網膜とは、眼球の後側の内面を覆っている神経組織のことをいいます。網膜は、光を感知してその情報を視神経を介して脳に伝えるという役割を果たしています。
網膜芽細胞腫はあらゆる年齢の患者さんに発生しうる疾患ですが、大抵は5歳未満の小児に発生します。腫瘍は片眼のみに発生することもあれば、両眼に発生することもあります。網膜芽細胞腫では、がんが眼球付近の組織や体内の他の部位に拡がることはめったにありません。大抵は片眼のみに発見され、治癒可能であるのが通常です。
網膜芽細胞腫では、ある遺伝子が親から子へと受け継がれることが原因となる場合が時折みられます。網膜芽細胞腫は遺伝する(親から子へと受け継がれる)ことがあります。突然変異を起こした遺伝子が受け継がれることによって引き起こされる網膜芽細胞腫は、遺伝性網膜芽細胞腫と呼ばれます。この場合は、遺伝によらない網膜芽細胞腫と比べてより低い年齢で発症するのが通常です。片眼のみに発生する網膜芽細胞腫は大抵の場合、遺伝によらないものです。両眼に発生する網膜芽細胞腫は例外なく遺伝によるものです。遺伝性の網膜芽細胞腫が片眼のみに発生した場合は、その後に反対側の眼にも腫瘍が発生してくる可能性が高くなります。そのため片眼のみに網膜芽細胞腫が診断された場合には、健康な方の眼に対する定期的な経過観察検査を、その後の少なくとも28カ月にわたって2〜4カ月に1回のペースで行っていく必要があります。網膜芽細胞腫の治療が完了した後にも、7歳になるまでは経過観察を継続していくことが重要となります。
また網膜芽細胞腫の治療には、それが遺伝性か非遺伝性かには関係なく、遺伝カウンセリング(遺伝性疾患に精通した専門家によるカウンセリング)が組み込まれる必要があります。また網膜芽細胞腫の小児の兄弟姉妹に対しても、定期的な検診の実施と、がんの発生リスクに関する遺伝カウンセリングの実施が必要となります。
遺伝性網膜芽細胞腫の小児では、三側性網膜芽細胞腫と他の種類のがんの発生リスクが高くなります。遺伝性網膜芽細胞腫の小児では、脳の松果体腫瘍の発生リスクが高くなります。このような腫瘍は三側性網膜芽細胞腫と呼ばれています。網膜芽細胞腫の治療中と診断後の少なくとも4年間は、このまれな疾患を早期発見するための定期的な経過観察検査の実施が重要となります。また遺伝性網膜芽細胞腫の小児では、他の種類のがんについてもその後の発生リスクが高くなっています。これについても定期的な経過観察検査が重要になります。
網膜芽細胞腫の徴候として考えられるものに、「白色瞳孔」、眼の痛み、眼の充血があります。網膜芽細胞腫では、こうした症状が引き起こされることがあります。ただし別の病態が原因で同様の症状が生じてくる場合もあります。以下のような症状がある場合は医師の診察を受けてください:
以下のような検査法や手技が用いられます:
網膜芽細胞腫の診断では、生検(細胞や組織を採取し、それを顕微鏡での観察によってがんの徴候がないかを調べる検査)は行わないのが通常です。
特定の因子によって予後(回復の見込み)や治療法の選択肢が変わってきます。予後(回復の見込み)と治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:
がんの眼球内での拡がりや他の部位への転移の有無を調べていくプロセスは、病期分類と呼ばれます。この病期分類の過程で集められた情報を基に病期が判定されます。治療計画を立てる上では病期を把握しておくことが重要になります。病期分類の過程では以下のような検査法や手技が用いられます:
網膜芽細胞腫では、病期の分類法がいくつか存在します。治療法の決定の際には、眼球内網膜芽細胞腫と眼球外網膜芽細胞腫に分けて考えられます。
網膜芽細胞腫では、以下の病期分類が用いられます:がんが眼球内のみに認められ、眼球外の周辺組織にも体の他の部位にも拡がっていない場合です。
眼球外網膜芽細胞腫がんが眼球外に拡がっている場合です。眼球周辺の組織に拡がっていることもあれば、中枢神経系(脳と脊髄のこと)や体のその他の部位に拡がることもあります。
再発網膜芽細胞腫とは、治療後に再び悪化(再発)したがんのことをいいます。再発は、眼球内や眼球周辺の組織に起こることもあれば、体の別の部位に起こることもあります。この腫瘍では、放射線療法か手術以外の方法で治療された場合には再発が起こりやすく、その場合は6カ月以内に再発するのが通常です。
網膜芽細胞腫の患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療を開始する前に、まず臨床試験への参加を検討してみるのもよいでしょう。治療法の臨床試験とは、現在用いられている治療法の改善や、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。
臨床試験は米国各地で行われています。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
網膜芽細胞腫の治療では、小児がんの治療に熟練した複数の医師で構成されるチームによって、患者さんごとの治療計画が作成される必要があります。この疾患の治療は小児腫瘍医(小児のがん治療を専門とする医師)が統括することになります。小児腫瘍医は、小児の眼に発生するがんの治療に精通した他の小児科医や特定の医療分野を専門とする小児科と協力しながら、治療に取り組んでいきます。網膜芽細胞腫の治療に豊富な経験をもつ小児眼科医の他に、以下のような専門家が治療に参加します:
がんの治療法の中には、終了後も副作用が継続するものや、数カ月あるいは数年間も経過してから副作用が現れてくるものがあります。こうした副作用は晩期障害と呼ばれます。がん治療の晩期障害としては、身体的問題;気分、感情、思考、学習能力、記憶力などの変化;二次がん(別の種類のがん)の発生などが挙げられます。晩期障害には治療や制御することが可能なものもあります。がんの治療を受けている小児の親には、特定の治療法で生じる晩期障害のリスクを把握しておくことが重要になります。(さらに詳しい情報については、PDQの小児がん治療の晩期障害に関する要約をご覧ください。)
遺伝性網膜芽細胞腫の小児では、二次がんの発生リスクが高くなります。 また放射線療法か一部の化学療法薬による網膜芽細胞腫の治療を受けたことのある小児でも、二次がんの発生リスクが高くなります。そのため、晩期障害の発見と治療に熟練した医療専門家による定期的な経過観察の実施が重要となります。
標準治療として以下の6種類が用いられています:眼球摘出術は、眼球全体と視神経の一部を摘出する手術です。摘出後にはその眼球を顕微鏡を用いて観察し、他の部位へのがんの転移を疑わせるような徴候がないかを調べます。この手術は、腫瘍が大きく視力温存の可能性がほとんどもしくはまったくない場合に実施されます。この手術を受けた患者さんには義眼を入れてもらうことになります。
放射線療法放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、プラーク、カテーテルなどの器具の中に放射性物質を封入し、がんの内部または近くに直接留置する方法です。放射線療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。網膜芽細胞腫の治療では、以下のような放射線療法が用いられています:
凍結療法とは、特殊な器具を用いて異常組織(上皮内がんなど)を凍結して破壊する治療法のことです。この治療法は凍結手術とも呼ばれます。
光凝固療法光凝固療法は、レーザー光線の照射によって腫瘍への血管を破壊することにより、腫瘍細胞を死滅へと導く治療法です。光凝固療法は小さな腫瘍に対して用いられます。単に光凝固とも呼ばれます。
温熱療法温熱療法は、熱を利用してがん細胞を破壊する治療法です。温熱療法の実施方法には、拡張させた瞳孔からレーザー光線を照射する方法、眼球壁の外表面上にレーザー光線を照射する方法、超音波やマイクロ波、赤外線(眼には見えないが熱としては感じられる光)を用いる方法などがあります。
化学療法化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱や臓器(眼球など)、体腔(腹腔などの)などに薬を直接注入して行われる化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
網膜芽細胞腫の治療では、化学療法による腫瘍の縮小という方法が用いられています。化学療法による腫瘍の縮小は、局所療法(放射線療法、凍結療法、光凝固療法、温熱療法など)が実施可能になるまで腫瘍を小さくすることを目的としています。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。具体的には以下のようなものがあります:テノン嚢下化学療法とは、眼球背部の筋肉と神経を包んでいる膜のすぐ内側の領域に薬液を注入する治療法です。これは局所化学療法の一種です。この治療法には全身化学療法と局所療法(放射線療法、凍結療法、光凝固療法、温熱療法など)を併用するのが通常です。
幹細胞移植を併用した大量化学療法幹細胞移植を併用した大量化学療法とは、高用量の化学療法を実施するとともに、このがん治療によって破壊された造血細胞を外から補充するという治療法です。まず患者さん自身またはドナーから採取した血液や骨髄から幹細胞(成熟前の血液細胞)を取り出し、凍結保存しておきます。そして化学療法の終了後に、保存していた幹細胞を解凍し、これを点滴によって患者さんの体内に戻します。こうして再注入された幹細胞が血液細胞に成長することにより、血液の機能が回復していきます。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
がんが片方の眼球内のみに存在していて腫瘍が大きくなっている場合は、眼球摘出術が実施されるのが通常です。
がんが片方の眼球内のみに存在していて視力の温存が可能と考えられる場合には、以下のような治療法が用いられます:
がんが両方の眼球内に存在している場合には、以下のような治療法が用いられます:
眼球外網膜芽細胞腫には標準治療はありません。これまでは放射線療法と化学療法が実施されてきました。幹細胞移植を併用した大量化学療法の臨床試験が実施されているので、これに参加するという選択肢もあります。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
がんが小さくかつ片方の眼球内のみに存在している場合は、局所療法(眼球摘出術、放射線療法、凍結療法、光凝固療法、温熱療法など)が実施されるのが通常です。
がんが眼球外に再発した場合は、その治療法の選択は数多くの条件に左右され、また臨床試験の中での治療となるのが通常です。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。