なぜがんになる人とならない人がいるのかは、医師にとっても必ずしも説明できることではありません。しかしそれでも、人口集団におけるがんの発生パターンの研究を通して、がんを発生しやすくする環境や生活習慣を明らかにしようとする努力が積み重ねられてきました。
疾患が発生する可能性を増大させるものは全て危険因子と呼ばれ、疾患が発生する可能性を減少させるものは全て防御因子と呼ばれます。がんの危険因子には回避できるものもありますが、回避できないものも数多くあります。例えば、喫煙をやめることはできても、親から子へと遺伝により受け継がれる遺伝子を自由に選ぶというわけにはいきません。喫煙習慣であれ特定の遺伝子の継承であれ、ある種のがんの危険因子として考えられる点に変わりはない一方で、喫煙習慣のみが回避可能となるのです。予防とは、こうした危険因子を回避するとともに制御可能な防御因子の影響を強めることによって、がんの発生する可能性を減らしていくことを意味します。
危険因子の多くは回避することができますが、たとえ危険因子を回避できても、それががんにならないことの保証になるわけではないということは覚えておかなければなりません。また、がんに対し特定の危険因子をもつ人でも、そのほとんどが実際にはがんを発症しません。他の人と比べて、がんの危険因子からの影響を受けやすい人もいます。ご自身に合ったがんの予防方法については担当の医師にご相談ください。
喫煙予防と禁煙に関するこの要約は、以下のような目的で作成されています:
喫煙予防の方法や禁煙方法に関する事柄や、それらの実践がご自身にとって有益となるかどうかについては、担当の医師または医療専門家にご相談ください。
タバコは、がんの回避可能な発生原因として最も多くみられるもので、米国におけるがん死亡の約30%は喫煙が原因であると推定されています。喫煙によってリスクが増大するがんの種類は多岐にわたっており、その部位でいえば、肺、咽頭、口腔、膵臓、腎臓、膀胱、子宮頸部などが挙げられます。喫煙者におけるがんの発生リスクは、その喫煙期間と喫煙量にも左右されますが、非喫煙者におけるリスクの2倍から10倍となります。
喫煙はさらに、冠動脈心疾患や脳卒中、肺気腫、気管支炎などのがん以外の疾患との因果関係や、妊娠に対する悪影響についても証明されています。米国における年間の若年死亡のうちの40万件以上が、喫煙によるものとみられています。
喫煙は、タバコを吸わない人の健康をも害します。環境タバコ煙の中には、喫煙者が吸入する煙に含まれるものと同一の発がん性物質が、比較的低濃度ながらも検出されます。この環境タバコ煙に曝されている非喫煙者では肺がんと冠動脈心疾患のリスクが高くなり、またタバコの煙に曝されている小児では乳児突然死症候群(SIDS)や耳の感染症、気道感染症などのリスクが高くなります。
2004年の米国の統計では、成人男性の23%と成人女性の18%に喫煙の習慣が認められました。喫煙者の割合はアメリカンインディアンとアラスカ原住民の間で高くなっています。また喫煙者の割合を教育水準別にみると、教育水準の最も低い層で最高値となり、教育水準が上がるにつれて減少していきます。米国内のがんによる死亡原因の統計では、現在男女ともに肺がんが第1位となっています。この30年の間に喫煙者の数は減少しており、特に男性においてその傾向が強くなっています。1980年代以来、男性の肺がん死亡率は減少してきており、現在は横ばいの状態となっています。
がんや心血管疾患、呼吸器疾患を始めとする喫煙の関係する健康面の問題については、その大半が喫煙をやめることによって軽減可能となります。禁煙はどの年齢の人にも有益となりますが、早ければ早いほどその効果は大きくなっていきます。喫煙をやめた場合と喫煙を継続した場合とを比べると、やめた場合の10年後の肺がんの発生リスクは30%から50%低く、さらに5年後の口腔がんと食道がんの発生リスクは半分に低下します。
がんから回復した人の場合は、がんの再発や新たながんの発生、がん治療による長期的な副作用などのリスクを抱えているため、喫煙の有害作用はさらに重大なものとなります。喫煙などの体に有害な習慣をやめることが、健康状態と生活の質を長期的に向上させていくことにつがります。
禁煙方法については数多くのものが研究されてきました。禁煙を補助する方法として広く用いられているものを以下で紹介していきます。
カウンセリング:たとえ1回の短いセッションだけであっても、医療専門家によるカウンセリングを受けた人では禁煙を達成できる可能性が高くなります。患者さんの禁煙を支援する医療専門家のために、5Aアプローチ(ASK、ADVISE、ASSESS、ASSIST、ARRANGE)というカウンセリングのモデルが考案されています。このモデルに従う場合、医師はまず患者さんの来診の度にその喫煙状況についての質問を行います(ASK);そして禁煙をするように助言を行い(ADVISE);患者さんの禁煙の意思を評価します(ASSESS);ここで意思が確認できれば、禁煙期日の設定や禁煙用の自助教材の提供、ニコチン補充療法(ニコチンパッチなど)の奨励などによって患者さんの支援を行っていきます(ASSIST);最後にフォローアップのための来診日を設定します(ARRANGE)。
喫煙習慣のある小児のがん生存者の方々では、ピアカウンセリングによる禁煙プログラムに参加することによって禁煙達成の可能性が高まる場合があります。このような禁煙プログラムでは、訓練を受けた小児のがん生存者の方々が、喫煙習慣のある別の小児がん生存者の方々への支援を行っていきます。こうしたピアカウンセリングでは、自助プログラムの場合と比較して禁煙を達成できる人の数が多くなっています。喫煙習慣のある小児がん生存者の方々の場合は、ピアカウンセリングによる禁煙プログラムについて担当の医師に尋ねてみるとよいでしょう。
薬物治療:禁煙の支援方法として、様々な薬物治療が成功を収めています。禁煙補助のための薬物治療としては、ニコチン代替製品(ニコチンガム、ニコチンパッチ、ニコチン鼻腔スプレー、ニコチン吸入器、ニコチン口内錠など)と抗うつ薬(ブプロピオン)の使用が研究され、既に承認も得られています。ニコチン代替製品を利用した人では、どの製品を用いたかに関係なく、プラセボの投与を受けた人や一切治療を受けなかった人と比べて、6カ月後と12カ月後での禁煙の達成率が高くなります。
禁煙に関する消費者向けの情報が、Agency for Healthcare Research and Qualityのホームページから入手できます。