がん治療ではがん細胞を破壊するのと同時に、正常な細胞にも傷害を与えます。化学療法や放射線療法、骨髄移植、幹細胞移植などによるがん治療では、がん細胞など分裂が活発な細胞の増殖を阻止します。小児でも、発達段階にある骨や組織、臓器に分裂が活発な細胞が存在するため、がん治療によってこうした細胞の正常な発達が抑制されることがあります。他のがん治療法としては、がんが含まれる臓器全てまたはその一部を切除する手術があります。これらのがん治療による障害は、軽度なものもあれば重篤なものもあり、またこうした作用の出現時期も、治療中から数カ月、数年後まで様々です。
がん治療が終了した後で、継続するまたは出現する副作用のことを晩期障害と呼んでいます。ご両親や患児は、がん治療を受けた小児(小児がん生存者の方)が治療後に晩期障害を発症する可能性があると理解することが重要です。
このような晩期障害は、次に挙げるものに影響を及ぼすことがあります:
がん治療が晩期障害を引き起こすリスクは、多くの因子に影響を受けますが、その一部を以下に示します:
小児がん生存者の方々の長期的な健康のために、晩期障害の発見・治療を熟知した医療専門家による定期的なフォローアップが重要です。小児がん生存者の方々(またはその介護者)は、全ての検査結果を含むがん診断およびがん治療に関する記録を保管する必要があります。この情報は晩期障害の発見・治療に役立ちます。
医師は小児がん生存者の方々のがん治療による晩期障害について研究しています。その研究では、治療を変更することによって小児がん生存者の方々の晩期障害を阻止または抑制できるかどうか調べています。
頭部への放射線療法や頭部手術、髄腔内化学療法を受けた小児がん生存者の方々では、次の能力に障害が現れるリスクがあります:
小児がん生存者の方々では学習障害が認められたり、IQが低いことがあります。
特定の因子がCNSに関係する晩期障害のリスクを高めます。次の因子はCNSに関係する晩期障害のリスクを高める可能性があります:
次に示すような小児がんへの治療が、CNSに関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
小児がん生存者の方々は、身体変化や外見、がん再発の恐怖に関係する不安やうつを呈することがあります。こうした問題は、生存者の方々が普通の生活や活動を取り戻す妨げとなる可能性があります。また、人との関わりや教育、雇用、健康上の問題につながる可能性があります。
小児がん生存者の方々には心的外傷後ストレス障害を発症する人もいます。生命を脅かす病気を診断され、その治療を受けることは、しばしば心的外傷となります。このような心的外傷は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と呼ばれる一連の症状を引き起こすことがあります。PTSDは、死や死の恐怖、重篤な損傷、自分自身や他人への恐怖といったストレスを強く感じる出来事を経験した後に特定の症状を認めることと定義されています。戦闘や天災など、極めて強いストレスを感じる状況から助かった人々も、PTSDを発症することがあります。
PTSDはがん生存者の方々に対して次のような影響を与えます:
家族に問題がある場合や、家族や友人からの社会的支援が少ない、もしくは全くない場合、またがんとは関係ないストレスがある場合は、PTSDの発症率が高くなります。がんにまつわる場所や人との接触を避けることがPTSDの症状の1つであるため、PTSDを発症した生存者は、必要な治療を受けようとしないことがあります。
難聴のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
治療時の年齢が低かった小児がん生存者の方々でもリスクが高まることがあります(年齢が低いほど、リスクが高い)。
特定の小児がんに対する治療が聴覚に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります。次に示すような小児がんへの治療が聴覚に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
視覚に関係する晩期障害には次のものがあります:
次の場合、眼球や眼窩の障害のリスクが高まることがあります:
次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々でも、眼球や眼窩における障害のリスクが高まることがあります:
次に示すような小児がんへの放射線療法が、視覚に関係する晩期障害を引き起こすことがあります:
歯および顎に関係する晩期障害には次のものがあります:
歯および顎に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
治療時の年齢が3歳未満であった生存者の方々でもリスクが高まることがあります。
小児がん生存者の方々では、定期的な歯科検診を受け、感染症や虫歯の予防、および発見に努めることが重要です。
特定の小児がんに対する治療が歯および顎に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります。次に示すような小児がんへの治療が歯および顎に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
肝線維症やC型肝炎ウイルス感染、肝静脈閉塞症は長期的な問題を引き起こす可能性があります。
特定の因子が肝臓に関係する晩期障害のリスクを高めます。肝臓に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
治療前に肝疾患の既往があったり、治療中に肝静脈閉塞症を来した生存者の方々でもリスクが高まることがあります。
特定の小児がんに対する治療が肝臓に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります。次に示すような小児がんへの治療が肝臓に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
こうした影響は血管の損傷によって引き起こされ、長期的な問題につながることがあります。
腹部への放射線療法は血管を損傷し、消化管に関係する晩期障害のリスクを高めることがあります。次に示すような小児がんへの治療が消化管に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
脾臓に関係する晩期障害では生命を脅かす細菌感染のリスクが高まることがあります。
特定の因子が脾臓に関係する晩期障害のリスクを高めます。脾臓に関係する晩期障害のリスクは、次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
こうした治療のいずれかを受けた小児がん生存者の方々は、常に最新の免疫付与を行なうこと、また歯医者にかかる前には抗生物質の投与を受けることが非常に重要です。
脾臓に関係する晩期障害は、小児ホジキンリンパ腫や他の小児がんへの治療により起こることがあります。心臓に関係する晩期障害には次のものがあります:
次の場合、心臓に関係する晩期障害のリスクが高まることがあります:
使用したアントラサイクリン系薬剤や放射線量が多い場合、治療から経過した期間が長い場合もこのリスクが高まることがあります。
特定の小児がんに対する治療が心臓に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります。次に示すような小児がんへの治療が心臓に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
肺に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの疾患が認められた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
次のいずれかの処置を受けた生存者の方々でもリスクが高まることがあります:
次に示すような小児がんへの治療が肺に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
次の場合、腎臓に関係する晩期障害のリスクが高まることがあります:
次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々でもリスクが高まることがあります:
甲状腺に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
女性の場合や、診断から経過した期間が長くなるにつれてリスクが高まることがあります。
特定の小児がんに対する治療が甲状腺に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります。次に示すような小児がんへの治療が甲状腺に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
こうしたリスクには次のような影響があります:
次に示すような小児がんへの治療が神経内分泌系に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
骨に関係する晩期障害には次のものがあります:
次の場合、骨に関係する晩期障害のリスクが高まることがあります:
次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々でもリスクが高まることがあります:
次に示すような小児がんへの治療が骨に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
次の場合、肥満のリスクが高まることがあります:
次に示すような小児がんへの治療が肥満を引き起こす可能性があります:
精巣に関係する晩期障害は不妊症や精子の減少を引き起こすことがあります。精子の減少は、放射線の線量や治療スケジュール、治療部位、治療時の年齢によって一過性である場合もあれば永久的である場合もあります。
特定の因子が精巣に関係する晩期障害のリスクを高めます。精巣に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
次に示すような小児がんへの治療が精巣に関係する晩期障害を引き起こす可能性があります:
卵巣に関係する晩期障害のリスクは次のいずれかの処置を受けた小児がん生存者の方々で高まることがあります:
子宮は正常より弾力性が少なく、十分に成長しないことがあります。そのため、流産や早産のリスクが高くなる可能性があります。また、そのような子宮内で胎児の成長も影響を受けることがあります。
子宮に関係する晩期障害のリスクは、腹部への放射線療法を受けた女性で高まることがあります。妊娠に関係する晩期障害では、次の項目に対するリスクが高まります:
男性の小児がん生存者の方々では、その子供が死産になるリスクが高まります。
特定の幹細胞移植や骨髄移植により、不妊症のリスクが高まります。全身照射(TBI)、シクロホスファミド、ブスルファンを伴う幹細胞移植および骨髄移植は卵巣に損傷を与える可能性があります。卵巣や受胎能、出産能力に関係する問題が起こることがあります。
小児がん生存者の方々が子供をもつのに有用な方法があります。小児がん生存者の方々は子供をもつために、次の方法を用いることもできます:
保存した卵子や精子、胚にがん細胞が含まれるリスクがあります。血液や精巣、卵巣のがんであった患者さんで、このリスクが最も高くなります。
小児がん生存者の方々の子供は通常、親が以前に受けたがん治療の影響を受けません。小児がん生存者の方々は、自分の子供が先天異常や遺伝性疾患やがんをもっていないか心配します。腰部に放射線療法を受けた女性の子供においては先天異常のリスクがやや増加しますが、小児がん生存者の方々の子供の大半が健康に生まれています。
胚が人工的に作られた子供における先天異常のリスクや、二次がんを経験したがん生存者の方々の子供におけるがんのリスクは高まる可能性があります。
治療に関係する特定の因子が二次がんのリスクを高めます。これらには以下のものがあります:
特定の遺伝的症候群をもつために、原発がん発症のリスクが高まり、さらに二次がん発症のリスクも高まる小児がん生存者の方々もいます。これらには以下のものがあります:
こうした小児がん生存者の方々においては、綿密なフォローアップ検査を頻繁に受けることが極めて重要となります。
がん治療の向上により、原発がんによる死亡数は減っています。しかし、小児がん生存者の方々における晩期障害の数は年齢とともに増加し、小児がん生存者の方々は、小児期にがんを発症しなかった人々ほど長く生きられない可能性があります。小児がん生存者の方々における死亡原因で最も多いのは次のものです:
晩期障害の原因についての研究が治療に変化をもたらしています。これにより、がん生存者の方々の生活の質(QOL)が改善され、晩期障害による死亡を抑制しています。
がん治療を受けた各患者さんに対するフォローアップケアは、がんの種類や治療の種類、また患者さんの全身の健康状態によって異なります。小児がん生存者の方々にとって、彼らの治療やそのリスクに精通するとともに、晩期障害の徴候を早期につかめる医療提供者が実施する定期検査を受けることが大切です。
小児がん生存者の方々(特に中枢神経系腫瘍や白血病、ホジキン病生存者の方々)では特別な教育が必要となる場合が多くあります。
こうした小児がん生存者の方々のフォローアップケアは成人になるまで続けられます。このフォローアップケアには、生存者の方々の担当医師や専門家、教育機関、職業機関、社会福祉機関、そして家族が含まれることが理想的です。
長期的なフォローアップは、がん生存者の方々の健康と生活の質(QOL)を改善し、医師のがん治療による晩期障害についての研究にも役立ち、その結果新たに診断される小児にとってより安全な治療法が開発されます。
小児がん生存者の方々にとって、健康を促進する生活行動が重要です。がん生存者の方々が満足できる生活の質は、彼らの将来の健康と幸せを促進する生活行動、例えば健康的な食事や運動、定期的な医療検診や歯科検診によって改善されます。がん生存者の方々では治療に関係する健康障害のリスクが高いため、がん生存者の方々が自ら行うこうした生活行動は特に大切です。健康的な生活行動により、晩期障害の程度が軽くなり、他の病気に対するリスクも低くなる可能性があります。
健康を害する生活行動を避けることも重要です。喫煙、過度のアルコール摂取、違法薬物の使用は臓器損傷のリスクを高め、二次がんへとつながる可能性があります。