルギルス(Aspergillus)属により生成されるカビ毒であるアフラトキシンは、保存が不適切な穀類および堅果類に混在していることの多い物質である。アフリカの一部でヒトのHCC発生率が高いのは、アフラトキシンに汚染された食品の摂取と関連しているのであろう。しかし、このような地域の住民はB型肝炎の感染頻度も高いため、アフラトキシンとHCCとの因果関係は明白ではない。HCCの考えられる病因は以下の表示要約してある。 [12]
原因物質 |
主な地域 |
B型肝炎ウイルス | アジアおよびアフリカ |
C型肝炎ウイルス | 欧州、米国および日本 |
アルコール | 欧州および米国 |
アフラトキシン | 東アジアおよびアフリカ |
肝細胞がん(HCC)のスクリーニングの理論的根拠は、肝硬変患者のようなHCC高リスク集団が同定可能であるとの発想に基づいている。しかしながら、HCC発症患者の20~50%は、肝硬変でありながら事前に診断されていない。 [1] [2] 標的集団を定めるために肝硬変の存在を利用するのであれば、このような患者は監視プログラムに採用されないであろう。 [3] スクリーニングに利用可能とされるものには、血清α-フェトプロテイン(AFP)と超音波検査がある。スクリーニングの異常結果は、診断のための肝生検へとつながる。肝生検の合併症は、患者の0.06~0.32%において報告され、通常、生検後数時間内に起こる。
肝細胞がんを検出するために現在用いられているか、または研究されている腫瘍マーカーには4つのカテゴリーがある。これには、腫瘍胎児抗原と糖蛋白抗原;酵素とアイソザイム;遺伝子;およびサイトカインが含まれる。 [4]
血清AFPは胎児特異性糖蛋白抗原であり、HCCの患者を検出するために最も広く用いられている腫瘍マーカーである。これまでに報告されているAFPのHCC検出感度は、B型肝炎ウイルス(HBV)陽性集団でもHBV陰性集団でも大きく異なり、これは、スクリーニング研究デザインと診断研究デザインの一部が重なっているためである。 [3] AFPを高リスク集団のスクリーニングに用いた場合、感度は39~97%、特異度は76~95%、陽性適中率(PPV)は9~32%と報告されている。 [5] [6] [7] [8] [9] AFPはHCCに特異的ではない。AFP値は、急性肝炎患者または慢性肝炎患者 [10] 、妊婦および胚細胞腫瘍の存在でも上昇する。
HBVに慢性的に感染しているアラスカ住民1,487人を対象に、肝細胞がんのスクリーニングに関するプロスペクティブ集団ベース観察研究が16年間にわたり実施されており、スクリーニングでHCCが発見された患者の生存率と、臨床的にHCCと診断された患者の歴史的対照群の生存率とが比較された。 [8] このスクリーニングプログラムの目的は、6ヵ月に1回AFP値を測定することにあった。これによって、HCC検出感度97%、特異度95%(妊婦を除く)という結果が得られている。これほど高い感度と特異度は、肝硬変患者などの他の高リスク集団には認められていない。 [11] [12] スクリーニングによって実際に生存率が改善したかどうかは明らかではない。
U.S. Veterans Affairs(VA)医療システムにおいて実施された1件のケースコントロール研究で、AFPおよび/または超音波を用いたスクリーニングにより、HCC死亡率が低下するかどうかが評価された。症例は、2013年から2015年にHCCにより死亡した肝硬変患者238人で、HCC診断の4年以上前に肝硬変の診断を受けてVA医療システムで治療中であった。対照は、HCCにより死亡しなかった患者で、同じく4年以上VA医療システムで治療中であり、登録日(すなわち、焦点時間)と年齢、性別、人種、末期肝疾患モデル(MELD)スコア、および肝硬変の病因(主にC型肝炎ウイルス)についてマッチングされていた。研究検査者は転帰の状態について盲検化され、超音波およびAFPスクリーニングの受診を評価するためにカルテの抽出を用いた。検査の理由(スクリーニング vs 他の適応)が評価され、ここでも結果は盲検化された。研究により、超音波スクリーニング(52.9% vs 54.2%)、AFPスクリーニング(74.8% vs 73.5%)、または両方のスクリーニングを受けた患者の割合に関して、症例と対照間で差がなかったことが明らかにされた。1年、2年、または3年間の転帰において検査の差は認められなかった。 [13] 本セクションの他の箇所でも指摘しているように、ランダム化比較試験が不足しており、強さも不十分であるため、このケースコントロール研究-バイアスを避けるために最善の注意を払って実施された-は、AFPまたは超音波スクリーニングの効力に関しておそらく最も強力な証拠を含んでいた;しかしながら、この研究でHCC死亡率における有益性は示されなかった。
高リスク集団を監視する場合のAFPの感度および特異度には限界があることから、もう1つのHCC検出法として超音波が用いられるようになった。 [3] 健常なHBs抗原キャリアを対象とした研究でも [5] 、肝硬変患者を対象とした研究でも [7] 、超音波にはHCCのスクリーニングに利用できる診断特性があることが明らかにされている。前者での感度は71%、後者での感度は78%であり、特異度は93%である。陽性適中率はそれぞれ、14%、73%である。肝移植待機リストの患者を対象とした研究において、超音波検査の感度は58%、特異度は94%、陰性適中率は91%、陽性適中率は68%であることが明らかにされた。 [14]
VA集団において実施された1件のケースコントロール研究で、AFPおよび/または超音波を用いたスクリーニングにより、HCC死亡率が低下するかどうかが評価された(詳しい情報については、本要約のα-フェトプロテインのセクションを参照のこと)。
肝硬変患者のような高リスク集団を監視する場合、AFPならびに超音波の感度および特異度には限界があることから、さらにもう1つのHCC検出法としてコンピュータ断層撮影法(CT)による評価が用いられるようになった。肝硬変患者を対象とした研究では、CTが超音波または20μg/L超のAFP値よりも感度の高いHCC検出法である可能性が示唆されている。 [11] [12]
上海の35~59歳のB型肝炎患者18,816人の対照試験では、患者を6ヵ月ごとにAFPおよび超音波を用いるスクリーニング群と、対する通常ケア群にランダムに割り付けた。HCC死亡率はスクリーニング群の方が低かった(83.2 vs 131.5/100,000;死亡率比0.63[95%信頼区間(CI)、0.41-0.98])。これらの結果は有望であるものの、以下のような問題が認められた:
1件のランダム化比較試験では、中国の啓東市において1989年から1995年の間にHBVの慢性キャリアの30~69歳の男性5,581人が研究された。これらの男性のうち、3,712人がスクリーニング群に、1,869人が対照群にランダムに割り付けられた。スクリーニングでは6ヵ月に1回のAFP測定が実施され、検査結果で異常(20μg/L以上)を示した患者を追跡した。すべての患者が、肝がんおよび/または死亡に関して追跡された。プログラム全体の感度および特異度はそれぞれ、55.3%および86.5%であった。計画されたスクリーニング検査すべてに応じた患者における感度は80%、特異度は80.9%であった。スクリーニング群の死亡率(1,138/100,000人年)と対照群の死亡率(1,114/100,000人年)には有意差が認められなかったが、AFPによるスクリーニングの結果、肝がんが早期に診断された(すなわち、I期の症例の割合は対照群[6%]よりもスクリーニング群[29.0%]で有意に高かった)。 [17] レビューでは、AFP測定方法はHCCを検出するには感度が低く、この試験の陰性の結果の解釈に影響したと結論付けられた。 [15]
2種類の有害性または合併症はスクリーニングに起因している。直接有害は精密診断の一部として行われた肝生検の合併症に起因している。このような合併症は、患者の0.06~0.32%において報告され、通常、生検後数時間内に起こる。合併症には、出血、胆汁性腹膜炎、内臓穿通および気胸などがある。肝生検の直接結果として患者が死に至ることはまれである(0.009~0.12%)。患者の約3分の1は、生検針刺部位、右上腹部、または右肩に痛みを感じる。 [1] 穿刺吸引細胞診および肝生検はまれに、悪性細胞の針通過部に沿った着床と関連する。リードタイム・バイアス(早期診断および早期治療開始による生存率の改善ではなく、HCCの自然史における診断の早期化)、レングス・バイアス(スクリーニングによる、成長が遅く侵攻性の低い腫瘍の早期発見)、HCCの過剰診断(罹病率または死亡率を上昇させることのない腫瘍まで発見してしまうこと)のいずれかまたは複数が、報告された5年生存率および10年生存率の改善の原因または原因の一部となっている可能性がある。
PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。
本文に、U.S. Veterans Affairs(VA)医療システムにおいて実施され、α-フェトプロテイン(AFP)および/または超音波を用いたスクリーニングにより、肝細胞がん(HCC)死亡率が低下するかどうかが評価された1件のケースコントロール研究に関する記述が追加された;ランダム化比較試験が不足しており、強さも不十分であるため、このケースコントロール研究は、AFPまたは超音波スクリーニングの効力に関しておそらく最も強力な証拠を含んでいた;しかしながら、この研究でHCC死亡率における有益性は示されなかった(引用、参考文献13としてMoon et al.)。
本文に以下の記述が追加された;VA集団において実施された1件のケースコントロール研究で、AFPおよび/または超音波を用いたスクリーニングにより、HCC死亡率が低下するかどうかが評価された。
本要約はPDQ Screening and Prevention Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。
医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、肝(肝細胞)がんのスクリーニングについて包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。
本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Screening and Prevention Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。
委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:
要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。
本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。
本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Screening and Prevention Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。
PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。
本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:
PDQ® Screening and Prevention Editorial Board.PDQ Liver (Hepatocellular) Cancer Screening.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/liver/hp/liver-screening-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389228]
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