原文更新日 : 2005-04-19
翻訳更新日 : 2007-06-27
成人脳腫瘍は、脳組織の中に腫瘍(悪性)細胞ができる疾患です。脳は、記憶や学習、感覚(聴覚、視覚、嗅覚、味覚、触覚)、感情などを制御するための器官です。筋肉、臓器、血管などといった体の他の部位の制御も脳で行われています。最初から脳の中で発生する腫瘍は原発性脳腫瘍と呼ばれます。
脳で発見される腫瘍には、それ以前に体内の別の部分から発生した腫瘍が脳に転移してできたものが数多く含まれています。こうしたものは転移性脳腫瘍と呼ばれます。
以下のような症状がある場合は医師の診察を受けてください:
成人脳腫瘍の発見には、脳と脊髄を調べる検査法が用いられます。 以下のような検査法や手技が用いられます:
成人脳腫瘍の診断は手術の際になされ、そのまま摘出まで行われます。 脳腫瘍が疑われる場合には、頭蓋骨に開けた穴から針を用いて脳組織のサンプルを採取するという手法によって、生検を行います。直ちに病理医がその組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を調べます。ここでがん細胞が発見される場合は、そのまま手術が継続され、可能な限りの腫瘍の摘出が行われていきます。手術後には、がん細胞の残存の有無を確かめるためにMRI検査が実施されることがあります。さらに腫瘍の悪性度を判定するための検査も実施されます。
腫瘍の悪性度とは、腫瘍細胞を顕微鏡で観察したときの異常の度合いと、腫瘍の増殖や拡がりの速さを反映した指標のことです。腫瘍の悪性度は、生検用に採取された組織を病理医が調べることによって判定されます。成人脳腫瘍では、以下のような悪性度の分類法が用いられることがあります:
悪性度I
腫瘍の増殖のペースは遅く、その細胞の外観は正常細胞のそれと似ていて、周辺組織に腫瘍が拡がることはめったにありません。手術によって腫瘍全体を完全に摘出できる場合もあります。
悪性度II
腫瘍の増殖のペースは緩やかですが、周辺組織に拡がることがあり、また、より高悪性度の腫瘍に変化することもあります。
悪性度III
腫瘍の増殖のペースが速く、周辺組織に拡がる可能性が高く、腫瘍細胞の外観が正常細胞のそれと明らかに異なります。
悪性度IV
腫瘍の増殖が非常に侵攻的で、その細胞の外観は正常細胞のそれと明らかに異なり、治療を成功させることは難しくなります。
回復の見込み(予後)と治療の選択は、腫瘍の種類、腫瘍の悪性度、腫瘍の位置、手術後のがん細胞の残存の有無、脳の他の部分への拡がりの有無などの要因に左右されます。
通常、がんの存在範囲や拡がりの程度は病期を用いて表現されます。しかし脳腫瘍では、標準的に用いられる病期分類の方法はありません。原発性脳腫瘍は、中枢神経系(脳と脊髄のこと)の中で拡がっていくことはありますが、体の他の部位に拡がることはめったにありません。治療に際して脳腫瘍は、腫瘍の発生起源の細胞の種類と中枢神経系の中での腫瘍の位置、それに腫瘍の悪性度によって分類されます。
成人脳腫瘍には以下のような種類のものがあります:
脳幹グリオーマ
脳のうちの脊髄につながる部分である脳幹に発生する腫瘍です。多くは高悪性度の腫瘍です。高悪性度の脳幹グリオーマや脳幹中に広く拡がっている脳幹グリオーマでは、治療を成功させることは難しくなります。脳幹グリオーマは、正常な脳組織を傷つけてはならないことから、生検を行わずに診断されるのが通常です。
(さらに詳しい情報については、PDQの脳幹グリオーマ(小児)の治療に関する要約をご覧ください。)
松果体星細胞腫
松果体腫瘍とは、松果体の内部かその周辺にできる腫瘍のことです。松果体は脳内にある非常に小さな臓器で、睡眠と覚醒の周期の制御に必要なメラトニンというホルモンを分泌しています。松果体腫瘍にはいくつかの種類があります。松果体星細胞腫は松果体領域に発生する星細胞腫で、その悪性度は様々です。
毛様細胞性星細胞腫(悪性度I)
星細胞腫は、星細胞と呼ばれる脳の細胞から発生する腫瘍のことです。毛様細胞性星細胞腫は、増殖のペースは遅く、周辺の組織に拡がることもめったにありません。この腫瘍の大部分が小児か若年の成人に発生します。通常は、うまく治療することができます。
びまん性星細胞腫(悪性度II)
びまん性星細胞腫は、増殖のペースは遅いのですが、周辺の組織に拡がることがよくあります。その一部は、さらに高悪性度のものに進行することがあります。その大部分が若年の成人に発生します。
退形成性星細胞腫(悪性度III)
退形成性星細胞腫は悪性星細胞腫とも呼ばれます。この腫瘍は増殖のペースが速く、周辺の組織に拡がっていきます。腫瘍細胞の外観は正常細胞のそれと異なります。退形成性星細胞腫の平均発症年齢は41歳です。
膠芽腫(悪性度IV)
膠芽腫は悪性星細胞腫のひとつで、侵攻性に増殖し周囲の組織に拡がっていきます。その細胞の外観は正常細胞のそれと大きく異なります。膠芽腫はまた、多形性膠芽腫や悪性度IV星細胞腫などとも呼ばれます。この腫瘍の大部分は45〜70歳の成人に発生しています。
星細胞腫に関するさらに詳しい情報については、以下のPDQの要約をご覧ください:
乏突起膠腫
乏突起膠腫とは、乏突起膠細胞(脳細胞の一種で神経細胞を支え、栄養を送っている)から発生する腫瘍のことです。乏突起膠腫には、以下のような悪性度のものがあります:
混合型神経膠腫
混合型神経膠腫は、複数の異なる種類の細胞を含んだ脳腫瘍です。その予後は、腫瘍中に存在する細胞の中で最も悪性度の高いものに左右されます。
上衣腫瘍
上衣腫瘍とは、通常、脳の内部にある隙間の表面や脊髄の周囲にある隙間の表面を覆っている細胞から発生する腫瘍のことです。この隙間は脳脊髄液(衝撃を和らげて脳や脊髄を保護する役目を果たす体液)で満たされています。上衣腫瘍には、以下のような悪性度のものがあります:
(さらに詳しい情報については、PDQの上衣腫(小児)の治療に関する要約をご覧ください。)
髄芽腫(悪性度IV)
髄芽腫は、脳の後部の下側の部分にできる脳腫瘍です。この腫瘍は、脳の発達のごく初期の段階に異常な脳細胞から発生します。髄芽腫は通常、小児か21〜40歳の若年成人に発生します。この種の腫瘍は、脳脊髄液を介して脳から脊髄へと拡がっていくことがあります。
(さらに詳しい情報については、PDQの髄芽腫(小児)の治療に関する要約をご覧ください。)
松果体実質腫瘍
松果体実質腫瘍とは、実質細胞か松果体細胞(松果体の大部分を占める細胞)から発生する腫瘍のことです。この腫瘍は、松果体部の星細胞腫(松果体を支えている組織から発生する星細胞腫)とは別のものです。松果体実質腫瘍には、以下のような悪性度のものがあります:
(さらに詳しい情報については、PDQのテント上原始神経外胚葉腫瘍および松果体芽腫(小児)の治療に関する要約をご覧ください。)
髄膜腫
髄膜腫瘍とは、髄膜(脳と脊髄を覆っている薄い組織の層)から発生する腫瘍のことです。髄膜腫には、以下のようなものがあります:
胚細胞腫瘍
胚細胞腫瘍とは、胚細胞(精巣では精子に成長し卵巣では卵子になる細胞)から発生する腫瘍のことです。この胚細胞は、体内の他の部位へと移動して腫瘍を形成することがあります。胚細胞腫瘍の種類としては、胚細胞腫、胎児性がん、絨毛がん、奇形腫などがあります。これらの腫瘍は、体内のあらゆる部位から発生する可能性があり、良性の場合もあれば悪性の場合もあります。脳内では、松果体の近くの脳の中心部に発生するのが通常で、脳内の別の部位や脊髄へ拡がることがあります。胚細胞腫瘍の大部分は小児に発生します。
(さらに詳しい情報については、PDQの脳腫瘍(小児)に関する要約をご覧ください。)
頭蓋咽頭腫(悪性度II)
頭蓋咽頭腫は、脳の下垂体付近に位置するトルコ鞍領域に発生します。下垂体はエンドウ豆大の小さな器官で、脳の底部に位置しています。下垂体は多くの身体機能を制御している腺器官で、体の成長の制御も含まれます。成人では、この腫瘍の大部分は50歳以上の人に発生します。頭蓋咽頭腫では、生命維持に不可欠な脳組織が圧迫されることがあり、このことが症状を引き起こす原因となります。さらに腫瘍によって脳内での脳脊髄液の流れがせき止められることが原因で、頭部の腫張が起きることもあります。手術で完全に摘出された場合の頭蓋咽頭腫では、その予後は良好であるとされています。
下垂体腫瘍も同じ領域に発生します。さらに詳しい情報については、PDQの下垂体腫瘍の治療に関する要約をご覧ください。
その他の成人脳腫瘍
その他の成人脳腫瘍に関するさらに詳しい情報については、PDQの成人脳腫瘍に関する専門家向けの要約をご覧ください。
再発成人脳腫瘍
再発成人脳腫瘍とは、治療後に再び悪化(再発)した腫瘍のことをいいます。成人脳腫瘍は再発することが多く、ときには最初の腫瘍の発生から何年も後になって再発する場合もあります。再発は、脳に起こることもあれば、体の別の部位に起こることもあります。
転移性脳腫瘍
脳に転移しやすい種類のがんとしては、肺がん、乳がん、原発不明がん、黒色腫、結腸がんなどが挙げられます。転移性脊髄腫瘍の約半数は、肺がんからの転移です。
予後は以下のような要因に左右されます:
乳がんからの脳転移では、他の部位の原発がんからの転移と比べて予後が良いとされています。逆に結腸がんからの脳転移では、予後が悪くなるとされています。
脳腫瘍の患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療を開始する前に、まず臨床試験への参加を検討してみるのもよいでしょう。治療法の臨床試験とは、現在用いられている治療法の改善や、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。
臨床試験は米国各地で行われています。 がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
手術
この要約の解説のセクションで前述されているように、成人脳腫瘍の治療では、可能であれば手術が行われます。
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、カテーテルなどの器具の中に放射性物質を封入し、がんの内部または近くに直接留置する方法です。放射線療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
化学療法
化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与あるいは静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬を直接注入する化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。手術で腫瘍を切除した後に、溶解性のオブラートを用いて、脳腫瘍が存在していた部位に抗がん剤を直接送り込むという方法もあります。化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
放射線療法の新しい実施方法
温熱療法
温熱療法とは、体の組織を高熱に曝すことによって、がん細胞に直接損傷を与えて死滅させたり、あるいは放射線や抗がん剤に対するがん細胞の反応性を高めたりする治療法のことです。
生物学的療法
生物学的療法は、がんを撃退するために患者さんの免疫系を利用する治療法です。体内で生産された物質や製造ラボで合成された物質を用いることによって、体が本来もっているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したり、回復させたりします。このようながんの治療法は生物療法や免疫療法とも呼ばれます。
体内の他の部位から脳へ転移してきた腫瘍は、放射線療法や手術によって治療されるのが通常となっています。原発腫瘍が化学療法の効きやすい種類のものである場合は、化学療法が実施されることがあります。この他にも新しい治療法を研究するための臨床試験が現在も行われています。
脳幹グリオーマの治療法には以下のようなものがあります:
毛様細胞性星細胞腫の治療は、放射線療法を併用した手術か手術の単独実施となるのが通常です。
膠芽腫の治療法には以下のようなものがあります:
乏突起膠腫の治療法には以下のようなものがあります:
混合型神経膠腫の治療法には以下のようなものがあります:
悪性度Iと悪性度IIの上衣腫では、通常、手術に場合により放射線療法を併用する治療が行われます。
髄芽腫の治療法には以下のようなものがあります:
(さらに詳しい情報については、PDQの髄芽腫(小児)の治療に関する要約をご覧ください。)
髄膜腫の治療法には以下のようなものがあります:
悪性髄膜腫の治療法には以下のようなものがあります:
中枢神経系胚細胞腫瘍の治療法は、がん細胞の種類、腫瘍の位置、1回の手術でがんが摘出できるかどうか、などの要因によって異なってきます。
頭蓋咽頭腫の治療法には以下のようなものがあります:
転移性脳腫瘍の治療法は、手術とその後の脳への放射線療法となるのが通常です。
転移性の脳腫瘍が複数存在する場合の治療法には、以下のようなものがあります: