原文更新日 : 2005-11-10
翻訳更新日 : 2007-06-27
心肺症候群とは心臓と肺の症状のことで、具体的には呼吸困難(息切れ)、咳、胸痛、不整脈、胸水(肺の周りに液体が溜まった状態)、心嚢水(心臓の周りの空間に液体が溜まった状態)などが挙げられます。これらの症状は、がんによって引き起こされることもあれば、別の病態が原因で引き起こされることもあります。この要約では、がんが原因で生じることの多い心肺症候群として、以下の4つについて解説しています:
呼吸困難とは、呼吸がうまくできずに苦しくなることや息切れが起きることなどをいいます。患者さんが呼吸の苦しさを表現するのには様々な言い方があり、「胸が締め付けられる」とか「息苦しい」などの表現が使われます。呼吸困難に伴う苦痛の程度には個人差があり、軽い不快感を訴えるだけの患者さんもいれば、強い苦しみを訴える患者さんもいます。呼吸困難は進行がん、肺がんの患者さんに多くみられ、特に死亡前の6週間によく起こります。
呼吸困難や咳は様々な原因で引き起こされます。がんの患者さんの場合は、以下のような原因が考えられます:
患者さんの呼吸困難や咳の原因を診断することは、治療計画を立てる上で重要です。診断検査には以下のものがあります:
呼吸困難の原因の管理
呼吸困難は、その原因を特定し治療することが可能な場合もあります。その治療法は以下の通りです:
大気道の周囲に腫瘍ができ、それによる圧迫によって気道が塞がれている場合には、その部分を開通させてそれを維持するために、手術を行って気道内にステント(細い管)を設置する場合があります。
呼吸困難の症状管理
呼吸困難の症状を管理していくための方法としては、以下のようなものが挙げられます:
呼吸障害のために空気中から十分な量の酸素を取り入れることのできない患者さんには、タンクやボンベからの吸入による酸素補給を行います。空気中の酸素を濃縮するタイプの吸入器が処方される場合もあります。
鎮痛剤を使用することによって、肉体的苦痛や精神的苦痛、体力の消耗などを緩和し、患者さんの生活の質を改善できます。この他にも、パニック障害に伴う呼吸困難や重度の不安に伴う呼吸困難の治療にも、薬を用いることがあります。
患者さんによっては支持的なケアが効果的となる場合があります。具体的には以下のような手法が挙げられます:
慢性の咳の管理
患者さんによっては慢性の(長期にわたって続く)咳が原因となって、痛みや中途覚醒などの症状が起きたり、呼吸困難や疲労がさらにひどくなったりすることがあります。その治療法は以下の通りです:
胸部の肺を取り囲む空間は胸腔と呼ばれます。肺の外側と胸壁の内側は胸膜と呼ばれる薄い組織層で覆われていて、この胸膜によって胸腔全体が包み込まれる形になっています。胸膜の組織は通常、胸腔内での呼吸による肺の動きを円滑にするために、少量の液体を分泌しています。胸水とは、胸腔内に過剰に溜まる液体で、これにより肺が圧迫されて呼吸が困難になります。
胸水には、悪性の場合(がんが原因の場合)と非悪性の場合(がん以外が原因の場合)があります。悪性胸水は、がんの患者さんによくみられる合併症です。悪性胸水の原因としては、肺がん、乳がん、リンパ腫、白血病がその大部分を占めています。また胸水はがんの治療(放射線療法や化学療法など)が原因となって起こることもあり、このようなものは擬似悪性胸水と呼ばれます。
がんの患者さんに胸水がみられたとしても、必ずしも悪性というわけではありません。がんの患者さんでは、しばしばうっ血性心不全や肺炎、肺塞栓症、栄養失調などといった別の病態が並存しているため、これらによって胸水が起きる可能性があります。
悪性胸水が原因となり引き起こされる症状は、以下の通りです:
悪性胸水と非悪性胸水ではその対応方法が異なってくるため、正確な診断が重要になります。診断検査は以下の通りです:
進行がんの患者さんや切除不能のがんを抱える患者さん、死期を間近に控えた患者さんでは、悪性胸水がしばしば発生してきます。そうした場合の治療は、症状を軽減して生活の質を改善することを目標とした、緩和的なものになるのが通常です。ただし個々の患者さんでの治療目標は、以下に挙げるような数多くの要素に応じて異なってきます:
悪性胸水の症状に対する治療法は、以下の通りです:
(悪性胸水の診断のセクションをご覧ください。)胸腔内に溜まった液体を針を用いて体外に排出させるこの治療法は、重い症状を軽減するという意味で、短期的には有用となります。しかし胸腔穿刺を実施したとしても、数日もすれば再び胸腔内に液体が溜まり始めてきます。そうして胸腔穿刺を何度も繰り返していくうちに、出血や感染、肺の虚脱、肺内部での液体の貯留、低血圧などの危険性が生じてきます。
これは胸水の再発を防ぐために胸膜同士を接着させてしまう治療法です。まず胸腔穿刺を行って胸腔内の液体を排出させておきます。その後、胸膜同士を癒着させる働きのある薬か化学薬品を、胸腔に挿入した管を通して胸腔内に注入します。使用される薬物や化学薬品としては、ブレオマイシンやタルクなどが挙げられます。
胸腔内に溜まった液体を腹腔内へと移動させるために(腹腔ならば体外への排出が容易になるため)、シャントと呼ばれる細い管を体内に移植(インプラント)する手術が行われることもあります。この他にも、壁側胸膜(胸膜のうち胸壁の内側を覆っている部分)を切除する、胸膜切除術という手術法もあります。
心嚢水とは、心膜(心臓を包む袋状の薄い組織層)の内部に多量の液体が溜まった状態のことをいいます。この過剰な量の液体によって心臓が圧迫され、血液を全身に送り出すための心臓の動きが妨げられます。 またリンパ管が圧迫されてリンパ液の流れが遮られる場合もあり、その結果、細菌やウイルスへの感染が起きやすくなります。また心膜内での液体の貯留があまりに急速に生じてしまう場合には、心タンポナーデと呼ばれる状態が生じることがあり、この状態での心臓への圧迫は生命に関わってくるので、直ちに治療を開始しなければなりません。
心嚢水には、悪性の場合と非悪性の場合があります。悪性心嚢水は、心膜や心筋に発生したがんが原因で生じることもあれば、肺や食道、胸腺、リンパ系などから心臓に拡がってきたがんが原因のこともあります。悪性心嚢水は、男性では肺がん、女性では乳がんが原因となるのが一般的です。非悪性の原因としては、心膜の感染症、心臓発作、甲状腺の機能低下、ループス、外傷、手術、AIDSなどが挙げられます。心膜の感染症は、放射線療法や化学療法の副作用として発生することがあります。
悪性心嚢水が原因で引き起こされる症状は、以下の通りです:
心嚢水は通常、進行がんの患者さんや死期を間近に控えた患者さんに発生するため、大掛かりな診断検査よりも症状を軽減することの方が重要なことがあります。心嚢水の診断に用いられる検査法や手技は、以下の通りです:
重度の悪性心嚢水の管理は排液によって行われますが、治療の目標が延命ではなく侵襲性の低い治療法による生活の質の改善である場合は、その限りではありません。患者さんごとの治療目標は、以下に挙げるような数多くの要素に応じて異なってきます:
治療法の選択肢は以下の通りです:
(悪性心嚢水の診断のセクションをご覧ください。)患者さんによっては、心嚢穿刺の実施後も再び心膜内に液体が溜まることがあります。継続的に排液を行うためにカテーテルを挿入して、そのまま留置しておく場合もあります。この治療法は、進行がんの患者さんに対して侵襲性の高い手術の代わりの方法として用いられます。
心膜内に液体が再び溜まってこないようにするために心膜内の空間をなくす治療法。まず心膜穿刺を行って心膜内の液体を排出させておきます。その後、心膜を癒着させる作用のある薬物や化学薬品を、心膜内に挿入したカテーテルを通して心膜内の空間に注入します。心膜を完全に癒着させるためには、3種類以上の薬物や薬品が必要となる場合もあります。
心膜の一部を切除する手術。この方法は、心膜に慢性の感染症がある場合や、心タンポナーデの発生により緊急に排液が必要となった場合に用いられます。この手術は心膜開窓術とも呼ばれます。
先端部にバルーンの付いたカテーテルを胸部から心膜内へと挿入します。次にバルーンをふくらませて心膜の切開口を拡げることにより、心膜内の液体を胸腔内へと排出させます。この方法は、心嚢穿刺の実施後に心嚢水が再発した場合や、より侵襲性の強い手術の代わりの方法として用いられます。
上大静脈症候群(SVCS)とは、上大静脈が部分的に閉塞(塞がること)してしまうことが原因で生じる一群の症状のことをいいます。
心臓の右心房には、2本の大静脈(上大静脈と下大静脈)から血液が送り込まれています。
上大静脈は壁が薄く、内部での血液の圧力は比較的に低く保たれています。胸部に腫瘍ができたり、リンパ腫などが原因で付近のリンパ節が腫れあがったりすると、この上大静脈が圧迫されてしまうことがあります。そうすると血流量が減少してしまいます。場合によってはこの静脈が完全に閉塞してしまうこともあります。閉塞した上大静脈の代役を果たすために別の静脈が太くなることもあるのですが、これには一定の時間がかかります。上大静脈症候群(SVCS)とは、この静脈が部分的に閉塞した場合に発生してくる、一群の症状のことをいいます。
その症状は閉塞部位の位置と閉塞の速さによって異なってきます。
上大静脈の閉塞が急速に起こる場合には、症状はより重くなります。これは他の静脈が拡がっていくのに時間が足りず、上大静脈の閉塞によって減少した血流量を補うことができないためです。
閉塞部位の位置によっても、以下のように症状の重さが変わってきます:
上大静脈症候群でよくみられる症状には、呼吸障害と咳があります。
最もよくみられる症状としては以下のものが挙げられます:
比較的に頻度の低い症状としては以下のものが挙げられます:
上大静脈症候群(SVCS)は通常、がんが原因で発生します。成人の場合、上大静脈症候群は肺がんか非ホジキンリンパ腫に伴って発生してきます。これは、胸部にできた腫瘍やリンパ節の腫れによって上大静脈が圧迫されて血流が遮られるためです。頻度は低くなるものの、上大静脈に閉塞が起きる原因はこの他にも以下のものがあります:
上大静脈症候群の診断と閉塞位置の特定には、以下のような検査法が用いられます:
がんの種類によって必要となる治療法が異なってくるため、上大静脈症候群の治療開始の前に、その原因として疑われているがんの診断を済ませておく必要があります。成人の場合、気道の閉塞や脳の腫れが認められないかぎりは、診断がつくまで治療の開始を待ったとしても問題は生じないのが通常です。肺がんが疑われる場合は、痰の採取と生検が行われます。
この要約では、がんが原因の上大静脈症候群(SVCS)に対する治療法が説明されています。治療法は以下の要因によって異なってきます:
上大静脈症候群の治療法には以下のものがあります:
注意深い経過観察
注意深い経過観察とは、症状の出現や変化がみられるまで、治療を一切行わずに患者さんの状態を注意深く監視していくことです。別の静脈によって血流が良好に保たれていて症状が軽い患者さんには、特に治療を行う必要はありません。
症状を軽減して患者さんの生活を快適に保つために、以下のようなケアを行うことがあります:
放射線療法
上大静脈の閉塞の原因となっている腫瘍に対して化学療法の効果がみられない場合には、放射線療法を実施することがあります。放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、カテーテルなどの器具の中に放射性物質を封入し、腫瘍の内部かその付近に直接留置する方法です。
化学療法
化学療法は、抗がん剤が効きやすい腫瘍にはよく用いられる治療法で、小細胞肺がんやリンパ腫にも有効です。この治療法は、上大静脈症候群の患者さんでも変わりはありません。化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによって、がん細胞の増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬を直接注入する化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。
血栓溶解
上大静脈症候群は、静脈の細くなった部分に血栓(血の塊)ができることによっても起きてくることがあります。血栓溶解とは、この血栓を溶かして除去する治療法のことです。その方法としては、カテーテルを用いて薬を血栓内に直接送り込むものと、血栓除去術(静脈内に特殊な器具を挿入する)を行うものがあります。
ステント留置
閉塞した静脈を開通させるためにステントが用いられることがあります。ステントは管状の器具で、これを静脈の閉塞部に挿入して、そのステントの中を血液が通過できるようにします。これはほとんどの患者さんに有効です。 それ以上血栓ができるのを予防するために、抗凝固薬が投与されることもあります。
手術
がんの患者さんでは、ときに静脈の閉塞部をバイパスする(迂回路を造る)手術が実施されることがありますが、この手術はがんではない患者さんで実施されることの方がより多くなっています。
上大静脈症候群は深刻な疾患であるため、その症状は患者さんやその家族に動揺を招くことがあります。 この疾患の原因と治療法に関する情報が患者さんとその家族に十分に提供されることが重要になります。そうすることによって、腫れや嚥下障害、咳、嗄声などといった症状に関する不安を軽減できる場合もあります。
終末期のがんの患者さんでは積極的な治療を受けないという選択がなされることもありますが、こうした場合は、症状を軽減して生活を快適に保っていくのに緩和療法が有用になってきます。患者さんとその家族は、症状を軽減し生活の質を改善していくための緩和ケアの実施方法について、医療提供者に情報を求めることができます。
小児では気管の閉塞が起きやすいことから、小児における上大静脈症候群の発生は緊急の対処を必要とする深刻な事態といえます。
小児の上大静脈症候群(SVCS)は、場合によっては生命に関わってくることもあります。なぜなら、小児の上大静脈症候群では気管の急激な閉塞が起きてしまう危険性があるからです。成人の気管は相当に硬くできているのですが、小児の気管は軟らかいため、圧迫が生じれば簡単に閉じてしまいます。また小児の気管は直径も小さいため、わずかな腫れでも呼吸障害が生じてきます。こうした気管の圧迫は上縦隔症候群(SMS)と呼ばれます。小児では上大静脈症候群と上縦隔症候群は併発することが多く、そのためこれら2つの症候群は同一のものとして扱われています。
小児の上大静脈症候群で最も多くみられる症状は、成人の場合とほぼ同様です。
よくみられる症状としては以下のようなものが挙げられます:
頻度は低くなるもののより重篤な症状としては以下のようなものが挙げられます:
小児の上大静脈症候群の原因、診断方法、治療法は成人の場合とは異なります。
小児の上大静脈症候群の原因で最も多いのは非ホジキンリンパ腫です。
小児に上大静脈症候群が起こるのはまれなことですが、その原因として最も多いのは非ホジキンリンパ腫です。また成人の場合と同様に、静脈内カテーテルを使用したことの副作用として血栓が生じ、これによって上大静脈症候群が引き起こされることもあります。
小児の上大静脈症候群では、がんの確定診断がつく前に診断され治療が行われることがあります。
小児の上大静脈症候群の診断には、身体診察と胸部X線検査と病歴聴取のみで十分であるのが通常です。がんが疑われているとしても、小児の肺と心臓が生検時の麻酔に耐えられないと判断される場合は、生検は実施されません。麻酔を使用しても安全かどうかの判定の参考にするために、他の画像検査を実施する場合もあります。こうしたことから患者さんの大半は、がんの確定診断がつく前から治療を受け始めることになります。
早急な治療の開始が重要になります。
小児の上大静脈症候群に対する治療法には以下のものがあります: