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消化管の合併症: 支持療法

はじめに

消化管の合併症に関するこの要約は、がん専門医が医療専門家用に執筆したものを、患者さん用に編集したものです。本稿を含め、がんの治療、スクリーニング予防支持療法および現在米国で行われている臨床試験についての信頼できる情報は、米国国立がん研究所(NCI)から得られます。便秘、宿便、閉塞下痢放射線腸炎などの消化管の合併症は、がんの患者さんによくみられる問題で、がん自体またはがん治療が原因で生じます。この要約では、便秘、宿便、腸閉塞、下痢の違い、またその原因と治療について簡単に説明します。小児の治療は成人のものとは異なります。医師は、小児の年齢や診断に基づいた治療を行います。


概要

便秘は、糞(便または体内の老廃物)を通す大腸の動きが鈍化することで、排便の頻度が少なくなり便が硬くて乾いたものになります。便が大腸を通過する時間が長くなればなるほど、水分吸収が高まり、便はより硬く乾燥した状態になります。

活動不良、長期の寝たきり生活、または身体的・社会的障壁(例えば、トイレがない、または不便な場所にある)により便秘は悪化します。がん治療またはがんの痛みによるうつ不安が便秘の原因となることもあります。しかし、便秘の最も一般的な原因は、水分摂取の不足および鎮痛剤の使用です。

便秘は厄介で不快なものですが、宿便(結腸または直腸に蓄積された硬く乾いた便)は生命を脅かす場合もあります。宿便の患者さんの中には、消化管症状がみられない人もいます。代わりに、血液循環、心臓、呼吸の問題がみられることがあります。宿便を見逃すと、徴候・症状が悪化し、死に至る場合もあります。

閉塞は、宿便とは異なるプロセスで起こり、小腸または大腸が、部分的または完全に塞がることをいいます。腸閉塞は、閉塞の種類、閉塞のプロセス、および閉塞の部位によって分類されます。腸内外で増殖する腫瘍や、手術後にできる瘢痕組織が腸機能に影響を与え、部分的または完全な腸閉塞を引き起こすことがあります。人工肛門造設の患者さんは特に便秘になりやすく、腸閉塞に至ることがあります。

下痢は、がん治療のどの段階でも起こりえます。下痢は便秘ほど頻繁ではありませんが、がんの患者さんにとっては身体的にも、精神的にも苦痛をもたらします。下痢は下記のような問題を引き起こします:


下痢は、糞便中の水分量が異常に上昇する状態が4日以上、2週間未満持続することをいいます。また、便中水分量の異常な上昇に加え、24時間以内に3回以上排泄される軟便も下痢に含まれます。2カ月以上持続する下痢は、慢性化したものとみなされます。

放射線腸炎は、腹部骨盤直腸への放射線療法を受けているとき、またはその後に腸内層が腫大、炎症する状態です。 大腸と小腸は放射線に対して非常に高い感受性を示します。放射線の線量が大きいほど、正常な腸組織への損傷がひどくなります。腹部と骨盤内の腫瘍のほとんどは高線量が必要で、腹部、骨盤、直腸への放射線を受けているほぼ全ての患者さんが急性腸炎の徴候を示します。

急性症状は、初回放射線療法から8週間までの期間にみられるものをいいます。慢性放射線腸炎は放射線療法終了後数ヶ月〜数年後に起こることがあり、あるいは急性腸炎として始まり、治療終了後にも持続することがあります。腹部への放射線で治療を受ける患者さんのうち、慢性的な問題が起こるのはわずか5%〜15%です。 腸炎がどのくらい続くか、どの程度の症状なのかには、下記に示す因子が影響します:



便秘


解説と原因

健康な人に生じる便秘の共通要因は、繊維の少ない食事、トイレになかなか行かない、緩下薬浣腸の過剰使用、水分摂取の不足、運動不足などです。がんの患者さんにおいては、便秘はがんの症状の1つ、または腫瘍の増大、がん治療の結果によって生じると考えられます。また、便秘はがんまたはがんによる痛みに対する薬物治療の副作用、その他体調の変化(臓器不全、運動能力の低下、うつ)などによっても起こります。その他に、脱水や食事量が少ないことも便秘の原因となります。また、がん、がん治療、加齢、健康の衰えによっても便秘が生じる場合があります。

宿便を引き起こす可能性のある便秘の原因には下記のものがあります:

食生活
排便習慣の変化
長期の寝たきり生活と運動不足
医薬品
腸の障害
筋肉と神経の障害(神経損傷により腸の筋緊張喪失が生じる場合があります)
代謝障害
環境因子

便秘の評価

病歴や身体診察により便秘の原因を確認できます。診察には、直腸指診(医師が手袋をはめ、潤滑剤を塗った指を直腸に挿入して宿便を調べます)、または血便検査を行います。がんが疑われる場合は、ライト付きのチューブを肛門から結腸へ挿入する、直腸と結腸の精密検査が行われます。また、下記の問診を行います:



治療

便秘の治療には、(可能な場合は)予防、原因の排除、そして緩下薬の限定使用などが含まれます。患者さんへの治療計画の提案には下記のものがあります:



宿便


解説と原因

宿便の主な要因は5つあります:


  1. オピオイド系鎮痛剤。
  2. 長期の運動不足。
  3. 食事の変化。
  4. 精神障害。
  5. 緩下薬の長期使用。

     便秘に対して日常的に緩下薬を使用することが、便秘や宿便を引き起こす一番の原因です。緩下薬を徐々に用量を上げて繰り返し使用すると、結腸は排便に必要なシグナルを送れなくなります。(宿便を引き起こす可能性のある便秘の原因については、便秘のセクションをご覧ください。)

宿便の患者さんは、便秘の患者さんに似た症状、または、(宿便が仙骨神経を圧迫することによる)背痛、あるいは、(宿便が尿管膀胱尿道を圧迫することによる)膀胱の異常を訴えることがあります。患者さんの腹部は膨張し、呼吸困難や頻拍、めまい、低血圧を引き起こします。その他の症状として、(宿便の周囲を便が動くことによる)激しい下痢、咳をする際の便失禁、吐き気嘔吐、腹痛(腹部の痛み)、脱水などがあります。宿便の患者さんは、頻拍や発汗、発熱、高血圧、低血圧などにより意識障害や見当識障害を来す場合もあります。


宿便の評価

医師は、便秘の評価のセクションと同様の問診に加え、患者さんの宿便の有無を判断するための身体診察を行います。この検査には、腹部や胸部のX線、血液検査、心電図(心臓の動きをみる検査)も含まれます。


宿便の治療

通常、宿便の治療には浣腸により便を潤し、軟化させる方法がとられます。浣腸は、使い過ぎると腸を傷つける恐れがあることから、医師の処方に基づいた十分な注意が必要です。患者さんによっては浣腸で軟らかくした便を直腸から手で取り除く必要があります。グリセリン座剤を使用することもあります。腸を刺激し、痙攣を引き起こす座薬は、腸をさらに傷つける可能性があるため使用すべきではありません。


腸閉塞


解説と原因

閉塞は、炎症または損傷、腫瘍、瘢痕組織、ヘルニア、腸のねじれ、腸管外部からの圧迫により、腸が狭くなることで起こります。また、腸の筋機能、神経、血流(血液の流れ)妨害も原因となります。腸閉塞のほとんどは小腸で起こり、通常、瘢痕組織、ヘルニアなどが原因です。それ以外の閉塞は結腸(大腸)で起こり、通常、腫瘍、腸のねじれ、または憩室炎が原因となります。小腸、大腸のどちらで発生するかにより、症状は異なります。

腸閉塞を引き起こす最も一般的ながんは、結腸がん、がん、卵巣がんです。その他、がんや乳がん悪性黒色腫腹部に転移し、腸閉塞を来すことがあります。腹部の手術、または放射線療法を受けた患者さんは腸閉塞を発生する可能性が高くなります。腸閉塞は、進行がん(進行した病期のがん)で最もよくみられます。


腸閉塞の評価

医師は、患者さんに腹痛や嘔吐、あるいは、腸内でガスや便の動きがあるかどうかを判断するため、身体診察を行います。血液検査と尿検査は、体液や血液生化学の平衡異常、感染症の有無を調べるために行われます。また、腸閉塞の部位を判定するため、腹部X線バリウム注腸を伴う撮影を行うこともあります。


急性腸閉塞の治療

腹部の症状の悪化が続いている患者さんでは、ショックや腸の絞扼閉塞の予防やその徴候と症状を早期に発見するため、頻繁なモニタリングが必要です。体液、血液生化学の平衡異常、ショック防止の薬物治療が必要です。

部分的な腸閉塞による圧力を和らげるために、経鼻胃管を鼻から食道経由で胃まで挿入するか、イレウス管を直腸から結腸まで挿入することがあります。経鼻胃管、またはイレウス管は腫れの軽減、体液や蓄積したガスの除去、あるいは、手術の回数を減らしますが、腸が完全に閉塞されている場合はやはり手術が必要です。


慢性、悪性腸閉塞の治療

進行がんの患者さんには、慢性的な、手術では取り除くことができない進行性の腸閉塞がみられることがあります。医師は、閉塞部位を広げるために、ステントと呼ばれる拡張型の金属管を腸に挿入することがあります。

手術、ステント留置のどちらも行えない場合、医師は非常に簡単な方法で、腹壁から胃瘻管を直接胃に挿入します。胃瘻管は、体液や胃に溜まった空気を取り除き、管を通して直接胃に医薬品や水分を注入することができます。胃瘻管にはバルブ付きの排液袋を取り付けることも可能です。バルブが開いていると食物は直接この袋に排出されるので、患者さんは不快感を覚えることなく、飲食が可能となります。これにより、患者さんは食事を味わい、口の中を潤すことができるようになります。固形食は、管と排液袋を詰まらせてしまうことがあるので避けた方がよいでしょう。

ステントや胃瘻管で患者さんが楽にならない場合や、口からの飲食ができない場合、医師は痛みや吐き気と嘔吐を和らげる注射または点滴を処方します。


下痢


原因

がんの患者さんにおいて最も一般的な下痢の原因は、がん治療(化学療法放射線療法骨髄移植または手術)です。その他の下痢の原因として、抗生物質療法、がんと診断されたことやがん治療を受けることによるストレスと不安感染症などがあります。感染症は、ウイルスバクテリア真菌、または有害な微生物により起こります。抗生物質療法は、内層の炎症を引き起こし、治療に反応を示さない下痢が発生する場合があります。がんの患者さんにおける下痢の他の原因には下記のものがあります:


の手術は正常な腸機能に影響を与え、下痢を来すことがあります。化学療法の中には、小腸での栄養素の分解や吸収に影響を与えて下痢の原因となるものもあります。腹部骨盤への放射線療法が腸の炎症を引き起こすこともあります。患者さんには、消化不全、ガス、鼓腸、痙攣、下痢などがみられます。これらの症状は、治療後8〜12週間も持続する場合もありますし、また治療後数カ月または数年間起こらない場合もあります。食生活の変更、医薬品、手術などが治療として可能です。化学療法と同時に放射線療法を受けている患者さんは、激しい下痢を経験することが多くみられます。外来診療所(外来患者さん向けの診療所)、特別ホームケア看護などにより、十分な介護やサポートが可能なので、入院の必要がないこともあります。各患者さんの症状について、点滴(静脈内補液)または特別な医薬品を処方する必要があるかどうかを評価・決定しなければなりません。

ドナーから骨髄移植を受ける患者さんは、移植片対宿主病(GVHD)を発生する可能性があります。GVHDの胃との症状としては、吐き気嘔吐、重度の腹痛(腹部の痛み)と痙攣、水っぽい緑色の下痢便がみられます。これらの症状は、移植後1週間から3カ月の間に起こります。長期治療と食事管理が必要となる患者さんもいます。


評価

下痢は生命を脅かす場合があるため、早急に原因を突き止め、治療を開始することが大切です。医師は下記の問診を行います:


さらに医師は血圧・脈拍・呼吸の確認、血液循環および組織内の体液量を確認するための皮膚と口の内部組織の評価、腹痛、圧痛、腸音検査、さらに宿便と血便確認のための直腸診察を含む身体診察を行います。

バクテリア、真菌、またはウイルスの感染を調べるために検査室で検便も行われます。体液、血液生化学の平衡異常、または感染症を調べるための血液検査や尿検査も行います。

閉塞やその他の異常を確認するための腹部X線撮影を行う場合もあります。まれなケースとして、ライト付きの管を肛門から結腸に挿入する、直腸結腸の精密検査を行うこともあります。


治療

下痢は、原因を特定し、取り除くことで治療します。例えば、下痢は、宿便や便秘予防の医薬品によって起こることがあります。医師は、医薬品、食事、飲み物の調整を行う必要があります。食事を少量ずつ何度もとったり、下記の食品を避けることで下痢を軽減することができます:


軽度の下痢の場合、バナナ(Banana)、米(Rice)、リンゴ(Apple)、トースト(Toast)(BRAT食)などを取ることで排便回数が減少する場合があります。患者さんは、水、スポーツドリンク、クリアスープ、薄いカフェイン抜きのお茶、カフェインを含まないソフトドリンク、ジュース、ゼラチンを一日当たり3クォート(約3リットル)を限度に摂取することを心掛けてください。重度の下痢の患者さんには点滴による水分、または点滴による栄養補給が必要です。(がん医療における栄養に関するPDQ要約をご覧ください。)

移植片対宿主病(GVHD)による下痢を管理するために、医師は5段階の特別な食事療法を推奨します。第1段階では、下痢が軽減するまで点滴を受け、口からは何も摂取せずに腸を休ませます。第2段階では、水分の摂取を開始します。水分を摂取しても下痢が緩和した場合、患者さんは次の第3段階である、低繊維、低脂肪、低酸性の胃を刺激しない固形食を開始します。第4段階では、少しずつ通常食に戻していきます。下痢を引き起こすことなく通常食を摂取できれば、第5段階である患者さんの普段の食事を開始します。それでもなお、多くの患者さんが牛乳と乳製品の消化不全を持続する場合があります。

下痢の原因によっては、医師は緩下薬治療の変更を行ったり、腸運動を遅らせ、腸液の分泌量を低下させ、腸内での栄養分吸収を促進させる医薬品を処方することがあります。


放射線腸炎


原因と症状

放射線療法は、がん細胞のような、急速に分裂している細胞の成長を停止させます。内層の正常な細胞もまた急速に分裂するため、放射線治療はこれらの細胞の成長を停止させ、腸組織の自己修復を困難にします。腸細胞が死んで入れ替わらないと、消化管の問題がその数日後から数週間の間に発生します。

急性腸炎

急性腸炎の患者さんには、下記のような症状がみられます:


下痢になると、消化管が正常に機能せず、脂肪、乳糖胆汁酸塩、ビタミンB12などの栄養素が十分に吸収されません。

急性腸炎の症状は通常、治療終了後2〜3週間でよくなります。

慢性腸炎

慢性腸炎の患者さんには、下記のような症状がみられます:


慢性腸炎のあまり一般的でない症状としては腸閉塞、腸穿孔、大量直腸出血があります。

症状は、通常放射線療法終了後6カ月から18カ月の間に現れます。 慢性放射線腸炎がこれらの症状の原因であると決定する前に、再発腫瘍を除外する必要があります。正しい診断を下す際に患者さんの放射線に関する病歴が重要になります。


放射線腸炎の評価

患者さんには身体診察と下記に関する問診が行われます:



急性放射線腸炎の治療

急性腸炎の治療法には下痢、体液の喪失、吸収不良、痛、直腸痛に対する治療があります。これらの症状は通常、医薬品や食事の変更、休養で良くなります。これらの治療を行っても症状が悪化する場合、少なくとも一時的には、がんの治療を中止しなければなりません。

処方される医薬品としては、下痢を止める止瀉薬、痛みを緩和するオピオイド、直腸の炎症や刺激を緩和するステロイド泡沫剤があります。膵がんの患者さんに放射線療法中下痢がみられる場合、膵酵素が十分にないと下痢を引き起こすため、患者さんにはこうした酵素の補充が必要となる場合があります。

栄養

栄養も急性腸炎に影響を及ぼします。放射線療法によって損傷を受けたは消化に必要な特定の酵素、特にラクターゼを十分に、または全く産生できないことがあります。ラクターゼは牛乳や乳製品の消化に必須の酵素です。急性腸炎の症状の管理には無乳糖で低脂肪の低繊維食が役立つことがあります。

避けるべき食品:
摂取すべき食品:
参考になるヒント:

慢性放射線腸炎の治療

慢性放射線腸炎の症状の治療は、急性放射線腸炎の治療と同じです。重度の損傷の治療には手術が行われます。症状の管理に手術が必要となるのは、罹患した患者さんの2%未満です。

手術には以下の2種類が使用されます:


しかし、創傷の治癒はしばしば遅く、長期にわたる経管栄養が必要となる場合があるため、手術を試みる前に患者さんの全身の健康状態と損傷した組織の量が検討されます。手術後も多くの患者さんに依然として症状がみられます。

慢性放射線腸炎が起こる危険性を軽減するために、放射線にさらされる領域を減らす様々な治療法が用いられています。患者さんは小腸ができるだけ照射されないような体位をとったり、照射野外へ小腸を押しやるために、治療のとき膀胱を充満させておくように指示されることがあります。放射線の線量は、より少ない線量をより均等に、また特定の領域により高い線量を送達するように調整されます。患者さんが手術を受ける場合、照射すべき領域が分かりやすいように腫瘍部位にクリップを留置することがあります。


2007-06-27