医療専門家向け 小児がんのゲノミクス(PDQ®)

    • 原文更新日:2020-05-13
    • 翻訳更新日:2020-07-31

ご利用について

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、小児がんのゲノミクスについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約では、特定の小児がんの分子的亜型およびそれに伴う臨床的特徴、診断時または再燃時に各亜型の特徴をなす頻発性ゲノム変化、ならびにそのゲノム変化の治療上および予後上の重要性について記載する。脳腫瘍、腎腫瘍、白血病、リンパ腫、肉腫、およびその他のがんに伴うゲノム変化について考察する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

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小児がんのゲノミクスに関する一般情報

この数十年で、世界中の研究チームによって、ほとんどの種類の小児がんにおけるゲノムの全体像を解明する上で目覚しい進歩がなされている。10年前に、活性化チロシンキナーゼのような標的となるがん遺伝子を高い割合の小児がんで同定することが期待できるようになった。しかしながら、小児がんにおけるゲノムの全体像は変動が大きく、多くの例で、一般的な成人のがんとはかなり異なることが現在明らかになっている。

迅速な治療を必要とするゲノム異常の例を以下に示す:

一部のがんでは、特有な生物学的特徴および特有な臨床的特徴(特に進行度に関して)を有する組織像の中で、ゲノム的に定義された患者のサブセットを識別する際に、ゲノム所見が詳細に解明されている。一部の例で、これらの亜型の識別は、髄芽腫のWNTサブグループにより例示されるように、早期に臨床へ応用されている。WNTサブグループは、その転帰が優れているために、長期合併症を低減しながら好ましい転帰を維持することを目標として、治療の低減が評価可能となるように、今後の髄芽腫の臨床試験で個別に検討される。しかしながら、他の一部のがんで、頻発性のゲノム異常の予後的意義は未だ確定していない。

ゲノム研究からの重要な知見は、小児がんの分子的特徴がその臓器の組織(細胞)と相関する程度である。ほとんどの成人のがんと同様に、小児がんにおける変異は、ランダムに発生することはないが、むしろ特定の集団において疾患カテゴリーに関係している。少数の例として以下のものがある:

複数の小児がんにまたがる他の検討項目は、がん臓器の正常な組織の発達に関連する遺伝子の変異の関与およびエピゲノム制御に関連する遺伝子の関与である。

構造変化は多くの小児がんで重要な役割を果たしている。発がん性の融合遺伝子またはがん遺伝子の過剰発現をもたらす転座は、特に白血病および肉腫で中心的な役割を果たす。しかしながら、主に構造変化を特徴とする他の小児がんで、機能性融合遺伝子は産生されない。これらの頻発性の構造多様体によりがん遺伝子が発生する機序は、骨肉腫(TP53の最初のイントロンに限定される転座)および髄芽腫(構造多様体によりGFI1またはGFI1Bのコード配列が活性化エンハンサーエレメントの近位に並置して転写活性化がもたらされる[エンハンサーの乗っ取り(enhancer hijacking)])で同定されている。[ 1 ][ 2 ]しかしながら、他の小児がんで頻発性の構造変化(例、神経芽腫にける染色体セグメントの変化)で、がん遺伝子を生じる機序を解明する必要がある。

全ゲノムまたは全エクソーム配列決定法の小児がんコホートへの適用により、小児がんの病因に対する生殖細胞変異の関与に関する理解が深まりつつある。これらの配列決定法を小児がんコホートへ適用した研究から、病原性生殖細胞変異の発生率で約10%の推定値が得られている。[ 3 ][ 4 ][ 5 ]病原性生殖細胞変異が明らかに患者のがんに関与している例(リー-フラウメニ症候群との関連で生じるTP53変異など)があるが、患者のがんへの生殖細胞変異の関与がほとんど明らかではない例(小児がんの素因における役割が未確定のBRCA1およびBRCA2のような成人がんの素因遺伝子における変異)もある。[ 4 ][ 5 ]生殖細胞変異の頻度は腫瘍の種類により異なり(例、神経芽腫で低く、骨肉腫で高い)[ 5 ]、同定された生殖細胞変異の多くが既知の素因症候群に相当する(例、胸膜肺芽腫でDICER1、ラブドイド腫瘍および小細胞性卵巣がんでSMARCB1およびSMARCA4、副腎皮質がんおよびリー-フラウメニ症候群のがんでTP53、網膜芽細胞腫でRB1など)。特定のがんに対する生殖細胞変異の関与については、以下の疾患特異的セクションで考察している。

本書の各セクションは、特定の小児がんにおけるゲノムの全体像に関する現時点での知識および小児がんに対する正確な投薬の概念を適用する方法を検討する上で不可欠な知識について、読者に簡潔な要約を提供することを目的としている。

参考文献
  1. Northcott PA, Lee C, Zichner T, et al.: Enhancer hijacking activates GFI1 family oncogenes in medulloblastoma. Nature 511 (7510): 428-34, 2014.[PUBMED Abstract]
  2. Chen X, Bahrami A, Pappo A, et al.: Recurrent somatic structural variations contribute to tumorigenesis in pediatric osteosarcoma. Cell Rep 7 (1): 104-12, 2014.[PUBMED Abstract]
  3. Mody RJ, Wu YM, Lonigro RJ, et al.: Integrative Clinical Sequencing in the Management of Refractory or Relapsed Cancer in Youth. JAMA 314 (9): 913-25, 2015.[PUBMED Abstract]
  4. Parsons DW, Roy A, Yang Y, et al.: Diagnostic Yield of Clinical Tumor and Germline Whole-Exome Sequencing for Children With Solid Tumors. JAMA Oncol 2 (5): 616-624, 2016.[PUBMED Abstract]
  5. Zhang J, Walsh MF, Wu G, et al.: Germline Mutations in Predisposition Genes in Pediatric Cancer. N Engl J Med 373 (24): 2336-46, 2015.[PUBMED Abstract]
白血病

急性リンパ芽球性白血病(ALL)

小児ALLのゲノミクス

小児ALLの遺伝学は広範にわたって研究されており、細胞遺伝学的特性および分子的特性の解析に基づきいくつかの特有な亜型が定義されており、それぞれ固有な臨床的および予後的特徴のパターンを有している。[ 1 ]図1に細胞遺伝学/分子的亜型別のALL症例の分布を例示する。[ 1 ]

小児ALLの亜分類を示す円グラフ。

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図1.小児ALLの亜分類。青色のウェッジはB前駆細胞型ALL、黄色のウェッジは最近同定されたB-ALLの亜型、赤色のウェッジはT細胞系列ALLを示す。Elsevierから許諾を得て転載:Seminars in Hematology, Volume 50, Charles G. Mullighan, Genomic Characterization of Childhood Acute Lymphoblastic Leukemia, Pages 314-324, Copyright (2013).

B-ALLの細胞遺伝学/ゲノム情報

B-ALLにおけるゲノムの全体像は、正常なB細胞産生を妨げるゲノム変化、また一部の例では増殖シグナルを発する遺伝子における変異という特徴を示す(例、RASファミリー遺伝子における活性化変異またはキナーゼ経路シグナリングにつながる変異/転座)。B細胞産生の阻止につながるゲノム変化には、転座(例、TCF3-PBX1およびETV6-RUNX1)、点変異(例、IKZF1およびPAX5)、および遺伝子内/遺伝子間欠失(例、IKZF1PAX5EBF、およびERG)がある。[ 2 ]

B-ALLにおけるゲノム変化ではランダムに発生する傾向はみられないが、むしろその遺伝子発現プロファイルのような生物学的特徴により説明できる亜型内で群発する傾向がある。頻発性染色体転座を認める症例(例、TCF3-PBX1ETV6-RUNX1、およびKMT2A[MLL]再構成を認めるALL)は、独特な生物学的特徴を有し、この点を例示しており、特有な生物学的亜型内での特定のゲノム変化の以下の例も同様である:

キナーゼ遺伝子の活性化点変異は、高リスクB-ALLでまれである。変異していることが明らかになる第一のキナーゼ遺伝子がJAKである。これらの変異は、CRLF2異常を伴うPh-like ALL患者に一般に観察されるが、ダウン症候群のALL小児の15%にJAK2変異も観察される。[ 4 ][ 8 ][ 9 ]いくつかのキナーゼ遺伝子およびサイトカイン受容体遺伝子は、Ph+ ALLおよびPh-like ALLの考察で以下に記載しているように、転座により活性化される。FLT3変異は、高二倍体ALLおよびKMT2A再構成ALLの少数例(約10%)で発生し、他の亜型ではまれである。[ 10 ]

再燃時のB-ALLのゲノミクスの解明は、診断時のALLのゲノミクスの解明より進展が遅れている。小児ALLは診断時にしばしば多クローン性であり、治療の選択的影響下で、一部のクローンが消滅し、特有なゲノムプロファイルを有する新たなクローンが発生することがある。[ 11 ]特に重要な点として、再燃時に特定の治療要素により選択されることがある新たな変異が発生する。例として、NT5C2の変異は診断時に検出されないが、この変異について評価した2件の研究では、早期再燃を来したB-ALL症例の44人中7人(16%)および20人中9人(45%)でNT5C2に特異的な変異が観察された。[ 11 ][ 12 ]NT5C2変異は、再燃が遅い患者でまれであり、この変異がメルカプトプリン(6-MP)およびthioguanineに対する抵抗性を誘導すると考えられている。[ 12 ]再燃時のみに変異が検出される他の遺伝子は、プリン生合成に関与する遺伝子のPRSP1である。[ 13 ]中国人コホートの13.0%およびドイツ人コホートの2.7%に変異が観察され、治療中に再燃した患者で変異が観察された。再燃例で観察されたPRSP1変異は、白血病細胞株でチオプリン系薬物に対する抵抗性を誘導した。CREBBP変異も再燃時に豊富にみられ、グルココルチコイド系薬物に対する抵抗性増加に関係していると考えられている。[ 11 ][ 14 ]再燃のゲノミクスに関する理解が深まるにつれて、再燃を避けるように初期治療を修正すること、または抵抗性を誘導する変異を早期に検出して明らかな再燃前に介入することが可能になるかもしれない。

特にB-ALLで、頻発性の染色体異常の多くが予後的意義を有することが示されている。高度の高二倍体(染色体数が51~65)およびETV6-RUNX1融合などの一部の染色体変化は、比較的良好な転帰に関係している。歴史的に、フィラデルフィア染色体(t(9;22)(q34;q11.2))、KMT2A遺伝子再構成、低二倍体、およびAML1遺伝子の染色体内増幅(iAMP21)など、不良な予後に関係している変化もある。[ 15 ]

これらのゲノム変化の多くが臨床的に重要なことが認識され、造血器およびリンパ組織腫瘍の世界保健機関分類2016年版では、B-ALLとして以下の疾患を掲載している:[ 16 ]

小児ALLにおけるこれらの染色体および他の染色体ならびにゲノムの異常について以下に記載している。

  1. 染色体の数。
  2. 染色体転座および染色体セグメントの増加/欠失。

T-ALLの細胞遺伝学/ゲノム情報

T-ALLは、T細胞発生に関係する転写プログラムの活性化に至るゲノム変化ならびにNOTCH1経路の活性化をもたらすNOTCH1および/またはFBXW7の変異を有する症例の頻度が高い(約60%)ことを特徴とする。[ 131 ]B-ALLと対照的に、T-ALLにおけるゲノム変化の予後的意義はほとんど確定していない。B細胞系統のALLで一般的にみられる細胞遺伝学的異常(例:高二倍体、染色体数が51~65)は、T-ALLでまれである。[ 132 ][ 133 ]

初期の前駆T細胞ALLの細胞遺伝学/ゲノム情報

初期の前駆T細胞ALLの詳細な分子的特徴では、この疾患単位が分子レベルできわめて不均一であり、3分の1を超える症例で変異またはコピー数の変化により損傷した遺伝子が1つもみられないことが示された。[ 153 ]他のT-ALL症例と比較して、初期の前駆T細胞群では、NOTCH1変異の割合が低く、サイトカイン受容体およびRASのシグナル伝達、造血発生、ならびにヒストン修飾を調節している遺伝子における変化の頻度が有意に高かった。初期の前駆T細胞ALLの転写プロファイルでは、正常な造血幹細胞および骨髄性白血病幹細胞との類似性がみられる。[ 153 ]

比較ゲノムハイブリダイゼーションおよび/または定量的DNA-PCRにより検出されるようなTCR-γ遺伝子座の両アレル性欠失なし(ABD)がT-ALL患者の早期治療失敗に関連していることが研究により明らかになっている。[ 154 ][ 155 ]ABDは初期胸腺前駆細胞の特徴であり、ABDを伴うT-ALL患者の多くは、免疫表現型が初期の前駆T細胞の表現型の診断と一致している。

混合表現型急性白血病(MPAL)の細胞遺伝学/ゲノム情報

細胞系列があいまいな急性白血病に対するWHO分類システムが表1に要約されている。[ 156 ][ 157 ]MPAL診断に対して細胞系列を割り当てるための基準が表2で示されている。[ 16 ]

表1.造血器およびリンパ組織腫瘍に関する世界保健機関分類による細胞系列があいまいな急性白血病a
疾患 定義
NOS = 他に特定されない。
a 出典:Béné MC: Biphenotypic, bilineal, ambiguous or mixed lineage: strange leukemias!Haematologica 94 (7): 891-3, 2009.[ 156 ]出典:Haematologica/the Hematology Journal website http://www.haematologica.org.
急性未分化型白血病 リンパ系または骨髄系のいずれかに特異的とみなされるマーカーの発現が認められない急性白血病
BCR-ABL1;つまりt(9;22)(q34;q11.2)を伴う混合表現型急性白血病(BCR-ABL1を伴うMPAL) 混合表現型急性白血病の診断基準を満たし、(9;22)転座、つまりBCR-ABL1再構成も芽球に認められる急性白血病
KMT2AMLL)再構成;つまりt(v;11q23)を伴う混合表現型急性白血病(KMT2Aを伴うMPAL) 混合表現型急性白血病の診断基準を満たし、KMT2A遺伝子を巻き込んだ転座も芽球に認められる急性白血病
混合表現型急性白血病、B細胞性/骨髄性、NOS(B/M MPAL) B細胞系および骨髄系の両方に割り当てる診断基準を満たし、BCR-ABL1またはKMT2Aを巻き込んだ遺伝子異常が芽球に認められない急性白血病
混合表現型急性白血病、T細胞性/骨髄性、NOS(T/M MPAL) T細胞系および骨髄系の両方に割り当てる診断基準を満たし、BCR-ABL1またはKMT2Aを巻き込んだ遺伝子異常が芽球に認められない急性白血病
混合表現型急性白血病、B細胞性/骨髄性、NOS-まれなタイプ B細胞系およびT細胞系に割り当てる診断基準をいずれも満たす急性白血病
他の細胞系列があいまいな白血病 ナチュラルキラー細胞リンパ芽球性白血病/リンパ腫
表2.骨髄腫瘍と急性白血病の2016年世界保健機関(WHO)分類改訂版による混合表現型急性白血病に対する細胞系列の割り当て基準a
細胞系列 基準
a出典:Arber et al.[ 16 ]
b「強い」とは、標本内の正常なBまたはT細胞と比較して同等かまたはより明るいものと定義された。
骨髄性細胞系列 ミエロペルオキシダーゼ(フローサイトメトリー、免疫組織化学、または細胞化学);あるいは単球分化(次のうち少なくとも2つ:非特異的エステラーゼ細胞化学、CD11c、CD14、CD64、リゾチーム)
T細胞系列 強いb細胞質CD3(CD3イプシロン鎖に対する抗体を伴う);または細胞表面のCD3
B細胞系列 強いbCD19と次のうち少なくとも1つ以上が強く発現している:CD79a、細胞質CD22、またはCD10;あるいは弱いCD19と次のうち少なくとも2つ以上が強く発現している:CD79a、細胞質CD22、またはCD10

MPALに対する分類システムには、主要な分子的変化により定義される次の2つの疾患実体がある:BCR-ABL1転座を伴うMPALおよびKMT2A再構成を伴うMPAL。MPAL、B細胞性/骨髄性、NOS(B/M MPAL)およびMPAL、T細胞性/骨髄性、NOS(T/M MPAL)の疾患実体に関連するゲノム変化は、以下に示すように明確に区別できる:

薬剤代謝経路における遺伝子多型

化学療法薬の代謝に関与する多くの遺伝子多型は小児期のALLに予後的意義を有することが報告されている。[ 158 ][ 159 ][ 160 ]

(小児ALLの治療に関する情報については、小児急性リンパ芽球性白血病の治療のPDQ要約を参照のこと。)

急性骨髄性白血病(AML)

急性骨髄性白血病の分子的特徴

小児および成人AMLの包括的分子プロファイリングにより、AMLは年齢層間で共通性および明確な差の両方を示す疾患であることが明らかにされている。[ 172 ][ 173 ]

白血病芽球細胞の遺伝子解析(従来の細胞遺伝学的方法および分子遺伝学的方法の両方を使用)は、染色体異常および分子的異常がいずれも重要な診断的および予後的マーカーであることから、AMLの小児に対して実施される。[ 174 ][ 175 ][ 176 ][ 177 ][ 178 ][ 179 ][ 180 ]クローン性の染色体異常は、約75%のAML患児の芽球に認められており、予後と治療の両方で重要な亜型を明らかにする上で有用である。

分子的異常の発見はまた、リスク層別化および治療割り当てに役立つ可能性がある。例えば、NPMおよびCEBPAの変異は、良好な転帰に関連する一方で、FLT3の特定の変異では高い再燃リスクが予想されており、後者の変異の同定により標的療法が可能になる場合がある。[ 181 ][ 182 ][ 183 ][ 184 ]

骨髄腫瘍と急性白血病の2016年世界保健機関(WHO)分類改訂版によると、AML患者における頻発性染色体転座は、成人AMLと比べて特異的であったり、保有率が異なっていたりする場合があることが強調されている。[ 16 ]従来の染色体分析で認められる小児AMLの染色体転座および潜在性(蛍光in situハイブリダイゼーションまたは分子的技術でのみ同定される)のものは、成人より高い割合でみられる。これらの頻発性転座を表3に要約する。[ 16 ]表3では、最後の3行に、AML患児で相対的に多くみられる頻発性転座も追加して示している。[ 178 ][ 179 ][ 185 ]

表3.小児急性骨髄性白血病(AML)で一般的な染色体転座
遺伝子融合産物 染色体転座 小児AMLにおける保有率(%)
a潜在性の染色体転座
KMT2AMLL)の転座 11q23.3 25.0
NUP98-NSD1a t(5;11)(q35.3;p15.5) 7.0
CBFA2T3-GLIS2a inv(16)(p13.3;q24.3) 3.0
NUP98-KDM5A4a t(11;12)(p15.5;p13.5) 3.0
DEK-NUP214 t(6;9)(p23;q34.1) 1.7
RBM15(OTT)-MKL1(MAL) t(1;22)(p13.3;q13.1) 0.8
MNX1-ETV6 t(7;12)(q36.3;p13.2) 0.8
KAT6A-CREBBP t(8;16)(p11.2;p13.3) 0.5
RUNX1-RUNX1T1 t(8;21)(q22;q22) 13–14
CBFB-MYH11 inv(16)(p13.1;q22)またはt(16;16)(p13.1;q22) 4–9
PML-RARA t(15;17)(q24;q21) 6–11

小児AML症例におけるゲノムの全体像は、診断から再燃までに変化し、診断時に検出可能な変異が再燃時に減少して、逆に再燃時に新たな変異が現れることがある。診断時および再燃時に塩基配列データが得られた20症例の研究で、重要な知見は、診断時の多様体アレル頻度が再燃時の変異の持続と強く相関することであった。[ 186 ]多様体アレル頻度が0.4を超える診断時変異の約90%は再燃まで持続するのに対して、多様体アレル頻度が0.2未満ではわずか28%である(P < 0.001)。この観察結果は、FLT3-ITD変異が存在すると、FLT3-ITDアレル比が高い場合にのみ不良な予後が予想されたことを示す過去の結果と一致している。

特定の頻発性の細胞遺伝学的および分子的異常について、以下に簡潔に示す。これらの異常は、臨床用途で患者が予後良好か予後不良かを特定できる異常別に記載しており、それ以外の異常はその後に記載している。骨髄腫瘍と急性白血病の2016年WHO分類改訂版の命名法は、関連する部分で疾患単位に組み込まれている。

良好な予後に関係している分子的異常

良好な予後に関係している分子的異常には以下のものがある:

予後不良に関連している分子的異常

予後不良に関連している分子的異常には以下のものがある:

小児AMLに認められる他の分子的異常

小児AMLに認められる他の分子的異常には以下のものがある:

(小児AMLの治療に関する情報については、小児急性骨髄性白血病とその他の骨髄性悪性疾患の治療のPDQ要約を参照のこと。)

若年性骨髄単球性白血病(JMML)

JMMLにおけるゲノムの全体像は、Ras経路の次の5つの遺伝子のいずれかにおける変異を特徴とする:NF1NRASKRASPTPN11、およびCBL[ 351 ][ 352 ][ 353 ]Ras経路の活性化変異を伴うJMMLと診断された連続登録症例118人のシリーズで、変異した遺伝子としてPTPN11が最も多く、症例の51%を占めていた(生殖細胞系が19%および体細胞系が32%)(図3を参照のこと)。[ 351 ]NRAS変異を有する患者が症例の19%を、KRAS変異を有する患者が症例の15%を占めていた。NF1変異は症例の8%を占め、CBL変異は症例の11%を占めていた。これら5つの遺伝子の変異は一般的に相互排他的であるが、症例の4~17%はこのようなRas経路の遺伝子の2つに変異を有しており[ 351 ][ 352 ][ 353 ]、これは予後不良と関連する所見である。[ 351 ][ 353 ]

JMMLにおける白血病細胞の変異率は非常に低いが、前述の5つのRas経路遺伝子以外に他の変異が認められている。[ 351 ][ 352 ][ 353 ]転写抑制因子複合体PRC2の遺伝子に二次的なゲノム変化が認められている(例、ASXL1が症例の7~8%で変異を生じていた)。成人の骨髄増殖性腫瘍に関連するいくつかの遺伝子も、JMMLにおいては低率で変異を生じている(例、SETBP1が症例の6~9%で変異を生じていた)。[ 351 ][ 352 ][ 353 ][ 354 ]JAK3変異もJMML症例のわずかな割合(4~12%)で認められている。[ 351 ][ 352 ][ 353 ][ 354 ]PTPN11生殖細胞変異およびCBL生殖細胞変異を有する症例では、その他の変異が低率でみられた(図3を参照のこと)。[ 351 ]疾患を定義するRAS経路の変異以外の変異の存在が、より不良な予後に関連している。[ 351 ][ 352 ]

JMMLのゲノムの全体像について記述した報告では、患者150人中16人(11%)で標準のRas経路の変異が認められなかったことが明らかにされた。これら16人の患者のうち、3人は受容体チロシンキナーゼが関与するインフレーム融合(DCTN1-ALKRANBP2-ALK、およびTBL1XR1-ROS1)を有することが観察された。これらの患者は全員が7モノソミーを有し、生後56ヵ月以上であった。ALK融合が認められた1人の患者は、クリゾチニブ + 従来の化学療法で治療され、分子的完全寛解を達成し、同種骨髄移植に進んだ。[ 353 ]

個別のJMML症例における変異プロファイルを示す図。

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図3.個別のJMML症例における変異プロファイル。詳細な遺伝子解析を実施したJMML患者118人で、RAS経路およびPRC2ネットワークにおいて反復するヒットにより生じた生殖細胞変異および体細胞変異が示されている。芽球過剰は、診断時の骨髄内における有核細胞のうち芽球数が10%以上から20%未満として定義された。急性転化は、骨髄内における有核細胞のうち芽球数が20%以上として定義された。NS、ヌーナン症候群。Macmillan Publishers Ltdから許諾を得て転載:Nature Genetics (Caye A, Strullu M, Guidez F, et al.: Juvenile myelomonocytic leukemia displays mutations in components of the RAS pathway and the PRC2 network.Nat Genet 47 [11]: 1334-40, 2015), copyright (2015).

予後(ゲノムおよび分子的因子)

以下を含むいくつかのゲノム因子がJMML患者の予後に影響する:

  1. 非Ras経路の変異数。 JMMLの小児における予後の予測因子は、疾患を定義するRas経路の変異以外の変異数である。[ 351 ][ 352 ]
  2. RAS経路の二重変異。JMMLに関連する標準のRas経路の5つの遺伝子(NF1NRASKRASPTPN11、およびCBL)における変異は一般的に相互排他的であるが、症例の4~17%はこのようなRas経路の遺伝子の2つに変異を有しており[ 351 ][ 352 ]、これは予後不良と関連する所見である。[ 351 ][ 352 ]
  3. DNAメチル化プロファイル。
  4. LIN28Bの過剰発現。LIN28B過剰発現は、JMML患児の約半数に認められ、生物学的に特徴的なJMMLサブセットが同定される。LIN28Bは幹細胞の再生を調節するRNA結合蛋白の1つである。[ 356 ]

骨髄異形成症候群(MDS)

小児骨髄異形成症候群(MDS)は、成人に発生するMDSと比較して明確に異なった遺伝的変化の集合に関連している。成人におけるMDSは、しばしばクローン性造血から進展し、TET2DNMT3A、およびTP53における変異を特徴とする。対照的に、これらの遺伝子における変異は小児MDSではまれである一方、GATA2SAMD9/SAMD9LSETBP1ASXL1、およびRas/MAPK経路の遺伝子における変異が小児MDS症例のサブセットで観察されている。[ 357 ][ 358 ]

小児MDSのゲノムの全体像に関する報告で、小児原発性MDS患者32人に対する全エクソーム配列決定法および別の14症例の標的シークエンシングの結果が記述された。[ 357 ]これら46症例が小児不応性血球減少および過剰芽球を伴うMDS(MDS-EB)に等しく分類された。報告の結果は以下の通りである:

2つ目の報告では、MDSの小児患者50人(小児不応性血球減少 = 31およびMDS-EB = 19)への105遺伝子の標的シークエンシングパネルの適用について記述され、7モノソミーの症例(48%)について強化された。[ 357 ][ 358 ]この遺伝子パネルにはSAMD9およびSAMD9Lは含まれなかった。2つ目の報告で以下の結果が記述された:

GATA2の生殖細胞変異を有する患者は、MDSに加えて広範な造血および免疫の欠陥のほか、非造血関係の症状を示す。[ 359 ]前者の欠陥には非定型マイコバクテリア感染症への易感染性を伴う単球減少症およびDCML欠損症(樹状細胞、単球、およびB細胞とナチュラルキラーリンパ球の欠失)が挙げられる。結果として生じる免疫不全により、疣贅、重症ウイルス感染症、マイコバクテリア感染症、真菌感染症、およびヒトパピローマウイルス関連がんへの感受性が増加する。非造血関係の症状には、難聴およびリンパ浮腫がある。GATA2の生殖細胞変異が、European Working Group of MDS in Childhood(EWOG-MDS)の連続した研究に登録された原発性MDSの小児患者426人および二次性MDS症例82例において研究された。[ 360 ]研究で以下の結果が得られた:

SAMD9およびSAMD9L生殖細胞変異はどちらも小児MDS症例に関連し、これらの症例ではさらに7番染色体の全部または一部が欠失している。[ 362 ]2016年に、SAMD9はMIRAGE症候群(骨髄異形成、易感染性、発育障害、副腎低形成症、生殖器症状、および腸疾患)の原因として同定されており、この症候群は7モノソミーを伴う早期発症型MDSに関連している。[ 363 ]その後、SAMD9Lにおける変異は小脳失調-汎血球減少症候群(ataxia pancytopenia syndrome:ATXPC;OMIM 159550)の患者において同定された。SAMD9およびSAMD9L変異は、7モノソミーを伴う骨髄異形成および白血病症候群(MLSM7;OMIM 252270)の原因としても同定され[ 364 ]、この症候群は、小児期に7モノソミーを伴うMDSまたはAMLを発症した表現型が正常な同胞において最初に同定された。[ 365 ]

参考文献
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非ホジキンリンパ腫

成熟B細胞リンパ腫

成熟B細胞リンパ腫には、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、および原発性縦隔B細胞リンパ腫がある。

バーキットリンパ腫/白血病

バーキットリンパ腫/白血病のゲノミクス

この悪性細胞は、成熟B細胞の表現型を示し、酵素末端デオキシヌクレオチド転移酵素陰性である。これらの悪性細胞は、一般に表面免疫グロブリンを発現し、ほとんどがカッパ型またはラムダ型のいずれかの軽鎖を伴うクローン性のM型表面免疫グロブリンを有している。他にさまざまなB細胞マーカー(例、CD19、CD20、CD22)を通常発現しており、ほとんどの小児バーキットリンパ腫/白血病でCD10が発現している。[ 1 ]

バーキットリンパ腫/白血病は、一般にt(8;14)および比較的まれにt(8;22)またはt(2;8)といった特徴的な染色体転座を発現している。これらの各転座では、MYCがん遺伝子と免疫グロブリン(IG)遺伝子座の調節因子が並置することになるため、細胞増殖に関与する遺伝子であるMYCが異常に発現することになる。[ 2 ][ 3 ][ 4 ]t(2;8)またはt(8;22)のいずれかの多様体転座が存在しても、奏効または転帰に影響しないと考えられる。[ 5 ]

IGH転座切断点のマッピングにより、散発性バーキットリンパ腫におけるIG-MYC転座は最も一般的には異常なクラススイッチ組換えおよびこれより少ないが体細胞過剰変異を介して発生することが示された;異常な可変、多様性、連結(VDJ)遺伝子セグメントの組換えに起因する転座はまれである。[ 6 ]これらの所見は、バーキットリンパ腫の胚中心由来と一致している。

MYC転座は、すべてのバーキットリンパ腫にみられるが、リンパ腫発生には、協同するゲノム変化が必要と考えられる。小児および成人症例のバーキットリンパ腫で特定されている、より一般的に観察される頻発性変異の一覧を以下に示す。小児バーキットリンパ腫で、これらの変異の臨床的意義はまだ解明されていない。

地域性のバーキットリンパ腫のゲノムの全体像と散発性のバーキットリンパ腫のゲノム学を比較した1件の研究により、地域性症例では高いエプスタイン-バーウイルス(EBV)陽性率が予想され、散発性症例ではその割合ははるかに低いことが明らかにされた。地域性症例と散発性症例の変異パターンおよびEBV陽性症例およびEBV陰性症例の変異パターンは全般的に類似していた;ただし、EBV陽性症例ではSMARCA4、アポトーシス、CCND3、およびTP53を含む選択された遺伝子/経路の変異率が有意に低かった。[ 11 ]

バーキットおよびバーキット様リンパ腫/白血病の区別については意見が分かれている。バーキットリンパ腫/白血病は、核に切れ込みのない小型で均一な細胞で構成されるが、バーキット様リンパ腫/白血病の診断は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と一致した特徴を示すため、病理医間で大きな意見の相違がある。[ 13 ]

バーキットリンパ腫/白血病の診断では、MYC再構成の細胞遺伝学的証拠がゴールドスタンダードである。細胞遺伝学的分析が利用できない場合、世界保健機関(WHO)では、バーキットリンパ腫/白血病に酷似しているリンパ腫、またはより多形性で大細胞を認め、増殖率(すなわち、MIB-1またはKi-67免疫染色)が99%以上のリンパ腫に対してのみバーキット様リンパ腫/白血病の診断を下すように推奨している。[ 1 ]免疫組織化学検査によるBCL2染色の結果はさまざまである。BCL2遺伝子が関与する転座が認められないからといって、バーキットリンパ腫/白血病の診断が除外されるわけではなく、そのような転座がないことに臨床的意義はない。[ 14 ]

11qの異常を伴うバーキット様リンパ腫は、2017年の造血器およびリンパ組織腫瘍に関する改訂WHO分類において、暫定的疾患単位として追加された。[ 13 ]この疾患単位では、MYC再構成は認められず、特徴的な染色体11qの所見(細胞遺伝学的および/またはコピー数DNAアレイにより検出される)は11q23.2-q23.3増加/増幅および11q24.1-長腕端部(qter)の消失である。[ 15 ][ 16 ]ほとんどの患者は青年および若年成人年齢層で、限局性リンパ節病変を発症し、確認された少数の症例における転帰は良好なようである。症例は非常に高い増殖指数を示し、局所性の星空パターンを示すこともある。11qの異常を伴うバーキット様リンパ腫の変異の全体像はバーキットリンパ腫とは異なる;バーキットリンパ腫に一般的に観察される変異(例、ID3TCF3、およびCCND3)は11qの異常を伴うバーキット様リンパ腫ではまれである。[ 15 ]これとは逆に、GNA13における変異は11qの異常を伴うバーキット様リンパ腫患者ではよくみられるようであり(最大50%)、バーキットリンパ腫患者ではまれである。

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

世界保健機関(WHO)分類システムでは、分子的特徴に基づき、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を胚中心B細胞型および活性化B細胞型に分類し、残りの亜型をびまん性B細胞リンパ腫に分類している。[ 17 ]

小児および青年におけるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫は、生物学的に以下の点で成人におけるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫と異なる:

IRF4再構成を伴う大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL-IRF4)は、2017年改訂版のリンパ腫のWHO分類で暫定の疾患単位として追加された。[ 25 ]

高悪性度B細胞リンパ腫、NOSは、MYC + BCL2および/またはBCL6再構成がみられず、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、NOSまたはバーキットリンパ腫の基準を満たさない臨床的にアグレッシブなB細胞リンパ腫として定義される。[ 29 ]

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

原発性縦隔B細胞リンパ腫

原発性縦隔B細胞リンパ腫は、以前にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の亜型とみなされていたが、現在、最新の世界保健機関(WHO)分類では異なった疾患である。[ 30 ]これらの腫瘍は縦隔の胸腺B細胞から発生し、硬化を伴うびまん性大細胞の増殖を示し、それにより腫瘍細胞が区別される。

原発性縦隔B細胞リンパ腫は、以下の病型のリンパ腫と形態学的に鑑別することが非常に困難なことがある:

原発性縦隔B細胞リンパ腫は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と比較して明確に異なった遺伝子発現プロファイルを示す;しかしながら、その遺伝子発現プロファイルの特徴は、ホジキンリンパ腫でみられるものとほぼ同じである。[ 31 ][ 32 ]原発性縦隔B細胞リンパ腫は、他のNHL亜型と比較して明確に異なった一連の染色体異常とも関係している。原発性縦隔B細胞リンパ腫は主に青年および若年成人のがんであるため、年齢にかかわらずゲノム所見を呈する。

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

リンパ芽球性リンパ腫

リンパ芽球性リンパ腫は、通常、酵素末端デオキシヌクレオチド転移酵素陽性で、T細胞の免疫表現型が75%を超えており、残りは前駆B細胞の表現型である。[ 2 ][ 42 ]

小児急性リンパ芽球性白血病とは対照的に、小児リンパ芽球性リンパ腫の染色体異常および分子生物学的特徴は、ほとんど明らかになっていない。ベルリン-フランクフルト-ミュンスターグループの報告によると、染色体6qのヘテロ接合性の消失が患者の12%に観察され、NOTCH1変異が患者の60%にみられたが、6qのヘテロ接合性の消失を認める患者で、NOTCH1変異がみられることはまれである。[ 43 ][ 44 ]

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

未分化大細胞型リンパ腫

未分化大細胞型リンパ腫の主な免疫表現型は、成熟T細胞型であるが、ヌル細胞型(すなわち、T細胞、B細胞、またはナチュラルキラー細胞の表面抗原を発現していない細胞)もみられる。世界保健機関(WHO)分類システムでは、未分化大細胞型リンパ腫を末梢性T細胞リンパ腫として分類している。[ 45 ]

未分化大細胞型リンパ腫のすべての症例がCD30陽性である。小児未分化大細胞型リンパ腫の90%を超える症例でALK遺伝子を巻き込んだ染色体再構成がみられる。これらの染色体再構成の約85%が染色体転座t(2;5)(p23;q35)であり、これにより融合蛋白NPM-ALKが発現する;残りの15%の症例は、多様体のALK転座で構成されている。[ 46 ]抗ALK免疫組織化学的染色パターンは、ALK転座型に完全に特異的である。ALKの細胞質および核の染色は、NPM-ALK融合蛋白と関連している一方で、ALKの細胞質のみの染色は、表4に示すように、多様体のALK転座と関連している。[ 47 ]

表4.多様体のALK転座とそれに伴うパートナー染色体の部位および頻度a
遺伝子融合 パートナー染色体の部位 遺伝子融合の頻度
a出典:suyama et al.[ 47 ]
NPM-ALK 5q36.1 ~80%
TPM3-ALK 1p23 ~15%
ALO17-ALK 17q25.3 まれ
ATIC-ALK 2q35 まれ
CLTC-ALK 17q23 まれ
MSN-ALK Xp11.1 まれ
MYH9-ALK 22q13.1 まれ
TFG-ALK 3q12.2 まれ
TPM4-ALK 19p13 まれ
TRAF1-ALK 9q33.2 まれ

成人において、ALK陽性の未分化大細胞型リンパ腫は、予後が良好な傾向を示すことから、他の末梢性T細胞リンパ腫と異なるとみなされている。[ 48 ]また、成人のALK陰性の未分化大細胞型リンパ腫患者は、ALK陽性の患者と比較して転帰が不良である。[ 49 ]しかしながら、小児では、このALK陽性とALK陰性の転帰における差が明らかになっていない。さらに、転帰との間に相関が認められた特定のALK転座型は確認されていない。[ 50 ][ 51 ][ 52 ]

全身性ALK陽性未分化大細胞型リンパ腫の小児および青年の375人を対象とした欧州のシリーズでは、小細胞またはリンパ組織球成分の存在が患者の32%に認められ、多変量解析で臨床的特徴について調整した場合、その存在は高い失敗リスクと有意に関係していた(ハザード比、2.0;P = 0.002)。[ 51 ]化学療法骨格に違いはあるが、未分化大細胞型リンパ腫の小細胞多様体の予後的意義についてもCOG-ANHL0131(NCT00059839)研究で示された。[ 52 ]

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

小児型濾胞性リンパ腫

小児型濾胞性リンパ腫は、成人でより一般的に観察される濾胞性リンパ腫と分子的に明確に異なるとみられる。小児型では、BCL2再構成がみられない;BCL6およびMYC再構成も存在しない。TNFSFR14変異は、小児型濾胞性リンパ腫で一般的であり、成人の濾胞性リンパ腫と同程度の頻度で発生するとみられる。[ 53 ][ 54 ]しかしながら、成人でまれなMAP2K1変異が小児型濾胞性リンパ腫の43%と、多くに観察される。MAP2K1変異がみられない症例で、他の遺伝子(例:MAPK1およびRRAS)が変異していることが明らかにされていることから、MAPキナーゼ経路は、小児型濾胞性リンパ腫の発生機序に重要なことが示唆される。[ 55 ][ 56 ]小児型濾胞性リンパ腫では、免疫グロブリン遺伝子座とIRF4の転座、IRF8の変異、染色体1pの異常もまた観察されている。[ 27 ][ 53 ][ 57 ]

(小児非ホジキンリンパ腫の治療に関する情報については、小児非ホジキンリンパ腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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中枢神経系腫瘍

中枢神経系(CNS)腫瘍には、毛様細胞性星細胞腫をはじめとする星細胞腫、びまん性星細胞腫、脳幹グリオーマ、CNS非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍、髄芽腫、髄芽腫以外の胚芽腫、および上衣腫がある。

中枢神経系腫瘍に関する2016年の世界保健機関(WHO)分類の用語体系が以下に用いられている。2016 WHO CNS分類では、組織像に加えてゲノムの特徴が組み込まれており、以前の2007 WHO分類から複数の変更が含まれている。[ 1 ]小児脳腫瘍に特に関連があるのは、新たな疾患実体のびまん性正中グリオーマ、H3 K27M変異型であり、これにはH3 K27M変異を伴うびまん性内在性橋グリオーマ(DIPG)およびH3 K27M変異を伴う他の高悪性度正中グリオーマが含まれる。後述の分子的に定義された疾患実体の他の例は、上衣腫 RELA融合があるもの、WNT活性化およびSHH活性化髄芽腫、および多層性ロゼットを有する胎児性腫瘍 C19MC変異型である。

毛様細胞性星細胞腫をはじめとする星細胞腫

低悪性度グリオーマの分子的特徴

低悪性度グリオーマの一種である毛様細胞性星細胞腫の小児症例では、BRAFおよびERK/MAPK経路の活性化に関与するゲノム変化が非常に多くみられる。

毛様細胞性星細胞腫におけるBRAF活性化は、BRAF-KIAA1549遺伝子融合を介して最も多くみられ、これによりBRAFの調節領域を欠く融合蛋白が産生される。[ 2 ][ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ]この遺伝子融合は、テント下および正中線上の毛様細胞性星細胞腫のほとんどでみられるが、テント上(大脳半球)腫瘍で認められる頻度は低い。[ 2 ][ 3 ][ 7 ][ 8 ][ 9 ][ 10 ][ 11 ][ 12 ]毛様細胞性星細胞腫では、ERK/MAPK経路を活性化する可能性もある他のゲノム変化(例、代替BRAF遺伝子融合、RAF1遺伝子再構成、RAS変異、およびBRAF V600Eの点変異)がまれに観察される。[ 3 ][ 5 ][ 6 ][ 13 ]

低悪性度グリオーマを不完全切除した小児について著した1件の報告では、BRAF-KIAA1549融合の存在により、良好な臨床転帰(無増悪生存[PFS]および全生存[OS])が予測された。[ 11 ]しかしながら、CDKN2Aの欠失、7番染色体全体の増加、および腫瘍の位置などの他の因子によって、転帰に対するBRAF変異の影響が変わる可能性がある。[ 14 ][ 15 ][証拠レベル:3iiiDiii]BRAF-KIAA1549融合が認められる小児低悪性度グリオーマが高悪性度グリオーマに進行することはまれである。[ 16 ]

BRAF-KIAA1549融合によるBRAFの活性化は、他の小児低悪性度グリオーマ(例、毛様類粘液性星細胞腫)でも報告されている。[ 10 ][ 11 ]

BRAF V600Eの点変異はときに毛様細胞性星細胞腫で観察される;この変異はまた、神経節膠腫[ 17 ]、線維形成性乳児神経節膠腫、約3分の2の多形黄色星細胞腫などの非毛様細胞性の小児低悪性度グリオーマでも観察されている。[ 18 ][ 19 ][ 20 ]諸研究により、以下が観察されている:

神経線維腫症1型(NF1)のERK/MAPK経路活性化不足と同様に、NF1を伴う毛様細胞性星細胞腫でBRAFのゲノム変化の活性化はまれである。[ 9 ]

小脳以外の毛様細胞性星細胞腫では、FGFR1PTPN11、およびNTRK2融合遺伝子における活性化変異も特定されている。[ 23 ]小児の悪性度IIのびまん性星細胞腫で最も多く報告されている変化(腫瘍の最大53%)は、転写因子のMYBファミリーにおける再構成である。[ 24 ][ 25 ]

結節性硬化症患児の大半では、2つの結節性硬化症遺伝子(TSC1/ハマルチンまたはTSC2/ツベリン)のどちらかに生殖細胞変異が認められる。これらの変異は、いずれも哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mTOR)複合体1の活性化を引き起こす。これらの小児では、上衣下巨細胞星細胞腫、皮質結節、および上衣下結節が発現するリスクがある。上衣下巨細胞星細胞腫はmTOR活性化により推進されるため、mTOR阻害剤はこれらの腫瘍を有する小児における腫瘍退縮を誘発できる活性のある薬物である。[ 26 ]

血管中心性膠腫:血管中心性膠腫は一般的に、痙攣発作を呈する大脳腫瘍として小児および若年成人に発症する。[ 1 ]2016年の2件の報告で、血管中心性膠腫と診断されたほぼすべての症例にMYB遺伝子の変化が認められることが確認され、融合パートナーの検査が可能であった症例においてQKIが主要な融合パートナーであった。[ 27 ][ 28 ]血管中心性膠腫は最も一般的にはテント上に発生するが、MYB-QKI融合を伴う脳幹の血管中心性膠腫も報告されている。[ 29 ][ 30 ]

星芽腫:星芽腫は、組織学的にはGFAP陽性細胞で構成される膠細胞性新生物と定義され、しばしば硬化症を示す星状芽細胞性偽ロゼットを含む。星芽腫は主として、小児期から若年成人期に診断される。[ 1 ]複数の報告で、星芽腫に関連するゲノム変化が記述されている。

これらの報告から、星芽腫の組織学的診断にはゲノム的に定義される不均一な疾患実体グループが含まれることが示唆されている;MN1融合を伴う星芽腫は組織学的に診断された症例の異なるサブセットである。[ 35 ]

(低悪性度小児星細胞腫の治療に関する情報については、小児星細胞腫の治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

びまん性星細胞腫

このカテゴリーには、数ある診断の中でも特に、びまん性星細胞腫(悪性度II)および小児高悪性度グリオーマ(退形成性星細胞腫[悪性度III]、膠芽腫[悪性度IV]、およびびまん性正中グリオーマ、H3 K27M変異型[悪性度IV])が含まれる。

びまん性星細胞腫

小児のびまん性星細胞腫(悪性度II)については、転写因子のMYBファミリー(MYBMYBL1)における再構成が最も一般的に報告されているゲノム変化である。[ 24 ][ 25 ][ 28 ]この他の観察されている変化としては、FGFR1変化(主にチロシンキナーゼ領域に関与する重複)[ 25 ][ 28 ]BRAF変化、NF1変異、およびRASファミリーの変異が挙げられる。[ 24 ][ 25 ]成人のびまん性星細胞腫で最も一般的なゲノム変化であるIDH1変異は、びまん性星細胞腫の小児でまれであり、認められる場合は、ほぼ例外なく年齢の高い青年に観察される。[ 24 ][ 36 ]

退形成性星細胞腫および膠芽腫

高悪性度グリオーマの分子的特徴

小児の高悪性度グリオーマで、特に多形性膠芽腫は、生物学的に成人に発生する腫瘍と異なっている。[ 36 ][ 37 ][ 38 ][ 39 ]

小児の高悪性度グリオーマは、エピジェネティックパターン(DNAメチル化)に基づいて異なったサブグループに分類可能で、これらのサブグループは腫瘍における独特な染色体コピー数増加/減少および遺伝子変異を示す。[ 40 ][ 41 ][ 42 ]小児の高悪性度グリオーマの中でもとりわけ独特な亜型は、ヒストン遺伝子の特定のアミノ酸において頻発性の変異がみられる亜型で、これらは併せて小児高悪性度グリオーマの約半数を占める。DNAメチル化パターンに基づいて以下に示す小児高悪性度グリオーマのサブグループが同定されており、これらは独特な分子的および臨床的特徴を示す:[ 42 ]

  1. H3.3(H3F3A)およびH3.1(HIST1H3BおよびまれにHIST1H3C)のK27での変異:ヒストンK27変異症例は、主に小児期中期(年齢中央値が約10歳)に現れ、ほぼ例外なく正中線構造(視床、脳幹、および脊髄)にみられるもので、きわめて不良な予後をもたらす。2016 WHO分類では、これらのがんを単一の疾患実体であるびまん性中心性グリオーマ、H3 K27M変異型に分類しているが、後述のようにH3.3とH3.1変異を有する症例では臨床的および生物学的な相違がみられる。[ 1 ]これらの症例はK27Mの存在を同定するための免疫組織化学を用いて診断可能である。
  2. H3.3(H3F3A)のG34での変異:H3.3G34亜型は、少し年長の小児および若年成人(年齢中央値が14~18歳)にみられ、発生は大脳皮質に限局している。[ 40 ][ 41 ]H3.3G34症例は一般的にTP53およびATRXの変異を有し、全ゲノムにわたる広範な低メチル化を示す。H3F3A変異を有する患者は治療失敗のリスクが高い[ 45 ]が、予後はヒストン3.1または3.3 K27M変異を有する患者ほど不良ではない。[ 41 ]O6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)メチル化が約3分の2の症例で観察され、IDH1変異亜型(下記を参照のこと)を除いて、H3.3G34亜型は20%を超えるMGMTメチル化の割合を示す唯一の小児高悪性度グリオーマ亜型である。[ 42 ]
  3. IDH1変異:IDH1変異症例は小児高悪性度グリオーマのわずかな割合(約5%)を占めており、腫瘍にIDH1変異が認められる小児高悪性度グリオーマ患者は、ほとんど例外なく大脳半球腫瘍を有する年齢の高い青年(小児集団における年齢中央値、16歳)である。[ 42 ]IDH1変異症例はしばしば、TP53変異、MGMTプロモーターメチル化、およびグリオーマ-CpG island methylator phenotype(G-CIMP)を示す。[ 40 ][ 41 ]IDH1変異を認める小児患者は、他の小児多形性膠芽腫患者より良好な予後を示す;5年全生存(OS)率は、IDH1変異を認める小児患者で60%を超えていたのに対して、野生型IDH1の患者では5年OS率が20%未満であった。[ 42 ]
  4. 多形黄色星細胞腫(PXA)-like:小児高悪性度グリオーマの約10%に、PXA-likeのDNAメチル化パターンがみられる。[ 41 ]PXA-like症例は一般的にBRAF V600E変異を有し、転帰が比較的良好である(約50%の5年生存率)。[ 42 ][ 45 ]
  5. 低悪性度グリオーマ-like:高悪性度グリオーマの組織学的外観を有する小児脳腫瘍の小規模なサブセットは、低悪性度グリオーマに似たDNAメチル化パターンを示す。[ 41 ][ 42 ]これらの症例は主に年齢の低い患者(年齢中央値は4歳)で観察される;多形性膠芽腫を診断された乳児16人中10人が低悪性度グリオーマ-like集団に含まれていた。[ 42 ]これらの患者の予後は、他の小児高悪性度グリオーマの亜型よりもはるかに良好である。[ 45 ]乳児における多形性膠芽腫の追加の考察については、下記を参照のこと。

腫瘍にヒストン変異もIDH1変異も認められない小児多形性膠芽腫の高悪性度グリオーマ患者は、小児多形性膠芽腫症例の約40%を占める。[ 42 ][ 46 ]これは、他の小児高悪性度グリオーマ亜型よりも遺伝子増幅率が高い不均一な集団である。最も一般的に増幅が認められる遺伝子は、PDGFRAEGFRCCND/CDK、およびMYC/MYCNである[ 40 ][ 41 ];この集団ではMGMTプロモーターのメチル化の割合は低い。[ 46 ]1件の報告でこの集団が3つの亜型に分けられた。高いMYCN増幅率を特徴とする亜型が最も不良な予後を示した一方、TERTプロモーター変異およびEGFR増幅を特徴とする亜型は最も良好な予後を示した。3つ目のグループはPDGFRA増幅により特徴付けられた。[ 46 ]

多形性膠芽腫が診断された乳児および幼児は、より年齢の高い小児および成人の腫瘍と比較して腫瘍の分子的特徴が異なるようである。小児の多形性膠芽腫に対してDNAメチル化解析を実施したところ、腫瘍の分子的特徴が低悪性度グリオーマと一致した患者のグループ(多形性膠芽腫が組織学的に診断された小児患者の約7%を占めた)が確認された。この患者集団の年齢中央値は1歳で、乳児10人中8人が低悪性度グリオーマ-likeプロファイルを示した。[ 41 ]低悪性度グリオーマ-like亜型は予後良好であった(3年OS率、約90%)。[ 41 ][ 42 ]BRAF V600E変異は、低悪性度グリオーマ-like腫瘍13例中4例および3歳以下の患者の腫瘍15例中3例で観察された。[ 41 ]

2つ目の報告では、生後36ヵ月未満の小児からの多形性膠芽腫について遺伝子コピー数の増加と減少、および選択された遺伝子の変異状態が調査された。[ 47 ]年齢の高い小児では測定可能な割合で観察された分子的変化(例、K27M、CDKN2A喪失、PDGFRA増幅、およびTERTプロモーター変異)は、これらの幼児の腫瘍ではまれであり、新たな異常(例、染色体14q32におけるSNORDの喪失)が一部の症例で観察された。

ゲノム特性化のために腫瘍組織が利用可能であった乳児118人を対象にした研究において、乳児(生後12ヵ月未満)に発生するグリオーマの特有な分子的特徴がさらに明らかにされた。[ 48 ]症例の約75%が低悪性度に分類されたが、低悪性度コホートに対するOS率が比較的低く(71%)、高悪性度コホートに対する生存が比較的良好である(55%)ため、この年齢集団における組織学的分類の有用性は低いことが示された。ゲノム特性化により、グリオーマの乳児集団は以下の3つのグループに分類された:

小児続発性高悪性度グリオーマ(低悪性度グリオーマが先行する高悪性度グリオーマ)はまれである(886人を対象にした研究で2.9%)。BRAF-KIAA1549融合が認められる小児低悪性度グリオーマが高悪性度グリオーマに形質転換した例はないが、BRAF V600E変異が認められる低悪性度グリオーマは形質転換するリスクが高い。続発性高悪性度グリオーマ患者の18人中7人(約40%)にBRAF V600E変異が認められ、症例14人中8人(57%)にCDKN2Aの変化が認められた。[ 16 ]

神経線維腫症1型(NF1)の小児において高悪性度グリオーマが発生することがあるが、低悪性度グリオーマの方がはるかに一般的である。高悪性度腫瘍が発生する場合は、成人期に発生することが最も多い。NF1関連高悪性度グリオーマを有する患者23人(年齢中央値、38.8歳)のゲノム特性化によって、低悪性度グリオーマを有するNF1患者と比較して変異の割合が高かったことが示された(それぞれ、21.5の変異 vs 6の変異)。[ 49 ]大多数の患者が、ヘテロ接合性の消失またはNF1の2つ目のアレルにおける不活性化変異を伴うNF1の生殖細胞変異を示した。NF1関連低悪性度グリオーマとは対照的に、高悪性度グリオーマに関連するゲノム変化が一般的であった(CDKN2A[58%]、ATRX[38%]、およびTP53[29%])。

(高悪性度小児星細胞腫の治療に関する情報については、小児星細胞腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

神経細胞腫瘍および混合神経細胞・膠細胞腫瘍

神経細胞腫瘍および混合神経細胞・膠細胞腫瘍の分子的特徴

神経細胞腫瘍および混合神経細胞・膠細胞腫瘍は、悪性度IIIの退形成性神経節膠腫を除いて、一般的に低悪性度腫瘍である。2016年の世界保健機関(WHO)分類で認識されている組織型には以下のものがある:[ 1 ]

神経節膠腫:神経節膠腫は小児期から成人期に発症する。神経節膠腫は最も一般的には痙攣発作を伴って大脳皮質に発生するが、脊髄など、他の部位にも発生する。[ 50 ][ 51 ]神経節膠腫の分子的発生機序に対する統一的なテーマは、MAPK経路の活性化につながるゲノム変化である。[ 28 ][ 52 ]BRAFの変化は神経節膠腫症例の約50%で観察され、V600Eは飛び抜けて多くみられる変化となっている;しかしながら、他のBRAF変異および遺伝子融合も観察されている。神経節膠腫における他のあまり一般的ではない変異遺伝子には、KRASFGFR1/2RAF1NTRK2、およびNF1がある。[ 28 ][ 52 ]

胚芽異形成性神経上皮腫瘍(DNET):DNETは小児および成人に発症し、診断時年齢中央値は青年期中期から後期である。病理組織学的には、柱状の乏突起膠腫様細胞および粘液中に遊離した皮質神経節細胞の存在を特徴とする。[ 53 ]側頭葉は最も一般的な部位であり、薬剤抵抗性てんかんに関連する。[ 51 ][ 54 ]DNETの60~80%にFGFR1の変化が報告されており、FGFR1活性化点変異、キナーゼドメインの遺伝子内縦列重複、および活性化遺伝子融合が含まれる。[ 28 ][ 55 ][ 56 ]DNETでは、BRAF変異はまれである。

透明中隔のDNET:中隔DNETは一般に、閉塞性水頭症に関係した症状を呈する。[ 57 ][ 58 ]中隔DNETは緩徐な臨床像を有し、ほとんどの腫瘍が手術以外の治療を必要としない。他の文献で報告された症例を組み込んだ単一施設のシリーズにおいて、発症時年齢中央値は青年の年齢層であった。[ 59 ]

低悪性度グリオーマ(例、BRAF V600E)および皮質DNET(FGFR1変異)に一般的な変異は、中隔DNETではまれである。[ 58 ][ 59 ][ 60 ]その代わり、K385残基のPDGFRAにおける変異は、中隔DNETのほとんどの症例で典型的に認められる。18例の中隔DNETの分子生物学的検討に関する報告から、14例がPDGFRA変異を有し、1例を除く全例がK385残基における変異であり[ 59 ]、PDGFの結合と同時に二量体形成および活性化に必要となる受容体-受容体相互作用を媒介するPDGFRAの細胞外領域にこの変異が認められることが示された。残りの4例のうち、3例は皮質DNETで観察されたものと一致するFGFR1変異を有した。2つ目の報告では、中隔DNETの4症例それぞれのK385においてPDGFRA変異が観察された[ 60 ];総合すると、2件の報告から、中隔DNETは、ありふれた解剖学的部位および、ほとんどの症例においてPDGFRA変異を特徴とする異なる疾患実体であることが示されている。K385のPDGFRA変異を有する低悪性度グリア神経細胞性腫瘍もまた、脳梁および側脳室の脳室周囲白質における発生が確認されたことから、粘液型グリア神経細胞性腫瘍、PDGFRA p.K385変異型を中枢神経系(CNS)腫瘍の異なる疾患実体として考慮すべきであると提案されている。[ 61 ]

線維形成性乳児星細胞腫(DIA)および線維形成性乳児神経節膠腫(DIG):DIAおよびDIGは生後1年の間に最もしばしば発症し、コントラスト増強性の充実性結節が大きな嚢胞性成分に伴って認められる特徴的な画像所見を示す。[ 62 ][ 63 ]DIGはDIAよりも一般的であり[ 62 ]、メチル化アレイ解析では、両方が同時に診断される場合がある。[ 64 ]一般に外科的切除で良好な生存転帰が得られる。[ 62 ]

DIAおよびDIGにおいて最も一般的に観察されるゲノム変化はV600が関与するBRAF変異である;キナーゼ遺伝子が関与する遺伝子融合が観察される頻度はあまり高くない。

ロゼット形成性グリア神経細胞性腫瘍(RGNT):RGNTは青年および成人で発症し、腫瘍は一般的にテント下に位置するが、中脳または間脳領域に発生することもある。[ 67 ]典型的な組織学的外観は、ロゼットまたは血管周囲偽ロゼットで配列されたグリア細胞成分および神経細胞成分の両方を示す。[ 1 ]RGNT患者の転帰は一般的に良好で、WHO悪性度Iの指定と一致する。[ 67 ]DNAメチル化プロファイル解析により、RGNTは他の低悪性度グリア細胞/グリア神経細胞性腫瘍の疾患実体とは区別される別個のエピジェネティックなプロファイルを有することが示されている。[ 67 ]RGNT症例30例の研究で、解析されたすべての腫瘍でFGFR1のホットスポット変異が観察された。[ 67 ]さらに、30例中19例(63%)ではPIK3CA活性化変異が同時に観察された。30例中10例(33%)ではNF1におけるミスセンス変異または機能障害性変異(damaging mutation)が同定され、7例の腫瘍にFGFR1PIK3CA、およびNF1における変異が認められた。MAPK経路とPI3K経路の両方を活性化する変異の同時発生は、星細胞腫およびグリア神経細胞性腫瘍において特有なRGNTの変異プロファイルとなっている。

びまん性軟髄膜グリア神経細胞性腫瘍(DLGNT):DLGNTは、放射線学的には磁気共鳴画像法(MRI)での軟髄膜増強(後頭蓋窩、脳幹領域、および脊髄に病変がみられうる)を特徴としているまれなCNS腫瘍である。[ 68 ]実質内病変は、認められる場合には一般的に脊髄にみられる[ 68 ];軟髄膜播種が認められず、組織形態学(histomorphologic)、免疫表現型、およびゲノムの特徴がDLGNTに類似した限局性の脊髄内グリア神経細胞性腫瘍が報告されている。[ 69 ]DLGNTは、DNAメチル化アレイ解析で特有のエピジェネティックなプロファイルを示し、30例に適用されたアレイデータの教師なしクラスタリングにより、DLGNTの次の2つのサブクラスが明らかにされた:メチル化クラス(MC)-1(n = 17)およびMC-2(n = 13)。[ 68 ]注目すべきこととして、アレイ解析で明らかにされた症例の多くが当初は別の疾患実体(例、原始神経外胚葉性腫瘍、毛様細胞性星細胞腫、および退形成性星細胞腫)として診断されていた。DLGNT-MC-1を有する患者は、DLGNT-MC-2を有する患者よりも若年で診断された(それぞれ、5歳 vs 14歳)。5年全生存率は、DLGNT-MC-1を有する患者の方がDLGNT-MC-2を有する患者よりも高かった(それぞれ、100% vs 43%)。メチル化アレイ解析で明らかにされたDLGNT症例30例のゲノム所見を以下に示す:

脳室外神経細胞腫:脳室外神経細胞腫は組織学的に中心性神経細胞腫に類似しており、神経細胞分化を示す均一な小型細胞で構成されるが、脳室系に関連してというよりもむしろ脳実質に発生する。[ 1 ]脳室外神経細胞腫は小児期から成人期に発症する。組織学的に脳室外神経細胞腫に分類され、メチル化アレイ解析に提出された40例の腫瘍に関する研究では、他の組織型の参照用腫瘍と異なる別個のクラスターを形成したのは26例のみであった。[ 71 ]メチル化アレイ解析で脳室外神経細胞腫と分類され、ゲノム特性化を実施できた症例について、15例中11例(73%)がFGFRファミリーメンバーに影響を及ぼす再構成を示し、FGFR1-TACC1が最も一般的な変化であった。[ 71 ]

乳頭状グリア神経細胞性腫瘍:乳頭状グリア神経細胞性腫瘍は、主にテント上部に発生し、星細胞腫と神経細胞腫分化を示す低悪性度の二相性新生物である。[ 1 ]発症時年齢中央値は20代前半であるが、小児期から成人期に観察される。乳頭状グリア神経細胞性腫瘍に関連する主要なゲノム変化はSLC44A1-PRKCAの遺伝子融合で、t(9:17)(q31;q24)転座に関連している。[ 72 ][ 73 ]メチル化アレイ解析を用いて乳頭状グリア神経細胞性腫瘍と組織学的に診断された28症例を対象にした1件の研究において、11症例が特有のメチル化クラスに集中した一方、残りの症例は他の腫瘍の疾患実体に典型的なメチル化プロファイルを示した。特有のメチル化クラスターにおける症例の分子解析では、NOTCH1-PRKCA遺伝子融合を有した単一症例を除く全例がSLC44A1-PRKCA遺伝子融合を有したことが示された。[ 74 ]このことから、PRKCA融合の存在を確認するための分子的検査法は、乳頭状グリア神経細胞性腫瘍の診断において、形態学に基づく検査法よりも誤分類の可能性が低いことが示唆されている。

びまん性正中グリオーマ、H3 K27M変異型(びまん性内在性橋グリオーマ[DIPG]を含む)

びまん性正中グリオーマ、H3 K27M変異型のカテゴリーには、以前にDIPGとして分類されていた腫瘍も含まれる;データのほとんどがDIPGでの経験から得られている。このカテゴリーには、視床などの正中線構造に発生するH3 K27M変異を有するグリオーマも含まれる。

DIPGのゲノミクス

DIPGゲノムの特徴は、他の多くの小児高悪性度大脳グリオーマおよび成人高悪性度グリオーマと異なると考えられる。[ 75 ]DIPGの分子的および臨床的特徴は、ヒストンH3.3(H3F3A)またはH3.1(HIST1H3BおよびHIST1H3C)に特有なH3 K27M変異を伴う他の高悪性度正中グリオーマのものと一致しており、世界保健機関は、これらの腫瘍を、びまん性正中グリオーマ、H3 K27M変異型と呼ばれる単一の疾患群にまとめて分類するに至った。[ 1 ]

視床腫瘍を有する小児64人に関する1件の報告で、高悪性度グリオーマの50%(22例中11例)でH3 K27M変異がみられ、低悪性度の形態的特徴を示す腫瘍の約10%(42例中5例)でH3 K27M変異がみられた。5年全生存(OS)率はわずか6%(16人中1人)であった。[ 76 ]膠芽腫の患児202人を含む別の研究で、68腫瘍が正中線(主に視床)で、H3 K27M変異がみられた。この集団の5年OS率はわずか5%で、これはこの研究の残りの患者の生存率よりも有意に劣っていた。[ 41 ]

DIPGでは、以下を含めて、いくつかの染色体およびゲノム異常が報告されている:

DIPGの遺伝子発現プロファイルは、非脳幹性の小児高悪性度グリオーマと異なっていることから、この小児グリオーマのサブセットは生物学的に異なっていることがさらに裏付けられる。[ 84 ]小児におけるH3 K27M変異腫瘍はまれにO6-メチルグアニン-DNA-メチルトランスフェラーゼ(MGMT)プロモーターメチル化を示し[ 41 ]、このことはDIPGの患者においてテモゾロミドが検証された場合に、その効力の不足を説明している。[ 86 ]

(低悪性度グリオーマの遺伝学に関する詳しい情報については、小児星細胞腫の治療に関するPDQ要約のゲノム変化のセクションを参照のこと。)

(小児脳幹グリオーマの治療に関する情報については、小児脳幹グリオーマの治療のPDQ要約を参照のこと。)

中枢神経系(CNS)非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍(AT/RT)

SMARCB1遺伝子

AT/RTは、腫瘍抑制遺伝子候補のSMARCB1INI1およびhSNF5として既に知られている)が同定された初めての原発性小児脳腫瘍である。[ 87 ]SMARCB1は、CNS、腎、および腎外のラブドイド悪性腫瘍を含むほとんどのラブドイド腫瘍でゲノムが変化している。[ 87 ]SMARCB1/SMARCA4染色なしは、AT/RTの決定的マーカーである。SMARCB1関連AT/RTの患者で、他の遺伝子における追加のゲノム変化(変異および増加/喪失)はきわめてまれである。頻度は少ないが、SMARCA4陰性(SMARCB1を保持)腫瘍が報告されている。[ 88 ]AT/RTで、他の遺伝子に頻発性の変異はみられない。[ 89 ][ 90 ][ 91 ]

SMARCB1は、Switch(SWI)型およびSucrose non-fermenting(SNF)型のアデノシン三リン酸依存性クロマチン再構築因子複合体の成分である。[ 92 ]SMARCB1を発現しているが、SMARCB1変異を認めない、まれなラブドイド腫瘍の家族性症例では、SWI/SNFクロマチン再構築因子複合体の別のメンバーであるSMARCA4/BRG1の生殖細胞変異との関連も認められている。[ 93 ][ 94 ]

2016年WHO分類では、SMARCB1またはSMARCA4のいずれかの変化の存在によりAT/RTが定義される。AT/RTの組織学的特徴を示し、これらのゲノム変化がみられない腫瘍は、ラブドイドの特徴を示すCNS胚芽腫と呼ばれる。[ 1 ]

SMARCB1(およびはるかにまれであるが他のSWI/SNF複合体メンバー)以外に頻発性のゲノム変化が認められないにもかかわらず、生物学的に異なるAT/RTのサブセットが特定されている。[ 95 ][ 96 ]150のAT/RT腫瘍のDNAメチル化アレイおよび67のAT/RT腫瘍の遺伝子発現アレイを用いて、以下の3つの異なるAT/RTのサブセットが特定された。[ 96 ]

体細胞変異に加え、SMARCB1の生殖細胞変異がAT/RT患者の相当数のサブセットで報告されている。[ 87 ][ 98 ]ラブドイド腫瘍の小児65人を対象とした研究では、23人(35%)に生殖細胞変異および/またはSMARCB1欠失が認められたことが明らかにされた。[ 99 ]SMARCB1に生殖細胞変異を認める小児は、散発例より若い年齢で発症し(中央値で生後約5ヵ月 vs 18ヵ月)、同時性の多病巣性腫瘍を呈する可能性が高かった。[ 99 ]生殖細胞変異を示す評価可能症例22人中7人は、片親がSMARCB1生殖細胞系異常のキャリアであり、そのキャリアの親のうち4人は、SMARCB1関連がんに罹患していなかったことが明らかにされた。[ 99 ]これは、AT/RTが不完全浸透の常染色体優性遺伝パターンを示すことを意味している。

性腺モザイク現象も観察されており、これは複数の同胞がAT/RTに罹患しており、同一のSMARCB1変異が認められるが、両親ともSMARCB1の変異/欠失が認められない家系があることから明らかである。[ 99 ][ 100 ]AT/RTと診断された小児をSMARCB1の生殖細胞変異についてスクリーニングすることで、その小児のAT/RT診断の遺伝的意味合いに関する家族のカウンセリングに有用な情報が得られる場合がある。[ 99 ]

SMARCB1またはSMARCA4蛋白発現喪失は、これががん細胞のEZH2活性への依存をもたらすため、治療上重要である。[ 101 ]前臨床研究では、SMARCB1喪失を認める一部のAT/RT異種移植株が腫瘍増殖阻害および偶発的腫瘍退縮を伴ってEZH2阻害薬に反応を示すことが示されている。[ 102 ][ 103 ]EZH2阻害薬のタゼメトスタットの研究で、腫瘍(非CNS悪性ラブドイド腫瘍および類上皮肉腫)にSMARCB1またはSMARCA4のいずれかの喪失を認める成人患者で客観的奏効が観察された。[ 104 ](詳しい情報については、本要約の再発小児CNS非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍の治療のセクションを参照のこと。)

(小児CNS非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍の治療に関する情報については、小児中枢神経系非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍の治療のPDQ要約を参照のこと。)

髄芽腫

髄芽腫の分子的サブタイプ

統合的分子解析によって複数の髄芽腫の亜型が同定されている。[ 105 ][ 106 ][ 107 ][ 108 ][ 109 ][ 110 ][ 111 ][ 112 ][ 113 ][ 114 ][ 115 ][ 116 ][ 117 ][ 118 ][ 119 ][ 120 ][ 121 ][ 122 ]2012年以降、一般的なコンセンサスは、分子的に4つ以上の中心となる亜型に髄芽腫が分類できることであり、その亜型には、WNT活性化、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)活性化、グループ3、およびグループ4の髄芽腫がある。ただし、同じ腫瘍の異なる領域には、他の本質的に異なる遺伝子変異が存在する可能性が高く、有効な分子標的療法を考案する上で複雑さが増している。[ 123 ]これらの亜型は原発部位と転移部位で安定したままである。[ 124 ][ 125 ]

2016年の世界保健機関(WHO)分類では、分子的に定義された髄芽腫について以下のカテゴリーを追加することで、このコンセンサスを支持している:[ 1 ]

これらのサブグループはさらなる下位分類が可能であり、こうした分類によりさらに多くの予後情報が得られる。[ 125 ][ 126 ][ 127 ]

髄芽腫、WNT活性化

WNT腫瘍は、WNTシグナル伝達経路の異常を伴う髄芽腫であり、すべての髄芽腫の約10%を占める。[ 126 ]WNT髄芽腫は、WNTシグナル伝達遺伝子発現シグネチャーおよび免疫組織化学検査によるβ-カテニン核染色を示す。[ 128 ]通常、組織学的に古典的髄芽腫の腫瘍と分類され、大細胞型/退形成性の所見はまれである。WNT髄芽腫は一般的に比較的年齢の高い患者(年齢中央値、10歳)に発生し、診断時に転移を来していることはまれである。

CTNNB1は、WNT髄芽腫の85~90%に観察され、APC変異は、CTNNB1変異を認めない症例のほとんどで検出される。腫瘍にAPC変異を認めるWNT髄芽腫の患者では、しばしばターコット症候群(すなわち、生殖細胞APC変異)がみられる。[ 127 ]WNT髄芽腫腫瘍では、CTNNB1変異に加えて、6q欠失(6モノソミー)が症例の80~90%にみられる。6モノソミーは、診断時18歳未満のほとんどの髄芽腫患者に観察されるが、18歳を超える患者では、はるかに少ない(症例の約25%)と考えられる。[ 126 ][ 128 ]

WNT亜型は、主に年長児、青年、および成人にみられ、男性が多いとはいえない。一部は胚性菱脳唇領域からの脳幹由来であると考えられている。[ 129 ]WNT髄芽腫は、小児において非常に良好な転帰を伴っており、特に腫瘍がβ-カテニン核染色陽性で、6q欠失および/またはCTNNB1変異が証明された患者で良好である。[ 120 ][ 130 ][ 131 ]

髄芽腫、SHH活性化およびTP53変異型、および髄芽腫、SHH活性化およびTP53野生型

SHH腫瘍は、SHH経路の異常を伴う髄芽腫であり、髄芽腫症例の約25%を占める。[ 126 ]SHH髄芽腫は、染色体9q欠失;線維形成性/結節性組織型;ならびにPTCH1PTCH2SMOSUFU、およびGLI2を含むSHH経路遺伝子の変異を特徴とする。[ 128 ]

Gタンパク質共役型受容体161(GPR161)におけるへテロ接合性の有害な生殖細胞変異は、SHH髄芽腫症例の約3%で同定された。[ 132 ]GPR161は、SHHシグナル伝達の阻害因子である。GPR161変異症例の診断時年齢の中央値は1.5歳であった。GPR161遺伝子座のヘテロ接合性の消失(LOH)がすべての腫瘍で認められ、患者6人中5人からの腫瘍が染色体1q(GPR161が位置する)のコピー数の変化のない(copy-neutral)LOHを示した。

U1スプライセオソームの低分子核内RNA(snRNA)の第3ヌクレオチドにおける変異(r.3A>G)は、SHH髄芽腫で高度に特異的であった。[ 133 ][ 134 ]U1 snRNA r.3A>G変異は、成人におけるSHH髄芽腫の実質的にすべての症例にみられ、小児および青年では約3分の1の症例にみられるが、乳児の症例では認められない。[ 134 ]U1 snRNA変異はRNAスプライシングを妨げることから、腫瘍抑制遺伝子(例、PTCH1)の不活性化およびがん遺伝子(例、GLI2)の活性化につながる。SHH髄芽腫の特定の亜型におけるU1 snRNA r.3A>G変異の意義について以下に記述する。

SHH髄芽腫では、発症年齢が二峰性分布を示し、主に3歳未満の小児および青年の高年齢層/成人にピークがみられる。この腫瘍は、小脳外顆粒層から発生すると考えられている。発症時年齢における不均一性によって異なるサブセットに分かれ、以下のように詳細な分子的特徴解析で特定される:

非転移性のSHH髄芽腫患者の転帰は、3歳未満の小児および成人で比較的良好である。[ 126 ]MBENの組織像を認める若い小児は、予後が特に良好である。[ 137 ][ 138 ][ 139 ][ 140 ][ 141 ]治療失敗のリスクが最も高いSHH髄芽腫患者は、腫瘍にTP53変異を認める3歳未満の小児で、しばしばGLI2またはMYCNの増幅および大細胞型/退形成性組織型の両方がみられる。[ 126 ][ 135 ][ 142 ]

予後不良な分子所見を示す患者の予後は悪く、従来の治療後に生存する患者は50%未満である。[ 121 ][ 135 ][ 142 ][ 143 ][ 144 ]

2016 WHO分類では、別個の疾患実体としてTP53変異を伴うSHH髄芽腫(髄芽腫、SHH活性化およびTP53変異)が同定されている。[ 1 ]SHH活性化髄芽腫症例の約25%にTP53変異が認められ、これらの症例ではまたTP53生殖細胞変異が高い割合で示されている(1件の研究では20例中9例)。これらの患者の年齢は一般的に5~18歳で、転帰不良である(5年全生存率、50%未満)。[ 144 ]この腫瘍はしばしば大細胞型/退形成性の組織像を示す。[ 144 ]

髄芽腫、非WNT/非SHH活性化

WHO分類では、グループ3とグループ4の髄芽腫症例をまとめて1つの疾患単位としており、これは部分的にこの区別に緊急の臨床的影響がないことに基づいている。グループ3の髄芽腫は、髄芽腫症例の約25%を占めるが、グループ4の髄芽腫は、髄芽腫症例の約40%を占める。[ 126 ][ 128 ]グループ3とグループ4の両方の髄芽腫患者は主に男性である。[ 114 ][ 125 ]グループ3およびグループ4の髄芽腫は、遺伝子発現およびDNAメチル化のプロファイルなどの特徴に基づいて、さらに細分化できるが、この細分化に対する至適アプローチは確立されていない。[ 126 ][ 127 ]

グループ3およびグループ4の髄芽腫では、さまざまなゲノム変化が観察される;しかしながら、10%以上~20%の症例では1つの変化もみられない。ゲノム変化には以下が挙げられる:

MYC増幅またはMYC過剰発現が認められるグループ3の患者は予後不良で[ 125 ]、これらの患者で診断から5年後まで生存するのは50%未満である。[ 126 ]この不良な予後は、特に診断時に4歳未満の小児に当てはまる。[ 121 ]しかしながら、MYC増幅が認められないグループ3の髄芽腫の3歳を超える患者の予後は、非WNT髄芽腫のほとんどの患者とほぼ同じであり、5年PFS率は70%を超える。[ 143 ][ 145 ]

グループ4の髄芽腫は、乳児から小児期を通して、成人期まで発生する。グループ4の髄芽腫患者の予後は、他の非WNT髄芽腫の患者とほぼ同じであり、転移病変の存在、染色体11q欠失、および染色体17p欠失など、その他の因子により影響を受ける場合がある。[ 118 ][ 119 ][ 126 ][ 142 ]1件の研究により、11番染色体の欠失または17番染色体の増加のいずれかが認められるグループ4の患者は転移に関係なく低リスクであることが明らかにされた。これらの細胞遺伝学的特徴が両方とも認められない症例では、発症時の転移によって高リスクと中リスクが区別された。[ 142 ]

グループ3およびグループ4の標準リスク患者(すなわち、MYC増幅または転移病変が認められない)について、染色体全体の増加または欠失は良好な予後を暗示するようである。この知見は、SIOP-PNET-4(NCT01351870)臨床試験に登録された非WNT/非SHH型髄芽腫患者91人のデータから得られ、1990年から2014年に治療された非WNT/非SHH型髄芽腫の小児70人の独立したグループで確認された。[ 145 ]染色体異常には以下が挙げられる:

髄芽腫を4つの主要な亜型に分ける分類法は、近い将来に変更される可能性が高い。[ 126 ][ 127 ][ 146 ][ 147 ]これらのサブグループはそれぞれ分子的にさらに分けられるため、サブグループ内での分子的特徴に基づいてさらに細分される可能性が高いが、これらの研究では、多数の独立した研究からのデータが併合されるのに伴い、コンセンサスに近づきつつある。1つの例として、相補的バイオインフォマティクスのアプローチを用いて、多数の大規模な公表コホート間での一致が解析され、さらに統合されたサブグループ化が報告された。グループ3およびグループ4の髄芽腫の小児では、DNAメチル化のクラスタリングにより、8つの異なるサブグループが決定された。特定のサブグループごとに予後が異なっていた。[ 118 ][ 128 ][ 135 ][ 148 ]

髄芽腫の成人に対する分類が小児において同様な予測能力を有するかどうかは不明である。[ 119 ][ 121 ]成人の髄芽腫に関する1件の研究では、MYCがん遺伝子増幅の観察はまれであり、6q欠失およびWNT活性化(β-カテニン核染色により識別)を示す腫瘍は、小児の髄芽腫でみられる非常に優れた予後を共有しなかったが、別の研究では、成人におけるWNT活性化腫瘍で非常に優れた予後が確認された。[ 119 ][ 121 ]

(小児髄芽腫の治療に関する情報については、小児髄芽腫およびその他の中枢神経系胚芽腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

髄芽腫以外の胚芽腫

このセクションでは、髄芽腫および非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍以外の胚芽腫のゲノムの特徴について記述している。2016 WHO分類では診断用語から原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)という用語が削除された。[ 1 ]この変更は、以前にCNS PNETに分類されていた多くの腫瘍が19番染色体上のC19MC領域の増幅という共通する所見を有しているという認識に起因した。これらの疾患実体には、上衣芽腫、神経網および真性ロゼットに富む胎児性腫瘍(ETANTR)、および一部の髄上皮腫症例が含まれた。2016 WHO分類では現在、C19MC増幅が認められる腫瘍を、多層性ロゼットを有する胎児性腫瘍(ETMR)C19MC-変異型として分類している。以前にCNS PNETに分類されていた腫瘍は現在、CNS胚芽腫、NOSと呼ばれており、このカテゴリーの腫瘍はWHO分類の将来の版ではゲノム病変を決定することで分類される可能性が高いと認識されている。

髄芽腫以外の胚芽腫の分子的亜型

髄芽腫以外の胚芽腫の323の腫瘍を対象にDNAメチル化パターンの教師なしクラスタリング(unsupervised clustering)を適用した研究で、髄芽腫以外の胚芽腫と診断されたこれらの腫瘍の約半数は、他の既知の小児脳腫瘍(例、高悪性度グリオーマおよび非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍[AT/RT])の分子プロファイルの特徴を示したことが明らかになった。[ 31 ]この観察結果は、このクラスの腫瘍をその適切な生物学ベースの診断に割り当てる分子的特性解析の有用性を強調している。

髄芽腫以外の胚芽腫と診断された323の腫瘍の同一群で、分子的特性解析により、以下のようなゲノム的および生物学的に異なる亜型が特定された:

CNSのテント上原始神経外胚葉性腫瘍(CNS-PNET)および松果体芽腫を有する患者を対象にした1件の臨床試験において、テント上胚芽腫を正確に診断する上でDNAメチル化プロファイル解析の寄与が実証された。[ 156 ]松果体芽腫症例では、メチル化プロファイル解析により下された診断と中央病理診断により下された診断との間で高い一致がみられた(29例中26例)。しかしながら、残りの31人の患者について、メチル化プロファイル解析により下された診断は、18人の患者で高悪性度グリオーマ、2人の患者でAT/RT、および2人の患者でRELA融合陽性上衣腫であった。中央病理診断により下された診断とメチル化プロファイル解析により下された診断間の不一致の判定では、再検査された10例でメチル化プロファイル解析が支持された。

髄上皮腫

古典的なC19MC増幅を伴う髄上皮腫はETMR、C19MC変異型と考えられる(上述のETMRの情報を参照のこと)。しかしながら、腫瘍に髄上皮腫の組織学的特徴があるが、C19MC増幅を伴わない場合、WHO分類システム内で組織学的に別個の腫瘍として識別され、髄上皮腫と呼ばれる。[ 157 ][ 158 ]髄上皮腫はまれで、乳児および幼児に最も一般的に発生する傾向がみられる。組織学的に胚神経管を再現する髄上皮腫は、主に脳室内のテント上に発生する傾向があるが、神経根に沿ってテント下、馬尾、および神経外でも発生する場合がある。[ 157 ][ 158 ]

眼内髄上皮腫は生物学的に脳実質内髄上皮腫とは異なる。[ 159 ][ 160 ]

(小児PNETの治療に関する情報については、小児髄芽腫およびその他の中枢神経系胚芽腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

松果体芽腫

松果体芽腫は、以前に慣習的に胚芽腫に含めて分類されていたが、現在は世界保健機関(WHO)により松果体実質細胞腫瘍として分類されている。松果体芽腫に対する治療法が胚芽腫に用いられている治療法に非常に類似していることを考慮して、本要約でも松果体芽腫を中枢神経系(CNS)胚芽腫とともに含める以前の慣習に従う。松果体芽腫は、以下に示すように、RB1およびDICER1遺伝子の両方における生殖細胞変異を伴う:

(小児松果体芽腫の治療に関する情報については、小児髄芽腫およびその他の中枢神経系胚芽腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

上衣腫

上衣腫の分子的亜型

分子的特性化研究から、上衣腫について9つの分子的亜型が同定されており、小児ではそのうち6つが圧倒的に多い。これらの亜型は、特有なDNAメチル化および遺伝子発現プロファイルに加え、独特な広範囲のゲノム変化により決定される(図4を参照のこと)。[ 166 ][ 167 ][ 168 ][ 169 ]

上衣下腫は-テント上、テント下、または脊髄のいずれでも-残りの3つの分子遺伝学的な多様体の原因となっており、小児でみられることは、あったとしてもまれである。

上衣腫瘍亜型の主要な分子的および臨床的特徴を示す図。

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図4.上衣腫瘍亜型の主要な分子的および臨床的特徴の図示による要約。メチル化プロファイリングにより同定された上衣腫瘍の9つの分子的亜型における主要なジェネティックおよびエピジェネティック所見の略図。CIN、染色体不安定性。Elsevieから許諾を得て転載:Cancer Cell, Volume 27, Kristian W. Pajtler, Hendrik Witt, Martin Sill, David T.W. Jones, Volker Hovestadt, Fabian Kratochwil, Khalida Wani, Ruth Tatevossian, Chandanamali Punchihewa, Pascal Johann, Juri Reimand, Hans-Jorg Warnatz, Marina Ryzhova, Steve Mack, Vijay Ramaswamy, David Capper, Leonille Schweizer, Laura Sieber, Andrea Wittmann, Zhiqin Huang, Peter van Sluis, Richard Volckmann, Jan Koster, Rogier Versteeg, Daniel Fults, Helen Toledano, Smadar Avigad, Lindsey M. Hoffman, Andrew M. Donson, Nicholas Foreman, Ekkehard Hewer, Karel Zitterbart, Mark Gilbert, Terri S. Armstrong, Nalin Gupta, Jeffrey C. Allen, Matthias A. Karajannis, David Zagzag, Martin Hasselblatt, Andreas E. Kulozik, Olaf Witt, V. Peter Collins, Katja von Hoff, Stefan Rutkowski, Torsten Pietsch, Gary Bader, Marie-Laure Yaspo, Andreas von Deimling, Peter Lichter, Michael D. Taylor, Richard Gilbertson, David W. Ellison, Kenneth Aldape, Andrey Korshunov, Marcel Kool, and Stefan M. Pfister, Molecular Classification of Ependymal Tumors across All CNS Compartments, Histopathological Grades, and Age Groups, Pages 728-743, Copyright (2015).

テント下腫瘍

後頭蓋窩A上衣腫(PF-EPN-A)

後頭蓋窩上衣腫で最も多い亜型はPF-EPN-Aであり、その特徴は以下の通りである:

PF-EPN-Aの600例を超える症例を対象にした1件の研究では、メチル化アレイプロファイリングを用いてこの集団をPFA-1およびPFA-2の2つの異なるサブグループに分けた。[ 174 ]遺伝子発現プロファイリングによって、これら2つの亜型は後脳の解剖学的に異なる位置に発生しうることが示唆された。PFA-1とPFA-2グループの双方で、より小さい異なる亜型が同定でき、異質性の存在が示唆された。これらの亜型の臨床的意義を明らかにするには、さらなる研究が必要である。

後頭蓋窩B上衣腫(PF-EPN-B)

PF-EPN-BのサブグループはPF-EPN-Aのサブグループより少なく、小児におけるすべての後頭蓋窩上衣腫の15~20%を占める。PF-EPN-Bは、以下を特徴とする:

テント上腫瘍

RELA融合を伴うテント上上衣腫(ST-EPN-RELA)

ST-EPN-RELAは小児テント上上衣腫の最大のサブセットであり、NF-κB経路活性に重要な転写因子であるRELAが関与する遺伝子融合を特徴とする。[ 179 ][ 180 ]ST-EPN-RELAは、以下を特徴とする:

YAP1融合を伴うテント上上衣腫(ST-EPN-YAP1)

ST-EPN-YAP1は2番目のそれほど多くないテント上上衣腫のサブセットで、11番染色体上のYAP1が関わる融合を有する。ST-EPN-YAP1は以下を特徴とする:

RELAまたはYAP1融合(11番染色体上)を伴わないテント上上衣腫は未定義の疾患実体であり、これらのサンプルが何を意味するかは不明である。DNAメチル化解析により、これらのサンプルはしばしば、高悪性度グリオーマや胚芽腫といった他の疾患実体とクラスターを形成する;11番染色体が関わる融合が認められないテント上上衣腫を診断する際は注意すべきである。[ 31 ][ 181 ]

(小児上衣腫の治療に関する情報については、小児上衣腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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肝芽腫および肝細胞がん

肝芽腫に関連するゲノム異常には以下のものがある:

現時点まで、これらの遺伝子変異は、臨床試験における研究対象の治療薬選択に使用されたことがない。

肝細胞がんに関係するゲノム異常には以下のものがある:

現時点まで、これらの遺伝子変異は、臨床試験における研究対象の治療薬選択に使用されたことがない。

(肝がんの治療に関する情報については、小児肝がんの治療のPDQ要約を参照のこと。)

参考文献
  1. Eichenmüller M, Trippel F, Kreuder M, et al.: The genomic landscape of hepatoblastoma and their progenies with HCC-like features. J Hepatol 61 (6): 1312-20, 2014.[PUBMED Abstract]
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肉腫

骨肉腫

骨肉腫におけるゲノムの全体像は、他の小児がんと異なっている。多くの成人のがんと比較すると、構造的多様体の数が例外的に多く、単一ヌクレオチド多様体の数が相対的に少ないことを特徴とする。[ 1 ][ 2 ]

骨肉腫におけるゲノムの全体像に関する主要な観察結果を以下に要約する:

いくつかの生殖細胞変異が骨肉腫への感受性に関係している;表5にその症候群と各疾患に関連する遺伝子を要約する。

TP53の変異は、骨肉腫と関係している最も一般的な生殖細胞変化である。この遺伝子の変異は、リー-フラウメニ症候群(LFS)患者の約70%にみられ、骨肉腫、乳がん、さまざまな脳のがん、軟部肉腫、およびその他のがんのリスク増加と関係している。横紋筋肉腫は、5歳以下のTP53関連LFSの患者に発生する最も一般的な肉腫であるが、骨肉腫は、6~19歳の小児および青年で最も一般的な肉腫である。[ 3 ]ある研究で、LFSに関連することが確認された、またはLFSに関連する可能性が高いTP53変異(3.8%)またはまれなエクソンのTP53多様体(5.7%)を有する若い(30歳未満の)骨肉腫症例の頻度が高いことが観察され、全体のTP53変異頻度は9.5%であった。[ 4 ]別の研究で、全エクソーム配列解析の対象となった骨肉腫症例59人中7人(12%)に生殖細胞TP53変異が観察された。[ 2 ]他のグループは、骨肉腫患者でTP53生殖細胞変異の頻度が低い(3~7%)ことを報告している。[ 5 ][ 6 ]

表5.骨肉腫の素因となる遺伝性疾患a
症候群 説明 位置 遺伝子 機能
AML = 急性骨髄性白血病;IL-1 = インターロイキン-1;MDS = 骨髄異形成症候群;RANKL = 核因子κβ活性化受容体リガンド;TNF = 腫瘍壊死因子。
a出典:Kansara et al.[ 7 ]
ブルーム症候群 [ 8 ] まれな遺伝性疾患で、低身長および太陽光に過敏な皮膚変化を特徴とする。細長い顔、小さい下顎、大きな鼻、および立ち耳を呈することが多い。 15q26.1 BLMRecQL3 DNAヘリカーゼ
ダイアモンド-ブラックファン貧血[ 9 ] 遺伝性赤芽球癆。患者にはMDSおよびAMLのリスクがある。異常な顔面の特徴(鞍鼻、遠心顔)などの骨格異常を伴う。   リボソーム蛋白 リボソーム生成[ 9 ][ 10 ]
リー-フラウメニ症候群[ 11 ] TP53遺伝子の遺伝性変異。罹患した家系員は骨腫瘍、乳がん、白血病、脳腫瘍、および肉腫のリスクが高い。 17p13.1 P53 DNA損傷応答
パジェット病[ 12 ] 骨形成および骨リモデリングの異常を伴う過剰な骨破壊で、その結果もろく変形した骨により痛みを生じる。 18q21-qa22 LOH18CR1 IL-1/TNFシグナル伝達;RANKLシグナル伝達経路
5q31
5q35-qter
網膜芽細胞腫 [ 13 ] 網膜の悪性腫瘍。2歳までに患者の約66%が診断され、3歳までに患者の95%が診断される。胚細胞に遺伝性変異を有する患者は二次腫瘍のリスクが高い。 13q14.2 RB1 細胞周期チェックポイント
Rothmund-Thomson症候群(先天性多形皮膚萎縮症とも呼ばれる)[ 14 ][ 15 ] 常染色体劣性疾患。皮膚所見(萎縮、末梢血管拡張、色素沈着)、まばらな毛髪、白内障、低身長、および骨格異常を伴う。比較的若年での骨肉腫の発生率が高い。 8q24.3 RTSRecQL4 DNAヘリカーゼ
ウェルナー症候群[ 16 ] 患者は低身長で20代初めであり、白髪や皮膚の硬化などの老化の徴候がみられることが多い。白内障、皮膚潰瘍、アテローム性動脈硬化症といった他の老化問題が後で現れる。 8p12-p11.2 WRNRecQL2 DNAヘリカーゼ;エキソヌクレアーゼ活性

これらの遺伝的症候群に関する詳しい情報については、以下のPDQ要約を参照のこと:

(骨肉腫の治療に関する情報については、骨肉腫および骨悪性線維性組織球腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

ユーイング肉腫

22番染色体のバンドq12にあるEWSR1遺伝子といくつかのパートナー染色体のいずれか6つが関与する転座の検出は、ユーイング肉腫診断において重要な特徴である(表1を参照)。[ 17 ]EWSR1遺伝子は、RNA結合蛋白のTETファミリーのメンバー[TLS/EWS/TAF15]である。[ 18 ]FLI1遺伝子は、DNA結合遺伝子のETSファミリーのメンバーである。特徴的な点として、EWSR1遺伝子のアミノ末端がSTSファミリー遺伝子のカルボキシル末端に接している。ほとんどの患者(90%)で、こうしたカルボキシル末端は、その転写因子遺伝子ファミリーのメンバーであり11番染色体のバンドq24に位置するFLI1のものである。EWSR1遺伝子と結合する可能性のある他のファミリーメンバーには、ERGETV1ETV4E1AFとも呼ばれる)、FEVがある。[ 19 ]まれに、他のTETファミリーメンバーであるTLSEWSR1に代わることがある。[ 20 ]最後に、EWSR1ががん遺伝子のETSファミリーのメンバーではないパートナーと転座しているごく少数の症例がある。これらの代替パートナーの意義は不明である。

22q12のEWSR1遺伝子に必ず起こる染色体異常のほか、2番、5番、8番、9番、12番、および15番染色体の増加、t(1;16)(q12;q11.2)の非相互転座、6番染色体の短腕欠失などの染色体数異常ならびに染色体構造異常がユーイング肉腫に観察されている。20トリソミーは、ユーイング肉腫のより侵攻性のサブセットと関連している可能性がある。[ 21 ]

3件の文献でユーイング肉腫におけるゲノムの全体像が報告されており、いずれの報告でも、これらの腫瘍は、相対的にサイレント状態のゲノムを有し、新たな分子標的療法による治療ができるような経路内の変異が少ないことを示している。[ 22 ][ 23 ][ 24 ]これらの文献でも、症例の約15~20%にコヒーシン複合体のメンバーであるSTAG2に変異が確認され、これらの変異が存在すると、進行した病期の疾患を伴っていた。CDKN2A欠失は症例の12~22%に認められた。最後に、TP53変異は、症例の約6~7%で同定され、STAG2TP53の変異が併存すると、不良な臨床的転帰を伴う。[ 22 ][ 23 ][ 24 ]

発見コホート(n = 99)からの以下の図7は、ユーイング肉腫での8番染色体増幅、染色体1q増幅と染色体16q欠失の同時発生、CDKN2A欠失とSTAG2変異の相互排他性、および比較的少ない頻発性の単一ヌクレオチド多様体の頻度を示している。[ 22 ]

ユーイング肉腫におけるゲノム異常の包括的プロファイルおよびそれに関連する臨床情報を示す表。

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図7.ユーイング肉腫におけるゲノム異常の包括的プロファイルおよびそれに関連する臨床情報。診断時、追跡時、および最終調査時の原発部位、組織の種類、および転移状態を含めて、重要な臨床的特徴が示されている。表の下は、RT-PCRおよび全ゲノム配列決定法(WGS)による遺伝子融合の検出の一貫性である。挿入欠失とともに、構造多様体(SV)および単一ヌクレオチド多様体(SNV)がグレースケールで報告されている。主要コピー数の変化、染色体1q増幅、16番染色体欠失、8番染色体増幅、12番染色体増幅、および CDKN2A中間部欠失の存在が示されている。最後の一覧は、最も重要な変異およびそのタイプである。遺伝子変異で「その他(others)」は、フレームシフトにつながるエクソン22の重複(STAG2)、エクソン2~11の欠失(BCOR)、およびエクソン1~6の欠失(ZMYM3)である。出典:Cancer Discovery, Copyright 2014, 4 (11), 1342-53, Tirode F, Surdez D, Ma X, et al., Genomic Landscape of Ewing Sarcoma Defines an Aggressive Subtype with Co-Association of STAG2 and TP53 mutations, with permission from AACR.

ユーイング肉腫の転座は、いずれも標準の細胞遺伝学的分析により確認できる。現在では、ユーイング肉腫の診断を分子的に確定するために、より迅速にEWS遺伝子の断片を検出する分析が頻繁に行われている。[ 25 ]しかし、これらの検査結果は注意して検討しなければならない。TLS転座を利用するユーイング肉腫は、これらの症例でEWSR1遺伝子が転座していないため、検査結果は陰性になる。その上、線維形成性小型円形細胞胞腫瘍、明細胞肉腫、骨外性粘液型軟骨肉腫、および粘液型脂肪肉腫など、その他の小型円形腫瘍にも、別のETSファミリーメンバーとEWSR1の転座が認められ、いずれの腫瘍もEWS蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)分離プローブで陽性となる可能性がある。EWSR1分離プローブを用いたFISHによりEWSR1再構成が陰性であった青色小型円形細胞腫瘍患者85人の詳細解析では、FUS再構成を認める患者8人が特定された。[ 26 ]EWSR1-ERG融合を認める患者4人は、EWSR1分離プローブを用いたFISHにより検出されなかった。著者らは、免疫組織化学検査でCD99が強い陽性を示す青色小型円形細胞腫瘍の分析では、EWSR1分離プローブのみに依存しないように推奨している。

EWSR1-NFATc2融合を伴う未分化青色小型円形細胞肉腫はDNAメチル化プロファイル解析により研究されている;これにより、EWSR1-NFATc2融合を伴うこれらの肉腫について均一なメチル化クラスターが明らかにされたが、これらの肉腫はより一般的な型のEWS-ETS転座を伴うユーイング肉腫と明確に分離された。[ 27 ]

組織学的にユーイング肉腫と類似しているが、EWSR1遺伝子の再構成がみられない骨と軟部組織の青色小型円形細胞腫瘍が分析され、複数の転座が同定されている。この中には、BCOR-CCNB3CIC-DUX4、およびCIC-FOX4がある。[ 28 ][ 29 ][ 30 ][ 31 ]これらの腫瘍の分子プロファイルは、EWS-FLI1の転座を認めるユーイング肉腫のプロファイルと異なり、限られた証拠から、これらの臨床的挙動が異なることが示唆される。ほとんどすべての症例で、患者はユーイング肉腫との組織および免疫組織学的な類似性に基づいて、ユーイング肉腫用にデザインされた療法による治療を受けた(詳しい情報については、本要約のBCOR-CCNB3再構成を伴う未分化円形細胞肉腫およびCIC-DUX4再構成を伴う未分化円形細胞肉腫のセクションを参照のこと)。それぞれの転座を伴う症例の数がきわめて少ないため、これらの青色小型円形細胞腫瘍の予後が、病期および部位が類似しているユーイング肉腫の予後と異なるかどうか判断できない。[ 28 ][ 29 ][ 30 ][ 31 ]

一部の未分化円形細胞肉腫はX染色体の偏動原体逆位およびBCOR-CCNB3再構成を特徴とする;MAML3ZC3H7Bなど、BCORの代替パートナーもまた報告されている。[ 32 ]ユーイング肉腫と臨床病理学的に類似しているにもかかわらず、これらの腫瘍は発現プロファイルおよび一塩基多型アレイ解析では、生物学的に異なっている。(この腫瘍の治療に関する詳しい情報については、本要約のBCOR-CCNB3再構成を伴う未分化円形細胞肉腫のセクションを参照のこと。)

他の未分化円形細胞肉腫は反復性のt(4;19)またはt(10;19)の結果として起こるCIC-DUX4融合を特徴とし、最も一般的なEWSR1-FUS融合陰性の未分化円形細胞肉腫である。[ 33 ](この腫瘍の治療に関する詳しい情報については、本要約のCIC-DUX4再構成を伴う未分化円形細胞肉腫のセクションを参照のこと。)

ゲノムワイド関連解析では、ユーイング肉腫の感受性遺伝子座が1p36.22、10q21、および15q15で同定されている。[ 34 ][ 35 ][ 36 ]10q21.3領域の詳しい塩基配列決定により、EGR2遺伝子における多型が同定され、これはユーイング肉腫患者のほとんどにみられるEWSR1-FLI1融合の遺伝子産物と協同で作用し、その強化された活性を増大させると考えられる。[ 35 ]リスク増加に関連するこの多型は、白人の方が黒人またはアジア人よりはるかに高い頻度に検出されることから、後者の集団でユーイング肉腫の頻度が比較的低いという疫学に関与している可能性がある。3つの新たな感受性遺伝子座が6p25.1、20p11.22、および20p11.23で同定されている。[ 36 ]

表6.ユーイング肉腫におけるEWSおよびTLSの融合と転座
TETファミリーのパートナー ETS様がん遺伝子パートナーとの融合 転座 コメント
a これらのパートナーは、がん遺伝子のETSファミリーのメンバーではない。
EWS EWSR1-FLI1 t(11;22)(q24;q12) 最も多い:症例の約85~90%
EWSR1-ERG t(21;22)(q22;q12) 二番目に多い:症例の約10%
EWSR1-ETV1 t(7;22)(p22;q12) まれ
EWSR1-ETV4 t(17;22)(q12;q12) まれ
EWSR1-FEV t(2;22)(q35;q12) まれ
EWSR1-NFATc2a t(20;22)(q13;q12) まれ
EWSR1-POU5F1a t(6;22)(p21;q12)  
EWSR1-SMARCA5a t(4;22)(q31;q12) まれ
EWSR1-ZSGa t(6;22)(p21;q12)  
EWSR1-SP3a t(2;22)(q31;q12) まれ
TLSFUSとも呼ばれる) TLS-ERG t(16;21)(p11;q22) まれ
TLS-FEV t(2;16)(q35;p11) まれ

(ユーイング肉腫の治療に関する情報については、ユーイング肉腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

横紋筋肉腫

横紋筋肉腫のゲノミクス

胎児型および胞巣型の組織型診断では、診断確定に用いられている特有な分子的特徴が認められ、リスク群の割り当て、治療法の決定、および治療中の残存病変のモニタリングに有用な可能性がある。[ 37 ][ 38 ][ 39 ][ 40 ][ 41 ]

  1. 胎児型:胎児型腫瘍では、11p15におけるヘテロ接合性の消失および8番染色体上の増加がみられることが多い。[ 42 ][ 43 ][ 44 ]胎児型腫瘍は胞巣型腫瘍よりも背景変異率および一塩基多様体の割合が高く、体細胞変異の数は診断時年齢が高くなるにつれて増加する。[ 45 ][ 46 ]頻発性の変異がみられる遺伝子には、RAS経路の遺伝子(例、NRASKRASHRAS、およびNF1)が含まれており、これらは合わせて症例の約3分の1で観察される。頻発性の変異がみられる他の遺伝子として、FGFR4PIK3CACTNNB1FBXW7、およびBCORがあり、これらはいずれも症例の10%未満でみられる。[ 45 ][ 46 ]

    退形成を伴う胎児型:退形成は、横紋筋肉腫の少数の小児で報告されており、主に10歳未満の胎児型の小児にみられる。[ 47 ][ 48 ]TP53の生殖細胞変異を認めるリー-フラウメニ症候群の小児では、非胞巣型で退形成形態の横紋筋肉腫が初診時の特徴となる場合がある。[ 49 ]TP53の生殖細胞変異を認める横紋筋肉腫の8連続の初診例では、すべての小児に退形成形態がみられた。TP53の生殖細胞変異状態が確認された退形成横紋筋肉腫の別の小児7人では、7人中3人の小児で機能的に意味のあるTP53の生殖細胞変異が認められた。TP53の生殖細胞変異状態が確認された小児11人の診断時年齢中央値は、生後40ヵ月(範囲、19~67ヵ月)であった。

  2. 胞巣型:胞巣型腫瘍の約70~80%は、13番染色体上のFOXO1遺伝子と2番染色体上のPAX3遺伝子との転座(t(2;13)(q35;q14))または1番染色体上のPAX7遺伝子との転座(t(1;13)(p36;q14))のいずれかを特徴とする。[ 37 ][ 42 ][ 50 ]他のまれな融合として、PAX3-NCOA1およびPAX3-INO80Dが挙げられる。[ 45 ]PAX3遺伝子が関与する転座は、胞巣型横紋筋肉腫症例の約59%に発生するのに対し、PAX7遺伝子は、症例の約19%に関与するとみられている。[ 37 ]組織型が固形多様体の胞巣型である患者では、組織型が古典的な胞巣型を示す患者より、PAX-FOXO1遺伝子融合の発生率が低い。[ 51 ]

    胞巣型横紋筋肉腫の診断では、蛍光in situハイブリダイゼーションまたは逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応のいずれかを用いて、FOXO1遺伝子の再構成が良好な感度および特異度で検出される可能性がある。[ 52 ]

    転移巣の有無にかかわらず、PAX7遺伝子と関連する胞巣型は、より若い年齢の患者に発生すると考えられ、PAX3遺伝子再構成と関連するものよりもイベントフリー生存率が高い可能性がある。[ 53 ][ 54 ][ 55 ][ 56 ][ 57 ][ 58 ]PAX3遺伝子と関連する胞巣型の患者はより年齢が高く、浸潤性腫瘍(T2)の発生率が高い。胞巣型を示す症例の約22%では、PAX遺伝子再構成が検出されない。[ 41 ][ 51 ]

    FOXO1遺伝子再構成に加えて、胞巣型腫瘍は、融合が認められない腫瘍よりも変異量が少なく、頻発性の変異がみられる遺伝子がほとんどないことを特徴とする。[ 45 ][ 46 ]BCORおよびPIK3CAの変異、ならびにMYCNMIR17HG、およびCDK4の増幅も報告されている。

  3. 紡錘細胞型/硬化型の組織像:紡錘細胞型/硬化型横紋筋肉腫は、軟部組織および骨の腫瘍に関する世界保健機関分類において、別の疾患単位として提案されている。[ 59 ]

    先天性/乳児性紡錘細胞型横紋筋肉腫では、患者の11人中10人に頻発性融合遺伝子がみられることがある研究で報告された。これらの患者のほとんどが躯幹の原発腫瘍で、傍精巣腫瘍は認められなかった。新たなVGLL2遺伝子再構成は、7人(63%)の患者で観察され、そのうち4人がVGLL2-CITED2融合、2人がVGLL2-NCOA2融合であった。[ 60 ]3人(27%)の患者では、異なるNCOA2遺伝子融合がみられ、そのうち2人がTEAD1-NCOA2、1人がSRF-NCOA2であった。長期の追跡結果が得られた融合陽性の先天性/乳児性紡錘細胞型横紋筋肉腫患者はすべて生存しており、健康状態良好で、遠隔転移を認めた患者はいなかった。[ 60 ]紡錘細胞型横紋筋肉腫の幼児におけるこれらの遺伝子再構成の保有率および予後的意義をうまく定義するには、さらに研究が必要である。

    紡錘細胞型/硬化型横紋筋肉腫の年長の小児および成人では、患者の大きな集団内で特異的なMYOD1変異(p.L122R)が観察されている。[ 60 ][ 61 ][ 62 ][ 63 ]PIK3CAの活性化変異は約半数の症例にみられ、これらの症例の60%は純粋な硬化型の形態学を有する。[ 64 ]MYOD1変異の存在は、局所および遠隔における制御失敗のリスク増加に関連している。[ 60 ][ 61 ][ 62 ]MYOD1変異腫瘍を有する小児15人を対象にした1件の研究において、最も一般的な原発部位は頭頸部であった。[ 65 ]これらの患者は硬化型の紡錘細胞または混合型の組織像を有し、患者15人中10人が積極的な集学的治療法にもかかわらず本疾患により死亡した。

これらの知見は、胎児型と胞巣型の腫瘍に重要な違いがあることを際立たせている。PAX-FOXO1融合陽性の胞巣型腫瘍は、融合陰性の胞巣型腫瘍および胎児型腫瘍とは生物学的および臨床的に異なることをデータが示している。[ 41 ][ 66 ][ 67 ][ 68 ][ 69 ]単一のプロスペクティブ臨床試験からのコホート全体を組み入れたIntergroup Rhabdomyosarcoma Study Groupの患者を対象にした1件の研究において、転座陰性の胞巣型横紋筋肉腫患者の転帰は、転座陽性の患者で観察された転帰よりも良好であった。この転帰は、胎児型横紋筋肉腫患者でみられたものとほぼ同じであり、小児横紋筋肉腫におけるリスク層別化に融合状態がきわめて重要な因子であることが実証された。

ゲノムワイドメチル化解析により、PAX3およびPAX7融合陽性の横紋筋肉腫のほか、野生型およびRAS変異融合陰性腫瘍を正確に同定できる。[ 70 ]

(小児横紋筋肉腫の治療に関する情報については、小児横紋筋肉腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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ランゲルハンス細胞組織球症

1994年に、ヒトアンドロゲン受容体、DXS255、PGK、およびHPRTをコードするX染色体領域のメチル化特異的制限酵素部位の多型を用いて、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)におけるクローン性を明らかにする研究が発表された。[ 1 ][ 2 ]単一系統型または多系統型の患者における病変部の生検の結果により、単一クローンからのLCH細胞の増殖が示された。LCHで頻発性のゲノム変化(主にBRAF V600E)の発見(以下を参照)により、小児におけるLCHのクローン性が確認された。

成人の肺LCHは当初症例の約75%で非クローン性であることが報告されたが[ 3 ]BRAF変異の解析により、患者の25~50%でBRAF V600E変異の証拠が認められることが示された。[ 3 ][ 4 ]26人の肺LCH症例を対象とした別の研究で、50%がBRAF V600E変異を有し、40%がNRASを有することが認められた。[ 5 ]ほぼ同数の変異が単クローン性ではなく、多クローン性である。クローン性とBRAF経路の変異が同じ患者において一致するかどうかについてはまだ研究が行われておらず、その結果によっては喫煙者の肺LCHの腫瘍性疾患や他の種類のLCHにおけるクローン性腫瘍ではなく、反応性疾患であることを示唆する可能性がある。

BRAF-RAS経路

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図8. Rikhia Chakraborty(Ph.D)により無償提供された。どのような形であれ、本図を再使用する許可は、直接 Dr. Chakrabortyから得なければならない。

LCHのゲノムの基礎は、61症例中35例(57%)で検出されたBRAFのがん遺伝子(V600E)の活性化変異に関する2010年の報告により進展した。[ 6 ]その後の複数の報告により、小児のLCH症例の50%以上でBRAF V600E変異の存在が確認されている。[ 7 ][ 8 ][ 9 ]シグナル活性化をもたらす他のBRAF変異が報告されている。[ 8 ][ 10 ]LCHでARAF変異はまれであるが、変異が存在する場合、RAS-MAPK経路活性化も生じることがある。[ 11 ]

RAS-MAPKシグナル伝達経路(図8を参照のこと)では、細胞表面受容体(例、増殖因子)からRAS経路を通じて(RAF蛋白[A、B、またはC]の1つを介して)シグナルが伝達され、MEKからさらに細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)がリン酸化されて、細胞周期および転写調節に影響を与える核シグナルにつながる。BRAFのV600E変異により、外部シグナルを必要とせずに、MEKおよびERKが連続的にリン酸化され、それにより活性化される。ERKの活性化は、リン酸化により生じ、LCH病変のほぼすべてにおいてリン酸化されたERKが検出できる。[ 6 ][ 12 ]

すべてのLCH症例でRAS-MAPK経路の活性化が検出できるが、すべての症例でBRAF変異が認められるわけではないため、この経路の他の部分におけるゲノム変化の存在が疑われた。以下のゲノム変化が同定された:

これまでの研究で、LCHにおけるERKの普遍的な活性化が裏付けられ、ほとんどの症例の活性化がBRAFおよびMAP2K1の変化によって説明される。[ 6 ][ 12 ][ 14 ]全体的にみて、MAPキナーゼ経路のこのような変異はLCHにおけるERKの普遍的な活性化の原因の約90%を占めている。[ 6 ][ 12 ][ 14 ]

血液および骨髄中のBRAF V600E変異の存在が100人の患者を対象としたシリーズで検討され、高感度の定量的ポリメラーゼ連鎖反応法による検査で、そのうち65%がBRAF V600E変異陽性であった。[ 7 ]高リスクのすべての患者および低リスクの一部の多系統型患者で、BRAF V600E変異を有する循環細胞が検出可能であった。この変異を認める循環細胞の存在は、2倍高い再燃リスクをもたらした。BRAF V600E変異LCHを認める患者48人を対象とした同様の研究で、リスク臓器陽性多系統型LCH患者の100%、リスク臓器陰性LCH患者の42%、単一系統型LCH患者の14%で、循環無細胞DNA中にBRAF V600Eアレルが検出された。[ 15 ]

高リスク患者の骨髄で変異を有するCD34陽性幹細胞が発見されたことにより、LCHの骨髄樹状細胞の起源が確認された。低リスク疾患の患者では、変異がより成熟した骨髄樹状細胞内に認められたことから、体細胞変異が生じる細胞の成長段階がLCHにおける病変の拡がりを定義する上できわめて重要なことが示唆される。LCHは現在では骨髄性新生物と考えられている。

臨床的意義

報告されたゲノム所見の臨床的意義には以下のものがある:

(小児LCHの治療に関する情報については、ランゲルハンス細胞組織球症の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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神経芽腫

神経芽腫の分子的特徴

神経芽腫の小児は、診断時の臨床因子および生物学的マーカーに基づいて予測される再燃リスクが異なるサブセットに再分類できる。

以下で考察する高リスク神経芽腫の主なゲノム的特徴には以下のものがある:

染色体セグメントの異常

1p、1q、3p、11q、14q、および17pで最も高い頻度でみられる染色体セグメントの異常は、比較ゲノムハイブリダイゼーションにより最もよく検出され、ほとんどの高リスクおよび/または4期の神経芽腫腫瘍でみられる。[ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ][ 7 ]神経芽腫のすべての患者で、染色体切断点の数が多い(すなわち、染色体セグメントの異常の数が多い)ことは、以下と関係する:[ 3 ][ 4 ][ 5 ][ 6 ][ 7 ][証拠レベル:3iiD]

国際共同研究で、高リスク神経芽腫の患者556人について検討され、きわめて転帰不良と関係する2種類のセグメントコピー数異常が特定された。6q遠位部欠失が6%の患者にみられ、それに伴う10年生存率はわずか3.4%であった;MYCN増幅に加えて、MYCN遺伝子座を含まない領域の増幅は、18%の患者で検出され、それに伴う10年生存率は5.8%であった。[ 9 ]

転移を伴わない切除不能な原発性神経芽腫の生後12ヵ月を超える小児を対象とした研究では、ほとんどで染色体セグメントの異常が確認され、年長の小児は、この異常を有する可能性が高く、この異常の腫瘍細胞当たりの数も多い傾向がみられた。生後12~18ヵ月の小児で、染色体セグメントの異常の存在は、イベントフリー生存(EFS)に有意な影響を及ぼしたが、全生存(OS)への影響はみられなかった。しかしながら、生後18ヵ月を超える小児におけるOSでは、組織学的予後にかかわらず、染色体セグメントの異常を認める小児(67%)と染色体セグメントの異常を認めない小児(100%)で有意な差が認められた。[ 7 ]

MYCN遺伝子増幅を認めない限局性で切除不能または転移性の神経芽腫の乳児で、染色体セグメントの異常は再発の予測因子でもある。[ 1 ][ 2 ]

MYCN遺伝子増幅

神経芽腫の16~25%の腫瘍にMYCN増幅が検出される。[ 10 ]高リスク神経芽腫の患者では、症例の40~50%にMYCN増幅がみられる。[ 11 ]

病期にかかわらず、予後因子に関するほぼすべての多変量回帰分析で、MYCN遺伝子増幅があると、腫瘍進行までの時間およびOSのいずれにおいてもより不良な予後が強く予測される。[ 1 ][ 2 ]限局性腫瘍のMYCN増幅コホート内では、高二倍体腫瘍の患者が二倍体腫瘍の患者より転帰が良好である。[ 12 ]しかしながら、MYCN増幅または染色体セグメントの異常を認める高二倍体腫瘍の患者は、MYCN増幅を認めない高二倍体腫瘍の患者と比較して、相対的に状態が良くない。[ 3 ]

神経芽腫患者4,672人を対象としたMYCNコピー数の小児腫瘍学グループ研究において、以下の結果が報告された:[ 13 ]

最も好ましくない臨床的および病理生物学的特徴は、MYCN増幅にある程度関連している;International Neuroblastoma Risk Group(INRG)研究の患者7,102人の多変量ロジスティック回帰分析で、併合された染色体セグメントの異常および17q増加は、MYCN増幅と関連しない場合でさえ、予後不良の特徴であった。しかしながら、別の予後不良の特徴である11qでの染色体セグメントの異常はMYCNの増幅とほぼ完全に相互排他的である。[ 14 ][ 15 ]

MYCNの状態が明らかになっているINRGデータベースの患者6,223人のコホートにおいて、MYCN増幅に伴うOSのハザード比(HR)は6.3(95%信頼区間[CI]、5.7-7.0;P < 0.001)であった。MYCN増幅がOSに対して最も大きく予後不良に影響したのは、最も年齢の低い患者であった(生後18ヵ月未満:HR、19.6;生後18ヵ月以上:HR、3.0)。MYCNの状態が転帰に最も影響を及ぼした患者は、生後18ヵ月未満の年齢、高い有糸分裂/核崩壊指数、低フェリチンなど、他の点では予後良好な特徴を有する患者であった。[ 16 ][証拠レベル:3iiiA]

腫瘍内不均一性MYCN増幅(hetMNA)は、クラスターとしてまたは単独の散在した細胞としてのMYCN増幅細胞と非MYCN増幅腫瘍細胞の共存を意味する。HetMNAはまれに報告されており、空間的に腫瘍内に加えて、同時に腫瘍と転移巣との間に発生したり、または時間的に疾患過程中に発生したりすることがある。International Society of Paediatric Oncology Europe Neuroblastoma(SIOPEN)の生物学グループは、この神経芽腫亜型の予後的意義について検討した。hetMNAを有することが特定され、1991年~2015年に診断された患者99人からの腫瘍組織が解析され、MYCN増幅クローンの予後的意義について、それ以外は非MYCN増幅の神経芽腫で解明された。生後18ヵ月未満の患者は、すべての病期で年長の患者と比較して良好な転帰を示した。このゲノム的な背景は、再燃頻度および全生存と有意に相関していた。染色体異常が数的異常のみの症例で再燃はみられなかった。この研究から、hetMNA腫瘍は、患者の年齢および病期を含む臨床パターンと組み合わせて、ゲノム的な腫瘍背景との関連で評価しなければならないことが示唆される。今後は、hetMNA病変が限局性の生後18ヵ月未満の患者を対象とした研究が必要である。[ 17 ]

神経芽腫におけるエクソン変異

少数の高リスク神経芽腫では、遺伝子の頻発性変異の発生率が低いことが多数の報告で明らかにされている。最も一般的な変異遺伝子はALKで、患者の約10%で変異している(以下を参照)。変異頻度がさらに低い遺伝子には、他にATRXPTPN11ARID1A、およびARID1Bがある。[ 18 ][ 19 ][ 20 ][ 21 ][ 22 ][ 23 ][ 24 ]図9に示すように、ほとんどの神経芽腫症例では、頻発性変異遺伝子に変異がみられない。

神経芽腫で遺伝的変異の全体像を示す図。

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図9.神経芽腫の症例(列)で臨床およびゲノムデータの比較を容易にするデータトラック(行)。本データのソースおよび用いた配列決定方法は、全ゲノム増幅(WGA)からの全エクソーム配列解析(WES)(明るい紫色)、未変異DNAからのWES(暗い紫色)、Illumina WGS(緑色)、およびComplete Genomics WGS(黄色)であった。縞模様のブロックは、2つのアプローチで解析した症例を示している。解析に含めた臨床変数は、性別(男性が青色;女性がピンク色)および年齢(茶色のスペクトル)であった。コピー数の変化は、フローサイトメトリーにより測定した倍数性を示し(高二倍体はDNA指数が1を超えることを意味する)、臨床的に重要なコピー数の変化は塩基配列データから得た。背景変異率、遺伝子サイズ、および神経芽腫における発現を考慮すると、有意な変異遺伝子は、変異数が統計的に有意な遺伝子である。生殖細胞系は、我々のコホートで有意な数の生殖細胞ClinVar多様体または機能喪失がん遺伝子多様体を伴う遺伝子を意味する。DNA修復は、見かけ上高変異の2つの腫瘍において変異頻度増加に関連する可能性のある遺伝子を意味する。体細胞変異で予測される影響は、その説明文に従って色分けしている。Macmillan Publishers Ltdから許諾を得て転載:Nature Genetics (Pugh TJ, Morozova O, Attiyeh EF, et al.: The genetic landscape of high-risk neuroblastoma.Nat Genet 45 (3): 279-84, 2013), copyright (2013).

神経芽腫でエクソン変異が最も一般的にみられるALKは、細胞表面受容体のチロシンキナーゼで、発育段階の胚脳および新生児脳のみで有意な量が発現している。ALKの生殖細胞変異は遺伝性神経芽腫の主要原因として特定されている。体細胞の後天性ALK活性化エクソン変異も神経芽腫の発がん因子であることが明らかになっている。[ 23 ]

ALK変異の存在は、高リスクおよび中リスクの神経芽腫患者における著しく不良な生存と関係している。1,596の神経芽腫診断サンプルでALK変異が調査され、以下の結果が観察された:[ 23 ]

副腎に発生した特徴的な原発性神経芽腫(n = 646)のゲノムデータと胸部交感神経節に発生した神経芽腫(n = 118)のゲノムデータを比較した1件の研究では、胸部腫瘍の16%にALK変異が認められた。[ 25 ]

高リスク神経芽腫でALKが活性化していると新たに診断された患者を対象に、クリゾチニブなどの小分子ALKキナーゼ阻害薬(従来の治療法に加えて)が検討されている(COG ANBL1531)。[ 23 ]

エクソン変異のゲノム進化

神経芽腫の診断から再燃までのエクソン変異のゲノム進化に関するデータは限られている。再燃に伴う体細胞遺伝子変異を確定するために、診断時と再燃時の神経芽腫サンプルの23ペアに対して全ゲノム配列決定が適用された一方で[ 26 ]、2つ目の研究では、診断時と再燃時の検体の16ペアが評価された。[ 27 ]両研究で、診断時のサンプルと比較して再燃時のサンプルに変異の数が多いことが特定された;このことは、次世代の塩基配列決定法に送られた神経芽腫の腫瘍サンプルの研究で確認されている。[ 28 ]

高深度塩基配列決定の研究で、神経芽腫の276サンプル(すべての病期および診断時の全年齢層の患者から構成される)を用いて、2つのみの増幅ALK変異ホットスポットの超深度配列決定(33,000X)が実施され、クローン性変異が4.8%、およびその他のサブクローン性変異が5%で明らかになったことから、サブクローン性ALK遺伝子変異が一般的であることが示唆される。[ 29 ]そのため、高深度配列決定では、治療中に生存し、増殖して再燃巣を形成することができると考えられる腫瘍細胞のわずかなサブセットにおける変異の存在を明らかにできる。

テロメア延長を促すゲノム変化

染色体の先端にあるテロメアの延長は細胞生存を促す。延長されない場合、細胞の複製ごとにテロメアが短くなり、最終的に細胞の複製能がなくなる。低リスクの神経芽腫の腫瘍では、テロメア延長活性がほとんどない。高リスクの神経芽腫の腫瘍でテロメア延長の異常な遺伝機構が特定されている。[ 18 ][ 19 ][ 30 ]これまで相互排他的とみられる以下の3つの機構が報告されている:

予後に関連するその他の生物学的因子

MYCおよびMYCN発現

未分化型/低分化型神経芽腫の357腫瘍の限定サブセットを対象としたMYCおよびMYCN蛋白の免疫染色により、MYC/MYCN蛋白の発現増加は予後的に重要であることが実証されている。[ 32 ]68腫瘍(19%)でMYCN蛋白の発現量が多く、81腫瘍でMYCNが増幅されていた。39腫瘍(10.9%)でMYC発現量が多く、MYCN発現量が多いことと相互排他的であった;MYC発現腫瘍で、MYCまたはMYCN遺伝子増幅はみられなかった。この研究で染色体セグメント異常は調査されなかった。[ 32 ]

ニューロトロフィン受容体キナーゼ

ニューロトロフィン受容体キナーゼおよびそのリガンドの発現は、高リスクと低リスクの腫瘍間で異なる。TrkAは低リスク腫瘍にみられ、そのリガンドのNGFの消失は自然腫瘍退縮につながると想定されている。対照的に、TrkBは高リスク腫瘍にみられ、そのリガンドのBDNFも発現しており、神経芽腫細胞の増殖および生存が促進される。[ 33 ]

免疫系の阻害

抗GD2抗体は、抗体の抗神経芽腫活性を増強する免疫系の調節と併せて、神経芽腫の治療補助にしばしば使用される。このような1つの抗体の臨床的有効性は、米国食品医薬品局によるジヌツキシマブの承認につながった。免疫療法に対する患者の反応は、部分的に免疫機能の患者間変動により引き起こされる可能性がある。3F8と呼ばれる1つの抗GD2抗体は、神経芽腫の治療として独占的に1つの医療施設で使用され、神経芽腫細胞を殺すためにナチュラルキラー細胞を利用している。しかしながら、ナチュラルキラー細胞は、HLA抗原とキラー免疫グロブリン受容体(KIR)亜型の相互作用により阻害される恐れがある。[ 34 ][ 35 ]この知見は、抗GD2抗体のジヌツキシマブを顆粒球マクロファージコロニー刺激因子およびインターロイキン-2と併用した国内ランダム化COG-ANBL0032(NCT00026312)研究で治療を受けた患者の転帰解析で確認され、拡張された。この研究では、特定のKIR/KIRリガンドの遺伝子型が免疫療法を受けた患者の良好な転帰と関係することが明らかになった。[ 36 ][証拠レベル:1A]阻害性のKIR/KIRリガンドの存在は、免疫療法の有効性低下と関係していた。そのため、患者の免疫系遺伝子は、神経芽腫に対する免疫療法への反応を判断するのに役立つ。この免疫系の遺伝子型が特定の免疫療法への患者選択の指針にできるかどうか判断するには、追加の研究が必要である。

(神経芽腫の治療に関する情報については、神経芽腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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網膜芽細胞腫

網膜芽細胞腫は、遺伝型(25~30%)と非遺伝型(70~75%)で発生する腫瘍である。遺伝型疾患は、RB1遺伝子の生殖細胞変異の存在によって定義される。この生殖細胞変異には、罹患した祖先から遺伝した場合(症例の25%)、または散発性疾患の患者で受胎前の胚細胞または胚形成早期に子宮内(in utero)で発生している場合(症例の75%)がある。家族歴陽性または両眼性もしくは多巣性病変が存在すると、遺伝型疾患が示唆される。

遺伝性網膜芽細胞腫は、片眼性または両眼性病変として現れることがある。RB1変異の浸透度(側性、診断時の年齢、腫瘍の数)は、MDM2およびMDM4の多形のような同時発生の遺伝子修飾因子によって異なる可能性がある。[ 1 ][ 2 ]両眼性病変を有するすべての小児および片眼性病変を有する患者の約15%は遺伝型であると推定されるが、それでも罹患した親がいるのは25%に過ぎない。

遺伝性網膜芽細胞腫の小児は、本疾患の非遺伝型の小児より低い年齢で診断される傾向にある。1歳未満の小児における片眼性網膜芽細胞腫では、遺伝性である懸念が生じるが、片眼性腫瘍を有する1歳以上の小児では、本疾患の非遺伝型である可能性が高いと考えられていた。[ 3 ]しかしながら、片眼性網膜芽細胞腫患者182人を対象にした1件の単一施設のレトロスペクティブ報告では、遺伝子検査の結果が陽性であった患者(n = 32)における診断時の平均年齢は生後26ヵ月であり、遺伝子の結果が陰性であった患者における診断時の平均年齢は生後22ヵ月であった(P = 0.31)。[ 4 ]

網膜芽細胞腫におけるゲノムの全体像は、両アレル性不活性化に至るRB1の変化により得られる。[ 5 ][ 6 ]RB1不活性化のまれな原因として染色体の粉砕現象(chromothripsis)があり、これを従来の方法で検出するのは困難な可能性がある。[ 7 ]

ごく少数の腫瘍で頻発性の他のゲノム変化には、BCORの変異/欠失、MYCN増幅、およびOTX2増幅がある。[ 5 ][ 6 ][ 7 ]非家族性の片眼性網膜芽細胞腫の腫瘍1,068検体を対象とした研究で、RB1欠失の証拠が認められない症例の割合がわずか(約3%)であったことが報告された。これらのRB1欠失の証拠が認められない症例の約半数(非家族性の片眼性網膜芽細胞腫全体の約1.5%を占める)では、MYCN増幅が認められた。[ 6 ]網膜芽細胞腫蛋白(pRb)の機能状態は、MYCN増幅を伴う網膜芽細胞腫で不活性化していると推定される。変異によるRB1の不活性化およびpRb不活性化は、MYCN増幅と独立して、網膜芽細胞腫の発生に不可欠である。[ 8 ]

網膜芽細胞腫を有するすべての患者に遺伝カウンセリングが推奨される。(詳しい情報については、網膜芽細胞腫の治療に関するPDQ要約の遺伝カウンセリングのセクションを参照のこと。)

(網膜芽細胞腫の治療に関する情報については、網膜芽細胞腫の治療のPDQ要約を参照のこと。)

参考文献
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腎腫瘍

ウィルムス腫瘍

他の小児胚芽腫と同様に、ウィルムス腫瘍は、典型的に限定数の遺伝子異常の後に発生する。1件の研究では、ウィルムス腫瘍117例に対してゲノムワイドシークエンシング、mRNAおよびmiRNA発現、DNAコピー数、およびメチル化解析が実施され、その後ウィルムス腫瘍651例に対して標的シークエンシングが実施された。[ 1 ]腫瘍は、予後良好な組織型(FH)で再燃したウィルムス腫瘍またはびまん性退形成が認められるウィルムス腫瘍のいずれかで選択された。研究により以下が示された:[ 1 ]

ウィルムス腫瘍症例の約3分の1で、WT1CTNNB1、またはWTXの変異が関与している。[ 2 ][ 3 ]ウィルムス腫瘍症例のその他のサブセットは、DROSHADGCR8DICER1、およびXPO5などのmiRNAプロセッシング遺伝子(miRNAPG)における変異に起因している。[ 4 ][ 5 ][ 6 ][ 7 ]初期の腎発生に不可欠な他の遺伝子で、ウィルムス腫瘍に頻発性変異がみられるものには、SIX1およびSIX2(初期の腎発生に重要な役割を果たす転写因子)[ 4 ][ 5 ]EP300CREBBP、ならびにMYCNがある。[ 1 ]ウィルムス腫瘍にみられる変異のうち、30~50%が腎発生における転写延長プロセスに集中しているとみられ、これらには、MLLT1BCORMAP3K4BRD7、およびHDAC4が含まれる。[ 1 ]退形成型ウィルムス腫瘍は、TP53変異の存在を特徴とする。

WAGR(ウィルムス腫瘍、無虹彩症、泌尿生殖器奇形、および精神遅滞)症候群、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群、片側肥大症、Denys-Drash症候群、およびパールマン症候群など、多くの遺伝性疾患の患者でウィルムス腫瘍の発生率上昇が観察される。[ 8 ]家族性ウィルムス腫瘍の症例で観察されている他の遺伝的原因には、RESTおよびCTR9における生殖細胞変異がある。[ 9 ][ 10 ]

ウィルムス腫瘍のゲノム的および遺伝的特徴を以下に要約する。

WT1遺伝子

WT1遺伝子は、11番染色体単腕(11q13)に位置する。WT1は、正常な泌尿生殖器の発生に必要な転写因子であり、腎芽体の分化に重要である。[ 11 ]WT1変異は、散発性ウィルムス腫瘍の10~20%の症例で観察される。[ 2 ][ 11 ][ 12 ]

WT1変異を有するウィルムス腫瘍は、以下を特徴とする:

WT1の生殖細胞変異は、ウィルムス腫瘍の小児で多くみられ、さらに以下のいずれかの小児にも多くみられる:

WT1の生殖細胞変異を伴う症候性疾患には、WAGR症候群、Denys-Drash症候群[ 22 ]、およびFrasie症候群[ 23 ]がある。

WT1の生殖細胞点変異は、腎症、46XYの性発達障害、およびさまざまなリスクのウィルムス腫瘍を特徴とする遺伝的症候群をもたらす。[ 29 ][ 30 ]

WT1変異の遺伝子型と表現型の相関を評価した研究で、ウィルムス腫瘍のリスクは、切断型変異で最も高く(17症例中14例、82%)、ミスセンス変異で低い(67症例中27例、42%)ことが示されている。このリスクは、KTSスプライス部位の変異で最も低い(27症例中1例、4%)。[ 29 ][ 30 ]WT1切断型変異の症例における両側性ウィルムス腫瘍(14症例中9例)は、WT1ミスセンス変異の症例(27症例中3例)よりもはるかに多い。[ 29 ][ 30 ]これらのゲノム研究によって、Denys-Drash症候群の小児でウィルムス腫瘍のリスクが高く、Frasier症候群の小児でウィルムス腫瘍のリスクが低いという以前の推定が確認される。

WAGR症候群およびウィルムス腫瘍に伴う晩期合併症(晩期障害)には以下のものがある:

(ウィルムス腫瘍に伴う晩期合併症(晩期障害)に関する詳細情報については、ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の治療に関するPDQ要約のウィルムス腫瘍治療後の晩期合併症(晩期障害)のセクションを参照のこと。)

CTNNB1遺伝子

CTNNB1は、ウィルムス腫瘍で最も多く変異がみられる遺伝子であり、ウィルムス腫瘍患者の15%で発生すると報告されている。[ 1 ][ 3 ][ 12 ][ 14 ][ 34 ]これらのCTNNB1変異により、WNT経路の活性化がもたらされ、腎発生で重要な役割を果たす。[ 35 ]CTNNB1変異は、WT1変異を伴って多くみられ、WT1変異を認めるウィルムス腫瘍のほとんどの症例は、同時にCTNNB1変異を伴っている。[ 12 ][ 14 ][ 34 ]WT1またはWTX変異がみられないと、MLLT1変異を伴う場合を除き、CTNNB1変異が検出されるのはまれなため、損傷していないWT1蛋白の存在下でβ-カテニンが活性化しても、腫瘍発生を促すには不十分と考えられる。[ 3 ][ 36 ]CTNNB1変異は、腫瘍で検出されるが、nephrogenic restでは検出されないため、ウィルムス腫瘍の発生における後期の事象と考えられる。[ 17 ]

X染色体上のWTX遺伝子

WTXは、AMER1とも呼ばれ、X染色体のXq11.1に位置する。この遺伝子は、ウィルムス腫瘍症例の15~20%で変化している。[ 2 ][ 3 ][ 12 ][ 37 ][ 38 ]WTXの生殖細胞変異は、X連鎖性の硬化性骨異形成、つまり頭蓋硬化症を伴う先天性骨線条症(MIM300373)を引き起こす。[ 39 ]先天性骨線条症の患者は、WTXの生殖細胞変異があるにもかかわらず、腫瘍発生の素因を有しない。[ 39 ]WTX蛋白は、β-カテニンの分解およびAPC蛋白の細胞内分布の両方に関与していると考えられる。[ 36 ][ 40 ]WTXは、WTX遺伝子の一部または全部を含む欠失によって最も多く変異しており、有害な点変異の発生頻度は高くない。[ 2 ][ 12 ][ 37 ]WTX変異を伴うウィルムス腫瘍のほとんどの症例で、エピジェネティックな11p15異常がみられる。[ 12 ]

WTX変異は、男女間で等しく分布しており、WTX不活性化は、臨床症状または予後に影響しないと考えられる。[ 2 ]

染色体11p15(WT2)上のインプリンティングクラスター領域(ICR)とベックウィズ-ヴィーデマン症候群

ウィルムス腫瘍の第2の遺伝子座であるWT2は、染色体11p15.5のインプリンティングドメイン領域に位置している;この遺伝子が生殖細胞変異すると、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群が発生する。ウィルムス腫瘍の小児の約3%では、過成長の臨床症状を伴わずに、11p15.5の増殖調節遺伝子座で生殖細胞のエピジェネティック変化または遺伝子変化がみられる。ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の小児のように、これらの小児では、両側性ウィルムス腫瘍または家族性ウィルムス腫瘍の発生率が高い。[ 28 ]

ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の患者でウィルムス腫瘍を発症する患者の約5分の1で両側性病変がみられ、異時性の両側性病変も観察される。[ 25 ][ 41 ][ 42 ]ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の有病率は、National Wilms Tumor Study(NWTS)に報告されたウィルムス腫瘍の小児で約1%である。[ 42 ][ 43 ]

ベックウィズ-ヴィーデマン症候群患者の約80%では、11p15ドメインの分子欠損がみられる。[ 44 ]ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の基礎をなすさまざまな分子機構が同定されている。これらの異常の一部は、遺伝子変化(CDKN1Cの母方アレルの生殖細胞変異、11p15の父方片親性イソダイソミー、または11p15ドメインの部分重複)であるが、エピジェネティック変化(母方ICR2/KvDMR1のメチル化喪失または母方ICR1のメチル化増強)の頻度が高い。[ 28 ][ 45 ]

WT2遺伝子座に位置するいくつかの候補遺伝子がIGF2/H19およびKIP2/LIT1という独立した2つのインプリンティングドメインを構成している。[ 45 ]LOHは、母方染色体のみに影響を与え、父方の活性遺伝子の発現を促し、母方の活性遺伝子の発現を抑制する作用がある。この領域における遺伝子のインプリントの消失またはスイッチ(メチル化状態の変化)も高い頻度で観察されており、同様の機能異常をもたらす。[ 28 ][ 44 ][ 45 ]

エピジェノタイプと表現型との関係は、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群で明らかにされており、ベックウィズ-ヴィーデマン症候群では11p15領域の変異の種類に応じてがんの発生率が異なっている。[ 46 ]

特定の遺伝子型-表現型の相関を特徴とするベックウィズ-ヴィーデマン症候群には、以下の4つの主要な分子的サブタイプがある:

  1. ICR1のメチル化(ICR1-GoM)。症例の5~10%は、テロメアICR1-GoMにより引き起こされ、IGF2遺伝子(正常であれば父方アレルのみによって発現)の両アレル性発現に加え、腫瘍抑制性のH19遺伝子の発現減少が生じる。ウィルムス腫瘍の発生率は22.8%である。[ 47 ]
  2. ICR2のメチル化喪失(ICR2-LoM)。ベックウィズ-ヴィーデマン症候群症例の50%は、ICR2-LoMにより引き起こされ、正常であれば母系染色体のみによって発現するCDKN1C遺伝子の発現減少を来す。腫瘍の発生率は、非常に低い(2.5%)。[ 47 ]
  3. 片親性ダイソミー(UPD)。染色体11p15.5に位置するモザイクUPDでは、両方のインプリンティング遺伝子クラスターでの発現変化が観察され、本症例の20~25%を占めている。ウィルムス腫瘍の発生率は6.2%で、次に肝芽腫(4.7%)および副腎がん(1.5%)が多い。[ 47 ]ベックウィズ-ヴィーデマン症候群症例の1%未満は、11p15領域を巻き込んだ染色体再構成によって発生する。
  4. CDKN1C変異。母系遺伝性のCDKN1C機能喪失変異は、本症例の約5%を占めている。この種類は、神経芽腫の4.3%の発生率と関係している。[ 47 ]

父方の11p15イソダイソミーを有する患者では神経芽腫または肝芽腫などの他の腫瘍が報告された。[ 48 ][ 49 ][ 50 ]ベックウィズ-ヴィーデマン症候群の患者が肝芽腫を発症する相対リスクは一般集団におけるリスクの2,280倍である。[ 42 ]

インプリンティングの消失または遺伝子のメチル化が他の遺伝子座で検出されるのはまれであることから、11p15.5でのインプリンティングの消失の特異性が裏付けられる。[ 51 ]興味深いことに、ヨーロッパの小児におけるよりも発生率が低いアジアの小児におけるウィルムス腫瘍は、nephrogenic restまたはIGF2のインプリンティングの消失のいずれとも関連していない。[ 52 ]

その他の遺伝子変異および染色体変化

ウィルムス腫瘍の発生機序および生物学に関与しているその他の遺伝子および染色体の変化には以下のものがある:

図11では、予後良好な組織型を示すにもかかわらず、再燃が認められたことから抽出したウィルムス腫瘍患者の選択コホートにおけるゲノムの全体像を要約している。[ 18 ]予後良好な組織型のウィルムス腫瘍75症例が遺伝子発現データの教師なし解析により6つのクラスターに分類された。遺伝子発現データが得られたMLLT1変異腫瘍の6個中5個がクラスター3に含まれ、2個がCTNNB1変異を伴っていた。このクラスターには、WT1の変異または小区画欠失を伴う腫瘍も4個含まれており、そのいずれにもCTNNB1変異またはWTXの小区画欠失もしくは変異のいずれかが認められた。また、11p15のインプリンティングを保持しているかなりの数の腫瘍も含まれていた(MLLT1変異腫瘍はすべて含まれていた)。miRNAPG変異例は一緒にクラスター分類され、MLLT1およびWT1/WTX/CTNNB1変異例の両方と相互排他的であった。

臨床的に特有の予後良好な組織型のウィルムス腫瘍に関する遺伝子発現データの教師なし解析を示す図。

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図11.遺伝子発現データの教師なし解析。予後良好な組織型のウィルムス腫瘍75症例の非負値行列因子分解(Non-negative Matrix Factorization、NMF)による解析で6つのクラスターが認められた。遺伝子発現データが得られたMLLT1変異腫瘍の6個中5個がNMFによるクラスター3に含まれ、2個がCTNNB1変異を伴っていた。このクラスターには、11p15のインプリンティングを保持しているかなりの数の腫瘍も含まれおり(MLLT1変異腫瘍はすべて含まれていた)、他のクラスターとは対照的に、ほとんどの症例が11p15のヘテロ接合性の消失またはインプリンティングの保持を示した。miRNAPG変異を認めるほぼすべての症例はNMFによるクラスター2に分類され、WT1、WTX、およびCTNNB1変異のほとんどがNMFによるクラスター3および4であった。Copyright © 2015 Perlman, E. J. et al.MLLT1 YEATS domain mutations in clinically distinctive Favourable Histology wilms tumours. Nat. Commun. 6:10013 doi: 10.1038/ncomms10013 (2015).この論文は、http://creativecommons.org/licenses/by/4.0/で記載されているように、Nature Publishing Group(Macmillan Publishers Limitedの1部門)によりCreative Commons Attribution 4.0 International License下で配布されている。

(ウィルムス腫瘍の治療に関する情報については、ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

腎細胞がん

腎臓の転座陽性がんは、腎細胞がん(RCC)の別の病態として認識されており、小児におけるRCCで最も多くみられる病態と考えられ、小児RCCの40~50%を占めている。[ 78 ]小児および青年のRCC患者120人を対象とした小児腫瘍学グループ(COG)のプロスペクティブ臨床試験で、半数近くの患者が転座陽性のRCCであった。[ 79 ][ 80 ]これらのがんは、Xp11.2に位置するTFE3遺伝子を巻き込んだ転座を特徴とする。TFE3遺伝子は、以下のいずれかの遺伝子をパートナーとする場合がある:

他のまれな転座の亜型であるt(6;11)(p21;q12)は、TFEBの遺伝子融合を含み、TFEBの過剰発現を生じる。TFE3およびTFEBを巻き込んだ転座は、これらの蛋白の過剰発現を引き起こし、免疫組織化学検査により同定可能である。[ 81 ]

Xp11転座型RCCを発症する危険因子として唯一知られているのは、過去の化学療法への曝露である。1件の研究で、化学療法後から発症までの期間は、4~13年の範囲であった。報告されているすべての患者に対して、DNAトポイソメラーゼII阻害剤および/またはアルキル化剤が投与された。[ 82 ][ 83 ]

小児および若年成人における転座型RCCの生物学的挙動に関しては見解が分かれている。数件のシリーズによると、転座と関連するRCCより進行した病期(III期/IV期)で発見されたにもかかわらず、RCCの治療に手術単独を用いた場合でも予後良好であることが示唆されているが、あるメタアナリシスによると、このような患者は転帰がより不良であることが報告された。[ 84 ][ 85 ][ 86 ]これらの患者の転帰は、進行中のCOGのAREN03B2(NCT00898365)の生物学および分類研究で検討されている。血管内皮増殖因子受容体標的療法および哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mTOR)阻害剤は、Xp11転座型の転移性RCCで活性があるとみられている。[ 87 ]転座を伴ったRCCの初回切除から20~30年後でも、再発が報告されている。[ 88 ]

Xp11転座を有するRCCの診断には、TFE3の免疫組織化学検査単独で報告された症例でこの転座が認められないことから、むしろ分子遺伝学的アプローチによる確認が必要である。RCC症例には、TFE3が陽性で、TFE3転座が認められず、代わりにALK転座を示すまれなサブセットが存在する。このサブセットの症例は、RCC内で新たに認識されたサブグループであり、未分類の小児RCCの15~20%を含むと推定される。6~16歳の小児で報告された8症例において、以下が観察された:[ 89 ][ 90 ][ 91 ][ 92 ]

(腎細胞がんの治療に関する情報については、ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

腎臓ラブドイド腫瘍

ラブドイド腫瘍では、解剖学的な部位を問わず、染色体22q11.2に位置するSMARCB1(INI1/SNF5/BAF47)遺伝子の機能喪失という一般的な遺伝子異常が認められる。以下の記述では、原発部位を問わずにラブドイド腫瘍に言及している。SMARCB1は、遺伝子の転写制御に重要な役割を果たすSWI/SNF(SWItch/Sucrose NonFermentable)クロマチンリモデリング複合体を構成する蛋白をコードする。[ 93 ][ 94 ]機能喪失は、SMARCB1遺伝子の一部または全部の喪失に至る欠失およびSMARCB1蛋白のpremature truncationに至る一般的にフレームシフトまたはナンセンス変異である変異により生じる。[ 94 ][ 95 ]ラブドイド腫瘍のうち割合は小さいが、SWI/SNF複合体における主要ATPaseであるSMARCA4の変異により生じるものがある。[ 96 ][ 97 ]ラブドイド腫瘍の35症例を対象としたエクソーム配列決定では、ごく低い変異率が確認され、腫瘍形成に関与していると考えられていたSMARCB1以外に、頻発性の変異遺伝子はみられなかった。[ 98 ]

脳および/または腎臓に原発腫瘍が1つまたは複数認められる患者においてSMARCB1の生殖細胞変異が確認されており、ラブドイド腫瘍発症の遺伝的素因と一致している。[ 99 ][ 100 ]ラブドイド腫瘍患者の約3分の1にSMARCB1の生殖細胞変異が認められる。[ 94 ][ 101 ]ほとんどの症例において変異はde novoであり、遺伝ではない。ラブドイド腫瘍で生殖細胞変異または欠失を認める小児の診断時年齢中央値(6ヵ月)は、明らかな散発性疾患の小児(18ヵ月)より若い。[ 102 ]生殖細胞のモザイク現象は、複数の罹患した同胞を有するいくつかの家系で提唱されている。生殖細胞変異がある患者は、最も予後不良の可能性があるとみられている。[ 103 ][ 104 ]SMARCA4の生殖細胞変異もラブドイド腫瘍患者で報告されている。[ 96 ][ 105 ]

(腎臓ラブドイド腫瘍の治療に関する情報については、ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の治療のPDQ要約を参照のこと。)

腎明細胞肉腫

腎明細胞肉腫はまれな腎腫瘍で、小児におけるすべての原発性腎悪性腫瘍の約5%を構成し、米国における毎年約20例の新規症例を占め、3歳前に最も多くみられる。[ 106 ]腎明細胞肉腫はまれであり、実験モデルがないため、その分子的背景はほとんど解明されていない。

腎明細胞肉腫の生物学的特徴は、以下を含めていくつか報告されている:

(腎明細胞肉腫の治療に関する情報については、ウィルムス腫瘍とその他の小児腎腫瘍の治療のPDQ要約を参照のこと。)

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  113. Kao YC, Sung YS, Zhang L, et al.: Recurrent BCOR Internal Tandem Duplication and YWHAE-NUTM2B Fusions in Soft Tissue Undifferentiated Round Cell Sarcoma of Infancy: Overlapping Genetic Features With Clear Cell Sarcoma of Kidney. Am J Surg Pathol 40 (8): 1009-20, 2016.[PUBMED Abstract]
  114. Argani P, Pawel B, Szabo S, et al.: Diffuse Strong BCOR Immunoreactivity Is a Sensitive and Specific Marker for Clear Cell Sarcoma of the Kidney (CCSK) in Pediatric Renal Neoplasia. Am J Surg Pathol 42 (8): 1128-1131, 2018.[PUBMED Abstract]
黒色腫

(小児黒色腫のゲノミクスに関する情報については、小児黒色腫の治療に関するPDQ要約の分子的特徴のセクションを参照のこと。)

(小児黒色腫の治療に関する情報については、小児黒色腫の治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

甲状腺がん

(小児甲状腺がんのゲノミクスに関する情報については、小児甲状腺がんの治療に関するPDQ要約の分子的特徴のセクションを参照のこと。)

(小児甲状腺がんの治療に関する情報については、小児甲状腺がんの治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

多発性内分泌腫瘍症候群

(小児MEN症候群のゲノミクスに関する情報については、小児多発性内分泌腫瘍[MEN]症候群の治療に関するPDQ要約の臨床像、診断的評価、および分子的特徴のセクションを参照のこと。)

(小児MEN症候群の治療に関する情報については、小児多発性内分泌腫瘍[MEN]症候群の治療に関するPDQ要約を参照のこと。)

本要約の変更点(05/13/2020)

PDQがん情報要約は定期的に見直され、新情報が利用可能になり次第更新される。本セクションでは、上記の日付における本要約最新変更点を記述する。

白血病

急性リンパ芽球性白血病(ALL)のサブセクションは再編集された。

本要約はPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardが作成と内容の更新を行っており、編集に関してはNCIから独立している。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたはNIHの方針声明を示すものではない。PDQ要約の更新におけるPDQ編集委員会の役割および要約の方針に関する詳しい情報については、本PDQ要約についておよびPDQ® - NCI's Comprehensive Cancer Databaseを参照のこと。

本PDQ要約について

本要約の目的

医療専門家向けの本PDQがん情報要約では、小児がんのゲノミクスについて、包括的な、専門家の査読を経た、そして証拠に基づいた情報を提供する。本要約は、がん患者を治療する臨床家に情報を与え支援するための情報資源として作成されている。これは医療における意思決定のための公式なガイドラインまたは推奨事項を提供しているわけではない。

査読者および更新情報

本要約は編集作業において米国国立がん研究所(NCI)とは独立したPDQ Pediatric Treatment Editorial Boardにより定期的に見直され、随時更新される。本要約は独自の文献レビューを反映しており、NCIまたは米国国立衛生研究所(NIH)の方針声明を示すものではない。

委員会のメンバーは毎月、最近発表された記事を見直し、記事に対して以下を行うべきか決定する:

要約の変更は、発表された記事の証拠の強さを委員会のメンバーが評価し、記事を本要約にどのように組み入れるべきかを決定するコンセンサス過程を経て行われる。

本要約の内容に関するコメントまたは質問は、NCIウェブサイトのEmail UsからCancer.govまで送信のこと。要約に関する質問またはコメントについて委員会のメンバー個人に連絡することを禁じる。委員会のメンバーは個別の問い合わせには対応しない。

証拠レベル

本要約で引用される文献の中には証拠レベルの指定が記載されているものがある。これらの指定は、特定の介入やアプローチの使用を支持する証拠の強さを読者が査定する際、助けとなるよう意図されている。PDQ Pediatric Treatment Editorial Boardは、証拠レベルの指定を展開する際に公式順位分類を使用している。

本要約の使用許可

PDQは登録商標である。PDQ文書の内容は本文として自由に使用できるが、完全な形で記し定期的に更新しなければ、NCI PDQがん情報要約とすることはできない。しかし、著者は“NCI's PDQ cancer information summary about breast cancer prevention states the risks succinctly: 【本要約からの抜粋を含める】.”のような一文を記述してもよい。

本PDQ要約の好ましい引用は以下の通りである:

PDQ® Pediatric Treatment Editorial Board.PDQ Childhood Cancer Genomics.Bethesda, MD: National Cancer Institute.Updated <MM/DD/YYYY>.Available at: https://www.cancer.gov/types/childhood-cancers/pediatric-genomics-hp-pdq.Accessed <MM/DD/YYYY>.[PMID: 27466641]

本要約内の画像は、PDQ要約内での使用に限って著者、イラストレーター、および/または出版社の許可を得て使用されている。PDQ情報以外での画像の使用許可は、所有者から得る必要があり、米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が付与できるものではない。本要約内のイラストの使用に関する情報は、多くの他のがん関連画像とともにVisuals Online(2,000以上の科学画像を収蔵)で入手できる。

免責条項

入手可能な証拠の強さに基づき、治療選択肢は「標準」または「臨床評価段階にある」のいずれかで記載される場合がある。これらの分類は、保険払い戻しの決定基準として使用されるべきものではない。保険の適用範囲に関する詳しい情報については、Cancer.govのManaging Cancer Careページで入手できる。

お問い合わせ

Cancer.govウェブサイトについての問い合わせまたはヘルプの利用に関する詳しい情報は、Contact Us for Helpページに掲載されている。質問はウェブサイトのEmail UsからもCancer.govに送信可能である。