なぜがんになる人とならない人がいるのかは、医師にとっても必ずしも説明できることではありません。しかしそれでも、人口集団におけるがんの発生パターンの研究を通して、がんを発生しやすくする環境や生活習慣を明らかにしようとする努力が積み重ねられてきました。
疾患が発生する可能性を増大させるものは全て危険因子と呼ばれ、疾患が発生する可能性を減少させるものは全て防御因子と呼ばれます。がんの危険因子には回避できるものもありますが、回避できないものも数多くあります。例えば、喫煙をやめることはできても、親から子へと遺伝により受け継がれる遺伝子を自由に選ぶというわけにはいきません。喫煙習慣であれ特定の遺伝子の継承であれ、ある種のがんの危険因子として考えられる点に変わりはない一方で、喫煙習慣のみが回避可能となるのです。予防とは、こうした危険因子を回避するとともに制御可能な防御因子の影響を強めることによって、がんの発生する可能性を減らしていくことを意味します。
危険因子の多くは回避することができますが、たとえ危険因子を回避できても、それががんにならないことの保証になるわけではないということは覚えておかなければなりません。また、がんに対し特定の危険因子をもつ人でも、そのほとんどが実際にはがんを発症しません。他の人と比べて、がんの危険因子からの影響を受けやすい人もいます。ご自身に合ったがんの予防方法については担当の医師にご相談ください。
肺がんの予防に関するこの要約は、以下のような目的で作成されています:
がんの予防法に関する事柄や、その予防法がご自身にとって有用となるかどうかについては、担当の医師または医療専門家に相談してみるとよいでしょう。
肺は呼吸器系に属する臓器です。その機能は、血液中に酸素を供給しつつ血液中から二酸化炭素を取り除くことです。
肺がんは、胸部内でリンパ節やその他の組織(もう一方の肺も含む)に拡がっていくことがあります。さらに体内の別の臓器(骨、脳、肝臓など)に転移することも多くなっています。
米国内のがんによる死亡原因の統計では、男女ともに肺がんが第1位となっています。
肺がんでは、この疾患の危険因子の関与が実際の患者さんに頻繁に認められています。危険因子の多くは改善することができますが、全ての危険因子を回避することはできません。
タバコ:いかなる形態であれタバコを吸う習慣は肺がんの主要な発生原因になるということが、複数の研究から示されています。喫煙習慣のある人でも、喫煙をやめて生涯再開しないのであれば、肺がんの発生リスクや肺がんの再発リスクを低減させることが可能になります。喫煙をやめる人には、ニコチンガムやニコチンスプレー、ニコチン吸入器、ニコチンパッチ、ニコチン口内錠など、様々な禁煙補助製品が利用可能で、場合によっては抗うつ薬も有効になります。タバコを生涯吸わなければ、肺がんによる死亡リスクは低下していきます。
肺がんは環境タバコ煙によっても引き起こされます。環境タバコ煙とは、火のついたタバコ製品(紙巻タバコなど)から周囲に出ていく煙と喫煙者が吐き出す煙を総称したものです。この環境タバコ煙を習慣的に吸入している人は、その量こそ少なくなるものの、喫煙者とまったく同じ発がん性物質に曝されていることになります。環境タバコ煙を吸い込むことは受動喫煙や間接喫煙などと呼ばれます。
環境的原因:肺がんの原因となるものは環境中にも存在していますが、肺がんの発生率に対する影響の大きさで比較すると、喫煙には到底及びません。
発がん性物質は室内にも存在することがあり、その傾向は特に職場において顕著で、具体的な物質としてはアスベスト、ラドン、ヒ素、クロム、ニッケル、タール、すすなどが挙げられます。これらの物質は喫煙歴のない人での肺がんの発生原因になりえますし、また喫煙者に対しては、タバコのせいで高まっている肺がんリスクをさらに増大させることにつながります。そのため多くの国々で、職場におけるこれらの発がん性物質に対する規制が取り組まれています。
大気汚染によっても肺がんのリスクが高まる場合があります。大気汚染がひどい都市に暮らす人々の間では肺がんの発生率が高くなるということが、複数の研究から示されています。
ベータカロチン:ベータカロチンの栄養補助食品を使用している重度の喫煙者では、ベータカロチンを摂取していない喫煙者と比べて肺がんリスクの増大の幅が小さくなるということが、複数の研究から示されています。
食習慣と運動:果物(可能ならば野菜も)を多く摂る食習慣は肺がんリスクの低減につながり、また過度の飲酒は肺がんのリスクの増大につながるということが、複数の研究から示されています。さらに、よく体を動かしている人では(たとえ喫煙による影響を加味した場合でも)あまり運動をしない人と比べて肺がんの発生リスクが低くなるということが、複数の研究から示されています。
化学予防:化学予防とは、がんの増殖の抑止や予防を目的として、天然の材料から抽出された薬や人工的に合成された薬を使用することです。この化学予防の分野は、現在臨床研究で精力的に検証がなされているところです。しかし現時点で標準治療にはなっていません。