原文更新日 : 2005-06-22
翻訳更新日 : 2007-06-27
乳房は葉と乳管から構成されています。乳房には葉と呼ばれる組織の集まりが左右それぞれで15〜20個存在し、さらにそれぞれの葉は小葉と呼ばれる多数のより小さな組織から構成されています。さらにこの小葉の先端には、腺房と呼ばれる、乳汁を生産するための微細な円形の構造が数十個存在しています。葉と小葉と腺房は、乳管と呼ばれる細い管でつながっています。
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乳房の解剖図:リンパ節とリンパ管を示す。
乳房の中にはさらに血管とリンパ管が走っています。リンパ管の中にはリンパ液と呼ばれるほぼ無色の液体が流れています。リンパ管はリンパ節と呼ばれる臓器につながっています。リンパ節は豆粒状の小さな臓器で、全身のいたるところに点在しています。その役割はリンパ液のろ過や感染や病気に対する防衛などです。腋窩(わきの下)の乳房付近や鎖骨の上、胸部などには、このリンパ節が群れを成すように存在しています。
乳がんの中で最も多くみられるのは、乳管がんと呼ばれる、乳管の細胞から発生してくるものです。葉や小葉から発生してくるがんは小葉がんと呼ばれ、他の種類の乳がんと比べて両方の乳房に同時に発生する頻度が高くなっています。また炎症性乳がんという珍しい種類の乳がんもありますが、乳房が赤く腫れあがって熱感が生じてくるというのがその特徴です。
乳がんの発生リスクに影響を及ぼす要因に年齢と病歴があります。疾患が発生する可能性を増大させるものは全て危険因子と呼ばれます。乳がんの危険因子には以下のようなものがあります:
細胞の内部には遺伝子が格納されていますが、そこには両親から受け継いだ遺伝情報が保持されています。乳がん全体の約5%〜10%は遺伝性の乳がんが占めています。乳がんと関係のある変異遺伝子には、特定の民族集団では一般の集団よりも頻繁に認められるものもあります。
乳がんに関係する変異遺伝子をもつ女性では乳がんの発生リスクが高く、また片方の乳房に乳がんを患ったことのある女性では、もう一方の乳房でのがんの発生リスクが高くなります。さらにこれらの女性では卵巣がんの発生リスクも高くなっていて、加えてその他のがんについても発生リスクが高くなる場合があります。また男性の場合でも、乳がんに関係する変異遺伝子をもつ人ではこの疾患の発生リスクが高くなります。(さらに詳しい情報については、PDQの男性の乳がんの治療に関する要約をご覧ください。)
現在ではこうした変異遺伝子を検出する検査法が利用できます。このような遺伝子検査は、がんの発生リスクが高い家系の人々に対してしばしば実施されています。(さらに詳しい情報については、PDQの乳がんのスクリーニング、乳がんの予防、乳癌および卵巣癌の遺伝学に関する要約をご覧ください。)
乳がんの発見と診断には、乳房を調べる検査法が用いられます。乳房に顕著な変化がみられる場合は医師の診察を受けてください。以下のような検査法や手技が用いられます:
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予後(回復の見込み)と治療の選択を左右する因子には以下のものがあります:
がんの乳房内での拡がりや他の部位への転移の有無を調べていくプロセスは、病期分類と呼ばれます。この病期分類の過程で集められた情報を基に病期が判定されます。治療計画を立てる上では病期を把握しておくことが重要になります。
乳がんでは、以下の病期分類が用いられます:非浸潤性乳がんには以下の2種類があります:
I期では、腫瘍の大きさが2cm以下で、乳房の外部へのがんの拡がりは認められません。
IIA期IIA期では、以下の条件が満たされます:
IIIA期では、以下の条件が満たされます:
IIIB期では、その大きさには関係なく、がんが以下のような状態にあります:
IIIC期の乳がんは、手術可能なIIIC期と手術不能のIIIC期に分けられます。
手術可能なIIIC期では、がんについて以下の条件が満たされます:
手術不能のIIIC期乳がんでは、がんに侵されている乳房と同じ側の、頸部周囲の鎖骨より上側のリンパ節にがんの転移が認められます。
IV期炎症性乳がんでは、乳房が赤く腫れあがり、さらに熱感が生じてきます。この赤みと熱感は、がん細胞によって皮膚中のリンパ管が塞がれることが原因で起こります。さらに乳房の皮膚が、橙皮状皮膚(オレンジの皮のような皮膚)と呼ばれるあばた状の外観を呈してくる場合もあります。炎症性乳がんでは、その病期はIIIB期、IIIC期、IV期のいずれかとなります。
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橙皮状皮膚および陥没乳頭を伴う左胸の炎症性乳がん。
乳がんの患者さんは様々な治療を受けることができます。その中には標準治療(現在使用されている治療法)もあれば、臨床試験で検証中のものもあります。治療を開始する前に、まず臨床試験への参加を検討してみるのもよいでしょう。治療法の臨床試験とは、現在用いられている治療法の改善や、がんの新しい治療法に関する情報収集を目的とした調査研究のことです。新しい治療法が標準治療よりも優れているということが複数の臨床試験から示されると、その新しい治療法が標準治療となります。
臨床試験は米国各地で行われています。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。がん治療の選択では、患者さんとご家族に医療チームが加わって最適な治療法を決定していくのが理想的な形となります。
標準治療として以下の4種類が用いられています:乳がんの患者さんの大部分は、乳房からがんを摘出する手術を受けます。その際には、わきの下のリンパ節を一部だけ採取し、それを顕微鏡で観察してがん細胞の有無を調べるのが通常となっています。
がんを摘出しつつも乳房を残しておく手術法は乳房温存手術と呼ばれ、具体的には以下のようなものがあります:
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乳房温存手術を受ける患者さんには、生検材料の採取として、わきの下のリンパ節の一部も切除される場合があります。こうした手術はリンパ節郭清術と呼ばれます。この手術は、乳房温存手術の実施中かその実施後に行われます。リンパ節郭清術は別の切開口から行われます。
この他にも以下のような手術法があります:
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たとえ医師が手術の際に確認できる全てのがんを切除したとしても、残っているがん細胞を全て死滅させるために、術後に放射線療法か化学療法あるいはホルモン療法を実施する場合があります。このように治癒の可能性を高めるために手術の後に行われる治療は、術後補助療法と呼ばれます。
乳房切除術を受けることになった患者さんには、乳房再建術(乳房切除術の実施後に乳房の形を元に戻すための手術)の実施が検討されます。この乳房再建術は、乳房切除術と同時に実施することもできますし、後になってから実施することもできます。乳房の再建には、患者さん自身の(乳房以外の)組織を用いることもできますし、生理食塩水やシリコンジェルの入ったインプラントを用いることも可能です。ただしシリコンジェル入りの乳房インプラントについては、米国食品医薬品局(FDA)の決定により、その使用には臨床試験への参加が必要になっています。
放射線療法放射線療法は、高エネルギーX線などの放射線を利用してがん細胞を死滅させる、がんの治療法です。放射線療法には2種類のものがあります。外照射療法は、体外に設置された装置を用いてがんに放射線を照射する方法です。内照射療法は、針やシード、ワイヤー、カテーテルなどの器具の中に放射性物質を密封し、がんの内部かその付近に直接留置する方法です。放射線療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
化学療法化学療法は、薬を用いてがん細胞を殺傷したりその細胞分裂を妨害したりすることによりがんの増殖を阻止する治療法です。化学療法が経口投与や静脈内または筋肉内への注射によって行われる場合、投与された薬は血流に入って全身のがん細胞に到達します(全身化学療法)。脊柱内や臓器内、もしくは腹腔などの体腔内に薬を直接注入する化学療法では、薬はその領域のがん細胞に集中的に作用します(局所化学療法)。化学療法の実施方法は、治療中のがんの種類と病期によって異なってきます。
ホルモン療法ホルモン療法は、ホルモンを体内から除去したりその働きを妨害したりすることによってがん細胞の増殖を阻止する、がんの治療法です。ホルモンとは、体内の腺から分泌されて血流内を循環する物質のことです。がんの中には、特定のホルモンが存在すると増殖が活発になるものがあります。ホルモンが結合できる部分(レセプター)ががん細胞上に存在するということが検査によって判明した場合は、薬物投与や手術、放射線療法などの手段を用いて、そのホルモンの分泌を抑制したりその機能を阻害したりする治療を行っていきます。
早期の乳がんの患者さんと転移性乳がん (体内の他の部位に転移したもの)の患者さんには、タモキシフェンを用いたホルモン療法がしばしば実施されます。しかしタモキシフェン(薬剤詳細へ)かエストロゲン(薬剤詳細へ)を用いたホルモン療法は、全身の細胞に影響を及ぼす可能性があり、また子宮内膜がん(子宮体がん)の発生リスクを増大させる要因にもなりえます。そのためタモキシフェン(薬剤詳細へ)を服用している女性では、がんの徴候を見逃さないように年1回の内診(骨盤内領域の検査)を受けることが必要になります。膣出血(月経による出血は除く)がみられる場合は、できるだけ早く医師に相談する必要があります。
この他にも新しい治療法が臨床試験で検証されています。具体的には以下のようなものがあります:センチネルリンパ節生検とは、センチネルリンパ節(がん細胞がリンパ節へ転移する場合に最初に転移する可能性の最も高いリンパ節のこと)を手術によって摘出することです。まず放射性物質か青い色素を腫瘍の付近に注入します。するとこの放射性物や色素がリンパ管を通ってリンパ節へと流れていきます。ここで放射性物質か色素が最初に到達したリンパ節が生検材料として切除されます。直ちに病理医がその組織を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無を調べます。ここでがん細胞が発見されなければ、それ以上のリンパ節の切除は不要とされます。このセンチネルリンパ節生検が終わると、腫瘍を摘出する手術(乳房温存手術か乳房切除術)が外科医によって実施されます。
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| センチネルリンパ節生検。まず放射性物質か青い色素を腫瘍の近くに注入し(最初の図)、その後これらの物質を肉眼または検出器によって追跡していき(中央の図)、これらの物質を最初に取り込んだリンパ節を切除してがん細胞の有無を調べます(最後の図)。 | ||
幹細胞移植を併用した大量化学療法とは、高用量の化学療法を実施するとともに、このがん治療によって破壊された造血細胞を外から補充するという治療法です。まず患者さん自身かドナーから血液か骨髄を採取し、そこから幹細胞(成熟前の血液細胞)を取り出して凍結保存しておきます。そして化学療法の終了後に、保存していた幹細胞を解凍し、これを点滴によって患者さんの体内に戻します。こうして再注入された幹細胞が血液細胞に成長することにより、血液の機能が回復していきます。
乳がんの治療においては、幹細胞移植を併用した大量化学療法では標準的な化学療法よりも良好な結果は出せないということが、複数の研究から示されています。そのため医師たちの間では、大量化学療法については当面の間、臨床試験における検証的な実施のみに限定すべきとの考え方が定着しています。患者さんがそのような臨床試験への参加を考える場合は、大量化学療法によって発生しうる重大な副作用(死に至る場合もある)について、担当の医師と充分に話し合っておく必要があります。
術後補助療法としてのモノクローナル抗体の投与モノクローナル抗体療法とは、製造ラボで単一の免疫系細胞から抗体を作り出し、それを使用するがんの治療法のことです。ここでは、がん細胞の表面上に存在する物質に結合する抗体や、がん細胞の増殖を促進する物質に結合する抗体が作られます。こうした抗体がそれぞれの対象となる物質に結合することにより、がん細胞の死滅やその増殖の阻止、転移の抑止などといった効果が得られます。モノクローナル抗体の投与は点滴によります。単独で使用されることもありますが、薬や毒素、放射性物質などをがん細胞の下に送り届けるという目的でも用いられます。モノクローナル抗体はまた、術後補助療法として化学療法と組み合わせて用いられることもあります。
トラスツズマブ(ハ−セプチン)はモノクローナル抗体のひとつで、成長因子であるHER2(乳がん細胞に増殖のシグナルを送る蛋白)の作用を阻害します。乳がんの患者さんの約4分の1で、このトラスツズマブ(薬剤詳細へ)と化学療法の併用による治療が可能とされています。
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
非浸潤性乳管がん(DCIS)の治療法には以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
上皮内小葉がん(LCIS)の治療法には以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
I期、II期、IIIA期 、および手術可能なIIIC期の乳がんの治療法には、以下のようなものがあります:
さらに術後補助療法(治癒の可能性を高めるために手術の後に行われる治療)として、以下のようなものが用いられます:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
IIIB期の乳がんと手術不能のIIIC期の乳がんの治療法には、以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
IV期の乳がんと転移性乳がんの治療法には、以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。
炎症性乳がんの治療法には以下のようなものがあります:
本稿では、臨床試験で研究中の個々の治療法が記載されていますが、現在研究中の新しい治療法の全てが紹介されているわけではありません。現在進行中の臨床試験に関する情報は、米国国立がん研究所(NCI)のホームページから入手することができます。