原文更新日 : 2006-08-28
翻訳更新日 : 2007-06-27
疼痛(痛み)に関する患者さん向けのこの要約は、がんの専門家が医療従事者向けに作成した要約を編集したものです。本稿を含め、がんの治療、スクリーニング、予防、支持療法および現在米国で行われている臨床試験についての信頼できる情報は、米国国立がん研究所(NCI)から得られます。がんに伴う疼痛は、ほとんどの患者さんにおいてコントロール可能なのですが、十分に治療されていない場合が多々あります。この要約では、薬物療法、理学療法、心理療法を用いた、がんによる疼痛の対処法について簡単に説明します。
がんによる疼痛は、ほとんどのがんの患者さん、またはがんの病歴がある患者さんにおいて効果的に対処できます。がんによる疼痛は必ずしも完全になくなるわけではありませんが、治療によって大部分の患者さんでは疼痛が和らげられます。疼痛の管理によって、がんの全病期を通じて患者さんの生活の質(QOL)を改善できます。
柔軟な対応が、がんによる疼痛の対策には重要です。患者さんごとに、診断、がんの病期、疼痛や治療に対する反応、個人的な好みなどが異なるため、がんによる疼痛の治療も個々に対応していく必要があります。患者さんとその家族、医療提供者が密接に連絡を取り合うことが、患者さんの疼痛を効果的に管理する上で重要になります。
疼痛を治療するためには、疼痛を評価する必要があります。患者さんと医師は、がんの治療開始後定期的に、また新しい痛みが出た時は毎回、そして如何なる種類の治療でも痛みに対する治療を開始した後、痛みの程度を評価するべきです。疼痛の原因を迅速に特定し、それに対して治療がなされなければなりません。
医療提供者が疼痛の種類や程度を判断する上で、がんの患者さんが疼痛の部位と強さ、疼痛を増悪させる因子と緩和させる因子、疼痛の対策に対する自らの目標を説明することが貴重な手がかりとなります。患者さんが言語障害や思考障害などコミュニケーションの問題を抱えている場合には、ご家族や介護者に代理人として疼痛の報告をお願いすることが有ります。医療提供者は、患者さんが以下のようなことを説明する補助をしなければなりません:
疼痛の管理の結果は、疼痛の重症度の緩和、思考力の改善、精神的な安らぎ、および社会的な生活が営めるかをモニタリングすることによって評価されなければなりません。鎮痛薬投与の結果もモニタリングする必要があります。薬物嗜癖はがんの患者さんではまれです。薬物に対する耐性が増して、身体的には鎮痛薬への依存度が高くなっても、薬物依存になったわけではありません。患者さんは医師の処方に従って、鎮痛薬の投与を受けなければなりません。過去に薬物乱用の経験をもつ患者さんは、疼痛をコントロールするためにより高い用量の鎮痛薬を服用する場合があります。
WHOは、以下のように疼痛の重症度に基づいた疼痛管理の3段階のアプローチを作成しました:
NSAIDは、軽度の疼痛を緩和するのに効果のある薬です。中等度から重度の疼痛に対しては、オピオイドとの併用投与も可能です。アセトアミノフェン(薬剤詳細へ)にも鎮痛作用がありますが、アスピリン(薬剤詳細へ)やNSAIDとは異なり抗炎症性の効果がありません。アセトアミノフェン(薬剤詳細へ)またはNSAIDを服用する患者さん、特に高齢の患者さんの場合には、副作用について注意深く観察する必要があります。子供には、疼痛を治療するためにアスピリン(薬剤詳細へ)を投与すべきではありません。
オピオイドは、中等度から重度の疼痛を緩和するのに非常に効果のある薬です。しかしながら、がんによる疼痛をもつ多くの患者さんは、長期にわたる治療中にオピオイドに対する耐性を獲得します。そのため、継続して疼痛を緩和するために用量の増加が必要になることがあります。オピオイドに対する患者さんの耐性または身体的依存は、嗜癖(心理的依存性)と異なります。誤って嗜癖を心配する結果、疼痛の治療が十分に行われないことがあります。
オピオイドにはいくつかの種類があります。モルヒネは、がんによる疼痛の管理で最もよく使われるオピオイドです。モルヒネ(薬剤詳細へ)以外によく使われるオピオイドには、ヒドロモルフォン、オキシコドン、メサドン、フェンタニルなどがあります。数種類のオピオイドを利用できると、医師は個々の患者さんの必要に合わせた柔軟な薬物療法レジメンを処方できます。
がんによる疼痛をもつほとんどの患者さんは、疼痛を管理するとともに疼痛が強くなるのを防ぐために、固定スケジュールで鎮痛薬の投与を受ける必要があります。投与スケジュールの途中で生じる疼痛に対しては、固定スケジュールによって定期的に投与されるオピオイドと併用して、1回用量のオピオイドが追加で処方されます。投与間隔は、処方されたオピオイドの種類によって異なります。適正な用量は、最小限の副作用で疼痛をコントロールできるオピオイドの量です。徐々に用量を調整しながら、鎮痛効果と副作用の間のバランスを上手にとることが目標となります。オピオイドへの耐性が生じた場合、特に高用量の投与が必要となった際には、オピオイドの用量を増やすか、別のオピオイドに切り替えることにより耐性を克服することができます。
オピオイドの用量を減らしたり、服用を中止しなけらばならないこともあります。用量の減量や服用中止となるのは、神経ブロックや放射線療法などのがんの治療によって患者さんの疼痛が無くなったときです。また、医師は、疼痛のコントロールは上手く行えたものの、患者さんがオピオイドによって鎮静状態となった時にも、用量を減らします。
鎮痛薬を投与する方法はいくつかあります。患者さんの胃腸が機能している場合には、経口投与は便利で、しかも通常は費用がかからないことから好まれます。患者さんが経口で医薬品を服用できない場合、直腸経由や、皮膚に薬のパッチを貼るなど他の侵襲性の低い方法が使われます。静脈内投与が選ばれるのは、静脈内投与より簡単で手がかからず安価な方法が、患者さんにとって、不適切、効果がない、または利用できないのいずれかの場合に限られます。患者さんが管理する鎮痛法(PCA)ポンプを使って、オピオイド治療の開始時にオピオイドの用量を決めることがあります。疼痛がコントロールされると、患者さんがPCAポンプ使用時に必要とした用量に基づいて定期的なオピオイドの用量が処方されます。コントロール困難な疼痛を有する患者さんに対しては、オピオイドの髄腔内投与と局所麻酔薬の併用が役立ちます。
オピオイドの副作用は、注意深く観察する必要があります。オピオイドの副作用として最もよくみられるものには、吐き気、眠気、便秘などがあります。担当医師は、オピオイド治療を始める前に患者さんと副作用について話し合う必要があります。眠気と吐き気については通常、オピオイド治療開始時に経験するものの2〜3日以内に改善する傾向にあります。その他のオピオイドの副作用としては、嘔吐、思考力の低下、呼吸抑制、次第に生じる過量投与、性機能低下などがあります。
オピオイドは、胃腸の筋肉の収縮や動きを低下させる作用があるため、便が硬くなります。便秘を予防する効果的な方法は、便を軟らかく保つために患者さんがたくさんの水分を取ることです。担当医師は、オピオイド治療の開始時には、便軟化薬を定期的に処方する必要があります。患者さんが便軟化薬に反応しない場合には、医師が追加して下剤を処方することがあります。
副作用が厄介になったり、重くなったときは担当医師に話さなければなりません。オピオイドに起因する副作用の程度は、患者さんごとに異なるため、重度のまたは長引く副作用については医師に報告する必要があります。担当医師は、副作用を緩和するために、オピオイドの用量を減らしたり、別の種類のオピオイドに切り替えたり、オピオイドの投与方法を変更(例えば、経口投与ではなく、点滴投与や皮下注射による方法に変更)したりします。(オピオイド関連の副作用の対処に関する詳しい情報については、PDQ(Physician Data Query:医師データ照会)の消化管の合併症、吐き気と嘔吐、がん医療における栄養、性的能力(セクシャリティー)および生殖の問題に関する要約をご覧ください。)
オピオイド以外の鎮痛薬もオピオイドとの併用投与が可能です。他の鎮痛薬との併用は、鎮痛薬の有効性を向上させ、症状を治療し、また特定の種類の疼痛を緩和するために行われます。併用する薬には、抗うつ薬、抗痙攣薬、局所麻酔薬、コルチコステロイド、ビスフォスフォネート、および刺激薬などがあります。これらの薬に対する反応は患者さんごとに大きく異なります。副作用が現れることも多く、その際は医師に報告しなければなりません。骨痛のために投与されるビスフォスフォネートの中には、歯科治療の後に骨が減少する危険性があるものもあります。ビスフォスフォネートを処方されている患者さんは、歯科の治療を受ける前に担当医師に確認する必要があります。
非侵襲的な理学療法と心理療法は、疼痛をコントロールする目的で、がん治療の全段階にわたって薬物療法や他の治療法と併用することができます。疼痛に対するこれらの療法の有効性は、患者さんの治療への参加意欲、および疼痛を緩和するために一番有効な方法を医療提供者へ伝える能力などによって異なります。
虚弱、筋肉疲労、および筋骨格系の疼痛は、温熱(ホットパックまたは加温パッド);冷却(柔軟性のあるアイスパック);マッサージ、圧迫、バイブレーション(筋肉の弛緩を良くする);運動(弱った筋肉を強化し、硬直した関節を柔らかくし、協調運動と平衡感覚を取り戻すのに役立ち、心機能を高める);体位変換;疼痛がある部位や骨折した場所の運動制限;刺激療法;コントロールされた低電圧の電気刺激;または鍼療法などによって治療可能です。
疼痛を治療していく上では、思考-行動療法も重要です。思考-行動療法により、患者さんは疼痛をコントロールする感覚をもつことができ、さらに疾患とその症状に対応する対処技術を培うことができます。患者さんの体力と気力が十分にあるうちに技術を修得し実践できるようにするために、これらの療法を疾患の早い時期に開始することが有用です。いくつかの療法を試し、その中の1つ以上を定期的に利用する必要があります。
下記のリラクゼーション訓練は、疼痛の緩和に役立ちます。
訓練1.リラクゼーションのためのゆっくりとしたリズミカルな呼吸法*特に高齢の患者さんの場合、頭頂部から腰部にかけて脊椎の両側をゆっくりとリズミカルに撫でるような(およそ60回/分で3分以内)背中のマッサージを行うと、高いリラクゼーション効果が得られます。片方の手を腰部で止めて上げるタイミングで、もう片方の手を下ろして背中を撫でるようにすると、背中にずっと手が触れた状態でマッサージをすることができます。定期的なマッサージの時間を決めておいて下さい。そうすることで、患者さんが心待ちにする楽しみができます。
訓練3.心安らぐ過去の経験*付記:好きな音楽や祈りの言葉など、心を平安にしてくれるものを録音できるでしょう。録音しておけば、好きなときにテープを聴くことができます。あるいは、もし記憶力が優れているのなら、ただ単に目を閉じてその出来事や言葉を思い出してみるだけでも結構です。
録音された音楽を積極的に聴く方法*付記:多くの患者さんは、音楽を積極的に聞くこの方法が役立つと感じています。この方法が人気があるのは、必要な道具がすでに手元にあり、日常生活の一部となっているからでしょう。もう一つの利点は、この方法は簡単に修得でき、しかも肉体的や精神的に特別な労力を必要としないことです。疲労感が強いときは、ただ単に音楽を聴くだけにして、リズムをとったり、特定の場所を見つめたりすることは省略して下さい。
*[注: McCaffery M, Beebe A著: Pain: Clinical Manual for Nursing Practice. St. Louis, Mo社: CV Mosby: 1989より許可を得て転載。]
放射線療法、ラジオ波焼灼術、および手術は、原発がんの治療としてよりも疼痛の緩和に使われることがあります。がんに関連した疼痛の管理には、特定の化学療法薬が使われることもあります。
局所的または全身の放射線療法は、疼痛の原因に直接働きかけるために(例えば、腫瘍のサイズを小さくする)、鎮痛薬や他の非侵襲的治療法の有効性を向上させます。1回の放射性薬物の注射で、骨まで拡がっているがんの疼痛が和らぐこともあります。
ラジオ波焼灼術では、針電極を使って腫瘍を焼き殺します。この最小限の侵襲的手技は、がんが骨まで拡がった患者さんの疼痛を大幅に和らげることがあります。
手術は、腫瘍の一部や全部を摘出することで直接的に疼痛を緩和したり、閉塞や圧迫による症状を軽減したり、治療成績の改善、場合によっては生存期間を延長するといった目的で行われます。
侵襲的な治療法を行う前に、低侵襲的な方法で疼痛の緩和を試みる必要があります。しかし、患者さんの中には、侵襲的な治療が必要な人もいます。
神経ブロックとは、コントロールの難しい疼痛を制御するために、局所麻酔薬、または神経の活動を抑える薬を注射することです。神経ブロックを使うことで、疼痛の原因の特定、神経ブロックに反応する疼痛の症状の治療、長期間の治療に対して疼痛がどのように反応するかの予測、そして処置に伴う疼痛の予防などが行えます。
手術によって、薬を送り込んだり、神経を電気的に刺激するための器具を埋め込むことがあります。まれに、疼痛の伝達経路の一部である1つまたは複数の神経を破壊する手術が行われることがあります。
多くの診断手順や治療手順には疼痛が伴います。処置に伴う疼痛は、疼痛が起こる前に治療が可能です。処置に伴う疼痛を管理するにおいて、薬が治療効果を発揮するための時間が十分にある場合、局所麻酔薬や短時間作用性オピオイドが用いられます。抗不安薬や鎮静薬を使って、心配を軽減したり、患者さんを落ち着かせることもあります。イメージ法やリラクゼーション法などによる治療法も、処置に伴う疼痛や不安を管理する上で有用です。
患者さんは通常、何が起こるのかが分かっていると処置にもよく耐えられます。処置の間、患者さんの血縁者や友人が近くにいると、不安感を軽減することができます。
患者さんとその家族は、自宅での疼痛の管理について書かれた指示書を入手しておく必要があります。疼痛の管理について質問がある場合に、誰に連絡したらよいのかについても説明を受けておく必要があります。
高齢の患者さんの疼痛については治療が十分に行われていないという危険性がありますが、この理由としては疼痛に対する高齢の患者さんの感受性が十分に評価されず、高齢の患者さんは疼痛に我慢強いであろうと予測され、しかも高齢の患者さんに対するオピオイドの治療効果について誤解が生じているためです。高齢の患者さんにおけるがんによる疼痛の評価と治療に関しては次のような問題があります: