原文更新日 : 2006-11-09
翻訳更新日 : 2007-06-27
吐き気と嘔吐に関する患者さん向けのこの要約は、がんの専門家が医療従事者向けに作成した要約を編集したものです。この要約では、副作用の中でもがんの患者さんを最も動揺させる、吐き気と嘔吐の原因と治療法について簡単に説明します。本稿を含め、がんの治療、スクリーニング、予防、支持療法、現在米国で行われている臨床試験についての正確で信頼できる情報が、NCIウェブサイトからご覧いただけます。
吐き気とは、喉の背部や胃に波のように押し寄せる不快な感覚のことで、嘔吐に至る場合と至らない場合があります。嘔吐とは、胃の内容物を口から勢いよく排出することです。むかつきとは、胃と食道の嘔吐を伴わない動きのことで、空吐きとも呼ばれます。治療法が改良されたものの、吐き気と嘔吐は依然としてがん治療のやっかいな副作用です。患者さんにとって吐き気は嘔吐以上に苦しいかもしれません。
がんの患者さんの吐き気と嘔吐を予防、抑制することは非常に大切です。抑制できない吐き気と嘔吐は、体内の化学的変化、食欲不振、肉体的および精神的障害、食道の裂傷、骨折、手術による創傷の離開を引き起こすことがあり、その結果患者さんはがんの治療を受けたり、身の回りのことができなくなることがあります。
がんの治療によって生じる吐き気と嘔吐は次のように分類されます:
予測性の吐き気と嘔吐:以前に3、4回化学療法を受けてから吐き気と嘔吐を体験したことがある患者さんに、予測性の吐き気と嘔吐が起こることがあります。新しい一連の化学療法(または放射線療法)が始まる前でも、治療室の匂い、光景、音が患者さんに以前の症状を思い出させて、吐き気と嘔吐の誘因となることがあります。
急性の吐き気と嘔吐:通常、化学療法の開始後24時間以内に起こります。
遅発性の吐き気と嘔吐:化学療法後24時間以上たってから起こります。晩発性の吐き気と嘔吐とも呼ばれます。
慢性の吐き気と嘔吐:進行がんの患者さんに起こることがあります。詳しいことは分かっていません。
吐き気は無意識に起こる身体機能を司る中枢神経系の一部によって制御されます。嘔吐は脳の嘔吐中枢によって制御される反射です。におい、味、不安、疼痛、便通、血行不良、いらだち、炎症による体の変化など、様々な誘因が嘔吐を促します。
吐き気と嘔吐の最も一般的な原因は以下のとおりです:
吐き気と嘔吐が起こりやすいのは患者さんが以下のような場合です:
予測性の吐き気と嘔吐は患者さんががんの治療を何回か受けた後に起こります。治療室の匂いといった誘因に反応して起こります。例えば、化学療法を始めるのと同時にアルコール消毒綿の匂いをかいだ患者さんが、後日アルコールの匂いを嗅いだだけで吐き気と嘔吐を経験することがあります。通常、何回か治療を受けるまでは、化学療法の前や途中に吐き気や嘔吐が起こることはありません。次の要因は、予測性の吐き気と嘔吐の起こりやすい患者さんを予想する助けになります:
治療に関する吐き気と嘔吐の原因の中で最も一般的なものは化学療法です。薬の種類、用量、投与スケジュール、投与方法、患者さんの個人的な要因などの全てが、吐き気の頻度と程度に影響します。通常、こうした症状は防いだり制御したりすることができます。
急性の吐き気と嘔吐が起こりやすいのは患者さんが、以下のような場合です:
遅発性の吐き気と嘔吐は化学療法後24時間以上たってから起こります。遅発性の吐き気と嘔吐が起こりやすい患者さんは以下のような場合です:
化学療法を受けている患者さんに吐き気と嘔吐を予防する薬が、単独でまたは他の薬と組み合わされて処方されることがあります。
進行がんの患者さんには、生活の質(QOL)を著しく損なう慢性の吐き気と嘔吐がよくみられます。進行がんに伴う吐き気と嘔吐の原因としては次のようなものが考えられます:
放射線療法、特に消化管(GI)(なかでも小腸と胃)や脳に放射線を受けている患者さんにも、吐き気と嘔吐が起こることがあります。放射線の線量と照射範囲が多いほど、吐き気と嘔吐の起こる危険性が高まります。放射線療法に伴う吐き気と嘔吐は通常、治療後30分から数時間後に起こります。患者さんが放射線療法を受けない日には症状が和らぎます。
予測性の吐き気と嘔吐の治療は、症状の発見と治療が早いほどうまくいきます。制吐薬は効果がないようですが、次の方法で症状を和らげることができる場合もあります:
急性および遅発性の吐き気と嘔吐の最も一般的な治療法は制吐薬です。体内で短時間しか持続せず頻繁に投与する必要のある薬もあれば、長時間持続してそれほど頻繁に投与する必要のない薬もあります。吐き気と嘔吐を効果的に制御するためには薬の血中濃度を一定に保つ必要があります。
吐き気と嘔吐の治療には一般的に、下記の薬が単独でもしくは組み合わされて投与されます:
便秘は、進行がんの患者さんにみられる吐き気の最も一般的な原因のひとつです。便秘を予防して吐き気と嘔吐が起こりにくくするためには、患者さんがたとえ食事をしていなくても定期的な排便習慣をもつことが重要です。しかしながら、高繊維質の食事やオオバコまたはセルロースなどの膨張性の下剤は、多量の液体を飲まなくてはならないので、進行がんの患者さんには困難となる場合があります。特にがんの疼痛に対してオピオイドを使っている患者さんに、便秘を予防するために便を柔らかくしたり腸を刺激したりする下剤が処方されることがあります。浣腸と直腸坐薬の使用は、重度の便秘に対して短期間使うだけに限っています。神経の損傷(腫瘍が脊髄を圧迫している場合など)によって腸が機能していない患者さんには、定期的な便通のために坐薬が必要です。腸壁に損傷のある患者さんに対しては浣腸と直腸坐薬を使ってはいけません。(消化管の合併症についてはPDQ(Physician Data Query:医師データ照会)要約中の便秘のセクション、および疼痛についてはPDQ要約中のオピオイドの副作用のセクションをご覧ください。)重い便秘が腸閉塞を引き起こすことがあります。
進行がんの患者さんに手術で取り除くことのできない腸閉塞が起こることがあります。部分的閉塞を一時的に軽減するために、医師が鼻と食道から胃に向かって経鼻胃管を通す場合があります。完全な腸閉塞の場合には、腹壁から直接胃に胃瘻の管を挿入して流動物や溜まったガスを抜くことがあります。胃瘻の管から流し込んで、医薬品や液体を直接胃に入れることもできます。ときには医師が、小腸や結腸の一部から腹壁を開口する回腸瘻や人工肛門を造設したり、ステントという拡張する金属の管を腸に挿入してふさがった部分を広げたりします。疼痛や吐き気と嘔吐を和らげるために、薬の注射や注入が処方されることがあります。
吐き気と嘔吐は薬を使わずに制御できる可能性があります。症状を和らげる下記の方法は、予測性の吐き気と嘔吐には特に有用で、制吐薬の有効性を高めることもあります。