患者さん向け 胸腺腫および胸腺がんの治療(PDQ®)

ご利用について

このPDQがん情報要約では、成人胸腺腫および胸腺がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

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胸腺腫および胸腺がんについての一般的な情報

胸腺腫と胸腺がんは、胸腺に悪性(がん)細胞ができる疾患です。

胸腺腫胸腺がんは、胸腺の上皮性腫瘍(TET)とも呼ばれ、胸腺の外表面を覆う細胞にできるまれながんです。胸腺は胸部上方で心臓の上、胸骨の下に位置する小さな臓器です。リンパ系の一部であり、感染に抵抗する働きのあるリンパ球という白血球を作ります。これらのがんは通常、胸部前方で両の間に発生し、他の理由で行われた胸部X線検査で発見されることがあります。

胸腺の解剖図:図は胸部上方の胸骨の奥に位置する胸腺を示している。肋骨、肺、心臓も示している。

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胸腺の解剖図。胸腺は胸部上方の胸骨の奥に位置する小さな臓器です。体を感染から保護するリンパ球という白血球を産生します。

胸腺腫と胸腺がんは同じ種類の細胞から発生しますが、それぞれの挙動は異なります:

リンパ腫胚細胞腫瘍など、他の種類の腫瘍が胸腺にできることがありますが、それらの腫瘍は胸腺腫または胸腺がんとはみなされません。

胸腺腫は重症筋無力症やその他の傍腫瘍性自己免疫疾患に関連しています。

傍腫瘍性自己免疫疾患はしばしば胸腺腫に関連しています。傍腫瘍性自己免疫疾患はがん患者さんに発生することがありますが、がんが直接の原因となって引き起こされるわけではありません。傍腫瘍性自己免疫疾患の特徴となる徴候症状は、免疫系ががん細胞だけでなく正常な細胞にも攻撃を加えることで発生します。以下の傍腫瘍性自己免疫疾患は胸腺腫に関連します:

その他の傍腫瘍性自己免疫疾患がTETに関連することもあり、あらゆる臓器で発生する可能性があります。

胸腺腫および胸腺がんの徴候や症状として、咳と胸痛があります。

胸腺腫や胸腺がんの最初の診断時には、ほとんどの患者さんに徴候症状は現れていません。以下の問題がみられる場合は担当の医師にご相談ください:

胸腺腫または胸腺がんを診断し病期を分類するために、胸腺を調べる検査が行われます。

以下のような検査法や手技が用いられます:

特定の要因が予後(回復の見込み)や治療法の選択肢に影響を及ぼします。

予後と治療選択肢を左右する因子には以下のものがあります:

胸腺腫および胸腺がんの病期

胸腺腫または胸腺がんの診断後に、がん細胞が周辺領域で拡がっているかどうか、または他の部位に転移しているかどうかを調べる検査が行われます。

胸腺腫または胸腺がん胸腺から周辺領域や他の部位に拡がっているかどうかを調べるプロセスは、病期分類と呼ばれます。胸腺腫と胸腺がんは、胸壁、大血管、食道、あるいは肺や心臓を取り囲む膜に拡がることがあります。胸腺腫や胸腺がんを診断するために行われた検査や手技の結果は、治療に関する決定を下すためにも利用されます。

体内でのがんの拡がり方は3種類に分けられます。

がんは組織リンパ系血液を介して拡がります:

がんは発生した場所から体内の他の部位に拡がることがあります。

がんが体内の他の部位に拡がることを転移と呼びます。がん細胞は発生した場所(原発腫瘍)から分離し、リンパ系や血液を介して移動します。

転移性腫瘍は、原発腫瘍と同じ種類の腫瘍です。例えば、胸腺がんが骨に転移した場合、骨にできたがん細胞は、実際は胸腺がんの細胞です。この疾患は転移性胸腺がんであり、骨がんではありません。

胸腺腫では以下のような病期が用いられます:

I期

I期では、がん胸腺内のみに認められます。さらに全てのがん細胞が、胸腺を覆う被膜の内部に存在しています。

II期

II期では、がん被膜を越えて胸腺周囲の脂肪組織まで拡がっているか、もしくは胸を取り囲んでいる胸膜に拡がっています。

III期

III期では、がんが胸部の周辺臓器、すなわち、や心嚢(心臓を包む袋)、または心臓に血液を運ぶ大血管に拡がっています。

IV期

IV期は、がんが拡がっている部位に応じて、さらにIVA期とIVB期に分けられます。

胸腺がんの場合、診断される時点ですでに体内の他の部位に転移しているのが通常です。

胸腺腫の病期分類には、胸腺がんについての病期分類システムと同じものが用いられることがあります。

胸腺がんは胸腺腫よりも再発しやすいがんです。

再発胸腺腫や再発胸腺がんとは、治療後に再発した(再び現れた)がんのことをいいます。再発は、胸腺に起こることもあれば、体の他の部位に起こることもあります。胸腺がんは胸腺腫よりも再発しやすいがんです。

治療選択肢の概要

胸腺腫や胸腺がんの患者さんには様々な治療法が存在します。

胸腺腫胸腺がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験において検証中のものもあります。治療法の臨床試験とは、既存の治療法を改良したり、がんの患者さんのための新しい治療法について情報を集めたりすることを目的とした調査研究です。複数の臨床試験で現在の標準治療より新しい治療法のほうが良好であることが明らかになった場合は、その新しい治療法が標準治療となります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

以下のような治療法が用いられます:

手術

胸腺腫の治療法としては、腫瘍を摘出する手術が最もよく用いられています。

手術の際に確認できる全てのがんを切除した後に、患者さんによっては、残っているがん細胞を全て死滅させることを目的として、術後に放射線療法が実施される場合があります。このようにがんの再発リスクを低減させるために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。

放射線療法

放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用して、がん細胞の死滅や増殖阻止を図る治療法です。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんのある領域に放射線を照射する方法です。

化学療法

化学療法は、を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。

化学療法は手術や放射線療法の前に腫瘍を小さくするという目的で用いられることもあります。このような化学療法は術前補助化学療法と呼ばれます。

ホルモン療法

ホルモン療法は、ホルモンを体内から除去したりその働きを阻害したりすることによって、がん細胞の増殖を阻止する治療法です。ホルモンとは、体内の内分泌で作られ、血流を介して運ばれる物質のことです。ホルモンの中には一部のがんを増殖させるものがあります。がん細胞内にホルモンが結合する分子(受容体)が存在するということが検査によって判明した場合には、薬物投与や手術、放射線療法などの手段を用いて、そのホルモンの分泌を抑制したり作用を阻害したりする治療を行います。胸腺腫や胸腺がんの治療では、オクトレオチドを使用するホルモン療法が行われることがあり、場合によってはプレドニゾンが併用されることもあります。

標的療法

標的療法とは、特定のがん細胞を認識し攻撃する性質をもった薬物や物質を用いる治療法です。チロシンキナーゼ阻害薬(TKIs)と哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mTOR)阻害薬は、胸腺腫と胸腺がんの治療に用いられる標的療法薬です。

この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。

本項では、臨床試験で研究されている治療について説明しています。現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。臨床試験に関する情報は、NCIのウェブサイトから入手することができます。

免疫療法

免疫療法は、患者さんの免疫系を利用して、がんと戦う治療法です。体内で生産された物質や製造ラボで合成された物質を用いることによって、体が本来もっているがんに対する抵抗力を高めたり、誘導したり、回復させたりします。このようながんの治療法は生物学的療法の一種です。

免疫チェックポイント阻害薬:左図はPD-L1(腫瘍細胞上)とPD-1(T細胞上)という蛋白間の結合を示しており、この結合によってT細胞が体内の腫瘍細胞を殺傷する働きが抑制されている。腫瘍細胞の抗原とT細胞の受容体も示されている。右図は免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1と抗PD-1)がPD-L1とPD-1の結合を阻害し、T細胞が腫瘍細胞を殺傷できる状態になっているところを示している。

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免疫チェックポイント阻害薬。腫瘍細胞上のPD-L1とT細胞上のPD-1などのチェックポイント蛋白は、免疫反応の抑制に関与します。PD-L1とPD-1が結合すると、T細胞による体内の腫瘍細胞の殺傷は抑制されます(左図)。免疫チェックポイント阻害薬(抗PD-L1または抗PD-1)でPD-L1とPD-1の結合を阻害すると、T細胞が腫瘍細胞を殺傷できるようになります(右図)。

胸腺腫および胸腺がんの治療は副作用を引き起こすことがあります。

がんの治療によって引き起こされる副作用に関する詳しい情報については、副作用(英語)のページをご覧ください。

患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。

患者さんによっては、臨床試験に参加することが治療に関する最良の選択肢となる場合もあります。臨床試験はがんの研究プロセスの一部を構成するものです。臨床試験は、新しいがんの治療法が安全かつ有効であるかどうか、あるいは標準治療よりも優れているかどうかを確かめることを目的に実施されます。

今日のがんの標準治療の多くは以前に行われた臨床試験に基づくものです。臨床試験に参加する患者さんは、標準治療を受けることになる場合もあれば、新しい治療法を初めて受けることになる場合もあります。

患者さんが臨床試験に参加することは、将来のがんの治療法を改善することにもつながります。たとえ臨床試験が効果的な新しい治療法の発見につながらなくても、重要な問題に対する解答が得られる場合も多く、研究を前進させることにつながるのです。

患者さんはがん治療の開始前や開始後にでも臨床試験に参加することができます。

ただし一部には、まだ治療を受けたことのない患者さんだけを対象とする臨床試験もあります。一方、別の治療では状態が改善されなかった患者さんに向けた治療法を検証する試験もあります。がんの再発を阻止したり、がん治療の副作用を軽減したりするための新しい方法を検証する臨床試験もあります。

臨床試験は米国各地で行われています。NCIが支援する臨床試験に関する情報は、NCIの臨床試験検索ウェブページで探すことができます(なお、このサイトは日本語検索に対応しておりません。)。他の組織によって支援されている臨床試験は、ClinicalTrials.govウェブサイトで探すことができます。

フォローアップ検査が必要となることもあります。

がんの診断病期判定のために実施される検査の中には、繰り返し行われるものがあります。治療の奏効の程度を確かめるために繰り返し行われる検査もあります。治療の継続、変更、中止などの決定はこうした検査の結果に基づいて判断されます。

治療が終わってからも度々受けることになる検査もあります。こうした検査の結果から、患者さんの状態の変化やがんの再発(再び現れること)の有無を知ることができます。こうした検査はフォローアップ検査または定期検査と呼ばれることがあります。

I期およびII期の胸腺腫の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

I期およびII期胸腺腫の治療法は手術で、その後に放射線療法が行われることもあります。

III期およびIV期の胸腺腫の治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

手術によって完全に摘出できると判断されるIII期およびIV期の胸腺腫の治療法には以下のようなものがあります:

手術では完全に摘出できないIII期およびIV期の胸腺腫の治療法には以下のようなものがあります:

胸腺がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

手術によって完全に摘出できると判断される胸腺がんの治療法には以下のようなものがあります:

手術では完全に摘出できない胸腺がんの治療法には以下のようなものがあります:

再発胸腺腫および再発胸腺がんの治療

以下の治療法に関する情報については、治療選択肢の概要のセクションをご覧ください。

再発胸腺腫と再発胸腺がんの治療法には以下のようなものがあります:

胸腺腫および胸腺がんについてさらに学ぶために

米国国立がん研究所が提供している胸腺腫および胸腺がんに関する詳しい情報については、以下をご覧ください:

米国国立がん研究所が提供している一般的ながん情報とその他の資源については、以下をご覧ください:

本PDQ要約について

PDQについて

PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)は、米国国立がん研究所が提供する総括的ながん情報データベースです。PDQデータベースには、がんの予防や発見、遺伝学的情報、治療、支持療法、補完代替医療に関する最新かつ公表済みの情報を要約して収載しています。ほとんどの要約について、2つのバージョンが利用可能です。専門家向けの要約には、詳細な情報が専門用語で記載されています。患者さん向けの要約は、理解しやすい平易な表現を用いて書かれています。いずれの場合も、がんに関する正確かつ最新の情報を提供しています。また、ほとんどの要約はスペイン語版も利用可能です。

PDQはNCIが提供する1つのサービスです。NCIは、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)の一部であり、NIHは連邦政府における生物医学研究の中心機関です。PDQ要約は独立した医学文献のレビューに基づいて作成されたものであり、NCIまたはNIHの方針声明ではありません。

本要約の目的

このPDQがん情報要約では、成人胸腺腫および胸腺がんの治療に関する最新の情報を記載しています。患者さんとそのご家族および介護者に情報を提供し、支援することを目的としています。医療に関する決定を行うための正式なガイドラインや推奨を示すものではありません。

査読者および更新情報

PDQがん情報要約は、編集委員会が作成し、最新の情報に基づいて更新しています。編集委員会はがんの治療やがんに関する他の専門知識を有する専門家によって構成されています。要約は定期的に見直され、新しい情報があれば更新されます。各要約の日付("原文更新日")は、直近の更新日を表しています。

患者さん向けの本要約に記載された情報は、専門家向けバージョンより抜粋したものです。専門家向けバージョンは、PDQ Adult Treatment Editorial Boardが定期的に見直しを行い、必要に応じて更新しています。

臨床試験に関する情報

臨床試験とは、例えば、ある治療法が他の治療法より優れているかどうかなど、科学的疑問への答えを得るために実施される研究のことです。臨床試験は、過去の研究結果やこれまでに実験室で得られた情報に基づき実施されます。各試験では、がんの患者さんを助けるための新しくかつより良い方法を見つけ出すために、具体的な科学的疑問に答えを出していきます。治療臨床試験では、新しい治療法の影響やその効き目に関する情報を収集します。新しい治療法がすでに使用されている治療法よりも優れていることが臨床試験で示された場合、その新しい治療法が「標準」となる可能性があります。患者さんは臨床試験への参加を検討してもよいでしょう。臨床試験の中にはまだ治療を始めていない患者さんのみを対象としているものもあります。

NCIのウェブサイトで臨床試験を検索することができます。より詳細な情報については、NCIのコンタクトセンターであるCancer Information Service(CIS)(+1-800-4-CANCER [+1-800-422-6237])にお問い合わせください。

本要約の使用許可について

PDQは登録商標です。PDQ文書の内容は本文として自由に使用することができますが、要約全体を示し、かつ定期的に更新を行わなければ、NCIのPDQがん情報要約としては認められません。しかしながら、“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks in the following way:【ここに本要約からの抜粋を記載する】.”のような一文を書くことは許可されます。

本PDQ要約を引用する最善の方法は以下の通りです:

PDQ® Adult Treatment Editorial Board.PDQ Thymoma and Thymic Carcinoma Treatment.Bethesda, MD: National Cancer Institute. Updated <MM/DD/YYYY>. Available at: https://www.cancer.gov/types/thymoma/patient/thymoma-treatment-pdq. Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 26389395]

本要約内の画像は、著者やイラストレーター、出版社より、PDQ要約内での使用に限定して、使用許可を得ています。PDQ要約から、その要約全体を使用せず画像のみを使用したい場合には、画像の所有者から許可を得なければなりません。その許可はNCIより与えることはできません。本要約内の画像の使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともに、Visuals Onlineで入手可能です。Visuals Onlineには、3,000以上の科学関連の画像が収載されています。

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