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不安障害: 支持療法

はじめに

不安に関する患者さん向けのこの要約は、がんの専門家が医療従事者向けに作成した要約を編集したものです。本稿を含め、がんの治療、検診予防支持療法および現在米国で行われている臨床試験についての信頼できる情報は、米国国立がん研究所(NCI)から得られます。がんの患者さんが不安を感じるのは正常な心理的反応といえますが、場合によっては、不安によって患者さんの生活の質が損なわれたり、がんの治療を受け続けようとする患者さんの意志が揺らいでしまったりすることもあります。この短い要約では、がんの患者さんが経験する不安の原因とその治療法について記載されています。また、がん治療の終了後に生じてくる不安についても、この要約の中で説明されています。


概要

がんに対して不安を感じることは正常な心理的反応です。がんのスクリーニング検査を受けているときや、検査結果を待っているとき、がんと診断されたとき、がん治療を受けているとき、あるいはがんの再発を予期しているときなどには、人は不安を覚えるのが通常です。がんに不安が伴ってくると、痛みが強くなる、睡眠が妨げられる、吐き気嘔吐が起きる、患者さん(とその家族)の生活の質が損なわれる、などといった弊害をきたすことがあります。何も治療を行わない場合には、重度の不安によって患者さんの死期が早まってしまうという事態さえ起こってきます。

がんの患者さんは、その時々において不安の強さが変化していくことに気づきます。がんが進行したり治療法がより強いものに変更されたりするにつれて、患者さんの不安はますます大きなものになっていきます。がんの患者さんでは、体験する不安の強さが、がんではない人が体験する不安のそれとは異なってくる場合があります。ほとんどの患者さんは、自身がかかっているがんや今後受けるであろう治療について学んでいくことによって、不安を軽減することができます。しかし一部の患者さん、特にがんの診断以前に極めて強い不安を経験したことのある患者さんの場合は、不安な気持ちが強くなるあまり、治療に支障をきたしてしまうこともあります。一方で、がんの診断時までに不安状態に陥ったことのない患者さんでは、がんに伴って不安障害が発生することはほとんどありません。

不安障害にかかったことのある患者さんや診断時に強い不安を経験する患者さんでは、がん治療に伴って極めて強い不安が生じてくる可能性が高くなります。その他にも、強い痛みに苦しんでいる患者さん、身体障害を抱える患者さん、世話をしてくれる友人や家族の少ない患者さん、治療が効かないがんの患者さん、重度の身体的外傷または心的外傷(トラウマ)を経験したことのある患者さん、こうした患者さんでも強い不安が生じてくる場合があります。さらに中枢神経系への転移にできた腫瘍によって身体的な問題が生じ、それが原因で不安が生じてくる場合もあります。また、薬物投与を始めとするがんの治療法の多くは、不安感を増悪させる原因となりえます。

進行がんの患者さんにおいては、一般に想像されているのとは対照的に、死への恐怖心によって不安が生じることは少なく、むしろコントロールできていない痛みや、孤独感、他者への依存などの要因が不安の原因となることが多くなっています。これらの要因の多くは、治療によって軽減することが可能です。


説明と原因

患者さんによっては、がんとは無関係の状況が原因で既に強い不安を経験したことがあるかもしれません。このように過去に不安状態を経験したことがある患者さんでは、がんと診断されたことのストレスによって不安が再発あるいは悪化することがあります。患者さんは極度の不安に陥って、医療提供者が伝えようとする情報を理解できなくなったり、治療を最後までやり通せなくなったりします。こうした不安に対する治療計画を立てるために、医師は患者さんの症状について以下のような質問を行います:


具体的な不安障害の例としては、適応障害、パニック障害、恐怖症、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、全般性不安障害、その他の一般身体疾患による不安障害、などが挙げられます。以下で、それぞれについて説明していきます。


適応障害

適応障害では、がんの診断を契機に予測される範囲を超えるほどの極端な行動や気分が生じてきます。症状には、重度の神経質、心配、いらだち、職場や学校へ行けなくなる、人と一緒にいられなくなるなどがあります。適応障害は、重大な時期にあるがんの患者さんで発症しやすくなります。ここにいう重大な時期とは、検査を受けているとき、診断を告げられたとき、再発を起こしたときなどです。多くのがんの患者さんにおいて、いくつかの方法が適応障害の症状緩和に役立っていますが、具体的には、介護者からの励まし、リラクゼーション法の習得、医薬品の使用、支援・教育プログラムへの参加などが挙げられます。


パニック障害

パニック障害の患者さんは極めて強い不安を経験します。息切れ、めまい、心拍数の上昇、震え、多量の発汗、吐き気、チクチクする痛み、「気が狂うのではないか」という恐怖感などが発生してきます。数分ないし数時間続く発作が発生しますが、この発作は薬物投与によって治療されます。パニック障害の症状は、他の病態で発生するものとよく似てくることがあります。


恐怖症

恐怖症とは、ある状況や対象に対する恐怖感や回避行動が継続して現れている状態のことです。恐怖症の患者さんは通常、極めて強い不安を経験し、恐怖感を呼び起こす状況を避けようとします。がんの患者さんでは、針が恐怖の対象となる場合があります。また、狭い場所を恐れるあまりに、磁気共鳴撮像法(MRI)などの、窮屈な場所に入って行う検査を受けたがらなくなる場合もあります。


強迫性障害

強迫性障害の患者さんは、特定の思考やイメージなどに絶えず囚われるようになり(強迫観念)、さらに特定の行為を何度も繰り返す(強迫行為)という症状が加わってきます。強迫性障害の患者さんでは、正常な振る舞いを妨げる思考や行動に囚われてしまう結果、最後までがんの治療を受けられないといった事態が生じてきてしまいます。強迫性障害は薬物療法と心理療法を用いて治療されます。がんの診断以前に強迫性障害にかかったことのない患者さんでは、この障害が発生することはめったにありません。


心的外傷後ストレス障害

以前に命に関わる出来事を経験したことのある人では、がんの診断を受けることによって、その出来事に関する心的外傷(トラウマ)が再び現れてくることがあります。心的外傷後ストレス障害のがんの患者さんでは、手術の前、化学療法の前、痛みを伴う処置の前、包帯交換の前などに、極度の不安に陥ることがあります。心的外傷後ストレス障害は心理療法を用いて治療されます。


全般性不安障害

全般性不安障害の患者さんは、持続的な極度の不安を抱いたり非現実的な心配をしたりします。例えば、支えてくれる家族や友人がいるにもかかわらず、誰にも看病してもらえないのではといった恐れを抱いてしまう場合があります。また、十分な経済力をもち保険にも加入しているにもかかわらず、治療費が払えないなどと心配してしまう場合もあります。全般性不安障害は、重度のうつ病が続いた後に発生してくることがあります。全般性不安障害では、いらだちやすくなる、落ち着きがなくなる、筋肉がこわばる、息切れや動悸、発汗、めまいなどが生じる、疲れやすくなる、などといった症状が現れます。


その他の一般身体疾患による不安障害

がんの患者さんでは、他の身体疾患が原因となって不安が発生してくる場合があります。強い痛みを体験している患者さんにも不安が生じますが、その不安によって痛みがさらに増幅される場合があります。突如として現れてくる極度の不安は、感染症や肺炎、体内での化学物質のバランスの乱れなどからくる症状の1つである場合もあります。こうしたことは、心臓発作や血栓の前にも起こることがあり、その場合は胸痛や呼吸困難が伴われます。血液が運搬できる酸素の量が低下した場合には、息が詰まったように感じられることがあり、これによって不安が生じることもあります。

一部の医薬品の直接的または間接的な副作用として、不安が生じてくる場合もあります。不安を引き起こす医薬品もあれば、焦燥感や興奮、抑うつ、自殺思考、いらだちやすさ、震えなどの原因となるものもあります。

ある種の腫瘍では、化学物質のバランスの乱れや息切れが発生することにより、不安が生じてきたり、不安やパニックに類似した症状が現れてきたりする場合があります。


治療

がんに伴う正常な恐れと、不安障害とされる異常なまでの重度の恐れとを区別することは、場合により困難となります。治療法は、不安が患者さんの日常生活に与えている影響によって左右されます。痛み、その他の病気や怪我、特定の種類の腫瘍などを原因とする不安と、薬剤の副作用によって引き起こされる不安は、通常は根底にある原因を治療することによってコントロールされます。

不安の治療は、患者さんに十分な情報と支援を提供することから始まります。問題を解決するという観点から自身のがんについて調べる、自身の病気と治療の選択肢について深く理解するために十分な情報を探す、利用できる施設やプログラム、支援システムなどを活用する、こうした対処法を患者さん自身が身につけていくことが、不安を軽減するのに有用となります。患者さんが受けられる不安治療の他の選択肢としては、心理療法、集団療法、家族療法、自助グループへの参加、催眠療法、そして誘導イメージ療法(心的イメージに集中することでストレス管理を補助する手法)やバイオフィードバック(不安の症状を早いうちに検知して予防行動を取れるようにする手法)といったリラクゼーション法などが挙げられます。単独または上記の手法との併用で、薬物投与が行われる場合もあります。依存症を恐れて不安軽減用の薬剤の服用を避けるのは間違いです。医師は、まずは症状を緩和させるのに十分な量の薬物を投与し、症状が消退してくるのにしたがって投与量を減らしていきます。


治療後の問題

がん治療の終了後、がんから回復した患者さんが新たな不安に直面する場合があります。がんから回復した患者さんは、復帰した職場でがんの体験について尋ねらたときや、保険に関する問題に直面したときなどに不安を経験することがあります。また、その後の経過観察のための診察や診断検査、あるいはがんの再発に対して恐れを抱く場合もあります。身体像の変化や性機能障害、生殖に関する問題、心的外傷後ストレスなどが原因となって不安が生じてくる場合もあります。がん体験後の生活への再適応を援助する手段としては、生存者プログラムや支援団体、カウンセリングなどが利用できます。


2007-06-27