甲状腺がん: 治療

解説


甲状腺がんとは

甲状腺がんは、甲状腺組織の中にがん(悪性細胞ができる疾患です。甲状腺は咽頭の最下部に位置する臓器です。この臓器は左葉と右葉の2つのから構成されています。この甲状腺からは、体が正常に機能するのに必要となる重要なホルモンが分泌されています。

特定の要因によって甲状腺がんの発生リスクが高まることがあります。


頸部の前面や頸部のその他の部分にしこりや腫れがみられる場合は、医師の診察を受けてください。

症状が認められると、医師は甲状腺の触診を行って頸部にしこりがないかを調べます。その後さらに血液検査や特殊なスキャン検査が行われ、甲状腺のしこりから過剰なホルモンの分泌が起こっていないかが確かめられます。甲状腺から少量の組織を採取する検査が勧められる場合もあります。これは生検と呼ばれます。生検では、咽頭の最下部にある甲状腺に小さな針が挿入され、組織の一部が採取されます。採取された組織は顕微鏡で観察され、がん細胞の有無が調べられます。

甲状腺がんには、大きく分けると以下の3つのものがあります(がん細胞を顕微鏡で観察したときの外観を基準とする):


  1. 乳頭がん
  2. 濾胞がん
  3. 髄様がん
  4. 未分化がん

その種類の違いによって増殖のペースが異なってくる場合もあります。回復の可能性(予後)は、甲状腺がんの種類、がんが甲状腺内にとどまっているか体内の他の部位まで拡がっているか(病期)、患者さんの年齢と健康状態などに左右されます。40歳未満の患者さんで甲状腺の外部にがんが拡がっていない場合は、予後は比較的良好となります。

私たちの体の細胞の中には遺伝子が存在しますが、これは両親から受け継いだ遺伝情報を伝達するという役割を果たしています。ある種類の甲状腺がんの患者さんたちの間で、ある異常遺伝子が確認されています。甲状腺髄様がんが発見される場合、その患者さんは、がんの原因となりうる特定の異常遺伝子を親から受け継いでいる可能性があります。さらにその家族の間でも、この異常遺伝子が遺伝している可能性があります。今日ではがん発症のはるか前から遺伝子異常の有無を調べられる検査法が開発されています。したがって患者さんとその家族(子供、孫、親、兄弟、姉妹、姪、甥)が、異常遺伝子の存在を明らかにするための検査法について、医師に情報提供を求めていくことが重要になります。そうした検査は、秘密はしっかりと守られますし、また医師が患者さんを治療していく上で有用となります。がんは認められないものの異常遺伝子の存在が分かっている家族(幼い子供も含める)には、甲状腺を安全に摘出する手術甲状腺摘出術)を行うことによって、甲状腺髄様がんの発生リスクを低減させることが可能です。


病期の説明


甲状腺がんの病期

甲状腺がんが発見(診断)されると、がん細胞が体の他の部位に拡がっていないかを確認するために、さらに検査が行われます。こうした検査の過程は病期分類と呼ばれます。治療計画を立てるためには病期を把握しておく必要があります。


甲状腺乳頭がんと甲状腺濾胞がん

甲状腺乳頭がん甲状腺濾胞がんでは、以下のような病期が用いられます:

I期


II期


III期

がんが発見された患者さんが45歳以上であることが前提となります。腫瘍について以下の条件が満たされます:


IVA期

がんが発見された患者さんが45歳以上であることが前提となります。さらにその大きさには関係なく、腫瘍が頸部に拡がっているか、もしくは頸部または上胸部のリンパ節に拡がっている(両方に該当する場合も含まれる)。

IVB期

がんが発見された患者さんが45歳以上であることが前提となります。その大きさに関係なく、腫瘍背骨付近の頸部組織に拡がっているか、もしくは頸部または上胸部の血管周辺に拡がっています。リンパ節にがんが拡がっていることもあります。

IVC期

がんや骨などの体の他の部位まで拡がっていて、さらに付近のリンパ節に拡がっていることもあります。


甲状腺髄様がん

甲状腺髄様がんでは、以下のような病期が用いられます:

0期

甲状腺内には腫瘍が発見されないものの、スクリーニング検査ではがんが検出される場合です。0期は上皮内がんとも呼ばれます。

I期

大きさが2cm以下の腫瘍甲状腺のみに認められる場合です。

II期

大きさが2cmを超えるものの4cmは超えない腫瘍甲状腺のみに認められる場合です。

III期

腫瘍について以下の条件が満たされる場合です:


IVA期

その大きさには関係なく、腫瘍が頸部に拡がっているか、もしくは頸部または上胸部のリンパ節に拡がっている(両方に該当する場合も含まれる)。

IVB期

その大きさに関係なく、腫瘍背骨付近の頸部組織に拡がっているか、もしくは頸部または上胸部の血管周辺に拡がっています。リンパ節がんが拡がっていることもあります。

IVC期

がんや骨などの体の他の部位まで拡がっていて、さらに付近のリンパ節にがんが拡がっていることもあります。


甲状腺未分化がん

甲状腺未分化がんはIV期の甲状腺がんに相当します。この腫瘍は増殖のペースが速く、発見されたときには既に頸部の中で拡がっているのが通常です。甲状腺未分化がんは、その大部分が高齢者に発生します。


再発甲状腺がん

再発がんとは、治療後に再び悪化(再発)したがんのことをいいます。再発は、甲状腺に起こることもあれば、体の別の部位に起こることもあります。


治療選択肢の概要


甲状腺がんの治療法

甲状腺がんの患者さん全てに、治療法が存在します。以下の4種類の治療法が用いられます:


手術は甲状腺がんに対して最も多く用いられている治療法です。以下のような手術によってがんの摘出が行われます:


放射線療法では、がん細胞を殺傷し腫瘍を小さくすることを目的として、高エネルギーのX線を利用します。甲状腺がんの場合は、体外の装置から放射線を照射する方法(外照射療法)と、放射性ヨウ素を含有する液体を飲み込んでもらう方法があります。ヨウ素には甲状腺に取り込まれる性質があるため、放射性ヨウ素は体内に残存する全ての甲状腺組織に集まって、がん細胞を殺傷していきます。

ホルモン療法では、がんの増殖を阻止することを目的としてホルモンが使用されます。甲状腺がんの治療においては、がん細胞の増殖を促進する一部のホルモンの分泌を停止させるために、それとは別のホルモンが用いられます。通常、ホルモンは錠剤として投与されます。

化学療法では、がん細胞を死滅させることを目的として薬が使用されます。化学療法に用いられる薬は、錠剤として投与されるか、あるいは注射針を用いて静脈内または筋肉内へ投与されます。化学療法は、薬が血流に乗って体中をめぐることにより甲状腺外部のがん細胞をも殺傷できることから、全身療法とも呼ばれます。


病期ごとの治療法

甲状腺がんの治療法は、がんの種類、病期、患者さんの年齢と健康状態などによって異なってきます。

過去の研究で有効性が実証されている標準治療の実施を検討してもよいですし、臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。全ての患者さんが標準治療で治癒するとは限りませんし、一部の標準治療では副作用が予想以上に強く現れる場合もあります。このような理由から、より良いがんの治療法を見い出すために、最新の情報に基づいた臨床試験が計画されています。甲状腺がんについては、米国の多くの地域で臨床試験が実施されています。 


I期およびII期の甲状腺乳頭がんと甲状腺濾胞がん

以下のような治療法が用いられます:


  1. 甲状腺を切除する手術甲状腺全摘除術)。手術後にホルモン療法放射性ヨウ素治療が実施される場合もあります。
  2. 甲状腺の片側のを切除する手術(葉切除術)とその後のホルモン療法。手術後に放射性ヨウ素治療が実施される場合もあります。

III期の甲状腺乳頭がんと甲状腺濾胞がん

以下のような治療法が用いられます:


  1. 甲状腺全体を切除する手術甲状腺全摘除術)とがんに侵されたリンパ節を切除する手術。
  2. 甲状腺全摘除術とその後の放射線療法放射性ヨウ素治療か体外照射療法)。

IV期の甲状腺乳頭がんと甲状腺濾胞がん

以下のような治療法が用いられます:


  1. 放射性ヨウ素治療。
  2. 体外照射療法
  3. がんに侵されている部分からがんを摘出する手術
  4. ホルモン療法
  5. 化学療法などの新しい治療法の臨床試験への参加。

甲状腺髄様がん

以下のような治療法が用いられます:


  1. 甲状腺内にとどまっている腫瘍には、甲状腺全摘除術。頸部のリンパ節の切除が併せて行われる場合もあります。
  2. 甲状腺に再発した腫瘍には、症状を和らげ生活の質を高める緩和療法としての放射線療法
  3. 体内の他の部位に拡がったがんには、症状を和らげ生活の質を高める緩和療法としての化学療法

甲状腺未分化がん

以下のような治療法が用いられます:


  1. 気道を塞いでいる腫瘍には、気管上に開口部を造る手術。これは気管切開術と呼ばれます。
  2. 腫瘍が甲状腺の領域内にとどまっている場合は、症状の軽減を目的とした甲状腺全摘除術
  3. 体外照射療法
  4. 化学療法。
  5. 甲状腺摘除術の実施後に化学療法と放射線療法を行う臨床試験への参加。
  6. 甲状腺がんの新しい治療法を研究するための臨床試験への参加。

再発甲状腺がん

治療法の選択肢は、甲状腺がんの種類、以前に受けた治療の種類、がんの再発部位などによって異なってきます。以下のような治療法が用いられます:


  1. 放射性ヨウ素治療を伴うまたは伴わない手術。残存した腫瘍を取り除くために、再度の手術が行われる場合もあります。
  2. 放射性ヨウ素治療。
  3. がんによる症状を緩和するための、手術と、その実施中の体外照射療法または放射線療法
  4. 化学療法。
  5. 新しい治療法の臨床試験への参加。