原文更新日 : 2006-08-03
翻訳更新日 : 2007-06-27
ウィルムス腫瘍
ウィルムス腫瘍とその他の腎腫瘍は、腎臓の中に悪性(がん)細胞が発生する疾患です。ウィルムス腫瘍では、1つまたは複数の腫瘍が片側または両側の腎臓に発生します。腎臓は、腰の上あたりの背骨の両側に位置する左右一対の臓器です。腎臓の内部では、微細な細管によって血液が濾過されてきれいになり、これと同時に取り除かれた老廃物から尿が生成されます。尿は左右の腎臓から出た後、尿管と呼ばれる長い管を通って膀胱に送られます。膀胱は排泄時まで尿を溜めておくための臓器です。
ウィルムス腫瘍は、肺、肝臓、付近のリンパ節などに転移することがあります。
その他の腎腫瘍
腎明細胞肉腫、腎横紋筋肉腫様腫瘍、腎臓の神経上皮性腫瘍、および腎細胞がんは、ウィルムス腫瘍とは無関係の小児期の腎腫瘍です。
疾患が発生する可能性を増大させるものは全て危険因子と呼ばれます。ウィルムス腫瘍は、成長や発達に悪影響を及ぼす、ある遺伝性症候群の一部として発生することがあります。遺伝性症候群とは、同時に発生する一連の症状や病態をひとくくりにした概念で、その中でも遺伝子の異常が原因で発生するものをいいます。また、特定の先天異常がある場合にもウィルムス腫瘍の発生リスクが高くなります。ウィルムス腫瘍との関連性が判明している遺伝性症候群と先天異常には、以下のようなものがあります:
これらの遺伝性症候群や先天異常をもつ小児には、8歳になるまで3カ月ごとにウィルムス腫瘍のスクリーニングを実施する必要があります。このスクリーニングには超音波検査が用いられます。
ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の徴候として考えられるものに、腹部のしこりと血尿があります。腎腫瘍では、こうした症状が引き起こされることがあります。ただし別の病態が原因で同様の症状が生じてくる場合もあります。以下のような症状がある場合は医師の診察を受けてください:
以下のような検査法や手技が用いられます:
一旦腫瘍が発見されると、その腫瘍ががんであるかどうかを確かめるために手術が実施されます。がんが片側の腎臓のみに認められる場合は、外科医は腫瘍のある方の腎臓を完全に摘出するでしょう(腎摘出術)。一方、腫瘍が両側の腎臓に存在する場合や腫瘍が腎臓の外まで拡がっている場合は、腫瘍のみの切除が行われます。どの場合にしても、腫瘍の組織サンプルが病理医の下に送られ、そこで顕微鏡での観察によるがんの徴候の検査が行われます。
特定の因子によって予後(回復の見込み)や治療法の選択肢が変わってきます。予後(回復の見込み)や治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:
がんが腎臓外の他の部位まで拡がっているかどうかを調べていくプロセスは、病期分類と呼ばれます。この病期分類の過程で集められた情報を基に病期が判定されます。治療計画を立てるためには病期を把握しておくことが重要になります。
ウィルムス腫瘍の場合、 病期は初回の手術の際に画像検査の結果と併せて判定されます。他の部位への転移の有無を確かめるための画像検査には、以下のようなものがあります:
腫瘍の組織型(顕微鏡で観察した際のがん細胞の外見)は予後を左右し、具体的には予後良好型と予後不良型に分けられます。 予後良好型の腫瘍では、予後不良型のものよりも大きな治療効果を期待できます。
I期では、手術で腫瘍が完全に切除され、以下の条件の全てが満たされます:
II期では、手術で腫瘍が完全に切除され、かつ腫瘍が切除された領域の端の部分にがん細胞が認められません。さらに、次の条件のどちらかが満たされます:
III期では、手術後もがんが腹部に残存していて、かつ以下の条件のうちの少なくとも1つが満たされます:
IV期では、がんが血液を介して肺や肝臓、骨、脳などの臓器、もしくは腹部外または骨盤外のリンパ節まで拡がっています。
V期V期は、この疾患が最初に診断された時点でがん細胞が両側の腎臓に認められる場合です。左右それぞれの腎臓に対して、I期、II期、III期、IV期の病期分類が行われます。
ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の患者さんは、様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、現在用いられている治療法の改善や、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。
小児のがんの場合は、それ自体がまれであるため、臨床試験への参加を検討すべきです。臨床試験は米国各地で行われています。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
ウィルムス腫瘍やその他の小児腎腫瘍の小児の治療では、小児がんの治療に熟練した複数の医師で構成されるチームによって、患者さんごとの治療計画が作成される必要があります。小児腫瘍医、すなわち小児がんの治療を専門とする医師が治療を統括することになります。小児腫瘍医は、ウィルムス腫瘍やその他の小児腎腫瘍の治療経験と知識をもった医師や、あるいは特定の分野の専門医を紹介することもあります。具体的には以下のような専門家が挙げられます:
ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍は、腎摘出術(腎臓全体を摘出する手術)によって治療されるのが通常です。場合により付近のリンパ節も併せて切除されます。
両側の腎臓に腫瘍がある場合は、腎部分切除術(腎臓内のがんと少量の正常組織を切除する手術)が行われることがあります。ここで腎部分切除術を行うのは、腎臓の機能を残しておくためです。
たとえ医師が手術の際に確認できる全てのがんを切除したとしても、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させるために、術後に化学療法や放射線療法を実施する場合があります。治癒の可能性を高めるために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。場合によっては、セカンドルック手術を行って、化学療法や放射線療法の実施後にがんが残っていないかを確かめることもあります。
放射線療法放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に置いた機械を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、カテーテルなどの中に放射性物質を封入し、がんの内部または近くに直接留置する方法です。放射線療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
化学療法化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬を直接注入する化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
併用化学療法は複数の抗がん剤を用いる治療法です。
生物学的療法生物学的療法は、がんを撃退するために患者さんの免疫系を利用する治療法です。体内で生産された物質や製造ラボで合成された物質を用いることによって、体が本来もっているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したり、回復させたりします。このようながんの治療法は、生物療法や免疫療法とも呼ばれます。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。具体的には以下のようなものがあります:幹細胞移植を伴う大量化学療法とは、高用量の化学療法を実施するとともに、このがん治療によって破壊された造血細胞を外から補充するという治療法です。まず患者さん自身またはドナーから採取した血液や骨髄から幹細胞(成熟前の血液細胞)を取り出し、凍結保存しておきます。そして化学療法の終了後に、保存していた幹細胞を解凍し、これを点滴によって患者さんの体内に戻します。こうして再注入された幹細胞が血液細胞に成長することにより、血液の機能が回復していきます。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
がんの治療では晩期障害が発生することがあります。がんの治療法の中には、治療後も副作用が継続するものや、数カ月あるいは数年間も経過してから副作用が現れてくるものがあります。こうした副作用は晩期障害と呼ばれます。(さらに詳しい情報については、PDQの小児がん治療の晩期障害に関する要約をご覧ください。)がんの治療を受けている小児の親には、特定の治療法で生じる晩期障害のリスクを把握しておくことが重要になります。化学療法や放射線療法による治療を受けた結果として、数年後に別の種類のがんを発症する患者さんもいます。このようなこともあって、低用量の化学療法や低線量の放射線療法が実際の治療法として成立するかどうかを明らかにすべく、現在臨床試験が行われています。
I期ウィルムス腫瘍では、組織型が予後良好型か予後不良型かに関係なく、治療法は以下のようなものになります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
予後良好の組織型をもつII期ウィルムス腫瘍の治療法は、リンパ節切除を伴う腎摘出術とその後の併用化学療法となるのが通常です。
予後不良の組織型をもつII期ウィルムス腫瘍の治療法は、リンパ節切除を伴う腎摘出術と、その後の腹部への放射線療法と併用化学療法となるのが通常です。
III期ウィルムス腫瘍の治療法は、組織型が予後良好型か予後不良型かに関係なく、リンパ節切除を伴う腎摘出術と、その後の腹部への放射線療法と併用化学療法となるのが通常です。
IV期ウィルムス腫瘍の治療法は、組織型が予後良好型か予後不良型かに関係なく、リンパ節切除を伴う腎摘出術と、その後の腹部への放射線療法と併用化学療法となるのが通常です。患者さんによっては、肺への放射線療法を併せて実施する場合もあります。
V期ウィルムス腫瘍の治療法は患者さんごとに異なってきます。通常は、化学療法によって腫瘍を小さくしておき、その後手術によってがんをできるだけ多く切除するという治療が行われます。手術後にがんが残っている場合には、さらに化学療法か放射線療法あるいはその両方が追加されることがあります。
ときに、がんが重要な臓器や重要な血管に接近していたり、あるいは切除するには大きすぎたりするために、腫瘍が手術不能な(手術では取り除けない)状態となっている場合があります。こうした場合には、手術による切除が可能となる大きさまで腫瘍を小さくするために、化学療法が実施されます。化学療法によって十分に腫瘍が小さくなった場合は、放射線療法を実施して手術が可能となるまでさらに腫瘍を小さくします。その後さらに化学療法か放射線療法あるいはその両方が追加される場合もあります。
腎明細胞肉腫には標準治療はありません。治療は臨床試験の中で行われるのが通常で、具体的には、腎摘出術とその後の腹部への放射線療法および併用化学療法といった治療法があります。患者さんによっては、肺への放射線療法を併せて実施する場合もあります。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
腎横紋筋肉腫様腫瘍には標準治療はありません。治療は臨床試験の中で行われるのが通常で、具体的な治療法には併用化学療法などがあります。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
腎臓の神経上皮性腫瘍には標準治療はありません。治療は臨床試験の中で行われるのが通常となっています。この腫瘍には、ユーイング腫瘍や原始神経外胚葉性腫瘍と同じ治療法が用いられます。(さらに詳しい情報については、PDQのユーイング腫瘍の治療に関する要約をご覧ください。)
現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
腎細胞がんの治療法は、リンパ節切除を伴う腎摘出術となるのが通常です。がんが拡がっている場合は、生物学的療法か原発腫瘍を切除する手術が行われることもあります。(さらに詳しい情報については、PDQの腎細胞がんの治療に関する要約をご覧ください。)
再発したウィルムス腫瘍の治療は臨床試験の中で行われることがあり、そこでは併用化学療法、手術および放射線療法に、場合により幹細胞移植(患者さん自身の血液中の幹細胞を用いる)を追加するという治療が実施されます。
腎明細胞肉腫、腎横紋筋肉腫様腫瘍もしくは腎臓の神経上皮性腫瘍が再発した場合の治療は、臨床試験の中で行われるのが通常となっています。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。