原文更新日 : 2005-09-02
翻訳更新日 : 2007-06-27
がんにおける物質乱用の問題に関する患者さん向けのこの要約は、がんの専門家が医療従事者向けに作成した要約を編集したものです。本稿を含め、がんの治療、スクリーニング、予防、支持療法および現在米国で行われている臨床試験についての信頼できる情報は、米国国立がん研究所(NCI)から得られます。薬物やアルコール乱用の既往のないがんの患者さんに、物質乱用がみられるのはまれです。この要約では、物質乱用の既往のあるがん患者さんにおける物質乱用の問題について簡単に説明し、がん性疼痛をコントロールするためのオピオイドの使用について説明します。
がんと診断される以前に薬物やアルコールを乱用していない限り、がん患者さんに物質乱用の問題が見られるのは大変まれなことです。一般的に物質乱用の既往がない人には、物質乱用の問題が発生することなく、オピオイドや他のがん性疼痛をコントロールする薬物を使用することができます。一方物質乱用の既往がある人は、がんの症状をコントロールする薬が処方されると、物質乱用の問題が現れる危険性があります。
物質乱用の既往のある患者さんは、違法薬物またはアルコールの使用ががん治療を受ける能力に悪影響を与えることに気づくことがあります。薬物の使用は抗がん治療の有効性を弱め、患者さんの病状を悪化させる可能性があります。
現在物質乱用者であるか、または過去に物質乱用者であったがんの患者さんは、友人や家族のネットワークで、およびがん治療チームとの信頼関係を築くのを難しく感じるかもしれません。信頼感の喪失はがん治療およびその後の治療を困難にし、患者さんの生活の質(QOL)を一層悪くする可能性があります。
がんの患者さんに、物質乱用が見られるのは大変まれなことです。がんの患者さんの中で物質乱用者とわかっている人の数は少ないと考えられますが、それはこれらの患者さんは病院での医療を求めないか、または医療提供者に対して自分が物質乱用をしていることを認めないことがあるからです。
身体的依存とは、投薬を急に中断したり、投薬量(薬物の用量)を急激に減らしたり、または依存状態にある患者さんに、依存している薬の作用を妨げるような第二の薬を投与した場合に、離脱症状が発生することです。依存は、これらの離脱症状が起こるまでは明らかとなりません。がんの患者さんががん性疼痛を治療する目的でオピオイドを使用している場合、薬を急に中断すること、またはオピオイドの効果を弱めるか打ち消してしまうような他の薬を処方しないように注意します。オピオイド性鎮痛剤の身体的依存は、がんの患者さんには発生しないようです。これらの患者さんでは、いったん疼痛が消えると(通常効果的ながん治療が行われることで消える)鎮痛剤の投薬を難なく中止することができます。
オピオイド性の鎮痛剤に対する耐性が見られることがあります。耐性とは、疼痛症状を軽減するための薬剤の投与量を、徐々に増やしていかなければならないことを指します。オピオイド性の薬物を医学的理由のために服用している患者さんでは、耐性が薬物嗜癖または薬物乱用につながることはなさそうです。
物質乱用とは、医師の指示に従わない方法で薬物を使用すること、または非合法の薬物の使用を指します。
嗜癖とは、脅迫的な物質使用が無制御に行われることであり、使用量が増え、有害であるにもかかわらずその使用が続くことです。がん性疼痛を軽減するためにオピオイドを使用している患者さんは、身体的に薬物に依存するようになる可能性がありますが、それは嗜癖とは言いません。
これらの用語は一般に内科的な病気のない人々に対して用いられます。治療のために薬物を使用している内科的な病気の患者さんに、嗜癖という言葉を使用することは適切とは言えません。
以下の問題によって、内科的な病気の治療を受けている患者さんにみられる物質乱用の問題を扱うことはさらに難しくなっています。
がん性疼痛が適切に治療されない場合、患者さんが疼痛を軽減しようとして、薬物を無謀に使用する可能性があります。多くの患者さんは、効果的な疼痛治療を受けていません。処方された治療が適合して疼痛がコントロールされると、患者さんは指示されていない方法で薬を用いる必要がなくなります。
薬物乱用の既往がある人は、疼痛が適切に治療されない場合に非合法薬物の使用に逆戻りする可能性があります。これらの患者さんのなかには、処方薬への嗜癖を示す人もいます。
薬物乱用に関する記述では、治療のために医薬品を使用している薬物乱用経験のない患者さんのことを想定していないので、多くの問題がいまだに未解決となっています。例えば、処方箋を偽造したり、または経口投与されるべき薬物を注射したりする患者さんが逸脱行為をしていることは明らかですが、取り除かれない疼痛をコントロールするために投薬量を増やしたり、または夜眠りにつくために鎮痛剤を服用する患者さんについて、同じことが言えるかどうかは明らかではありません。
医療専門家たちは、患者さんが属する社会集団に基づいて薬物乱用の危険を推測をすることがあります。患者さんが薬物乱用の発生率が高い社会集団に属している場合、または患者さんに薬物乱用の既往がある場合、患者さんが治療目的で処方された薬物を乱用する危険性があると誤った推測をするかもしれません。
病気が進行して患者さんの状態が肉体的・精神的に変化すると、物質乱用を認識することが難しくなります。病気の治療はいくつかの変化を引き起こすことがあり、例えば、脳転移を止めるための放射線療法は、患者さんを内向的にし、精神的変化を引き起こす可能性があります。
進行した内科的疾患をもつ患者さんに現れる薬物関連行動の原因を特定するために、治療以外に生活の中で問題の薬物を使用しているかどうか、薬物の使用によって患者さんが病気の治療を完了できなくなったかどうか、また、患者さんと医療チームまたは家族との関係構築が薬物の使用により妨げられているかどうかを、患者さんは尋ねられるかもしれません。
薬物の過剰使用を制御できなかったり、強迫的に薬物を使用したり、また有害であるにもかかわらず薬物を使用し続けたりというような物質乱用者に見られる行動特性が、病気のために薬物を使用している患者さんにみられないか観察すべきです。もし患者さんがこのような行動を示すなら、医療提供者は患者さんの投薬計画(レジメン)を再度見直すべきです。
薬物乱用の既往のない患者さんに対して、がん性疼痛をコントロールするためのオピオイドの使用が、重大な乱用や嗜癖にまで発展することは大変まれなことです。疼痛の治療が十分でないことの方がより重要な問題であるのに、患者さんと一部の医療専門家は、がん性疼痛を制御するオピオイドの使用が嗜癖を引き起こすのではないかという根拠のない不安を持ち続けています。
かつては、多くの嗜癖は、疼痛のために処方された薬物の使用に起因すると考えられていました。がんの患者さんは、深刻な問題を経験することなくオピオイドをがん性疼痛のために使用できているので、がん以外の慢性疼痛の治療に長期間オピオイドを使用することの危険性と利点を見直す必要があります。熱傷、頭痛あるいはそれ以外の疼痛の治療を受けている、薬物嗜癖の既往のない24,000人以上の患者さんに関する3件の研究において、オピオイドの乱用がみられた患者さんはたった7人でした。
薬物常用者が経験する多幸感は、疼痛をコントロールするために薬物を使用している患者さんには発生していないことも示されています。オピオイドを治療の目的に使用している患者さんは、一般的に多幸感よりもむしろうつを感じているので、薬物嗜癖に陥る危険性は低いと言えます。
全体として研究結果が示すことは、薬物乱用や薬物嗜癖の既往がない患者さん、または物質乱用者との関係をもたない患者さん、心理的な問題をもたない患者さんにおいては、慢性疼痛をコントロールするためオピオイドを使用する治療が薬物乱用や薬物嗜癖へと発展する危険性が大変低いということです。このことは、薬物乱用の経験が全くない年配の患者さんにおいて、特にあてはまります。
物質乱用の既往のある患者さんが、慢性疼痛の治療を成功させることは可能です。まだ研究が行われていませんが、これらの患者さんは薬歴のない患者さんよりも鎮痛剤を乱用し、または鎮痛剤嗜癖になる可能性が高いと推察されています。
以下では、アルコールや他の薬物を現在も乱用している患者さん、もしくは薬物を使っていない回復期にあるかメサドン(薬剤詳細へ)を使用するプログラムを受けている患者さんの緩和ケアについて述べます。
物質乱用の既往のある患者さんに、医療提供者のチームが進行性の内科的病気に対する最善の治療を施します。一人以上の医師、複数の看護師とソーシャルワーカー、可能なら一人の薬物嗜癖の専門家によるチームが、薬歴があり進行性の病気をもつ患者さんが抱えるかもしれない多くの内科的、心理社会的かつ管理上の問題の解決に取り組みます。
薬物乱用と嗜癖問題のある患者さんは、回復と再発の期間を経験します。患者さんに生命に関わる病気があり鎮痛剤が利用できるときに、再発の危険性が増大します。この状況における治療目標は、再発を完全に予防することではなく、薬物乱用により引き起こされるあらゆる害を抑えるような体制を提供することです。重度の物質乱用とそれに関係した心理的な問題を抱える患者さんの中には、処方どおりに治療薬を使用することが全くできない人もいます。医療提供者のチームは観察を行い、治療の失敗を避けるために必要時には頻繁に治療目標を修正すべきです。
アルコール依存症者と物質乱用の既往がある患者さんはまた、うつ、不安、および人格障害を患う可能性も非常に高いと考えられています。もし患者さんが、さらに不安やうつに対する治療を受け入れるなら、再発の危険性は低くなります。
薬物乱用の既往のある患者さんの多くは、複数の薬物を使用します。医療提供者は患者さんを効果的に監視し、離脱症状を予防するため、薬物の使用を全て把握していなければなりません。
頻繁に薬物を乱用する患者さんには、病状のため処方された薬物の有効性を制限するような耐性が発生する可能性があります。
内科的症状の治療のために長期間使用されるオピオイドの投薬計画(レジメン)は、症状をコントロールするのに十分な投与量となるよう、患者さんに合わせて個別に決定されます。物質乱用の既往のある患者さんの場合、処方された投薬量が十分ではないなら、症状の治療不十分という結果になる可能性があります。不十分な治療では患者さんを疼痛から解放できず、症状をコントロールしようとして薬物乱用に走らせることもあります。この行動により医師は、処方しているオピオイドについてより注意深くなるかもしれません。医師と患者さんは、必要な投薬量を決定するため、また治療薬の責任ある使用に関するガイドラインに同意するために、密接に協力しなければなりません。
乱用の可能性がある薬物を処方される全ての患者さんは注意深く観察されなければならず、観察は物質乱用の既往のある人々には特に重要です。患者さんは頻繁に再評価され、また患者さんの周囲の人が患者さんの薬物使用について知っていることを話すように頼まれることがあります。医師は、患者さんの尿を検査して、非合法なまたは処方されていない薬物を使用していないかどうかを検査すべきであると判断することがあります。患者さんが薬物検査や観察に同意し、処方薬物を責任をもって使用していれば、医師との間に信頼関係が確立されるでしょう。患者さんが薬物を乱用しないと確信する医師は、症状をコントロールするための治療の調節がしやすくなります。
患者さんには、複雑な医療システムについて学ぶ、医療スタッフと意思の疎通をはかる、またリラックスすることや対処技術を学ぶというような、薬以外のアプローチが役立つ場合があります。
患者さんの感情を害さないように、医療提供者は薬物乱用についてたずねようとしないこともあります。医療提供者が、患者さんは感情を害したり、腹を立てたり、おびえたり、または真実を話さないだろうと思いこんでいる場合もあります。このような態度は、医療提供者と患者さんの間の率直なコミュニケーションの確立を阻害し、観察療法の際に問題となります。
医療提供者が薬物使用者に対してもつ否定的な態度が原因で、患者さんは自分の薬物使用についての情報を提供しないことがあります。患者さんが医療提供者を信用していない、あるいは患者さんが自分の薬物乱用歴が知れると、十分な投薬をしてもらえず症状がコントロールできないのではと恐れる場合があります。症状をコントロールし、また適切な医薬品を処方して離脱症状を予防し疼痛を軽減して患者さんの満足感を保つために、医師は患者さんの薬物使用歴を把握しておくべきです。医師は、患者さんが使用してきた薬物について、それが使用されてきた期間や頻度、また患者さんが薬物を使用する原因となる状況を知る必要があります。
現在物質乱用の問題があり手術を受ける予定がある患者さんは、離脱症状を防ぐために薬物使用を安定させ、さらに治療計画を行うために、可能ならば数日早めに入院すべきです。患者さんが非合法薬物を入手しないように、患者さんには監視しやすい部屋が与えられ、他の部屋や階への入室を制限されることがあります。患者さんの面会者も制限されます。面会者により持ち込まれた荷物だけでなく、患者さんの部屋に薬物やアルコールが無いかどうかを定期的に調べます。患者さんの尿の定期検査も行います。薬物使用の継続により治療が危険にさらされないように、患者さんへのこれらの制限はどうしても必要です。離脱を予防し症状をコントロールするために、頻繁な監視が治療に含まれるべきです。
理想を言えば、現在薬物を乱用している外来患者さんは薬物更生プログラムに入っているべきですが、しかしながら内科的な病気が進行した患者さんはそのプログラムに入れない可能性があります。医療提供者は患者さんに対して、治療チームの役割、患者さんに期待されること、そして患者さんが内科的な病気の治療中に薬物乱用を続けた場合はどうなるかということの概略を説明します。患者さんは処方薬の服用に関する詳細な指示を必ず受けなくてはなりません。症状のコントロール(管理)を維持し薬物乱用を監視するために、患者さんは頻繁に受診しなければなりません。頻繁に受診すると、一度に大量に薬を処方する必要もなくなりますし、患者さんが計画通りに治療を続けることができ、医師の診察も受けやすくなります。患者さんの中には、治療中に非合法薬物の使用をやめるためには「12段階プログラム」が役立つと気付く人もいます。
外来患者さんは定期的な薬物検査を受けることを要求されます。患者さんには、検査結果が陽性だった場合どうなるかが前もって知らされるべきです。尿検査により患者さんが非合法薬物を使用していることが判明すると、外来での受診の回数がさらに増え、処方薬の量が減らされ、薬物更生プログラムへ紹介され、または他の制約が課せられることになります。
患者さんが物質乱用を行っている家族と一緒に生活している場合、患者さんが非合法薬物やアルコールを使わないようにするため、その家族が薬物療法プログラムに参加するよう勧められる可能性があります。友人や家族が処方薬を買おうとするか、盗もうとするかもしれないということを、患者さんも認識すべきです。患者さんの支えとなる人をはっきりさせることは大変有益です。
薬物嗜癖の専門家を含む治療チームは、医師が一人の場合よりも、進行性の内科疾患をもち物質乱用の既往がある外来患者さんにもっと有効な治療を提供できるでしょう。
薬物やアルコールの乱用を止めることに成功した患者さんは、嗜癖の発現への恐れから内科的病気のために処方された薬物の使用の開始を躊躇するでしょう。患者さんは、処方薬の使用に反対する友人や家族から拒絶されるのを恐れたり、また誰かが薬物を買うまたは盗むもうと企てないか恐れたりします。医療提供者は、患者さんがこれらの心配事を解決するのを助け、患者さんが進行性疾患の症状をコントロールするためにオピオイドを使用しても、結果として内科的な病気のないオピオイド乱用者が経験する多幸感を感じることはない、と保証すべきです。
患者さんがオピオイドを用いた治療の開始を非常に躊躇する場合、医師は、患者さん自身がコントロールする感覚をもてるようにするために、処方薬の使用に関する厳格なガイドラインを作成することがあります。また患者さんとのカウンセリングが行われ、薬物やアルコール乱用に陥りそうな状況となっていないかを見極め、非合法または処方薬物の乱用防止のための戦略を立てます。