原文更新日 : 2005-06-29
翻訳更新日 : 2007-06-27
胸腺は、上胸部の胸骨の奥に位置する小さな臓器で、リンパ系の一部を構成しています。その機能は、リンパ球と呼ばれる、感染に対する生体防御を担う白血球の一種を生産することです。
胸腺にできる腫瘍にはいくつかの種類があります。胸腺腫と胸腺がんは、胸腺の外表面の細胞を発生源とする、まれな腫瘍です。胸腺腫の腫瘍細胞は胸腺の正常な細胞と外観がよく似ていて、増殖のペースは遅く、胸腺の外に拡がることはめったにありません。一方の胸腺がんでは、腫瘍細胞の外観は胸腺の正常な細胞とは大きく異なっていて、増殖のペースが速く、がんとして発見された頃には別の部位に転移しているのが通常です。そのため胸腺がんでは、胸腺腫の場合よりも治療が難しくなってきます。
胸腺腫の発生リスクを高める要因に、重症筋無力症と呼ばれる疾患があります。胸腺腫の患者さんでは、別の疾患が同時に発生していることが多くなっています。そのような疾患としては、重症筋無力症、多発性筋炎、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、甲状腺炎、シェーグレン症候群、低ガンマグロブリン血症などが挙げられます。
胸腺腫や胸腺がんの徴候として考えられるものに、咳と胸痛があります。胸腺腫や胸腺がんでは、まったく症状が現れてこない場合もあります。またこのがんは、通常の胸部X線検査の際に偶然発見される場合もあります。下記の症状が現れたとしても、胸腺腫か胸腺がんが原因の場合もあれば、別の病態が原因となっている場合もあります。以下のような症状がある場合は医師の診察を受けてください:
以下のような検査法や手技が用いられます:
まず診断のために、腫瘍の生検が実施されます。生検は手術前か手術中に実施され、細い針を体内に挿入して細胞のサンプルを採取する方法(針生検または穿刺吸引生検)が用いられます。採取後は病理医がそのサンプルを顕微鏡で観察して、がん細胞の有無を調べます。ここで胸腺腫か胸腺がんの診断がついた場合は、病理医はがん細胞の種類を特定します。1つの胸腺腫の中に複数の種類のがん細胞が混在している場合もあります。外科医は、その腫瘍が手術で完全に取り切れるものかどうかの判断を行います。場合によっては、リンパ節などの胸腺以外の組織を併せて切除することもあります。
特定の因子によって予後(回復の見込み)や治療法の選択肢が変わってきます。予後(回復の見込み)と治療法の選択を左右する因子には以下のものがあります:
病期分類とは、がん細胞が胸腺の外部へ拡がっているかどうかを明らかにしていくプロセスのことです。最終的な病期の判定は、手術の際に得られた情報とこの病期分類の過程で実施された検査の結果を総合した上で行われます。治療計画を立てる上では病期を把握しておくことが重要になります。
胸腺腫では、以下の病期分類が用いられます:I期では、がんが胸腺内のみに認められます。全てのがん細胞が、胸腺を覆う被膜の内部に存在しています。
浸潤性胸腺腫(II期、III期、IV期)浸潤性胸腺腫にはII期、III期、IV期の胸腺腫が含まれます。
再発胸腺腫や再発胸腺がんとは、治療後に再び悪化(再発)したがんのことをいいます。再発は、胸腺に起こることもあれば、体の別の部位に起こることもあります。胸腺がんは大抵の場合再発を起こします。胸腺腫では長期間が経過してから再発することがあります。また胸腺腫を発症した人では、別の種類のがんの発生リスクも高くなります。以上の理由から、生涯にわたる経過観察が必要になります。
胸腺腫や胸腺がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療を開始する前に、まず臨床試験への参加を検討してみるのもよいでしょう。治療法の臨床試験とは、現在用いられている治療法の改善や、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。
臨床試験は米国各地で行われています。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
標準治療として以下の3種類が用いられています:胸腺腫の治療法としては、腫瘍を摘出する手術が最も多く用いられています。
たとえ医師が手術の際に確認できる全てのがんを切除したとしても、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させるために、術後に放射線療法を実施する場合があります。このように治癒の可能性を高めるために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。
放射線療法放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、カテーテルなどの器具の中に放射性物質を封入し、がんの内部かその付近に直接留置する方法です。放射線療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
ホルモン療法ホルモン療法は、ホルモンを体内から除去したりその働きを妨害したりすることによってがん細胞の増殖を阻止する、がんの治療法です。ホルモンとは、体内の腺から分泌されて血流内を循環する物質のことです。ホルモンの中には、特定のがんを増殖させるものがあります。ホルモンが結合できる部分(レセプター)ががん細胞上に存在するということが検査によって判明した場合には、薬物投与や手術、放射線療法などの手段を用いて、そのホルモンの分泌を抑制したり機能を阻害したりする治療を行っていきます。
胸腺腫や胸腺がんの治療法としては、副腎皮質ステロイドという薬によるホルモン療法が用いられます。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬を直接注入する化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
非浸潤性胸腺腫と非浸潤性胸腺がんの治療法には、以下のようなものがあります:
手術によって完全に摘出できると判断される浸潤性胸腺腫や浸潤性胸腺がんに対する治療法には、以下のようなものがあります:
手術では完全に摘出できない浸潤性胸腺腫や浸潤性胸腺がんに対する治療法には、以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
再発胸腺腫と再発胸腺がんの治療法には以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。