The U.S. National Cancer Institute does not currently endorse any foreign translations of PDQ® and no such endorsement should be inferred for the following translation.

認知障害およびせん妄: 支持療法

概要

認知障害とせん妄は、精神状態に混乱が生じ行動に変化が起きる病態です。

認知障害せん妄が起きると、意識の低下または喪失をきたし、さらに以下のような面に問題が生じてきます:


せん妄はがんの患者さん、特に進行がんの患者さんに頻繁に発生してきます。

せん妄は突如として発生するのが通常で、1日の間に症状の出現と消退が繰り返されることがあります。この状態は治療可能で多くの場合一時的なもので、これは病状が進行した患者さんの場合でも同様です。しかし終末期の最後の24〜48時間では、臓器不全などのためにせん妄が持続してしまう場合もあります。


認知障害とせん妄の原因

認知障害とせん妄は、特に進行がんの患者さんにおいて、がんやその治療の合併症として生じてきます。

がんの患者さんにおける認知障害せん妄の原因は、腫瘍の増殖による圧迫など、脳に対するがんの直接的な作用である場合があります。また、がんやその治療による副作用によって認知障害やせん妄が引き起こされる場合もあり、そのような副作用としては以下のようなものが挙げられます:


せん妄の危険因子には、病気が重篤であることと、複数の病気にかかっていることが挙げられます。

せん妄を起こす危険性を高める病態はがん以外にも存在します。危険因子には以下のようなものがあります:


こうした危険因子の存在を早いうちに特定しておけば、せん妄発生の防止にも役立ち、またせん妄の治療に要する期間も短縮されます。


認知障害とせん妄が患者さん、家族、医療提供者に及ぼす影響

患者さんに認知障害やせん妄が発生すると、家族や介護者の間に動揺が生じてくることがあります。

患者さんに認知障害せん妄が発生すると家族や介護者の間には動揺が生じてきますが、それによって家族や介護者の判断能力が損なわれれば、患者さんにとっても危険な状態となります。これらの病態では、患者さんは予測不能な行動をとり、ときには暴力的な行動を起こすことがあります。物静かで穏やかな患者さんでも、突然気分が変化したり激越(興奮状態)に陥ったりすることがあり、そのケアはより大変なものになってしまいます。ここで最も重要となるのは、患者さんと家族と介護者の安全確保です。

認知障害とせん妄は、身体面の健康やコミュニケーションの能力にも悪影響を及ぼします。

認知障害やせん妄の患者さんは、転倒や失禁(排尿や排便の調節ができない状態)、脱水(水分摂取量が減って健康を維持できなくなった状態)などを起こしやすくなります。認知障害やせん妄のある患者さんでは、どちらもない患者さんと比べて入院が長期化してしまうことが多くなります。

患者さんの精神的混乱により、家族や医療提供者とのコミュニケーションが困難になってしまうことがあります。症状評価が難しくなり、患者さんがケアに関する意思決定をできなくなってしまう場合もあります。こうした患者さんの激越(興奮状態)は、痛みの訴えであると誤解されることもあります。また、患者さんと家族とスタッフの間で、必要な鎮痛剤の量について意見の衝突が生じることもあります。


認知障害とせん妄の診断

認知障害やせん妄の徴候である可能性のあるものとして、突然の人格の変化、思考力の障害、異常なまでの不安や抑うつなどが挙げられます。

患者さんに突如として激越、協調性の消失、人格や行動の変化、思考力の障害、注意持続時間の短縮、異常なまでの不安抑うつなどの症状が現れる場合は、認知障害せん妄の発生が疑われます。これらの症状が発生した患者さんには、徹底した評価を行う必要があります。

せん妄の症状はうつ病や認知症の症状に似ています。

せん妄の初期症状は、不安や怒り、あるいはうつ病や認知症の症状に似ています。せん妄で患者さんの活動性が非常に低下している場合は、うつ病であるかのようにみえることもあります。せん妄と認知症は、どちらも見当識障害や記憶、思考、判断の障害を引き起こすため、この2つを区別することは困難となります。認知症は、アルツハイマー病などの多くの病気で発生してきます。しかしその一方で、せん妄と認知症の間には以下のような症状の違いがみられます:


高齢のがんの患者さんでは、せん妄と認知症が同時に発生している場合が多くみられ、このような場合には診断は難しくなってしまいます。せん妄の治療を行っても症状が続く場合は、認知症と診断される可能性が高くなります。

65歳以上でがんの治療から5年以上経過している患者さんでは、せん妄のリスクを別とした場合でも、認知障害と認知症の発症リスクが高くなっています。

せん妄の診断には、定期的なスクリーニングと症状のモニタリングが有用となります。


せん妄の治療

せん妄の治療法を決定する際には、患者さんとその家族の懸念事項も考慮に入れられます。せん妄の患者さんに治療を行うかどうか、いつどのような方法で行うかは、そのときの周囲の状況や、がんの進行の程度、患者さんと家族の希望、せん妄の症状が患者さんにどのような影響を及ぼしているか、などによって左右されます。

患者さんが自身に危害を加える可能性がなければ、モニタリングだけで十分な場合もあります。そうでない場合は、症状に対する治療を行うか、せん妄の原因を特定してその治療を行います。


周囲の環境を変化させることによる、せん妄症状の治療

軽度のせん妄症状では、患者さんの周囲の環境を調節することがその軽減に役立ちます。環境の調節方法としては以下のようなものが効果的です:


患者さんが自身や他者に危害を加える危険性がある場合には、それを防ぐために身体の拘束が必要になってくることもあります。


せん妄の原因の治療

せん妄への対応における標準的なアプローチは、原因を発見してそれを治療するというものです。それにより症状の方も同時に治療されます。せん妄の原因を特定するには、全身の健康状態の徴候を調べる身体診察を行う必要があり、この診察には病気の徴候の有無を調べていくことも含まれます。患者さんが過去にかかった病気や受けた治療なども調べていきます。終末期ケアを自宅で受けているせん妄状態の患者さんに対しては、原因究明のための評価を一部のものだけに簡略化する場合や、あるいは評価を行わずに症状の治療だけを行う場合もあります。

以下のような治療が行われます:



薬物投与によるせん妄症状の治療

せん妄症状の治療には、抗精神病薬と呼ばれる薬物が用いられることがあります。鎮静(精神を落ち着かせる)作用のある薬物が使用される場合もあり、特に死期の迫っている患者さんに対してよく用いられます。これらの薬物には例外なく副作用があるため、医師は綿密なモニタリングを行います。患者さんに鎮静薬を投与するかどうかは家族の方々との話し合いにより決定されますが、それにはまず、せん妄を消退させる努力を行ってからとなります。


せん妄と鎮静

せん妄や痛み、呼吸困難などの症状のある終末期の患者さんに対して鎮静薬を使用するという決断は、医師と家族の双方に、倫理的問題や法的問題を生じさせます。標準的な治療アプローチではせん妄症状を治すことができず、かつ患者さんがひどい苦痛に苦しんでいる場合、医師は患者さんに鎮静薬を投与するという選択を検討することがあります。この決定に際しては以下のような原則に従います:



2007-06-27